説明

マイクロRNAの検出方法、これに用いられるマイクロアレイおよびキット

【課題】簡便な手順で、高い配列相同性を有するmiRNAをそれぞれ検出することができ、さらに検出感度も良好であるマイクロRNAの検出方法を提供する。
【解決手段】RNAを含む試料からマイクロRNAを検出する方法であって、親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、前記マイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に、前記試料を接触させ、逆転写酵素およびモノヌクレオチドの存在下で、前記マイクロRNAを鋳型とする前記固定DNAプライマーでの伸長反応操作を行い、伸長反応が起こった固定DNAプライマーを検出することを特徴とするマイクロRNAの検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RNAを含む試料からマイクロRNAを検出する方法、およびこの方法に用いるマイクロアレイならびにキットに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロRNA(miRNA)は、タンパク質をコードするmRNA以外のRNA(非コードRNA)の一つであり、遺伝子の発現を抑制する働きがある機能性RNAの一種として知られている。miRNAは、植物、動物の発達、アポトーシス、脂肪代謝、生育調節、造血分化において重要な役割を果たすことが報告されているが、遺伝子発現調節の機構は明らかにされていない。
【0003】
非特許文献1には、RNAサンプルに含まれるmiRNAを検出する手法として、ガラス基板上に固定化したDNA断片とハイブリダイズさせた後、エキソヌクレアーゼIにてハイブリダイズしなかったDNA断片を分解し、さらにDNAポリメラーゼIのKlenowフラグメントを用いて、固体表面でDNA断片を鋳型にし、miRNAをプライマーとした伸長反応を行うRAKE(RNA-primed, array-based Klenow enzyme)アッセイが開示されている。
【0004】
非特許文献2には、miRNAの3'末端にラベル化シチジル酸を導入し、ラベル化されたmiRNAと、固相基板の表面に固定化されたDNAプローブとをハイブリダイズさせた後、DNAプローブの5'末端にグアニル酸を挿入して、ラベル化シチジル酸をDNA−RNAハイブリッド形成に利用することにより、miRNAを検出する方法が開示されている。
【非特許文献1】Nature Methods Vol. 1, No. 2, p155-161 (2004)
【非特許文献2】RNA 13(1), p151-159 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、miRNAは約22塩基程度の一本鎖核酸であって、サイズが小さく、かつ、miRNA同士が高い配列相同性を有することから、各miRNAに特異的な反応を起こすことが困難である。また、通常サンプル中の存在量が非常に小さいため、検出の感度も小さい。以上のことにより、通常のRNA、例えばmRNAの検出に用いられる技術を適用したとしても、miRNAの検出は困難である。また、例えば非特許文献2に記載のような特殊な伸長反応を固定DNAプライマー上で行うに際して、操作が複雑になり、ある程度の技能が要求されることもある。
【0006】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、簡便な手順で、高い配列相同性を有するmiRNAをそれぞれ検出することができ、さらに検出感度も良好なマイクロRNAの検出方法、およびこれに用いられるマイクロアレイならびにキットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1)RNAを含む試料からマイクロRNAを検出する方法であって、
親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、前記マイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に、前記試料を接触させ、
逆転写酵素およびモノヌクレオチドの存在下で、前記マイクロRNAを鋳型とする前記固定DNAプライマーでの伸長反応操作を行い、
伸長反応が起こった固定DNAプライマーを検出することを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(2)(1)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板の表面は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(3)(2)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記伸長反応の対象となる固定DNAプライマーでは、当該固定DNAプライマーの3'末端に1塩基のみの伸長が行われることを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(4)(3)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記モノヌクレオチドとして、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体を混在させて、
前記伸長反応の対象となる固定DNAプライマーでは、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体または2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体による1塩基のみの伸長が行われることを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(5)(4)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体は、標識化されたものであることを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(6)(2)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記高分子物質の第一単位に含まれるリン酸エステルより誘導される基は、ホスホリルコリン基、ホスホリルエタノールアミン基、ホスホリルセリン基、ホスホリルイノシトール基、ホスホリルグリセロール基、ホスファチジルホスホリルグリセロール基のいずれかであることを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(7)(2)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記プライマーが、前記基板の表面に位置するカルボン酸誘導基の部位で共有結合して、表面に固定化されることを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(8)(2)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(9)(2)または(8)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板は、前記高分子物質に加えて、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位と、ブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する第二の高分子物質を含むことを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(10)(2)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板が、プラスチック材料からなることを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(11)(2)に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板は、複数の互いに独立した反応空間を有するアレイを構成し、各アレイではそれぞれ固定DNAプライマーが固定されていることを特徴とするマイクロRNAの検出方法;
(12)RNAを含む試料からマイクロRNAを検出するために用いられるマイクロアレイであって、
各アレイは、
親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、RNAを含む試料に含まれるマイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に設けられ、
複数の互いに独立した反応空間を有し、かつ、それぞれ固定DNAプライマーを固定させて構成されることを特徴とするマイクロアレイ;
(13)(12)に記載のマイクロアレイにおいて、
前記親水性の表面を有する基板は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするマイクロアレイ;
(14)(13)に記載のマイクロアレイにおいて、
前記プライマーが、前記基板の表面に位置するカルボン酸誘導基の部位で共有結合して、表面に固定化されることを特徴とするマイクロアレイ;
(15)(13)に記載のマイクロアレイにおいて、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするマイクロアレイ;
(16)(13)または(15)に記載のマイクロアレイにおいて、
前記基板は、前記高分子物質に加えて、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位と、ブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する第二の高分子物質を含むことを特徴とするマイクロアレイ;
(17)(13)に記載のマイクロアレイにおいて、
前記基板が、プラスチック材料からなることを特徴とするマイクロアレイ;
(18)RNAを含む試料からマイクロRNAを検出するために用いられるキットであって、
親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、RNAを含む試料に含まれるマイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板と、
逆転写酵素と、
モノヌクレオチドと
を含むキット;
(19)(18)に記載のキットにおいて、
前記モノヌクレオチドの中に、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体が含まれることを特徴とするキット;
(20)(19)に記載のキットにおいて、
前記2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体は、標識化されたものであることを特徴とするキット;
(21)(18)に記載のキットにおいて、
前記親水性の表面を有する基板は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするキット;
(22)(21)に記載のキットにおいて、
前記高分子物質の第一単位に含まれるリン酸エステルより誘導される基は、ホスホリルコリン基、ホスホリルエタノールアミン基、ホスホリルセリン基、ホスホリルイノシトール基、ホスホリルグリセロール基、ホスファチジルホスホリルグリセロール基のいずれかであることを特徴とするキット;
(23)(21)に記載のキットにおいて、
前記プライマーが、前記基板の表面に位置するカルボン酸誘導基の部位で共有結合して、表面に固定化されることを特徴とするキット;
(24)(21)に記載のキットにおいて、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするキット;
(25)(21)または(24)に記載のキットにおいて、
前記基板は、前記高分子物質に加えて、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位と、ブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する第二の高分子物質を含むことを特徴とするキット;
(26)(21)に記載のキットにおいて、
前記基板が、プラスチック材料からなることを特徴とするキット;
(27)(21)に記載のキットにおいて、
前記基板には、複数の互いに独立した反応空間を有し、かつ、それぞれ固定DNAプライマーが固定されているマイクロアレイが形成されることを特徴とするキット、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な手順で、高い配列相同性を有するmiRNAをそれぞれ検出することができ、さらに検出感度も良好なマイクロRNAの検出方法、およびこれに用いられるマイクロアレイならびにキットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係るマイクロRNAの検出方法は、RNAを含む試料からマイクロRNAを検出する方法であって、親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、前記マイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に、前記試料を接触させ(第一の段階)、逆転写酵素およびモノヌクレオチドの存在下で、前記マイクロRNAを鋳型とする前記固定DNAプライマーでの伸長反応操作を行い(第二の段階)、伸長反応が起こった固定DNAプライマーを検出する(第三の段階)ことを特徴としている。
【0010】
(第一の段階)
第一の段階は、親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、前記マイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に、前記試料を接触させるステップである。
【0011】
本実施形態で使用される基板の表面は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することが好ましい。
【0012】
このリン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質は、DNA鎖の非特異的吸着を抑制する性質とDNA鎖を固定化する性質とを併せ持つポリマーである。特に、第一単位に含まれるリン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基は鋳型DNA断片の非特異的吸着を抑制する役割を果たし、第二単位に含まれるカルボン酸誘導基はプライマーを化学的に固定化する役割を果たす。すなわち、プライマーは、この高分子物質からなるコーティング層のカルボン酸誘導基の部位で共有結合して、当該基板の表面に固定化される。
【0013】
第一の単位は、たとえば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン基等の(メタ)アクリロイルオキシアルキルホスホリルコリン基;
2−メタクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン基および10−メタクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン基等の(メタ)アクリロイルオキシアルコキシアルキルホスホリルコリン基;
アリルホスホリルコリン基、ブテニルホスホリルコリン基、ヘキセニルホスホリルコリン基、オクテニルホスホリルコリン基、およびデセニルホスホリルコリン基等のアルケニルホスホリルコリン基;
等の基を有し、ホスホリルコリン基がこれらの基中に含まれている構成とすることができる。
【0014】
また、これらの基のうち、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましい。第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを有する構成とすることにより、基板表面における鋳型DNA断片の非特異的吸着をより一層確実に抑制することができる。
【0015】
なお、ここでは基本骨格として下記式(a)に示すホスホリルコリン基である例を挙げたが、このホスホリルコリン基を下記式(b)のホスホリルエタノールアミン基、下記式(c)のホスホリルイノシトール基、下記式(d)のホスホリルセリン基、下記式(e)のホスホリルグリセロール基、下記式(f)に示したホスファチジルホスホリルグリセロール基などのリン酸基に置き換えてもよい(以下についても同様)。
【0016】
【化1】

【0017】
カルボン酸誘導体は、カルボン酸のカルボキシル基が活性化されたものであり、C=Oを介して脱離基を有するカルボン酸である。カルボン酸誘導体は、具体的には、アルコキシル基よりも電子求引性の高い基がカルボニル基に結合して求核反応が活性化された化合物である。カルボン酸誘導基は、アミノ基、チオール基、水酸基等に対する反応性を有する化合物である。
【0018】
カルボン酸誘導体として、さらに具体的には、カルボン酸であるアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基が、酸無水物、酸ハロゲン化物、活性エステル、活性化アミドに変換された化合物が挙げられる。カルボン酸誘導基は、こうした化合物に由来する活性化された基であり、たとえば、p−ニトロフェニル基やN−ヒドロキシスクシンイミド基等の活性エステル基;―Cl、−F等のハロゲン;等の基を有することができる。
【0019】
また、カルボン酸誘導基は、下記式(1)に示される基とすることができる。
【0020】
【化2】

【0021】
(ただし、上記式(1)において、Aは水酸基を除く脱離基である。)
上記式(1)に示される一価の基は、たとえば下記式(p)または式(q)から選択されるいずれかの基とすることができる。
【0022】
【化3】

【0023】
(ただし、上記式(p)および式(q)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、一価の有機基であり、直鎖状、分岐状、および環状のいずれであってもよい。また、上記式(p)において、R1はCとともに環を形成する二価の基であってもよい。また、上記式(q)において、R2はNとともに環を形成する二価の基であってもよい。)
【0024】
上記式(p)に示される基として、たとえば下記式(r)、(s)、および(w)に示される基が挙げられる。また、上記式(q)に示される基として、たとえば下記式(u)に示される基が挙げられる。
【0025】
上記式(1)に示される基は、たとえば下記式(r)、式(s)等に示される酸無水物由来の基;
下記式(t)に示される酸ハロゲン化物由来の基;
下記式(u)、式(w)に示される活性エステル由来の基;または
下記式(v)に示される活性化アミド由来の基とすることができる。
【0026】
【化4】

【0027】
カルボン酸誘導基のうち、活性エステル基は、穏やかな条件における反応性に優れるため、好ましく用いられる。穏やかな条件としては、たとえば中性またはアルカリ性の条件、具体的にはpH7.0以上10.0以下、さらに具体的にはpH7.6以上9.0以下、さらにまた具体的にはpH8.0とすることができる。
【0028】
また、本明細書において規定するところの「活性エステル基」は、その定義について厳密な規定はなされていないが、慣用の技術表現としては、エステル基のアルコール側に酸性度の高い電子求引性基を有して求核反応を活性化するエステル群、すなわち反応活性の高いエステル基を意味するものとして、各種の化学合成、たとえば高分子化学、ペプチド合成等の分野で慣用されているものである。なお、ペプチド合成の分野においては、泉屋信夫、加藤哲夫、青柳東彦、脇道典著、「ペプチド合成の基礎と実験」、1985年発行、丸善、に記載されているように、活性エステル法はアミノ酸またはペプチドのC末端を活性化する方法の一つとして用いられている。
【0029】
実際的には、エステル基のアルコール側に、電子求引性の基を有し、アルキルエステルよりも活性化されたエステル基である。活性エステル基は、アミノ基、チオール基、水酸基等の基に対する反応性を有する。さらに具体的には、フェノールエステル類、チオフェノールエステル類、N−ヒドロキシアミンエステル類、シアノメチルエステル、複素環ヒドロキシ化合物のエステル類等がアルキルエステル等に比べてはるかに高い活性を有する活性エステル基として知られている。
【0030】
ここでは、高分子物質中の活性化カルボン酸誘導体基が活性エステル基である場合を例に、説明する。活性エステル基としては、たとえばp−ニトロフェニル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基、コハク酸イミド基、フタル酸イミド基、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド基等が挙げられるが、たとえばp−ニトロフェニル基が好ましく用いられる。
【0031】
表面にプライマーが固定化される基板の場合、第一単位と第二単位のさらに具体的な構成の組合せとして、たとえば、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位が2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン基を有し、活性エステル基がp−ニトロフェニル基である構成とすることができる。
【0032】
また、本実施形態で使用することができる基板のコーティング層に使用される高分子物質は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基およびカルボン酸誘導基以外に他の基を含んでもよい。また、高分子物質は共重合体とすることができる。具体的には、高分子物質がブチルメタクリレート基を含む共重合体であることが好ましい。こうすることにより、高分子物質を適度に疎水化し、この高分子物質の基板表面への吸着性をさらに好適に確保することができる。
【0033】
具体的には、高分子物質を、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)基を有する第一単量体と、p−ニトロフェニルオキシカルボニルポリエチレングリコールメタクリレート(NPMA)基を有する第二単量体と、n−ブチルメタクリレート(BMA)基を有する第三単量体との共重合体とすることができる。これらの共重合体であるpoly(MPC−co−BMA−co−NPMA)(PMBN)は、模式的に下記一般式(2)で示される。
【0034】
【化5】

【0035】
ただし、上記一般式(2)において、a、b、およびcは、それぞれ独立して、正の整数である。また、上記一般式(2)において、第一〜第三単量体がブロック共重合していてもよいし、これらの単量体がランダムに共重合していてもよい。
【0036】
上記一般式(2)で示される共重合体は、高分子物質の適度な疎水化と、鋳型DNA断片の非特異吸着を抑制する性質と、プライマーを固定化する性質とのバランスとに、より一層優れた構成である。このため、このような共重合体を用いることにより、基板表面をより一層確実に高分子物質で被覆するとともに、高分子物質がコーティングされた基板上への鋳型DNA断片の非特異的吸着を抑制しつつ、プライマーをさらに確実に共有結合により固定化して基板上に導入することができる。
【0037】
なお、上記一般式(2)で示される共重合体は、MPC、BMA、およびNPMAの各単量体を混合し、ラジカル重合等の公知の重合方法により得ることができる。上記一般式(2)で示される共重合体をラジカル重合により作製する場合、たとえば、Ar等の不活性ガス雰囲気にて、30℃以上90℃以下の温度条件で溶液重合を行うことができる。
【0038】
溶液重合に使用される溶媒は適宜選択されるが、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコールや、ジエチルエーテル等のエーテル、クロロホルム等の有機溶媒を単独でまたは複数混合して用いることができる。具体的には、ジエチルエーテルとクロロホルムを体積比で8対2とした混合溶媒とすることができる。
【0039】
また、ラジカル重合反応に使用されるラジカル重合開始剤としては、通常使用されるものを用いることができる。たとえば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスバレロニトリル等のアゾ系開始剤;
過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、t−ブチルペルオキシピバレート等の油溶性の有機過酸化物;
などが用いられる。
【0040】
さらに具体的には、ジエチルエーテルとクロロホルムを体積比で8対2とした混合溶媒およびAIBNを用い、Ar中、60℃にて2〜6時間程度重合を行うことができる。
【0041】
なお、ここでは、本実施形態で用いることができる基板として、高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有するものを説明したが、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位とカルボン酸誘導基を含む第二単位とを有する高分子物質を第一の高分子物質とし、これに加えて、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位とブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する第二の高分子物質を含んでいてもよい。
【0042】
なお、上記第一の高分子物質の第一単位と上記第二の高分子物質の第一単位とは同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。また、上記第一の高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を含むとき、この第一の高分子物質の第三単位と上記第二の高分子物質の第三単位とは同一構造であってもよいし、異なる構造であってもよい。
【0043】
このような第二の高分子物質は、鋳型DNA断片の非特異的吸着を抑制するポリマーとして用いられる。このようなポリマーとしては、たとえばホスホリルコリン基が30モル%、ブチルメタクリレート基が70モル%の割合で含まれているものであるMPCポリマー(日本油脂社製)を用いることができる。
【0044】
なお、高分子物質が上記第一の高分子物質、第二の高分子物質からなる場合、これらの高分子物質が混合されている構成とすることができる。各々の高分子物質のポリマーは、たとえばエタノール溶液に溶解できるため、それぞれのポリマー溶液を混合することにより容易に混合ポリマーを得ることができる。
【0045】
以上のような高分子物質からなるコーティング層を表面に含む基板は、所定の形状に加工された基板の表面に高分子物質を含む液体を塗布し、乾燥することにより得られる。また、高分子物質を含む液体中に基板を浸漬し、乾燥してもよい。
【0046】
また、基板として、プラスチック材料を用いた場合には、形状やサイズの変更に対する柔軟性が確保される上に、ガラス基板のものに比べて安価で提供することができるという観点から好ましい。このようなプラスチック材料としては、表面処理の容易性および量産性の観点から、熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、蛍光発生量の少ないものを用いることができる。蛍光発生量の少ない樹脂を用いることにより、DNA鎖の検出反応におけるバックグラウンドを低下させることができるため、検出感度をさらに向上させることができる。蛍光発生量の少ない熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の直鎖状ポリオレフィン;
環状ポリオレフィン;
含フッ素樹脂;
等を用いることができる。上記樹脂の中でも、飽和環状ポリオレフィンは、耐熱性、耐薬品性、低蛍光性、透明性および成形性に特に優れるため、光学的な分析に好適であり、基板の材料として好ましく用いられる。
【0048】
ここで、飽和環状ポリオレフィンとは、環状オレフィン構造を有する重合体単独または環状オレフィンとα−オレフィンとの共重合体を水素添加した飽和重合体を指す。前者の例としては、たとえばノルボルネン、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセンに代表されるノルボルネン系モノマー、及び、これらのアルキル置換体を開環重合して得られる重合体を水素添加して製造される飽和重合体である。後者の共重合体はエチレンやプロピレン、イソプロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等のα−オレフィンと環状オレフィン系モノマーのランダム共重合体を水素添加することにより製造される飽和重合体である。共重合体では、エチレンとの共重合体が最も好ましい。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種類またはそれ以上の共重合体あるいは混合物であってもよい。また、環状オレフィン構造を有する単量体が開環重合して得られる飽和環状ポリオレフィンだけでなく、環状オレフィン構造を有する単量体の付加重合により得られる飽和環状ポリオレフィンを用いることもできる。
【0049】
以上のような高分子物質を表面に含むプラスチック材料からなる基板は、所定の形状に加工された基板の表面に高分子物質を含む液体を塗布し、乾燥することにより得られる。また、高分子物質を含む液体中に基板を浸漬し、乾燥してもよい。
【0050】
なお、基板の材料をプラスチックとした場合、形状は板状には限られず、たとえばフィルム状やシート状であってもよい。具体的には、基板を可とう性のプラスチックフィルムとすることもできる。また、基板は、一つの部材から構成されていてもよいし、複数の部材から構成されていてもよい。
【0051】
次に、基板の表面へのプライマーの固定化方法について説明する。
例えば、(i)基板上の高分子物質に含まれる複数の活性エステル基のうち、少なくとも一部の活性エステル基とプライマーとを反応させて共有結合を形成させることにより、基板表面でプライマーを固定化し、続いて(ii)プライマーを固定化した以外の基板表面の活性エステル基を不活性化する、すなわち残りの活性エステル基を不活性化することにより、プライマーを基板の表面に固定することができる。以下、それぞれの工程について説明する。
【0052】
上記工程(i)において、鋳型DNA断片とアニールするプライマーを基板上に固定化する際には、プライマーを溶解または分散した液体を点着する方法が好ましい。高分子物質に含まれる活性エステル基の一部がプライマーと反応して、プライマーの間で共有結合が形成される。
【0053】
このプライマーを溶解または分散した液体は、例えば中性からアルカリ性、例えばpHが7.6以上とすることができる。
【0054】
また、点着後、基板表面に固定化されなかったプライマーを除去するため、純水や緩衝液で洗浄してもよい。
【0055】
また、上記工程(ii)に示したように、洗浄後はプライマーを固定化した以外のプラスチック基板表面の活性エステルの不活性化処理をアルカリ化合物、あるいは一級アミノ基を有する化合物で行う。
【0056】
アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ホウ酸ナトリウム、水酸化リチウム、リン酸カリウムなどを用いることができる。
【0057】
一級アミノ基を有する化合物としては、グリシン、9−アミノアクアジン、アミノブタノール、4−アミノ酪酸、アミノカプリル酸、アミノエタノール、5−アミノ2,3−ジヒドロー1,4−ペンタノール、アミノエタンチオール塩酸塩、アミノエタンチオール硫酸、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、リン酸二水素2−アミノエチル、硫酸水素アミノエチル、4−(2−アミノエチル)モルホリン、5-アミノフルオレセイン、6−アミノヘキサン酸、アミノヘキシルセルロース、p−アミノ馬尿酸、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、5−アミノイソフタル酸、アミノメタン、アミノフェノール、2−アミノオクタン、2−アミノオクタン酸、1−アミノ2−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、3−アミノプロペン、3−アミノプロピオニトリル、アミノピリジン、11−アミノウンデカン酸、アミノサリチル酸、アミノキノリン、4−アミノフタロニトリル、3−アミノフタルイミド、p−アミノプロピオフェノン、アミノフェニル酢酸、アミノナフタレンなどを用いることができる。これらのうち、アミノエタノール、グリシンを用いることが好ましい。
【0058】
また、基板に固定化するプライマーには、活性エステル基との反応性を高めるため、アミノ基を導入しておくことが好ましい。アミノ基は活性エステル基との反応性に優れるため、アミノ基が導入されたプライマーを用いることにより、効率よくかつ強固に基板の表面上にプライマーを固定化することができる。アミノ基の導入位置はプライマーの分子鎖末端あるいは側鎖であってもよいが、分子鎖末端に導入されていることが、相補的な鋳型DNA断片とのアニーリングをより一層効率よく行うことができるという観点からは、好ましい。
【0059】
以上により、本実施形態で使用することができる基板が得られる。この基板は、表面上にプライマーが固定化されている。また、基板の表面に設けられる反応空間としては、ウェル、液体流路などDNA鎖の伸長反応を行うことができる反応空間を提供できれば、どのような形状であってもよい。また、プライマーの長さは、目的や用途に応じて任意に決定することができ、例えば5〜50塩基とすることができる。
【0060】
また、本実施形態において、基板では、複数の互いに独立した反応空間を有するアレイを構成してもよい。この各アレイではそれぞれ固定DNAプライマーを固定することができる。基板をこのようなアレイ状にすることで、複数のアッセイを同時に行うことができ、スクリーニングなどが可能になる。
【0061】
このような観点から、本発明は、前述したようなマイクロアレイを提供する。すなわち、このマイクロアレイは、RNAを含む試料からマイクロRNAを検出するために用いられるマイクロアレイであって、各アレイは、親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、RNAを含む試料に含まれるマイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に設けられ、複数の互いに独立した反応空間を有し、かつ、それぞれ固定DNAプライマーを固定させて構成されることを特徴としている。
【0062】
固定DNAプライマーは、例えば配列番号456で示されるようなスペーサ配列(5'-CTTTGGACC-3')を介して、前述したような基板の表面で固定化される。また、このような固定DNAプライマーは、マイクロRNAの一部の配列と相補的な配列を有する。特に、高い相同性を有するマイクロRNA同士を分離して検出する観点から、それぞれの固定DNAプライマーにおいて、10塩基連続した共通配列がないように、または5'末端から4塩基(4塩基目を含む)から3'末端にかけて、少なくとも一点の変異点を存在するように、固定DNAプライマーの配列を設計することが好ましい。また、後述するような各マイクロRNAに特異的な伸長反応をより確実に起こすという観点から、DNAプライマーはマイクロRNA配列の中でも比較的特異性の高い3'側の相補鎖から始まり、5'側の途中に存在するAまたはUの塩基の一つ手前までの相補鎖となるように設計することが好ましい。
【0063】
このような観点から、本実施形態で使用するヒトの各マイクロRNA(human_miRNA)について、固定DNAプライマーの配列(probe_for_miRNA)と、この固定DNAプライマーが実際に基板上に固定化されるときの配列、すなわち固定DNAプライマーの5'末端にスペーサ配列(5'-spacer_sequence)を付加して得られる配列(probe_sequence_on_chip)との例を挙げる。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
【表6】

【0070】
【表7】

【0071】
【表8】

【0072】
【表9】

【0073】
【表10】

【0074】
また、RNAを含む試料としては、マイクロRNAを含む試料、マイクロRNAとその前駆体との両方のスモールRNAを含む試料、トータルRNAを含む試料が挙げられ、中でもマイクロRNAを含む試料、スモールRNAを含む試料が好ましく用いられる。
【0075】
(第二の段階)
第二の段階は、第一の段階でRNAを含む試料が導入された基板表面において、逆転写酵素およびモノヌクレオチドの存在下で、前記マイクロRNAを鋳型とする前記固定DNAプライマーでの伸長反応操作を行うステップである。
【0076】
ここで、逆転写酵素と一緒に存在させるモノヌクレオチドとしては、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸(ddATP)あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸(ddTTP)あるいはその誘導体が挙げられる。前述したように、DNAプライマーの3'末端に相補的なマイクロRNAの配列部分の5'末端側に一塩基隣りの配列がAまたはUとなるように、DNAプライマーを設計することにより、マイクロRNAの配列と相補的な配列を有する、伸長反応の対象となる固定DNAプライマーでは、当該固定DNAプライマーの3'末端に1塩基のみの伸長を行うことができる。
【0077】
本発明者等により、DNAプライマーの伸長反応を1塩基のみの伸長反応とすることにより、各マイクロRNAと対応するDNAプライマーに特異的な反応を、より確実に起こすことが可能であることが、見出されている。すなわち、図1に示したように、基板10の表面で、マイクロRNA鎖12を鋳型にして、固定DNAプライマー11を一塩基分のみ伸長反応を行うことにより、非特異的な伸長反応を抑えることが可能になる。
【0078】
また、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸(ddATP)あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸(ddTTP)あるいはその誘導体を、標識化しておくことが好ましい。これにより、固定DNAプライマーの伸長反応に際して、伸長反応が起こったプライマーに標識を導入することが可能になり、伸長反応が起こった固定DNAプライマーを検出することが容易になる。また、標識化の方法としては、蛍光化合物であるCy3、Cy5の導入の方法、他の光吸収体の導入の方法、放射線ラベルの方法(P32-ddATP、P32-ddTTP)、酵素標識などの非放射性ラベルの方法などが挙げられる。
【0079】
この酵素標識の方法においては、ビオチン(biotin)化またはジゴキシゲニン(DIG:ステロイド系天然物)を結合したddATP、ddTTP(例えば、biotin-ddATP、DIG-ddATP)を使用し、伸長反応後、蛍光標識化したアルカリフォスファターゼまたはアルカリフォスファターゼ処理しニトロブルーテトラゾリウム(NBT)と5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルリン酸(BCIP)液中で数時間反応させることによって、伸長反応が起こった固定DNAプライマーに標識が導入され、このDNAプライマーを検出することができる。
【0080】
(第三の段階)
第三の段階は、第二の段階で伸長反応が起こった固定DNAプライマーを検出するステップである。
第二の段階にて伸長反応が起こった固定DNAプライマーを検出する。特に、伸長反応により標識化された固定DNAプライマーを検出する場合には、それぞれの標識を検出するための通常の方法を採用することができる。
【0081】
このようにして、第一の段階で導入された試料にマイクロRNAまたはその前駆体であるスモールRNAが含まれている場合、第二の段階ではマイクロRNAの配列の一部と相補的な配列を含む固定DNAプライマーで伸長反応が起こり、第三の段階では、この伸長反応が起こった固定DNAプライマーが検出される。
【0082】
また、別の側面から、本発明はRNAを含む試料からマイクロRNAを検出するために用いられるキットを提供する。すなわち、このキットは、詳述してきたような、親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、RNAを含む試料に含まれるマイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板と、逆転写酵素と、モノヌクレオチドとを含む。
【0083】
非特許文献1に記載の技術では、エキソヌクレアーゼを作用させて不要なDNA断片を分解する関係で、マイクロRNAと、DNA断片とをハイブリダイズさせる必要があるが、ハイブリダイズは非特異的な反応が起こりやすくなり、反応時間も長くとる必要がある。これに対して、本発明では、特別にハイブリダイズの操作を設ける必要はなく、さらに適切な固定DNAプライマーの配列を設計することにより、検出されるマイクロRNAと固定DNAプライマーとの間で特異的に伸長反応を起こすことが可能になり、マイクロRNAの検出が容易に、かつ、より確実になる。
【0084】
また、非特許文献2に記載の技術では、特殊な反応系によりラベル化されたマイクロRNAと、基板表面に固定化されたDNAプローブとを、特殊な溶液中でハイブリダイズさせることにより実現される。また、非特許文献2には、検出のために高感度で大きなダイナミックレンジの装置が必要になると記載されている。したがって、反応操作が煩雑となり、熟練した技能が要求されるとともに、コストがかかる。これに対して、本発明では、特殊な操作や検出のための装置は必要ではなく、簡便な操作によりマイクロRNAの検出が可能になる。
【0085】
以上のように、具体的なDNAプローブの配列、標識化の方法などを挙げながら説明したが、本発明はこれらに限定されることはなく、検出対象となるマイクロRNAに応じて、適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0086】
以下、本発明について実施例を用いて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示したように、基板10の表面に固定DNAプライマー11を固定化させた。固定DNAプライマー11としては、配列番号14(asD_h100_2)、51(asD_h148b_2)、7(asD_hl7d_2)、155(asD_h30a_3p_2)、135(asD_h26b_3)、163(asD_h30e_3p_2)、5(asD_hl7c_2)、12(asD_hl7i_2)、42(*asD_h141_2*)番の配列を有する各断片を使用した。次に、この基板の表面に、RNAを含有する試料を接触させた。このとき、RNAを含有する試料としては、各DNAプライマーに対応するmiRNAを合成したものを、次に述べる分子数になるように調製して混合した試料を用いた。導入するRNAの分子数は、配列番号42の配列を有する固定DNAプライマー用の合成RNAでは1femtoモルとし、その他の固定DNAプライマーでの反応用には、1、10、100、1000、10000attoモル(1attoモルは、6×105分子)と合成RNAの量を変動させて行った。続いて、この基板の表面に、逆転写酵素、およびモノヌクレオチドとしてビオチン化ddATPおよびビオチン化ddUTPを含む溶液を導入し、伸長反応を行った。伸長反応の条件としては、反応溶液の組成は下記のとおりであり、反応時間は42℃、反応時間は2hrであった。
【表11】

【0087】
結果を、図2に示す。
図2によれば、いずれの系、すなわち固定DNAプライマーにおいても、10attoモルのRNA導入量において、一般にバックグラウンドと考えられているシグナル強度100を上回っており、感度の観点から検出可能であることが示唆される結果が得られた。中には、1attoモルのレベルでも、検出可能なマイクロRNAも存在することがわかった。
【0088】
非特許文献1では、107個(すなわち、約100attoモル)の分子数レベルでRNAを含む試料を導入しても、マイクロRNAを検出する際のシグナル強度が、バックグラウンドとして考えられるシグナル強度100を下回っており、マイクロRNAの検出には感度の面から必ずしも十分であるとは言えない。
【0089】
(実施例2)
固定DNAプライマーとして、配列番号90(asD_h196a_3)、92(asD_h196b_3)番の配列を有する各断片を使用し、ターゲットとなるマイクロRNAとして、配列番号457番の配列を有するマイクロRNAを用いた以外は、実施例1にて行った手順を繰り返した。結果を図3に示す。
【0090】
配列番号90と、配列番号92とでは、3'末端から4塩基の部分のみが互いに異なる固定DNAプライマーであるところ、図3によれば、10attoモルのサンプルRNA分子数のレベルで、配列番号90の固定DNAプライマーについてのみ起こった特異的な伸長反応が検出されたことが示されている。このように、同じターゲットのマイクロRNAを、1塩基が異なるだけの固定DNAプライマーのそれぞれと反応させたときに、特異的な伸長反応のみを起こして、かつ、当該特異的な伸長反応を検出することができる。
【0091】
(実施例3)
固定DNAプライマーとして、配列番号137(miR-27a)、138(miR-27b)番の配列を有する各断片を使用し、ターゲットとなるマイクロRNAとして、配列番号459番の配列を有するマイクロRNAを用いた以外は、実施例1にて行った手順を繰り返した。結果を図4および図5に示す。図5は、図4において、導入されたマイクロRNAの分子数が1から100attoモルである部分を拡大したグラフである。
【0092】
配列番号137と、配列番号138とでは、連続する10塩基が同一配列であるが、図5によれば、10attoモルのサンプルRNA分子数のレベルで、配列番号137の固定DNAプライマーについてのみ起こった特異的な伸長反応が検出されたことが示されている。このように、共通する配列が10塩基長程度あったとしても、その共通配列部分の外側の配列によって特異性を上げることが可能な場合には、特異的な伸長反応のみを起こして、かつ、当該特異的な伸長反応を検出することができる。
【0093】
(実施例4)
固定DNAプライマーとして、配列番号66(miR-181a)、67(miR-181b)、68(miR-181c)、69(miR-181d)番の配列を有する各断片を使用し、ターゲットとなるマイクロRNAとして、配列番号460番の配列を有するマイクロRNAを用いた以外は、実施例1にて行った手順を繰り返した。結果を図6および図7に示す。図7は、図6において、導入されたマイクロRNAの分子数が1から100attoモルである部分を拡大したグラフである。
【0094】
配列番号66から69では、5'末端またはその近傍の連続する6塩基の配列と、3'末端から連続する4塩基の部分とが共通配列であり、両共通配列部分間の長さおよび5'末端の配列が互いに異なる固定DNAプライマーであるところ、図6によれば1000attoモルのサンプルRNA分子数のレベルでそれぞれのプライマーについて特異的な伸長反応が検出され、特に図7によれば、10attoモルのサンプルRNA分子数のレベルで、配列番号66の固定DNAプライマーについてのみ起こった特異的な伸長反応が検出されたことが示されている。このように、同じターゲットのマイクロRNAを、共通する塩基配列が複数部分存在するが、互いに異なる配列を有する固定DNAプライマーのそれぞれと反応させたときに、特異的な伸長反応のみを起こして、かつ、当該特異的な伸長反応を検出することができる。
【0095】
(実施例5−1)
互いに相同性が高いことで知られているlet-7のマイクロRNAのプローブファミリーについて、伸長反応を行った。すなわち、固定DNAプライマーとして、配列番号1(asD_hl7a_2)、3(asD_hl7b_2)、5(asD_hl7c_2)、7(asD_hl7d_2)、8(asD_hl7e_2)、9(asD_hl7f_2)、11(asD_hl7g_2)、12(asD_hl7i_2)の配列を有する各断片を使用し、ターゲットとなるマイクロRNAとして、配列番号458番の配列を有するマイクロRNAを用いた以外は、実施例1にて行った手順を繰り返した。結果を図8に示す。
【0096】
(実施例5−2)
実施例5−1と同じマイクロRNAのプローブファミリーについて、実施例5−1で用いた固定DNAプライマーよりも短いプライマーを用いて、実施例5−1と同様にマイクロRNAの検出を行った。すなわち、実施例5−2において固定DNAプライマーとして用いた断片は、配列番号2(asD_hl7a_3)、4(asD_hl7b_3)、6(asD_hl7c_3)、461(asD_hl7d_3)、462(asD_hl7e_3)、10(asD_hl7f_3)、463(asD_hl7g_3)、464(asD_hl7i_3)であった。結果を図9に示す。
【0097】
実施例5−1および5−2で固定DNAプライマーとして用いたDNA配列は、1塩基または2塩基が互いに異なるものである。配列番号1、5の固定DNAプライマー間では、実施例5−1においてはシグナル強度において有意な差異を認めることが困難であったところ、実施例5−2では、固定DNAプライマーの3'末端側を短くしただけで、有意な差異を認めることができた。
【0098】
(実施例6)
市販されているヒトのトータルRNAを含む試料と、ヒトの腎臓細胞、脳細胞および肝臓細胞から、それぞれスモールRNA分画を精製して得られた試料とを準備して、それぞれについて共通する53種類の固定DNAプライマーにて伸長反応を行った。トータルRNAを試料として用いたときのシグナル強度と、スモールRNAを試料として用いたときのシグナル強度との関係を、図10に示す。図10において、縦(Y)軸はスモールRNAより検出されたシグナル強度を示し、横(X)軸はトータルRNAより検出されたシグナル強度を示す。
【0099】
図10によれば、スモールRNAより検出されたシグナル強度と、トータルRNAより検出されたシグナル強度との間には、相関関係があり、および一般に、トータルRNAを試料として用いたときよりも、スモールRNAを試料として用いたときの方が、シグナル強度が大きいことが示されている。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の実施形態の伸長反応を説明する模式図である。
【図2】本発明の一実施例の結果を示すグラフである。
【図3】本発明の他の実施例の結果を示すグラフである。
【図4】本発明の他の実施例の結果を示すグラフである。
【図5】図4の一部を拡大して示すグラフである。
【図6】本発明の他の実施例の結果を示すグラフである。
【図7】図5の一部を拡大して示すグラフである。
【図8】本発明の他の実施例の結果を示すグラフである。
【図9】本発明の他の実施例の結果を示すグラフである。
【図10】本発明の他の実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0101】
10 基板
11 固定DNAプライマー
12 マイクロRNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNAを含む試料からマイクロRNAを検出する方法であって、
親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、前記マイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に、前記試料を接触させ、
逆転写酵素およびモノヌクレオチドの存在下で、前記マイクロRNAを鋳型とする前記固定DNAプライマーでの伸長反応操作を行い、
伸長反応が起こった固定DNAプライマーを検出することを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板の表面は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記伸長反応の対象となる固定DNAプライマーでは、当該固定DNAプライマーの3'末端に1塩基のみの伸長が行われることを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記モノヌクレオチドとして、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体を混在させて、
前記伸長反応の対象となる固定DNAプライマーでは、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体または2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体による1塩基のみの伸長が行われることを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項5】
請求項4に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体は、標識化されたものであることを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項6】
請求項2に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記高分子物質の第一単位に含まれるリン酸エステルより誘導される基は、ホスホリルコリン基、ホスホリルエタノールアミン基、ホスホリルセリン基、ホスホリルイノシトール基、ホスホリルグリセロール基、ホスファチジルホスホリルグリセロール基のいずれかであることを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項7】
請求項2に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記プライマーが、前記基板の表面に位置するカルボン酸誘導基の部位で共有結合して、表面に固定化されることを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項8】
請求項2に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項9】
請求項2または8に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板は、前記高分子物質に加えて、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位と、ブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する第二の高分子物質を含むことを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項10】
請求項2に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板が、プラスチック材料からなることを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項11】
請求項2に記載のマイクロRNAの検出方法において、
前記基板は、複数の互いに独立した反応空間を有するアレイを構成し、各アレイではそれぞれ固定DNAプライマーが固定されていることを特徴とするマイクロRNAの検出方法。
【請求項12】
RNAを含む試料からマイクロRNAを検出するために用いられるマイクロアレイであって、
各アレイは、
親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、RNAを含む試料に含まれるマイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板に設けられ、
複数の互いに独立した反応空間を有し、かつ、それぞれ固定DNAプライマーを固定させて構成されることを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項13】
請求項12に記載のマイクロアレイにおいて、
前記親水性の表面を有する基板は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項14】
請求項13に記載のマイクロアレイにおいて、
前記プライマーが、前記基板の表面に位置するカルボン酸誘導基の部位で共有結合して、表面に固定化されることを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項15】
請求項13に記載のマイクロアレイにおいて、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項16】
請求項13または15に記載のマイクロアレイにおいて、
前記基板は、前記高分子物質に加えて、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位と、ブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する第二の高分子物質を含むことを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項17】
請求項13に記載のマイクロアレイにおいて、
前記基板が、プラスチック材料からなることを特徴とするマイクロアレイ。
【請求項18】
RNAを含む試料からマイクロRNAを検出するために用いられるキットであって、
親水性の表面を有し、かつ、この表面に固定され、RNAを含む試料に含まれるマイクロRNAの一部の配列と相補的な固定DNAプライマーを含む基板と、
逆転写酵素と、
モノヌクレオチドと
を含むキット。
【請求項19】
請求項18に記載のキットにおいて、
前記モノヌクレオチドの中に、2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体が含まれることを特徴とするキット。
【請求項20】
請求項19に記載のキットにおいて、
前記2'、3'−ジデオキシアデノシン5'−三リン酸あるいはその誘導体および2'、3'−ジデオキシチミジン5'−三リン酸あるいはその誘導体は、標識化されたものであることを特徴とするキット。
【請求項21】
請求項18に記載のキットにおいて、
前記親水性の表面を有する基板は、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を有する第一単位と電子求引性の置換基がカルボニル基に結合してなるカルボン酸誘導基を有する第二単位とを含む高分子物質を有することを特徴とするキット。
【請求項22】
請求項21に記載のキットにおいて、
前記高分子物質の第一単位に含まれるリン酸エステルより誘導される基は、ホスホリルコリン基、ホスホリルエタノールアミン基、ホスホリルセリン基、ホスホリルイノシトール基、ホスホリルグリセロール基、ホスファチジルホスホリルグリセロール基のいずれかであることを特徴とするキット。
【請求項23】
請求項21に記載のキットにおいて、
前記プライマーが、前記基板の表面に位置するカルボン酸誘導基の部位で共有結合して、表面に固定化されることを特徴とするキット。
【請求項24】
請求項21に記載のキットにおいて、
前記高分子物質がブチルメタクリレート基を含む第三単位を有することを特徴とするキット。
【請求項25】
請求項21または24に記載のキットにおいて、
前記基板は、前記高分子物質に加えて、リン脂質の親水部を構成するリン酸エステルより誘導される基を含む第一単位と、ブチルメタクリレート基を含む第三単位とを有する第二の高分子物質を含むことを特徴とするキット。
【請求項26】
請求項21に記載のキットにおいて、
前記基板が、プラスチック材料からなることを特徴とするキット。
【請求項27】
請求項21に記載のキットにおいて、
前記基板には、複数の互いに独立した反応空間を有し、かつ、それぞれ固定DNAプライマーが固定されているマイクロアレイが形成されることを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−124957(P2009−124957A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300748(P2007−300748)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 経済産業省、委託事業「機能性RNAプロジェト」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(501002172)株式会社DNAチップ研究所 (33)
【Fターム(参考)】