説明

マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質及びその応用

本発明はマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、及び当該ポリヌクレオチドを含むベクターと宿主細胞に関する。また、本発明は、当該融合蛋白質の調製方法に関する。さらに、本発明は、当該融合蛋白質の結核病予防と治療における応用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子工程により製造されたマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、及び当該蛋白質の、新型結核病ワクチンを用いる結核病予防と結核病免疫療法における応用に関する。
【背景技術】
【0002】
マイコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis;「結核菌」と略称)は結核病の病原菌であり、世界中で、年約三百万人が該病原菌による結核病を患った状況になる。中国は世界中の結核病高負荷二十二ヵ国の一つであり、患者人数がインドに次いで、世界二位に居る。近年来、中国において、結核病の発病人数が増える傾向を示し、2000年全国結核病第四回疫学調査によると、中国では、感染人数が多い(5.5億人にも到達、感染率45%、全世界平均感染率を上回っている)、罹患人数が多い(活動性結核症患者が約500万人)、新病変患者が多い(新病変活動性結核症患者が約150万人/年)、死亡人数が多い(約20万人/年が結核病で死亡)、薬物耐性患者が多い(薬物耐性患者が約30%)という特徴を示している。以上の情報から分かるように、結核病の制御は、全世界特に中国にとって、困難かつ緊急な任務である。
【0003】
結核病は気道伝染病であるが、伝染病の予防・制御にとっては、ワクチンが最も有効な手段である。これまで唯一の結核病ワクチンとして、BCGワクチンは弱毒化生ワクチンであって、該弱毒化生ワクチンは、フランスのCalmette とGuerinがウシ結核菌を13年間連続して、230世代も継代培養し、弱毒化させて、1921年に開発し上がったものである。この二人の医者の偉大な貢献を記念するために、結核病予防用ワクチンをカルメット-ゲラン菌(Bacillus Calmette Guerin;「BCG」と略称)と名付けた。当時、凍結保存はなく、菌系を斜面培養するほか仕方がないため、且つ戦争などのため、最初のBCG菌系が失われたかもしれないが、現在、全世界では各種の菌系を用いて、BCGワクチンを生産している。中国ではデンマーク菌系が利用されている。BCGは、結核性髄膜炎、粟粒性結核症などの児童重篤結核病を予防できる新生児接種ワクチンであるが、肺結核病に対する予防効果は確認されていなかった(Baily GV, et al, Ind. J. Med. Res., 72:1-74, 1980)。BCGは、環境中のミコバクテリウムに曝された、或いは結核菌に感染された個体群に保護効果はない(Brandt L., et al. Infect. Immun., 70:672-678, 2002)。そのため、中国では、2000年に成年人BCGワクチン接種を中止した。結核病診断を高めるために、結核病低発病率国家では、既に新生児BCGワクチン接種をも中止した。免疫機能低下・不全個体群は結核病感受性個体群である。しかし、BCGは、生ワクチンであるため、上述個体群、例えばAIDS患者の結核病予防に適用できない。
【0004】
1980年代中後期のアメリカにおいて、結核病が再び上昇し始め、それをきっかけに、新型結核病ワクチンの創製は全世界に注目され、前世紀末、結核病ワクチン創製グループがWHOによって成立された。
【0005】
中国は結核病発病域で、約5.5億人が結核菌に感染され、その中でも、10%の感染者が結核病までに進展することになる。結核菌感染個体群の結核病への進展を予防することは、結核病発病率を低下できるため、結核病の制御において、半分の労力で倍の効果を得られる。ハイリスクグループは、通常、イソニアジドの経口投与により予防をするが、長期投与は必要であるため、服用し続けるのが困難である。それに、イソニアジドは通常末梢神経炎、肝機能損傷などの副反応、特に癲癇発生、神経障害発生、自律神経機能障害などの特別副反応を有している(Guo L, et al. Chinese Journal of Coal Industry Medicine, 3(9): 940-941,2000)。この原因で、取り扱いやすく、副反応が小さいことから、ハイリスクグループは、ワクチンにより予防をすることが好ましい。
【0006】
報道された結核病新型ワクチンは、菌体生ワクチン(弱毒化生ワクチン、組換えBCGなど)と非菌体生ワクチン(蛋白サブユニットワクチン、DNAワクチンなど)の二種類に分けられる。弱毒化生ワクチンは、一般的にロイシン合成欠損菌系のような栄養要求菌である。例えば、fadD26遺伝子変異結核菌菌系において、phthiocerol dimycocerosates合成のためのfadD26遺伝子産物はアセチル-CoAに似ていて、当該fadD26が突然変異すると、結核菌の毒力が低下することが報道された(Infant E, et al. Clinical and Experimental Immunology, 141:21-28, 2005)。弱毒化菌系には、先祖返りの恐れがある(Sampson SL, et al, Infect. Immun., 72:3031-3037, 2004)。菌体生ワクチンは、免疫機能低下個体群に接種不能である上、BCGと同様に、感染された個体群に保護効果はない可能性がある。DNAワクチンが世に出たとたん、体細胞免疫を促進するため、結核病DNAワクチンの研究は、多くの文献に報道され、ホットポイントになったのである(Sugawara I, et al ., Tuberculosis. 83:331-337, 2003)。DNAワクチンは、コード遺伝子と真核ベクターとを連結することにより、組換え真核発現ベクターを構築し、大腸菌により組換えプラスミドを増幅した後、組換え発現ベクターDNAを抽出して十分精製し、裸DNAとして筋肉投与により接種する。各グループの研究結果から、治療用ワクチンとして、DNAワクチンと蛋白サブユニットワクチンは、安全性、信頼性に優れ、比較的十分な効果が得られる。
【0007】
抗原選択は、DNAワクチンと蛋白サブユニットワクチンの研究にとって、極めて重要である。単一抗原の動物結核菌感染に対する保護効果が不十分なため、これよりも、単一蛋白の複数併用又は融合蛋白のほうが効果に優れる。抗原併用は、融合蛋白の様態でもよいし、複数の抗原をカクテルの様な簡単配合でもよく、DNAや組換え蛋白または結核菌培養液からの分泌蛋白などが用いられると報道された(Robert A.D., Immunology, 85: 502-508, 1995)。Ag85B(Rv1886c)蛋白とESAT-6(Rv3875)蛋白とを1:1の比で配合してマウスに接種する効果は、ESAT-6蛋白単独接種の効果より優れるが、Ag85B蛋白単独接種又はAg85B-ESAT-6融合蛋白接種の効果に及ばないこと(Olsen AW, et al, Infect. Immun., 72:6148-6150, 2004)、及び、 Ag85B DNAワクチンとMPT64(Rv1980c) DNAワクチンとMPT83(Rv2873) DNAワクチンとを1:1:1の比で配合してウシに接種することが報道された(Cai H, et al, Vaccine, 23:3887-3895, 2005)。単一組換え抗原の配合と融合蛋白とを比較すると、前述のように、融合蛋白の方は、効果が優れるばかりではなく、生産の観点から見れば、組換え蛋白二つよりも、融合蛋白一つの調製のほうが経済的で簡便であることが分かる。近年来、Ag85B-ESAT-6、ESAT-6-Ag85B、Mtb72F(mtb39-Ag85B)などを含む融合蛋白のDNAワクチンや蛋白サブユニットワクチン、組換えBCGの研究への応用が、多く報道された(Langermans JAM, et al. Vaccine, 23:2740-2750, 2005, Neinnich Olsen A., et al, Infect. Immun., 69: 2773-2778, 2001)。
【0008】
中国では、薬物耐性患者が多く、約30%の患者が薬物耐性を示しているが、この40年以来、新しい結核病化学治療薬の発売はまったくなかったばかりか、結核病薬物の高い耐性率も結核病化学治療の難題となった。これまで、薬物耐性患者及び難治患者を助ける手段として、免疫治療により化学治療効果を高める方法が使用されている。臨床用結核病免疫治療薬として、主にthymopolypeptides for injectionやfreeze-dried M. Vaccae Vaccine for Therapy-Vaccaeが挙げられる。Thymopolypeptideは発熱などの有害反応を有する一方、M. Vaccaeの細胞破砕により調製された、「Vaccae」という無細胞細菌性ワクチン(王国治、中国抗結核雑誌、2002)が、2001年に市販され、結核病免疫治療または結核菌感染者の予防治療に用いられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、免疫原性が強く、副作用が小さい結核病予防または治療可能なワクチンが期待されている。本発明は、発現量が菌体蛋白総量の33%〜38%を占め、先行技術におけるマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白の組換え発現量よりもずっと高く、臨床応用の要求を満たし得る融合蛋白を提供する。且つ、該融合蛋白は、マイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する免疫反応を著しく促進できるため、結核病予防または治療用ワクチンとして、結核病の予防、治療、診断、疫学調査及びモニタリングに利用できる。新型結核病ワクチンとして創製された、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白は、BCGの補助品或いは代用品として、結核病の予防及び治療に新しいアプローチを与える。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明には、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列、或いは当該アミノ酸配列において1個若しくは複数個のアミノ酸(1〜50個のアミノ酸が好ましく、更に1〜35個のアミノ酸が好ましく、更に1〜25個のアミノ酸が好ましく、更に1〜15個のアミノ酸が好ましく、更に1〜5個のアミノ酸が好ましい)が置換、欠失、または挿入したアミノ酸配列を含み、且つ結核菌抗原免疫原性を有するマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質が開示された。
【0011】
本発明の一様態において、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質が、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列において1個若しくは複数個のアミノ酸(好ましくは1〜50個のアミノ酸、更に好ましくは1〜35個のアミノ酸、更に好ましくは1〜25個のアミノ酸、更に好ましくは1〜15個のアミノ酸、更に好ましくは1〜5個のアミノ酸)が置換、欠失、または挿入したアミノ酸配列を有し、且つ結核菌抗原免疫原性を有している。
【0012】
本発明の一具体様態において、前記融合蛋白質が、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列からなるものである。
【0013】
本発明は、前記マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質をコードするポリヌクレオチド配列に関する。上述ポリヌクレオチド配列として、SEQ ID NO:3と80%、好ましくは85%、更に好ましくは90%、更に好ましくは95%、更に好ましくは96%、更に好ましくは97%、更に好ましくは98%、更に好ましくは99%、最も好ましくは100%の相同性を有し、且つ結核菌抗原免疫原性を有する蛋白質をコードする塩基配列が挙げられる。
【0014】
本発明は、更に前記ポリヌクレオチド配列を含むベクター、及び前記ポリヌクレオチド配列又は前記ベクターを含む宿主細胞に関する。前記ベクターとして、原核生物ベクターが好ましく、更にヘテロ型PET28a-c、PET24a-d、PET30a、PET22b(+)又はPET15bプラスミドが好ましいが、前記宿主細胞として、原核宿主細胞が好ましく、更に大腸菌BL21(DE3)又はHMS174(DE3)が好ましい。
【0015】
また、本発明は、更に以下の工程を含む、前記マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を製造する方法に関する:
1)本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質をコードするポリヌクレオチド配列を調製する工程;該ポリヌクレオチド配列として、SEQ ID NO:3に示されるポリヌクレオチド配列が好ましい。
2)前記ポリヌクレオチド配列をベクターに組み込む工程;該ベクターとして、原核生物ベクターが好ましく、更にヘテロ型PET28a-c、PET24a-d、PET30a、PET22b(+)又はPET15bプラスミドが好ましい。
3)前記ベクターを宿主細胞に導入する工程;該宿主細胞として、原核宿主細胞が好ましく、更に大腸菌BL21(DE3)又はHMS174(DE3)が好ましい。
4)前記宿主細胞を、前記ポリヌクレオチド配列が発現可能の条件で培養する工程。及び
5)前記蛋白質を収集・精製し、再生させる工程。
【0016】
一様態において、前記マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質は、ストリンジェントな条件、好ましくは低度、中度又は高度ストリンジェントな条件で、更に好ましくは中度ストリンジェントな条件で、最も好ましくは高度ストリンジェントな条件でSEQ ID NO:3に示されるポリヌクレオチド配列とハイブリダイズするポリヌクレオチド配列にコードされ、且つ前記ポリヌクレオチド配列にコードされたマイコバクテリウム・ツベルクローシス蛋白質が結核菌抗原免疫原性を有する。
【0017】
本発明の好ましい一様態において、本発明の融合蛋白質は、以下の工程を含む方法により調製される:
1)SEQ ID NO:3に示されるポリヌクレオチド配列を調製する工程;
2)前記ポリヌクレオチド配列をヘテロ型PET28a-c、PET24a-d、PET30a、PET22b(+)又はPET15bプラスミドに組み込む工程;
3)前記プラスミドを大腸菌BL21(DE3)又はHMS174(DE3)宿主細胞に導入する工程;
4)前記宿主細胞を、前記ポリヌクレオチド配列が発現可能の条件で培養する工程;及び
5)前記蛋白質を収集・精製し、再生させる工程。
【0018】
本発明は、前記マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を含む組成物、及び、前記マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質又はその組成物を含む結核病診断用キット或いは結核病治療用キット(article of manufactory)に関する。
【0019】
本発明は、更に前記マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、その組成物、又は当該融合蛋白質をコードする核酸を含む結核病予防用又は免疫治療用ワクチンに関する。前記ワクチンには、蛋白サブユニットワクチン、混合ワクチン又はDNAワクチンが含まれる。
【0020】
本発明の一技術方案は、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、その組成物、又は当該融合蛋白質をコードする核酸の、結核病を予防・治療するための応用に関する。このような応用として、結核病予防のために健康個体群(結核菌未感染個体群と結核菌感染個体群を含む)にワクチンを接種する応用、免疫を強化するために結核病患者に対する常用の抗結核病化学治療に補助的免疫治療を提供する応用、などが挙げられる。特に、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、その組成物、又は該当融合蛋白質をコードする核酸は、結核菌未感染個体群、結核菌感染未発病個体群、抗結核病化学薬治療耐性の結核病個体群、又は遷延性慢性結核病個体群の結核病予防・治療に適用できる。又、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、その組成物、又は当該融合蛋白質をコードする核酸は、抗結核病化学治療薬物と、同時或いは順次に併用できる。前記抗結核病化学治療薬物として、Isoniazid (INH)、Streptomycin (SM)、Sodium Para-aminosalicylate (PAS)などの常用第一線薬;Rifampicin (RFP)、Kanamycin (KM)、Ethambutol (EB)などの制御用第一線薬;Pyrazinamide (PZA), Capreomycin (CPM), Ethinamide (1314Th), Thioacetazone (TB1)などの常用第二線薬;Ofloxacin、Ciprofloxacin、SparfloxacinなどのCarbostyril類新型抗結核薬;Rifamdin (RFD)、Rifapentine (RFT)、Rifabutin (RBU)、CGP類長時間作用型リファマイシン(例えば、CGP27557、CGP29861など)などのリファマイシン誘導体;Clarithromycin、Roxithromycin、Azithromycinなどのマクロライド系;Amoxicillin-clavulanic acid, Ampicillin-clavulanic acid, Ticarcillin-clavulanic acidなどのβ-ラクタム類;Amikacinなどのアミノグリコシッド類;Rifamate(INHとRFPを混合して製造したカプセル剤)、Rifater(INH、RFPとPZAで製造した糖衣錠)などの抗結核複合薬(数種の薬物を特定の量で配合してなったもの)が挙げられる。
【0021】
本発明は、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、組成物、ワクチン、薬剤又は当該融合蛋白質をコードする核酸を、対象患者へ投与する工程を含む結核病を予防又は治療する新規方法に関する。例えば、結核病予防のために健康個体群(結核菌未感染個体群と結核菌感染個体群を含む)への投与、免疫強化を目指し、常用の抗結核病化学治療に補助的免疫治療を提供するために、結核病患者への投与、抗結核病化学薬治療耐性の慢性結核病個体群、又は遷延性慢性結核病個体群の結核病を予防・治療するために、慢性結核病患者への投与、などが挙げられる。
【0022】
前記方法において、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質は、抗結核病化学治療薬物と同時に又は任意の順序で併用できる。前記抗結核病化学治療薬物として、Isoniazid (INH)、Streptomycin (SM)、Sodium Para-aminosalicylate (PAS)などの常用第一線薬;Rifampicin (RFP)、Kanamycin (KM)、Ethambutol (EB)などの制御用第一線薬;Pyrazinamide (PZA), Capreomycin (CPM), Ethinamide (1314Th), Thioacetazone (TB1)などの常用第二線薬;Ofloxacin、Ciprofloxacin、SparfloxacinなどのCarbostyril類新型抗結核薬;Rifamdin (RFD)、Rifapentine (RFT)、Rifabutin (RBU)、CGP類長時間作用型リファマイシン(例えば、CGP27557、CGP29861など)などのリファマイシン誘導体;Clarithromycin、Roxithromycin、Azithromycinなどのマクロライド系;Amoxicillin-clavulanic acid, Ampicillin-clavulanic acid, Ticarcillin-clavulanic acidなどのβ-ラクタム類;Amikacinなどのアミノグリコシッド類;Rifamate(INHとRFPを混合して製造したカプセル剤)、Rifater(INH、RFPとPZAで製造した糖衣錠)などの抗結核複合薬(数種の薬物を特定の量で配合してなったもの)が挙げられる。
【0023】
本発明は更に、本発明の融合蛋白質を用いて皮膚アレルギー試験或いは血清学試験をする工程を含む、結核病を診断・スクリーニングする方法に関する。一様態において、前記アレルギー試験は、Mantoux testなどの当業者慣用の皮内接種試験を含んでいる。
【0024】
本発明は、更に本発明の融合蛋白質により、結核病の疫学調査又はモニタリングをする方法に関する。その例として、Mantoux testにより、個体群をスクリーニングするものが挙げられる。中でも、皮膚試験で陽性(特に強い陽性)の反応を示す健康個体群は、疫学モニタリングが必要な個体群と認められる。本発明の一技術方案は結核病予防・治療用薬剤又はワクチンの製造における、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、その組成物、又は該当融合蛋白質をコードする核酸の応用に関する。前記薬剤又はワクチンは、例えば、健康個体群(結核菌未感染個体群と結核菌感染個体群を含む)、抗結核病化学薬治療を受けている結核病患者、抗結核病化学薬治療耐性の結核病個体群、又は遷延性慢性結核病個体群の結核病を予防・治療するために用いられる。前記薬剤は上述抗結核病化学薬、好ましくは、Streptomycin (SM)、Kanamycin (KM)、Isoniazid (INH)、Rifampicin (RFP)、Rifamdin(RFD)、Pyrazinamide (PZA)、Ethambutol (EB)、Capreomycin (CPM)、Sodium Para-aminosalicylate (PAS)、quinolonesなどを含んでもいい。
【0025】
本発明は、更に本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質、又は該蛋白質をコードする核酸を含む結核病診断用キット或いは結核病予防・治療用キット(article of manufacture)に関する。前記キット或いはarticle of manufactureは、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質又はそれをコードする核酸を入れた容器を含む。前記article of manufactureは、更に上述抗結核病化学薬を入れた容器を含んでもいいし、また、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質又は当該蛋白質をコードする核酸と、抗結核病化学治療薬物とを同時に又は順次に使用することについての用法説明を更に含んでもいい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列、或いは当該アミノ酸配列において1個若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、または挿入したアミノ酸配列を含む融合蛋白質に関する。一般的に、当該融合蛋白質は、結核菌抗原免疫原性を有する限り、SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列と、少なくとも80%のアミノ酸配列同一性、好ましくは少なくとも85%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも90%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも91%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも92%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも93%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも94%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも96%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも97%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも98%のアミノ酸配列同一性、更に好ましくは少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有してもいい。ここで、アミノ酸配列同一性(%)は、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2又はMegalign (DNASTAR)などの公衆利用可能なコンピュータソフトウェアを使う公知の方法で確定できる。当業者は、配列アラインメントを実施するための、比較する配列全長においてマッチを最大化させるアルゴリズムなどの適当なパラメーターを確定できる。
【0027】
免疫原性を有する、本発明の融合蛋白質の立体構造と抗原エピトープは、公知のオンラインソフトウェアとデータベースにより解析される。例えば、オンラインソフトウェアを使って、データベース:www.expasy.chにより、SYFPEITHI解析を行うことができる。例えば、本発明の蛋白質のHLA-A*6801 15-mers、HLA-DRB1*0101 15-mers、HLA-DRB1*0301(DR17)15-mers、HLA-DRB1*0401(DR4Dw4) 15-mers、HLA-DRB1*0701 15-mers、HLA-DRB1*1101 15-mers、及びHLA-DRB1*1501(DR2b) 15-mersなどのエピトープを解析することにより、SEQ ID NO:4において、約1〜32番目のアミノ酸、約53〜92番目のアミノ酸、約118〜186番目のアミノ酸、約203〜293番目のアミノ酸、約321〜367番目のアミノ酸、約377〜400番目のアミノ酸、及び約417〜477番目のアミノ酸が、融合蛋白質免疫原性エピトープの構成と密接な関係を持つことが分かった。そのため、本発明の特に好ましい融合蛋白質は、SEQ ID NO:4の上記アミノ酸領域の中の少なくとも1領域、少なくとも2領域、少なくとも3領域、少なくとも4領域、少なくとも5領域、少なくとも6領域又は少なくとも7領域を含んでもいいし、又は、上記アミノ酸領域の中の少なくとも1領域、少なくとも2領域、少なくとも3領域、少なくとも4領域、少なくとも5領域、少なくとも6領域又は少なくとも7領域が保存的置換のみを含んでなるものを含んでもいい。本発明では、SEQ ID NO:4を含む、或いはSEQ ID NO:4からなる融合蛋白質がもっとも好ましい。
【0028】
一様態において、本発明は、マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質の機能性断片を提供した。例えば、SEQ ID NO:4に示される融合蛋白質と比べ、上記断片には、融合蛋白質の生物活性に必要でないアミノ酸残基が欠失されている。このようなアミノ酸残基として、SEQ ID NO:4の33〜52番目のアミノ酸、93〜117番目のアミノ酸、294〜320番目のアミノ酸、187〜202番目のアミノ酸、368〜376番目のアミノ酸又は401〜416番目のアミノ酸が挙げられる。
【0029】
一様態において、本発明は、SEQ ID NO:4に示される融合蛋白質の機能性変異体を提供した。SEQ ID NO:4全長配列又は本明細書の上記エピトープドメインにおける変異は、例えば、アメリカ特許5,364,934号に記載された保存的置換と非保存的置換についての示唆など、任意の技術によって作成することができる。また、走査アミノ酸を用いて配列を解析し、1個以上のアミノ酸を同定してもいい。走査アミノ酸としては、比較的に小さな中性アミノ酸が好ましい。このような中性アミノ酸として、アラニン、グリシン、セリン、およびシステインが挙げられる。中でも、アラニンは、β-炭素原子以外の側鎖を持たなく、且つ変異体の主鎖配座を変化させる可能性が低いことから、一般的に好ましい走査アミノ酸である(Cunningham & Wells, Science, 244: 1081-1085(1989))。アラニンが好ましい走査アミノ酸であるもう一つの原因は、それがもっとも普通なアミノ酸であり、埋められた部位にも暴露された部位にもよく見出されることである(Creighton, The Proteins, (W.H. Freeman & Co., N. Y.); Chothia, J.Mol.Biol., 150; 1(1976))。アラニン置換により十分な量の変異体が形成されない場合、それと機能的に同等なその他のアミノ酸も用いられる。
【0030】
アミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換(ロイシン→イソロイシンのように、あるアミノ酸がそれと類似する構造及び/又は化学特性を有する別のアミノ酸に置換されること)であってもいい。挿入または欠失は、1〜5個アミノ酸の範囲で任意に行われる。アミノ酸配列において、系統的にアミノ酸の挿入、欠失または置換を導入し、得られた変異体のSEQ ID NO:4に示される融合蛋白質の免疫原活性を検出することにより、許される変異を確定することができる。
【0031】
具体的な様態において、保存的置換は、本発明の融合蛋白質の変異体の調製に有利である。このような保存的置換として、以下の表に示した置換が挙げられるが、中でも、「好ましい置換」欄に示した置換が好ましい。
最初の残基 例示性置換 好ましい置換
Ala (A) Val;Leu;Ile Val
Arg (R) Lys;Gln;Asn Lys
Asn (N) Gln;His;Lys;Arg Gln
Asp (D) Glu Glu
Cys (C) Ser Ser
Gln (Q) Asn Asn
Glu (E) Asp Asp
Gly (G) Pro;Ala Ala
His (H) Asn;Gln;Lys;Arg Arg
Ile(I) Leu;Val;Met;Ala;Phe;norleucine Leu
Leu (L) norleucine;Ile;Val;Met;Ala;Phe Ile
Lys (K) Arg;Gln;Asn Arg
Met (M) Leu;Phe;Ile Leu
Phe (F) Leu;Val;Ile;Ala;Tyr Leu
Pro (P) Ala Ala
Ser (S) Thr Thr
Thr (T) Ser Ser
Trp (W) Tyr;Phe Tyr
Tyr (Y) Trp;Phe;Thr;Ser Phe
Val(V) Ile;Leu;Met;Phe;Ala;norleucine Leu
【0032】
本発明の融合蛋白質は、マイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する免疫応答を産生させるように生体を刺激するエピトープを有し、免疫原活性を有するため、生体の結核菌に対する免疫応答を有効的に惹起できる。
【0033】
本願が提出するまでに、結核菌の38KD抗原をコードする配列と、ESAT-6抗原をコードする配列とを融合させて、融合蛋白質と結核病ワクチンを調製する報道はな見られなかった。WO2005061534号出願には、Ag85B、TB10.4、Ag85A、ORF2c及びRv0287抗原、又はこれらの類似物を土台として、様々な組み合わせにより融合ペプチドを調製することによって創製された、主な融合蛋白がAg85B-TB10.4である結核病ワクチンが開示された。中国特許CN1793367号は、抗結核病ワクチンとして、Ag85B-MPT64とMtb8.4により調製された組換え蛋白を開示した。中国特許CN1737153号は、Ag85B、ESAT-6とIFN-γでBCGを形質転換して組換えBCGワクチンを調製することに関する技術方案を開示した。
【0034】
昔から、学術界では、結核病免疫における液性免疫の役割について、論争しているが、強いT細胞部位を有するワクチンの構築に力を尽くしていた。38KDa蛋白は、強いB細胞部位を有する、マイコバクテリウム・ツベルクローシスの主な細胞内蛋白の一つであるが、ESAT-6は、T細胞増殖を刺激するマイコバクテリウム・ツベルクローシスの分泌蛋白質である。本発明者らは、上記蛋白質両者を融合させることによって、生体の結核菌に対する免疫応答を促進し(生体の細胞免疫応答と共に、体液性免疫応答をも著しく促進する)、融合蛋白質分子量が50KD程度であり、大腸菌発現に適合する融合蛋白質を構築できる。
【0035】
本明細書において、「免疫原活性」とは、抗原が生体免疫系統を刺激し、抗体及び/又はエフェクターリンパ球を産生させるという機能を意味する。免疫応答を惹起できる外因性抗原が生体を刺激することによる免疫応答は、細胞免疫と体液性免疫に分けられる(Lin X, et al., Modern Cellular and Molecular Immunology, 1-11, 1999)。液性免疫検出は例えば寒天二重拡散法、ELISAなどの公知方法で行われる。細胞免疫は、リンパ球増殖、形質転換、リンパ球のサイトカインを分泌するレベル、過敏性皮膚試験などの慣用手段で検出できる[Olsen AW, et al, Infect. Immun., 72:6148-6150,2004]。
【0036】
「免疫応答」という用語は、生体が外来物質又は微生物に侵入されたときの免疫系統の反応を意味する。一般的に、免疫応答は互いに緊密に関連する特異性反応と非特異性反応に分けられる。非特異性免疫応答は、色々な外来物質及び感染物質を防ぎ止める即時防御であると考えられる。特異性免疫応答は、遅滞期を経てから産生され、外来物質を高特異性的に抵抗する、生体の外来物質に対する有効な防衛機構である。特異性免疫応答は、個体の微生物感染に対する抵抗にとっても、特異性感染から回復した個体の該特異性感染再感染に対する抵抗にとっても、重要な役割を果たしている。
【0037】
本発明の融合蛋白は、マイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する免疫応答を惹起又は強化することができるので、サブユニットワクチン、DNAワクチン又は複合ワクチンなどの予防性又は治療性結核病ワクチンに調製されることが可能である。当該ワクチンは、例えば、個体群にマイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する免疫力を与えるために、マイコバクテリウム・ツベルクローシスに感染されていない個体群に接種してもよく、発病予防のため、マイコバクテリウム・ツベルクローシスに感染されていても発病していない個体群に投与してもよく、又は、治療効果の向上、治療クールの短縮、抗結核病薬の有害作用の減少などの効果を果たすため、抗結核病薬補助性治療の手段として、結核病発病個体群に投与してもよい。
【0038】
生体が結核菌感染を抵抗する免疫応答において、CD4+Tリンパ球は、肝心かつ重要な役割を果たしている。異なるリンホカインの作用によって、CD4+Tリンパ球は、I類ヘルパーT細胞(Th1)及びII類ヘルパーT細胞(Th2)と呼ばれる両種類のヘルパーT細胞をなす。Th1免疫反応は、マクロファージの抗病原微生物機能を促進し、免疫保護作用を増強することができる。Th2免疫反応は、主に、抗体の産生を促進し、体液性免疫反応を増強することができる。マウス実験により、抗結核菌感染に関与するCD4細胞は、Th1型細胞応答であることが示された(Orme IM, et al. J. Infect Dis, 167:1481-1497, 1993; Andersen P, et al. J Immunol, 154:3359-3372, 1995)。Th1細胞に分泌されたIFN-γは、マクロファージを活性化させ、細胞内の結核菌を殺す(Flesch IE, et al. Infect Immun, 58: 2675-2677, 1990)。マクロファージは結核菌抗原を捕食、加工、提示し、そして、異なるリンホカインの作用によって、成熟T細胞を各種類のヘルパーT細胞に変化させる。マクロファージに産生されたIL-12は、Th1型を主要類型とするT細胞を反応させて、Th1細胞にIL-2及びIFN-γを産生させる。Th1細胞に産生されたIFN-γは、又、マクロファージを活性化させる。マクロファージに産生されたTNF-α及びTGF-βが、結核肉芽腫の病理的変化を起こすと共に、免疫保護作用を果たしている。一方、マクロファージに産生されたIL-10は、Th2型を主要類型とするT細胞を反応させて、Th2細胞にIL-4を産生させる。IL-4は、B細胞反応活性化の主要リンホカインであって、体液性免疫を誘導できる(Li Z, et al, A New Generation of Vaccine, 221-222, 2001; Kamath AT, et al, Infect Immun, 67:2867-2873, 1999)。IFN-γが結核菌感染に対する免疫反応において、重要であること、及びIL-12が、IFN-γを分泌させるようにTh1細胞を刺激することにより、抗結核作用を発揮することは、明らかに解析された。この現象は、ノックアウトマウスモデルにも実証された(Cooper AM, et al. J Exp Med, 178: 2243-3347, 1993; Cooper Am, et al. J Exp Med, 186:39-45, 1997)。β2-ミクログロブリン遺伝子ノックアウトマウスは、CD8+細胞反応が不十分であるため、結核菌感染に高感受性であることが報道された(Flynn JA, et al. Proc Natl Acad Sci USA 89: 12013-12017, 1992)。抗結核菌感染に関与すること等のCD8+細胞の保護免疫作用には、生体のIFN-γ産生が必要なことである(Tascon RE, et al. Infect Immun, 66: 830-834, 1998)。
【0039】
生体が結核菌感染を抵抗する免疫応答において、NOも肝心かつ重要な役割を果たしている。
【0040】
結核菌は、鼻腔を通じて肺に吸入される細胞内寄生菌であり、主に肺胞内マクロファージに寄生し、マクロファージを活性化させ、殺菌作用を有する酸素代謝中間物(O2-やH2O2などのROI)及び窒素代謝中間物(NOやNO-などのRNI)を産生する(Chan J, et al. Clinic Immunol, 110: 2-10, 2004)。一酸化窒素シンテターゼがIFN-γ及びTNF-αによって誘導発現され、NOの産生を促進する。これにより産生されたNOが、ファゴソーム内の微生物に作用する(Miller, et al. Infect Immun, 72:2872-2878, 2004)。肺胞内マクロファージにおいて、NOがアルギニンから一酸化窒素シンテターゼ触媒作用により生成される。NOは、活性化されたマクロファージが産生する活性化窒素代謝中間物であって、マクロファージ内における結核菌を有効に抑制し、死滅させることができる(Oka H, et al. Immunol Letters, 70:109-117, 1999)。
【0041】
本発明融合蛋白質の核酸配列として、SEQ ID NO:3と80%、好ましくは85%、更に好ましくは90%、更に好ましくは95%、更に好ましくは96%、更に好ましくは97%、更に好ましくは98%、更に好ましくは99%、最も好ましくは100%の相同性を有し、且つ結核菌抗原免疫原性を有する蛋白質をコードする核酸配列が挙げられる。
【0042】
他の様態において、本発明融合蛋白質をコードするポリヌクレオチドは、SEQ ID NO:3に示されるポリヌクレオチド配列とハイブリダイズする核酸分子、好ましくはストリンジェントなハイブリダイズ条件及び洗浄条件で、更に好ましく中度ストリンジェントな条件で、最も好ましくは高度ストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸分子であって、免疫原性を有する融合蛋白質をコードする核酸分子である。
【0043】
ハイブリダイズ反応の「ストリンジェント度」は、当業者がプローブの長さや洗浄温度、塩濃度により経験的に容易に確定される。一般的に、プローブが長いほど、適当なアニーリング温度が高い。ハイブリダイズは、融解温度よりも低い温度の環境に相補鎖が存在するときの変性DNAのアニーリング能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との相同性が高いほど、用いられる相対温度が高い。その結果、相対温度が高くなるほど反応条件も厳しくなり、その温度が低いほどストリンジェント度も下がる傾向がある。ハイブリッド反応の詳細について、Ausubel, et al., Current Protocols in Molecular Biology, Wiley Interscience Publishers, 1995を参考されたい。
【0044】
本発明に定義される「ストリンジェントな条件」と「高度ストリンジェントな条件」は、以下のように確定できる:(1)低イオン強度と高温度条件で洗浄を行う(例えば、50℃, 0.015M 塩化ナトリウム/ 0.0015M クエン酸ナトリウム/ 0.1% ドデシル硫酸ナトリウム); (2)ハイブリダイズ反応にホルムアミドなどの変性剤を用いる(例えば50% (v/v) ホルムアミドと0.1% ウシ血清アルブミン(BSA)/0.1% Ficoll/0.1% ポリビニルピロリドン (PVP)/50mM リン酸ナトリウム緩衝液, pH 6.5, 750mM 塩化ナトリウム、75mM クエン酸ナトリウムを含有、42℃);又は(3)42℃、50% ホルムアミド、5 x SSC (0.75M NaCl、0.075M クエン酸ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH 6.8)、0.1% ピロリン酸ナトリウム、5 x Denhardt’s溶液、50μg/mlの超音処理したサケ精子DNA、0.1% SDS及び10% 硫酸デキストランを使って、42℃の0.2 x SSC (塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)と55℃の50% ホルムアミドで洗浄を行い、そして、55℃のEDTA含有0.1 x SSCで高度ストリンジェントな洗浄を行う。
【0045】
「中度ストリンジェントな条件」は、上記より低いストリンジェント度の洗浄溶液及びハイブリッド条件(例えば、温度やイオン強度、%SDS)を用いて、Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Press, 1989の記載により、確定できる。中度ストリンジェントな条件の例として、20% ホルムアミド、5x SSC(150mM NaCl,15mMクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5 x Denhardt’s溶液、10% 硫酸デキストランと20mg/mlの変性、剪断されたサケ精子DNAを含有する溶液で37℃、徹夜インキュベートし、約37-50℃の1 x SSCで洗浄することが挙げられる。当業者は、プローブの長さなどの要因に応じて、イオン強度や温度を変化させることができる。
【0046】
本発明は、更に前記結核菌融合蛋白質を大量調製できる方法を提供する。
【0047】
一様態において、本発明は結核菌融合蛋白質構築体の調製を提供する。リンカーによって連結された二つの蛋白コーディング遺伝子が融合蛋白質コーディング遺伝子構築体を構成し、大腸菌に発現される。上記リンカーは、融合蛋白中の両蛋白に天然蛋白と類似する立体構造を形成させるような優れた柔軟性と折畳み性を有すれば、通常、疏水性アミノ酸のポリペプチドリンカーであってもよい。上記リンカーは、Ala-Alaでもよいが、(Gly4Ser)1-4であることが好ましい。
【0048】
本発明の好ましい一様態は、SEQ ID NO: 3に示されるマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質核酸構築体の構築に関する。SEQ ID NO: 3に示される核酸配列は、公知の方法で調製できる。即ち、結核菌蛋白質をコードする遺伝子配列に基づき、二つのプライマーセット(SEQ ID NO: 5と6、及びSEQ ID NO: 7と8の配列のプライマーが好ましい)を設計・合成し、SEQ ID NO: 3に示されるヌクレオチド配列をクローンした後、公知の方法を用いて、得られた配列を以下のように変異させる:1.N端から一番目のアミノ酸をコードする塩基を、GTGからATGに変異させる; 2.一番目のアミノ酸と二番目のアミノ酸の間に、トリプレットコードがGTGであるアミノ酸を挿入させる;3.両蛋白コーディング遺伝子の間にリンカーとしてGly-Gly-Gly-Gly-Serを挿入させる;4.終結コドンであるTAGをTAAに変化させる。ポリヌクレオチド配列構成の変化は、2次構造のような核酸の高次構造に影響することにより、当該核酸の宿主細胞内での発現レベルに影響を及ぼす。トリプレットコードの第2位に挿入した塩基は、A、G又はCであってもよく、第3位に挿入した塩基は、A、T又はCであってもよく、その他の塩基変異をしてもよい。リンカーは、(Gly4Ser)2、(Gly4Ser)3又は(Gly4Ser)4であってもよい。該リンカーは、N端蛋白をコードする遺伝子の増幅により挿入してもよく、C端蛋白をコードする遺伝子の増幅により挿入してもよい。
【0049】
融合蛋白質は、遺伝子工程方法によりSEQ ID NO: 3に示される核酸配列を発現ベクターに導入し、当該発現ベクターで宿主細胞を形質転換することによって、調製することができる。慣用方法により、発現構築体に本発明の結核菌融合蛋白質のcDNA又はDNA配列を有する核酸分子を含有させ、慣用方法により、細胞を形質転換する。「形質転換」とは、染色体以外の成分として、又は染色体組込みによって、DNAを複製可能な様態で生体に導入することを意味する。形質転換は、用いられる宿主細胞に応じて、当該細胞に適合する標準技術を採用して行う。通常、原核細胞又はその他の細胞壁を有している細胞には、Cohen, PNAS, 69:2110(1972)及びMandel et al, Journal of Molecular Biology, 53:154(1970)に記載の塩化カルシウムによるカルシウム方法が、適用できる。
【0050】
通常、原核生物を本発明のDNA配列構築体の発現に用いることが好ましい。原核生物として、大腸菌や枯草菌などの杆菌、Salmonella typhimuriumやSerratia marcesceusなどのその他のエンテロバクター属細菌、及びシュードモナス属の細菌が挙げられる。
一般的に、プラスミドベクターは、原核宿主細胞に適当したレプリコンと制御配列とを含有するものであれば、上記宿主細胞と併用できるが、本発明の蛋白をコードするDNA配列がPET28a-c、PET24a-d、PET30a、 PET22b(+) 又はPET15bベクターに挿入した組込み発現ベクターが好ましい。本発明の蛋白をコードする核酸とPET28a-c、PET24a-d、PET30a、 PET22b(+) 又はPET15bベクターと形成したヘテロ型プラスミドは、高い安定性を有するため、本発明の標的蛋白の発現に有利である。
【0051】
大腸菌RNAポリメラーゼはマイコバクテリウム・ツベルクローシスのプロモーターを認識できないが、T7ファージRNAポリメラーゼはT7ファージプロモーターしか認識できない。したがって、T7ファージプロモーターを使う場合には、発現のため、T7ファージRNAポリメラーゼをコードできる宿主細菌を用いなければならない。理論的に、(DE3)溶原菌を含む、蛋白が発現されるまでにT7ファージRNAポリメラーゼを産生しない宿主細菌であれば用いられる。例えば、HMS174(DE3),JM109(DE3)又はBL21(DE3)は、本発明の標的蛋白を効率よく発現でき、中でも、生産量がより高く、増殖速度が速く、生産効率に有利であることから、HMS174(DE3)とBL21(DE3)が好ましい。
【0052】
本発明の好ましい様態において、図1に示したように、SEQ ID NO:3に示されるポリヌクレオチド配列とPET28aプラスミドとを含む発現構築体を調製し、当該構築体でBL21(DE3)を形質転換し、IPTG (Sigma社製, Yao Bei Biology Companyから購入)の誘導下で4〜5時間培養を行った後、集菌した。標的蛋白の発現量は、ゲル吸光度走査により定量した結果、菌体蛋白総量の33%〜38%であった。得られた蛋白の分子量は、MS法により測定した結果、約48.4KDaであった。
【0053】
得られた蛋白は、公知な精製方法によって精製し、再生させることができる。公知な精製方法としては、例えば、イオン交換剤による吸着・脱着、超遠心、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィ、特異性精製方法などの方法が知られる。精製された本発明の蛋白は、例えば、ジチオスレイトールやジメルカプトエタノールなどの慣用再生剤により、再生させることができる。
【0054】
本発明において調製された融合蛋白質は、結核病を予防又は治療のためのサブユニットワクチンとして用いられる。前記サブユニットワクチンは、免疫原活性を有する有効成分からなるワクチンである。当該ワクチンには、病原微生物の免疫原活性を有しないかつ生体の有害反応を誘発できる成分は実質的に含まないため、免疫効果を高め、ワクチン投与後の有害反応を低下させることができる。よって、蛋白サブユニットワクチンは、より安全的、信頼的なものであるとは言える。
【0055】
本発明は、また本発明の融合蛋白質をコードする核酸によって調製されたDNAワクチンにも関する。DNAワクチンは、コーディング遺伝子と真核ベクターとを連結させ発現ベクターを構築し、大腸菌により組換えプラスミドを増幅した後、組換え発現ベクターDNAを抽出し、厳しく精製し、裸DNAを筋内注射により接種する。pJW4303、pVAX、pCDNA3.0などの真核ベクターがDNAワクチンの製作に用いられる。
【0056】
用いられるベクターが異なることを除いて、DNAワクチンの構築工程は組換え蛋白ベクターの構築工程と同じである。組換え蛋白構築ベクターの場合には、大腸菌などの宿主細胞に発現させた後、発現された蛋白を精製する必要があるが、DNAワクチンベクターの場合には、直接にプラスミドDNAを精製するだけでいい。
【0057】
本発明の融合蛋白質のコーディング遺伝子は、また組換えBCGの調製に用いられる。上記組換えBCGは、上記融合蛋白質のコーディング遺伝子をベクターに挿入させ、得られたベクターでBCGを形質転換させ、該蛋白質をBCGに発現させる。
【0058】
DNAワクチン、サブユニットワクチン及び組換えBCGの製作においては、ベクターは違うものを用いるが、抗原や融合抗原は通用できる。例えば、Kita Yらは、Mtb72f融合蛋白をBCGに導入し、組換えBCG菌系の72frBCGを構築した。モルモット試験から、該72frBCGは、BCGと同等な保護効果を有することが分かり、サル試験から、該72frBCGは、BCGと同等な保護効果を有するばかりではなく、臓器損傷を減軽できることが分かった(Kita Y, et al. Vaccine, 23: 2132-2135, 2005)。
【0059】
本発明の融合蛋白質は、複合ワクチンの成分として、結核病の免疫又は治療に用いられる。例えば、本発明のワクチンは、結核病予防のため、各種の抗原又はワクチンと、同時に又は順次に接種し、保護効果を高めることができる。
【0060】
本発明の一様態は、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質や上記蛋白質をコードする核酸を含む、結核病予防・治療用ワクチンに関する。
【0061】
本発明はまた、前記マイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を含む、結核病診断用キット或いは結核病予防又は治療用キット(article of manufactory)に関する。上記診断用キット又は治療用キットにおいて、本発明の融合蛋白質は、乾燥粉末として、使用前適当な濃度に希釈されて使われるように、存在することが好ましく、特定濃度の溶液として、存在してもよい。上記診断用キット又は治療用キットは、容器と、該容器に関連するラベルやパッキングインサート(packaging insert)とを含有してもよい。適当な容器として、瓶やバイアル、インジェクタなどが挙げられる。該容器は、例えばガラス、プラスチックなど各種の材料で作られてもよい。該容器は、本発明の融合蛋白質を含み、滅菌取付け口を有してもよい(例えば、皮内針で突き通せる栓を有するバイアルであってもよい)。上記ラベルやパッキングインセットには、本発明のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を結核病の予防、治療又は検出に用いる使用方法や、その他の薬剤と併用する用法が記載される。又、上記診断用キット又は治療用キットは、更に、薬学的に許容される緩衝剤を入れてもよい第二容器や第三容器を備えてもいい。緩衝剤として、注射用滅菌水(BWFI)、リン酸緩衝液、Ringer’s溶液、グルコース溶液などが挙げられる。又、上記診断用キット又は治療用キットは、結核病に対する化学治療薬を含有してもよい。上記キットは、緩衝液、希釈剤、フィルター、注射針、インジェクタなどの、ユーザーのニーズに合わせる材料を含んでもいい。
【0062】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を診断・スクリーニング用キットに調製し、結核病の簡便、迅速、精確な検出に用いることができる。当該キットの利点は、大規模結核病疫学調査及びモニタリングにおいて、さらに示される。
【0063】
結核病検出用キットにおいて、本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質は、標識されたものであってもよい。具体的に、酵素、蛍光物質、発光物質、放射性物質、金属キレート化合物などで標識することができる。好ましい標識用酵素として、例えば、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、ブドウ球菌由来ヌクレアーゼ、δ-5-ステロイドイソメラーゼ、α-グリセロールリン酸脱水素酵素、三糖リン酸イソメラーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素、グルコアミラーゼ、及びアセチルコリンエステラーゼなどが挙げられる。好ましい蛍光物質として、イソチオシアン酸フルオレスセイン,フィコビリ蛋白質,ローダミン,フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、O-フトアルデヒドなどが挙げられる。好ましい発光物質として、イソルミノール,lucigenin,ルミノール,芳香性アクリジニウムエステル,イミダゾル,アクリジニウムの塩及び改性されたエステル, ルシフェリン,ルシフェラー及びエクオリンなどが挙げられる。好ましい放射性物質として、125I、127I、131I、14C、3H、32P、35Sなどが挙げられる。好ましい金属キレート化合物として、金コロイドなどが挙げられる。
【0064】
上記ラベルの結合方法は公知であり、具合的に、直接又は間接標識法が用いられる。慣用な直接標識法は、架橋剤によって本発明の蛋白を標識物と化学結合させる方法である。架橋剤として、N,N′-o-フェニレン-ジ-マレイミド、N-サクシニミジル 4-(N-サクシニミジルメチル) シクロヘキサナート、N-サクシニミジル 6-サクシニミジルヘキサナート、4,4’-ジチオピリジン、及びその他の公知架橋剤が挙げられる。間接標識法の例として、本発明の蛋白をビオチン、ジニトロベンゼン、ピリドキサール、又はフルオレスカミンなどの小分子ハプテンと結合させる方法や、本発明の蛋白をハプテンの結合配基で間接標識する方法が挙げられる。アビジンとストレプトアビジンは、ビオチンを認識する配基として用いられる。
【0065】
標識物質が酵素である場合、当該酵素の基質及び発色剤が、その酵素の活性の測定に用いられる。カタラーゼの場合には、基質としてH2O2が用いられ、発色剤としてABTS、5-アミノ基サリチル酸、o-フェニレンジアミン、4-アミノ基アンチピリン又は3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンなどが用いられる。アルカリホスファターゼの場合には、基質としてo-ニトロフェニルリン酸、p-ニトロフェニルリン酸などが用いられる。β-D-ガラクトシダーゼの場合、基質としてフルオレセイン-ジ-(β-D-ガラクトピラノシド)、4-メチルウンベリフェリル-β-D-ガラクトピラノシドなどが用いられる。
【0066】
本発明は、本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を含む試薬又はキットを用いて、結核病診断補助のために又は結核病患者と疑われる個体をスクリーニングするために、個体(例えば、結核病と疑われる患者、疫区個体群又は結核病感染のリスクのある個体)を検出することに関する。
【0067】
一様態において、結核病の補助実験室診断は慣用の血清学方法で行われる。例えば、本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を含む試薬又はキットを用いて、血清、脳脊髄液などの体液におけるイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体を検出することができる。イコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体を検出する方法として、間接測定(例えば、本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を固体担体に吸着させ、測定される血清を添加し、対応する抗体が存在すれば抗原と担体上で抗体-抗原複合体を成し、洗浄後、酵素で標識した抗-抗体又は金コロイドで標識した抗-抗体を添加し、発色させて、その結果を観察する方法)が挙げられる。上記間接測定方法として、例えば、ELISA法、ドット-酵素免疫濾過法、ドット-金コロイド免疫濾過法などが挙げられる。又、血清学測定には、サンドイッチ法を用いてもよいし(例えば、検出される試料を不溶性担体に結合した本発明の活性蛋白質及び標識された本発明の蛋白質と反応させ、当該反応により生成されたサンドイッチ複合体における抗体の量を検出する方法)、イコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体を競合アッセイにより検出してもよい(例えば、標識されたイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体と、試料におけるイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体とを、本発明の蛋白と競合的に反応させ、本発明の蛋白と反応した標識されたイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体の量によって、試料におけるイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体の量を定量する方法)。試料におけるイコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体の力価は、コントロールより、1〜4倍、好ましくは2〜3倍、更に好ましくは2倍高ければ、臨床において、結核病補助診断に有用であるし、結核病疫学調査においても、モニタリングに有用である。
【0068】
イコバクテリウム・ツベルクローシスに対する抗体を含有する限り、任意の生物試料(例えば、血漿、血清、血液、尿、組織液又は脳脊髄液などの体液)でも、本発明の蛋白質や、該蛋白質を含む組成物又はキットにより検出できる。
【0069】
一様態において、本発明の蛋白質は、結核病に慣用の皮内接種皮膚試験により、結核病補助診断又は結核病疫学調査とモニタリングを行うことができる。例えば、Mantoux法では、使い捨て式1 ml滅菌シリンジを用いて、本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス蛋白0.1 mlを吸い取り、左上膊掌側の下から1/3の位置に皮内注射し、小丘が見出されると、注射成功と認める。そして、注射した24時間後、注射された局所における赤い腫れ或いは皮下硬結塊の横径及び縦径(mm)を測定する。注射された局所における赤い腫れ(或いは硬結塊)の平均横、縦径が5 mm以上であれば、陽性と認め、平均横、縦径が5 mm未満(又は、反応なし)であれば、陰性と認める。結核病疫学調査において、皮膚試験試薬を皮内接種した後、皮膚試験に対して、陽性特に強い陽性を示した健康個体群は、流行病予防のために、モニタリングすべき主要個体群である。
【0070】
上記結核病の血清学測定又は皮膚試験に用いられる、本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス蛋白質を含む試薬又はキットは、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【0071】
実施例
以下、実施例により、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【実施例1】
【0072】
イコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質の調製
38KDa(Rv0934)遺伝子のPab配列及びESAT-6(Rv3875)遺伝子の配列に基づいて、PCRプライマーを二セット設計、合成した。SEQ ID NO: 5に示されるように、Pab上流プライマーは38bpであり、その5’端に保護塩基とNCOI制限部位(開始コドンATGを含む)を設計した。SEQ ID NO: 6に示されるように、Pab下流プライマーは40bpであり、その5’端にBamHI制限部位とリンカーを設計した。該プライマーのPCR増幅産物を1.2%アガロースゲル電気泳動にかけ、設計どおりに、UV検出により、1151 bp程度の特異性バンドが見つけられた。SEQ ID NO: 7に示されるように、ESAT-6コード遺伝子に対する上流プライマーは32bpであり、その5’端に保護塩基とBamHI制限部位を設計した。SEQ ID NO: 8に示されるように、ESAT-6下流プライマーは33bpであり、その5’端にHindIII制限部位と終止コドンTAAを設計した。該プライマーのPCR増幅産物を1.2%アガロースゲル電気泳動にかけ、設計どおりに、UV検出により、300 bp程度の特異性バンドが見つけられた。
【0073】
上記38KDa(Rv0934)遺伝子のPab配列のPCR増幅産物を以下のように変異させた:第一蛋白の1番目アミノ酸のトリプレットコードGTGをATGに変化させ、1番目のアミノ酸と2番目のアミノ酸の間に、Val(トリプレットコードがGTG)を挿入させ、両蛋白の間に連結配列としてGGAGGTGGAGGATCC-(SEQ ID NO: 9)を挿入させ、且つ、終結コドンであるTAGをTAAに変化させた。マイコバクテリウム・ツベルクローシスH37RvのゲノムDNAを鋳型とし、Taq PlusI DNAポリメラーゼ(from Shanghai Sangon Biological Engineering Technology & Services)によるPCR技術により、Pabコード遺伝子、リンカー、及びESAT-6コード遺伝子を得た。上記両遺伝子をリガーゼにより連結させ、SEQ ID NO: 3に示される本発明の蛋白のポリヌクレオチドを得た。上記GGAGGTGGAGGATCCにおいて、1〜4番目アミノ酸のトリプレットコードの3番目の塩基は、A、T、G又はCであってもよく、5番目アミノ酸のトリプレットコードのTCCは、TCT、TCA、TCG、AGT又はAGCに変化してもよい。
【0074】
上記PCR増幅されたリンカー付けPab産物、及び発現ベクターをNcoIとBamHI (New England Biolab製, Friendship Biotechnology Co.,Ltdから購入)で切断し、1.0%アガロース(Sigma製, Beijing Dingguo Biotechnology Co.,Ltdから購入)ゲル電気泳動により分離した後、DNAバンドを含むゲル塊を切り出し、DNA fast purification kitを使って、説明書にしたがってDNAを回収した。T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs製, Friendship Biotechnology Co.,Ltdから購入)により、回収されたポリヌクレオチドを、PET28aプラスミド発現ベクター(Invitrogen製)と連結させ、得られた組換えヘテロプラスミド1(P38)でコンピテントE. coli DH5α (Beijing Dingguo Biotechnology Co.,Ltdから購入)を形質転換した。組換えヘテロプラスミドを含むE. coli DH5αは、組換え大腸菌コロニーをスクリーニングすることによって、組換えヘテロプラスミド1の単独切断及び二重切断のパターンが図1と一致するように選出、同定した。DNA配列決定により、組換えヘテロプラスミド1に挿入した標的遺伝子の配列が設計どおりであることが確認された。組換えヘテロプラスミド1及びESAT-6コード遺伝子をBamHIとHindIII (New England Biolabs製, Friendship Biotechnology Co.,Ltdから購入)で切断し、1.0%アガロース(Sigma製, Beijing Dingguo Biotechnology Co.,Ltdから購入)ゲル電気泳動により分離した後、DNAバンドを含むゲル塊を切り出し、DNA fast purification kitを使って、説明書によりDNAを回収した。T4 DNAリガーゼにより、回収されたポリヌクレオチドを、組換えヘテロプラスミド1と連結させ、得られた組換えヘテロプラスミド2(P3810)でコンピテントE. coli DH5αを形質転換した。組換えヘテロプラスミド2を含むE. coli DH5αは、組換え大腸菌コロニーをスクリーニングすることによって、組換えヘテロプラスミド2の単独切断及び二重切断のパータンが図1と一致するように選出、同定した。DNA配列決定により、組換えヘテロプラスミド2に挿入した標的遺伝子の配列が設計どおり(ESAT-6遺伝子配列)であることは確認された。標的遺伝子の配列が設計どおりである組換えヘテロプラスミド2で、発現宿主菌の大腸菌BL21(DE3)(Beijing Dingguo Biotechnology Co.,Ltdから購入)を形質転換し、形質転換した組換え大腸菌を吸光度が0.6−0.8まで培養した後、0.5 mmol/L〜1 mmol/LのIPTGを添加し、4〜5時間誘導培養して、集菌した。ゲル吸光度測定の結果から、誘導培養において、標的蛋白の発現量は菌体蛋白総量の30%〜38%であることがわかった。本発明の蛋白質は、核酸配列の変異とベクターや宿主細胞の選択により、効率よい発現を実現した。
【実施例2】
【0075】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質の精製・再生・同定
菌体に溶解バッファー(菌体1gにつき溶解バッファー3ml)を添加し、菌体を懸濁させ、超音波破砕(パワー 200 W;超音波処理 20秒/中止 20秒;80回繰り返し)し、4℃/12 000 rpm/15分遠心した後、上清液を捨て、ペレットの封入体を、1%と2%のTriton-X100 (Sigma製, Beijing Jing Ke Hong Da Biotechnology Co.,Ltdから購入)を含む溶解バッファーでそれぞれ1回洗浄した。そして、封入体を50 mmol/L Tris.Cl/8M尿素(pH8.5)で溶解させ、その大部分が溶解するまで、4℃において静置した後、4℃/12 000 rpm/15分遠心し、上清液を回収した。
【0076】
50 mmol/L Tris.Cl/8M尿素(pH8.5)で、イオン交換カラムsepharose-FF (Amersham Biosciences製, Beijing Jing Ke Hong Da Biotechnology Co.,Ltdから購入)を平衡化し、封入体溶解上清液を陰イオン交換カラムに供した。50 mmol/L Tris.Cl/8M尿素(pH8.5)で、結合しない蛋白を十分に洗い流し、0-0.3 M NaClの勾配で段階溶出を行った。溶出の同時に蛋白を収集し、溶出ピークに相応するチューブに回収した溶液をSDS−PAGE検出に供した。標的蛋白を含むチューブの中の溶液を合併し、透析による脱塩及び尿素除去によって再生を行った。再生は、以下のように行った。50 mmol/L Tris.Cl/6M尿素(pH8.8)のバッファーで、4℃において、一晩透析;50 mmol/L Tris.Cl/3M尿素(pH8.8)のバッファーで、4℃において、一晩透析;50 mmol/L Tris.Cl (pH8.8)のバッファーで、4℃において、二日間透析を行った。バッファーにおける尿素の濃度を次第に低下させることにより、尿素をゆっくりと除去し、蛋白を再生させることができる。得られた蛋白質を含む溶液を上記と同じ陰イオンカラムに供し、0-0.5 M NaClの勾配で段階溶出し、SDS−PAGEにより溶出ピークを検出し、標的蛋白を多量且つ純度高く含有しているチューブの中の溶液を合併した後、透析による脱塩を行った。精製された蛋白質をSDS−PAGEにかけ、ゲル吸光度走査により該当蛋白質の純度を測定した結果、約96%の純度であり、HPLCによる測定結果も約96%の純度であった。
【0077】
ペプチドフィンガープリントは、協和プロテオミクスセンターに任せた。その結果から、本発明ペプチドのリジン及びアルギニンのペプチド配列における位置が正しく、テストアミノ酸と理論アミノ酸とは約90%の相同性を有することが分かった。これによって、当該蛋白質は標的蛋白であることが証明された。
【0078】
N端アミノ酸配列決定は、北京大学に任せた。その結果から、該蛋白質のN端から1〜15番目のアミノ酸は、M-V-K-I-R-L-H-T-L-L-A-V-L-T-Aであることが分かった。N端アミノ酸配列決定により、開始アミノ酸は正しく、アミノ酸のトリプレットコードも正しいことが証明された。
【実施例3】
【0079】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質によるリンパ球増殖・トランスフォーメーションの促進
MTT還元法によるリンパ球トランスフォーメーションの測定:リンパ球は健康者10人及び活動性結核症患者10人から採取した。ヘパリン添加した血に分離試薬を添加し、遠心分離した後、リンパ細胞を吸い取り、RPMI1640培養液(GIBCO製, Beijing Xin Jing Ke Biotechnology Co.,Ltdから購入)で希釈し、細胞培養液の一部を取り、トリパンブルー染色を行い、顕微鏡で生菌数を計数した。細胞の濃度を5 x 106個/mlに調整し、ウェルごとに細胞懸濁液100mlを加え、RPMI1640培養液で希釈した本発明の融合蛋白抗原(10mg/ml、対照組の場合はRPMI1640培養液)100mlを添加し(4ウェル重複/組)、インキュベーターにおいて37℃、5%二酸化炭素ガスで6〜7日インキュベートし、ウェルごとに培養液120ml取り捨て、MTT (AMRESC製, Beijing Xin Jing Ke Biotechnology Co.,Ltdから購入) (5mg/ml) 10 μlを添加し、インキュベーターにおいて37℃、5%二酸化炭素ガスで4時間インキュベートし、溶解促進剤90ml (0.01N HCl-イソプロパノール)を加え、インキュベーターにおいて37℃、5%二酸化炭素ガスで2時間インキュベートした後、波長570 nmでOD値を測定し、刺激指数(SI=抗原を加えたウェルの平均OD570nm/抗原を加えなかったウェルの平均OD570nm)を算出した。その結果を表1に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
PHA (Sigma製, Beijing Xin Jing Ke Biotechnology Co.,Ltdから購入)によるリンパ球トランスフォーメーションの刺激においては、70%の健康者と20%の結核症患者がSI>1.5を示したが、本発明の融合蛋白質によるリンパ球トランスフォーメーションの刺激においては、31%の健康者と25%の結核症患者がSI>1.5を示した。
【0082】
本発明の蛋白質と対照としてのPHAとは、結核症患者のリンパ球トランスフォーメーションを刺激する効果については有意な差異を示さなかったが、健康者のリンパ球トランスフォーメーションを刺激する効果については有意な差異を示した。この結果から、組換え蛋白質が結核症患者のリンパ球トランスフォーメーションを有効に刺激することができることは分かった。
【実施例4】
【0083】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白の血清診断における応用
以下のように、ELISA法を用いて、192本の血清試料を検出した。ウェルごとに、本発明の蛋白質0.2−1mgでコーティングした。対照組の場合はコーティング溶液を加えた。コーティング溶液は2.94 g/L NaHCO3と1.50 g/L Na2CO3であった。2時間後、液体を捨て、PBSTで3分間の洗浄を3回行った。血清試料を試料希釈溶液(0.1%BSA (Spanish製, Beijing Hua Lv Yuan Biotechnology Developing Centerから購入)を含むPBST)で1:100のように希釈して得たものを、ウェルごとに100ml添加し、37℃で1時間インキュベートし、上述と同様に洗浄を3回行った。そして、HRP標識第二抗体(ウサギ抗ヒトIgG (Beijing Xin Jing Ke Biotechnology Co.,Ltdから購入))を試料希釈溶液(0.1%BSAを含むPBST)で所望のように希釈して得たものを、ウェルごとに100ml添加し、37℃、1時間インキュベートし、上述のように洗浄を3回行った。その後、発色液(DABを溶解したクエン酸及びリン酸二水素ナトリウムバッファー、添加直前にH2O2で発色)をウェルごとに100mg添加し、2Mの硫酸を2滴添加して反応を終止し、Microplate readerにより各ウェルの波長570 nmにおけるOD値を測定した。健康者血清OD平均値+2xSDをカットオフ(cut off)とし、該カットオフを超えたら、陽性と認める。192本の血清試料のELISA測定の結果を、表2に示した。
【0084】
【表2】

【0085】
表2の結果から、本発明の融合蛋白質を用いた結核症患者血清学検出は、敏感度が70%以上であり、特異性が95%以上であることが分かった。そのため、本発明の蛋白質は、結核病血清学診断に重要な意義を持つものである。
【実施例5】
【0086】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白の予防効果
実験動物として、マウスを用いた。実験組に対して、本発明の蛋白質(50μg/ml,0.2ml)とアジュバント(主に多糖と核酸を含有するイコバクテリウムエキス)を注射投与した。陰性対照組に対して、生理食塩水を注射投与した。陽性対照組に対して、第1回接種のみに、BCG 5 x 105 個を注射投与した。2〜3週間1回で、3回接種した。最終回の接種の1〜2ヶ月後、生イコバクテリウム・ツベルクローシスを5 x 104〜5 x 105個静脈注射した。2〜4週間後、マウスを殺し、脾臓を採取した。採取された脾臓を摩砕し、修正L-J培養液に接種し、3〜4週間培養した後、コロニー数を計数した。その結果を表3に示した。
【0087】
【表3】

【0088】
実験組と対照組とは、イコバクテリウム・ツベルクローシスの単離率の対数に有意な差異(P<0.05)を示したため、本発明の融合蛋白は、結核症の予防において、結核菌に対する強い抑制効果を有することが確認された。
【実施例6】
【0089】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白の治療効果
マウスに、生イコバクテリウム・ツベルクローシスH37Rvを5 x 104〜5 x 105個静脈注射し、イコバクテリウム・ツベルクローシス感染モデルを作成した。予防治療単独組(本発明の蛋白質(100μg/ml,0.2ml)とアジュバント(主に多糖と核酸を含有するイコバクテリウムエキス)を筋肉注射投与)、化学治療単独組(通常の短経過化学治療)、化学治療・免疫治療併用組(本発明の蛋白質(100μg/ml,0.2ml)とアジュバントとを混ぜて筋肉注射投与するとともに、化学治療を実施する)、及び対照組(生理食塩水治療組)に分けて、治療を実施した。3〜4週間後、各組から実験動物を5匹ずつ取り、解剖して、肺、肝臓、脾臓及びリンパ節を採取し、病理学的観察を実施した。脾臓全体を摩砕機により摩砕し、修正L-J培養液に接種し、3〜4週間培養した後、コロニー数を計数した。その結果を表4に示した。
【0090】
【表4】

【0091】
各実験組と対照組とは、脾臓におけるイコバクテリウム・ツベルクローシスの単離率の対数に有意な差異(P<0.05)を示したため、本発明の蛋白質は、結核症の治療において、結核菌に対する強い抑制効果を有し、化学治療との併用すると効果がより向上することが確認された。
【実施例7】
【0092】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白によるTh1型サイトカイン分泌の促進
実験動物:BALB/cマウス、体重18-20g、24匹(雌:雄=1:1)/組
グルーピング:
A組(陰性対照組):生理食塩水を注射した;B組(陽性対照組):BCG0.05 mg (皮内注射用BCG, Shanghai Institute of Biological Products, China National Biotec Group製, Catalog number:2005031002)を皮内注射した;C組(実験組):上記実施例で調製された本発明の融合蛋白をマウスに20 μg/匹接種した。
免疫法:各組の半分のマウス(雌雄半々)を二回接種し、その他のマウス(雌雄半々)を三回接種した。接種は2週間に1回ずつ行い、最終回の接種の4週間後、実験を行った。
注射経路:皮下注射、0.2 ml。
実験方法:
脾臓細胞の培養:眼球を摘出して血を採取し、頚椎を引き断って殺し、消毒を行った。そして、脾臓を採取し摩砕した後、200メッシュ篩を通過させ、脾臓細胞の懸濁液を調製した。その後、低速遠心し、細胞のペレットをRPMI 1640で2回洗浄し、細胞を、15%非働化ウシ血清を含むRPMI 1640 2 mlで懸濁させ、トリパンブルー染色を行い、生細胞数を計数した。
【0093】
細胞の濃度を2 x 106個/mlに調整し、96ウェルの細胞培養用プレートの各ウェルごとに細胞懸濁液100μlを一式三部的に加え、インキュベーターにおいて37℃で5%二酸化炭素ガスで72時間インキュベートした後、上清液を回収して、サイトカインの検出を行うまでに、-70°Cで保存した。
サイトカインの検出:
サイトカイン検出用キット(R&D Systems製)のプロトコルに厳格に従って、以下のようにIFN-γ、IL-12、IL-4及びIL-10の検出を行った。コーティング抗体を適当な濃度に希釈し、ウェルごとに100μl加え、4℃で一晩インキュベートし、コーティング溶液を捨て、洗浄溶液で2分間のプレート洗浄を3回行った後、300μlのブロッキング溶液を加え、室温で1時間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。そして、ウェルごとに100μlの希釈(1:5)試料と種々の濃度に希釈された標準試料を添加し、室温で2時間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。ウェルごとに100μlの(プロトコルに従って希釈した)希釈された検出抗体を加え、室温で2時間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。ウェルごとに100μlのHRP標識ストレプトアビジンを加え、室温で20分間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。ウェルごとに100μlの発色基質を加え、室温で20分間インキュベートし、100μlの終止溶液を加え、450nm/540nmでODを測定した。
【0094】
全てのデータをSSPS13.0ソフトウェアパッケージで処理し、P<0.05で統計上有意であると認めた。
【0095】
【表5】

【0096】
表5の結果から、本発明の融合蛋白をBALB/cマウスに二回又は三回接種することにより、マウス脾臓T細胞のIFN-γとIL-12分泌が促進されたこと(対照と比べ、有意な差異(P<0.05)を示した);及び、本発明の融合蛋白を二回接種することにより、IL-4の合成も抑制されたこと(対照と比べ、有意な差異(P<0.05)を示した);が分かった。上記動物実験から、本発明の融合蛋白はBALB/cマウス脾臓T細胞のIFN-γとIL-12分泌を促進し、特にTh1型細胞応答を促進し、生体の結核菌に対する免疫保護作用を促進することが分かった。
【実施例8】
【0097】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白によるNO合成の促進
実験動物:BALB/cマウス、体重18-20g、24匹(雌:雄=1:1)。
グルーピング:
A組(陰性対照組):生理食塩水を注射した;B組(陽性対照組):BCG0.05 mg (皮内注射用BCG, Shanghai Institute of Biological Products, China National Biotec Group製, Catalog number:2005031002)を皮内注射した;C組(実験組)を皮内注射した;C組(実験組):本発明の蛋白をマウスに20 μg/匹接種した。
免疫方案:各組の半分のマウス(雌:雄=1:1)を二回接種し、その他のマウス(雌:雄=1:1)を三回接種した。接種は2週間に1回ずつ行い、最終回の接種の4週間後、実験を行った。
注射経路:皮下注射、0.2 ml。
実験方法:
解剖する三日間前、6%soluble starch broth mediumを注射した。マウスを殺す前に、2 mlの洗浄液を腹腔に注射し、マウスの腹部を軽く揉んで、頚椎を引き断って殺し、腹部の消毒を行った。そして、はさみで腹部に小さな切り口を開き、滅菌ピペットを用いて腹腔の洗浄液を吸い取り、遠心して、マクロファージを得た。細胞を、15%非働化ウシ血清を含むRPMI 1640 2 mlで懸濁させ、トリパンブルー染色を行い、生細胞数を計数した。細胞の濃度を4 x 105個/mlに調整し、24ウェルの細胞培養用プレートにウェルごとに細胞懸濁液1mlを一式三部的に加え、インキュベーターにおいて37℃で5%二酸化炭素ガスで3時間インキュベートし、上清液を捨て、付着細胞の洗浄を二回行い、インキュベーターにおいて37℃で5%二酸化炭素ガスで72時間インキュベートし、上清液を回収して、NOの検出を行うまでに、-70℃で保存した。陰性対照組 (A組)の接種は、生理食塩水を注射したことを除いて、C組と同様に行った。陽性対照組 (B組)は、BCGを皮内注射した4週間後マウスを殺したことを除いて、C組と同様に行った。
【0098】
NO検出キット(Catalogue number: S0021、from Beyotime)のプロトコルに従って、腹腔におけるマクロファージが分泌したNOを検出した。NO検出キットが提供した標準試料(1M NaNO2, catalogue number: S0021-1)を15%非働化ウシ血清を含むRPMI 1640で希釈し、96ウェルの細胞培養用プレートの各ウェルごとに希釈した標準試料又は試料を50μl添加した。そして、ウェルごとに50 μlのGriess Reagent I(catalogue number:S0021-2)と50 μlのGriess Reagent II(catalogue number:S0021-3)を次第に加え、OD540 nmを測定し、標準曲線により試料の濃度を算出した。
【0099】
全てのデータをSSPS13.0ソフトウェアパッケージで処理し、P<0.05で統計上有意であると認めた。
【0100】
【表6】

【0101】
表6の結果から、本発明の融合蛋白をマウスに二回接種することにより、マウス腹腔におけるマクロファーのNO合成が増えた(対照と比べ、有意な差異(P<0.05)を示した)が、接種回数の増加とともに、NOの合成が低下する傾向があることが分かった。本発明の融合蛋白はマクロファージのNO合成を促進することにより、生体の結核菌に対する保護作用を促進できることが確認された。
【実施例9】
【0102】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白のIFN-γ分泌に対する影響
ワクチン:
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白を結核病ワクチンの研究に用いられる。単独の融合蛋白の生体内半減期が短いので、ワクチンの免疫保護作用を促進するために、アジュバントと併用することが必要である。本発明の融合蛋白とアジュバントと(主に多糖と核酸を含有するイコバクテリウムエキス)を1:1の比例で配合させ、実験用ワクチンを調製した。
実験動物:BALB/cマウス、体重18-20g、24匹/組(雌:雄=1:1)。
グルーピング:
A組(陰性対照組):生理食塩水を注射した;B組(陽性対照組):BCG 0.05 mg (皮内注射用BCG, Shanghai Institute of Biological Products, China National Biotec Group製, Catalog number:2005031002)を皮内注射した;C組(ワクチン低投与量組、10 μg//匹):D組(ワクチン比較的低投与量組、20 μg//匹):E組(ワクチン中投与量組、40 μg//匹):F組(ワクチン高投与量組、80 μg//匹):
免疫方案:各組の半分のマウス(雌:雄=1:1)を二回接種し、その他のマウス(雌:雄=1:1)を三回接種した。接種は2週間に1回ずつ行い、最終回の接種の4週間後、実験を行った。
注射経路:皮下注射、0.2 ml。
実験方法:
マウスから血を採取した後、頚椎を引き断って殺し、消毒を行った。そして、脾臓を採取し摩砕した後、200メッシュ篩を通過させた。その後、低速遠心し、RPMI 1640で細胞のペレットを2回洗浄し、細胞を、15%非働化ウシ血清を含むRPMI 1640 2 mlで懸濁させ、トリパンブルー染色を行い、生細胞数を計数した。
【0103】
細胞の濃度を2 x 106個/mlに調整し、96ウェルの細胞培養用プレートの各ウェルごとに細胞懸濁液100μlを一式三部的に加え、3インキュベーターにおいて37℃で5%二酸化炭素ガスで72時間インキュベートし、上清液を回収して、サイトカインの検出を行うまでに、-70°Cで保存した。
【0104】
サイトカイン検出用キット(R&D Systems製)のプロトコルに従って、IFN-γの検出を行った。コーティング抗体を適当な濃度に希釈し、ウェルごとに100μl加え、4℃で一晩インキュベートし、コーティング溶液を捨て、洗浄溶液で2分間のプレート洗浄を3回行った後、300μlのブロッキング溶液を加えプレートをブロッキングし、室温で1時間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。そして、ウェルごとに100μlの希釈(1:5)試料と種々の濃度に希釈された標準試料を添加し、室温で2時間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。ウェルごとに100μlの(プロトコルに従って希釈した)希釈された検出抗体を加え、室温で2時間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。ウェルごとに100μlのHRP標識ストレプトアビジンを加え、室温で20分間インキュベートし、上記のように洗浄を行った。ウェルごとに100μlの発色基質を加え、室温で20分間インキュベートし、100μlの終止溶液を加え、450nm/540nmでODを測定した。
【0105】
【表7】

【0106】
表7の結果から、本発明の融合蛋白二回接種する場合、対照であるAと比べ、E組のみが有意な差異(P<0.05)を示したが、三回接種する場合、B、C、D、E、F全体が有意な差異(P<0.05)を示したことが分かった。本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白ワクチンは、T細胞のIFN-γ分泌を促進することにより、結核菌を抑制できるが、アジュバントは該イコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白ワクチンにおける融合蛋白の免疫作用時間を延長できる。
【実施例10】
【0107】
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白ワクチンの安全性評価
1. マウスの異常毒性テスト
マウスの由来:
Animal Center, Institute of Genetics and Developmental Biology (IGDB), the Chinese Academy of Sciences (CAS)から購入した70匹のclean class KMマウス、体重16〜20g、実験動物合格証明(NO 0067869)、動物使用免許:scxk(京)2002-0006。
ワクチンの調製
本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白ワクチンは、本発明のイコバクテリウム・ツベルクローシス(抗原)とアジュバント(主に多糖と核酸を含有するイコバクテリウムエキス) とを1:1.5(抗原:アジュバント)の比例で含有する。
グルーピング:
マウスは、12匹/組×6組、雄:雌=1:1のようにグルーピングした。
低投与量組:抗原0.125 mg/ml;中投与量組:抗原0.25 mg/ml;高投与量組:抗原0.5 mg/ml。
方法:
(1)マウスの標識:2,4,6−トリニトロフェノールでマウスで標識した。標識の局所は頭、背、尾、前肢、後肢、又は無標識であった;
(2)注射する直前に、マウスごとの体重を量った;
(3)注射:頭黄色付け、背黄色付け、又は尾黄色付けのマウスついて、腹腔内注射により、0.5ml/匹注射した。前肢黄色付け、後肢黄色付け又は無標識のマウスついて、筋肉注射により、0.2ml/匹注射した。A組について生理食塩水、B組について0.05 mgのBCG(皮内注射用BCG, Shanghai Institute of Biological Products, China National Biotec Group製, Catalog number:2005031002)、C組について低投与量のワクチン、D組について中投与量のワクチン、E組について中高投与量のワクチン、F組についてアジュバントを注射した。
(4)注射:毎日、マウスを観察し、1週間後、その体重を量った。そして、一部のマウスを解剖し、その器官を観察した。
結果:
マウスは健康に生きていた。体重も増え、器官にも異常はなかった。その結果を表8に示した。この薬力学的結果から、ヒト用の投与量が10μg〜30μgと確定した。マウス最大腹注投与量は、成人(50kg)としてのヒト用投与量の20833〜62500倍であった。
【0108】
【表8】

【0109】
2. モルモットのアナフィラキシー反応
実験動物:
モルモット、300〜400g、30匹、雄:雌=1:1;6匹/組、雄:雌=1:1。
ワクチンの調製:同上。
グルーピング:
A組:溶媒組;B組:陽性対照組;C組:ワクチン低投与量組(100μg/ml);D組:ワクチン中投与量組(200μg/ml);F組:ワクチン高投与量組(1 mg/ml)。
方法:
1. まず、購入した動物について、PPD皮膚試験を行い、PPD皮膚試験陰性の動物を選んで、次のテストに用いた。
2. モルモットについて、グルーピングを行い、体重を量り、標識した。
3. モルモットに0.5ml/匹の投与量で一日おきに腹腔内注射した(全部で4回)。最後の注射の14日間後、注射投与量の4倍である刺激投与量で刺激した。1mlの投与量で静脈注射し、動物の反応を観察した。観察時間は30分間であるが、アナフィラキシー反応を示したら、正常状態に回復するまで観察した。
結果を表9に示した。++以上(++を含む)の等級の反応を示したモルモットをアナフィラキシー反応のモルモットと認めた。高投与量組では、50%のモルモットがアナフィラキシー反応を示した。
【0110】
【表9】

【0111】
以上の、マウスの異常毒性テスト及びモルモットのアナフィラキシー反応の結果から、動物実験において、本発明の融合蛋白が安全であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、組換えプラスミドを制限酵素で切断した地図である。融合発現プラスミドは、NcoIとHindIIIで二重切断した結果、約1.5 kbの標的遺伝子と約5.3 kbの線形プラスミドDNAが観察され;NcoIとBamHIで二重切断した結果、約1.2 kbの標的遺伝子と約5.6 kbの線形プラスミドDNAが観察され、BamHIとHindIIIで二重切断した結果、約0.3 kbの標的遺伝子と約6.5 kbの線形プラスミドDNAが観察され、BamHIのみで切断した結果、約6.8 kbの断片のみが観察された。N端蛋白遺伝子組換えベクターをNcoIとBamHIで二重切断した結果、約1.2 kbの標的遺伝子と約5.3 kbの線状プラスミドDNAが観察された;N端蛋白組遺伝子換えベクターをBamHIで切断した結果、約6.5kbの線形プラスミドDNAが観察された。蛋白質をコードするDNA配列は、ベクターの正確な制限酵素部位に組み込んだ。組換えベクターは、発現される蛋白質の融合遺伝子を含有し、且つ挿入した外来遺伝子の大きさは理論値と一致する。
【図2−1】図2は、DNA配列が設計どおりであることを明らかにしたDNA配列決定結果を示した図である。変異部位の配列もリンカーの配列も正確であるし、ゲノムと相補する部分も、ゲノムDNA配列と全く一致する。図2-1は、T7プロモーターによる1番目〜549番目塩基の配列決定結果を示した図であり、48番目の塩基が標的遺伝子塩基である。
【図2−2】図2は、DNA配列が設計どおりであることを明らかにしたDNA配列決定結果を示した図である。変異部位の配列もリンカーの配列も正確であるし、ゲノムと相補する部分も、ゲノムDNA配列と全く一致する。図2-2は、T7ターミネーターによるBamHI制限酵素部位、リンカー及び38KDa遺伝子の390番目〜1115番目塩基の配列決定結果を示した図であり、67番目の塩基が標的遺伝子塩基である。
【図2−3】図2は、DNA配列が設計どおりであることを明らかにしたDNA配列決定結果を示した図である。変異部位の配列もリンカーの配列も正確であるし、ゲノムと相補する部分も、ゲノムDNA配列と全く一致する。図2-3は、T7ターミネーターによるターミネーター、EAST6の1番目〜285番目塩基、リンカー及び38KDa遺伝子の970番目〜1125番目塩基の配列決定結果を示した図であり、60番目の塩基が標的遺伝子塩基である。
【図3】図3は、組換え工程化菌のSDS-PAGE結果を示した写真である。工程化菌は、IPTG誘導条件下で、主に封入体として組換え蛋白質を発現し、IPTG非誘導条件下で、ほとんど組換え蛋白質を発現しない。
【図4】図4は、菌体蛋白全体の走査結果を示した図である。5番目のバンドは、菌体蛋白総量の38.5%を占める標的蛋白のバンドである。
【表10】

【図5】図5は、本発明の組換え蛋白質を精製した結果を示した図である。封入体溶解液をアニオンカラムクロマトグラフィーにより二回処理して、純度の高い組換え蛋白質を得た。クロマトグラフィーにおいて、蛋白試料の量は、10μgである。精製後、SDS-PAGEにより、単一のバンドが現された。
【図6】図6は、表7に示した結果により製作した、本発明の組換え蛋白質がマウス脾臓T細胞のIFN-γ分泌を刺激する結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO:4に示されるアミノ酸配列、或いは該当アミノ酸配列において1個若しくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、または挿入したアミノ酸配列を有し、且つ結核菌抗原免疫原性を有するマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質。
【請求項2】
請求項1に記載のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
ヘテロ型PET28a-c、PET24a-d、PET30a、PET22b(+)又はPET15bプラスミドであることが好ましい、請求項2に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項4】
原核宿主細胞であることが好ましく、大腸菌BL21(DE3)又はHMS174(DE3)であることが更に好ましい、請求項3に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項5】
請求項1に記載のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質の製造方法であって、以下の工程
1)SEQ ID NO:3に示されるポリヌクレオチド配列であることが好ましい、請求項2に記載のポリヌクレオチド配列を得る工程;
2)前記ポリヌクレオチド配列をPET28a-c、PET24a-d、PET30a、PET22b(+)又はPET15bヘテロプラスミドであることが好ましいベクターに組み込む工程;
3)前記ベクターを原核宿主細胞であることが好ましく、大腸菌BL21(DE3)又はHMS174(DE3)であることが更に好ましい、宿主細胞に導入する工程;
4)前記宿主細胞を、前記ポリヌクレオチド配列が発現可能の条件で培養する工程;及び
5)前記蛋白質を収集・精製し、再生させる工程
を含む前記方法。
【請求項6】
請求項1に記載のマイコバクテリウム・ツベルクローシス融合蛋白質を含む組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の融合蛋白質を含む結核病診断用キット。
【請求項8】
請求項1に記載の融合蛋白質を含む結核病治療用キット。
【請求項9】
抗結核病薬及び前記融合蛋白質の結核病治療用法説明を更に含む請求項8に記載の結核病治療用キット。
【請求項10】
請求項1に記載の融合蛋白質、又は当該融合蛋白質をコードする核酸を含む結核病予防用ワクチン。
【請求項11】
結核病個体予防・治療用医薬又はワクチンの製造における、請求項1に記載の融合蛋白質、請求項2に記載のポリヌクレオチド又は請求項6に記載の組成物の応用。
【請求項12】
前記結核病個体が結核菌未感染個体群、結核菌感染個体群、抗結核病薬耐性結核病患者又は遷延性慢性結核病患者である、請求項11に記載の応用。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−521959(P2009−521959A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549746(P2008−549746)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【国際出願番号】PCT/CN2007/000087
【国際公開番号】WO2007/079684
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(508207435)
【出願人】(508207446)ドンググアン シティ シアング ユン シェング バイオテクノロジー リミテッド カンパニー (1)
【Fターム(参考)】