マグネシウム合金物品およびマグネシウム合金部材
【課題】マグネシウム合金基体と樹脂とが強力に接合され、かつ変形が抑制されたマグネシウム合金物品を提供する。
【解決手段】外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有する、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体を含むマグネシウム物品であって、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを介して前記基体の外周の少なくとも一部を取り囲む樹脂と接合しているマグネシウム合金物品である。
【解決手段】外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有する、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体を含むマグネシウム物品であって、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを介して前記基体の外周の少なくとも一部を取り囲む樹脂と接合しているマグネシウム合金物品である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周の少なくとも一部分を取り囲む樹脂が接合されているマグネシウム合金物品および外周の少なくともに一部分を取り囲む樹脂を接合するために表面処理を行ったマグネシウム合金部材に関し、とりわけ、マグネシウム合金基体と樹脂との密着性に優れ、かつ変形の少ないマグネシウム合金物品およびマグネシウム合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムおよびマグネシウム合金は、比強度および比剛性が高く、軽量化を容易に行えることから、携帯電話、カメラ、パーソナルコンピュータ等の筐体に広く使用されている。そして、マグネシウム合金基体の外周等の表面の少なくとも一部を覆う樹脂を接合したマグネシウム合金物品は、マグネシウム合金基体により樹脂成形品単独では得られない、優れた剛性を確保するとともに、樹脂によりマグネシウム合金単独では形成できない複雑形状や審美性を得ることが可能であり、前述の用途を含む多くの分野で使用されている。
【0003】
このような、マグネシウム合金基体に樹脂が接合したマグネシウム物品を、筐体等を含む幅広い用途で用いるためには、マグネシウム合金と樹脂との間の接合強度を高くする必要がある。
【0004】
樹脂と基体との接合力を得る方法として、エポキシ系接着剤等の接着剤を使用する方法(特許文献1)が提案されている。
【0005】
さらに、これ以外にも表面に微細凹凸を有する多孔質層を形成し、アンモニア、ヒドラジン、水溶性アミン化合物およびアルコールに浸漬したマグネシウム合金の基体に、エンジニアリング樹脂を射出成形して接合する方法(特許文献2〜4)、および浸食性水溶液等による浸漬処理または陽極酸化により、表面に平均内径10〜80nmの凹凸を形成した基体にPPS系樹脂を射出成形する方法(特許文献5)が提案されている。
【0006】
また、マグネシウム合金を含む金属と樹脂との間により強い結合力を得るように、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて、金属表面に反応性官能基を導入し、金属と樹脂との間を化学的に結合させる方法(特許文献6、7)が知られている。
しかし、これらの方法で得られる接合力は十分なものではなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは各種の検討を行った結果、詳細を後述するようにマグネシウム合金基体の表面に所定の化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを形成することにより、樹脂とマグネシウム合金基体との間に高い結合力が得られることを見出した。
【0008】
しかし、この方法を用いて得たマグネシウム物品で湾曲等の変形を生じる場合があった。
【0009】
図15は、一例として示すマグネシウム合金物品200を示す斜視図である。図16は、マグネシウム合金物品200で用いられているマグネシウム合金基体250を示す斜視図である。
【0010】
マグネシウム合金基体250は、その内部に例えばプリント基板等の電子部品を収納できる空間を形成するように、天板(または底面)235の周囲を立壁211〜214が取り囲む構造となっている。
【0011】
例えば、基体250の表面の立壁に211〜214の外側表面の一部分に、所定の化成被膜と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆を形成した接合部を設け、基体250を金型内で加熱し、加熱して溶融状態となった樹脂204を金型に射出するインサート成形により筐体200を得ている。樹脂204は、この接合部でマグネシウム合金基体250と接合している。
【0012】
しかし、インサート成形等での加熱後の冷却工程において、樹脂の収縮量がマグネシウム合金の収縮量より大きく、この収縮量の差に起因して生じる応力のため、得られたマグネシウム合金物品200に湾曲等の変形が生じる場合があった。
【0013】
特に、発明者らが見出した化成被膜と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを用いる接合方法は、接合力が強く、接合界面にこのような応力が生じても、樹脂204とマグネシウム合金基体250とが剥離しないことから応力が緩和されず、このような変形を助長する場合もあった。
【0014】
樹脂と金属との冷却時の収縮量の差に起因する変形を防止する方法として、例えば特許文献8には、金属板との接合部に近い板状の樹脂成形部に肉薄部を形成し、この肉薄部で変形の歪みを吸収する方法が示されている。
【0015】
特許文献9には、板状の樹脂部と金属板との突き合わせにおいて、金属板の突き合わせ部近傍に溝を形成し、樹脂を射出する際の圧力で金属部を変形させ、樹脂が冷却により収縮する際にその変形が元に戻ることで金属板と樹脂との間に隙間が生じるのを防止する方法が示されている。
【0016】
さらに特許文献10には、金属部品に取り付けられた嵌合形状の樹脂成形部が、高温で樹脂が膨張する際に締め付け力を与える方法が示されている。
【特許文献1】特開2007−15337号公報
【特許文献2】特開2003−103563号公報
【特許文献3】特開2005−342895号公報
【特許文献4】特開2006−27018号公報
【特許文献5】特開2007−50630号公報
【特許文献6】特開2006−213677号公報
【特許文献7】特開2007−131580号公報
【特許文献8】特開平9−147520号公報
【特許文献9】特開平9−167461号公報
【特許文献10】特開2007−64363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献8および9に記載の方法は、金属板と板状の樹脂との突き合わせを対象としており、図15に示すような立壁を有する複雑形状のマグネシウム合金基体と樹脂との接合には適用できない。
また、特許文献10の方法は、高温での使用時に締め付け力を与えるものであり、常温で使用する物品には適用できない。
【0018】
そこで本発明は、マグネシウム合金基体と樹脂とが強力に接合され、かつ変形が抑制されたマグネシウム合金物品を提供することを目的とする。また、本発明は、表面に樹脂を接合しても変形が少ないマグネシウム合金部材の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心から一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心から他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有する、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体を含むマグネシウム物品であって、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを介して前記基体の外周の少なくとも一部を取り囲む樹脂と接合していることを特徴とするマグネシウム合金物品である。
【0020】
本発明はまた、外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有し、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜を介し、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を被覆されていることを特徴とするマグネシウム合金部材である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、マグネシウム合金基体に適切に配置された接合部分を形成し、この接合部分の表面に化成皮膜と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを形成することで、マグネシウム合金基体と樹脂との間に高い接合力を有し、かつ変形が抑制されたマグネシウム合金物品を提供することが可能となる。また、表面に強固に樹脂を接合でき、かつ変形が少ないマグネシウム合金部材の提供も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一または相当する部分又は部材を示す。
【0023】
上述のように、本発明者は、マグネシウムまたはマグネシウム合金基体表面に所定の化成被膜を形成し、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて、この化成被膜の上に脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆を形成する方法を見出した。この脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆の上に樹脂を被覆することで樹脂とマグネシウム合金基体との間に高い接合力を得ることができる。
【0024】
そして、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体の外周上の少なくとも1組の対向する辺に適切に第1の接合部と第2の接合部とを配置することでマグネシウム物品の変形を抑制できることを見出した。
【0025】
すなわち、それぞれの辺において、その中心から一方の端部までの間に第1の接合部を配置し、その中心から他方の端部までの間に第2の接合部を配置することで、応力が辺の両サイドにバランスよく付与され変形が抑制されることを見出した。
以下に、最初に前述の接合方法の詳細を説明し、続いて変形の抑制方法の詳細を説明する。
【0026】
1.接合方法
マグネシウム合金基体と樹脂とを接合する際に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いても十分に高い結合力が得られない理由について、本発明の発明者らは検討を行い、これがマグネシウム合金基体の表面の酸化膜に起因する可能性が高いことを見い出した。
【0027】
アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて、金属と樹脂とを接合する場合、アルコキシシラン部分が金属と化学結合し、金属表面にトリアジンチオール誘導体部分よりなる反応性官能基が導入される。この官能基(トリアジンチオール誘導体部分)が樹脂と化学結合することにより、金属と樹脂との間を、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体(上記アルコキシシラン部分が金属と化学結合の結果、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体より生じる生成物)を介して化学的に結合でき、これにより強い結合力を得ることが可能となる。
【0028】
通常、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体のアルコキシシラン基と金属との結合は、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の溶液を調製し、この溶液中に金属を浸漬することで金属表面の水酸基(OH基)とアルコキシシラン基が反応することで行われる。このため、プラズマ処理によって金属表面の酸化被膜を除去すると共に、金属表面に水酸基(OH基)を導入する方法が一般的に用いられている。
【0029】
しかし、マグネシウムは酸素との結合力が強く、マグネシウム合金表面に形成される酸化被膜が緻密で、かつ強固なために、OH基が十分に導入されず、マグネシウム合金とアルコキシシラン基との間で十分な結合数(密度)を得ることができないものと推測できる。また、単に酸化マグネシウムの被膜を取り除くだけでは、マグネシウムが酸素と結びついて直ちに新たな酸化被膜を形成してしまうため、高い結合力を得ることが出来ない。
【0030】
そこで、本発明者らは、マグネシウム合金基体を表面処理することで、金属表面にアルコキシシラン基と反応して結合する、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートのうちの少なくとも1つを含む化成皮膜を形成した後に、アルコキシシラン含有トリアジンチオールを用いて、マグネシウム合金基体とその表面に配置される樹脂とを強く結合するという本願記載の発明に至った。
以下に本発明の詳細を説明する。
【0031】
図1は、全体が100で表される本発明にかかるマグネシウム合金物品の一部分を模式的に示す断面図である。マグネシウムまたはマグネシウム合金から成るマグネシウム合金基体1と樹脂層4とが、詳細を後述する化成皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3とを介して接合している。
脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体3を用いて、マグネシウム合金基体1と樹脂層4とを接合した従来のマグネシウム合金物品200の断面を図2に示す。従来のマグネシウム合金物品200は、化成皮膜2を有していない。
【0032】
本発明にかかるマグネシウム合金物品100の特徴である化成皮膜2は、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
この化成皮膜2を用いることでマグネシウム合金基体1と樹脂4との間が強く接合されている本発明のマグネシウム合金物品100を製造する方法を以下に詳述する。
【0033】
1−1.前処理
化成処理により化成皮膜を生成する前に、前処理として、マグネシウム合金基体1表面の脱脂および/または酸化被膜除去を目的に、好ましくは、脱脂処理および/またはエッチング処理を行う。
【0034】
脱脂処理は、マグネシウム合金基体の脱脂等に通常用いられる方法でよく、例えば水酸化ナトリウム等の強アルカリを用いて脱脂する。好ましい脱脂条件は、例えば濃度10〜100g/L、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中での脱脂である。より好ましい条件は、濃度10〜100g/L(最も好ましくは10〜20g/L)、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中で予備脱脂を行った後、さらに、濃度10〜100g/L(最も好ましくは60〜90g/L)、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中で脱脂を行う。
【0035】
これ以外にも、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ砂のようなナトリウム塩、オルソケイ酸ナトリウム、珪酸ナトリウムのようなケイ酸塩類、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム等の各種リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムのようなリン酸塩類を用いて脱脂を行ってもよい。
【0036】
マグネシウム酸化被膜を除去するためのエッチング処理は、リン酸、ケイフッ化水素酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸等の無機酸中またはシュウ酸、酢酸、クエン酸などの有機酸中で行われ、その後、アルカリ中で中和、脱スマット処理する。
【0037】
酸による好ましいエッチング条件は、無機酸の場合、濃度:1〜10g/L、温度:30〜70℃であり、有機酸の場合、濃度:10〜50g/L、温度:20〜70℃の範囲が好ましい。
【0038】
より好ましくは、マグネシウム合金基体1に、脱脂処理とエッチング処理との両方を行う。以下に詳述する化成処理で生成する化成被膜と、マグネシウム合金基体との間の接合力を高めるためである。
【0039】
なお、マグネシウム合金基体1は、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成り、マグネシウム合金としては工業上用いられるいずれのマグネシウム合金も使用可能である。好ましいマグネシウム合金の例は、AZ21、AZ31、AZ61、AZ91、AZ101合金のようなAZ系合金、およびAM50、AM60のようなAM系合金である。
【0040】
1−2.化成処理
マグネシウム合金基体1の表面に、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートの少なくとも1つを含む化成皮膜2を生成するために、以下に示す方法により化成処理を行う。これらの方法の少なくとも1つを用いて、化成皮膜を形成する。
【0041】
(1)水酸化物
水酸化物から成る化成皮膜2を得るための1つの方法は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水のようなアルカリ水溶液を適用し、マグネシウム合金基体1の表面を処理し、表面に水酸化物を主成分とする化成皮膜を形成する方法である。
【0042】
化成皮膜として形成される水酸化物の例として、水酸基とマグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムとが結合した結果生じる、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを主たる成分とする水酸化物がある。
【0043】
例えば、水酸化カリウムを用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:5〜100g/L、温度:50〜90℃であることが好ましい。また、これ以外の例えば水酸化ナトリウム、アンモニア水のようなアルカリ水溶液を用いる場合は、濃度:10〜150g/L、温度:50〜90℃であることが好ましい。
【0044】
ところで、陽極酸化法において、適正な電解液を選択することで、マグネシウム合金表面に水酸化マグネシウムを主体とした被膜を形成できることが知られている(例えば特開2006−322044)。しかし、陽極酸化法により生成する被膜は、多孔質で厚いことから、脆く、必ずしも十分な接合強度を得られない場合があり、上述したアルカリ溶液を用いて化成処理をすることが好ましい。
【0045】
同様に、アルミニウム合金において、ヒドラジン水溶液を用いて、AlOOHの被膜で覆うことが知られているが(例えば特許文献6)、マグネシウム合金にヒドラジンを用いると、生成する被膜が脆いため、上述したアルカリ溶液を用いて化成処理をすることが好ましい。
【0046】
(2)カルボン酸、カルボン酸塩
タンニン酸のようなカルボン酸水溶液を用い、マグネシウム合金基体1に化成処理を行う。これにより、マグネシウム合金基体1の表面で、これらカルボン酸とマグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムが結合し、カルボン酸のマグネシウム塩および/またはアルミニウム塩を主成分とする化成皮膜が生成する。
【0047】
また、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などのカルボン酸のナトリウム塩またはカリウム塩のようなアルカリ金属塩の水溶液を用い化成処理を行ってもよい。この場合、マグネシウム合金基体1の表面には、これらカルボン酸のアルカリ金属塩を主とする化成皮膜2が形成する。この化成皮膜2は、上記カルボン酸のマグネシウム塩および/またはアルミニウム塩を含む場合がある。
【0048】
ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸のアルミニウム塩の水溶液を用いて化成処理を行ってもよい。この場合、マグネシウム合金基体1の表面には、これらカルボン酸のアルミニウム塩を主とする化成皮膜2が形成する。この化成皮膜2は、上記カルボン酸のマグネシウム塩を含む場合がある。例えばシュウ酸アルミニウム水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:0.5〜30g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0049】
(3)リン酸、リン酸塩
リン酸、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムおよびリン酸ジルコニウムのような、−H2PO4、−HPO4または−PO4を含有するリン酸およびリン酸塩の溶液を用い、化成処理を行う。なお、本明細書でいうリン酸とはオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等を含む広義のリン酸であり、リン酸塩とは、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等の広義のリン酸の化合物を含む概念である。
【0050】
リン酸を用いることで、マグネシウム合金基体1の表面にリン酸マグネシウムおよび/またはリン酸アルミニウムを主成分とする化成皮膜2が形成される。
【0051】
一方、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムおよびリン酸ジルコニウムのようなリン酸塩(リン酸の金属塩)の水溶液を用いて化成処理を行うことにより、マグネシウム合金基体1の表面に、これらリン酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成できる。これらリン酸塩の化成皮膜2は、リン酸マグネシウムおよび/またはリン酸アルミニウムを含んでもよい。また、例えば種類の異なる金属のリン酸塩を混合した溶液中で化成処理を行うことにより、リン酸マグネシウムおよびリン酸アルミニウム以外の複数のリン酸塩を含んでもよい。
【0052】
例えば、リン酸ジルコニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:1〜100g/L、温度:20〜90℃であることが好ましい。また、これ以外のリン酸、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムのようなリン酸、リン酸塩の水溶液を用いる場合は、水溶液は、濃度:5〜30g/L、温度20〜90℃であるのことが好ましく、温度については25℃〜75℃であることがより好ましい。
【0053】
(4)ケイ酸塩
メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムのようなケイ酸塩またはメタケイ酸塩の水溶液を用いて化成処理を行う。これによりマグネシウム合金基体1の表面にメタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムのようなケイ酸塩またはメタケイ酸塩を主成分とする化成皮膜2を得る。なお、得られた化成皮膜2は、ケイ酸マグネシウム(メタケイ酸マグネシウム)および/またはケイ酸アルミニウム(メタケイ酸アルミニウム)を含んでもよい。
【0054】
一方、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウムのようなケイ酸塩(ケイ酸の金属塩)の水溶液を用いて化成処理を行うことにより、マグネシウム合金基体1の表面に、これらケイ酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成できる。例えば、ケイ酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜30g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0055】
また、これらケイ酸塩金属塩の化成皮膜2は、ケイ酸マグネシウムおよび/またはケイ酸アルミニウムを含んでもよい。さらに、例えば種類の異なる金属のケイ酸塩を混合した溶液中で化成処理を行うことにより、ケイ酸マグネシウムおよびケイ酸アルミニウム以外の複数のケイ酸塩を含んでもよい。
【0056】
(5)炭酸、炭酸塩
炭酸、または炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ジルコニウムのような炭酸塩の水溶液を用いて化成処理を行う。炭酸を用いた場合には、マグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムと結合し、炭酸マグネシウムおよび/または炭酸アルミニウムの化成皮膜2がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ジルコニウムのような炭酸塩を用いると、これら炭酸塩を主成分とする化成皮膜を形成する。なお、得られた化成皮膜は、炭酸マグネシウムおよび/または炭酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、炭酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度1〜50g/L、温度50〜90℃であることが好ましい。
【0057】
(6)硫酸、硫酸塩
硫酸、または硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸チタニル、硫酸ジルコニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウムのような硫酸塩の水溶液を用い、化成処理を行う。硫酸を用いた場合には、硫酸マグネシウムもしくは硫酸アルミニウムまたはその両方を主成分とする化成皮膜2がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸チタニル、硫酸ジルコニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウムのような硫酸の金属塩を用いると、これら金属塩を主成分とする化成皮膜2が形成される。得られた化成皮膜2は、硫酸マグネシウムおよび/または硫酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、硫酸カリウムアルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜30g/L、温度30〜60℃であることが好ましい。
【0058】
(7)チオ硫酸塩
チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カルシウムのようなチオ硫酸塩の水溶液を用い化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれらチオ硫酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成する。なお、得られた化成皮膜2は、チオ硫酸マグネシウムおよび/またはチオ硫酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、チオ硫酸カルシウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度20〜50g/L、温度40〜60℃であることが好ましい。
【0059】
(8)硝酸、硝酸塩、亜硝酸塩
硝酸、または硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マンガン、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ストロンチウムのような硝酸塩または亜硝酸塩(金属塩)の溶液(例えば水溶液)を用い、化成処理を行う。硝酸または硝酸アンモニウムを用いた場合には、硝酸マグネシウムもしくは硝酸アルミニウムまたはその両方を主成分とする化成皮膜2がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、硝酸ナトリウム、硝酸マンガン、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ストロンチウムのような硝酸または亜硝酸の金属塩を用いると、これら金属塩を主成分とする化成皮膜2が形成される。この場合、得られた化成皮膜は、硝酸マグネシウムおよび/または硝酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、硝酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜50g/L、温度30〜60℃であることが好ましい。
【0060】
(9)過マンガン酸塩
過マンガン酸カリウムの溶液のような、過マンガン酸塩の水溶液を用い、化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれら過マンガン酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成する。なお得られた化成皮膜2は、過マンガン酸マグネシウムおよび/または過マンガン酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、過マンガン酸カリウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度1〜10g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0061】
(10)アミノ化合物
エチルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリアゾール、アニリンのようなアミノ基を含むアミノ化合物または、これらアミノ化合物の溶液(例えば、水溶液、またはアルコールもしくはベンゼン溶液)を用い、化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれらアミノ化合物を主成分とする化成皮膜2を形成する。
例えば、エチルアミンの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度5〜100g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0062】
(11)金属アセチルアセトナート
Zn(COCH2COOCH3)2のような金属アセチルアセトナートの溶液(例えば水溶液)を用い、化成処理を行う。金属アセチルアセトナートを主たる成分とする化成皮膜2を形成する。例えばZn(COCH2COOCH3)2の水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.1〜30g/L、温度20〜70℃であることが好ましい。
【0063】
上記に示す化成処理の中でも水酸化物を用いる方法が好ましく、リン酸、リン酸塩を用いる方法がより好ましい。
【0064】
水酸化物を用いる方法では、形成される化成皮膜2が緻密であり、マグネシウム合金基体1との間の接合力が強い。水酸化物の水溶液の濃度および温度が上述した好ましい範囲内であれば、比較的短い時間で緻密な化成皮膜2を得ることが可能である。
【0065】
リン酸、リン酸塩を用いる方法では、好ましくは厚さが0.05〜5μm、より好ましくは厚さ0.05〜2μmと、比較的一様な化成皮膜2を形成することが可能である。
このため、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体が化成皮膜2に浸透して、化成皮膜2と反応するサイトが多くなり、トリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと化成皮膜成分のリン酸基とが、加熱処理によって脱水反応を起こし、化学的に結合する。この様にして、生成する脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3と化成皮膜2との間に、より強固な結合を得ることができる。
【0066】
さらに、樹脂4が接合後に冷却されて収縮する際に、この化成皮膜2が樹脂4と化成皮膜2との間に生じる応力を分散吸収し、樹脂4の剥離および化成皮膜2のクラックの発生を防ぐ効果を有する。リン酸またはリン酸塩の濃度および温度が上述した好ましい範囲内であれば、比較的短い時間で緻密な化成皮膜2を得ることが可能である。
【0067】
なお、上記の溶液を用いた化成処理は、マグネシウム合金基体1の全体または一部を溶液(化成処理液)に浸漬することのみでなく、マグネシウム合金基体2の表面の全部または一部を、スプレー、塗布等により溶液を被覆すること、または溶液と接触させることも含む。
【0068】
従って、上記から明らかなように、化成皮膜2は、必ずしもマグネシウム合金基体2の表面全体に形成される必要はなく、適宜、必要な部分にのみ形成してもよい。
【0069】
1−3.アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の被覆
上述の方法により、マグネシウム合金基体1の表面に化成皮膜2を形成した後、化成皮膜2にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を被覆する。
用いるアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、例えば特許文献6に開示されているアルコキシシラン含有トリアジンチオール金属塩のような、既知のものでよい。
即ち、以下の(式1)または(式2)に示した一般式で表される。
【0070】
【数1】
【0071】
【数2】
【0072】
式中のR1は、例えば、H−、CH3−、C2H5−、CH2=CHCH2−、C4H9−、C6H5−、C6H13−のいずれかである。R2は、例えば、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−、−CH2CH2SCH2CH2−、−CH2CH2NHCH2CH2CH2−のいずれかである。R3は、例えば、−(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2−、または、−(CH2CH2)2N−CH2CH2CH2−であり、この場合、NとR3とが環状構造となる。
【0073】
式中のXは、CH3−、C2H5−、n−C3H7−、i−C3H7−、n−C4H9−、i−C4H9−、t−C4H9−のいずれかである。Yは、CH3O−、C2H5O−、n−C3H7O−、i−C3H7O−、n−C4H9O−、i−C4H9O−、t−C4H9O−等のアルコキシ基である。式中のnは1、2、3のいずれかの数字である。Mはアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、KまたはCeである。
【0074】
化成皮膜2を被覆するアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の溶液を作製する。用いる溶媒は、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体が溶解するものであればよく、水およびアルコール系溶剤がこれに該当する。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、カルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびこれらの混合溶媒も使用可能である。アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体の好ましい濃度は0.001g〜20g/Lであり、より好ましい濃度は0.01g〜10g/Lである。
【0075】
得られた、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体溶液中に、化成皮膜2を備えたマグネシウム合金基体1を浸漬する。溶液の好ましい温度範囲、より好ましい温度範囲は、それぞれ0℃〜100℃、20℃〜80℃である。一方、浸漬時間は、1分〜200分が好ましく、3分〜120分がより好ましい。
【0076】
この浸漬により、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体のアルコキシシラン部分がシラノールとなり、上述した化成皮膜2に含まれる水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、オキソ化合物、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートの少なくとも1つとの間に水素結合的な緩い結合を生じる。
【0077】
そして、このマグネシウム合金部材を、乾燥および脱水反応促進を目的に100℃〜450℃まで加熱する。この加熱により、シラノール含有トリアジンチオール誘導体のシラノール部分に、脱水結合反応が起こることから、シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体に変わり、化成皮膜2との間で化学的に結合する。
【0078】
従って、これにより、マグネシウム合金基体1と化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3よりなる、表面に樹脂を接合するのに用いるマグネシウム合金部材を得ることができる。
【0079】
次に、この脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体と樹脂との接合力をより強くするために、化成皮膜2の上に形成された脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を、必要に応じ適宜、接合補助剤として例えば、ジマレイミド類であるN,N’−m−フェニレンジマレイミドやN、N‘−ヘキサメエチレンジマレイミドのようなラジカル反応により結合性を有する化合物とジクルミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドのような過酸化物またはその他のラジカル開始剤とを含む溶液に浸漬する。浸漬後、マグネシウム合金部材を、30℃〜270℃で、1分〜600分間、乾燥・熱処理する。
【0080】
これにより、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、トリアジンチオール金属塩(トリアジンチオール誘導体)部分の金属イオンが除去され、硫黄がメルカプト基になって、このメルカプト基がN,N’−m−フェニレンジマレイミドのマレイン酸の2つの二重結合部の一方と反応してN,N’−m−フェニレンジマレイミドを結合した脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体となる。
【0081】
さらに、必要に応じ適宜、過酸化物、レドックス触媒などのラジカル開始剤をベンゼン、エタノールなどの有機溶媒に溶解させた溶液を、浸漬またはスプレーにより噴霧する等によりマグネシウム合金部材表面に付着させて、風乾する。
【0082】
ラジカル開始剤は、樹脂を成形する際に行う加熱等の熱による分解でラジカルを生じ、上記マレイン酸による2つの二重結合部の他方の結合を開き、または、トリアジンチオール誘導体の金属塩部分に働いて、樹脂と反応、結合させる作用を有する。
【0083】
1−4.樹脂との接合
マグネシウム金属基体1の表面に化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3を有するマグネシウム合金部材と樹脂4とを接合(複合一体化)してマグネシウム物品100を得る。樹脂4は、加熱した状態で脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3と接触するように配置される。これにより、樹脂4と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体3のトリアジンチオール誘導体部分(トリアジンチオール金属塩部分またはビスマレイミド類を結合したトリアジンチオール誘導体)が、ラジカル開始剤のラジカルを媒介として反応し、化学的結合を生じる。
なお、樹脂は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3の一部にのみ配置してもよい。
【0084】
加熱した樹脂4を脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3の上に配置する方法としては、例えば金型にマグネシウム合金部材(金属基体1と化成皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を含む)を配置し、金型中に溶融樹脂を射出してインサート成形物品またはアウトサート成形物品を得る際に、金型および樹脂の熱によりラジカル開始剤を分解し、ラジカル反応によりトリアジンチオール誘導体被覆と樹脂を化学的に結合させてマグネシウム合金部材と樹脂4とを接合する射出成形法、または樹脂成形後にオーブンまたは熱板上で射出成形品を加熱してラジカル開始剤を分解し、ラジカル反応により化学結合させてマグネシウム部材と樹脂を接合する溶着法を用いることができる。
【0085】
射出成形の場合は、金型温度20〜220℃、5秒〜10分間、溶着法の場合は、オーブンまたは熱板温度30〜430℃、1分〜10時間保持する。温度は、ラジカル開始剤の分解温度以上であることが必要であり、保持時間は、ラジカルがトリアジンチオール誘導体と樹脂との化学結合を生じるのに十分な時間が必要である。
【0086】
また、接合する樹脂は、工業的に使用可能ないずれの樹脂も用いることが可能であるが、ラジカルに反応する元素、官能基を持った樹脂が好ましい。このような好ましい樹脂の例は、フェノール樹脂、ハイドロキノン樹脂、クレゾール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、レゾルシン樹脂、メラミン樹脂、グリプタル樹脂、エポキシ樹脂、変成エポキシ樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリヒドロキシメチルメタクリレートとその共重合体、ポリヒドロキシエチルアクリレートとその共重合体、アクリル樹脂、ポリビニルアルコールとその共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリケトンイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、6−ナイロン樹脂、66−ナイロン樹脂、610−ナイロン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、尿素樹脂、およびこれらの樹脂から選ばれた2種以上を複合した複合樹脂、ならびにこれら樹脂をガラス繊維、カーボン繊維、セラミックス等で強化した強化樹脂である。
【0087】
以上により、マグネシウム合金基体1と樹脂4とを化成皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3とを介して接合したマグネシウム合金物品100を製造することが可能となる。
【0088】
なお、本方法で得られるマグネシウム合金物品は、マグネシウム合金基体と樹脂間の接合強度が高いという利点の他にも、マグネシウム物品の表面に特に機械加工を施す必要がなく、また、接着剤、応力緩和用の弾性樹脂等を使用することなく、樹脂を接合できることから、加工工数が少なく、接合部がきれいに仕上がり、寸法精度良く仕上げることが出来るという利点を有する。
【0089】
さらに、成形の難しいマグネシウム基体の成形精度が悪い部分を樹脂で覆うことにより、樹脂成形精度で物品が仕上がり、製品の歩留まりを高くできるという利点を有する。
【0090】
1−5.評価例
長さ80mm、幅20mm、厚さ1.5mmのAZ91マグネシウム合金のダイカスト板を前処理した。
【0091】
前処理は、濃度15.0g/L、温度60℃の水酸化ナトリウム水溶液中で予備脱脂を行い、次いで濃度75.0g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム水溶液中で60秒間脱脂を行った。そして温度60℃、濃度1〜3g/Lの硫酸を主体とした強酸中で60秒間エッチングし、さらに濃度60.0g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム中で120秒間強アルカリ処理をし、水洗した。
【0092】
実施例1〜3のサンプルを得るために前処理に引き続き、マグネシウム合金板に以下の化成処理を行った。
【0093】
評価例1のサンプルは、濃度60g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム溶液中に180秒間浸漬し、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムを主成分とする化成皮膜をマグネシウム合金板の表面に得た。
【0094】
評価例2のサンプルでは、濃度7.5〜10.0g/L、温度35℃のリン酸マンガン水溶液に30秒間浸漬し、リン酸マンガンを主成分とし、リン酸マグネシウムと水酸化アルミニウムを含む、厚さ0.5〜1μmの化成皮膜をマグネシウム合金板表面に得た。
【0095】
なお、このリン酸マンガンを主成分とする化成皮膜の厚さは、この化成皮膜を有するマグネシウム金属合金板を樹脂に埋め込み研磨して、断面を走査型電子顕微鏡で観察し、複数箇所で測定し、その平均より求めた。
【0096】
評価例3のサンプルでは、評価例2のサンプルと比べ、より厚い化成皮膜を得ることを目的に、化成皮膜形成における処理時間を75秒とした。得られた被膜の厚さは、1〜2μmで、評価例2と同じくリン酸マンガンを主成分とし、リン酸マグネシウムと水酸化アルミニウムを含んでいた。
【0097】
比較例として、上述の前処理を行ったままのマグネシウム合金板を比較例1とし、前処理を行ったマグネシウム合金板に、コロナ放電表面処理装置を用い、出力0.37kWにて、2m/分の移動速度で1回のプラズマ処理を行ったサンプルを比較例2とした。このプラズマ処理は例えばアルミニウム合金等の金属を、アルコキシシラン含有トリアジンチオールを用いて樹脂と接合する際の表面処理として用いられる方法である。
【0098】
次に評価例1〜3および比較例1、2のサンプルをアルコキシシラン含有トリアジンチオール溶液中に浸漬した。
用いたアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、トリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウムであり、濃度が0.7g/Lとなるようにエタノール95:水5(体積比)の溶媒に溶解し、溶液を得た。このトリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウム溶液に室温で30分間浸漬した。
【0099】
その後、これらサンプルをオーブン内にて160℃で10分間熱処理し、反応を完了させるとともに乾燥した。そして、濃度1.0g/LのN,N’−m−フェニレンジマレイミド(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド)と濃度2g/Lのジクミルパーオキシドを含有するアセトン溶液に室温で10分間浸漬し、オーブン内にて150℃で10分間熱処理した。その後、サンプルの表面全体に、濃度2g/Lのジクミルパーオキシドのエタノール溶液を室温で噴霧し、風乾した。
【0100】
次にこれらのサンプルを120℃に加熱した金型内に配置し、表面の1部が樹脂と接合するように旭化成ケミカルズ株式会社製ABS樹脂(スタイラック(R)―ABS汎用026)を220℃で射出成形し、マグネシウム物品サンプルを得た。
樹脂は金型内で、長さ80mm、幅20mm、厚さ3mmの板となるように成形され、1つの面の端末部の長さ12mm、幅20mmの部分が、上述の処理を行ったマグネシウム合金板サンプルの端末部上に配置され、この部分が接触している。金型を80℃以下に冷却してから得られたマグネシウム合金物品を取り出した。
【0101】
得られた、評価例1〜3および比較例1、2のマグネシウム合金物品サンプルを引張試験片として用い、引張試験により接合強度を評価した。
島津製作所製オートグラフAG−10TD試験器を用い、マグネシウム物品サンプルのマグネシウム板部と樹脂板部の端末部(接合部と反対側の端末部)をそれぞれフラットチャックで掴み、引張速度5mm/分の引張速度で破断するまで引張った。破断に至るまでの最高到達荷重を接合面積(長さ12mmX幅20mm)で除して求めた応力を接合強度(せん断強度)とした。試験は各サンプルについて3本行った。
求めた接合強度を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
比較例1および2では、破断は接合面で起こり、マグネシウム合金板と樹脂は完全に分かれていた。一方、評価例1〜3では、破断は接合面または、樹脂部での破断が確認された。また、接合面での破断面(マグネシウム合金板側)に関しては、樹脂の付着が認められ、破断の一部は樹脂内で起こっていることが確認された。
【0104】
2.変形の抑制方法
次に、変形の抑制方法の詳細を以下に示す。
上述したようにマグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体の外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれにおいて、その中心から一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心から他方の端部との間に位置する第2の接合部とを配置することで、応力がマグネシウム合金基体全体にバランスよく付与され変形が抑制されることを見出した。
【0105】
例えば、図16のマグネシウム合金基体において、基体250の2組の対向する辺(立壁211と213および立壁212と214)の全長に亘り化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成することで、基体250の外周全周に接合部が形成される。すなわち全ての辺に第1の接合部と第2の接合部(この実施形態では第1および第2の接合部は繋がっている)が形成される。
【0106】
これにより、樹脂の収縮による応力が基体250全体に均一に付与されることから変形が抑制される。この実施形態は、接合する樹脂の厚さが、例えば、肉厚0.5mm程度のマグネシウム合金基体の外周上の辺の厚み(図15では立壁211〜214の高さ)の例えば50%以上のように厚い樹脂を接合する場合には効果的な方法である。
【0107】
しかし、軽量化等の理由から使用する樹脂の厚さを薄くしたいとの要望から、立壁の高さ(外周上の辺の厚み)の例えば50%未満のような薄い樹脂を接合する場合には、接合部の面積が十分でなく、応力が基体250全体に均一に付与されないおそれがある。
【0108】
そこで、以下に接合する樹脂の厚さが薄い場合でもより効果的にマグネシウム合金基体の変形を抑制できるより好ましい実施形態について説明する。
【0109】
図3は、本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金物品110を示す斜視図である。
図4は、マグネシウム合金物品110のマグネシウム合金基体50を示す斜視図である。
【0110】
マグネシウム合金物品110は、例えば、携帯電話等の電子機器を含む各種機器の筐体として用いることができる。マグネシウム合金基体50(材質等は上述のマグネシウム合金基体1と同じ)は、その内部に電子部品等の各種部材を収納できるように、天板(または底面)35と、天板35の周囲(すなわちマグネシウム合金基体50の外周上)に配置された立壁11〜14を有している。
【0111】
立壁11〜14は、立壁11と立壁13が対向し、立壁12と立壁14が対向している。そしてこの対向する2組の立壁のうち、少なくとも1組の立壁(図4では、立壁11と13)は、それぞれ外側に突出した接合部を有している。立壁11はその外周方向(図4のx方向)の全長に亘り厚さが立壁11の高さより低い接合部21を有している。接合部21の半分(例えば、その長さ(外周に沿った長さ、x方向の長さ)の中心から−x方向)が第1の接合部に相当し、残りの半分(長さの中心から+x方向)が第2の接合部に相当する。すなわち接合部21は、第1の接合部と第2の接合部が接触した形態となっている。
【0112】
一方立壁13は接合部31、32を有している。なお、接合部(締結部)31、32は、マグネシウム合金物品110を、他の部品にねじ止めするための締結部として用いることができる形態となっており、このように接合部は他の機能を併せ持ってもよい。図4からわかるように、接合部31は、立壁13の長さの中心からx方向に位置し、接合部32は立壁13の長さの中心から−x方向に位置しており、一方が第1の接合部に相当し、他方が第2の接合部に相当する。すなわち立壁13は、離れて配置された第1の接合部と第2の接合部を有する。
【0113】
このマグネシウム合金基体50のうち、少なくとも接合部分21、31、32に上述した、化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成(図3に図示せず)しマグネシウム合金部材を得る。そして、接合部21、31、32の表面において、樹脂とマグネシウム合金基体50と樹脂4とを、化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3とを介して接合する。
【0114】
接合部21、31、32での樹脂4との接合は、接合部の一方の面のみで行ってもよい。好ましくは接合面積を増加させるように、例えば接合部21、31、32を樹脂4により完全に覆う等の方法により接合部の両面で樹脂と接合する。
【0115】
樹脂4とマグネシウム合金基体50との接合個所を増やすことで変形の抑制は、より容易になることから、マグネシウム合金基体50と樹脂4との接合は、接合部21、31、32以外の部分でも行われるのが好ましい。例えば図3に示す実施形態であれば、立壁11〜14の外側表面にも化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成しておくこと(例えばマグネシウム合金基体50の表面全体に化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成してもよい)で、立壁11〜14の外側表面と樹脂4とを、化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を介して接触する部分において接合することができる。
【0116】
このような接合部21、31、32を設けることによりマグネシウム合金基体50の変形を抑制できるメカニズムは以下のように推定される。
【0117】
収縮量の差により立壁11および立壁13に加わる応力は、樹脂の収縮量がマグネシウム合金の収縮量より大きいことから、マグネシウム合金基体50の内向きに生ずる。第1の接合部と第2の接合部が立壁11または13の長さの中心を挟んで反対側に形成されることから、立壁11および13に均一にこの応力が付与され変形を抑制する効果を得ることができる。
【0118】
さらに、接合部21、31、32は外向きに突出していることから、例え樹脂4の厚さ(図3のz方向)が薄くても、これら接合部は広い面積で樹脂4と接合することができ、局所的に強い応力が作用するのを回避できる。
【0119】
以下に、立壁、接合部についてより詳細に説明する。
図3および4に示す実施形態では、立壁11〜14は、天板35の外周全体が立壁11〜14により取り囲まれているが、天板35の周囲のうち一部に、対向する立壁を少なくとも1組設けてもよい。また、立壁11〜14は、天板35の端部にあるのみならず、図4に示すように天板35との間に空間を介して配置されてもよい(例えば立壁11)。さらに天板35の縁部のみならず、天板35の縁部から内部に若干入った位置に配置してもよい。
【0120】
立壁11〜14は、内部に部材を収納するスペースを確保するために好ましくは1mm以上の高さを有する。また、上述の応力が生じてもマグネシウム合金物品110が十分な剛性を確保し、かつ軽量化を実現できるように、立壁11〜14の厚さは0.5mm以上であることが好ましい。
【0121】
なお、図3および図4に示す実施形態では、天板は概ね長方形の形状を有しているが、これに以外にも円形や多角形等の各種形状を有してもよい。なお天板が円形の場合、対向する立壁とは、円弧状の位置が120°以上離れた立壁または立壁の部分同士を意味し、天板が略三角形上の場合は、隣り合う2辺に位置する立壁同士を意味する。
【0122】
接合部は、各種の配置が可能である。
図5〜図8は、接合部の各種の配置の実施形態を概略的に示す図である。
図5に示すマグネシウム合金基体51では、図4に示すマグネシウム合金基体50と同様に、複数組の対向する立壁(図5の実施形態では2組)のうち、1組の立壁11’と13’にそれぞれ接合部21と23が立壁の外側方向に突出して取り付けられている。マグネシウム合金基体51では立壁11’および13’の長さ(基体51の外周方向に沿った長さ、図5のx方向)と接合部21および23の長さ(基体51の外周方向に沿った長さ、図5のx方向)が同じであり、立壁11’と立壁13’の両方とも、第1の接合部と第2の接合部が接触して(一体となって)配置されている。
【0123】
なお、図5のように複数組の対向する立壁の中から、接合部21と接合部23を設ける立壁の組を選択する場合は、対向する立壁間の距離の長い組を選択する方がより変形を抑制できることから好ましいが、距離の短い組を選択しても一定の変形抑制効果を得ることができる。
【0124】
部品によって、要求されるマグネシウム合金基体と樹脂との接合力は異なる。また、樹脂によって単位面積当たりの化学的な接合力が異なるので、部品と選択した樹脂に応じた接合力を確保できる接合部の面積が必要となる。一般的には、接合部21、23は、好ましくは面積が0.5mm2以上、更に好ましくは、1.0mm2以上とする。
【0125】
図9は、図5に示すマグネシウム合金基体51と同様の実施形態である、図4に示すマグネシウム合金基体50を裏側から見た上面図である。
図10は、図9に示すマグネシウム合金基体50の変形例であるマグネシウム合金基体55を示す上面図である。マグネシウム合金基体55では、マグネシウム合金基体50と同様に締結部31、32が立壁13の第1および第2の接合部として機能し、立壁11には、互いに接触した第1の接合部と第2の接合部として機能する接合部21’が設けられている。
【0126】
接合部21’の幅(図10のy方向)は端部(長さの中心から離れていく方向)が中央部より広くなっている。これにより樹脂の収縮による応力(y軸方向の基体55内側に向かう応力)を立壁12または14に近い端部で大きくし、立壁による支持のない中央部で小さくでき、変形をより抑制できる。
【0127】
図6に示すマグネシウム合金基体52では、2組の対向する立壁(立壁11’と13’および立壁12’と14’)とも接合部(接合部21〜24)を有している。図6に示す実施形態では、立壁の外周全てを取り囲むように接合部21〜24が配置されている。立壁21〜24の全てが第1の接合部と第2の接合部が一体となった接合部を有している。
【0128】
このように対向する立壁の複数の組が、第1および第2の接合部を有することは、例えば図6のx方向とy方向応力のような、複数の方向の応力による変形を抑制できることから好ましい。
【0129】
図11は、図6に示す実施形態を、図9に示すマグネシウム合金基体50と同様の基体に適用した例であるマグネシウム合金基体56を示す。
マグネシウム合金基体56は、締結部を有せず、立壁11〜14の外周が接合部21〜24により取り囲まれている。
【0130】
図7は、図6に示すマグネシウム合金基体52の変形例であるマグネシウム合金基体53を示す。マグネシウム合金基体53も2組の対向する立壁がそれぞれ接合部を有している。そして、それぞれの接合部は立壁の周囲の一部しか覆っていない(立壁11’の長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7のx方向の長さ)が接合部21aと21bの長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7のx方向の長さ)の合計より長く、立壁13’の長さが接合部23aと23bのx方向の長さの合計より長い。同様に立壁12’の長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7y方向の長さ)が、接合部22aと22bの長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7y方向の長さ)の合計より長く、立壁14’の長さは、接合部24aと24bの長さの合計より長い。)。
【0131】
例えば図7に示す立壁11’では、接合部21aと21bの一方が第1の接合部に相当し、他方が第2の接合部に相当するように、立壁11’〜14’の全てが、互いに離れた第1の接合部と第2の接合部を有する。
【0132】
図12に示す実施形態のマグネシウム合金基体57では、立壁11および立壁13がそれぞれ1つずつ接合部21および接合部23を備えている。一方立壁12は、2つの接合部22aと22bを、立壁14も2つの接合部24aと24bを備えている。
このように、例えば立壁の長さに応じて、立壁11〜14の一部が第1の接合部と第2の接合部が一体となった1つの接合部を備え、残りの立壁が第1の接合部と第2の接合部が分離するように複数の接合部を備えてもよい。
【0133】
図13は、接合部21、22a、22b、23、24a、24bにおいて、マグネシウム合金基体57と樹脂4とが接合されているマグネシウム合金物品120を示す。
【0134】
図14に示すマグネシウム合金基体58では、立壁12と14は、それぞれ3つの接合部を備え、一方、立壁11と13はそれぞれ2つの接合部を備えている。このように例えば立壁の長さに応じて接合部の数を変えてもよい。図14に示す実施形態の立壁12では、接合部22aと22bが第1または第2の接合部の一方に相当し、接合部22cが第1または第2の接合部の他方に相当する。このように一つの立壁上で複数の第1の接合部および/または複数の第2の接合部を設けてもよい。
【0135】
図8は、図6に示すマグネシウム合金基体52の別の変形例であるマグネシウム合金基体54を示す。これまでの示した実施形態では接合部は立壁の上部または下部に設けられているが、マグネシウム合金基体54では、立壁の高さ方向(図8のz方向)の中間部に接合部21〜24が設けられている。なお、マグネシウム合金基体54では、接合部は立壁の周囲全体を取り囲んでいるが、立壁の周囲の一部のみを取り囲んでもよい(すなわち第1と第2の接合部が分離してもよい)。
【0136】
立壁の高さ方向の中間部に接合部を設けることで発生する応力が基体の高さ方向の中間部に優先的に付与され、端部に付与された場合より優れた変形抑制効果を得られる場合がある。
【0137】
以上の実施形態で示したマグネシウム合金基体(表面に化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成されマグネシウム合金部材となる)を用いたマグネシウム合金物品の製造方法を以下に示す。
【0138】
マグネシウム合金基体50等、接合部を有する所定の形状のマグネシウム合金基体を、例えば、ダイカスト、チクソモールド、プレス成形などにより得る。そしてマグネシウム合金基体の表面、少なくとも接合部の表面に、上記の「1.接合方法」で示した方法を用いて、化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成し、マグネシウム合金部材を得る。
【0139】
そして、得られたマグネシウム合金部材を「1.接合方法」に示すように、金型内に配置し、所定の金型温度に加熱し、金型中に所定の溶融樹脂を射出してインサート成形物品またはアウトサート成形物品を得る。
【0140】
さらに所定の温度および時間(例えば金型温度60〜120℃、5秒〜10分間)保持した後、冷却し得られたマグネシウム合金物品を取り出す。
【0141】
この際、樹脂4の変形を防止するため室温まで冷却するのが好ましい。しかし、冷却時間を確保できない等の理由から室温より高い温度で金型からマグネシウム合金物品を取り出す際は、金型からマグネシウム物品を離型させる押し出しピンが樹脂4に当たり樹脂4を変形させるのを避けるように、押し出しピンを立壁から外側に突出している接合部に当てるようにしてもよい。
【0142】
なお、上述の実施形態では、立壁を有するマグネシウム合金基体について述べたが、本発明は立壁に相当する厚さ(即ち外側に突出する接合部を形成できる厚さ)を有するマグネシウム基体(立壁を有しなくてもよい)に適用可能であり、このようなマグネシウム合金基体に上述の接合部を設け、化成被膜2と水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成したマグネシウム合金部材およびこのマグネシウム合金部材と樹脂4とを接合部で接合したマグネシウム合金物品も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0143】
また、上述した接合方法は、化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成し、マグネシウム合金基体と樹脂との強固な接合力を得ているが、これ以外にも強固な接合力を得る手段を用いて「2.接合方法」に記載した方法により接合したマグネシウム合金物品も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明に係るマグネシウム合金物品100の断面図である。
【図2】従来のマグネシウム合金物品200の断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金物品110を示す斜視図である。
【図4】マグネシウム合金物品110のマグネシウム合金基体50を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体51を示す概略図である。
【図6】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体52を示す概略図である。
【図7】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体53を示す概略図である。
【図8】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体54を示す概略図である。
【図9】図4に示すマグネシウム合金基体50を裏側から見た上面図である。
【図10】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体55を示す上面図である。
【図11】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体56を示す上面図である。
【図12】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体57を示す上面図である。
【図13】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金物品120を示す上面図である。
【図14】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体58示す上面図である。
【図15】従来のマグネシウム合金物品210を示す斜視図である。
【図16】従来のマグネシウム合金基体250を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0145】
1,50〜58,250 マグネシウム合金基体、2 化成皮膜、3 脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜、4,204 樹脂、11,11’,12,12’,13,13’,14,14’,211〜214 立壁、21,21’,21a,21b,22,22a,22b,22c,23,23a,23b,24a,24b,24c,31,32 接合部、231,232 締結部、35,235 天板、100,110,120 マグネシウム合金物品
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周の少なくとも一部分を取り囲む樹脂が接合されているマグネシウム合金物品および外周の少なくともに一部分を取り囲む樹脂を接合するために表面処理を行ったマグネシウム合金部材に関し、とりわけ、マグネシウム合金基体と樹脂との密着性に優れ、かつ変形の少ないマグネシウム合金物品およびマグネシウム合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムおよびマグネシウム合金は、比強度および比剛性が高く、軽量化を容易に行えることから、携帯電話、カメラ、パーソナルコンピュータ等の筐体に広く使用されている。そして、マグネシウム合金基体の外周等の表面の少なくとも一部を覆う樹脂を接合したマグネシウム合金物品は、マグネシウム合金基体により樹脂成形品単独では得られない、優れた剛性を確保するとともに、樹脂によりマグネシウム合金単独では形成できない複雑形状や審美性を得ることが可能であり、前述の用途を含む多くの分野で使用されている。
【0003】
このような、マグネシウム合金基体に樹脂が接合したマグネシウム物品を、筐体等を含む幅広い用途で用いるためには、マグネシウム合金と樹脂との間の接合強度を高くする必要がある。
【0004】
樹脂と基体との接合力を得る方法として、エポキシ系接着剤等の接着剤を使用する方法(特許文献1)が提案されている。
【0005】
さらに、これ以外にも表面に微細凹凸を有する多孔質層を形成し、アンモニア、ヒドラジン、水溶性アミン化合物およびアルコールに浸漬したマグネシウム合金の基体に、エンジニアリング樹脂を射出成形して接合する方法(特許文献2〜4)、および浸食性水溶液等による浸漬処理または陽極酸化により、表面に平均内径10〜80nmの凹凸を形成した基体にPPS系樹脂を射出成形する方法(特許文献5)が提案されている。
【0006】
また、マグネシウム合金を含む金属と樹脂との間により強い結合力を得るように、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて、金属表面に反応性官能基を導入し、金属と樹脂との間を化学的に結合させる方法(特許文献6、7)が知られている。
しかし、これらの方法で得られる接合力は十分なものではなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは各種の検討を行った結果、詳細を後述するようにマグネシウム合金基体の表面に所定の化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを形成することにより、樹脂とマグネシウム合金基体との間に高い結合力が得られることを見出した。
【0008】
しかし、この方法を用いて得たマグネシウム物品で湾曲等の変形を生じる場合があった。
【0009】
図15は、一例として示すマグネシウム合金物品200を示す斜視図である。図16は、マグネシウム合金物品200で用いられているマグネシウム合金基体250を示す斜視図である。
【0010】
マグネシウム合金基体250は、その内部に例えばプリント基板等の電子部品を収納できる空間を形成するように、天板(または底面)235の周囲を立壁211〜214が取り囲む構造となっている。
【0011】
例えば、基体250の表面の立壁に211〜214の外側表面の一部分に、所定の化成被膜と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆を形成した接合部を設け、基体250を金型内で加熱し、加熱して溶融状態となった樹脂204を金型に射出するインサート成形により筐体200を得ている。樹脂204は、この接合部でマグネシウム合金基体250と接合している。
【0012】
しかし、インサート成形等での加熱後の冷却工程において、樹脂の収縮量がマグネシウム合金の収縮量より大きく、この収縮量の差に起因して生じる応力のため、得られたマグネシウム合金物品200に湾曲等の変形が生じる場合があった。
【0013】
特に、発明者らが見出した化成被膜と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを用いる接合方法は、接合力が強く、接合界面にこのような応力が生じても、樹脂204とマグネシウム合金基体250とが剥離しないことから応力が緩和されず、このような変形を助長する場合もあった。
【0014】
樹脂と金属との冷却時の収縮量の差に起因する変形を防止する方法として、例えば特許文献8には、金属板との接合部に近い板状の樹脂成形部に肉薄部を形成し、この肉薄部で変形の歪みを吸収する方法が示されている。
【0015】
特許文献9には、板状の樹脂部と金属板との突き合わせにおいて、金属板の突き合わせ部近傍に溝を形成し、樹脂を射出する際の圧力で金属部を変形させ、樹脂が冷却により収縮する際にその変形が元に戻ることで金属板と樹脂との間に隙間が生じるのを防止する方法が示されている。
【0016】
さらに特許文献10には、金属部品に取り付けられた嵌合形状の樹脂成形部が、高温で樹脂が膨張する際に締め付け力を与える方法が示されている。
【特許文献1】特開2007−15337号公報
【特許文献2】特開2003−103563号公報
【特許文献3】特開2005−342895号公報
【特許文献4】特開2006−27018号公報
【特許文献5】特開2007−50630号公報
【特許文献6】特開2006−213677号公報
【特許文献7】特開2007−131580号公報
【特許文献8】特開平9−147520号公報
【特許文献9】特開平9−167461号公報
【特許文献10】特開2007−64363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献8および9に記載の方法は、金属板と板状の樹脂との突き合わせを対象としており、図15に示すような立壁を有する複雑形状のマグネシウム合金基体と樹脂との接合には適用できない。
また、特許文献10の方法は、高温での使用時に締め付け力を与えるものであり、常温で使用する物品には適用できない。
【0018】
そこで本発明は、マグネシウム合金基体と樹脂とが強力に接合され、かつ変形が抑制されたマグネシウム合金物品を提供することを目的とする。また、本発明は、表面に樹脂を接合しても変形が少ないマグネシウム合金部材の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心から一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心から他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有する、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体を含むマグネシウム物品であって、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを介して前記基体の外周の少なくとも一部を取り囲む樹脂と接合していることを特徴とするマグネシウム合金物品である。
【0020】
本発明はまた、外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有し、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜を介し、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を被覆されていることを特徴とするマグネシウム合金部材である。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、マグネシウム合金基体に適切に配置された接合部分を形成し、この接合部分の表面に化成皮膜と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを形成することで、マグネシウム合金基体と樹脂との間に高い接合力を有し、かつ変形が抑制されたマグネシウム合金物品を提供することが可能となる。また、表面に強固に樹脂を接合でき、かつ変形が少ないマグネシウム合金部材の提供も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一または相当する部分又は部材を示す。
【0023】
上述のように、本発明者は、マグネシウムまたはマグネシウム合金基体表面に所定の化成被膜を形成し、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて、この化成被膜の上に脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆を形成する方法を見出した。この脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆の上に樹脂を被覆することで樹脂とマグネシウム合金基体との間に高い接合力を得ることができる。
【0024】
そして、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体の外周上の少なくとも1組の対向する辺に適切に第1の接合部と第2の接合部とを配置することでマグネシウム物品の変形を抑制できることを見出した。
【0025】
すなわち、それぞれの辺において、その中心から一方の端部までの間に第1の接合部を配置し、その中心から他方の端部までの間に第2の接合部を配置することで、応力が辺の両サイドにバランスよく付与され変形が抑制されることを見出した。
以下に、最初に前述の接合方法の詳細を説明し、続いて変形の抑制方法の詳細を説明する。
【0026】
1.接合方法
マグネシウム合金基体と樹脂とを接合する際に、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いても十分に高い結合力が得られない理由について、本発明の発明者らは検討を行い、これがマグネシウム合金基体の表面の酸化膜に起因する可能性が高いことを見い出した。
【0027】
アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を用いて、金属と樹脂とを接合する場合、アルコキシシラン部分が金属と化学結合し、金属表面にトリアジンチオール誘導体部分よりなる反応性官能基が導入される。この官能基(トリアジンチオール誘導体部分)が樹脂と化学結合することにより、金属と樹脂との間を、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体(上記アルコキシシラン部分が金属と化学結合の結果、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体より生じる生成物)を介して化学的に結合でき、これにより強い結合力を得ることが可能となる。
【0028】
通常、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体のアルコキシシラン基と金属との結合は、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の溶液を調製し、この溶液中に金属を浸漬することで金属表面の水酸基(OH基)とアルコキシシラン基が反応することで行われる。このため、プラズマ処理によって金属表面の酸化被膜を除去すると共に、金属表面に水酸基(OH基)を導入する方法が一般的に用いられている。
【0029】
しかし、マグネシウムは酸素との結合力が強く、マグネシウム合金表面に形成される酸化被膜が緻密で、かつ強固なために、OH基が十分に導入されず、マグネシウム合金とアルコキシシラン基との間で十分な結合数(密度)を得ることができないものと推測できる。また、単に酸化マグネシウムの被膜を取り除くだけでは、マグネシウムが酸素と結びついて直ちに新たな酸化被膜を形成してしまうため、高い結合力を得ることが出来ない。
【0030】
そこで、本発明者らは、マグネシウム合金基体を表面処理することで、金属表面にアルコキシシラン基と反応して結合する、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートのうちの少なくとも1つを含む化成皮膜を形成した後に、アルコキシシラン含有トリアジンチオールを用いて、マグネシウム合金基体とその表面に配置される樹脂とを強く結合するという本願記載の発明に至った。
以下に本発明の詳細を説明する。
【0031】
図1は、全体が100で表される本発明にかかるマグネシウム合金物品の一部分を模式的に示す断面図である。マグネシウムまたはマグネシウム合金から成るマグネシウム合金基体1と樹脂層4とが、詳細を後述する化成皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3とを介して接合している。
脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体3を用いて、マグネシウム合金基体1と樹脂層4とを接合した従来のマグネシウム合金物品200の断面を図2に示す。従来のマグネシウム合金物品200は、化成皮膜2を有していない。
【0032】
本発明にかかるマグネシウム合金物品100の特徴である化成皮膜2は、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。
この化成皮膜2を用いることでマグネシウム合金基体1と樹脂4との間が強く接合されている本発明のマグネシウム合金物品100を製造する方法を以下に詳述する。
【0033】
1−1.前処理
化成処理により化成皮膜を生成する前に、前処理として、マグネシウム合金基体1表面の脱脂および/または酸化被膜除去を目的に、好ましくは、脱脂処理および/またはエッチング処理を行う。
【0034】
脱脂処理は、マグネシウム合金基体の脱脂等に通常用いられる方法でよく、例えば水酸化ナトリウム等の強アルカリを用いて脱脂する。好ましい脱脂条件は、例えば濃度10〜100g/L、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中での脱脂である。より好ましい条件は、濃度10〜100g/L(最も好ましくは10〜20g/L)、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中で予備脱脂を行った後、さらに、濃度10〜100g/L(最も好ましくは60〜90g/L)、温度50℃〜90℃の水酸化ナトリウム中で脱脂を行う。
【0035】
これ以外にも、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ砂のようなナトリウム塩、オルソケイ酸ナトリウム、珪酸ナトリウムのようなケイ酸塩類、第1リン酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム、第3リン酸ナトリウム等の各種リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムのようなリン酸塩類を用いて脱脂を行ってもよい。
【0036】
マグネシウム酸化被膜を除去するためのエッチング処理は、リン酸、ケイフッ化水素酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸等の無機酸中またはシュウ酸、酢酸、クエン酸などの有機酸中で行われ、その後、アルカリ中で中和、脱スマット処理する。
【0037】
酸による好ましいエッチング条件は、無機酸の場合、濃度:1〜10g/L、温度:30〜70℃であり、有機酸の場合、濃度:10〜50g/L、温度:20〜70℃の範囲が好ましい。
【0038】
より好ましくは、マグネシウム合金基体1に、脱脂処理とエッチング処理との両方を行う。以下に詳述する化成処理で生成する化成被膜と、マグネシウム合金基体との間の接合力を高めるためである。
【0039】
なお、マグネシウム合金基体1は、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成り、マグネシウム合金としては工業上用いられるいずれのマグネシウム合金も使用可能である。好ましいマグネシウム合金の例は、AZ21、AZ31、AZ61、AZ91、AZ101合金のようなAZ系合金、およびAM50、AM60のようなAM系合金である。
【0040】
1−2.化成処理
マグネシウム合金基体1の表面に、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートの少なくとも1つを含む化成皮膜2を生成するために、以下に示す方法により化成処理を行う。これらの方法の少なくとも1つを用いて、化成皮膜を形成する。
【0041】
(1)水酸化物
水酸化物から成る化成皮膜2を得るための1つの方法は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水のようなアルカリ水溶液を適用し、マグネシウム合金基体1の表面を処理し、表面に水酸化物を主成分とする化成皮膜を形成する方法である。
【0042】
化成皮膜として形成される水酸化物の例として、水酸基とマグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムとが結合した結果生じる、水酸化マグネシウムおよび/または水酸化アルミニウムを主たる成分とする水酸化物がある。
【0043】
例えば、水酸化カリウムを用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:5〜100g/L、温度:50〜90℃であることが好ましい。また、これ以外の例えば水酸化ナトリウム、アンモニア水のようなアルカリ水溶液を用いる場合は、濃度:10〜150g/L、温度:50〜90℃であることが好ましい。
【0044】
ところで、陽極酸化法において、適正な電解液を選択することで、マグネシウム合金表面に水酸化マグネシウムを主体とした被膜を形成できることが知られている(例えば特開2006−322044)。しかし、陽極酸化法により生成する被膜は、多孔質で厚いことから、脆く、必ずしも十分な接合強度を得られない場合があり、上述したアルカリ溶液を用いて化成処理をすることが好ましい。
【0045】
同様に、アルミニウム合金において、ヒドラジン水溶液を用いて、AlOOHの被膜で覆うことが知られているが(例えば特許文献6)、マグネシウム合金にヒドラジンを用いると、生成する被膜が脆いため、上述したアルカリ溶液を用いて化成処理をすることが好ましい。
【0046】
(2)カルボン酸、カルボン酸塩
タンニン酸のようなカルボン酸水溶液を用い、マグネシウム合金基体1に化成処理を行う。これにより、マグネシウム合金基体1の表面で、これらカルボン酸とマグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムが結合し、カルボン酸のマグネシウム塩および/またはアルミニウム塩を主成分とする化成皮膜が生成する。
【0047】
また、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などのカルボン酸のナトリウム塩またはカリウム塩のようなアルカリ金属塩の水溶液を用い化成処理を行ってもよい。この場合、マグネシウム合金基体1の表面には、これらカルボン酸のアルカリ金属塩を主とする化成皮膜2が形成する。この化成皮膜2は、上記カルボン酸のマグネシウム塩および/またはアルミニウム塩を含む場合がある。
【0048】
ギ酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸のアルミニウム塩の水溶液を用いて化成処理を行ってもよい。この場合、マグネシウム合金基体1の表面には、これらカルボン酸のアルミニウム塩を主とする化成皮膜2が形成する。この化成皮膜2は、上記カルボン酸のマグネシウム塩を含む場合がある。例えばシュウ酸アルミニウム水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:0.5〜30g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0049】
(3)リン酸、リン酸塩
リン酸、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムおよびリン酸ジルコニウムのような、−H2PO4、−HPO4または−PO4を含有するリン酸およびリン酸塩の溶液を用い、化成処理を行う。なお、本明細書でいうリン酸とはオルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等を含む広義のリン酸であり、リン酸塩とは、オルトリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等の広義のリン酸の化合物を含む概念である。
【0050】
リン酸を用いることで、マグネシウム合金基体1の表面にリン酸マグネシウムおよび/またはリン酸アルミニウムを主成分とする化成皮膜2が形成される。
【0051】
一方、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムおよびリン酸ジルコニウムのようなリン酸塩(リン酸の金属塩)の水溶液を用いて化成処理を行うことにより、マグネシウム合金基体1の表面に、これらリン酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成できる。これらリン酸塩の化成皮膜2は、リン酸マグネシウムおよび/またはリン酸アルミニウムを含んでもよい。また、例えば種類の異なる金属のリン酸塩を混合した溶液中で化成処理を行うことにより、リン酸マグネシウムおよびリン酸アルミニウム以外の複数のリン酸塩を含んでもよい。
【0052】
例えば、リン酸ジルコニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度:1〜100g/L、温度:20〜90℃であることが好ましい。また、これ以外のリン酸、リン酸マンガン、リン酸水素マンガン、リン酸水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムナトリウムのようなリン酸、リン酸塩の水溶液を用いる場合は、水溶液は、濃度:5〜30g/L、温度20〜90℃であるのことが好ましく、温度については25℃〜75℃であることがより好ましい。
【0053】
(4)ケイ酸塩
メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムのようなケイ酸塩またはメタケイ酸塩の水溶液を用いて化成処理を行う。これによりマグネシウム合金基体1の表面にメタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウムのようなケイ酸塩またはメタケイ酸塩を主成分とする化成皮膜2を得る。なお、得られた化成皮膜2は、ケイ酸マグネシウム(メタケイ酸マグネシウム)および/またはケイ酸アルミニウム(メタケイ酸アルミニウム)を含んでもよい。
【0054】
一方、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウムのようなケイ酸塩(ケイ酸の金属塩)の水溶液を用いて化成処理を行うことにより、マグネシウム合金基体1の表面に、これらケイ酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成できる。例えば、ケイ酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜30g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0055】
また、これらケイ酸塩金属塩の化成皮膜2は、ケイ酸マグネシウムおよび/またはケイ酸アルミニウムを含んでもよい。さらに、例えば種類の異なる金属のケイ酸塩を混合した溶液中で化成処理を行うことにより、ケイ酸マグネシウムおよびケイ酸アルミニウム以外の複数のケイ酸塩を含んでもよい。
【0056】
(5)炭酸、炭酸塩
炭酸、または炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ジルコニウムのような炭酸塩の水溶液を用いて化成処理を行う。炭酸を用いた場合には、マグネシウム合金中のマグネシウムおよび/またはアルミニウムと結合し、炭酸マグネシウムおよび/または炭酸アルミニウムの化成皮膜2がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸マンガン、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸ジルコニウムのような炭酸塩を用いると、これら炭酸塩を主成分とする化成皮膜を形成する。なお、得られた化成皮膜は、炭酸マグネシウムおよび/または炭酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、炭酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度1〜50g/L、温度50〜90℃であることが好ましい。
【0057】
(6)硫酸、硫酸塩
硫酸、または硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸チタニル、硫酸ジルコニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウムのような硫酸塩の水溶液を用い、化成処理を行う。硫酸を用いた場合には、硫酸マグネシウムもしくは硫酸アルミニウムまたはその両方を主成分とする化成皮膜2がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、硫酸ナトリウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸チタニル、硫酸ジルコニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウムのような硫酸の金属塩を用いると、これら金属塩を主成分とする化成皮膜2が形成される。得られた化成皮膜2は、硫酸マグネシウムおよび/または硫酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、硫酸カリウムアルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜30g/L、温度30〜60℃であることが好ましい。
【0058】
(7)チオ硫酸塩
チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カルシウムのようなチオ硫酸塩の水溶液を用い化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれらチオ硫酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成する。なお、得られた化成皮膜2は、チオ硫酸マグネシウムおよび/またはチオ硫酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、チオ硫酸カルシウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度20〜50g/L、温度40〜60℃であることが好ましい。
【0059】
(8)硝酸、硝酸塩、亜硝酸塩
硝酸、または硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マンガン、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ストロンチウムのような硝酸塩または亜硝酸塩(金属塩)の溶液(例えば水溶液)を用い、化成処理を行う。硝酸または硝酸アンモニウムを用いた場合には、硝酸マグネシウムもしくは硝酸アルミニウムまたはその両方を主成分とする化成皮膜2がマグネシウム合金基体1の表面に形成される。一方、硝酸ナトリウム、硝酸マンガン、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸アルミニウム、硝酸ストロンチウムのような硝酸または亜硝酸の金属塩を用いると、これら金属塩を主成分とする化成皮膜2が形成される。この場合、得られた化成皮膜は、硝酸マグネシウムおよび/または硝酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、硝酸アルミニウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.5〜50g/L、温度30〜60℃であることが好ましい。
【0060】
(9)過マンガン酸塩
過マンガン酸カリウムの溶液のような、過マンガン酸塩の水溶液を用い、化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれら過マンガン酸塩を主成分とする化成皮膜2を形成する。なお得られた化成皮膜2は、過マンガン酸マグネシウムおよび/または過マンガン酸アルミニウムを含んでもよい。
例えば、過マンガン酸カリウムの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度1〜10g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0061】
(10)アミノ化合物
エチルアミン、イソプロピルアミン、ジエチルアミン、トリアゾール、アニリンのようなアミノ基を含むアミノ化合物または、これらアミノ化合物の溶液(例えば、水溶液、またはアルコールもしくはベンゼン溶液)を用い、化成処理を行う。マグネシウム基体1の表面にこれらアミノ化合物を主成分とする化成皮膜2を形成する。
例えば、エチルアミンの水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度5〜100g/L、温度30〜70℃であることが好ましい。
【0062】
(11)金属アセチルアセトナート
Zn(COCH2COOCH3)2のような金属アセチルアセトナートの溶液(例えば水溶液)を用い、化成処理を行う。金属アセチルアセトナートを主たる成分とする化成皮膜2を形成する。例えばZn(COCH2COOCH3)2の水溶液を用いて化成処理を行う場合、水溶液は、濃度0.1〜30g/L、温度20〜70℃であることが好ましい。
【0063】
上記に示す化成処理の中でも水酸化物を用いる方法が好ましく、リン酸、リン酸塩を用いる方法がより好ましい。
【0064】
水酸化物を用いる方法では、形成される化成皮膜2が緻密であり、マグネシウム合金基体1との間の接合力が強い。水酸化物の水溶液の濃度および温度が上述した好ましい範囲内であれば、比較的短い時間で緻密な化成皮膜2を得ることが可能である。
【0065】
リン酸、リン酸塩を用いる方法では、好ましくは厚さが0.05〜5μm、より好ましくは厚さ0.05〜2μmと、比較的一様な化成皮膜2を形成することが可能である。
このため、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体が化成皮膜2に浸透して、化成皮膜2と反応するサイトが多くなり、トリアジンチオール誘導体のアルコキシシランが加水分解して生成するシラノールと化成皮膜成分のリン酸基とが、加熱処理によって脱水反応を起こし、化学的に結合する。この様にして、生成する脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3と化成皮膜2との間に、より強固な結合を得ることができる。
【0066】
さらに、樹脂4が接合後に冷却されて収縮する際に、この化成皮膜2が樹脂4と化成皮膜2との間に生じる応力を分散吸収し、樹脂4の剥離および化成皮膜2のクラックの発生を防ぐ効果を有する。リン酸またはリン酸塩の濃度および温度が上述した好ましい範囲内であれば、比較的短い時間で緻密な化成皮膜2を得ることが可能である。
【0067】
なお、上記の溶液を用いた化成処理は、マグネシウム合金基体1の全体または一部を溶液(化成処理液)に浸漬することのみでなく、マグネシウム合金基体2の表面の全部または一部を、スプレー、塗布等により溶液を被覆すること、または溶液と接触させることも含む。
【0068】
従って、上記から明らかなように、化成皮膜2は、必ずしもマグネシウム合金基体2の表面全体に形成される必要はなく、適宜、必要な部分にのみ形成してもよい。
【0069】
1−3.アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の被覆
上述の方法により、マグネシウム合金基体1の表面に化成皮膜2を形成した後、化成皮膜2にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体を被覆する。
用いるアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、例えば特許文献6に開示されているアルコキシシラン含有トリアジンチオール金属塩のような、既知のものでよい。
即ち、以下の(式1)または(式2)に示した一般式で表される。
【0070】
【数1】
【0071】
【数2】
【0072】
式中のR1は、例えば、H−、CH3−、C2H5−、CH2=CHCH2−、C4H9−、C6H5−、C6H13−のいずれかである。R2は、例えば、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−、−CH2CH2SCH2CH2−、−CH2CH2NHCH2CH2CH2−のいずれかである。R3は、例えば、−(CH2CH2)2CHOCONHCH2CH2CH2−、または、−(CH2CH2)2N−CH2CH2CH2−であり、この場合、NとR3とが環状構造となる。
【0073】
式中のXは、CH3−、C2H5−、n−C3H7−、i−C3H7−、n−C4H9−、i−C4H9−、t−C4H9−のいずれかである。Yは、CH3O−、C2H5O−、n−C3H7O−、i−C3H7O−、n−C4H9O−、i−C4H9O−、t−C4H9O−等のアルコキシ基である。式中のnは1、2、3のいずれかの数字である。Mはアルカリ金属であり、好ましくはLi、Na、KまたはCeである。
【0074】
化成皮膜2を被覆するアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体の溶液を作製する。用いる溶媒は、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体が溶解するものであればよく、水およびアルコール系溶剤がこれに該当する。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、カルビトール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、およびこれらの混合溶媒も使用可能である。アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体の好ましい濃度は0.001g〜20g/Lであり、より好ましい濃度は0.01g〜10g/Lである。
【0075】
得られた、アルコキシシラン含有トリアジンジチオール誘導体溶液中に、化成皮膜2を備えたマグネシウム合金基体1を浸漬する。溶液の好ましい温度範囲、より好ましい温度範囲は、それぞれ0℃〜100℃、20℃〜80℃である。一方、浸漬時間は、1分〜200分が好ましく、3分〜120分がより好ましい。
【0076】
この浸漬により、アルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体のアルコキシシラン部分がシラノールとなり、上述した化成皮膜2に含まれる水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、オキソ化合物、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートの少なくとも1つとの間に水素結合的な緩い結合を生じる。
【0077】
そして、このマグネシウム合金部材を、乾燥および脱水反応促進を目的に100℃〜450℃まで加熱する。この加熱により、シラノール含有トリアジンチオール誘導体のシラノール部分に、脱水結合反応が起こることから、シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体に変わり、化成皮膜2との間で化学的に結合する。
【0078】
従って、これにより、マグネシウム合金基体1と化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3よりなる、表面に樹脂を接合するのに用いるマグネシウム合金部材を得ることができる。
【0079】
次に、この脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体と樹脂との接合力をより強くするために、化成皮膜2の上に形成された脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を、必要に応じ適宜、接合補助剤として例えば、ジマレイミド類であるN,N’−m−フェニレンジマレイミドやN、N‘−ヘキサメエチレンジマレイミドのようなラジカル反応により結合性を有する化合物とジクルミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドのような過酸化物またはその他のラジカル開始剤とを含む溶液に浸漬する。浸漬後、マグネシウム合金部材を、30℃〜270℃で、1分〜600分間、乾燥・熱処理する。
【0080】
これにより、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体は、トリアジンチオール金属塩(トリアジンチオール誘導体)部分の金属イオンが除去され、硫黄がメルカプト基になって、このメルカプト基がN,N’−m−フェニレンジマレイミドのマレイン酸の2つの二重結合部の一方と反応してN,N’−m−フェニレンジマレイミドを結合した脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体となる。
【0081】
さらに、必要に応じ適宜、過酸化物、レドックス触媒などのラジカル開始剤をベンゼン、エタノールなどの有機溶媒に溶解させた溶液を、浸漬またはスプレーにより噴霧する等によりマグネシウム合金部材表面に付着させて、風乾する。
【0082】
ラジカル開始剤は、樹脂を成形する際に行う加熱等の熱による分解でラジカルを生じ、上記マレイン酸による2つの二重結合部の他方の結合を開き、または、トリアジンチオール誘導体の金属塩部分に働いて、樹脂と反応、結合させる作用を有する。
【0083】
1−4.樹脂との接合
マグネシウム金属基体1の表面に化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3を有するマグネシウム合金部材と樹脂4とを接合(複合一体化)してマグネシウム物品100を得る。樹脂4は、加熱した状態で脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体層3と接触するように配置される。これにより、樹脂4と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体3のトリアジンチオール誘導体部分(トリアジンチオール金属塩部分またはビスマレイミド類を結合したトリアジンチオール誘導体)が、ラジカル開始剤のラジカルを媒介として反応し、化学的結合を生じる。
なお、樹脂は、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3の一部にのみ配置してもよい。
【0084】
加熱した樹脂4を脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3の上に配置する方法としては、例えば金型にマグネシウム合金部材(金属基体1と化成皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を含む)を配置し、金型中に溶融樹脂を射出してインサート成形物品またはアウトサート成形物品を得る際に、金型および樹脂の熱によりラジカル開始剤を分解し、ラジカル反応によりトリアジンチオール誘導体被覆と樹脂を化学的に結合させてマグネシウム合金部材と樹脂4とを接合する射出成形法、または樹脂成形後にオーブンまたは熱板上で射出成形品を加熱してラジカル開始剤を分解し、ラジカル反応により化学結合させてマグネシウム部材と樹脂を接合する溶着法を用いることができる。
【0085】
射出成形の場合は、金型温度20〜220℃、5秒〜10分間、溶着法の場合は、オーブンまたは熱板温度30〜430℃、1分〜10時間保持する。温度は、ラジカル開始剤の分解温度以上であることが必要であり、保持時間は、ラジカルがトリアジンチオール誘導体と樹脂との化学結合を生じるのに十分な時間が必要である。
【0086】
また、接合する樹脂は、工業的に使用可能ないずれの樹脂も用いることが可能であるが、ラジカルに反応する元素、官能基を持った樹脂が好ましい。このような好ましい樹脂の例は、フェノール樹脂、ハイドロキノン樹脂、クレゾール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、レゾルシン樹脂、メラミン樹脂、グリプタル樹脂、エポキシ樹脂、変成エポキシ樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリヒドロキシメチルメタクリレートとその共重合体、ポリヒドロキシエチルアクリレートとその共重合体、アクリル樹脂、ポリビニルアルコールとその共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリケトンイミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、6−ナイロン樹脂、66−ナイロン樹脂、610−ナイロン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、尿素樹脂、およびこれらの樹脂から選ばれた2種以上を複合した複合樹脂、ならびにこれら樹脂をガラス繊維、カーボン繊維、セラミックス等で強化した強化樹脂である。
【0087】
以上により、マグネシウム合金基体1と樹脂4とを化成皮膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3とを介して接合したマグネシウム合金物品100を製造することが可能となる。
【0088】
なお、本方法で得られるマグネシウム合金物品は、マグネシウム合金基体と樹脂間の接合強度が高いという利点の他にも、マグネシウム物品の表面に特に機械加工を施す必要がなく、また、接着剤、応力緩和用の弾性樹脂等を使用することなく、樹脂を接合できることから、加工工数が少なく、接合部がきれいに仕上がり、寸法精度良く仕上げることが出来るという利点を有する。
【0089】
さらに、成形の難しいマグネシウム基体の成形精度が悪い部分を樹脂で覆うことにより、樹脂成形精度で物品が仕上がり、製品の歩留まりを高くできるという利点を有する。
【0090】
1−5.評価例
長さ80mm、幅20mm、厚さ1.5mmのAZ91マグネシウム合金のダイカスト板を前処理した。
【0091】
前処理は、濃度15.0g/L、温度60℃の水酸化ナトリウム水溶液中で予備脱脂を行い、次いで濃度75.0g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム水溶液中で60秒間脱脂を行った。そして温度60℃、濃度1〜3g/Lの硫酸を主体とした強酸中で60秒間エッチングし、さらに濃度60.0g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム中で120秒間強アルカリ処理をし、水洗した。
【0092】
実施例1〜3のサンプルを得るために前処理に引き続き、マグネシウム合金板に以下の化成処理を行った。
【0093】
評価例1のサンプルは、濃度60g/L、温度70℃の水酸化ナトリウム溶液中に180秒間浸漬し、水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムを主成分とする化成皮膜をマグネシウム合金板の表面に得た。
【0094】
評価例2のサンプルでは、濃度7.5〜10.0g/L、温度35℃のリン酸マンガン水溶液に30秒間浸漬し、リン酸マンガンを主成分とし、リン酸マグネシウムと水酸化アルミニウムを含む、厚さ0.5〜1μmの化成皮膜をマグネシウム合金板表面に得た。
【0095】
なお、このリン酸マンガンを主成分とする化成皮膜の厚さは、この化成皮膜を有するマグネシウム金属合金板を樹脂に埋め込み研磨して、断面を走査型電子顕微鏡で観察し、複数箇所で測定し、その平均より求めた。
【0096】
評価例3のサンプルでは、評価例2のサンプルと比べ、より厚い化成皮膜を得ることを目的に、化成皮膜形成における処理時間を75秒とした。得られた被膜の厚さは、1〜2μmで、評価例2と同じくリン酸マンガンを主成分とし、リン酸マグネシウムと水酸化アルミニウムを含んでいた。
【0097】
比較例として、上述の前処理を行ったままのマグネシウム合金板を比較例1とし、前処理を行ったマグネシウム合金板に、コロナ放電表面処理装置を用い、出力0.37kWにて、2m/分の移動速度で1回のプラズマ処理を行ったサンプルを比較例2とした。このプラズマ処理は例えばアルミニウム合金等の金属を、アルコキシシラン含有トリアジンチオールを用いて樹脂と接合する際の表面処理として用いられる方法である。
【0098】
次に評価例1〜3および比較例1、2のサンプルをアルコキシシラン含有トリアジンチオール溶液中に浸漬した。
用いたアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体は、トリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウムであり、濃度が0.7g/Lとなるようにエタノール95:水5(体積比)の溶媒に溶解し、溶液を得た。このトリエトキシシリルプロピルアミノトリアジンチオールモノナトリウム溶液に室温で30分間浸漬した。
【0099】
その後、これらサンプルをオーブン内にて160℃で10分間熱処理し、反応を完了させるとともに乾燥した。そして、濃度1.0g/LのN,N’−m−フェニレンジマレイミド(N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド)と濃度2g/Lのジクミルパーオキシドを含有するアセトン溶液に室温で10分間浸漬し、オーブン内にて150℃で10分間熱処理した。その後、サンプルの表面全体に、濃度2g/Lのジクミルパーオキシドのエタノール溶液を室温で噴霧し、風乾した。
【0100】
次にこれらのサンプルを120℃に加熱した金型内に配置し、表面の1部が樹脂と接合するように旭化成ケミカルズ株式会社製ABS樹脂(スタイラック(R)―ABS汎用026)を220℃で射出成形し、マグネシウム物品サンプルを得た。
樹脂は金型内で、長さ80mm、幅20mm、厚さ3mmの板となるように成形され、1つの面の端末部の長さ12mm、幅20mmの部分が、上述の処理を行ったマグネシウム合金板サンプルの端末部上に配置され、この部分が接触している。金型を80℃以下に冷却してから得られたマグネシウム合金物品を取り出した。
【0101】
得られた、評価例1〜3および比較例1、2のマグネシウム合金物品サンプルを引張試験片として用い、引張試験により接合強度を評価した。
島津製作所製オートグラフAG−10TD試験器を用い、マグネシウム物品サンプルのマグネシウム板部と樹脂板部の端末部(接合部と反対側の端末部)をそれぞれフラットチャックで掴み、引張速度5mm/分の引張速度で破断するまで引張った。破断に至るまでの最高到達荷重を接合面積(長さ12mmX幅20mm)で除して求めた応力を接合強度(せん断強度)とした。試験は各サンプルについて3本行った。
求めた接合強度を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
比較例1および2では、破断は接合面で起こり、マグネシウム合金板と樹脂は完全に分かれていた。一方、評価例1〜3では、破断は接合面または、樹脂部での破断が確認された。また、接合面での破断面(マグネシウム合金板側)に関しては、樹脂の付着が認められ、破断の一部は樹脂内で起こっていることが確認された。
【0104】
2.変形の抑制方法
次に、変形の抑制方法の詳細を以下に示す。
上述したようにマグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体の外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれにおいて、その中心から一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心から他方の端部との間に位置する第2の接合部とを配置することで、応力がマグネシウム合金基体全体にバランスよく付与され変形が抑制されることを見出した。
【0105】
例えば、図16のマグネシウム合金基体において、基体250の2組の対向する辺(立壁211と213および立壁212と214)の全長に亘り化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成することで、基体250の外周全周に接合部が形成される。すなわち全ての辺に第1の接合部と第2の接合部(この実施形態では第1および第2の接合部は繋がっている)が形成される。
【0106】
これにより、樹脂の収縮による応力が基体250全体に均一に付与されることから変形が抑制される。この実施形態は、接合する樹脂の厚さが、例えば、肉厚0.5mm程度のマグネシウム合金基体の外周上の辺の厚み(図15では立壁211〜214の高さ)の例えば50%以上のように厚い樹脂を接合する場合には効果的な方法である。
【0107】
しかし、軽量化等の理由から使用する樹脂の厚さを薄くしたいとの要望から、立壁の高さ(外周上の辺の厚み)の例えば50%未満のような薄い樹脂を接合する場合には、接合部の面積が十分でなく、応力が基体250全体に均一に付与されないおそれがある。
【0108】
そこで、以下に接合する樹脂の厚さが薄い場合でもより効果的にマグネシウム合金基体の変形を抑制できるより好ましい実施形態について説明する。
【0109】
図3は、本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金物品110を示す斜視図である。
図4は、マグネシウム合金物品110のマグネシウム合金基体50を示す斜視図である。
【0110】
マグネシウム合金物品110は、例えば、携帯電話等の電子機器を含む各種機器の筐体として用いることができる。マグネシウム合金基体50(材質等は上述のマグネシウム合金基体1と同じ)は、その内部に電子部品等の各種部材を収納できるように、天板(または底面)35と、天板35の周囲(すなわちマグネシウム合金基体50の外周上)に配置された立壁11〜14を有している。
【0111】
立壁11〜14は、立壁11と立壁13が対向し、立壁12と立壁14が対向している。そしてこの対向する2組の立壁のうち、少なくとも1組の立壁(図4では、立壁11と13)は、それぞれ外側に突出した接合部を有している。立壁11はその外周方向(図4のx方向)の全長に亘り厚さが立壁11の高さより低い接合部21を有している。接合部21の半分(例えば、その長さ(外周に沿った長さ、x方向の長さ)の中心から−x方向)が第1の接合部に相当し、残りの半分(長さの中心から+x方向)が第2の接合部に相当する。すなわち接合部21は、第1の接合部と第2の接合部が接触した形態となっている。
【0112】
一方立壁13は接合部31、32を有している。なお、接合部(締結部)31、32は、マグネシウム合金物品110を、他の部品にねじ止めするための締結部として用いることができる形態となっており、このように接合部は他の機能を併せ持ってもよい。図4からわかるように、接合部31は、立壁13の長さの中心からx方向に位置し、接合部32は立壁13の長さの中心から−x方向に位置しており、一方が第1の接合部に相当し、他方が第2の接合部に相当する。すなわち立壁13は、離れて配置された第1の接合部と第2の接合部を有する。
【0113】
このマグネシウム合金基体50のうち、少なくとも接合部分21、31、32に上述した、化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成(図3に図示せず)しマグネシウム合金部材を得る。そして、接合部21、31、32の表面において、樹脂とマグネシウム合金基体50と樹脂4とを、化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3とを介して接合する。
【0114】
接合部21、31、32での樹脂4との接合は、接合部の一方の面のみで行ってもよい。好ましくは接合面積を増加させるように、例えば接合部21、31、32を樹脂4により完全に覆う等の方法により接合部の両面で樹脂と接合する。
【0115】
樹脂4とマグネシウム合金基体50との接合個所を増やすことで変形の抑制は、より容易になることから、マグネシウム合金基体50と樹脂4との接合は、接合部21、31、32以外の部分でも行われるのが好ましい。例えば図3に示す実施形態であれば、立壁11〜14の外側表面にも化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成しておくこと(例えばマグネシウム合金基体50の表面全体に化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成してもよい)で、立壁11〜14の外側表面と樹脂4とを、化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を介して接触する部分において接合することができる。
【0116】
このような接合部21、31、32を設けることによりマグネシウム合金基体50の変形を抑制できるメカニズムは以下のように推定される。
【0117】
収縮量の差により立壁11および立壁13に加わる応力は、樹脂の収縮量がマグネシウム合金の収縮量より大きいことから、マグネシウム合金基体50の内向きに生ずる。第1の接合部と第2の接合部が立壁11または13の長さの中心を挟んで反対側に形成されることから、立壁11および13に均一にこの応力が付与され変形を抑制する効果を得ることができる。
【0118】
さらに、接合部21、31、32は外向きに突出していることから、例え樹脂4の厚さ(図3のz方向)が薄くても、これら接合部は広い面積で樹脂4と接合することができ、局所的に強い応力が作用するのを回避できる。
【0119】
以下に、立壁、接合部についてより詳細に説明する。
図3および4に示す実施形態では、立壁11〜14は、天板35の外周全体が立壁11〜14により取り囲まれているが、天板35の周囲のうち一部に、対向する立壁を少なくとも1組設けてもよい。また、立壁11〜14は、天板35の端部にあるのみならず、図4に示すように天板35との間に空間を介して配置されてもよい(例えば立壁11)。さらに天板35の縁部のみならず、天板35の縁部から内部に若干入った位置に配置してもよい。
【0120】
立壁11〜14は、内部に部材を収納するスペースを確保するために好ましくは1mm以上の高さを有する。また、上述の応力が生じてもマグネシウム合金物品110が十分な剛性を確保し、かつ軽量化を実現できるように、立壁11〜14の厚さは0.5mm以上であることが好ましい。
【0121】
なお、図3および図4に示す実施形態では、天板は概ね長方形の形状を有しているが、これに以外にも円形や多角形等の各種形状を有してもよい。なお天板が円形の場合、対向する立壁とは、円弧状の位置が120°以上離れた立壁または立壁の部分同士を意味し、天板が略三角形上の場合は、隣り合う2辺に位置する立壁同士を意味する。
【0122】
接合部は、各種の配置が可能である。
図5〜図8は、接合部の各種の配置の実施形態を概略的に示す図である。
図5に示すマグネシウム合金基体51では、図4に示すマグネシウム合金基体50と同様に、複数組の対向する立壁(図5の実施形態では2組)のうち、1組の立壁11’と13’にそれぞれ接合部21と23が立壁の外側方向に突出して取り付けられている。マグネシウム合金基体51では立壁11’および13’の長さ(基体51の外周方向に沿った長さ、図5のx方向)と接合部21および23の長さ(基体51の外周方向に沿った長さ、図5のx方向)が同じであり、立壁11’と立壁13’の両方とも、第1の接合部と第2の接合部が接触して(一体となって)配置されている。
【0123】
なお、図5のように複数組の対向する立壁の中から、接合部21と接合部23を設ける立壁の組を選択する場合は、対向する立壁間の距離の長い組を選択する方がより変形を抑制できることから好ましいが、距離の短い組を選択しても一定の変形抑制効果を得ることができる。
【0124】
部品によって、要求されるマグネシウム合金基体と樹脂との接合力は異なる。また、樹脂によって単位面積当たりの化学的な接合力が異なるので、部品と選択した樹脂に応じた接合力を確保できる接合部の面積が必要となる。一般的には、接合部21、23は、好ましくは面積が0.5mm2以上、更に好ましくは、1.0mm2以上とする。
【0125】
図9は、図5に示すマグネシウム合金基体51と同様の実施形態である、図4に示すマグネシウム合金基体50を裏側から見た上面図である。
図10は、図9に示すマグネシウム合金基体50の変形例であるマグネシウム合金基体55を示す上面図である。マグネシウム合金基体55では、マグネシウム合金基体50と同様に締結部31、32が立壁13の第1および第2の接合部として機能し、立壁11には、互いに接触した第1の接合部と第2の接合部として機能する接合部21’が設けられている。
【0126】
接合部21’の幅(図10のy方向)は端部(長さの中心から離れていく方向)が中央部より広くなっている。これにより樹脂の収縮による応力(y軸方向の基体55内側に向かう応力)を立壁12または14に近い端部で大きくし、立壁による支持のない中央部で小さくでき、変形をより抑制できる。
【0127】
図6に示すマグネシウム合金基体52では、2組の対向する立壁(立壁11’と13’および立壁12’と14’)とも接合部(接合部21〜24)を有している。図6に示す実施形態では、立壁の外周全てを取り囲むように接合部21〜24が配置されている。立壁21〜24の全てが第1の接合部と第2の接合部が一体となった接合部を有している。
【0128】
このように対向する立壁の複数の組が、第1および第2の接合部を有することは、例えば図6のx方向とy方向応力のような、複数の方向の応力による変形を抑制できることから好ましい。
【0129】
図11は、図6に示す実施形態を、図9に示すマグネシウム合金基体50と同様の基体に適用した例であるマグネシウム合金基体56を示す。
マグネシウム合金基体56は、締結部を有せず、立壁11〜14の外周が接合部21〜24により取り囲まれている。
【0130】
図7は、図6に示すマグネシウム合金基体52の変形例であるマグネシウム合金基体53を示す。マグネシウム合金基体53も2組の対向する立壁がそれぞれ接合部を有している。そして、それぞれの接合部は立壁の周囲の一部しか覆っていない(立壁11’の長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7のx方向の長さ)が接合部21aと21bの長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7のx方向の長さ)の合計より長く、立壁13’の長さが接合部23aと23bのx方向の長さの合計より長い。同様に立壁12’の長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7y方向の長さ)が、接合部22aと22bの長さ(基体53の外周方向に沿った長さ、図7y方向の長さ)の合計より長く、立壁14’の長さは、接合部24aと24bの長さの合計より長い。)。
【0131】
例えば図7に示す立壁11’では、接合部21aと21bの一方が第1の接合部に相当し、他方が第2の接合部に相当するように、立壁11’〜14’の全てが、互いに離れた第1の接合部と第2の接合部を有する。
【0132】
図12に示す実施形態のマグネシウム合金基体57では、立壁11および立壁13がそれぞれ1つずつ接合部21および接合部23を備えている。一方立壁12は、2つの接合部22aと22bを、立壁14も2つの接合部24aと24bを備えている。
このように、例えば立壁の長さに応じて、立壁11〜14の一部が第1の接合部と第2の接合部が一体となった1つの接合部を備え、残りの立壁が第1の接合部と第2の接合部が分離するように複数の接合部を備えてもよい。
【0133】
図13は、接合部21、22a、22b、23、24a、24bにおいて、マグネシウム合金基体57と樹脂4とが接合されているマグネシウム合金物品120を示す。
【0134】
図14に示すマグネシウム合金基体58では、立壁12と14は、それぞれ3つの接合部を備え、一方、立壁11と13はそれぞれ2つの接合部を備えている。このように例えば立壁の長さに応じて接合部の数を変えてもよい。図14に示す実施形態の立壁12では、接合部22aと22bが第1または第2の接合部の一方に相当し、接合部22cが第1または第2の接合部の他方に相当する。このように一つの立壁上で複数の第1の接合部および/または複数の第2の接合部を設けてもよい。
【0135】
図8は、図6に示すマグネシウム合金基体52の別の変形例であるマグネシウム合金基体54を示す。これまでの示した実施形態では接合部は立壁の上部または下部に設けられているが、マグネシウム合金基体54では、立壁の高さ方向(図8のz方向)の中間部に接合部21〜24が設けられている。なお、マグネシウム合金基体54では、接合部は立壁の周囲全体を取り囲んでいるが、立壁の周囲の一部のみを取り囲んでもよい(すなわち第1と第2の接合部が分離してもよい)。
【0136】
立壁の高さ方向の中間部に接合部を設けることで発生する応力が基体の高さ方向の中間部に優先的に付与され、端部に付与された場合より優れた変形抑制効果を得られる場合がある。
【0137】
以上の実施形態で示したマグネシウム合金基体(表面に化成被膜2と脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜3を形成されマグネシウム合金部材となる)を用いたマグネシウム合金物品の製造方法を以下に示す。
【0138】
マグネシウム合金基体50等、接合部を有する所定の形状のマグネシウム合金基体を、例えば、ダイカスト、チクソモールド、プレス成形などにより得る。そしてマグネシウム合金基体の表面、少なくとも接合部の表面に、上記の「1.接合方法」で示した方法を用いて、化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成し、マグネシウム合金部材を得る。
【0139】
そして、得られたマグネシウム合金部材を「1.接合方法」に示すように、金型内に配置し、所定の金型温度に加熱し、金型中に所定の溶融樹脂を射出してインサート成形物品またはアウトサート成形物品を得る。
【0140】
さらに所定の温度および時間(例えば金型温度60〜120℃、5秒〜10分間)保持した後、冷却し得られたマグネシウム合金物品を取り出す。
【0141】
この際、樹脂4の変形を防止するため室温まで冷却するのが好ましい。しかし、冷却時間を確保できない等の理由から室温より高い温度で金型からマグネシウム合金物品を取り出す際は、金型からマグネシウム物品を離型させる押し出しピンが樹脂4に当たり樹脂4を変形させるのを避けるように、押し出しピンを立壁から外側に突出している接合部に当てるようにしてもよい。
【0142】
なお、上述の実施形態では、立壁を有するマグネシウム合金基体について述べたが、本発明は立壁に相当する厚さ(即ち外側に突出する接合部を形成できる厚さ)を有するマグネシウム基体(立壁を有しなくてもよい)に適用可能であり、このようなマグネシウム合金基体に上述の接合部を設け、化成被膜2と水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成したマグネシウム合金部材およびこのマグネシウム合金部材と樹脂4とを接合部で接合したマグネシウム合金物品も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0143】
また、上述した接合方法は、化成皮膜2および脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆3を形成し、マグネシウム合金基体と樹脂との強固な接合力を得ているが、これ以外にも強固な接合力を得る手段を用いて「2.接合方法」に記載した方法により接合したマグネシウム合金物品も本発明の技術的範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】本発明に係るマグネシウム合金物品100の断面図である。
【図2】従来のマグネシウム合金物品200の断面図である。
【図3】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金物品110を示す斜視図である。
【図4】マグネシウム合金物品110のマグネシウム合金基体50を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体51を示す概略図である。
【図6】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体52を示す概略図である。
【図7】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体53を示す概略図である。
【図8】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体54を示す概略図である。
【図9】図4に示すマグネシウム合金基体50を裏側から見た上面図である。
【図10】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体55を示す上面図である。
【図11】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体56を示す上面図である。
【図12】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体57を示す上面図である。
【図13】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金物品120を示す上面図である。
【図14】本発明の実施形態にかかるマグネシウム合金基体58示す上面図である。
【図15】従来のマグネシウム合金物品210を示す斜視図である。
【図16】従来のマグネシウム合金基体250を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0145】
1,50〜58,250 マグネシウム合金基体、2 化成皮膜、3 脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被膜、4,204 樹脂、11,11’,12,12’,13,13’,14,14’,211〜214 立壁、21,21’,21a,21b,22,22a,22b,22c,23,23a,23b,24a,24b,24c,31,32 接合部、231,232 締結部、35,235 天板、100,110,120 マグネシウム合金物品
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有する、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体を含むマグネシウム物品であって、
前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを介して前記基体の外周の少なくとも一部を取り囲む樹脂と接合していることを特徴とするマグネシウム合金物品。
【請求項2】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、離れていることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項3】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、接触していることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項4】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、その厚さが前記対向する少なくとも1組の辺の厚さよりも薄くかつ外側に突出して配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム合金物品。
【請求項5】
前記外周上の対向する少なくとも1組の辺が立壁を有し、前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、前記立壁から外側に突出して配置され、かつその厚さが前記立壁の高さより小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム合金物品。
【請求項6】
外周上の2組以上の対向する辺がそれぞれの立壁を有し、前記それぞれの立壁が前記第1の接合部と前記第2の接合部とを有することを特徴とする請求項5に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項7】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが前記立壁の高さ方向の中間部に配置されていることを特徴とする請求項5または6に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項8】
外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有し、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜を介し、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を被覆されていることを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項9】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、離れていることを特徴とする請求項8に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項10】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、接触していることを特徴とする請求項8に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項11】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、その厚さが前記対向する少なくとも1組の辺の厚さよりも薄くかつ外側に突出して配置されていることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のマグネシウム合金部材。
【請求項12】
前記外周上の対向する少なくとも1組の辺が立壁を有し、前記前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、前記立壁から外側に突出して配置され、かつその厚さが前記立壁の高さより小さいことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のマグネシウム合金部材。
【請求項13】
外周上の2組以上の対向する辺がそれぞれの立壁を有し、前記それぞれの立壁が前記第1の接合部と前記第2の接合部とを有することを特徴とする請求項12に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項14】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが前記立壁の高さ方向の中間部に配置されていることを特徴とする請求項12または13に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項1】
外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有する、マグネシウムまたはマグネシウム合金より成る基体を含むマグネシウム物品であって、
前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜と、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体被覆とを介して前記基体の外周の少なくとも一部を取り囲む樹脂と接合していることを特徴とするマグネシウム合金物品。
【請求項2】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、離れていることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項3】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、接触していることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項4】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、その厚さが前記対向する少なくとも1組の辺の厚さよりも薄くかつ外側に突出して配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム合金物品。
【請求項5】
前記外周上の対向する少なくとも1組の辺が立壁を有し、前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、前記立壁から外側に突出して配置され、かつその厚さが前記立壁の高さより小さいことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム合金物品。
【請求項6】
外周上の2組以上の対向する辺がそれぞれの立壁を有し、前記それぞれの立壁が前記第1の接合部と前記第2の接合部とを有することを特徴とする請求項5に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項7】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが前記立壁の高さ方向の中間部に配置されていることを特徴とする請求項5または6に記載のマグネシウム合金物品。
【請求項8】
外周上の少なくとも1組の対向する辺のそれぞれが、その中心と一方の端部との間に位置する第1の接合部と、その中心と他方の端部との間に位置する第2の接合部とを有し、前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、水酸化物、カルボン酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、チオ硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、過マンガン酸塩、アミノ化合物および金属アセチルアセトナートよりなる群から選ばれる少なくとも1つを含む化成皮膜を介し、脱水シラノール含有トリアジンチオール誘導体を被覆されていることを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項9】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、離れていることを特徴とする請求項8に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項10】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、接触していることを特徴とする請求項8に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項11】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とは、その厚さが前記対向する少なくとも1組の辺の厚さよりも薄くかつ外側に突出して配置されていることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のマグネシウム合金部材。
【請求項12】
前記外周上の対向する少なくとも1組の辺が立壁を有し、前記前記第1の接合部と前記第2の接合部とが、前記立壁から外側に突出して配置され、かつその厚さが前記立壁の高さより小さいことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載のマグネシウム合金部材。
【請求項13】
外周上の2組以上の対向する辺がそれぞれの立壁を有し、前記それぞれの立壁が前記第1の接合部と前記第2の接合部とを有することを特徴とする請求項12に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項14】
前記第1の接合部と前記第2の接合部とが前記立壁の高さ方向の中間部に配置されていることを特徴とする請求項12または13に記載のマグネシウム合金部材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図10】
【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2009−249663(P2009−249663A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97122(P2008−97122)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(506362222)株式会社新技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(506362222)株式会社新技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】
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