説明

マウスガード組成物

【課題】 咬合力や衝撃的な外力が加わっても引き裂けることがなく、瞬間的な力に対してもその力を充分に吸収することができるマウスガ−ド組成物を提供する。
【解決手段】 a)エチレン−酢酸ビニルコポリマーとb)スチレンブロックコポリマーの比率がa:b=1:1〜1:0.01である熱可塑性エラストマーに、脂環族飽和炭化水素系樹脂,テルペン樹脂,脂肪族系石油樹脂、エステルガムから成る群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び/又は鉱物系ワックス,合成系ワックス,植物系ワックス,動物系ワックスから成る群より選ばれた少なくとも1種のワックスから成るマウスガード組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にスポーツにおいて発生する歯牙とその周囲組織の外傷を予防するためのマウスガード組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マウスガードは、コンタクトスポーツである空手,ボクシング,アメリカンフットボール,あるいはサッカー等において、競技中に歯牙や顎骨に大きな外力が加わることにより発生する外傷を最小限度に止め、顎口腔系を保護するために口腔内に装着するものである。しかし、このような目的とは若干異なる目的として、学童の教育現場における体育等のスポーツ時に発生する口腔内の外傷予防に使用することが近年注目されている。
【0003】
このマウスガードに用いられる素材には種々のものが存在するが、現在最も多く用いられているものがエチレン−酢酸ビニルコ−ポリマー及びポリオレフィン系ゴムである。しかし、これらの素材を用いて作製されたマウスガードは、比較的硬いものが多く、口腔内において異物感が大きいものとなっていた。また、教育現場において学童が使用する場合では、咬合力が小さく、更に多くの児童が混合歯列期であるため、素材が硬いと口腔内からの取り外しが容易に行えないという問題が生じていた。そのため、比較的硬度の低い(やわらかい)特性を持つマウスガードも望まれていたが、従来の技術でこのようなやわらかいマウスガード組成物を作製しようとした場合、組成物自体の強度が低下してしまい、例え学童とはいえ、瞬間的に発生する大きな咬合力に耐えることができずに引き裂けてしまうという不具合が生じていた。同様に、この様なやわらかい組成物とした場合、瞬間的な力を吸収する特性も低下してしまうため、口腔内で発生する外傷を予防するという本来の目的を達成できないことが多かった。
【0004】
引裂強度等の特性を改善したマウスガードとして、それぞれ所定重量割合範囲のスチレンブロックコポリマー,脂環族飽和炭化水素系樹脂及び/又はエステルガム,1分子中にケイ素原子に直結した有機基のうち少なくとも1個がフェニル基,メチルスチリル基,炭素数7〜30個のアルキル基であるオルガノポリシロキサンを含有して引裂強度を高くしたマウスガード(例えば、特許文献1参照。)や、更に、スチレンブロックコポリマーに脂環族飽和炭化水素系樹脂のような熱可塑性樹脂を加えると共に、ワックスを加えることで引裂強度が高く、咬合力による塑性変形が生じ難く、口腔内において臭いも発生しないマウスガード組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、やわらかいマウスガードとした場合に、これらの特性が十分に得られるかについては全く検討されておらず、同様に、硬度の高い(硬い)マウスガードとした場合に十分な衝撃吸収力を有するかについても全く考慮されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2001−54610号公報
【特許文献2】特開2003−019240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、やわらかいマウスガードであっても、咬合力や衝撃的な外力が加わっても引き裂けてしまうことがなく、瞬間的な力に対してもその力を充分に吸収することができるマウスガード組成物を提供することを本発明の課題とする。ここで、従来よりやわらかいとは、硬化体の硬度:デュロメータAが70以下のものであり、このようなやわらかいマウスガードを従来の技術に基づいて作製した場合、咬合力により容易に引き裂けてしまい耐久性は非常に低かった。しかも瞬間的な力に対する吸収力が十分ではないため、外傷予防としての機能を十分に果たせなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記問題点を解決するために鋭意検討した結果、a)エチレン−酢酸ビニルコポリマーとb)スチレンブロックコポリマーの比率がa:b=1:1〜1:0.01である熱可塑性エラストマーと、脂環族飽和炭化水素系樹脂,テルペン樹脂,脂肪族系石油樹脂、エステルガムから成る群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び/又は鉱物系ワックス,合成系ワックス,植物系ワックス,動物系ワックスから成る群より選ばれた少なくとも1種のワックスとから成るマウスがーと組成物とすると、やわらかくても咬合力が加わった際に引き裂けることがなく瞬間的な力を充分に吸収することができることを見出し本発明のマウスガード組成物を完成させるに至った。
【0008】
即ち本発明は、a)エチレン−酢酸ビニルコポリマーとb)スチレンブロックコポリマーの比率がa:b=1:1〜1:0.01である熱可塑性エラストマー20〜98重量%と、脂環族飽和炭化水素系樹脂,テルペン樹脂,脂肪族系石油樹脂、エステルガムから成る群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び/又は鉱物系ワックス,合成系ワックス,植物系ワックス,動物系ワックスから成る群より選ばれた少なくとも1種のワックス2〜80重量%から成ることを特徴とするマウスガード組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るマウスガード組成物は、従来のマウスガードより硬度が低いながら、強い咬合が加わっても引き裂けることがなく、瞬間的な力に対しても吸収力が大きいマウスガード組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いるエチレン−酢酸ビニルコポリマーは、エチレンと酢酸ビニルの共重合体であり、酢酸ビニルの含有率は、5〜50%のものが使用でき、好ましくは、15〜35%の間のものである。分子量(数平均)については、10000〜40000であり好ましくは、15000〜30000のものを使用することができる。
【0011】
スチレンブロックコポリマーとしては、例えば、ポリスチレンとポリブタジエンとのブロックコポリマー,ポリスチレンとポリイソプレンとのブロックコポリマー,ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー等が使用できる。
【0012】
a)エチレン−酢酸ビニルコポリマーとb)スチレンブロックコポリマーの含有比率は、a:b=1:1〜1:0.01であり好ましくは、a:b=1:0.8〜1:0.1である。本発明においてaとbの合計量は、組成物全体で20〜98重量%であり、好ましくは50〜90重量%である。このエチレン−酢酸ビニルコポリマーとb)スチレンブロックコポリマーの合計量が組成物全体に対して20重量%より少ないと、引裂強度が低下してしまい、98重量%より多いと瞬間的な力に対する吸収力が低下してしまう。
【0013】
本発明には、b成分として脂環族飽和炭化水素系樹脂,テルペン樹脂,脂肪族系石油樹脂、エステルガムから成る群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び/又は鉱物系ワックス,合成系ワックス,植物系ワックス,動物系ワックスから成る群より選ばれた少なくとも1種のワックスを2〜80重量%を含む。このb成分として用いるこれらの物質は、特開2003−019240号公報中に記載されている物質と同様のものを使用することができ、その含有量は、組成物全体で2〜80%であり好ましくは、5〜50重量%である。この含有量が、2重量%より少ないと、加熱軟化してマウスガードを作製する場合、成形性が悪く口腔内への適合性の悪いマウスガードとなってしまい、80重量%より多いと引裂強度が低下してしまうと共に、マウスガードとして必要な弾力性が著しく低下する。
【0014】
本発明に係るマウスガード組成物中には、その特性を失わない範囲で更に各種の無機或いは有機の着色剤,可塑材,無機充填材,酸化防止剤,抗菌剤等を使用しても良い。
【実施例1】
【0015】
本発明について実施例を挙げ詳細に説明するが、本発明はこれ等に限定されるものではない。
【0016】
<実施例1>
エチレン−酢酸ビニルコポリマー(酢酸ビニル含有率;25%) 80重量%
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー 14重量%
脂環族飽和炭化水素系樹脂 3重量%
パラフィンワックス(鉱物系ワックス) 3重量%

上記各成分を加圧ニーダーにて130〜150℃の条件下で加熱混練することによって直径:130mm,厚さ:3mmのシート状に成形した。
【0017】
<硬さ試験>
この円盤状試料を150℃にて軟化し、直径:30mm,厚さ:6mmの硬さ試験用試験体を作製した後、デュロメータA型試器を用い、硬さを測定した。
【0018】
<引裂強度試験>
咬合力に対する引き裂き難さを評価するため、前記円盤状のマウスガード用組成物を用い、130℃にて厚さ2mmのシートに成形した後、JIS K 6252(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引裂強度の求め方)に記載されている切込みなしアングル型試験片と同じ形状寸法の試験片を抜打刃にて作製した。作製した試験片を用い、試験スピード:500mm/minにて引張試験を行った。
【0019】
<瞬間的な力に対する吸収力の評価>
口腔内温度(37℃)におけるtanδを動的粘弾性測定装置(商品名:Reogel-E2500,ユービーエム社製)を用い、周波数150Hzにて測定した。本測定においては、口腔外より高速度で与えられた時の瞬間的な力の吸収力の程度を評価するため、通常(1〜10Hz)より高い周波数での試験を行った。
【0020】
<実施例2>
エチレン−酢酸ビニルコポリマー(酢酸ビニル含有率;10%) 30重量%
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー 20重量%
脂環族飽和炭化水素系樹脂 30重量%
エステルガム 10重量%
パラフィンワックス(鉱物系ワックス) 10重量%

上記各成分を加圧ニーダーにて130〜150℃の条件下で加熱混練することによって直径:130mm,厚さ:3mmのシートに成形した。
この組成物について実施例1と同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0021】
<実施例3>
エチレン−酢酸ビニルコポリマー(酢酸ビニル含有率;30%) 35重量%
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー 35重量%
テルペン樹脂 30重量%

上記各成分を加圧ニーダーにて130〜150℃の条件下で加熱混練することによって直径:130mm,厚さ:3mmのシートに成形した。
この組成物について実施例1と同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0022】
<実施例4>
エチレン−酢酸ビニルコポリマー(酢酸ビニル含有率;30%)69.7重量%
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー 20重量%
エステルガム 8重量%
パラフィンワックス(鉱物系ワックス) 2重量%
緑色202(着色剤) 0.1重量%
BHT(酸化防止剤) 0.1重量%
銀系無機抗菌剤 0.1重量%

上記各成分を加圧ニーダーにて130〜150℃の条件下で加熱混練することによって直径:130mm,厚さ:3mmのシートに成形した。
この組成物について実施例1と同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0023】
<比較例1>
ポリスチレンとポリオレフィンとのブロックコポリマー 50重量%
脂環族飽和炭化水素系樹脂 35重量%
エステルガム 10重量%
パラフィンワックス(鉱物系ワックス) 5重量%

上記各成分を加圧ニーダーにて130〜150℃の条件下で加熱混練することによって直径:130mm,厚さ:3mmのシートに成形した。
この組成物について実施例1と同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0024】
<比較例2>
やわらかめのマウスガード用の素材としても用いられているエチレン−酢酸ビニルコポリマー(酢酸ビニル含有量:33%)を150℃の条件下で直径:130mm,厚さ:3mmのシートに成形した。このシートについて実施例1と同様の試験を行なった。結果を表1に示す。
【0025】


【0026】
表1から明らかなように、実施例に示した本発明によるマウスガード組成物は、硬さが低く、しかも動的弾性試験におけるtanδの値も比較例2のエチレン−酢酸ビニル共重合体のみのシートと比較して高い。これは瞬間的な力を吸収する能力が高いことを示している。この特性は、エチレン−酢酸ビニルコポリマーを含まない比較例1のスチレンブロックコポリマーを主成分とした組成物においても同様であり、やはり本発明の組成物の方がtanδは高い値を示している。更に引裂強度試験においても、本発明による組成物は比較例1,2のものより高い値を示し、マウスガードとして咬合力に充分に耐え、容易に引き裂けてしまうトラブルが発生し難い特性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)エチレン−酢酸ビニルコポリマーとb)スチレンブロックコポリマーの比率がa:b=1:1〜1:0.01である熱可塑性エラストマー20〜98重量%と、脂環族飽和炭化水素系樹脂,テルペン樹脂,脂肪族系石油樹脂、エステルガムから成る群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂及び/又は鉱物系ワックス,合成系ワックス,植物系ワックス,動物系ワックスから成る群より選ばれた少なくとも1種のワックス2〜80重量%から成ることを特徴とするマウスガード組成物。

【公開番号】特開2009−84326(P2009−84326A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252854(P2007−252854)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】