説明

マクロリド化合物を単離する方法

マクロリド化合物は水不溶性であるが、驚くべきことには生成物の高い部分は発酵ブロス中の液相中に見出される。したがって、全発酵ブロス、すなわち、必要なマクロリド化合物を産生する微生物の培養により得られる懸濁液は高度に好ましい。本発明は、安価な環境的許容される溶媒を使用して全発酵ブロスを処理する方法を教示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロリド化合物、すなわち、タクロリムスまたはシロリムスまたはそれらの天然に存在する誘導体およびアナローグを発酵ブロスから単離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マクロリド化合物またはマクロリド類は多員ラクトン環である。抗生物質として使用するエリスロマイシンは、このようなマクロリドのよく知られている例である。他のマクロリド類、例えば、タクロリムスおよびシロリムスは免疫抑制剤としてしばしば使用される。
【0003】
タクロリムス、すなわち、T-リンパ球に対して選択的阻害作用を有するマクロリドは、最初に米国特許第4,894,366号及び欧州特許第184,162号に記載された。また、タクロリムスは科学論文に記載された: H. Tanaka 他、J. Am. Chem. Soc. 1987、109、5031-5033およびT. Kino 他、J. Antibiot. 1987、40、1249-1255。
【0004】
シロリムスは、またラパマイシンとして知られており、最初に米国特許第3,929,992号に記載された。シロリムスは、また、科学論文に記載された: C. Vezina 他、J. Antibiot. 1975、28、721-726、S. N. Sehgal 他、J. Antibiot. 1975、28、727-731。
【0005】
アスコマイシン、すなわち、マクロリドはタクロリムスの天然のアナローグである。アスコマイシンは下記の論文に記載されている: H. Hatanaka 他、J. Antibiot. 1988、41、1592-1599、M. Morisaki 他、J. Antibiot. 1992、45、126-132。タクロリムスの他の天然の誘導体およびアナローグは下記の特許に記載されている: EP 358,508およびGB 2,269,172。
【0006】
タクロリムスおよびシロリムスを製造する好ましい方法は発酵であるが、両方の化合物の全合成はまた記載された (EP 378,318およびK. C. Nicolaou 他、J. Am. Chem. Soc. 1993、115、4419) 。
【0007】
これらのマクロリドバイオマス中のマクロリド類の濃度が低くかつ固相 (菌糸体) および液相 (濾過した発酵ブロス) の両方の中にマクロリド類が存在するという事実のために、発酵ブロスからのタクロリムスおよびシロリムスの両方の単離は困難である。したがって、マクロリド化合物の経済的単離法は、例えば、下記の文献に記載されているように (1) 菌糸体の単離および (2) 菌糸体および濾過した発酵ブロスの両方の分離処理を必要とする: T. Kino 他、J. Antibiot. 1987、40、1249-1255。他の可能性は特許出願WO 03/68 980に記載されており、この特許出願は疎水性有機溶媒を使用する発酵ブロスの直接的抽出を特許請求している。
【発明の開示】
【0008】
発明の要約
本発明による方法は、全発酵ブロスの処理を可能とする。菌糸体からのマクロリド化合物の抽出は、適当な水混和性有機溶媒を全ブロスに添加することによって達成される。これにより、マクロリド化合物は液相に移される。次いで、抽出された菌糸体を分離する。適当な水非混和性溶媒を使用する抽出により液相 (水性抽出物) をさらに処理して、有機抽出物を得る。次いで、有機抽出物を部分的に蒸発させ、残留物をトルエン中に移してトルエン濃縮物を得る。移動相としてアセトンで極性化したトルエンを使用するシリカゲル上のクロマトグラフィーにより、このトルエン溶液をさらに精製する。次いで、マクロリド化合物を含有する画分を濃縮し、残留物を適当な溶媒から結晶化させて、必要なマクロリド化合物を得る。
【0009】
この方法の他の態様において、水非混和性溶媒で処理する前に水性抽出物を菌糸体から分離しない。水非混和性溶媒は水性抽出物中の菌糸体の懸濁液に直接添加することができ、次いで有機抽出物を3相系から分離かすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
適当な水混和性有機溶媒を全発酵ブロスに添加して、マクロリド化合物を液相中に抽出する。このような水混和性溶媒は脂肪族アルコールまたはケトンの共抽出を減少することができる。好ましい溶媒は、アセトン、2-プロパノールおよび1-プロパノールである。
【0011】
1-プロパノール。エタノールをマクロリド化合物の抽出に使用できるが、エタノールは単離されたマクロリド化合物と反応することができるので、エタノールはアセトンおよび/または2-プロパノールよりも好ましくない。水混和性有機溶媒を全発酵ブロスに添加することによって得られる水性抽出物は、濾過または沈降により、好ましくは遠心分離により、抽出された菌糸体から分離することができる。透明な水性抽出物が得られ、これは蒸発させないでさらに処理することができる。また、水性抽出物は固相を分離しないで処理することができる。
【0012】
水性抽出物のそれ以上の処理は、菌糸体が分離されるか否かにかかわらず、水非混和性溶媒を水性抽出物に添加し、そして2または3相系を混合することを含んでなる。これにより、マクロリド化合物は有機相に抽出されるが、大部分のバラスト成分は水相中に残留する。水非混和性溶媒は、脂肪族炭化水素を除外した、任意の有機水混和性溶媒であることができる。好ましい溶媒はトルエン、キシレン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、t-ブチルメチルエーテルおよびイソブチルケトンである。本発明は、マクロリド化合物の精製および生成物の濃縮を開示する。なぜなら、実施例において証明するように、非常に少量の水非混和性溶媒のみを水性抽出物に添加して、マクロリド化合物を有機相に定量的に移すことができるからである。トルエンおよびアセトンまたは2-プロパノールの沸点が実質的に異なるために、使用した溶媒を簡単に回収できるので、トルエンは好ましい溶媒である。
【0013】
マクロリドが有機相中に抽出された後、分離した有機相を真空濃縮する。アセトンで段階的に極性化したトルエンを使用するシリカゲル上のクロマトグラフィーにより、得られた濃縮物をさらに精製する。有機抽出物の蒸発により得られた濃縮物を、クロマトグラフィーカラムに直接負荷することができる。本発明による方法の最終操作は、実施例に記載するように、必要なマクロリド化合物を含有するクロマトグラフィーの画分を適当な溶媒から結晶化することである。
【実施例】
【0014】
実施例1.
タクロリムスを産生するストレプトマイセス (Streptomyces) 種の液内培養により得られた10リットルの全発酵ブロスを10リットルのアセトンで希釈し、この懸濁液を4時間攪拌した。固相を濾過により分離し、濾液を1000 mlのトルエンで2回抽出した。トルエン抽出物を一緒にし、トルエンを減圧下に蒸発させて体積約100 mlの濃縮物を形成した。この濃縮物を100 gのシリカゲル (Lichroprep Merck 60、63〜200μm) を充填したクロマトグラフィーカラムに負荷した。
【0015】
このカラムをまずトルエン (約300 ml) で洗浄し、次いでトルエンと5〜30 % (v/v) のアセトンとの混合物で洗浄した。タクロリムスを含有する画分 (TLC監視) を一緒にし、蒸発乾固して残留物を生成させた。残留物 (3.7 g) を2-プロパノール (10 ml) および20 mlの水中に溶解し、30 mlのヘキサンをこの溶液に添加した。この溶液を冷蔵庫 (約+ 2℃) 中で冷却することによって、タクロリムスの結晶化を達成した。結晶質タクロリムスを濾過により分離した。1.4 gの結晶質タクロリムスが得られた。
【0016】
実施例2.
シロリムスを産生するストレプトマイセス (Streptomyces) 種の液内培養により得られた10リットルの全発酵ブロスを10リットルの2-プロパノールで希釈し、この懸濁液を4時間攪拌した。固相を濾過により分離し、濾液を1000 mlのトルエンで3回抽出した。トルエン抽出物を一緒にし、トルエンを減圧下に蒸発させて体積を約100 mlにし、この濃縮物を100 gのシリカゲル (Lichroprep Merck 60、63〜200μm) を充填したクロマトグラフィーカラムに負荷した。このカラムをまずトルエン (約300 ml) で洗浄し、次いでトルエンと5〜30 % (v/v) のアセトンとの混合物で洗浄した。シロリムスを含有する画分 (TLC監視) を一緒にし、蒸発乾固して残留物を生成させた。
【0017】
この残留物 (5.5 g) を酢酸エチル (20 ml) 中に溶解し、50 mlのヘキサンをこの溶液に添加した。この溶液を結晶化が起こるまで冷蔵庫 (約+ 2℃) 中に入れて、タクロリムスを結晶化させた。結晶質シロリムスを濾過により分離した。2.1 gの結晶質シロリムスが得られた。
【0018】
実施例3.
シロリムスを産生するストレプトマイセス (Streptomyces) 種の液内培養により得られた10リットルの全発酵ブロスを10リットルのアセトンで希釈し、この懸濁液を2時間攪拌した。次いで、2リットルのトルエンを添加し、この混合物をさらに2時間攪拌した。最後に、この混合物を遠心機で処理し、3.2リットルの有機抽出物が得られた。有機抽出物を実施例1に記載するようにさらに処理した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
a) 発酵ブロスを水混和性有機溶媒で希釈して水性抽出物を形成し、
b) 水性抽出物を水非混和性溶媒でpH約5〜約12において抽出して有機抽出物を獲得し、
c) 有機抽出物を部分的に蒸発させてマクロリド化合物の濃縮物を形成し、
d) 移動相としてトルエンとアセトンとの混合物を使用するシリカゲル上の濃縮物のクロマトグラフィーによりマクロリド化合物を含有する画分を獲得し、
e) マクロリド化合物を含有する画分を濃縮し、そして
f) 適当な溶媒から残留物を結晶化する;
を含んでなる発酵ブロスからマクロリド化合物を単離する方法。
【請求項2】
水混和性有機溶媒がエタノール、1-プロパノール、2-プロパノールまたはアセトンから成る群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水混和性有機溶媒が2-プロパノールまたはアセトンであるか、あるいは2-プロパノールとアセトンとの混合物である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
水性抽出物を固相から濾過または沈降により分離するか、あるいは水非混和性溶媒を使用する処理に付す、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
水非混和性溶媒を使用する処理に付す前に、水性抽出物を固相から分離しない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
水非混和性溶媒がトルエン、キシレン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、t-ブチルメチルエーテルまたはメチルイソブチルケトンから成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
水非混和性溶媒がトルエンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
発酵ブロスが全発酵ブロスを意味する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
発酵ブロスがマクロリド化合物を産生する微生物ストレプトマイセス (Streptomyces) 種の培養により得られる懸濁液を意味する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
マクロリド化合物がタクロリムスまたはシロリムスまたはこれらの化合物の天然に存在する誘導体またはアナローグである、請求項1および9に記載の方法。
【請求項11】
マクロリド化合物の濃縮物がマクロリド化合物を含有するトルエン溶液を意味する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
シリカゲルを充填したカラムに濃縮物を導入し、そして前記カラムをアセトンで段階的に極性化したトルエンで洗浄する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
トルエン/アセトンの容積比が1:1までである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
マクロリド化合物を含有する画分に乾燥残留物に濃縮する、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
タクロリムスの結晶化に使用するために適当な溶媒が2-プロパノールと水との混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
2-プロパノール/水の容積比が1:1〜1:3である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
結晶化をヘキサンの添加により達成する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
ヘキサンの量が限定されない、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
タクロリムスまたはシロリムスの結晶化に適当な溶媒がジイソプロピルエーテルであるか、あるいは酢酸エチルまたはアセトンとヘキサンとの混合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
酢酸エチルまたはアセトン/ヘキサンの容積比が1:1〜1:5である、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2008−512125(P2008−512125A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531390(P2007−531390)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/032249
【国際公開番号】WO2006/031661
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(507000305)アイバックス ファーマシューティカルズ スポレツノスト エス ルチェニム オメゼニム (4)
【Fターム(参考)】