説明

マウス多量体免疫グロブリンレセプターに反応するモノクローナル抗体

【課題】マウス多量体免疫グロブリンレセプター(マウスpIgR)に反応するモノクローナル抗体および該抗体を産生できるハイブリドーマの提供。当該抗体を用いて試料(検出対象)に存在するマウスpIgRを検出する方法の提供。
【解決手段】マウスpIgRをコードする塩基配列を含むベクターを動物に免疫することで、マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体を産生し得る、複数のハイブリドーマ株。ウェスタンブロッティングまたはELISAを用いるマウスpIgRを検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマウス多量体免疫グロブリンレセプター(以下、pIgRとする)に反応するモノクローナル抗体に関する。特に、天然型マウスpIgRに反応する高感度のモノクローナル抗体に関する。また、これらのモノクローナル抗体をコンスタントに産生できるハイブリドーマに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、pIgRは、粘膜免疫機構において主体的役割を果たす分泌型IgA分子の構成成分であり、生体の恒常性維持にとって必要不可欠のものとして知られている。
【0003】
pIgRは、レセプター仲介取り込み等の薬物伝達方法に有用と考えられ、これに特異的に結合する抗体として、ウサギpIgR由来のペプチドを抗原とする抗体(例えば、特許文献1参照)や、ウサギ胆汁、ラット胆汁から精製されるpIgRのタンパク質分解フラグメントを抗原とする抗体(例えば、特許文献2参照)等が作製されている。
【0004】
また、マウスpIgRに反応する抗体として、免疫したウサギ等の血清から得られるポリクローナル抗体が得られているが、マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体は未だ作製されていない。
ポリクローナル抗体は、その製造には量的な制限があり、同一のロットで永続的に抗体を作製することができないという問題があった。そこで、抗体を安定して供給できるハイブリドーマを得て、モノクローナル抗体を得ることが望まれていた。
【特許文献1】特表2000−511432号公報
【特許文献2】特表2003−528891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はマウスpIgRに反応するモノクローナル抗体の提供を課題とする。特に、天然型マウスpIgRに反応する高感度のモノクローナル抗体の提供を課題とする。また、これらのモノクローナル抗体を産生できるハイブリドーマの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体を産生し得る、複数のハイブリドーマ株を樹立することで本発明を完成するに至った。
本発明によって作製されるモノクローナル抗体は、従来のポリクローナル抗体と比較して、マウスpIgRに反応する感度が高く、また、天然型マウスpIgRに反応するため有用である。本発明のモノクローナル抗体は、本発明において樹立されたハイブリドーマ株により、永続的に作製できる。
さらに本発明のモノクローナル抗体は、免疫増強シグナルを付与して抗原抗体反応の活性化を行うことで得られたマウス抗体であるため、マウスに投与した場合に異物として認識されず、マウスを用いたin vivoの実験に使用できる。このようなマウス抗原に反応するマウス抗体の作製自体は非常に困難であり、本発明のモノクローナル抗体は有用性が高いといえる。
【0007】
すなわち、本発明は次の(1)〜(13)に記載のモノクローナル抗体、当該抗体を産生するハイブリドーマ等に関する。
(1)マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体。
(2)天然型マウスpIgRに反応する上記(1)に記載のモノクローナル抗体。
(3)反応部位がマウスpIgRの細胞外領域である上記(1)または(2)に記載のモノクローナル抗体。
(4)配列表配列番号1に記載のアミノ酸配列または配列番号2に記載の塩基配列にコードされるアミノ酸配列を含むポリヌクレオチドと反応する上記(1)〜(3)のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
(5)マウスpIgRをコードする塩基配列を含むベクターを動物に免疫して得られる上記(1)〜(4)のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
(6)動物がマウスである上記(5)に記載のモノクローナル抗体。
(7)マウスpIgRをコードする塩基配列を含むベクターが、免疫増強シグナルをコードする塩基配列を含むベクターである上記(5)または(6)に記載のモノクローナル抗体。
(8)マウスpIgRをコードする塩基配列が、マウスpIgRの細胞外領域の塩基配列である上記(5)〜(7)のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
(9)マウスpIgRをコードする塩基配列が配列番号2に記載の塩基配列である上記(5)〜(8)のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の抗体を用いて試料(検出対象)に存在するマウスpIgRを検出する方法。
(11)ウェスタンブロッティングまたはEnzyme−linked immunosolvent(ELISA)を用いる上記(10)に記載のマウスpIgRを検出する方法。
(12)上記(1)〜(9)のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
(13)NUD−001 No.7(NITE−P423)、NUD−001 No.19(NITE−P424)、NUD−001 No.24(NITE−P425)、NUD−001 No.41(NITE−P426)またはNUD−001 No.46(NITE−P427)のいずれかである上記(12)に記載のハイブリドーマ。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマウスpIgRに反応するモノクローナル抗体は感度が高く、また、天然型マウスpIgRに反応するため、ウェスタンブロッティングやELISA等の実験手法において有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の「マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体」は、マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体であればいずれのものも該当するが、天然型マウスpIgRに反応するものが好ましく、感度が高いものが特に好ましい。また、本発明の「マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体」は、マウスpIgRの細胞外領域に反応するモノクローナル抗体であることが好ましい。
【0010】
本発明の「マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体」は、配列表配列番号1に記載のアミノ酸配列または配列番号2に記載の塩基配列にコードされるアミノ酸配列を含むポリヌクレオチドと反応するモノクローナル抗体であることが好ましい。
マウスpIgRをコードする塩基配列は、「マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体」を得られる塩基配列であればいずれの塩基配列であってもよく、マウスpIgRをコードする塩基配列の一部であってもよい。例えば、マウスpIgRの細胞外領域をコードする塩基配列を用いることが好ましく、配列表配列番号1に記載のアミノ酸配列または配列番号2に記載の塩基配列にコードされるアミノ酸配列を含むポリヌクレオチドを用いることが好ましい。
【0011】
本発明のマウスpIgRをコードする塩基配列はPCR法等、一般的に知られているいずれの方法でもクローニングする事ができ、例えば、次のように行うことができる。
マウスの組織または細胞から、例えばクロロホルム/フェノール/イソアミルアルコール/グアニジニウム/CsCl法等公の知のRNA調製法にて全RNAを調製し、オリゴdTセルロースカラムクロマトグラフィー処理にてポリA(+)RNA(mRNA)を取得し、逆転写酵素の存在下でcDNA合成を行うことができる。cDNA合成およびクローニングキットは、Amersham社、Invitrogen社等から市販されているものを用いることができる。このようにして合成されたcDNAを鋳型にして、プライマーを用いてPCRを行い、pIgRをコードするcDNAを増幅する。
プライマーはマウスpIgRのセンス鎖およびアンチセンス鎖に対してアニーリングすることができるプライマーであればいずれのものも用いることができる。例えば、データバンク等に記載されているマウスpIgRのcDNA塩基配列に基づいて設計し、合成することができる。プライマーは15〜25塩基程度のサイズを有しており、マウスpIgRのcDNA塩基配列の5′末端および3′末端側の配列からなることが好ましい。プライマーの合成は、市販のDNA自動合成機を用いて行うことができる。
【0012】
PCRは、市販のサーマルサイクラー(例えばPerkin Elmer−9600,Eppendorf−Master cycler gradientなど)を使用して行うことが好ましい。PCR条件として、例えば10×PCR buffer(100mM Tris(pH8.3),500mM KCl,15mM MgClおよび0.1%(W/V)ゼラチン)、dNTPs 2mM、プラーマー2.5μM〜10μM中、Taqポリメラーゼなどの耐熱性DNAポリメラーゼ(1〜2.5単位;rTaq(Takara、京都、日本),Ampli Taq(Promega)など)を添加して反応を行うことができる。PCRは、例えば95℃、2〜5分での1回の変性サイクルの後、95℃、0.2〜1分での変性、50〜65℃、0.5〜1分でのアニーリング、および72℃、0.5〜2分での伸長を1サイクルとして15〜40サイクルを行い、最後に、72℃、5分の伸長を行う方法等が挙げられる。
これらのcDNAクローニングおよびPCRについては、公知の文献(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory (1989)、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology (1989)等)を参照できる。
【0013】
上記のようにして得られたマウスpIgRをコードする塩基配列を組み込むベクターとして、プラスミド、ウイルス、ファージ等の一般的に知られているいずれのベクターをも用いることができる。このうち動物細胞発現ベクターを用いる事が好ましく、例えば昆虫細胞発現ベクターまたは哺乳動物細胞発現ベクターが挙げられ、哺乳動物細胞発現ベクターを用いることが特に好ましい。哺乳動物細胞発現ベクターとしては、アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターなどのウイルスベクター、pcDNA3.1(Invitrogen)、pCI(Promega)等のプラスミドベクター等が挙げられる。これらのベクターは市販のものを用いることができる。
【0014】
本発明で用いることができるベクターにおいて、プロモーター、エンハンサー、複製開始点、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、またはターミネーター等の調節配列を含むことができる。これらの配列を含むことによって、宿主の細胞内でプロモーターにRNAポリメラーゼが結合することによって転写が開始され、目的のタンパク質またはペプチドに翻訳される。プロモーターとしては、例えばCMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(呼吸器多核体ウイルス)プロモーター、EBV(Epstein−Barrウイルス)等のウイルスプロモーターを含むことが好ましい。また、これらのベクターには、免疫増強シグナルおよび局在シグナルを含むペプチドをコードする塩基配列を含むことが好ましい。
【0015】
免疫増強シグナルは、免疫増強エレメントとも称し、マウスpIgRの免疫原活性または抗原活性を高めるための任意のペプチドのことをいう。このようなペプチドとして、免疫アジュバント活性を有するペプチドやT細胞エピトープ等が挙げられる。このうちT細胞エピトープは、T細胞レセプターを認識し、これに結合することができるものである。また、種々のウイルス抗原、種々の細菌毒素などのエピトープやキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、オボアルブミン(OVA)、ウシ血清アルブミン(BSA)などのT細胞依存性抗原のエピトープなどが含まれる。本発明において、これらの免疫増強シグナルは、1つまたは複数を組み合わせて用いることができる。
【0016】
局在シグナルは、細胞内で発現、翻訳されたマウスpIgRを細胞膜に移行し、かつ分泌されたマウスpIgRを細胞膜上にアンカーする働きを有する任意のペプチドのことをいう。局在シグナルは、発現されたマウスpIgRを細胞表面に一定時間高濃度で留まらせることができ、高感度のマウスpIgR抗体を得るために有用である。
このような局在シグナルとして、例えばGPI(グリコシルフォスファチジルイノシトール)−アンカー等が挙げられる。GPIアンカーは、タンパク質の疎水性のC末端の32アミノ酸残基が3位のAsp残基の直後でトランスアミナーゼにより切断されAsp残基の後ろに付与される。これにより、3位のAsp残基を介してターゲットタンパクを細胞膜上にアンカーさせることを可能とする。本発明で使用可能な局在シグナルは、上記のようなアンカー作用を示すものであればいずれも用いることができ、上記のシグナルに限定されない。
【0017】
本発明の発現ベクターの作成にあたり、これらの免疫増強シグナル、マウスpIgRと局在シグナルは、N末端側からこの順序で連結することが好ましく、それぞれのシグナル間に1〜数個の任意のアミノ酸からなるリンカーが結合してもよい。また、各配列間は、1〜数個の任意のアミノ酸からなるリンカーを介在させて、マウスpIgRまたはその機能性断片を連結するように配置してもよい。さらに、本発明の発現ベクターには細胞内で発現したマウスpIgRまたはその機能性断片を細胞膜に輸送するための分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列を連結することが好ましい。このよう分泌シグナルペプチドとして、マウスpIgRのシグナルペプチドを用いる事が好ましい。
【0018】
本発明の発現ベクターの作成にあたり、N末端側からプロモーターの下流に、分泌シグナルペプチド、免疫増強シグナルペプチド、マウスpIgR、局在シグナルペプチドと並べ、この順序でこれらをコードする塩基配列を並べた発現ベクターを用いる事が好ましい。細胞内で発現されたタンパク質は、細胞膜に移行し、シグナルペプチドから切断されて分泌され、細胞膜にアンカーとして留まるため、マウスpIgRに反応する抗体が生成されやすくなるためである。
さらに本発明の発現ベクターには、必要に応じて、目的の塩基配列の発現を検出するためのFLAGタグ、ヒスチジンタグ(例えばHis6〜His10)などのタグをコードする塩基配列を、目的塩基配列の5′端または3′端に結合することができる。これらのタグは、発現の目的とするタンパク質の検出のために有用である。
【0019】
マウスpIgRをコードする塩基配列を含むベクターを免疫する動物としては、脊椎動物であればいずれのものも用いることができるが、鳥類または非ヒト哺乳動物を用いる事が好ましい。例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモットなどのげっ歯類、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギなどの有蹄類、ウサギ等が好ましい。 動物への免疫にあたり、マウスpIgRをコードする塩基配列を含むベクターを動物の身体部分、例えば皮下等に注入することが好ましい。注入は免疫できる回数および量であればいずれでもよいが、例えば、約1〜2週間置きに数回、約1〜2ヶ月にわたって行うことができる。ベクターの注入量は、例えば17.5μg抗原/回であってもよい。
【0020】
本発明の「マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体」は、マウスpIgRをコードする塩基配列を含むベクターをマウス等の動物に免疫することで作製することができる。本発明の抗体の作製にあたり、一般に用いられているいずれの方法を用いることもできるが、DNA免疫法を用いることが特に好ましい。
本発明のDNA免疫法は、例えば、上記のように作成したマウスpIgRをコードする塩基配列を含むベクターを動物に免疫することで行うことができる。これによって、動物体内においてマウスpIgRをコードする塩基配列が発現することでマウスpIgRが得られ、これに反応する抗体が産生される。
本発明のベクターを用い、動物体内で発現されるマウスpIgRは天然型であるため、天然型マウスpIgRに反応する抗体が産生され得る。天然型とは、ジスルフィド結合、糖鎖等を有するマウスpIgRの天然型高次構造を採ることを意味する。したがって、本発明で作製される抗体は、マウスpIgRの天然型高次構造を特異的に認識する、天然型マウスpIgRに反応し、かつ高親和性の抗体であるため有用性が高い。
【0021】
また、本発明の抗体の作製にあたり、DNA免疫法で免疫された動物から脾臓細胞、B細胞またはリンパ細胞等を取り出し、これと骨髄腫細胞(ミエローマ細胞)とを融合してハイブリドーマを作成することで本発明の抗体を作製することができる。
ハイブリドーマの作製にあたり用いる骨髄腫細胞としては、本発明の抗体を産生できるハイブリドーマの作製にあたり有用なものであればいずれのものも用いることができる。マウス骨髄腫細胞等を用いる事が好ましい。これらの細胞融合のために、公知の細胞凝集性媒体であればいずれのものも用いることができるが、例えばポリエチレングリコールなどの細胞凝集性媒体を用いることが好ましい。
【0022】
本発明のハイブリドーマは、マウスpIgR、好ましくは天然型マウスpIgRを特異的に認識する抗体を産生できるものであることが好ましい。このハイブリドーマを得るためには、融合細胞の選抜を行うことが好ましく、この選抜にはフローサイトメトリーが有用である。フローサイトメトリーを用いた天然型マウスpIgRを特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマの検出には、ヒトまたはマウスの免疫グロブリンと特異的に結合する蛍光標識二次抗体を用いることが好ましい。
【0023】
このようにして得たハイブリドーマをヌードマウスに腹腔内注射し、腹水を採取し、腹水をプロテインAまたはプロテインGセファロースカラムに通して、高純度の目的のモノクローナル抗体を回収することができる。このようなモノクローナル抗体の作製法については、公知の文献(例えば、Kohlerら,Nature,256:495 (1975)、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology (1989)、Kozborら,Immunology Today 4:72 (1983)、Coleら,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,77−96 (1985),Antibodies,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Chapter 8,1988等)を参照することができる。
【0024】
本発明の「ハイブリドーマ」には、マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマであれば、いずれのものも含まれるが、フローサイトメトリー等によって選抜されたマウスpIgRに反応する感度の高い抗体を産生するものであることが好ましい。
このようなハイブリドーマとして、本発明のNUD−001 No.3、NUD−001 No.4、NUD−001 No.7、NUD−001 No.8、NUD−001 No.15、NUD−001 No.17、NUD−001 No.19、NUD−001 No.23、NUD−001 No.24、NUD−001 No.26、NUD−001 No.27、NUD−001 No.29、NUD−001 No.32、NUD−001 No.33、NUD−001 No.35、NUD−001 No.41、NUD−001 No.43、NUD−001 No.44、NUD−001 No.45、NUD−001 No.46、NUD−001 No.50、NUD−001 No.51、NUD−001 No.56、NUD−001 No.57、NUD−001 No.60、NUD−001 No.65、NUD−001 No.67、NUD−001 No.69、NUD−001 No.72またはNUD−001 No.73等が挙げられる。
このうち特に、NUD−001 No.7(NITE−P423)、NUD−001 No.19(NITE−P424)、NUD−001 No.24(NITE−P425)、NUD−001 No.41(NITE−P426)またはNUD−001 No.46(NITE−P427)等のハイブリドーマが好ましい。
【0025】
本発明の「マウスpIgRに反応するモノクローナル抗体」は、検出の対象とする試料に存在するマウスpIgRの検出に用いることができる。試料としては、マウスから摘出した肝臓、腸管組織、唾液、血清、糞便などが挙げられる。
本発明の「マウスpIgRを検出する方法」には、従来知られている抗体を用いるタンパク質の検出方法であればいずれの物も用いる事ができる。例えば、本発明の抗体を用いたウェスタンブロッティング、ELISA、免疫沈降やaffinity columnを用いることができる。
以下、本発明の詳細を実施例等で説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0026】
<モノクローナル抗体の作製>
DNA免疫法を用いて、マウスpIgRの立体構造を認識する特異モノクローナル抗体を作製した。
1.発現ベクターの作製
PCR法を用いてマウスpIgRの細胞外領域を増幅した。
鋳型として、University of Kentucky,Department of pathology and laboratory medicineに所属していたCharlotte S. Kaetzel博士から供与されたcDNAを用いた。この鋳型cDNAは、マウスの組織または細胞からクロロホルム/フェノール/イソアミルアルコール/グアニジニウム/CsCl法によって全RNAを調製し、オリゴdTセルロースカラムクロマトグラフィー処理にてポリA(+)RNA(mRNA)を取得して、逆転写酵素の存在下で合成することができる。
この鋳型cDNAと、マウスpIgRのcDNA塩基配列に基づいて設計した5′末端および3′末端側の配列からなるプライマーを用いて、PCRを行った。
【0027】
PCRは、市販のサーマルサイクラー(Perkin Elmer−9600,Eppendorf−Master cycler gradient)を使用して実施した。PCR条件として、10×PCR buffer(100mM Tris(pH 8.3),500mM KCl,15mM MgClおよび0.1%(W/V)ゼラチン)、dNTPs 2mM、プラーマー2.5μM〜10μM中、Taqポリメラーゼ(1〜2.5単位;rTaq(Takara、京都、日本))を添加して反応を行った。PCRは、95℃、2〜5分での1回の変性サイクルの後、95℃、0.2〜1分での変性、50〜65℃、0.5〜1分でのアニーリング、および72℃、0.5〜2分での伸長を1サイクルとして15〜40サイクルを行い、最後に、72℃、5分の伸長を行った。
【0028】
上記で得たマウスpIgRの細胞外領域をタグ付の哺乳動物発現ベクターに組込み、キット(QIAGEN社)を用いて作製した発現ベクターを精製した。マウスpIgRの細胞外領域が設計した通りに細胞表面に発現されるか否かについて、Genovac社より譲渡された293T細胞を用いて検証した。
ベクターを293T細胞に導入し、マウスpIgRの細胞外領域を一過性強制発現導入した後、当該293T細胞をCO incubatorに、37℃、10%CO2で24時間培養(培地:D−MEM with high glucose(Wako,044−29765)500mL、FBS(Hyclone,lot.FQF24009) 5% FBS、Penisillin/streptomycin (Invitrogen,15140−122) 50units/mL、50ug/mL 4mM L−Glytamine)して、BECKMAN Flow cytometry XL−MCLを用いてFCM(flow cytometry)解析を行った。比較として、mockを一過性強制発現導入した細胞を用いた。
【0029】
FCM解析にあたり、上記の導入遺伝子に付加しているタグに反応する抗体(Anti−FLAG M2 Monoclonal Antibody(5mg)SIGMA F−3165)を遺伝子導入した培養細胞に4℃、30分間反応させ、その後抗タグ抗体を特異的に認識する蛍光標識した二次抗体(Goat F(ab′)2 Fragment MOUSE IgG(H+L)PE BECKMAN IM0855)を4℃30分間反応させFCM解析に用いた。その結果、図1に示すようにマウスpIgRの細胞外領域が細胞表面上に発現していることが確認された。
【0030】
2.モノクローナル抗体の作製
上記1.で作製した発現ベクターを、マウスの皮下に注入し、免疫を行った。免疫は約1〜2週間置きに数回、約1〜2ヶ月行った。ベクターの注入量は、17.5μg抗原/回であった。
免疫したマウスより血清を採集し、血清解析を行った。上記1.と同様にマウスpIgRの細胞外領域を293T細胞に一過性に発現導入し、当該293T細胞をCO incubatorに24時間培養した後、この培養溶液に、免疫したマウスより採集した血清を加え、30分間静置した。
その後、免疫したマウスの免疫グロブリンを特異的に認識する蛍光標識した二次抗体を溶液に添加し、30分間静置してからFCM解析に使用した。FCM解析の結果を図2−1、2−2に示した。この結果より、マウスpIgR遺伝子導入細胞を認識する強い特異抗体を産生しているマウスを選別した。
【0031】
上記で選別したマウスを解剖して脾臓細胞を取り出し、これとマウス骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを作製した。得られたハイブリドーマの中から、マウスpIgRの天然型高次構造を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマをフローサイトメトリーを用いて選抜した。
その結果、マウスpIgRの天然型高次構造を特異的に認識する抗体を産生するハイブリドーマ株として、NUD−001 No.3、NUD−001 No.4、NUD−001 No.7、NUD−001 No.8、NUD−001 No.15、NUD−001 No.17、NUD−001 No.19、NUD−001 No.23、NUD−001 No.24、NUD−001 No.26、NUD−001 No.27、NUD−001 No.29、NUD−001 No.32、NUD−001 No.33、NUD−001 No.35、NUD−001 No.41、NUD−001 No.43、NUD−001 No.44、NUD−001 No.45、NUD−001 No.46、NUD−001 No.50、NUD−001 No.51、NUD−001 No.56、NUD−001 No.57、NUD−001 No.60、NUD−001 No.65、NUD−001 No.67、NUD−001 No.69、NUD−001 No.72またはNUD−001 No.73が樹立された。
このうち、次の5株についてはNITEに寄託を行った。NUD−001 No.7(NITE−P423)、NUD−001 No.19(NITE−P424)、NUD−001 No.24(NITE−P425)、NUD−001 No.41(NITE−P426)またはNUD−001 No.46(NITE−P427)。これらの5株が産生する抗体は、マウスpIgRの検出において特に良好な反応を示した。
【0032】
本発明で樹立したこれらのハイブリドーマ株は培地1Lあたり5mLのペニシリン−ストレプトマイシンを添加したHAT培地(1L D−MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium Co:11965−084 Invitrogen) with 15% FCS,5% Hyblidoma cloning factor(Bio Veris Cat:210001),4mM L−Glutamine,Penicillin− Streptomycin;50units/mL and 50μg/mL,1xHAT supplement(HAT Media supplement(50x) Hybri−Max Lyophilized powder,Hybridoma tested SIGMA Ca:H 0262、これ2本を1LのD−MEMに添加した)で培養した。
【0033】
3.ハイブリドーマ株の特異抗体大量生産
樹立したハイブリドーマ細胞をヌードマウス1匹あたり1X10〜1X10となるように腹腔内に注射した。ハイブリドーマの増殖により、ヌードマウスの腹腔内に腹水が貯留した。この腹水を回収し、GE社のProtein G Sepharose精製用樹脂を充填したカラムで腹水より高純度のモノクローナル抗体を回収した。
【実施例2】
【0034】
ウェスタンブロッティングを用いるマウスpIgRを検出する方法
ハイブリドーマNUD−001 No.3、NUD−001 No.4、NUD−001 No.7、NUD−001 No.8、NUD−001 No.15、NUD−001 No.17、NUD−001 No.19、NUD−001 No.23、NUD−001 No.24、NUD−001 No.26、NUD−001 No.27、NUD−001 No.29、NUD−001 No.32、NUD−001 No.33、NUD−001 No.35、NUD−001 No.41、NUD−001 No.43、NUD−001 No.44、NUD−001 No.45、NUD−001 No.46、NUD−001 No.50、NUD−001 No.51、NUD−001 No.56、NUD−001 No.57、NUD−001 No.60、NUD−001 No.65、NUD−001 No.67、NUD−001 No.69、NUD−001 No.72またはNUD−001 No.73のより得られるモノクローナル抗体を用い、実施例1と同様にマウスpIgRの細胞外領域を一過性強制発現させた細胞に対するウェスタンブロッティングを行った。
一次抗体として、上記ハイブリドーマの培養上清を用い、二次交代として抗マウスIgG(H+L)−HRP(BIORAD社)を用いた。検出にはECL plus western blotting Deetection System(GE社)を用いた。
その結果、図3−1から図3−6に示すように、本発明のハイブリドーマが産生する抗体を用いてウェスタンブロッティングを行うことで、検出試料中に含まれる天然型マウスpIgRを特異的に検出できることが示された。図3−1から図3−6における+は変性試料、−は非変性の生体由来試料を示す。
【実施例3】
【0035】
ELISAを用いるマウスpIgRを検出する方法
1.ハイブリドーマNUD−001 No.19より得られるモノクローナル抗体をPBSにて1,000倍に希釈し、50μlを96−well plateに固層化し、1時間、室温に置いた。
2.上記1.をPBSで洗浄した後、1%BSA−PBS 100μl、1時間、室温においてブロッキングを行った。
3.上記2.に検出のための試料を添加して1時間、室温で反応させた。
4.上記3.をPBSで洗浄した後、1%BSA−PBSで1,000倍希釈したビオチン化したハイブリドーマNUD−001 No.7より得られるモノクローナル抗体を50 μlを添加した後、1時間、室温で反応させた。
5.上記4.を洗浄した後1%BSA−PBSで10,000倍希釈したNeutr. Avidin−HRP(PIERCE社)を50μl添加して1時間、室温で反応させた。洗浄後発色させ、吸光度を測定した。
マウスpIgRまたは比較としてmockを一過性強制発現させた細胞の細胞溶解液をそれぞれ用いて、上記1〜5の操作を行ったところ、図4に示すように、本発明のハイブリドーマが産生する抗体を用いることで、検出試料中に含まれるマウスpIgRを検出できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のマウスpIgRに反応するモノクローナル抗体は、然型マウスpIgRに反応して高い特異性を示す。また感度が高いため、ウェスタンブロッティングやELISA等の実験手法において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】発現ベクターの作製にあたり、FCM解析を行った結果を示した図である(実施例1)。
【図2−1】ハイブリドーマの選別にあたり、FCM解析を行った結果を示した図である(実施例1)。
【図2−2】ハイブリドーマの選別にあたり、FCM解析を行った結果を示した図である(実施例1)。
【図3−1】ウェスタンブロッティングを用いるマウスpIgRを検出する方法による検出結果を示した図である(実施例2)。
【図3−2】ウェスタンブロッティングを用いるマウスpIgRを検出する方法による検出結果を示した図である(実施例2)。
【図3−3】ウェスタンブロッティングを用いるマウスpIgRを検出する方法による検出結果を示した図である(実施例2)。
【図3−4】ウェスタンブロッティングを用いるマウスpIgRを検出する方法による検出結果を示した図である(実施例2)。
【図3−5】ウェスタンブロッティングを用いるマウスpIgRを検出する方法による検出結果を示した図である(実施例2)。
【図3−6】ウェスタンブロッティングを用いるマウスpIgRを検出する方法による検出結果を示した図である(実施例2)。
【図4】ELISAを用いるマウスpIgRを検出する方法による検出結果を示した図である(実施例3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)に反応するモノクローナル抗体。
【請求項2】
天然型マウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)に反応する請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
反応部位がマウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)の細胞外領域である請求項1または2に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
配列表配列番号1に記載のアミノ酸配列または配列番号2に記載の塩基配列にコードされるアミノ酸配列を含むポリヌクレオチドと反応する請求項1〜3のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
マウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)をコードする塩基配列を含むベクターを動物に免疫して得られる請求項1〜4のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
動物がマウスである請求項5に記載のモノクローナル抗体。
【請求項7】
マウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)をコードする塩基配列を含むベクターが、免疫増強シグナルをコードする塩基配列を含むベクターである請求項5または6に記載のモノクローナル抗体。
【請求項8】
マウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)をコードする塩基配列が、マウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)の細胞外領域の塩基配列である請求項5〜7のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
マウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)をコードする塩基配列が配列番号2に記載の塩基配列である請求項5〜8のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の抗体を用いて試料(検出対象)に存在するマウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)を検出する方法。
【請求項11】
ウェスタンブロッティングまたはEnzyme−linked immunosolvent(ELISA)を用いる請求項10に記載のマウス多量体免疫グロブリンレセプター(pIgR)を検出する方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項13】
NUD−001 No.7(NITE−P423)、NUD−001 No.19(NITE−P424)、NUD−001 No.24(NITE−P425)、NUD−001 No.41(NITE−P426)またはNUD−001 No.46(NITE−P427)のいずれかである請求項12に記載のハイブリドーマ。

【図1】
image rotate

【図2−1】
image rotate

【図2−2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate

【図3−4】
image rotate

【図3−5】
image rotate

【図3−6】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−137859(P2009−137859A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−314160(P2007−314160)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】