説明

マイクロ流路デバイス

【課題】異なる2以上の流体を接触させる界面を効率よく形成することができるマイクロ流路デバイスを提供すること。
【解決手段】異なる2以上の流体を多相流として形成する微小流路を有し、前記多相流の断面形状が、(1)複数の多角形が2次元状に配列されかつ前記多角形が相互に隣接した形状、(2)多角形が円若しくは楕円に内接するか若しくは多角形が円若しくは楕円に外接する形状、又は、(3)複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状、を少なくとも一部に有することを特徴とするマイクロ流路デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に「微細加工を利用して作られ、等価直径が500μm以下の微小な流路で反応を行う装置」と定義されているマイクロリアクタに代表される微小な素子や装置は、例えば、物質の分析、合成、抽出、分離を行う技術に応用した場合、少量多品種、高効率、低環境負荷などの多くの利点が得られるため、近年、様々な分野への応用が期待されている。
マイクロリアクタは流路が狭いため、一般に側壁の影響を受けやすく、流速の低下が起こりやすい。また、反応物の製造量を稼ぐ方法としては、反応装置の数を増やす、ナンバリングアップがあるが、ナンバリングアップでは故障の生じやすい細い流路の本数自身が増えるため、リアクターの故障が起こる確率が増加してしまう。
一方、細い流路での故障を防ぐために、反応生成物の流壁への付着を防止する方法としては、例えば、特許文献1に記載の方法が挙げられる。
【0003】
【特許文献1】特開2004−344877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、効率よく異なる2以上の流体を接触させる反応界面を効率よく形成することができるマイクロ流路デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の上記課題は、手段<1>によって解決された。好ましい実施態様である<2>〜<6>と共に以下に示す。
<1> 異なる2以上の流体を多相流として形成する微小流路を有し、前記多相流の断面形状が、(1)複数の多角形が2次元状に配列されかつ前記多角形が相互に隣接した形状、(2)多角形が円若しくは楕円に内接するか若しくは多角形が円若しくは楕円に外接する形状、又は、(3)複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状、を少なくとも一部に有することを特徴とするマイクロ流路デバイス、
<2> 前記多角形が三角形、四角形、又は六角形である上記<1>に記載のマイクロ流路デバイス、
<3> 前記多角形が三角形であり、3種類又は6種類の流体を接触させる上記<2>に記載のマイクロ流路デバイス、
<4> 前記多角形が四角形であり、2種類又は4種類の流体を接触させる上記<2>に記載のマイクロ流路デバイス、
<5> 前記多角形が六角形であり、3種類の流体を接触させる上記<2>に記載のマイクロ流路デバイス、
<6> フラクタル構造により異なる2以上の流体を分岐する流路分岐構造を有する上記<1>〜<5>のいずれか1つに記載のマイクロ流路デバイス、
<7> 多相流と微小流路の内壁との間に少なくとも流速調整層を有する上記<1>〜<6>のいずれか1つに記載のマイクロ流路デバイス。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、異なる2以上の流体を接触させる界面を効率よく形成することができるマイクロ流路デバイスを提供することができた。また、反応部を1本の円筒形状にすることで故障発生箇所を、流路の分岐・合流部分に集約する事で、故障しにくいナンバリングアップの手法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面等を参照し、本発明を詳細に説明する。
【0008】
(マイクロ流路デバイス)
本発明のマイクロ流路デバイスは、異なる2以上の流体を多相流として形成する微小流路を有し、前記多相流の断面形状が、(1)複数の多角形が2次元状に配列されかつ前記多角形が相互に隣接した形状、(2)多角形が円若しくは楕円に内接するか若しくは多角形が円若しくは楕円に外接する形状、又は、(3)複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状、を少なくとも一部に有することを特徴とする。
本発明において、「多相流」とは、異なる2以上の流体が層流状態でありかつ互いに隣接している流れのことであり、「多層流」とも言う。また、多相流における流体は、流すことが可能であるものであれば特に制限はなく、例えば、異なる2以上の流体のその全てが液体であってもよく、一部の流体が気体であってもよく、液体中に気体や固体を含むものであってもよい。
前記多相流の断面形状とは、微小流路(「マイクロ流路」ともいう。)の流れ方向に対し垂直な面での断面形状である。また、前記多相流の断面形状は、多相流が形成された直後の断面形状であり、その後、異なる2以上の流体の混合や反応等により多相流を形成しなくなってもよいことは言うまでもない。
従来のマイクロ流路デバイスにより形成される多相流の断面形状としては、例えば、図1に示すような正四角形2つが1辺にて接する形状や、特開2004−344877号公報に記載の同心円等の形状が知られている。
一方、本発明のマイクロ流路デバイスは、形成する多相流の断面形状が、(1)複数の多角形が2次元状に配列されかつ前記多角形が相互に隣接した形状、(2)多角形が円若しくは楕円に内接するか若しくは多角形が円若しくは楕円に外接する形状、又は、(3)複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状、を少なくとも一部に有するため、効率よく異なる流体を接触させることができ、また、流体同士が接触するより多くの界面を、側壁の影響を受けない多相流内部に形成することができるため好ましい。
【0009】
本発明における「複数の多角形が2次元状に配列されかつ前記多角形が相互に隣接した形状」とは、複数の多角形が2次元的に配列しており、前記多角形同士が一辺において隣接した形状を示し、具体的には、後出詳述する図2〜図10に示すような形状である。
なお、「複数の多角形が2次元状に配列されかつ前記多角形が相互に隣接した形状」を、以下単に「多角形配列形状」ともいう。
【0010】
前記多角形配列形状における多角形は、三角形以上の多角形であればよく、混合する流体の種類の数や混合比等に応じて所望の多角形を選択すればよいが、構造の簡潔さや製造上の効率の観点から三角形、四角形又は六角形であることが好ましい。
また、前記断面形状における多角形は、多くの多角形を用いた多角形配列形状の形成が容易な点から、正多角形であることが好ましく、正三角形、正四角形又は正六角形であることがより好ましく、全ての多角形が正三角形、正四角形又は正六角形であることが特に好ましい。特に、混合する流体が2種類であるならば前記断面形状における多角形は四角形であることが望ましく、混合する流体が3種類であるならば前記断面形状における多角形は六角形であることが望ましい。
また、一つの多角形配列形状は、複数の形状の多角形により構成されていてもよく、単一の形状の多角形で構成されていてもよい。
前記断面形状における多角形の一辺の長さは、一つの多角形において全て同じであっても、異なっていてもよく、複数の多角形間において同じであっても、異なっていてもよい。さらに、2つの多角形の隣接した2辺の長さは同じであっても、異なっていてもよい。
【0011】
前記多角形配列形状が配列している多角形の数は、3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、10〜1,000個であることが更に好ましい。上記範囲であると、本発明の効果を十分に発揮できる。
また、前記多角形配列形状中に1つの多角形の外周全てが他の多角形により囲まれている形状を有すると、異種の流体が接触する界面を効率的に増加させることができるため好ましい。
また、前記多角形配列形状は、省スペースや異種の流体が接触する界面の増加等の観点から、多角形配列形状の外周の長さが最短となるように複数の多角形を配列した形状であることが好ましい。
【0012】
前記多角形配列形状として具体的には、図2〜図10に示すような形状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
図2は、本発明のマイクロ流路デバイスの一例を多相流が形成された部分で切断した断面概略図である。
図3〜図10はそれぞれ、本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
図2に示すマイクロ流路デバイス10は、断面形状が多角形配列形状12にある多相流がマイクロ流路の内壁14に接して形成されており、また、マイクロ流路は基材部16により形成されている。
また、図2に示すマイクロ流路デバイス10における多角形配列形状12は、断面形状が四角形を縦横に10×10個配列した形状であり、2つの異なる流体A及びBを流した場合を示すものである。このような多相流断面を形成するマイクロ流路デバイスであると、2つの異なる流体は均一に界面を形成することができる。
また、図3に示す多相流の断面形状は、四角形を縦横に5×5個配列した形状であり、2つの異なる流体A及びBを流した場合の一例を示すものであり、流体Aの流れる四角形は13個、流体Bの流れる四角形は12個である。このような多相流断面を形成するマイクロ流路デバイスのように、種類の異なる2以上の流体が、均等な割合で流れるものでなくともよく、流体の種類や混合比等に応じ、適宜選択すればよい。
前記多角形配列形状の多角形が、四角形、特に正四角形(正方形)である場合、種類の異なる2つの流体、又は、種類の異なる4つの流体を用いることが好ましい。上記条件であると、種類の異なる各流体が均一に界面を形成することが容易であるため好ましい。
【0013】
図4に示す多相流の断面形状は、六角形を縦横に17個配列した形状であり、3つの異なる流体A〜Cを流した場合の一例を示すものである。
前記多角形配列形状の多角形が、六角形、特に正六角形である場合、種類の異なる3つの流体を用いることが好ましい。上記条件であると、接触する3つの六角形により3つの流体が均等に接触する点を容易に形成することができるため好ましい。
【0014】
図5に示す多相流の断面形状は、三角形を縦横に16個配列した形状であり、2つの異なる流体A及びBを流した場合の一例を示すものである。このような多相流断面を形成するマイクロ流路デバイスであると、2つの異なる流体は均一に界面を形成することができる。
図6に示す多相流の断面形状は、三角形を縦横に24個配列した形状であり、3つの異なる流体A〜Cを流した場合の一例を示すものである。このような多相流断面を形成するマイクロ流路デバイスであると、接触する6つの三角形により3つの流体が均等に接触する点を容易に形成することができるため好ましい。
図7に示す多相流の断面形状は、三角形を縦横に6個配列した形状であり、6つの異なる流体A〜Fを流した場合の一例を示すものである。このような多相流断面を形成するマイクロ流路デバイスであると、接触する6つの三角形により6つの流体が均等に接触する点を容易に形成することができるため好ましい。
前記多角形配列形状の多角形が、三角形、特に正三角形である場合、種類の異なる2つの流体、種類の異なる3つの流体、又は、種類の異なる6つの流体を用いることが好ましい。上記条件であると、種類の異なる各流体が均一に界面を形成することが容易であるため好ましい。
【0015】
図8に示す多相流の断面形状は、十字型の十二角形を縦横に9個配列し、4つの十二角形で囲まれた四角形を4個有する形状であり、3つの異なる流体A〜Cを流した場合の一例を示すものである。
図9に示す多相流の断面形状は、八角形を縦横に13個配列し、3つ又は4つの八角形が少なくとも隣接した四角形を12個有する形状であり、3つの異なる流体A〜Cを流した場合の一例を示すものである。
図10に示す多相流の断面形状は、八角形を縦横に16個配列し、4つの八角形で囲まれた四角形を9個有する形状であり、3つの異なる流体A〜Cを流した場合の一例を示すものである。
このように、本発明における多相流の断面形状は、2種以上の多角形を2次元状に配列した形状であってもよい。
【0016】
本発明における「多角形が円若しくは楕円に内接するか若しくは多角形が円若しくは楕円に外接する形状」とは、円若しくは楕円形の内部の多角形における全ての頂点が前記円若しくは楕円形に接している形状、又は、多角形の全ての辺に円若しくは楕円形が接している形状を示す。
なお、「多角形が円若しくは楕円に内接するか若しくは多角形が円若しくは楕円に外接する形状」を、以下単に「円内外接形状」ともいう。
【0017】
前記円内外接形状として具体的には、図11及び図12に示すような形状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
図11及び図12はそれぞれ、本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
図11に示す多相流の断面形状は、楕円形に四角形が内接した形状であり、2つの異なる流体A及びBを流した場合の一例を示すものである。また、多相流の断面形状が図11に示すような形状であると、内接四角形の各辺と円弧に囲まれた4つの部分に、それぞれ異なる4つの流体を流すことや、内接四角形の対向する二辺と円弧に囲まれた2つの部分の2組にそれぞれ異なる2つの流体を流すことも可能である。
図12に示す多相流の断面形状は、楕円形に四角形が外接した形状であり、2つの異なる流体A及びBを流した場合の一例を示すものである。また、多相流の断面形状が図12に示すような形状であると、外接四角形の各辺と円弧に囲まれた4つの部分に、それぞれ異なる4つの流体を流すことや、前記4つの部分のうち、一つの対角線上に存在する2つの部分の2組にそれぞれ異なる2つの流体を流すことも可能である。
前記円内外接形状における多角形は、三角形以上の多角形であればよく、混合する流体の種類の数や混合比等に応じて所望の多角形を選択すればよいが、構造の簡潔さや製造上の効率の観点から三角形、四角形又は六角形であることが好ましい。
【0018】
本発明における「複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状」とは、複数の円及び/若しくは楕円が2次元的に配列しており、前記円及び/若しくは楕円同士が円弧において隣接した形状を示し、具体的には、後出詳述する図13又は図14に示すような形状である。
なお、「複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状」を、以下単に「円配列形状」ともいう。
【0019】
前記円配列形状として具体的には、図13又は図14に示すような形状が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
図13及び図14はそれぞれ、本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
図13に示す多相流の断面形状は、17個の円が縦横に隣接するように配列した形状であり、3つの異なる流体A〜Cを流した場合の一例を示すものであり、流体Aの流れる円は5個、流体Bの流れる円は7個、流体Cの流れる円は5個である。また、3つの円に囲まれる部分は基材部である。このような多相流断面を形成するマイクロ流路デバイスのように、種類の異なる3以上の流体が同時に接することなく、2種が接する界面により、均等に混合等を行うことができる。
図14に示す多相流の断面形状は、17個の円が縦横に隣接するように配列し、3つの円に囲まれた20個の部分を有する形状であり、4つの異なる流体A〜Dを流した場合の一例を示すものであり、流体Aの流れる円は5個、流体Bの流れる円は7個、流体Cの流れる円は5個、流体Dの流れる3つの円弧よりなる部分は20個である。このような多相流断面を形成するマイクロ流路デバイスのように、多くの界面を形成でき、かつ均等に混合等を行うことができる。
図13及び図14に示すように、複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状により生じる複数の円弧により囲まれる部分は、所望の用途に応じ、基材部としても、流路の一部としてもよい。
【0020】
また、図15に示すような、円及び/又は楕円と複数の種類の多角形とを互いに接触するように配列して使用した断面形状であってもよい。
図15は、本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
図15に示す多相流の断面形状は、9個の六角形、6個の長方形、及び、4個の楕円を配列した形状であり、楕円それぞれが4個の六角形及び2個の長方形によって形成された六角形に内接した形状であり、3つの異なる流体A〜Cを六角形、長方形及び楕円にそれぞれ流した場合の一例を示すものである。また、図15に示すような多相流の断面形状は、多角形配列形状、及び、円内外接形状の両方を満たす形状である。
【0021】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、多相流の断面形状中の一部分が(1)多角形配列形状、(2)円内外接形状、又は、(3)円配列形状であればよく、例えば、多相流の断面形状の中心部分のみが多角形配列形状である態様や、多相流全体の断面形状が多角形配列形状である態様、多相流の断面形状の中心部分のみが円内外接形状である態様、多相流全体の断面形状が円内外接形状である態様、多相流の断面形状の中心部分のみが円配列形状である態様や、多相流全体の断面形状が円配列形状である態様であってもよい。また、円又は楕円に内外接する多角形が、前記多角形配列形状であってもよく、前記円配列形状がさらに円、楕円又は多角形に内外接していてもよいことは言うまでもない。
【0022】
本発明のマイクロ流路デバイスが有する多相流を形成する構造(以下、「多相流形成構造」ともいう。)の一例としては、図16に示す構造が挙げられる。
図16は、本発明のマイクロ流路デバイスの一例における多相流形成構造を示す拡大概略図である。
図16に示すマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状は、四角形を縦横に2×2個配列した形状であり、2つの異なる流体A及びBを流した場合を示すものである。
図16における右側の図は、多相流形成構造部分の模式断面図であり、流体A及びBの流路を示す実線は紙面手前、波線は紙面奥を示す。
図16における左側の6図は、前記右側の図におけるa−a〜f−fでの流れ方向に垂直な面での各断面図を示す。
【0023】
図16におけるa−a断面図では、マイクロ流路基材部16により隔てられた2つの流路に流体A及び流体Bが流れている。以下、流体Aが流れる流路を流路Aともいい、流体Bが流れる流路を流路Bともいう。
a−a断面図とb−b断面図との間において、流路A及び流路Bの流路径が狭められ、断面が四角形の形状となり、流路Bはマイクロ流路デバイスの内部に、流路Aは流路Bよりも外側に移動し、図16におけるb−b断面図となる。
b−b断面図とc−c断面図との間において、流路Aは四角形の形状から、四角形型のドーナツ形状になり、流路Bはその内部に矩形状となり、図16におけるc−c断面図となる。
c−c断面図とd−d断面図との間において、流路A及び流路Bはそれぞれ2つの流路(流路A1、A2、B1及びB2)に分岐し、マイクロ流路デバイスの外形における四角形の対角線が通る2つの四角形の流路(流路A1及びA2)と他方の対角線が通る2つの四角形の流路(流路B1及びB2)を形成し、図16におけるd−d断面図となる。
d−d断面図とe−e断面図との間において、流路A1及びA2はマイクロ流路デバイスの内部に、流路B1及びB2はマイクロ流路デバイスの外部に移動し、また、各流路間のマイクロ流路基材の厚さが均等に調整され、図16におけるe−e断面図となる。
e−e断面図とf−f断面図との間において、流路A1、A2、B1及びB2の間における基材部16の厚さが薄くなり、多相流が形成可能な厚さ以下となる部分で各流路間の基材部16を無くし、図16におけるf−f断面図に示すような断面形状が四角形を縦横に2×2個配列した形状の多相流が形成される。このように、微小流路中の多相流の断面形状は、多相流形成構造部分における最下流側の形状(流体の出口側の形状、図16におけるf−f断面)と同一となる。
【0024】
前述した多相流が形成可能な厚さ、すなわち、多相流形成直前における各マイクロ流路を隔てる基材の厚さとしては、10〜1,000μmであることが好ましく、構造上、必要最低限の強度が保てれば、なるべく薄いことが好ましい。上記範囲であると、マイクロ流路デバイスにおける多相流形成構造である部分が十分な強度を有し、また、多相流形成時に流れの乱れなどが起こらないため好ましい。
【0025】
本発明のマイクロ流路デバイスは、流路分岐部を有することも好ましい。
前記流路分岐部とは、1以上のマイクロ流路を分岐し流路数を増加させる部位であり、前述した図16に示すように、マイクロ流路デバイス中に多相流形成構造の一部分として流路分岐構造が設けられていてもよい。前記流路分岐構造の一例としては、図16におけるa−a断面図〜d−d断面図に相当する部分が挙げられる。
前記流路分岐構造は、その少なくとも一部がフラクタル構造であることが好ましい。
フラクタル構造とは、自己相似な幾何構造が繰り返される構造をいう。例えば、1つの流路Aを2つの流路A1及びA2に分岐し、2つの流路それぞれをさらに2つの流路に分岐した、すなわち、流路A1を2つの流路A11及びA12に分岐し、流路A2を2つの流路A21及びA22に分岐した場合に、流路Aを流路A1及びA2に分岐した構造と、流路A1を流路A11及びA12に分岐した構造と、流路A2を流路A21及びA22に分岐した構造とが相似の構造であると、フラクタル構造であると言える。
【0026】
本発明のマイクロ流路デバイスにおける多相流は、断面形状が前記多角形配列形状や前記楕円内外接形状である多相流とマイクロ流路の内壁との間に流速調整層を有することが好ましい。
図17は、本発明のマイクロ流路デバイスが形成する流速調整層を有する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
図18は、流速調整層のない多相流を形成した本発明のマイクロ流路デバイスの一例と、流速調整層を有する多相流を形成した本発明のマイクロ流路デバイスの一例とを比較した模式図である。
図18中、右側にはそれぞれのマイクロ流路における流速及び流路座標をそれぞれ縦軸及び横軸にとり、模式的にグラフ化したものである。
一般にマイクロ流路においては、内壁の影響を受け、内壁近傍の流速が低下してしまう。図17及び図18に示すように、この内壁近傍における流速の低下を、流速調整層18を形成することにより緩和し、所望の反応や混合等を行う多角形配列形状12や前記楕円内外接形状である多相流部分の流速の低下を防ぐことができるため好ましい。
【0027】
流速調整層の断面形状については、特に制限はなく、所望の形状であればよい。
流速調整層の厚さとしては、多角形配列形状12や前記円内外接形状、前記円配列形状である多相流部分の流路の幅と同等もしくはそれ以上であることが好適であり、マイクロ流路内壁から20〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。この範囲内において、流速調整層の厚さを大きくすることで、マイクロ流路の内壁による流速の低下をより抑制することができる。
【0028】
流速調整層に流す流体としては、使用する他の流体と反応しない流体であれば特に制限はなく、使用する他の流体と同じ程度の粘度が望ましい。例えば、水系の反応であればイオン交換水やエタノールが、生体系の反応であれば生理食塩水等が好ましく例示できる。
【0029】
本発明のマイクロ流路デバイスに流すことができる流体は、完全な液体でなくともよく、使用用途に応じ、固体や気体を含むものであってもよく、その組成や濃度等も必要に応じ選択することができる。
【0030】
本発明のマイクロ流路デバイスの材質としては、金属、セラミック、ガラス、シリコーン、樹脂などの材料が例示でき、金属又は樹脂が好ましく挙げられ、金属ニッケルの表面に金メッキを施した部材が特に好ましく挙げられる。
前記樹脂としては、耐衝撃性、耐熱性、耐薬品性、透明性などが、行う反応や単位操作に適した樹脂が好ましく、具体的には、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂、スチレン・アクリル共重合体、ポリシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ジエン系樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、クマリン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体等が好ましく例示できるが、より好ましくは、ポリメチルメタクリレート樹脂などのポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂である。また、前記樹脂としては、ガラス転移点を有する樹脂であることが好ましく、前記樹脂のガラス転移点は、90〜150℃の範囲であることが好ましく、100〜140℃の範囲であることがより好ましい。
【0031】
本発明のマイクロ流路デバイスにおけるマイクロ流路は、その一部において少なくともマイクロスケールの流路であればよい。すなわち、本発明のマイクロ流路デバイスにおいて最も流路の幅(流路径)が狭い部分の幅が、5,000μm以下であり、好ましくは10〜1,000μmの範囲であり、より好ましくは30〜500μmの範囲である。また、流路の深さは、10〜500μmの範囲であることが好ましい。
本発明のマイクロ流路デバイスにおいて、断面形状が(1)多角形配列形状、(2)円内外接形状、又は、(3)円配列形状を少なくとも一部に有する多相流が流れる部分のマイクロ流路の流路径としては、20〜500μmであることが好ましく、50〜200μmであることがより好ましい。
さらに、流路の長さは、形成される流路の形状にもより、また、可能であれば短いほど好ましいが、実用的な範囲では100〜1,000μmの範囲であることが好ましい。
また、マイクロ流路の形状については特に制限はなく、例えば、流れ方向に対し垂直な方向での断面形状が円形、楕円形、多角形など所望の形状とすることができる。
【0032】
マイクロ流路デバイスの大きさは、使用目的に応じ適宜設定することができるが、1〜100cm2の範囲が好ましく、10〜40cm2の範囲がより好ましい。またマイクロ流路デバイスの厚さは、2〜30mmの範囲が好ましく、3〜15mmの範囲がより好ましい。
【0033】
本発明のマイクロ流路デバイスは、その用途に応じて、上述した異なる2以上の流体を多相流として形成する微小流路以外にも、他の微小流路や、反応、混合、分離、精製、分析、洗浄等の機能を有する部位を有していてもよい。
また、本発明のマイクロ流路デバイスには、必要に応じて、例えば、マイクロ流路デバイスに流体を送液するための送液口や、マイクロ流路デバイスから流体を回収するための回収口などを設けてもよい。
【0034】
また、本発明のマイクロ流路デバイスは、その用途に応じて、複数を組み合わせたり、反応、混合、分離、精製、分析、洗浄等の機能を有する装置や、送液装置、回収装置、他のマイクロ流路デバイス等を組み合わせ、マイクロ化学システムを好適に構築することができる。
【0035】
本発明のマイクロ流路デバイスの製造方法は、特に制限されないが、特開平10−305488号公報や特開2000−238000号公報、特開2004−223637号公報等に記載の方法が好ましく挙げられる。具体的には、基板上に所定の2次元パターンを有する複数の薄膜を形成する第1の工程と、前記複数の薄膜を前記基板上から剥離し、ステージ上に前記複数の薄膜を積層して接合させて微小構造体を形成する第2の工程を含むことを特徴とする本発明のマイクロ流路デバイスの製造方法や、所定の2次元パターンを有する複数の薄膜が形成されたパターン基板と前記パターン基板に対向配置される対向基板との位置決め・圧接・離間を繰り返して前記対向基板上に前記複数の薄膜を積層して接合された微小構造体を製造する微小構造体の製造方法において、前記位置決めは、前記パターン基板と前記対向基板との相対的位置を検出し、前記相対的位置に基づいて行うことを特徴とする本発明のマイクロ流路デバイスの製造方法等が好ましく例示できる。
【0036】
以下、本発明のマイクロ流路デバイスを使用した好ましい一実施態様として、顔料合成について説明する。なお、以下に記載の「部」は「重量部」を意味する。
【0037】
<顔料合成(アシッドペースティング)>
図19は、本発明のマイクロ流路デバイスを用いたアシッドペースティング処理方法に好適に使用することができる処理装置の一例を示す概略構成図である。
【0038】
図19に示したアシッドペースティング処理装置は、水又はアルカリ性溶液を含む流体A(第1の流体)を通す第1の流路L1と、電荷発生材料用顔料及びその顔料を溶解する酸を含む流体B(第2の流体)を通す流路L2と、流路L1、L2それぞれの終端部に連結されており、流体Aと流体Bとを合流させて層流を生じさせるマイクロ流路デバイス10と、流路L3と、を備える。流路L1の上流側端部には流体Aが収容されたマイクロシリンジ20aが、流路L2の上流側端部には流体Bが収容されたマイクロシリンジ20bがそれぞれ連結されている。
流体Aは、前述の通り水又はアルカリ性溶液を含む溶液であり、好ましくは濃アルカリ性溶液を含む溶液である。流体A中に含まれる水としては、イオン交換水、純水、又は蒸留水等の精製した水が好ましい。また、アルカリ性溶液としては、アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等が挙げられ、これらの中でもアンモニア水が好ましい。
第1の流体Aには、有機溶剤を混合することもできる。有機溶剤を混合することによって、結晶型の制御や顔料の品質のコントロールがより容易となる。有機溶剤としては、公知のものが使用できる。
【0039】
また、第2の流体Bは電荷発生材料用顔料及び該顔料を溶解する酸を含む。
電荷発生材料用顔料としては、多環キノン顔料、ぺリレン系顔料、アゾ系顔料、インジゴ顔料、キナクリドン顔料、フタロシアニン顔料等の公知の有機系顔料が挙げられる。
フタロシアニン顔料としては、特に限定されないが、例えば、無金属フタロシアニン顔料、チタニルフタロシアニン顔料、銅フタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料、バナジルフタロシアニン顔料、クロロインジウムフタロシアニン顔料、ジクロロスズフタロシアニン顔料が挙げられる。
上記顔料の中でもフタロシアニン顔料は、レーザー・プリンターやフルカラー複写機等のデジタル記録用感光体の電荷発生材料として、感光波長領域が半導体レーザーの近赤外領域まで長波長化したものが既に実用化されている。
フタロシアニン顔料としては、特に限定されないが、例えば、無金属フタロシアニン顔料、チタニルフタロシアニン顔料、銅フタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料、バナジルフタロシアニン顔料、クロロインジウムフタロシアニン顔料、ジクロロスズフタロシアニン顔料が挙げられる。
上記フタロシアニン顔料のうち、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料(粗結晶)は、例えば、o−フタロジニトリル又は1,3−ジイミノイソインドリンと、三塩化ガリウムとを所定の溶媒中で反応させる方法(I型クロロガリウムフタロシアニン法);o−フタロジニトリル、アルコキシガリウム及びエチレングリコールを所定の溶媒中で加熱し反応させてフタロシアニン二量体(フタロシアニン・ダイマー)を合成する方法(フタロシアニン・ダイマー法)により製造することができる。
【0040】
上記の反応における溶媒としては、α−クロロナフタレン、β−クロロナフタレン、α−メチルナフタレン、メトキシナフタレン、ジメチルアミノエタノール、ジフェニルエタン、エチレングリコール、ジアルキルエーテル、キノリン、スルホラン、ジクロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホアミド等の不活性且つ高沸点の溶媒を用いることが好ましい。
また、酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、トリフルオロ酢酸等の公知の酸が挙げられるが、これらの中では、顔料を容易に溶解させることができる点で、硫酸が好ましく、95wt%以上の濃硫酸がより好ましい。
【0041】
第2の流体Bに含まれる顔料と酸との混合割合は、顔料1重量部に対して10〜1,000重量部が好ましく、15〜100重量部がより好ましい。顔料と酸との混合割合が上記範囲であると、顔料の溶解が充分であり、再結晶が容易である。また、顔料を酸に溶解する際の温度としては、100℃以下が好ましく、10〜80℃がより好ましい。また、第2の流体Bの液粘度は、250mPa・s以下であることが好ましい。
【0042】
アシッドペースティング処理装置に好適に用いることができる図19に示した本発明のマイクロ流路デバイス10を形成するためには、特開2004−223637号公報に記載の技術を使うことが好ましい。この技術で必要な断面パターン(ドナー基板)作製方法としては、例えば、X線を用いたLIGA技術を用いる方法、フォトリソグラフィー法によりレジスト部を構造体として使用する方法、レジスト開口部をエッチング処理する方法、マイクロ放電加工法、レーザー加工法、ダイアモンドのような硬い材料で作られたマイクロ工具を用いる機械的マイクロ切削加工法がある。これらの技術は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明のマイクロ流路デバイスの製造に使用するドナー基板の作製方法としては、図20に示すAu表面コートNi電鋳法による方法が好適に例示できる。
図20は、Au表面コートNi電鋳法によるパターン層のドナー基板上への製造工程の一例を示す断面図及び断面拡大図である。
まず、図20(A)に示すようにステンレス基板を準備し、洗浄する。次に、図20(B)に示すようにステンレス基板上に30μmのネガフィルムレジストを形成する。図20(C)に示すように前記レジストに対し、露光、現像を行い、ステンレス基板上に所望のパターン層形状の反転パターンを形成し、図20(D)に示すようにステンレスが露出している部分に2μmだけAuメッキを成長させ、さらに図20(E)に示すように22μmのNiメッキをAuメッキ上に成長させる。続いて、図20(F)に示すように前記レジストを表面から29μmアッシングにより除去し、図20(G)に示すようにNi及びAuメッキ表面に1μmだけさらにAuメッキを成長させる。最後に図20(H)に示すように残りのレジストを除去し、合計25μmの膜厚で、表面にはAuメッキがコートされているNi電鋳膜(パターン層)が得られる。なお、図20(I)は、図20(H)におけるNi電鋳膜の部分を拡大した図である。また、レジストを完全に除去せず、図20(G)の状態で用いてもよい。
このような図20に示す方法であると、Niパターンの全面にAuがコートされ、耐食性に優れた構造体を安価に得ることができるため好ましい。
【0044】
前記の方法により例えば、図21に示すようなドナー基板を作製することができる。
図21は、パターン層を有するドナー基板の一例を示す概略図である。
図21に示すドナー基板200には、第1のパターン層204a〜第5のパターン層204eが形成され、接合の際に位置あわせに使用するアライメントマーク202が設けられている。
【0045】
次に、ドナー基板、ターゲット基板及びステージ全体を真空槽中に設け、真空槽を10-5Paの真空にする。Ar中性ビームからなるFAB(Fast Atom Bombardment)をFAB源からドナー基板及びターゲット基板に照射し、表面を清浄化して活性化する。
図22は、パターン層の接合工程(転写工程)を示す模式図である。
図22の(A)に示すように、ターゲット基板306と第1のパターン層308aとを位置合わせしながら、ターゲット基板306を垂直方向に下降させ、第1のパターン層308aとターゲット基板306とを接触させ、さらに加重50kgf/cm2で5分間押し付けてターゲット基板306と第1のパターン層308aを接合する。このとき、接合強度は5〜10MPaである。
ターゲット基板306を垂直方向に上昇させると、図22(B)に示すように、ターゲット基板306上に第1のパターン層308aが転写される。このようにパターン層308aがドナー基板300からターゲット基板306側に転写できるのは、パターン層308aとドナー基板300間の接着力よりもパターン層308aとターゲット基板306間の接着力の方が大きいからである。次に、第1及び第2のパターン層308a、308bにFABを照射するため、平面ステージを移動させる。第1のパターン層308aの裏面(ドナー基板300に接触していた面)にFABを照射し、第2のパターン層308bの表面にFABを照射する。第1のパターン層308aと第2のパターン層308bとを接合する。
これら操作を、所望の回数繰り返して行い、転写が終了すると、マイクロ流路デバイスが得られる。
また、ターゲット基板を一旦対向ステージから剥離させ、これの上下を逆にして再び対向ステージに固定し、続いて、同様のパターン層の接合操作を行ってもよい。
また、既存の機械加工により得られた円形や矩形等のパイプを所望の長さに切断し、前記パターン層に接合し、マイクロ流路デバイスを形成してもよい。
【0046】
前記アシッドペースティング処理方法に好適に用いることができる本発明のマイクロ流路デバイスの一例としては、以下のものが挙げられる。
図23は、本発明のマイクロ流路デバイスの一例を示す概略斜視図である。
図23に示すマイクロ流路デバイス10の外形は、20mm×20mm×250mmの直方体であり、20mm×20mmの面の一方には2つの流路連結部34a及び34bが設けられており、20mm×20mmの面の他方には1つの流路連結部が設けられている(不図示)。
図23に示すマイクロ流路デバイス10の内部構造は、2つの流路連結部34a及び34bにつながる2つの流路が、それぞれ200の流路に交互になるよう分岐し、断面形状が正方形を20×20に配列した形状である多相流を形成する構造となっている。
また、図24〜29は、それぞれ図22に示すマイクロ流路デバイスにおけるa−a〜f〜f断面図である。
2つの流路連結部34a及び34bにつながる2つの流路が、それぞれ2つの流路に分岐し計4つの流路(図24:a−a断面図)となり、さらに計8つの流路(図25:b−b断面図)、計16の流路(図26:c−c断面図)へと分岐し、更にそれぞれ対をなしている2つの流路が図27に示すd−d断面図の形状を経由し、計400の流路となっている(図28:e−e断面図)。用いたマイクロ流路デバイス10では、層流形成近傍の流路の大きさを400μm×400μmの正方形とし、各流路間の間隔(基材部の幅)を50μmとした。20×20の計400の流路は1つの流路へと流出し、図29に示すf−f断面図以降の下流部分は、正方形を縦20個、横20個の400個配列した多相流を形成することができる1つの流路である(図29:f−f断面図)。
【0047】
また、マイクロ流路デバイス10には、ヒーター22が設置されており、温度度制御装置24により、その温度は調節されている。また、ヒーター22としては、金属抵抗やポリシリコン等が用いられ、ヒーター22をマイクロリアクタ内に作りこんでもよい。また、温度制御のために、マイクロリアクタ全体を温度制御された容器中にいれてもよい。
【0048】
(I型ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料の粗結晶の作製)
3−ジイミノイソインドリン30部及び三塩化ガリウム9.1部をジメチルスルホキシド230部中にて、160℃で6時間撹拌しながら反応させ、赤紫色結晶を得た。次いで、ジメチルスルホキシドにより洗浄した後、イオン交換水で洗浄後乾燥して、I型クロロガリウムフタロシアニン顔料の粗結晶28部を得た。
【0049】
(アシッドペースティング処理)
25%アンモニア水600部、及び、イオン交換水200部を混合し、溶液Aを得た。
I型クロロガリウムフタロシアニン顔料粗結晶10部、及び、濃度97%の濃硫酸50部を混合し、溶液の温度50℃に保持して前記粗結晶を溶解し、溶液Bを得た。
【0050】
図19に示す処理装置を使用して、得られた溶液A及び溶液Bを、ポンプP1、P2を備えたマイクロシリンジ20a、20bにそれぞれセットし、フィルターF1、F2を通して、一定流量でマイクロ流路デバイス10に送液した。温度制御装置24で10℃に設定されたマイクロ流路デバイス10において顔料のアシッドペースティング処理を行い、再結晶化し析出したI型ヒドロキシガリウムフタロシアニンを含む混合液28を回収した。なお、流量(送液速度)を、分岐前の流路一本辺り0.05cc/hr程度となるような流量とした。
得られた混合液28をろ過し、さらにN,N−ジメチルホルムアミド及びイオン交換水で洗浄後乾燥して、アシッドペースティング処理物であるI型ヒドロキシガリウムフタロシアニン8部を得た。
得られた顔料は、平均粒径の均一なものがえられることが、BET比表面積のばらつきを測定した結果から分かった。
また、この装置では従来のマイクロリアクタの400倍の収量を一度に得ることができ、ナンバリングアップによる故障発生箇所の増加も防ぐことができる。
【0051】
次に、本発明のマイクロ流路デバイスを使用した好ましい他の一実施態様として、粒子の洗浄について説明する。
【0052】
<粒子の洗浄>
(樹脂粒子分散液の作製)
樹脂溶液を以下の配合で調製した。
−油相1の調製−
・ポリエステル樹脂(重量平均分子量:9,000) 120部
・酢酸エチル 60部
上記成分をホモミキサー(エースホモジナイザー、日本精機社製)に投入し、毎分15,000回転で2分間撹拌し、均一な溶液とし、油相1を調製した。
−水相1の調製−
・炭酸カルシウム(体積平均粒径:0.03μm) 60部
・純水 40部
上記成分を混合し、ボールミルで4日間撹拌し、水相1を調製した。
−水相2の調製−
・カルボキシメチルセルロース(粘度:500〜800パスカル秒) 2部
・純水 98部
上記成分を混合し、水相2を調製した。
【0053】
−樹脂粒子分散液の作製−
以上のように作製した油相1、水相1、及び、水相2を以下の割合で混合・乳化し、樹脂粒子分散液を作製した。
・油相1 60部
・水相1 10部
・水相2 30部
【0054】
(マイクロ流路デバイスを用いた粒子の洗浄)
図30に示す処理装置を使用して、前記樹脂粒子分散液を純水を用いて固形分濃度を20vol%に調製した分散液及び洗浄用のイオン交換水を、ポンプP1、P2を備えたマイクロシリンジ20a、20bにそれぞれセットし、一定流量で連結した2つのマイクロ流路デバイス10に送液した。2つのマイクロ流路デバイス10は、前記アシッドペースティング処理方法に用いたものと同様のものであり、上流側のマイクロ流路デバイス10はは2つの流路から多相流を形成する方向、下流側のマイクロ流路デバイス10は多相流から2つの流路を形成する方向に設置した。また、流路L3は、多相流をそのまま維持する流路であり、長さは80mmとした。温度制御装置(不図示)で40℃に設定されたマイクロ流路デバイス10において粒子の洗浄を行い、回収洗浄液30及び回収樹脂粒子分散液32をそれぞれ分離して回収した。なお、流量(送液速度)を、それぞれ80cc/hrとした。また、必要に応じ、マイクロシリンジ20a、20bとマイクロ流路デバイス10との間に適当なフィルターを設けることも好ましい。
回収樹脂粒子分散液32より得られた樹脂粒子は、十分洗浄され、また、漏洩、損失も全くなかった。
【0055】
また、本発明のマイクロ流路デバイスを使用した好ましい他の一実施態様として、3液を混合する顔料合成について説明する。
【0056】
使用する3液は、前記アシッドペースティング処理における溶液A及び溶液B、並びに、顔料を析出可能な溶媒であるイオン交換水(溶液C)を用いた。
前記溶液Cは、顔料を析出可能な溶媒であれば制限されないが、アルカリ希釈溶液、酸希釈溶液、水などが挙げられ、特に水が好ましく用いられる。水を用いた場合には、フタロシアニン顔料と含水塩を生成させることができる。また、アルカリとの中和反応よりマイルドな条件に中和反応を抑制することができる。
【0057】
図31に示す処理装置を使用して、得られた溶液A、溶液B及び溶液Cを、ポンプP1、P2、P3を備えたマイクロシリンジ20a、20b、20cにそれぞれセットし、フィルターF1、F2、F3を通して、一定流量でマイクロ流路デバイス10に送液した。温度制御装置24で10℃に設定されたマイクロ流路デバイス10において顔料のアシッドペースティング処理を行い、再結晶化し析出したI型ヒドロキシガリウムフタロシアニンを含む混合液28を回収した。なお、流量(送液速度)を、分岐前の流路一本辺り0.05cc/hr程度となるような流量とした。
得られた混合液28をろ過し、さらにN,N−ジメチルホルムアミド及びイオン交換水で洗浄後乾燥して、アシッドペースティング処理物であるI型ヒドロキシガリウムフタロシアニンを得た。
得られた顔料は、平均粒径の均一なものがえられることが、BET比表面積のばらつきを測定した結果から分かった。
【0058】
なお、3液を混合する顔料合成に使用したマイクロ流路デバイス10は、3つの流路がそれぞれ64の流路に分岐し、図32に示す正六角形(一辺が300μm)が縦横に192個配列された多相流を形成することができるマイクロ流路デバイスであり、マイクロ流路デバイス10の外形は、20mm×20mm×100mmの直方体である。また、使用したマイクロ流路デバイス10は、前述と同様な方法にて作製した。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施態様を説明したが、本発明はこれに限定されるものでないことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】従来のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
【図2】本発明のマイクロ流路デバイスの一例を多相流が形成された部分で切断した断面概略図である。
【図3】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
【図4】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図5】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図6】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図7】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図8】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図9】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図10】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図11】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図12】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図13】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図14】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図15】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【図16】本発明のマイクロ流路デバイスの一例における多相流形成構造を示す拡大概略図である。
【図17】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する流速調整層を有する多相流の断面形状の一例を示す断面概略図である。
【図18】流速調整層のない多相流を形成した本発明のマイクロ流路デバイスの一例と、流速調整層を有する多相流を形成した本発明のマイクロ流路デバイスの一例とを比較した模式図である。
【図19】本発明のマイクロ流路デバイスを用いたアシッドペースティング処理方法に好適に使用することができる処理装置の一例を示す概略構成図である。
【図20】Au表面コートNi電鋳法によるパターン層のドナー基板上への製造工程の一例を示す断面図及び断面拡大図である。
【図21】パターン層を有するドナー基板の一例を示す概略図である。
【図22】パターン層の接合工程(転写工程)を示す模式図である。
【図23】本発明のマイクロ流路デバイスの一例を示す概略斜視図である。
【図24】図23に示すマイクロ流路デバイスにおけるa−a断面図である。
【図25】図23に示すマイクロ流路デバイスにおけるb−b断面図である。
【図26】図23に示すマイクロ流路デバイスにおけるc−c断面図である。
【図27】図23に示すマイクロ流路デバイスにおけるd−d断面図である。
【図28】図23に示すマイクロ流路デバイスにおけるe−e断面図である。
【図29】図23に示すマイクロ流路デバイスにおけるf−f断面図である。
【図30】本発明のマイクロ流路デバイスを用いた微粒子洗浄方法に好適に使用することができる洗浄装置の一例を示す概略構成図である。
【図31】本発明のマイクロ流路デバイスを用いたアシッドペースティング処理方法に好適に使用することができる処理装置の他の一例を示す概略構成図である。
【図32】本発明のマイクロ流路デバイスが形成する多相流の断面形状の他の一例を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0061】
10・・・マイクロ流路デバイス
12・・・多角形配列形状部分
14・・・内壁
16・・・基材部
18・・・流速調整層
20a,20b,20c・・・マイクロシリンジ
22・・・ヒーター
24・・・温度制御装置
26・・・容器
28・・・混合液
30・・・回収洗浄液
32・・・回収樹脂粒子分散液
34a,34b・・・流路連結部
100・・・ステンレス基板
102・・・レジスト
104・・・Auメッキ
106・・・Niメッキ
200・・・ドナー基板
202・・・アライメントマーク
204a,204b,204c,204d,204e・・・パターン層
300・・・ドナー基板
302・・・ステージ
304・・・対向ステージ
306・・・ターゲット基板
308a・・・第1パターン層
308b・・・第2パターン層
308c・・・第3パターン層
P1,P2,P3・・・送液ポンプ
F1,F2,F3・・・フィルター
L1・・・流路1
L2・・・流路2
L3・・・流路3
L4・・・流路4
L5・・・流路5
A・・・流体A
B・・・流体B
C・・・流体C
D・・・流体D
E・・・流体E
F・・・流体F

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる2以上の流体を多相流として形成する微小流路を有し、
前記多相流の断面形状が、(1)複数の多角形が2次元状に配列されかつ前記多角形が相互に隣接した形状、(2)多角形が円若しくは楕円に内接するか若しくは多角形が円若しくは楕円に外接する形状、又は、(3)複数の円及び/若しくは楕円が2次元状に配列されかつ前記円及び/若しくは楕円が相互に隣接した形状、を少なくとも一部に有することを特徴とする
マイクロ流路デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2008−23418(P2008−23418A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195904(P2006−195904)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】