マイクロ流体チップおよび細胞計測装置
【課題】細胞の内容物もしくは特定の細胞小器官等の計測対象における反応を検出でき、これらを連続的に効率よく分析・計測できること。
【解決手段】本発明は、リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、マイクロ流体チップの流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、水相と有機相との間に、少なくともリン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、流路内における計測対象の反応を検出する検出機構と、を備え、マイクロ流体チップの流路において、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を流路内で接触させて脂質二分子膜を流路内に並列生成し、検出機構により、流路内の脂質二分子膜間の計測対象の反応を検出する。
【解決手段】本発明は、リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、マイクロ流体チップの流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、水相と有機相との間に、少なくともリン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、流路内における計測対象の反応を検出する検出機構と、を備え、マイクロ流体チップの流路において、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を流路内で接触させて脂質二分子膜を流路内に並列生成し、検出機構により、流路内の脂質二分子膜間の計測対象の反応を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップおよび細胞計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ流体チップ内などで連続的に計測対象の細胞や試薬等との反応などを計測する技術として、以下の技術が報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、細胞を整列させて流すフローセルと、このフローセル内を流れる細胞にレーザ光を照射する光照射手段と、前記光照射手段から直接光の通過を阻止するビームストッパと、細胞によって散乱された2種類の散乱光をそれぞれ検知し得る少なくとも2個に分画された受光センサー部を有する単一の受光手段とを備えた細胞分析装置を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、計測対象となる細胞などの試料を含む液体を保持する試料保持機構と、試料保持機構の計測領域に対して互いに異なる3つの計測方法に沿って計測光源から計測光を照射し、計測方向のそれぞれについて試料を通過した光を撮像装置で測定してその位相差像を取得する位相差像取得装置とを設けた試料計測装置および計測方法を開示している。
【0005】
また、特許文献3は、基板に形成された細胞を搬送する流路を備え、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、前記流路内の細胞を画像信号として検出する第1の細胞識別領域と、該第1の細胞識別領域の下流に形成された時間調整器と、該時間調整器の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第2の細胞識別領域と、該第2の細胞識別領域の下流に形成された前記流路内の細胞を2つの流路に選択的に排出流路と、からなるセルソーターチップおよびセルソータを開示している。
【0006】
また、特許文献4は、第1のパラメータが細胞に光を照射して得られる細胞の錯乱光ないし蛍光情報によるものであり、第2のパラメータが細胞の画像によるものであるゲル電極付きセルソーターチップを開示している。
【0007】
また、特許文献5は、流体サンプルを少なくとも2種類の色素および少なくとも一種細胞表面マーカーと混合させる段階からなり、上記色素はそれぞれ別々にサンプル内の細胞の異なった特徴を評価し、かつ上記マーカーは異なる系統の細胞に別様に発現する抗原を認識し、標識した溶液を形成する流体内細胞成分の分析法を開示している。また、特許文献5の流体内細胞成分の分析法において、それぞれの色素および標識は蛍光を発し、かつ互いに識別可能な放出スペクトルのピークを持つことや、さらに標識した溶液は検出器を通過させ、その中で溶液中の各細胞は一度に実質上1個ずつ試験され、蛍光強度および散乱光の測定が試験しようとするそれぞれに細胞について行われていることが開示されている。
【0008】
また、特許文献6は、単一もしくは複数の核関連タンパク質をコードする遺伝子と蛍光タンパク質をコードする遺伝子とを融合し培養細胞に導入して細胞内に発現させた母細胞を生成し、被検物質の毒性もしくは突然変異性試験のための処理を施し、小核領域が限定的に蛍光を発するような限定的励起を行い、核関連タンパク成分に応じた蛍光量を定量的に測定することにより、計測対象の細胞の固定を行うことなく生細胞中における検出を可能とする細胞内小核の検出方法を開示している。
【0009】
さらに、細胞機能の計測項目の1つである膜タンパク質の評価技術として、例えば、特許文献7の電気生理学的測定システムにおいて、イオン・チャネルを持つ脂質膜組織内のイオン・チャネルの電気生理学的な特性を測定および/または観察するための基板が報告されている。
【0010】
また、流路内の微小セグメントに細胞などのサンプルを封入して輸送する技術として、以下の技術が報告されている。
【0011】
例えば、特許文献8は、マイクロドロップにカプセル化した細胞から分泌されるタンパク質を解析する解析法を開示している。また、特許文献8の方法は、細胞集団を解析し、細胞集団をマイクロドロップにカプセル化する工程、固相支持体に吸着した細胞カプセル化マイクロドロップのアレイを作製し、走査型蛍光、比色、化学発光検出器等を用いて検出する工程、および、細胞カプセル化マイクロドロップを薬剤と接触させ、薬剤が分泌タンパク質のレベルに影響を及ぼすか否かが検出によって示される工程などを更に含むことを開示している。
【0012】
また、特許文献9は、マイクロチャネル内で、材料の一連の微小容積体セグメントを形成しかつ輸送する方法であって、(a)輸送流体源に接続されたインレット・エンドと、流体リザーバに接続されたアウトレット・エンドとを有する第1チャンネルを設けるステップと、(b)セグメント化流体源に接続されたインレット・エンドと、前記第1チャンネルに相互接続されたアウトレット・エンドとを有する第2チャンネルを設けるステップと、(c)セグメント化流体の容積を第1チャンネルに引き込むステップと、および、(d)前記第1チャンネル内のセグメント化流体の容積を、前記流体リザーバ方向に輸送するステップと、(e)ステップ(c)と(d)とを繰り返して、セグメント化流体の一連の分離した容積を形成するステップとを含む小容量体を制御操作する方法および微小流体デバイスを開示している。
【0013】
【特許文献1】特許第3375203号公報
【特許文献2】特開2006−84233号公報
【特許文献3】特開2007−104929号公報
【特許文献4】特許第4047336号公報
【特許文献5】特公平07−26954号公報
【特許文献6】特開2006−101705号公報
【特許文献7】特許第4033768号公報
【特許文献8】特表2004−528574号公報
【特許文献9】特表2003−507162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来のマイクロ流体チップ内などで連続的に計測対象の細胞や試薬等との反応などを計測する技術(特許文献1〜特許文献6等)によれば、細胞を整列させて流すフローセルとこのフローセル内を流れる細胞にレーザ光などを照射する光照射手段とを有し、蛍光発光技術を用いて細胞の特性を計測する一般的な方法を実施するものであるものの、これらの従来技術(特許文献1〜特許文献6等)においては、その構造上、細胞を表面から観察する手法に過ぎず、細胞の内容物の厳密な測定には不向きであるという問題点を有していた。また、その細胞内容物は、細胞自身の細胞膜により作動溶液と分離されているため、外的手段等により細胞を破砕した場合は、細胞の内容物が瞬時に作動溶液内に拡散し、消失してしまうという問題点を有していた。
【0015】
また、従来の細胞機能の計測項目の1つである膜タンパク質の評価技術(特許文献7等)においては、個別の細胞を測定部位に拘束する必要があるため、高速で連続的な測定ができないという問題点を有していた。
【0016】
また、従来の流路内の微小セグメントに細胞などのサンプルを封入して輸送する技術(特許文献8および9等)においては、計測対象の環境に大きな影響を与えることなく細胞の計測が可能となるものの、隣接する微小領域間で細胞およびその内容物等に含まれる分子の脂質膜等を介した移動を考慮しておらず、隣接する微小領域による影響により生じる細胞およびその内容物内における反応を検出することができないという問題点を有していた。
【0017】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、細胞やその内容物もしくは特定の細胞小器官等の計測対象を2相液滴(リン脂質膜カプセル)内に収容でき、隣接する2相液滴による影響にて生じる計測対象における反応を検出でき、これらを連続的に効率よく分析・計測することができるマイクロ流体チップおよび細胞計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決して、本発明の目的を達成するために、本発明に係るマイクロ流体チップは、非混合性の2相液滴を流路内に交互に生成し、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成するマイクロ流体チップであって、前記脂質二分子膜間に計測対象が導入されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の望ましい態様としては、前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明の望ましい態様としては、前記流路上に配置された破砕機構により前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕することが好ましい。
【0021】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることが好ましい。
【0023】
また、本発明の望ましい態様としては、前記リン脂質膜および前記脂質二分子膜を構成するリン脂質分子は、機能性分子を含むことが好ましい。
【0024】
上述した課題を解決して、本発明の目的を達成するために、本発明に係る細胞計測装置は、リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、前記マイクロ流体チップの前記流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、前記水相と前記有機相との間に、少なくとも前記リン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に前記水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、前記流路内における前記計測対象の反応を検出する検出機構と、を備え、前記マイクロ流体チップの前記流路において、当該2相液滴の表面に生成された前記リン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成し、前記検出機構により、前記流路内の前記脂質二分子膜間の前記計測対象の反応を検出する、ことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の望ましい態様としては、前記有機相を前記マイクロ流体チップの前記流路内から除去する有機相除去機構、を更に備え、前記2相液滴の周辺の前記有機相を当該有機相除去機構により前記流路内から除去することにより、近接する前記2相液滴の前記単分子構造の前記リン脂質膜同士を接触させて前記脂質二分子膜を生成し、生成された当該脂質二分子膜で前記2相液滴を並列化することが好ましい。
【0026】
また、本発明の望ましい態様としては、前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0027】
また、本発明の望ましい態様としては、前記細胞計測装置は、前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕する破砕機構、を更に備えることが好ましい。
【0028】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることが好ましい。
【0029】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることが好ましい。
【0030】
また、本発明の望ましい態様としては、前記リン脂質分子は、機能性分子を含むことが好ましい。
【0031】
このように、本発明は、細胞および細胞内容物を効率よく連続的に計測・分析するため、細胞および細胞内容物等の計測対象をリン脂質膜で区切られた微小空間(2相液滴内)に導入し、導入することにより生成された2相液滴(細胞カプセル)を、計測・分析用の反応容器として利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るマイクロ流体チップおよび細胞計測装置は、細胞やその内容物もしくは特定の細胞小器官等の計測対象を2相液滴(リン脂質膜カプセル)内に収容でき、隣接する2相液滴による影響にて生じる計測対象における反応を検出でき、これらを連続的に効率よく分析・計測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。
【0034】
本実施形態は、マイクロ流体チップにおいて、非混合性の2相液滴(例えば、エマルション滴)を流路内に交互に生成し、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を流路内で接触させて脂質二分子膜を流路内に並列生成し、脂質二分子膜間に計測対象が導入される点に特徴がある。また、本実施形態は、細胞計測装置において、リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、マイクロ流体チップの流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、水相と有機相との間に、少なくともリン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、流路内における計測対象の反応を検出する検出機構と、を備え、マイクロ流体チップの流路において、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を流路内で接触させて脂質二分子膜を流路内に並列生成し、検出機構により、流路内の脂質二分子膜間の計測対象の反応を検出する点に特徴がある。
【0035】
ここで、本実施形態において「計測対象」とは、マイクロ流体チップ内で検出機構により反応等が計測される対象物であり、例えば、細胞、細胞内容物、情報伝達物質、酵素化合物、抗体、蛍光試料、および、試薬等のうち少なくとも1つを含む。
【0036】
具体的には、計測対象の細胞内容物の一例としては、細胞核、ミトコンドリアなどの細胞内小器官の他、DNA、RNAなどの核酸類やそれらによってコードされたアミノ酸、ペプチド、タンパク質、その他脂肪粒やグリコーゲン粒などそれ自体に活性を持たない物質を含んでもよく、または、細胞膜内に存在する各種受容体や、細胞膜表面を修飾する糖鎖類を含んでもよい。
【0037】
また、計測対象の情報伝達物質の一例としては、シグナル伝達、細胞活性に寄与するカルシウムイオンなどの電解質や各種ホルモンなどの情報伝達物質を含んでもよい。
【0038】
また、計測対象の酵素化合物の一例としては、プロテインキナーゼなどの酵素化合物を含んでもよい。
【0039】
また、計測対象の蛍光試料の一例としては、蛍光抗体観察において一般的に用いられるフルオレシンやローダミン、蛍光標識として多用されている蛍光タンパク質グループ(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP))などの他、核酸染色プローブとして用いられる、EtBr(エチジウムブロマイド)やSYBR(登録商標)シリーズ(Molecular Probes 社等)など、細胞・酵素活性測定のためのプローブとして用いられるルシフェリン化合物などを含んでもよい。また、特願2004−237951や、特願2004−165084に開示されているような、微量核酸(主としてmRNA)を検出するための蛍光プローブを含んでもよい。
【0040】
ここで、脂質二分子膜間に計測対象である細胞(単一細胞)を少なくとも1つ含んでもよい。なお、本実施形態において、脂質二分子膜間(細胞カプセル)に細胞を1つのみ含むことが望ましい(ただし、空のカプセルがあってもよい)。すなわち、脂質二分子膜間に細胞を一つ以下となるように配置して計測することが望ましい。
【0041】
これにより、例えば、従来実施されてきた細胞集団を対象とする計測では、個別細胞の変異を検出できず、集団的な平均値のなかに微小変化が埋もれてしまう可能性があったが、本発明に係るマイクロ流体チップおよび細胞計測装置では、個別細胞の変化を知った上で集団平均的な議論をすることができ、細胞集団の変化をより正確に計測することが可能となる。
【0042】
[細胞計測装置100]
図1は、本実施形態のマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100の一例を示す説明図である。
【0043】
図1に示すように、細胞計測装置100は、リン脂質分子を含む有機相(例えば、デカン+フォスファチジルコリンなど)が流路内を流れ、測定部(測定容器)となるマイクロ流体チップ200と、マイクロ流体チップ200に計測対象(例えば、細胞、細胞内容物、情報伝達物質、酵素化合物、抗体、蛍光試料、および、試薬等)の水相を交互に導入し、水相と有機相の間にリン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、このリン脂質膜内に導入した水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成するポンプ機能をする導入機構300−1〜2と、計測対象の少なくとも膜構造を破砕する破砕機構400と、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる2相液滴の周辺の有機相を除去することにより、近接する2相液滴の単分子構造のリン脂質膜同士を接触させて脂質二分子膜を生成し、生成された脂質二分子膜で2相液滴を生成化する機能を有する有機相除去機構500と、マイクロ流体チップ200の流路内における計測対象の反応をモニターして検出する検出機構600と、を備えて構成されている。ここで、また、細胞計測装置100において、脂質二分子膜間に1つの計測対象の細胞を含んでもよい。また、細胞計測装置100において、リン脂質膜および脂質二分子膜を構成するリン脂質分子は、機能性分子を含んでもよい。
【0044】
ここで、マイクロ流体チップ200は、例えば、温度を維持する温度調節機能を更に備えてもよい。この場合、マイクロ流体チップ200は、反応温度による影響を回避できる他、抗体反応などを促進することも可能となる。また、温度調整機構には、例えば、抵抗加熱を利用した微細電極ヒータや、ペルチェ素子などを利用してもよい。更に、空/水冷却機構を備えてもよく、これにより、より的確な温度制御を実施することができる。なお、マイクロ流体チップ200の詳細(構造、材質、脂質膜生成方法等)については、後述する。
【0045】
また、導入機構300−1〜2は、適切な流量を確保し、かつ脈動(流速の周期的な変化)を抑制するため、例えば、シリンジポンプを用いてもよく、また、例えば、ギヤポンプやダイアフラム型ポンプ、浸透流ポンプ等を用いてもよい。
【0046】
また、破砕機構400は、流路上に配置された電極から印加された電圧により、計測対象の少なくとも膜構造を破砕する電気的破砕機構450であってもよい。また、破砕機構400は、2相液滴を接触させる前に配置されてもよい。なお、破砕機構400の詳細については、後述する。
【0047】
また、有機相除去機構500は、マイクロ流体チップ200の壁面に設けられた分岐微小流路として構成してもよく、この分岐微小流路の毛管作用により有機相を除去してもよく、また、この分岐微小流路に吸引ポンプ等を更に備えることにより有機相を吸引して除去してもよい。
【0048】
また、検出機構600は、計測対象によって適宜選択できるが、例えば、イオンの移動など微小な電気生理現象を検出するための微小電極を用いてもよい。この場合、従来用いられている光学的な検出手段に比べて装置を小型化できるという利点がある。また、検出機構600として、光学的な検出手段を用いてよい。この光学的な検出手段の一例としては、市販の生物顕微鏡や、フローサイトメータなどに利用される一般的な蛍光光学系の分析装置による蛍光観察の他、表面プラズモン共鳴(SPR)や全反射顕微鏡(TIRF)などの微量分析装置などを用いてもよい。
【0049】
以下、本実施形態におけるマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100の細胞計測の一例について、再度図1を参照して説明する。
【0050】
図1に示すように、マイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100における細胞計測は、一例として、(1)セル生成、(2)細胞破砕(細胞膜溶解)、(3)有機相除去、(4)検出、の順に実行される。
【0051】
(1)セル生成
まず、導入機構300−1〜2は、脂質膜となるリン脂質を混入した有機溶液相内に計測対象の水相1、水相2を交互に導入する。このとき、導入機構300−1〜2は、例えば、計測対象に一例として水相1には細胞と抗体A、水相2には細胞と抗体Bを導入しておく。また、このとき、マイクロ流体チップ200の流路内では、水相と有機相は互いに溶け合わないのでそれぞれ水相1と水相2が有機容器相内で液滴となって交互に配列した状態となり、有機相内に混入していた両親媒性分子(親水基と疎水基を両極にもつ分子)であるリン脂質は、親水基の部分を水相側に、疎水基の部分を有機相側にして、水相の液滴の周辺に脂質膜(単分子構造のリン脂質膜)を形成するため、計測対象を含む2相液滴(細胞カプセル)ができる。
【0052】
また、このとき、各2相液滴(細胞カプセル)に1つの細胞が導入されるよう、導入機構300−1〜2の水相の流入条件および細胞を導入する溶液の濃度を調整してもよい。これにより、細胞個別の反応を観察することができるようになり、個々の細胞の特性を同時に計測することが可能となる。
【0053】
(2)細胞破砕(細胞膜溶解)
次に、マイクロ流体チップ200の流路内に設けた破砕機構400(主に、電気的破砕機構450)は、計測対象の細胞の細胞膜の溶解(内容物の抽出)を行う。この細胞膜溶解は、化学反応を利用する手法や、物理的な衝撃(超音波など)を利用する手法などを用いることもできるが、電気的な手法を用いてもよく、この場合、化学物質によるコンタミネーションの影響がなく測定精度が向上する他、装置の小型化が可能となる。
【0054】
破砕機構400の一例としては、具体的には、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる計測対象の細胞等を電極で挟むことにより、高周波の電界を印加し、細胞の脂質膜の自己溶解を促してもよい(T.Y.Tsong:Biophys.J.60(1991)297)。また、破砕機構400の別の一例としては、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる計測対象の細胞等を電極で挟むことにより、高周波の電界を印加すると同時に、物理的な拘束を利用し、電気的に細胞膜を破砕(内容物抽出)してもよい(N.Ikeda et al.:Jpn.J.appl.phys.46(2007)6410)。また、この破砕機構400を利用して、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる計測対象の細胞を拘束する突起部を設けることにより、電気的な細胞溶解を援助してもよい。ここで、この破砕機構400による細胞破砕を、2相液滴を接触させて2分子膜を構築する前に実施してもよい。これは、リン脂質膜が単分子膜の状態であれば、細胞破砕のための外部エネルギーの印加によって損傷してもすぐに再構成できるためである。これらの詳細については、後述する。
【0055】
(3)有機相除去
そして、有機相除去機構500は、破砕機構400により計測対象の細胞の細胞膜が破砕(溶解)され、その細胞の内容物が展開された2相液滴と、試薬の入った2相液滴を接触させて並列化した脂質2分子膜を形成する。この有機相除去機構500により、単分子構造のリン脂質膜を2分子膜とすることで脂質膜が安定化し、それぞれの2相液滴が細胞内容物と各抗体との反応容器となるという利点がある。また、このとき、有機相または水相に予めイオノフォアなどの機能性分子を混合しておくことにより、脂質2分子膜を高機能化することも可能となる。これらの詳細については後述する。
【0056】
(4)検出
最後に、検出機構600は、導入機構300−1〜2、破砕機構400、および、有機相除去機構500等により生成した脂質膜アレイを、例えば、光学的な検出手段(一例として、蛍光標識試薬による蛍光観察の他、表面プラズモン共鳴(SPR)や全反射顕微鏡(TIRF)などを用いた微量分析手法など)や、電気的な検出手段(一例として、微小電極を用いてイオンの移動など微小な電気生理現象を検出する手段など)を用いて検出する。このとき、検出機構600は、水相1と水相2での検出値の差異から、対象細胞の内容物と抗体A、抗体Bとの反応を知ることができ、細胞内のタンパク発現量などを測定することができる。
【0057】
このように、本実施形態におけるマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100によれば、導入機構300−1〜2、破砕機構400、および、有機相除去機構500にり、細胞膜を模擬した脂質膜によって細胞の内容物等を含む微小領域を仕切ることにより、細胞内の状態を維持しながら細胞およびその内容物を保持することができる。また、本実施形態におけるマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100は、脂質膜を連続的に生成する構成となっているため、流路内に設けた検出機構600により連続的に計測が可能である。
【0058】
以上で、細胞計測装置100の概要の説明を終える。
【0059】
[マイクロ流体チップ200]
続いて、本細胞計測装置100の主要部分であるマイクロ流体チップ200の詳細について、図2〜図4を参照して以下に説明する。
【0060】
本実施形態の細胞計測装置100における二分子膜の製造方法においては、両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が、微細流路内部に交互に並んだ状態を作製し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させ、その接触により両親媒性分子からなる二分子膜の並列構造を形成させる。
【0061】
2つの液相としては有機相および水相、または極性の異なる2種の有機相(例えば、極性の大きい水性溶媒と極性の小さい油性溶媒)が挙げられるが、有機相および水相が最も一般的である。有機相としては、各種の有機化合物から選ばれるが、好適にはデカン、オクタン等のアルカン類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、オレイン酸等の脂肪酸類等が挙げられる。液相と気相を用いる場合、液相としては有機相もしくは水相、一方、気相としては空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等であってもよい。
【0062】
両親媒性分子としては、通常、リン脂質、糖脂質、中性脂質等の脂質;パルミチン酸、ステアリン酸、等の両親媒性界面活性剤;もしくはその構造中に疎水部と親水部を有するブロックコポリマー等のポリマーから選ばれる。このようなブロックコポリマーとしては、ポリエチレンオキシド−ポリエチルエチレン、ポリエチレンオキシド−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド−ポリカプロラクタム、ポリブチルアクリレート−ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0063】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の導入機構300−1〜2(分岐構造)を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作製してもよい。このような微細流路の導入機構300−1〜2(分岐構造)としては、特に制限されないが、好適には十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる。微細流路の大きさは、目的に応じて決定してもよいが、通常0.1〜1000μm程度、好ましくは10〜500μm程度から選ばれる。微細流路を形成する材料の材質は、例えば、プラスチック、セラミック、金属等のいずれでもよく、例えば、微細流路の壁面を疎水性とする場合にはアクリル樹脂、シリコーン樹脂等が好適であり、一方、親水性にする場合には石英ガラス、シリコン、ホウケイ酸ガラス(例えば、「パイレックス(登録商標)」(商標))等が好適である。微細流路を形成する材料の形状、大きさは目的とする用途等により適宜選定し得、例えば、加工した流路を有する板状体(例えば、数センチ角)が挙げられる。
【0064】
両親媒性分子は有機相に配合して導入してもよい。両親媒性分子は2つの液相(例えば、有機相および水相)、または液相と気相、の界面に吸着し単分子膜を形成する。後述する図4に示すように、有機相を2分して異なる両親媒性分子を導入することにより、非対称二分子膜を形成してもよい。
【0065】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を制御するためには、上記の微細流路の導入機構300−1〜2(分岐構造)を用いて、例えば、供給する2つの液相の粘度、表面張力、密度、液性(極性)等にもよるが、2つの液相の吐出速度(吐出量)を適宜調整する。この場合、特開2004−12402号公報、特開2004−67953号公報、特開2004−59802号公報、特開2005−255987号公報および特開2005−270894号公報に記載される方法に準じて連続相と分散相(液滞)の形成を行うこともできる。
【0066】
2つの液相が有機相および水相である場合、好ましくは疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成してもよい。
【0067】
一方、好ましくは親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)により水相を導出して、隣り合う有機相同土を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成してもよい。
【0068】
本実施形態における二分子漠は、互いに異なる成分の液相、例えば、水相と有機相、または互いに異なる成分を含有する水相同士もしくは有機相同士で挟まれてもよい。この場合、例えば、細胞の内部と外部を模した実験系を構築してもよい。
【0069】
有機相除去機構500(分岐微小流路)は、微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けられ、毛管作用(自発的な浸透)および/または吸引(ポンプやバルブを用いる)により、上記のように液相のひとつを導出させる。有機相除去機構500(分岐微小流路)の大きさは、毛管作用および/または吸引に適した範囲から適宜選定され得るが、通常0.1〜200μm程度等から選ばれる。
【0070】
本実施形態のマイクロ流体チップ200によれば、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に二分子膜が配置された構造を有し、両親媒性分子からなる二分子膜が得られる。通常2個以上の二分子膜が間隔をおいて並列に配置される。上記間隔は目的に応じて決定され得、有機相もしくは水相を介して形成され、有機相もしくは水相の間に両親媒性分子からなる二分子膜が配置されている。二分子膜は異なる成分の液相で挟まれてもよい。しかしながら、これらの有機相もしくは水相を除去してその間隔を零(すなわち多層膜)とすることができるし、二分子膜と多層膜の混合型としてもよい。さらに、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に、有機相もしくは水相の間に1個のみの二分子膜が配置されてもよい。
【0071】
二分子膜は平面、球面のいずれであってもよく、閉じた球体形であってもよいが、通常は二分子平面膜が選ばれる。
【0072】
両親媒性分子が例えば、リン脂質である場合、有機相もしくは水相に膜タンパク質等の生体分子を配合しておくことにより、膜タンパク質等の生体分子が固定された二分子膜を得ることができる。膜タンパク質としては、イオンチャンネルタンパク質、トランスポーター、イオンポンプタンパク質およびレセプター(受容体)等の一種以上が挙げられる。また、これらの機能性生体分子としては、例えば、生物由来(天然のイオノフォア分子など)であってもよく、人工的に合成されたものでもあってもよい。
【0073】
例えば、イオンチャンネルタンパク質はイオンを電気化学的ポテンシャルの勾配にしたがって透過させる働きを持つ。イオンチャンネルタンパク質を取り込んだ二分子平面膜において、イオンの流れを電気生理的に計測してもよい。トランスポーターは糖質やアミノ酸等の有機物質を輸送する担体であり、例えば、ATP結合部位(ABC)を持ち、ABC加水分解活性を有するABCトランスポーターが挙げられ、1放射性標識した糖やアミノ酸等の有機物質が輸送される現象を測定してもよい。イオンポンプタンパク質はナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオン、カルシウムイオン等を輸送する輸送担体であり、イオンの濃度勾配(電気化学ポテンシャル差)に抗して輸送する。イオンを輸送するためには例えば、ATP分解により得られる化学エネルギー、もしくは光エネルギー等の供給が必要である。
【0074】
さらに、レセプターは、例えば、神経伝達物質のような特異的な物質(リガンド)と結合し、細胞の反応を開始させ、細胞外のシグナルを細胞内のシグナルに変換してもよい。
【0075】
ここで、検出機構600による検出の一例として、上述のような生体分子が固定された二分子膜に常法により微小電極等を設け、生体分子の電気応答性を測定することにより創薬スクリーニング、細胞機能解明等を目的とした生体膜タンパク質機能解析装置として細胞計測装置100を作製してもよい。電極構造としては特に制限されないが、微細流路内を流動もしくは停止している複数の脂質二分子膜に対して、平行に配置された多数の電極を用いて並列的に信号を検出する方式(多数の電極を用いて並列的に検出)、または微細流路内を流動している複数の脂質二分子膜を次々に電極部を通過させ、1つずつ連続的に信号を検出する方式(一対の電極を用いてシーケンシャルに検出)が通常である。
【0076】
さらに、脂質二分子膜への固定は上記の膜タンパク質に限定されるものではなく、目的に応じ種々の物質を取り込むことができる。例えば、免疫グロブリン等の抗体を蛍光標識し、抗原を吸着させて生じる蛍光強度変化から抗原を検出してもよい。また、微生物が産生するペプチド抗生物質であるグラミシジン等のイオノフォアを取り込み、親水性イオンを二分子膜の疎水性相に入り易くして、透過させるようにすることができる。例えば、グラミシジンAは膜にチャンネル(イオン透過路)を形成して、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンを透過させる。
【0077】
検出機構600により検出する際、例えば、放射性標識、蛍光標識等の常法を用いることができ、電気、光、熱等を利用した測定系とすることもでき、創薬スクリーニング、バイオセンサー、抗原抗体反応分析等に有効に利用してもよい。
【0078】
以下に、本実施形態における検出機構600による検出の一例として、脂質二分子膜を備えてなるデバイスについて、さらに詳細に説明する。
【0079】
1.膜タンパク質の機能解析デバイス
(A)単一の膜タンパク質の機能解析を目的としたもの、ならびに(B)多数の膜タンパク質を脂質二分子平面膜に配置し、巨視的な挙動の解析を目的としたもの、が挙げられる。
【0080】
本実施形態のマイクロ流体チップ200内で作製した脂質二分子平面膜に、機能を調べたい膜タンパク質(イオンチャンネル、トランスポーター、レセプター等)を配置する。各種の物理的または化学的な刺激を与え、膜タンパク質の応答を測定する。
【0081】
解析する機能としては、チャンネル形成膜タンパク質の場合には、単一チャンネルのコンダクタンス、チャンネル開閉時間、開閉状態確率等が挙げられる。刺激の種類としては、例えば、電位作動性の膜タンパク質の場合には電気刺激を刺激として用い、リガンド作動性の膜タンパク質の場合にはリガンドを刺激として用い、機械刺激作動性の膜タンパク質の場合には機械刺激を刺激として用いられる。また、測定手段としては、電気的測定の場合には、測定対象として膜電位、膜電流、単一チャンネル電流、ゲート電流(電位作動性イオンチャンネル)が挙げられる。
【0082】
2.脂質二分子平面膜を用いたセンサーデバイス
(A)二分子平面膜をセンサーとして利用する場合
作製した脂質二分子平面膜に、水相中の物質が吸着した際に生じる電気応答(脂質膜の膜電位、膜電流、膜容量等)の変化を測定し、(a)脂質二分子平面膜への物質の取り込みの確認、(b)水相中に含まれる物質の検知、濃度測定等を行う。水相中の物質としては、各種タンパク質、水溶性環境汚染物質等が挙げられる。
【0083】
(B)脂質二分子平面膜に埋め込んだ膜タンパク質をセンサーとして利用する場合
(1)リガンド作動性イオンチャンネルの利用
作製した脂質二分子平面膜に、レセプター(受容体)膜タンパク質を配し、水相にそのレセプターに対応するリガンド(例えば、神経終末から放出される神経伝達物質、分泌細胞から放出される生理活性物質)、またはリガンドを生成し得るもの(例えば、神経細胞、分泌細胞)を導入しておき、リガンドの結合によるレセプターの応答を検出することで、リガンドの放出、存在を検出する。例えば、ニコチン性アセチルコリンレセプターは、イオンチャンネル型のレセプター(リガンド作動性イオンチャンネル)で、リガンドであるアセチルコリンが結合することによりチャンネルが開口する。したがって、このチャンネル開口に伴う電流測定により、リガンド放出をリアルタイムに検知できる。このレセプターを脂質平面膜に配置し、水溶液中にアセチルコリン生成源である細胞を導入しておくことで、アセチルコリンの放出をリアルタイムでセンシングすることができる。
【0084】
同様に、グルタミン酸レセプターをセンサーとしてグルタミン酸の放出を検出することができる。
【0085】
(2)その他のイオンチャンネルの利用
Ca2+活性化K+チャンネルは細胞内側のカルシウム濃度に依存した活性を示すので、このイオンチャンネルを二分子平面膜に配することにより、カルシウムセンサーとして利用できる。
【0086】
以下、図面を用いてさらに本発明のマイクロ流体チップ200について詳細に説明する。
【0087】
図2において、(a)は二相プラグ流形成の概念図、(b)および(c)は微細流路の両側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図、(c)および(d)は微細流路の片方の側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図を示す。
【0088】
微細流路(3)内部に,両親媒性分子を含有する有機相(2)、および水相(1)が規則的に交互に並んだ状態を作製する(a)。次に、側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)(4)に有機相(2)を導出させ、隣接する水相(1)同士を接触させる。これにより、両親媒性分子で構成される脂質二分子平面膜の並列構造を形成する((b)〜(e))。
【0089】
(a)にT字路を用いた例を示す。本発明においては、規則正しい時間周期でサイズの揃った液滴を生成することができ、且つ流れの制御により、液滴のサイズおよび生成周期を精密に制御することが可能である。両親媒性分子は有機相−水相の界面に吸着し、単分子膜を形成する。
【0090】
次に、疎水性の微細流路(3)の側面(片側または両側)に設けられたより有機相除去機構500(分岐微小流路)(4)から有機相(2)を抽出する。隣り合う水相(1)同士を接触させ、両親媒性分子で構成される薄膜の形成を促す((b)および(c))。
【0091】
あらかじめ、有機相(2)あるいは水相(1)に脂質膜に埋め込むための生体分子(例:膜タンパク質)を混ぜておくことで、それら生体分子を脂質膜に固定化することができる。
【0092】
図3は、検出機構600の一例としての微小電極(5)と徴細流路(3)の組み合わせの例を示し、微小電極(5)と微細流路(3)を組み合わせることにより、膜厚の検証や生体分子の電気応答性を測定することができる。
【0093】
図4は非対称二分子膜の生成法の一例を示す。(a)は二相プラグ流形成の概念図、(b)および(c)は微細流路の両側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図、(c)および(d)は微細流路の片方の側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図を示す。この態様によれば、異なる種類の両親媒性分子からなる非対称な二分子膜を形成することも可能である。
【0094】
続いて、本実施形態のマイクロ流体チップ200の流路に設置された破砕機構400の詳細について、図5〜図12を参照して以下に説明する。具体的には、本実施形態における破砕機構400(主に、電気的破砕機構450)を用いて計測対象である細胞の膜構造を破砕(部分的に孔を開けることを含む)する方法の一例について説明する。なお、本細胞計測装置100において用いられる破砕機構400は、本実施形態における破砕機構400に限定されるものではなく、例えば、一般の細胞膜上に微小孔を開け遺伝子導入などを実施するエレクトロポレーション技術を応用して、所定の直流電圧パルスを細胞に付加してもよい。ここで、図5は、破砕機構400で用いた電界形成用電極52による破砕構造を示す図である。また、図6は、図5に示した電極構造の別の形態の一例を示す図である。
【0095】
本実施形態において、破砕機構400(細胞破砕機構)は、図5に示すように、マイクロ流体チップ200の流路23内に外部電源(後述する電界印加装置53)に接続可能な電極構造(電界形成用電極52)を有し、その電極間に細胞が通過することによって細胞膜を破砕する構成となっている。また、特に破砕効率を向上させるため、後述する図6の例では、流路幅の一部を狭くした部分で電極平面を覆い、非対称的な形状となって露出した電界形成用電極52による破砕構造や、電極自体を非対称とした破砕構造を用いてもよい。
【0096】
また、本実施形態において、破砕機構400は、図6に示すように、1対の電界形成用電極52,52が、膜状電極で構成され、流路23の側壁から突出形成される1対の構造体55,55の近傍に形成されてもよい。なお、図6中では、分かり易くするために、電界形成用電極52,52を流路23の近傍部分のみ示しているが、実際はマイクロ流体チップ200の端部まで流路23が延び、電界形成用電極52,52は、非対称的な形状で、例えば、図6(b)〜(d)に示すものがあり、この電界形成用電極52,52間のギャップは、細胞の径以下となっている。
【0097】
図6において、電界印加装置53は、電界形成用電極52,52に交流電圧を供給する。交流電圧が供給されると、上記のように電界形成用電極52,52が非対称的な形状であるため、当該電界形成用電極52,52間に各領域で強度が不均一な電界が形成される。そして、この不均一電界が形成された領域では、流路23中の物質が誘電泳動力を受ける。本実施形態では、比較的に高周波の交流電圧(例えば、1MHz)を印加するので、不均一電界が形成された領域で、細胞Cが負の誘電泳動力を受け、電界強度の小さい弱電界側の電極(下流側に配置された方の電界形成用電極52)に向かって移動する。さらに、本実施形態においては、この交流電圧は、絶縁性の細胞膜に間欠的に電界を集中させ、細胞膜構造の可逆又は不可逆破壊を引き起こす。なお、どのような交流電界を印加するかは、細胞の大きさや種類等に応じて決定する。このとき、電界をかけることによる細胞の及ぼす影響を低減させることを考慮して設定することが好ましい。また、できるだけ高周波数で小振幅の電界を用いると、流路23内での気泡の発生を抑制することも可能となる。なお、上記電界印加装置53及び電界形成用電極52,52が、電界形成手段に相当する。
【0098】
また、本実施形態において、破砕機構400は、図9〜図12に示すように、破砕補助機構(構造体55および尖部55aを含む)を有してもよい。また、例えば、図7に示すように、流路23の一部を細胞の直径よりも小さく絞り、細胞の通過を困難にすることで、細胞内圧を発生させて破砕しやすくしてもよい。なお、図7では、破砕補助機構を分かり易くするために電界形成用電極52,52の図示を省略しているが、本来は、図6に示すように、電極構造を組み合わせて電気破砕的効果を援助する形で用いる。ここで、図8は、破砕補助機構の一例を示しており、また、図9〜図12は、破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。これらを電極と組合せることで、より低い電界で(測定対象物への電気的な影響を最小限にして)細胞を破砕することが可能となる。
【0099】
本実施形態における破砕機構400(主に、電気的破砕機構450)を用いて計測対象である細胞の膜構造の破砕する際には、試料分子として細胞Cを含む試料溶液を、導入機構300−1〜2によりマイクロ流体チップ200の流路23内に投入する。そして、この状態で、マイクロ流体チップ200の流路23に設置された1対の電極に電圧を印加し
、細胞膜を破砕または孔を開けて細胞の内容物と外部溶液(例えば、抗体や試薬など)とを反応させる。
【0100】
また、本実施形態において、破砕機構400は、破砕補助機構を備えた電極構造として、図7および図8に示す破砕機構400を用いてもよい。ここで、図7は、本実施形態における破砕機構400の一例の効果を説明するための図である。また、図8は、本実施形態における構造体の一例を示す図である。
【0101】
そして、細胞Cが移動し始めた後、電界形成電極52,52に高周波電圧を印加し、不均一電界を形成する。図7において、マイクロ流体チップ200の流路23内の流体の流れと共に、当該流路23内で細胞Cが当該不均一電界の形成領域に差し掛かると、上記のように流路23内で上流側から下流側に向かう負の誘電泳動力を受けて、構造体55,55に押し付けられる(同図(b))。これにより、細胞Cの内圧が高まると共に、交流電圧の電気的な破砕作用も加わって、細胞が破砕する(同図(c))。なお、細胞Cが構造体に衝突時のみでなく、衝突後にも、細胞Cの構造体55,55に接していない部分が誘電泳動力を受けて下流側に引っ張られることで、構造体55,55に挟みこまれた上流側部分の内圧が高められ、細胞の破砕が促進される。
【0102】
また、破砕補助機構は、図8に示すように、本実施形態の破砕機構400は、流路23の底面から延びる構造体55に限らず、流路23の側壁から突出して、流路幅を狭くする構造体55であってもよい。図8には、そのような構造体55を1対、流路23の対向する1対の側壁に夫々設けた場合を示す。図8(a)では、構造体55が流路23の側壁から流路幅方向に平面斜で略三角状に突出形成されており、1対が流路23を挟んで対称的に形成されている。そして、その1対の構造体55,55が最も突出した部分で、破砕対象の細胞の径よりも流路幅が狭くなっている。このため、細胞Cが流体により運ばれてくると、流路幅が細胞Cの径よりも狭くなった部分で1対の構造体55,55に挟み込まれる。そして、誘電泳動力や流体駆動力によって構造体55,55に押し込まれ、細胞Cの内圧が高まることで、細胞膜が破れて細胞Cが破砕する。
【0103】
図8(b)及び(c)も同様の作用によって細胞を破砕するものであり、同図(b)の構造体55,55は平面視円弧状に突出している。また、図8(c)の構造体55,55は、流路幅を狭くするように突出すると共に、上流側に向かって尖った尖部55aを有する。このため、細胞Cが構造体55,55に衝突した際に内圧を増加させるのみでなく、細胞膜に尖部55aが食い込み、細胞膜を壊す作用も果たすので、細胞Cがより確実に破砕できる。
【0104】
なお、このような構造体55は、上記のものに限られず、例えば、図10の(a)や(b)に示すように三角柱状のものを流路幅方向に2つ以上並べたり、図10の(c)や(d)に示すように三角柱状以外の形状をしてもよい。また、上流側に向かって尖った尖部55aを有するものに限られず、図11に示すような円柱状の構造体55としてもよい。尖部55aを設けた場合、衝突した部分の細胞膜が壊れたり、衝突に伴って細胞の形状が大きく変化することで内圧の一部で極大化したりするので、細胞が破砕しやすくなる。
【0105】
また、流路23の側壁から突出し、流路幅を挟める形式の構造体55,55に限られず、図12に示すように、流路23の底面から延びる形式の構造体55を用いてもよい。
【0106】
なお、本実施形態における破砕機構400の適用は上記実施形態に限定されない。例えば、電界形成用電極52,52は、図6(a)に示すような配置及び形状に限定されず、図6の(b)〜(d)に示すようなものであってもよい。例えば、正の誘電泳動力が生じるような周波数の低い電圧を印加する場合には、大きい方の電界形成用電極52を上流側に形成し(同図(c))、誘電泳動力が上流側から下流側に向くようにしてもよい。また、誘電泳動力を上流側から下流側に向ける場合に限られず、例えば、1対の電界形成用電極52,52を流路23の幅方向に並べて配置し(同図(b)及び(d))、幅方向に並んだ構造体55,55の一方に向かって細胞Cを押し込むように誘電泳動力が作用するようにしてもよい。このほか、3つ以上の電極を設けて、交流電圧を印加した場合にも、不均一電界を形成できる。
【0107】
また、上記実施形態では、一定の交流電圧を所定時間連続して印加するが、これに限らず、一定時間おきに高周波電圧を所定時間印加する方式(バースト波形)を繰り返してもよい。また、交流電界の印加期間、振幅、周波数を時間の経過と共に、増減させてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、細胞の通過に合わせ交流電界を印加してもよく、また、常時交流電界を印加してもよい。また、一例として、細胞の破砕を確認するため、破砕機構400にて細胞の状態を顕微鏡等により常時観察し、画像処理技術等を用いて細胞が破砕したか否かを判別してもよい。
【0109】
また、破砕機構400の設置箇所は、1箇所に限定されず、マイクロ流体チップ200の流路23上の複数箇所に設置してもよい。特に、高速で流体を流す場合には、破砕機構400を複数個、流路23上に連続的に設置してもよい。また、同様に、破砕機構400の破砕用の電極(電界形成用電極52を含む)は、1対に限定されず、マイクロ流体チップ200の流路23内に複数対設けてもよい。
【0110】
また、流路23の一部に誘電泳動力を作用させる場合に限られず、例えば、流路23に設置された電極に交流電圧を印加して、流路23の全長に対して誘電泳動力を作用させるものであってもよい。
【0111】
さらに、細胞破砕のための駆動方法は、上述の実施形態のように、誘電泳動力による場合に限定されず、例えば、電気浸透流やポンプを用いるなど圧力流で駆動する方式であってもよく、マイクロポンプ等を用いることもできる。また、電界形成用電極52,52等の電極は、膜状電極としてマイクロ流体チップ200の流路23に一体形成する場合に限らず、例えば、ワイヤ状の電極として構成し、流路23に挿入して電圧を印加するようにしてもよい。
【0112】
また、流路23の配置は、例えば、流路23が複数併設されるものや、他の機能部(例えば、破砕後の内包物C1を分離する分離部)が設けられるものであってもよい。
【0113】
このように、本実施形態における細胞計測装置100では、上述の破砕機構400(細胞破砕機構)を、マイクロ流体チップ200中に組み込むことにより、2相液滴(脂質膜カプセル)内での細胞破砕(内容物抽出)を可能とする。特に、電気的破砕機構450により、マイクロ流体チップ200の流路上に配置された電極から印加された電圧によって細胞膜を電気的に破砕することにより、細胞膜を非接触で破砕することが可能となる。これにより、2相液滴(脂質膜カプセル)を構成している脂質膜への影響を少なくできる。また、この際、上述の破砕機構400(細胞破砕機構)のいずれかを利用できるが、本実施形態において、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる流体(2相液滴や有機相を含む)の駆動は、マイクロ流体チップ200全体の流体駆動力(例えば、シリンジポンプなどの外部動力)によって行われるため、上述の電気浸透流を発生させなくてもよい。
【0114】
また、本実施形態において、上述のように、電界形成用電極52を利用して細胞の破砕を容易化する場合には、マイクロ流体チップ200の流路の断面積を突起形状等に変形して一時的に縮小することにより、電界の集中や細胞の捕獲を行ってもよいが、2相液滴(脂質膜カプセル)内で細胞膜の破砕を行う場合には、脂質膜への影響を極小化するため、可能な限りマイクロ流体チップ200の流路内の空間を均一に構成する(細胞捕獲のための突起部を設けない)必要があるため、突起部を設けずに電極のみによる細胞膜の破砕を行ってもよい。また、この際、細胞が電極上を通過する時間をマイクロ流体チップ200全体の流速を制御し、的確に細胞膜を破砕するよう調整してもよい。
【0115】
以上で、マイクロ流体チップ200の詳細の説明を終える。
【実施例】
【0116】
続いて、本実施形態における細胞計測装置100の実施例により更に具体的に説明する。なお、本実施形態における細胞計測装置100は本実施例に限定されるものではない。ここで、図13は、本実施例における細胞計測装置100の装置全体の一例を示す図である。
【0117】
図13に示すように、本実施例における細胞計測装置100は、基本構成として、核となるマイクロ流体チップ200(上記図1に示すような流路パターンが実装されており、有機相除去機構500が流路上に構成される)と、そのマイクロ流体チップ200の周辺機器(例えば、流体駆動用のポンプユニット(導入機構300に対応)、細胞破砕装置(破砕機構400に対応)、および、検出装置(検出機構600に対応))とを備えて構成される。ここで、マイクロ流体チップ200は、例えば、ソケット式コネクターにより外部の周辺機器と接続されていてもよく、ディスポーザブルに着脱自在であってもよい。
【0118】
図13において、細胞破砕装置(破砕機構400)は、一例として、1対の電極(電界形成用電極52を含む)と、ファンクションジェネレータ(例えば、Agilent(会社名)の33120A(型番)等)と、高周波アンプ(例えば、NF(会社名)のHSA4011(型番)等)とを備えて構成されている。また、検出装置(検出機構600)は、一例として、電気検出の場合、1対の電極と、微小電流計(例えば、Keithley(会社名)の6487(型番)等)やパッチ/ホールセルクランプ用増幅器(例えば、日本光電(会社名)のCEZ−2400(型番)等)と、データ収集パソコンとを備えて構成されている。また、図13の検出装置(検出機構600)は、電気検出の場合の一例であるが、その他に、光学検出の場合に用いる、顕微鏡やその他のイメージングデバイス等の検出機器などを用いてもよい。また、ポンプユニットは、マイクロ流体チップ200の流路内へ導入される各溶液の流入条件(例えば、流量や圧力等)を最適化して、2相液滴を安定生成する機能を有する。また、同時に、ポンプユニットは、有機相除去機構500により除去された有機相を吸引し再度流路内に導入することも可能であり、マイクロ流体チップ200全体の流体駆動力を発生させる機能を有する。また、廃液ポンプユニットは、検出装置により検出された計測対象の2相液滴を廃液として回収する機能を有する。
【0119】
以下、本実施例における細胞計測装置100の細胞計測の一例について、図14〜図19を参照して説明する。ここで、図14は、導入機構300によるセル生成(液滴生成)の一例を示す写真である。また、図15は、破砕機構400による細胞破砕の一例を示す写真である。また、図16は、有機相除去機構500による有機相除去の一例を示す写真である。また、図17および図18は、検出機構600による検出(光学検出)の一例を示す写真である。また、図19は、検出機構600による検出(脂質膜の電気応答の検出)の一例を示すグラフである。
【0120】
まず、細胞計測装置100の導入機構300は、上記図1の(1)「セル生成」として、図14(a)に示すように、計測対象を含む水相を、リン脂質分子が含まれる有機相が流れるマイクロ流体チップ200の流路内に導入することにより、図14(b)に示すように、2相液滴を生成する。なお、図14(a)および(b)中では、分かり易くするために導入機構300の片側部分のみ示しているが、実際は、導入機構300−1〜2は、マイクロ流体チップ200の流路内へ計測対象を含む水相を交互に導入している。このように、導入機構300により、図14(c)に示すように、有機相が流れるマイクロ流体チップ200の流路内に2相液滴の水相1および水相2が導入される。
【0121】
次に、細胞計測装置100の破砕機構400は、上記図1の(2)「細胞破砕」として、図15(a)〜(e)の順に示すように、図15の紙面左側(上流)から右側(下流)へ流路内を流れる2相液滴に含まれる細胞の細胞膜を、流路幅が狭くなった部分にて細胞の内圧を高めると共に、交流電圧の電気的な破砕作用も加えることにより、破砕する。なお、図15に示す破砕機構400は、一例として、上記図5に示す破砕機構400を用いているが、上述の他の破砕機構400を用いてもよい。
【0122】
そして、細胞計測装置100の有機相除去機構500は、上記図1の(3)「有機相除去」として、図16(a)〜(d)の順に示すように、図16の紙面右側(上流)から左側(下流)へ流路内を流れる、細胞膜が破砕された細胞内容物を含む隣り合う2相液滴同士を、その2相液滴周辺の有機相を除去することにより接触させて脂質二分子膜(脂質平面膜)を流路内に並列生成する。
【0123】
そして、細胞計測装置100の検出機構600は、上記図1の(4)「検出」として光学検出する場合、図17および図18に示すように、隣り合う2相液滴間の計測対象の反応を検出する。一例として、蛍光試料を用いてCaとの反応を蛍光観察により検出してもよい。具体的には、図17において、図17の紙面左側の2相液滴内にはCa2+検出滴、右側の2相液滴内にはCa2+含有滴が含まれており、左側の2相液滴が蛍光を発している(蛍光試料がCaと反応している)ため、脂質平面膜にイオノフォアが存在し、カルシウムイオンが透過したことが検出される。また、図18においては、図17と同様に紙面左側の2相液滴内にはCa2+検出滴、右側の2相液滴内にはCa2+含有滴が含まれており、左側の2相液滴が蛍光を発していない(蛍光試料がCaと反応していない)ため、脂質平面膜にイオノフォアが存在せず、カルシウムイオンが透過していないことが検出される。
【0124】
また、細胞計測装置100の検出機構600は、上記図1の(4)「検出」として脂質膜の電気応答を検出する場合、図19に示すように、電気的な検出手段(一例として、微小電極を用いてイオンの移動などにより生じる微小な電位差(膜電位)を検出する手段など)を用いて、隣り合う2相液滴間の計測対象の反応を検出してもよい。
【0125】
以上のように、本発明を実施するための最良に形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能であり、かかる変形例も本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上詳述に説明したように、本発明に係るマイクロ流体チップおよび細胞計測装置は、細胞やその内容物もしくは特定の細胞小器官等の計測対象を2相液滴(リン脂質膜カプセル)内に収容し、隣接する2相液滴による影響にて生じる計測対象における反応を検出することに有用であり、これらを連続的に効率よく分析・計測することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本実施形態のマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100の一例を示す説明図である。
【図2】本発明における脂質二分子平面膜の製造の模式図である。
【図3】微小電極と微細流路の組み合わせの例を示す図である。
【図4】非対称二分子膜の生成法の一例を示す図である。
【図5】破砕機構400で用いた電界形成用電極52による破砕構造を示す図である。
【図6】図5に示した電極構造の別の形態の一例を示す図である。
【図7】本実施形態における破砕機構400の一例の効果を説明するための図である。
【図8】本実施形態における構造体の一例を示す図である。
【図9】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図10】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図11】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図12】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図13】本実施例における細胞計測装置100の装置全体の一例を示す図である。
【図14】導入機構300によるセル生成(液滴生成)の一例を示す写真である。
【図15】破砕機構400による細胞破砕の一例を示す写真である。
【図16】有機相除去機構500による有機相除去の一例を示す写真である。
【図17】検出機構600による検出(光学検出)の一例を示す写真である。
【図18】検出機構600による検出(光学検出)の一例を示す写真である。
【図19】検出機構600による検出(脂質膜の電気応答の検出)の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0128】
100 細胞計測装置
200 マイクロ流体チップ
300−1〜2 導入機構
400 破砕機構
450 電気的破砕機構
23 流路
52 電界形成用電極
53 電界印加装置
55 構造体
55a 尖部
C 細胞
C1 内包物
500 有機相除去機構
600 検出機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップおよび細胞計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ流体チップ内などで連続的に計測対象の細胞や試薬等との反応などを計測する技術として、以下の技術が報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、細胞を整列させて流すフローセルと、このフローセル内を流れる細胞にレーザ光を照射する光照射手段と、前記光照射手段から直接光の通過を阻止するビームストッパと、細胞によって散乱された2種類の散乱光をそれぞれ検知し得る少なくとも2個に分画された受光センサー部を有する単一の受光手段とを備えた細胞分析装置を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、計測対象となる細胞などの試料を含む液体を保持する試料保持機構と、試料保持機構の計測領域に対して互いに異なる3つの計測方法に沿って計測光源から計測光を照射し、計測方向のそれぞれについて試料を通過した光を撮像装置で測定してその位相差像を取得する位相差像取得装置とを設けた試料計測装置および計測方法を開示している。
【0005】
また、特許文献3は、基板に形成された細胞を搬送する流路を備え、該流路の上流端に細胞を注入する手段と、前記流路内の細胞を画像信号として検出する第1の細胞識別領域と、該第1の細胞識別領域の下流に形成された時間調整器と、該時間調整器の下流に形成された前記流路内の細胞を画像信号として検出する第2の細胞識別領域と、該第2の細胞識別領域の下流に形成された前記流路内の細胞を2つの流路に選択的に排出流路と、からなるセルソーターチップおよびセルソータを開示している。
【0006】
また、特許文献4は、第1のパラメータが細胞に光を照射して得られる細胞の錯乱光ないし蛍光情報によるものであり、第2のパラメータが細胞の画像によるものであるゲル電極付きセルソーターチップを開示している。
【0007】
また、特許文献5は、流体サンプルを少なくとも2種類の色素および少なくとも一種細胞表面マーカーと混合させる段階からなり、上記色素はそれぞれ別々にサンプル内の細胞の異なった特徴を評価し、かつ上記マーカーは異なる系統の細胞に別様に発現する抗原を認識し、標識した溶液を形成する流体内細胞成分の分析法を開示している。また、特許文献5の流体内細胞成分の分析法において、それぞれの色素および標識は蛍光を発し、かつ互いに識別可能な放出スペクトルのピークを持つことや、さらに標識した溶液は検出器を通過させ、その中で溶液中の各細胞は一度に実質上1個ずつ試験され、蛍光強度および散乱光の測定が試験しようとするそれぞれに細胞について行われていることが開示されている。
【0008】
また、特許文献6は、単一もしくは複数の核関連タンパク質をコードする遺伝子と蛍光タンパク質をコードする遺伝子とを融合し培養細胞に導入して細胞内に発現させた母細胞を生成し、被検物質の毒性もしくは突然変異性試験のための処理を施し、小核領域が限定的に蛍光を発するような限定的励起を行い、核関連タンパク成分に応じた蛍光量を定量的に測定することにより、計測対象の細胞の固定を行うことなく生細胞中における検出を可能とする細胞内小核の検出方法を開示している。
【0009】
さらに、細胞機能の計測項目の1つである膜タンパク質の評価技術として、例えば、特許文献7の電気生理学的測定システムにおいて、イオン・チャネルを持つ脂質膜組織内のイオン・チャネルの電気生理学的な特性を測定および/または観察するための基板が報告されている。
【0010】
また、流路内の微小セグメントに細胞などのサンプルを封入して輸送する技術として、以下の技術が報告されている。
【0011】
例えば、特許文献8は、マイクロドロップにカプセル化した細胞から分泌されるタンパク質を解析する解析法を開示している。また、特許文献8の方法は、細胞集団を解析し、細胞集団をマイクロドロップにカプセル化する工程、固相支持体に吸着した細胞カプセル化マイクロドロップのアレイを作製し、走査型蛍光、比色、化学発光検出器等を用いて検出する工程、および、細胞カプセル化マイクロドロップを薬剤と接触させ、薬剤が分泌タンパク質のレベルに影響を及ぼすか否かが検出によって示される工程などを更に含むことを開示している。
【0012】
また、特許文献9は、マイクロチャネル内で、材料の一連の微小容積体セグメントを形成しかつ輸送する方法であって、(a)輸送流体源に接続されたインレット・エンドと、流体リザーバに接続されたアウトレット・エンドとを有する第1チャンネルを設けるステップと、(b)セグメント化流体源に接続されたインレット・エンドと、前記第1チャンネルに相互接続されたアウトレット・エンドとを有する第2チャンネルを設けるステップと、(c)セグメント化流体の容積を第1チャンネルに引き込むステップと、および、(d)前記第1チャンネル内のセグメント化流体の容積を、前記流体リザーバ方向に輸送するステップと、(e)ステップ(c)と(d)とを繰り返して、セグメント化流体の一連の分離した容積を形成するステップとを含む小容量体を制御操作する方法および微小流体デバイスを開示している。
【0013】
【特許文献1】特許第3375203号公報
【特許文献2】特開2006−84233号公報
【特許文献3】特開2007−104929号公報
【特許文献4】特許第4047336号公報
【特許文献5】特公平07−26954号公報
【特許文献6】特開2006−101705号公報
【特許文献7】特許第4033768号公報
【特許文献8】特表2004−528574号公報
【特許文献9】特表2003−507162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来のマイクロ流体チップ内などで連続的に計測対象の細胞や試薬等との反応などを計測する技術(特許文献1〜特許文献6等)によれば、細胞を整列させて流すフローセルとこのフローセル内を流れる細胞にレーザ光などを照射する光照射手段とを有し、蛍光発光技術を用いて細胞の特性を計測する一般的な方法を実施するものであるものの、これらの従来技術(特許文献1〜特許文献6等)においては、その構造上、細胞を表面から観察する手法に過ぎず、細胞の内容物の厳密な測定には不向きであるという問題点を有していた。また、その細胞内容物は、細胞自身の細胞膜により作動溶液と分離されているため、外的手段等により細胞を破砕した場合は、細胞の内容物が瞬時に作動溶液内に拡散し、消失してしまうという問題点を有していた。
【0015】
また、従来の細胞機能の計測項目の1つである膜タンパク質の評価技術(特許文献7等)においては、個別の細胞を測定部位に拘束する必要があるため、高速で連続的な測定ができないという問題点を有していた。
【0016】
また、従来の流路内の微小セグメントに細胞などのサンプルを封入して輸送する技術(特許文献8および9等)においては、計測対象の環境に大きな影響を与えることなく細胞の計測が可能となるものの、隣接する微小領域間で細胞およびその内容物等に含まれる分子の脂質膜等を介した移動を考慮しておらず、隣接する微小領域による影響により生じる細胞およびその内容物内における反応を検出することができないという問題点を有していた。
【0017】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、細胞やその内容物もしくは特定の細胞小器官等の計測対象を2相液滴(リン脂質膜カプセル)内に収容でき、隣接する2相液滴による影響にて生じる計測対象における反応を検出でき、これらを連続的に効率よく分析・計測することができるマイクロ流体チップおよび細胞計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述した課題を解決して、本発明の目的を達成するために、本発明に係るマイクロ流体チップは、非混合性の2相液滴を流路内に交互に生成し、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成するマイクロ流体チップであって、前記脂質二分子膜間に計測対象が導入されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の望ましい態様としては、前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0020】
また、本発明の望ましい態様としては、前記流路上に配置された破砕機構により前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕することが好ましい。
【0021】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることが好ましい。
【0023】
また、本発明の望ましい態様としては、前記リン脂質膜および前記脂質二分子膜を構成するリン脂質分子は、機能性分子を含むことが好ましい。
【0024】
上述した課題を解決して、本発明の目的を達成するために、本発明に係る細胞計測装置は、リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、前記マイクロ流体チップの前記流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、前記水相と前記有機相との間に、少なくとも前記リン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に前記水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、前記流路内における前記計測対象の反応を検出する検出機構と、を備え、前記マイクロ流体チップの前記流路において、当該2相液滴の表面に生成された前記リン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成し、前記検出機構により、前記流路内の前記脂質二分子膜間の前記計測対象の反応を検出する、ことを特徴とする。
【0025】
また、本発明の望ましい態様としては、前記有機相を前記マイクロ流体チップの前記流路内から除去する有機相除去機構、を更に備え、前記2相液滴の周辺の前記有機相を当該有機相除去機構により前記流路内から除去することにより、近接する前記2相液滴の前記単分子構造の前記リン脂質膜同士を接触させて前記脂質二分子膜を生成し、生成された当該脂質二分子膜で前記2相液滴を並列化することが好ましい。
【0026】
また、本発明の望ましい態様としては、前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことが好ましい。
【0027】
また、本発明の望ましい態様としては、前記細胞計測装置は、前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕する破砕機構、を更に備えることが好ましい。
【0028】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることが好ましい。
【0029】
また、本発明の望ましい態様としては、前記破砕機構は、前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることが好ましい。
【0030】
また、本発明の望ましい態様としては、前記リン脂質分子は、機能性分子を含むことが好ましい。
【0031】
このように、本発明は、細胞および細胞内容物を効率よく連続的に計測・分析するため、細胞および細胞内容物等の計測対象をリン脂質膜で区切られた微小空間(2相液滴内)に導入し、導入することにより生成された2相液滴(細胞カプセル)を、計測・分析用の反応容器として利用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るマイクロ流体チップおよび細胞計測装置は、細胞やその内容物もしくは特定の細胞小器官等の計測対象を2相液滴(リン脂質膜カプセル)内に収容でき、隣接する2相液滴による影響にて生じる計測対象における反応を検出でき、これらを連続的に効率よく分析・計測できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下に説明する発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。
【0034】
本実施形態は、マイクロ流体チップにおいて、非混合性の2相液滴(例えば、エマルション滴)を流路内に交互に生成し、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を流路内で接触させて脂質二分子膜を流路内に並列生成し、脂質二分子膜間に計測対象が導入される点に特徴がある。また、本実施形態は、細胞計測装置において、リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、マイクロ流体チップの流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、水相と有機相との間に、少なくともリン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、流路内における計測対象の反応を検出する検出機構と、を備え、マイクロ流体チップの流路において、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を流路内で接触させて脂質二分子膜を流路内に並列生成し、検出機構により、流路内の脂質二分子膜間の計測対象の反応を検出する点に特徴がある。
【0035】
ここで、本実施形態において「計測対象」とは、マイクロ流体チップ内で検出機構により反応等が計測される対象物であり、例えば、細胞、細胞内容物、情報伝達物質、酵素化合物、抗体、蛍光試料、および、試薬等のうち少なくとも1つを含む。
【0036】
具体的には、計測対象の細胞内容物の一例としては、細胞核、ミトコンドリアなどの細胞内小器官の他、DNA、RNAなどの核酸類やそれらによってコードされたアミノ酸、ペプチド、タンパク質、その他脂肪粒やグリコーゲン粒などそれ自体に活性を持たない物質を含んでもよく、または、細胞膜内に存在する各種受容体や、細胞膜表面を修飾する糖鎖類を含んでもよい。
【0037】
また、計測対象の情報伝達物質の一例としては、シグナル伝達、細胞活性に寄与するカルシウムイオンなどの電解質や各種ホルモンなどの情報伝達物質を含んでもよい。
【0038】
また、計測対象の酵素化合物の一例としては、プロテインキナーゼなどの酵素化合物を含んでもよい。
【0039】
また、計測対象の蛍光試料の一例としては、蛍光抗体観察において一般的に用いられるフルオレシンやローダミン、蛍光標識として多用されている蛍光タンパク質グループ(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP))などの他、核酸染色プローブとして用いられる、EtBr(エチジウムブロマイド)やSYBR(登録商標)シリーズ(Molecular Probes 社等)など、細胞・酵素活性測定のためのプローブとして用いられるルシフェリン化合物などを含んでもよい。また、特願2004−237951や、特願2004−165084に開示されているような、微量核酸(主としてmRNA)を検出するための蛍光プローブを含んでもよい。
【0040】
ここで、脂質二分子膜間に計測対象である細胞(単一細胞)を少なくとも1つ含んでもよい。なお、本実施形態において、脂質二分子膜間(細胞カプセル)に細胞を1つのみ含むことが望ましい(ただし、空のカプセルがあってもよい)。すなわち、脂質二分子膜間に細胞を一つ以下となるように配置して計測することが望ましい。
【0041】
これにより、例えば、従来実施されてきた細胞集団を対象とする計測では、個別細胞の変異を検出できず、集団的な平均値のなかに微小変化が埋もれてしまう可能性があったが、本発明に係るマイクロ流体チップおよび細胞計測装置では、個別細胞の変化を知った上で集団平均的な議論をすることができ、細胞集団の変化をより正確に計測することが可能となる。
【0042】
[細胞計測装置100]
図1は、本実施形態のマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100の一例を示す説明図である。
【0043】
図1に示すように、細胞計測装置100は、リン脂質分子を含む有機相(例えば、デカン+フォスファチジルコリンなど)が流路内を流れ、測定部(測定容器)となるマイクロ流体チップ200と、マイクロ流体チップ200に計測対象(例えば、細胞、細胞内容物、情報伝達物質、酵素化合物、抗体、蛍光試料、および、試薬等)の水相を交互に導入し、水相と有機相の間にリン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、このリン脂質膜内に導入した水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成するポンプ機能をする導入機構300−1〜2と、計測対象の少なくとも膜構造を破砕する破砕機構400と、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる2相液滴の周辺の有機相を除去することにより、近接する2相液滴の単分子構造のリン脂質膜同士を接触させて脂質二分子膜を生成し、生成された脂質二分子膜で2相液滴を生成化する機能を有する有機相除去機構500と、マイクロ流体チップ200の流路内における計測対象の反応をモニターして検出する検出機構600と、を備えて構成されている。ここで、また、細胞計測装置100において、脂質二分子膜間に1つの計測対象の細胞を含んでもよい。また、細胞計測装置100において、リン脂質膜および脂質二分子膜を構成するリン脂質分子は、機能性分子を含んでもよい。
【0044】
ここで、マイクロ流体チップ200は、例えば、温度を維持する温度調節機能を更に備えてもよい。この場合、マイクロ流体チップ200は、反応温度による影響を回避できる他、抗体反応などを促進することも可能となる。また、温度調整機構には、例えば、抵抗加熱を利用した微細電極ヒータや、ペルチェ素子などを利用してもよい。更に、空/水冷却機構を備えてもよく、これにより、より的確な温度制御を実施することができる。なお、マイクロ流体チップ200の詳細(構造、材質、脂質膜生成方法等)については、後述する。
【0045】
また、導入機構300−1〜2は、適切な流量を確保し、かつ脈動(流速の周期的な変化)を抑制するため、例えば、シリンジポンプを用いてもよく、また、例えば、ギヤポンプやダイアフラム型ポンプ、浸透流ポンプ等を用いてもよい。
【0046】
また、破砕機構400は、流路上に配置された電極から印加された電圧により、計測対象の少なくとも膜構造を破砕する電気的破砕機構450であってもよい。また、破砕機構400は、2相液滴を接触させる前に配置されてもよい。なお、破砕機構400の詳細については、後述する。
【0047】
また、有機相除去機構500は、マイクロ流体チップ200の壁面に設けられた分岐微小流路として構成してもよく、この分岐微小流路の毛管作用により有機相を除去してもよく、また、この分岐微小流路に吸引ポンプ等を更に備えることにより有機相を吸引して除去してもよい。
【0048】
また、検出機構600は、計測対象によって適宜選択できるが、例えば、イオンの移動など微小な電気生理現象を検出するための微小電極を用いてもよい。この場合、従来用いられている光学的な検出手段に比べて装置を小型化できるという利点がある。また、検出機構600として、光学的な検出手段を用いてよい。この光学的な検出手段の一例としては、市販の生物顕微鏡や、フローサイトメータなどに利用される一般的な蛍光光学系の分析装置による蛍光観察の他、表面プラズモン共鳴(SPR)や全反射顕微鏡(TIRF)などの微量分析装置などを用いてもよい。
【0049】
以下、本実施形態におけるマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100の細胞計測の一例について、再度図1を参照して説明する。
【0050】
図1に示すように、マイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100における細胞計測は、一例として、(1)セル生成、(2)細胞破砕(細胞膜溶解)、(3)有機相除去、(4)検出、の順に実行される。
【0051】
(1)セル生成
まず、導入機構300−1〜2は、脂質膜となるリン脂質を混入した有機溶液相内に計測対象の水相1、水相2を交互に導入する。このとき、導入機構300−1〜2は、例えば、計測対象に一例として水相1には細胞と抗体A、水相2には細胞と抗体Bを導入しておく。また、このとき、マイクロ流体チップ200の流路内では、水相と有機相は互いに溶け合わないのでそれぞれ水相1と水相2が有機容器相内で液滴となって交互に配列した状態となり、有機相内に混入していた両親媒性分子(親水基と疎水基を両極にもつ分子)であるリン脂質は、親水基の部分を水相側に、疎水基の部分を有機相側にして、水相の液滴の周辺に脂質膜(単分子構造のリン脂質膜)を形成するため、計測対象を含む2相液滴(細胞カプセル)ができる。
【0052】
また、このとき、各2相液滴(細胞カプセル)に1つの細胞が導入されるよう、導入機構300−1〜2の水相の流入条件および細胞を導入する溶液の濃度を調整してもよい。これにより、細胞個別の反応を観察することができるようになり、個々の細胞の特性を同時に計測することが可能となる。
【0053】
(2)細胞破砕(細胞膜溶解)
次に、マイクロ流体チップ200の流路内に設けた破砕機構400(主に、電気的破砕機構450)は、計測対象の細胞の細胞膜の溶解(内容物の抽出)を行う。この細胞膜溶解は、化学反応を利用する手法や、物理的な衝撃(超音波など)を利用する手法などを用いることもできるが、電気的な手法を用いてもよく、この場合、化学物質によるコンタミネーションの影響がなく測定精度が向上する他、装置の小型化が可能となる。
【0054】
破砕機構400の一例としては、具体的には、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる計測対象の細胞等を電極で挟むことにより、高周波の電界を印加し、細胞の脂質膜の自己溶解を促してもよい(T.Y.Tsong:Biophys.J.60(1991)297)。また、破砕機構400の別の一例としては、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる計測対象の細胞等を電極で挟むことにより、高周波の電界を印加すると同時に、物理的な拘束を利用し、電気的に細胞膜を破砕(内容物抽出)してもよい(N.Ikeda et al.:Jpn.J.appl.phys.46(2007)6410)。また、この破砕機構400を利用して、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる計測対象の細胞を拘束する突起部を設けることにより、電気的な細胞溶解を援助してもよい。ここで、この破砕機構400による細胞破砕を、2相液滴を接触させて2分子膜を構築する前に実施してもよい。これは、リン脂質膜が単分子膜の状態であれば、細胞破砕のための外部エネルギーの印加によって損傷してもすぐに再構成できるためである。これらの詳細については、後述する。
【0055】
(3)有機相除去
そして、有機相除去機構500は、破砕機構400により計測対象の細胞の細胞膜が破砕(溶解)され、その細胞の内容物が展開された2相液滴と、試薬の入った2相液滴を接触させて並列化した脂質2分子膜を形成する。この有機相除去機構500により、単分子構造のリン脂質膜を2分子膜とすることで脂質膜が安定化し、それぞれの2相液滴が細胞内容物と各抗体との反応容器となるという利点がある。また、このとき、有機相または水相に予めイオノフォアなどの機能性分子を混合しておくことにより、脂質2分子膜を高機能化することも可能となる。これらの詳細については後述する。
【0056】
(4)検出
最後に、検出機構600は、導入機構300−1〜2、破砕機構400、および、有機相除去機構500等により生成した脂質膜アレイを、例えば、光学的な検出手段(一例として、蛍光標識試薬による蛍光観察の他、表面プラズモン共鳴(SPR)や全反射顕微鏡(TIRF)などを用いた微量分析手法など)や、電気的な検出手段(一例として、微小電極を用いてイオンの移動など微小な電気生理現象を検出する手段など)を用いて検出する。このとき、検出機構600は、水相1と水相2での検出値の差異から、対象細胞の内容物と抗体A、抗体Bとの反応を知ることができ、細胞内のタンパク発現量などを測定することができる。
【0057】
このように、本実施形態におけるマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100によれば、導入機構300−1〜2、破砕機構400、および、有機相除去機構500にり、細胞膜を模擬した脂質膜によって細胞の内容物等を含む微小領域を仕切ることにより、細胞内の状態を維持しながら細胞およびその内容物を保持することができる。また、本実施形態におけるマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100は、脂質膜を連続的に生成する構成となっているため、流路内に設けた検出機構600により連続的に計測が可能である。
【0058】
以上で、細胞計測装置100の概要の説明を終える。
【0059】
[マイクロ流体チップ200]
続いて、本細胞計測装置100の主要部分であるマイクロ流体チップ200の詳細について、図2〜図4を参照して以下に説明する。
【0060】
本実施形態の細胞計測装置100における二分子膜の製造方法においては、両親媒性分子を含有する、2つの液相または液相と気相が、微細流路内部に交互に並んだ状態を作製し、該微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)により2つの液相のうち一方、または液相と気相より気相、を導出して隣り合う残った液相同士を接触させ、その接触により両親媒性分子からなる二分子膜の並列構造を形成させる。
【0061】
2つの液相としては有機相および水相、または極性の異なる2種の有機相(例えば、極性の大きい水性溶媒と極性の小さい油性溶媒)が挙げられるが、有機相および水相が最も一般的である。有機相としては、各種の有機化合物から選ばれるが、好適にはデカン、オクタン等のアルカン類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、オレイン酸等の脂肪酸類等が挙げられる。液相と気相を用いる場合、液相としては有機相もしくは水相、一方、気相としては空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等であってもよい。
【0062】
両親媒性分子としては、通常、リン脂質、糖脂質、中性脂質等の脂質;パルミチン酸、ステアリン酸、等の両親媒性界面活性剤;もしくはその構造中に疎水部と親水部を有するブロックコポリマー等のポリマーから選ばれる。このようなブロックコポリマーとしては、ポリエチレンオキシド−ポリエチルエチレン、ポリエチレンオキシド−ポリブタジエン、ポリスチレン−ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド−ポリカプロラクタム、ポリブチルアクリレート−ポリアクリル酸等が挙げられる。
【0063】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相を微細流路の導入機構300−1〜2(分岐構造)を用いて、交互に導入することにより、両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を作製してもよい。このような微細流路の導入機構300−1〜2(分岐構造)としては、特に制限されないが、好適には十字路、T字路もしくはY字路から選ばれる。微細流路の大きさは、目的に応じて決定してもよいが、通常0.1〜1000μm程度、好ましくは10〜500μm程度から選ばれる。微細流路を形成する材料の材質は、例えば、プラスチック、セラミック、金属等のいずれでもよく、例えば、微細流路の壁面を疎水性とする場合にはアクリル樹脂、シリコーン樹脂等が好適であり、一方、親水性にする場合には石英ガラス、シリコン、ホウケイ酸ガラス(例えば、「パイレックス(登録商標)」(商標))等が好適である。微細流路を形成する材料の形状、大きさは目的とする用途等により適宜選定し得、例えば、加工した流路を有する板状体(例えば、数センチ角)が挙げられる。
【0064】
両親媒性分子は有機相に配合して導入してもよい。両親媒性分子は2つの液相(例えば、有機相および水相)、または液相と気相、の界面に吸着し単分子膜を形成する。後述する図4に示すように、有機相を2分して異なる両親媒性分子を導入することにより、非対称二分子膜を形成してもよい。
【0065】
両親媒性分子を含有する2つの液相または液相と気相が交互に並んだ状態を制御するためには、上記の微細流路の導入機構300−1〜2(分岐構造)を用いて、例えば、供給する2つの液相の粘度、表面張力、密度、液性(極性)等にもよるが、2つの液相の吐出速度(吐出量)を適宜調整する。この場合、特開2004−12402号公報、特開2004−67953号公報、特開2004−59802号公報、特開2005−255987号公報および特開2005−270894号公報に記載される方法に準じて連続相と分散相(液滞)の形成を行うこともできる。
【0066】
2つの液相が有機相および水相である場合、好ましくは疎水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)により有機相を導出して、隣り合う水相同士を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成してもよい。
【0067】
一方、好ましくは親水性の微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)により水相を導出して、隣り合う有機相同土を接触させて、単分子膜を結合させることにより二分子膜を形成してもよい。
【0068】
本実施形態における二分子漠は、互いに異なる成分の液相、例えば、水相と有機相、または互いに異なる成分を含有する水相同士もしくは有機相同士で挟まれてもよい。この場合、例えば、細胞の内部と外部を模した実験系を構築してもよい。
【0069】
有機相除去機構500(分岐微小流路)は、微細流路の壁面の片側あるいは両側に設けられ、毛管作用(自発的な浸透)および/または吸引(ポンプやバルブを用いる)により、上記のように液相のひとつを導出させる。有機相除去機構500(分岐微小流路)の大きさは、毛管作用および/または吸引に適した範囲から適宜選定され得るが、通常0.1〜200μm程度等から選ばれる。
【0070】
本実施形態のマイクロ流体チップ200によれば、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に二分子膜が配置された構造を有し、両親媒性分子からなる二分子膜が得られる。通常2個以上の二分子膜が間隔をおいて並列に配置される。上記間隔は目的に応じて決定され得、有機相もしくは水相を介して形成され、有機相もしくは水相の間に両親媒性分子からなる二分子膜が配置されている。二分子膜は異なる成分の液相で挟まれてもよい。しかしながら、これらの有機相もしくは水相を除去してその間隔を零(すなわち多層膜)とすることができるし、二分子膜と多層膜の混合型としてもよい。さらに、微細流路内(もしくは微細流路であった空間内)に、有機相もしくは水相の間に1個のみの二分子膜が配置されてもよい。
【0071】
二分子膜は平面、球面のいずれであってもよく、閉じた球体形であってもよいが、通常は二分子平面膜が選ばれる。
【0072】
両親媒性分子が例えば、リン脂質である場合、有機相もしくは水相に膜タンパク質等の生体分子を配合しておくことにより、膜タンパク質等の生体分子が固定された二分子膜を得ることができる。膜タンパク質としては、イオンチャンネルタンパク質、トランスポーター、イオンポンプタンパク質およびレセプター(受容体)等の一種以上が挙げられる。また、これらの機能性生体分子としては、例えば、生物由来(天然のイオノフォア分子など)であってもよく、人工的に合成されたものでもあってもよい。
【0073】
例えば、イオンチャンネルタンパク質はイオンを電気化学的ポテンシャルの勾配にしたがって透過させる働きを持つ。イオンチャンネルタンパク質を取り込んだ二分子平面膜において、イオンの流れを電気生理的に計測してもよい。トランスポーターは糖質やアミノ酸等の有機物質を輸送する担体であり、例えば、ATP結合部位(ABC)を持ち、ABC加水分解活性を有するABCトランスポーターが挙げられ、1放射性標識した糖やアミノ酸等の有機物質が輸送される現象を測定してもよい。イオンポンプタンパク質はナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオン、カルシウムイオン等を輸送する輸送担体であり、イオンの濃度勾配(電気化学ポテンシャル差)に抗して輸送する。イオンを輸送するためには例えば、ATP分解により得られる化学エネルギー、もしくは光エネルギー等の供給が必要である。
【0074】
さらに、レセプターは、例えば、神経伝達物質のような特異的な物質(リガンド)と結合し、細胞の反応を開始させ、細胞外のシグナルを細胞内のシグナルに変換してもよい。
【0075】
ここで、検出機構600による検出の一例として、上述のような生体分子が固定された二分子膜に常法により微小電極等を設け、生体分子の電気応答性を測定することにより創薬スクリーニング、細胞機能解明等を目的とした生体膜タンパク質機能解析装置として細胞計測装置100を作製してもよい。電極構造としては特に制限されないが、微細流路内を流動もしくは停止している複数の脂質二分子膜に対して、平行に配置された多数の電極を用いて並列的に信号を検出する方式(多数の電極を用いて並列的に検出)、または微細流路内を流動している複数の脂質二分子膜を次々に電極部を通過させ、1つずつ連続的に信号を検出する方式(一対の電極を用いてシーケンシャルに検出)が通常である。
【0076】
さらに、脂質二分子膜への固定は上記の膜タンパク質に限定されるものではなく、目的に応じ種々の物質を取り込むことができる。例えば、免疫グロブリン等の抗体を蛍光標識し、抗原を吸着させて生じる蛍光強度変化から抗原を検出してもよい。また、微生物が産生するペプチド抗生物質であるグラミシジン等のイオノフォアを取り込み、親水性イオンを二分子膜の疎水性相に入り易くして、透過させるようにすることができる。例えば、グラミシジンAは膜にチャンネル(イオン透過路)を形成して、水素イオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンを透過させる。
【0077】
検出機構600により検出する際、例えば、放射性標識、蛍光標識等の常法を用いることができ、電気、光、熱等を利用した測定系とすることもでき、創薬スクリーニング、バイオセンサー、抗原抗体反応分析等に有効に利用してもよい。
【0078】
以下に、本実施形態における検出機構600による検出の一例として、脂質二分子膜を備えてなるデバイスについて、さらに詳細に説明する。
【0079】
1.膜タンパク質の機能解析デバイス
(A)単一の膜タンパク質の機能解析を目的としたもの、ならびに(B)多数の膜タンパク質を脂質二分子平面膜に配置し、巨視的な挙動の解析を目的としたもの、が挙げられる。
【0080】
本実施形態のマイクロ流体チップ200内で作製した脂質二分子平面膜に、機能を調べたい膜タンパク質(イオンチャンネル、トランスポーター、レセプター等)を配置する。各種の物理的または化学的な刺激を与え、膜タンパク質の応答を測定する。
【0081】
解析する機能としては、チャンネル形成膜タンパク質の場合には、単一チャンネルのコンダクタンス、チャンネル開閉時間、開閉状態確率等が挙げられる。刺激の種類としては、例えば、電位作動性の膜タンパク質の場合には電気刺激を刺激として用い、リガンド作動性の膜タンパク質の場合にはリガンドを刺激として用い、機械刺激作動性の膜タンパク質の場合には機械刺激を刺激として用いられる。また、測定手段としては、電気的測定の場合には、測定対象として膜電位、膜電流、単一チャンネル電流、ゲート電流(電位作動性イオンチャンネル)が挙げられる。
【0082】
2.脂質二分子平面膜を用いたセンサーデバイス
(A)二分子平面膜をセンサーとして利用する場合
作製した脂質二分子平面膜に、水相中の物質が吸着した際に生じる電気応答(脂質膜の膜電位、膜電流、膜容量等)の変化を測定し、(a)脂質二分子平面膜への物質の取り込みの確認、(b)水相中に含まれる物質の検知、濃度測定等を行う。水相中の物質としては、各種タンパク質、水溶性環境汚染物質等が挙げられる。
【0083】
(B)脂質二分子平面膜に埋め込んだ膜タンパク質をセンサーとして利用する場合
(1)リガンド作動性イオンチャンネルの利用
作製した脂質二分子平面膜に、レセプター(受容体)膜タンパク質を配し、水相にそのレセプターに対応するリガンド(例えば、神経終末から放出される神経伝達物質、分泌細胞から放出される生理活性物質)、またはリガンドを生成し得るもの(例えば、神経細胞、分泌細胞)を導入しておき、リガンドの結合によるレセプターの応答を検出することで、リガンドの放出、存在を検出する。例えば、ニコチン性アセチルコリンレセプターは、イオンチャンネル型のレセプター(リガンド作動性イオンチャンネル)で、リガンドであるアセチルコリンが結合することによりチャンネルが開口する。したがって、このチャンネル開口に伴う電流測定により、リガンド放出をリアルタイムに検知できる。このレセプターを脂質平面膜に配置し、水溶液中にアセチルコリン生成源である細胞を導入しておくことで、アセチルコリンの放出をリアルタイムでセンシングすることができる。
【0084】
同様に、グルタミン酸レセプターをセンサーとしてグルタミン酸の放出を検出することができる。
【0085】
(2)その他のイオンチャンネルの利用
Ca2+活性化K+チャンネルは細胞内側のカルシウム濃度に依存した活性を示すので、このイオンチャンネルを二分子平面膜に配することにより、カルシウムセンサーとして利用できる。
【0086】
以下、図面を用いてさらに本発明のマイクロ流体チップ200について詳細に説明する。
【0087】
図2において、(a)は二相プラグ流形成の概念図、(b)および(c)は微細流路の両側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図、(c)および(d)は微細流路の片方の側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図を示す。
【0088】
微細流路(3)内部に,両親媒性分子を含有する有機相(2)、および水相(1)が規則的に交互に並んだ状態を作製する(a)。次に、側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)(4)に有機相(2)を導出させ、隣接する水相(1)同士を接触させる。これにより、両親媒性分子で構成される脂質二分子平面膜の並列構造を形成する((b)〜(e))。
【0089】
(a)にT字路を用いた例を示す。本発明においては、規則正しい時間周期でサイズの揃った液滴を生成することができ、且つ流れの制御により、液滴のサイズおよび生成周期を精密に制御することが可能である。両親媒性分子は有機相−水相の界面に吸着し、単分子膜を形成する。
【0090】
次に、疎水性の微細流路(3)の側面(片側または両側)に設けられたより有機相除去機構500(分岐微小流路)(4)から有機相(2)を抽出する。隣り合う水相(1)同士を接触させ、両親媒性分子で構成される薄膜の形成を促す((b)および(c))。
【0091】
あらかじめ、有機相(2)あるいは水相(1)に脂質膜に埋め込むための生体分子(例:膜タンパク質)を混ぜておくことで、それら生体分子を脂質膜に固定化することができる。
【0092】
図3は、検出機構600の一例としての微小電極(5)と徴細流路(3)の組み合わせの例を示し、微小電極(5)と微細流路(3)を組み合わせることにより、膜厚の検証や生体分子の電気応答性を測定することができる。
【0093】
図4は非対称二分子膜の生成法の一例を示す。(a)は二相プラグ流形成の概念図、(b)および(c)は微細流路の両側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図、(c)および(d)は微細流路の片方の側面に設けた有機相除去機構500(分岐微小流路)を利用した有機相の抽出および膜形成の模式図を示す。この態様によれば、異なる種類の両親媒性分子からなる非対称な二分子膜を形成することも可能である。
【0094】
続いて、本実施形態のマイクロ流体チップ200の流路に設置された破砕機構400の詳細について、図5〜図12を参照して以下に説明する。具体的には、本実施形態における破砕機構400(主に、電気的破砕機構450)を用いて計測対象である細胞の膜構造を破砕(部分的に孔を開けることを含む)する方法の一例について説明する。なお、本細胞計測装置100において用いられる破砕機構400は、本実施形態における破砕機構400に限定されるものではなく、例えば、一般の細胞膜上に微小孔を開け遺伝子導入などを実施するエレクトロポレーション技術を応用して、所定の直流電圧パルスを細胞に付加してもよい。ここで、図5は、破砕機構400で用いた電界形成用電極52による破砕構造を示す図である。また、図6は、図5に示した電極構造の別の形態の一例を示す図である。
【0095】
本実施形態において、破砕機構400(細胞破砕機構)は、図5に示すように、マイクロ流体チップ200の流路23内に外部電源(後述する電界印加装置53)に接続可能な電極構造(電界形成用電極52)を有し、その電極間に細胞が通過することによって細胞膜を破砕する構成となっている。また、特に破砕効率を向上させるため、後述する図6の例では、流路幅の一部を狭くした部分で電極平面を覆い、非対称的な形状となって露出した電界形成用電極52による破砕構造や、電極自体を非対称とした破砕構造を用いてもよい。
【0096】
また、本実施形態において、破砕機構400は、図6に示すように、1対の電界形成用電極52,52が、膜状電極で構成され、流路23の側壁から突出形成される1対の構造体55,55の近傍に形成されてもよい。なお、図6中では、分かり易くするために、電界形成用電極52,52を流路23の近傍部分のみ示しているが、実際はマイクロ流体チップ200の端部まで流路23が延び、電界形成用電極52,52は、非対称的な形状で、例えば、図6(b)〜(d)に示すものがあり、この電界形成用電極52,52間のギャップは、細胞の径以下となっている。
【0097】
図6において、電界印加装置53は、電界形成用電極52,52に交流電圧を供給する。交流電圧が供給されると、上記のように電界形成用電極52,52が非対称的な形状であるため、当該電界形成用電極52,52間に各領域で強度が不均一な電界が形成される。そして、この不均一電界が形成された領域では、流路23中の物質が誘電泳動力を受ける。本実施形態では、比較的に高周波の交流電圧(例えば、1MHz)を印加するので、不均一電界が形成された領域で、細胞Cが負の誘電泳動力を受け、電界強度の小さい弱電界側の電極(下流側に配置された方の電界形成用電極52)に向かって移動する。さらに、本実施形態においては、この交流電圧は、絶縁性の細胞膜に間欠的に電界を集中させ、細胞膜構造の可逆又は不可逆破壊を引き起こす。なお、どのような交流電界を印加するかは、細胞の大きさや種類等に応じて決定する。このとき、電界をかけることによる細胞の及ぼす影響を低減させることを考慮して設定することが好ましい。また、できるだけ高周波数で小振幅の電界を用いると、流路23内での気泡の発生を抑制することも可能となる。なお、上記電界印加装置53及び電界形成用電極52,52が、電界形成手段に相当する。
【0098】
また、本実施形態において、破砕機構400は、図9〜図12に示すように、破砕補助機構(構造体55および尖部55aを含む)を有してもよい。また、例えば、図7に示すように、流路23の一部を細胞の直径よりも小さく絞り、細胞の通過を困難にすることで、細胞内圧を発生させて破砕しやすくしてもよい。なお、図7では、破砕補助機構を分かり易くするために電界形成用電極52,52の図示を省略しているが、本来は、図6に示すように、電極構造を組み合わせて電気破砕的効果を援助する形で用いる。ここで、図8は、破砕補助機構の一例を示しており、また、図9〜図12は、破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。これらを電極と組合せることで、より低い電界で(測定対象物への電気的な影響を最小限にして)細胞を破砕することが可能となる。
【0099】
本実施形態における破砕機構400(主に、電気的破砕機構450)を用いて計測対象である細胞の膜構造の破砕する際には、試料分子として細胞Cを含む試料溶液を、導入機構300−1〜2によりマイクロ流体チップ200の流路23内に投入する。そして、この状態で、マイクロ流体チップ200の流路23に設置された1対の電極に電圧を印加し
、細胞膜を破砕または孔を開けて細胞の内容物と外部溶液(例えば、抗体や試薬など)とを反応させる。
【0100】
また、本実施形態において、破砕機構400は、破砕補助機構を備えた電極構造として、図7および図8に示す破砕機構400を用いてもよい。ここで、図7は、本実施形態における破砕機構400の一例の効果を説明するための図である。また、図8は、本実施形態における構造体の一例を示す図である。
【0101】
そして、細胞Cが移動し始めた後、電界形成電極52,52に高周波電圧を印加し、不均一電界を形成する。図7において、マイクロ流体チップ200の流路23内の流体の流れと共に、当該流路23内で細胞Cが当該不均一電界の形成領域に差し掛かると、上記のように流路23内で上流側から下流側に向かう負の誘電泳動力を受けて、構造体55,55に押し付けられる(同図(b))。これにより、細胞Cの内圧が高まると共に、交流電圧の電気的な破砕作用も加わって、細胞が破砕する(同図(c))。なお、細胞Cが構造体に衝突時のみでなく、衝突後にも、細胞Cの構造体55,55に接していない部分が誘電泳動力を受けて下流側に引っ張られることで、構造体55,55に挟みこまれた上流側部分の内圧が高められ、細胞の破砕が促進される。
【0102】
また、破砕補助機構は、図8に示すように、本実施形態の破砕機構400は、流路23の底面から延びる構造体55に限らず、流路23の側壁から突出して、流路幅を狭くする構造体55であってもよい。図8には、そのような構造体55を1対、流路23の対向する1対の側壁に夫々設けた場合を示す。図8(a)では、構造体55が流路23の側壁から流路幅方向に平面斜で略三角状に突出形成されており、1対が流路23を挟んで対称的に形成されている。そして、その1対の構造体55,55が最も突出した部分で、破砕対象の細胞の径よりも流路幅が狭くなっている。このため、細胞Cが流体により運ばれてくると、流路幅が細胞Cの径よりも狭くなった部分で1対の構造体55,55に挟み込まれる。そして、誘電泳動力や流体駆動力によって構造体55,55に押し込まれ、細胞Cの内圧が高まることで、細胞膜が破れて細胞Cが破砕する。
【0103】
図8(b)及び(c)も同様の作用によって細胞を破砕するものであり、同図(b)の構造体55,55は平面視円弧状に突出している。また、図8(c)の構造体55,55は、流路幅を狭くするように突出すると共に、上流側に向かって尖った尖部55aを有する。このため、細胞Cが構造体55,55に衝突した際に内圧を増加させるのみでなく、細胞膜に尖部55aが食い込み、細胞膜を壊す作用も果たすので、細胞Cがより確実に破砕できる。
【0104】
なお、このような構造体55は、上記のものに限られず、例えば、図10の(a)や(b)に示すように三角柱状のものを流路幅方向に2つ以上並べたり、図10の(c)や(d)に示すように三角柱状以外の形状をしてもよい。また、上流側に向かって尖った尖部55aを有するものに限られず、図11に示すような円柱状の構造体55としてもよい。尖部55aを設けた場合、衝突した部分の細胞膜が壊れたり、衝突に伴って細胞の形状が大きく変化することで内圧の一部で極大化したりするので、細胞が破砕しやすくなる。
【0105】
また、流路23の側壁から突出し、流路幅を挟める形式の構造体55,55に限られず、図12に示すように、流路23の底面から延びる形式の構造体55を用いてもよい。
【0106】
なお、本実施形態における破砕機構400の適用は上記実施形態に限定されない。例えば、電界形成用電極52,52は、図6(a)に示すような配置及び形状に限定されず、図6の(b)〜(d)に示すようなものであってもよい。例えば、正の誘電泳動力が生じるような周波数の低い電圧を印加する場合には、大きい方の電界形成用電極52を上流側に形成し(同図(c))、誘電泳動力が上流側から下流側に向くようにしてもよい。また、誘電泳動力を上流側から下流側に向ける場合に限られず、例えば、1対の電界形成用電極52,52を流路23の幅方向に並べて配置し(同図(b)及び(d))、幅方向に並んだ構造体55,55の一方に向かって細胞Cを押し込むように誘電泳動力が作用するようにしてもよい。このほか、3つ以上の電極を設けて、交流電圧を印加した場合にも、不均一電界を形成できる。
【0107】
また、上記実施形態では、一定の交流電圧を所定時間連続して印加するが、これに限らず、一定時間おきに高周波電圧を所定時間印加する方式(バースト波形)を繰り返してもよい。また、交流電界の印加期間、振幅、周波数を時間の経過と共に、増減させてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、細胞の通過に合わせ交流電界を印加してもよく、また、常時交流電界を印加してもよい。また、一例として、細胞の破砕を確認するため、破砕機構400にて細胞の状態を顕微鏡等により常時観察し、画像処理技術等を用いて細胞が破砕したか否かを判別してもよい。
【0109】
また、破砕機構400の設置箇所は、1箇所に限定されず、マイクロ流体チップ200の流路23上の複数箇所に設置してもよい。特に、高速で流体を流す場合には、破砕機構400を複数個、流路23上に連続的に設置してもよい。また、同様に、破砕機構400の破砕用の電極(電界形成用電極52を含む)は、1対に限定されず、マイクロ流体チップ200の流路23内に複数対設けてもよい。
【0110】
また、流路23の一部に誘電泳動力を作用させる場合に限られず、例えば、流路23に設置された電極に交流電圧を印加して、流路23の全長に対して誘電泳動力を作用させるものであってもよい。
【0111】
さらに、細胞破砕のための駆動方法は、上述の実施形態のように、誘電泳動力による場合に限定されず、例えば、電気浸透流やポンプを用いるなど圧力流で駆動する方式であってもよく、マイクロポンプ等を用いることもできる。また、電界形成用電極52,52等の電極は、膜状電極としてマイクロ流体チップ200の流路23に一体形成する場合に限らず、例えば、ワイヤ状の電極として構成し、流路23に挿入して電圧を印加するようにしてもよい。
【0112】
また、流路23の配置は、例えば、流路23が複数併設されるものや、他の機能部(例えば、破砕後の内包物C1を分離する分離部)が設けられるものであってもよい。
【0113】
このように、本実施形態における細胞計測装置100では、上述の破砕機構400(細胞破砕機構)を、マイクロ流体チップ200中に組み込むことにより、2相液滴(脂質膜カプセル)内での細胞破砕(内容物抽出)を可能とする。特に、電気的破砕機構450により、マイクロ流体チップ200の流路上に配置された電極から印加された電圧によって細胞膜を電気的に破砕することにより、細胞膜を非接触で破砕することが可能となる。これにより、2相液滴(脂質膜カプセル)を構成している脂質膜への影響を少なくできる。また、この際、上述の破砕機構400(細胞破砕機構)のいずれかを利用できるが、本実施形態において、マイクロ流体チップ200の流路内を流れる流体(2相液滴や有機相を含む)の駆動は、マイクロ流体チップ200全体の流体駆動力(例えば、シリンジポンプなどの外部動力)によって行われるため、上述の電気浸透流を発生させなくてもよい。
【0114】
また、本実施形態において、上述のように、電界形成用電極52を利用して細胞の破砕を容易化する場合には、マイクロ流体チップ200の流路の断面積を突起形状等に変形して一時的に縮小することにより、電界の集中や細胞の捕獲を行ってもよいが、2相液滴(脂質膜カプセル)内で細胞膜の破砕を行う場合には、脂質膜への影響を極小化するため、可能な限りマイクロ流体チップ200の流路内の空間を均一に構成する(細胞捕獲のための突起部を設けない)必要があるため、突起部を設けずに電極のみによる細胞膜の破砕を行ってもよい。また、この際、細胞が電極上を通過する時間をマイクロ流体チップ200全体の流速を制御し、的確に細胞膜を破砕するよう調整してもよい。
【0115】
以上で、マイクロ流体チップ200の詳細の説明を終える。
【実施例】
【0116】
続いて、本実施形態における細胞計測装置100の実施例により更に具体的に説明する。なお、本実施形態における細胞計測装置100は本実施例に限定されるものではない。ここで、図13は、本実施例における細胞計測装置100の装置全体の一例を示す図である。
【0117】
図13に示すように、本実施例における細胞計測装置100は、基本構成として、核となるマイクロ流体チップ200(上記図1に示すような流路パターンが実装されており、有機相除去機構500が流路上に構成される)と、そのマイクロ流体チップ200の周辺機器(例えば、流体駆動用のポンプユニット(導入機構300に対応)、細胞破砕装置(破砕機構400に対応)、および、検出装置(検出機構600に対応))とを備えて構成される。ここで、マイクロ流体チップ200は、例えば、ソケット式コネクターにより外部の周辺機器と接続されていてもよく、ディスポーザブルに着脱自在であってもよい。
【0118】
図13において、細胞破砕装置(破砕機構400)は、一例として、1対の電極(電界形成用電極52を含む)と、ファンクションジェネレータ(例えば、Agilent(会社名)の33120A(型番)等)と、高周波アンプ(例えば、NF(会社名)のHSA4011(型番)等)とを備えて構成されている。また、検出装置(検出機構600)は、一例として、電気検出の場合、1対の電極と、微小電流計(例えば、Keithley(会社名)の6487(型番)等)やパッチ/ホールセルクランプ用増幅器(例えば、日本光電(会社名)のCEZ−2400(型番)等)と、データ収集パソコンとを備えて構成されている。また、図13の検出装置(検出機構600)は、電気検出の場合の一例であるが、その他に、光学検出の場合に用いる、顕微鏡やその他のイメージングデバイス等の検出機器などを用いてもよい。また、ポンプユニットは、マイクロ流体チップ200の流路内へ導入される各溶液の流入条件(例えば、流量や圧力等)を最適化して、2相液滴を安定生成する機能を有する。また、同時に、ポンプユニットは、有機相除去機構500により除去された有機相を吸引し再度流路内に導入することも可能であり、マイクロ流体チップ200全体の流体駆動力を発生させる機能を有する。また、廃液ポンプユニットは、検出装置により検出された計測対象の2相液滴を廃液として回収する機能を有する。
【0119】
以下、本実施例における細胞計測装置100の細胞計測の一例について、図14〜図19を参照して説明する。ここで、図14は、導入機構300によるセル生成(液滴生成)の一例を示す写真である。また、図15は、破砕機構400による細胞破砕の一例を示す写真である。また、図16は、有機相除去機構500による有機相除去の一例を示す写真である。また、図17および図18は、検出機構600による検出(光学検出)の一例を示す写真である。また、図19は、検出機構600による検出(脂質膜の電気応答の検出)の一例を示すグラフである。
【0120】
まず、細胞計測装置100の導入機構300は、上記図1の(1)「セル生成」として、図14(a)に示すように、計測対象を含む水相を、リン脂質分子が含まれる有機相が流れるマイクロ流体チップ200の流路内に導入することにより、図14(b)に示すように、2相液滴を生成する。なお、図14(a)および(b)中では、分かり易くするために導入機構300の片側部分のみ示しているが、実際は、導入機構300−1〜2は、マイクロ流体チップ200の流路内へ計測対象を含む水相を交互に導入している。このように、導入機構300により、図14(c)に示すように、有機相が流れるマイクロ流体チップ200の流路内に2相液滴の水相1および水相2が導入される。
【0121】
次に、細胞計測装置100の破砕機構400は、上記図1の(2)「細胞破砕」として、図15(a)〜(e)の順に示すように、図15の紙面左側(上流)から右側(下流)へ流路内を流れる2相液滴に含まれる細胞の細胞膜を、流路幅が狭くなった部分にて細胞の内圧を高めると共に、交流電圧の電気的な破砕作用も加えることにより、破砕する。なお、図15に示す破砕機構400は、一例として、上記図5に示す破砕機構400を用いているが、上述の他の破砕機構400を用いてもよい。
【0122】
そして、細胞計測装置100の有機相除去機構500は、上記図1の(3)「有機相除去」として、図16(a)〜(d)の順に示すように、図16の紙面右側(上流)から左側(下流)へ流路内を流れる、細胞膜が破砕された細胞内容物を含む隣り合う2相液滴同士を、その2相液滴周辺の有機相を除去することにより接触させて脂質二分子膜(脂質平面膜)を流路内に並列生成する。
【0123】
そして、細胞計測装置100の検出機構600は、上記図1の(4)「検出」として光学検出する場合、図17および図18に示すように、隣り合う2相液滴間の計測対象の反応を検出する。一例として、蛍光試料を用いてCaとの反応を蛍光観察により検出してもよい。具体的には、図17において、図17の紙面左側の2相液滴内にはCa2+検出滴、右側の2相液滴内にはCa2+含有滴が含まれており、左側の2相液滴が蛍光を発している(蛍光試料がCaと反応している)ため、脂質平面膜にイオノフォアが存在し、カルシウムイオンが透過したことが検出される。また、図18においては、図17と同様に紙面左側の2相液滴内にはCa2+検出滴、右側の2相液滴内にはCa2+含有滴が含まれており、左側の2相液滴が蛍光を発していない(蛍光試料がCaと反応していない)ため、脂質平面膜にイオノフォアが存在せず、カルシウムイオンが透過していないことが検出される。
【0124】
また、細胞計測装置100の検出機構600は、上記図1の(4)「検出」として脂質膜の電気応答を検出する場合、図19に示すように、電気的な検出手段(一例として、微小電極を用いてイオンの移動などにより生じる微小な電位差(膜電位)を検出する手段など)を用いて、隣り合う2相液滴間の計測対象の反応を検出してもよい。
【0125】
以上のように、本発明を実施するための最良に形態および実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能であり、かかる変形例も本発明の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0126】
以上詳述に説明したように、本発明に係るマイクロ流体チップおよび細胞計測装置は、細胞やその内容物もしくは特定の細胞小器官等の計測対象を2相液滴(リン脂質膜カプセル)内に収容し、隣接する2相液滴による影響にて生じる計測対象における反応を検出することに有用であり、これらを連続的に効率よく分析・計測することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】本実施形態のマイクロ流体チップ200を含む細胞計測装置100の一例を示す説明図である。
【図2】本発明における脂質二分子平面膜の製造の模式図である。
【図3】微小電極と微細流路の組み合わせの例を示す図である。
【図4】非対称二分子膜の生成法の一例を示す図である。
【図5】破砕機構400で用いた電界形成用電極52による破砕構造を示す図である。
【図6】図5に示した電極構造の別の形態の一例を示す図である。
【図7】本実施形態における破砕機構400の一例の効果を説明するための図である。
【図8】本実施形態における構造体の一例を示す図である。
【図9】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図10】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図11】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図12】破砕補助機構の別の形態の一例を示す図である。
【図13】本実施例における細胞計測装置100の装置全体の一例を示す図である。
【図14】導入機構300によるセル生成(液滴生成)の一例を示す写真である。
【図15】破砕機構400による細胞破砕の一例を示す写真である。
【図16】有機相除去機構500による有機相除去の一例を示す写真である。
【図17】検出機構600による検出(光学検出)の一例を示す写真である。
【図18】検出機構600による検出(光学検出)の一例を示す写真である。
【図19】検出機構600による検出(脂質膜の電気応答の検出)の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0128】
100 細胞計測装置
200 マイクロ流体チップ
300−1〜2 導入機構
400 破砕機構
450 電気的破砕機構
23 流路
52 電界形成用電極
53 電界印加装置
55 構造体
55a 尖部
C 細胞
C1 内包物
500 有機相除去機構
600 検出機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非混合性の2相液滴を流路内に交互に生成し、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成するマイクロ流体チップであって、
前記脂質二分子膜間に計測対象が導入されることを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記流路上に配置された破砕機構により前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕することを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記破砕機構は、
前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項5】
請求項3または4に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記破砕機構は、
前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記リン脂質膜および前記脂質二分子膜を構成するリン脂質分子は、機能性分子を含むことを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項7】
リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、
前記マイクロ流体チップの前記流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、前記水相と前記有機相との間に、少なくとも前記リン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に前記水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、
前記流路内における前記計測対象の反応を検出する検出機構と、
を備え、
前記マイクロ流体チップの前記流路において、当該2相液滴の表面に生成された前記リン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成し、前記検出機構により、前記流路内の前記脂質二分子膜間の前記計測対象の反応を検出する、
ことを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の細胞計測装置において、
前記有機相を前記マイクロ流体チップの前記流路内から除去する有機相除去機構、
を更に備え、
前記2相液滴の周辺の前記有機相を当該有機相除去機構により前記流路内から除去することにより、近接する前記2相液滴の前記単分子構造の前記リン脂質膜同士を接触させて前記脂質二分子膜を生成し、生成された当該脂質二分子膜で前記2相液滴を並列化することを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の細胞計測装置において、
前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項10】
請求項7〜9のうちいずれか1つに記載の細胞計測装置において、
前記細胞計測装置は、
前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕する破砕機構、
を更に備えたことを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の細胞計測装置において、
前記破砕機構は、
前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の細胞計測装置おいて、
前記破砕機構は、
前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項13】
請求項7〜12のうちいずれか1つに記載の細胞計測装置において、
前記リン脂質分子は、機能性分子を含むことを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項1】
非混合性の2相液滴を流路内に交互に生成し、当該2相液滴の表面に生成されたリン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成するマイクロ流体チップであって、
前記脂質二分子膜間に計測対象が導入されることを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記流路上に配置された破砕機構により前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕することを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記破砕機構は、
前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項5】
請求項3または4に記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記破砕機構は、
前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1つに記載のマイクロ流体チップにおいて、
前記リン脂質膜および前記脂質二分子膜を構成するリン脂質分子は、機能性分子を含むことを特徴とする、マイクロ流体チップ。
【請求項7】
リン脂質分子を含む有機相が流路内を流れるマイクロ流体チップと、
前記マイクロ流体チップの前記流路内へ、計測対象を含む水相を交互に導入することにより、前記水相と前記有機相との間に、少なくとも前記リン脂質分子から構成される単分子構造のリン脂質膜を生成し、当該リン脂質膜内に前記水相を包んだ状態の非混合性の2相液滴を交互に生成する導入機構と、
前記流路内における前記計測対象の反応を検出する検出機構と、
を備え、
前記マイクロ流体チップの前記流路において、当該2相液滴の表面に生成された前記リン脂質膜を前記流路内で接触させて脂質二分子膜を前記流路内に並列生成し、前記検出機構により、前記流路内の前記脂質二分子膜間の前記計測対象の反応を検出する、
ことを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項8】
請求項7に記載の細胞計測装置において、
前記有機相を前記マイクロ流体チップの前記流路内から除去する有機相除去機構、
を更に備え、
前記2相液滴の周辺の前記有機相を当該有機相除去機構により前記流路内から除去することにより、近接する前記2相液滴の前記単分子構造の前記リン脂質膜同士を接触させて前記脂質二分子膜を生成し、生成された当該脂質二分子膜で前記2相液滴を並列化することを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載の細胞計測装置において、
前記脂質二分子膜間に前記計測対象である細胞を少なくとも1つ含むことを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項10】
請求項7〜9のうちいずれか1つに記載の細胞計測装置において、
前記細胞計測装置は、
前記計測対象の少なくとも膜構造を破砕する破砕機構、
を更に備えたことを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項11】
請求項10に記載の細胞計測装置において、
前記破砕機構は、
前記流路上に配置された電極から印加された電圧により、前記計測対象の少なくとも前記膜構造を破砕する電気的破砕機構であることを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項12】
請求項10または11に記載の細胞計測装置おいて、
前記破砕機構は、
前記2相液滴を前記接触させる前に配置されていることを特徴とする、細胞計測装置。
【請求項13】
請求項7〜12のうちいずれか1つに記載の細胞計測装置において、
前記リン脂質分子は、機能性分子を含むことを特徴とする、細胞計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図18】
【図19】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図18】
【図19】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2010−81838(P2010−81838A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253228(P2008−253228)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、「産学共同シーズイノベーション化事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、「産学共同シーズイノベーション化事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
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