説明

マグネシウム基複合材料

【課題】少ない金属粒子量で耐食性や伸びの低下を抑制しながら、常温〜高温で強度に優れるマグネシウム基複合材料を提供する。
【解決手段】 Caを含有するマグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界に金属粒子が分散しており、Ca含有マグネシウム合金の最大結晶粒径が20μm以下であり、金属粒子の最大粒径が30μm以下であり、金属粒子が複合材料中0.1〜1vol%であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。該マグネシウム基複合材料は、母材となるCa含有マグネシウム合金と、金属粒子となる金属粉末との混合体を固相状態で機械的に微細化し、この微細化混合体又はその圧粉体を融点未満で加熱塑性加工することにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネシウム合金の結晶粒界に金属粒子が分散したマグネシウム基複合材料において、高強度で、しかも延性や耐食性にも優れるマグネシウム基複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や鉄道などの車両、電子・電気機器、携帯用機器などの材料において軽量化が求められている。マグネシウム合金は実用合金の中で最軽量で、比強度、比剛性、熱伝導性、リサイクル性などにも優れることから、多くの検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マグネシウム合金に分散材としてTiやFeを添加して溶融・固化することにより最大応力や伸びが向上し、塑性変形能が改善されたマグネシウム基複合材料が得られることが記載されている。
しかしながら、このようなマグネシウム基複合材料で強度や硬度などの機械的特性や耐熱性に関して十分満足のいくものではなかった。
【0004】
これに対して、特許文献2には、マグネシウム合金とTiなどの金属粉末とを特定領域にまで微細化し、金属粉末の微粒子をマグネシウム合金の結晶粒界に均一に分散させたマグネシウム基複合材料が記載され、このようなマグネシウム基複合材料では、引張強度や0.2%耐力が向上し、高温に保持した後でも金属組織の変化がなく、高い硬度が維持されることが示されている。このマグネシウム基複合材料は、固相状態でマグネシウム合金とTiなどの金属粉末との混合体を微細化・分散化処理し、これを押し固めて得られた圧縮成形体を押し出しなどの加熱塑性加工して得ることができる。
【0005】
特許文献2のマグネシウム基複合材料は、上記のように優れた機械的特性や耐熱性を有するものであるが、引張強度や耐力を十分高めるために金属粒子量を多量に用いるとマグネシウム基複合材料の耐食性が著しく低下してしまうという問題があった。また、室温での伸びも低下する傾向があった。
従って、このようなマグネシウム基複合材料において、耐食性や室温での伸びにほとんど影響がない程度にまで金属粒子量を低減しながらも、常温〜高温の広い温度範囲で高い強度を示すマグネシウム基複合材料が望まれていた。
【0006】
一方、Caをマグネシウム合金の構成成分とすることにより、マグネシウム合金の発火性を抑え、難燃性マグネシウム合金とすることができることは広く知られている。
特許文献3には、CaとAlとを含み、Caの金属間化合物を有する難燃性マグネシウム合金を、押出しや圧延などにより塑性加工処理して該金属間化合物を微細に破砕すれば、高強度の難燃性マグネシウム合金を得ることができること、鋳造品である難燃性マグネシウム合金中に網目状に形成された金属間化合物が押出し等で微細に破砕され、粒子分散効果を発揮するためことが記載されている。
しかしながら、特許文献3には、Tiなどの金属粒子をマグネシウムの結晶粒界に分散させることは検討されていない。
【0007】
また、特許文献4には、熱処理によって微細な金属間化合物を素地中に析出・分散させたマグネシウム合金粉末を出発原料粉末として、この出発原料粉末を1対のロール間に通して圧縮変形又は剪断変形させる塑性加工を繰り返し行って、粉体サイズが0.1〜10mmでマグネシウム粒子の最大結晶粒径が20μ以下であるマグネシウム合金粉体原料を製造し、この粉体原料を押出し加工することで、合金の素地を形成するマグネシウム粒子の最大結晶粒径が10μm以下であり、常温引張耐力が250MPa以上である高耐力マグネシウム合金を得ることが記載されている。また、特許文献4には、出発原料粉体の製造方法として、Mgを主成分とし、Caなどの金属間化合物を形成すする元素と、Sr、Zr、Sc及びTiから選ばれる活性金属元素を添加して鋳造法によりマグネシウム合金インゴットを作製し、このインゴットを溶体化処理及び時効熱処理してインゴット素地中に微細な金属間化合物を析出・分散させた後、インゴットを機械加工して出発原料粉末であるマグネシウム合金粉末を得ること、金属間化合物としてAlCaなどが析出・分散すること、前記活性金属元素を重量基準で0.5〜4%含有することによってさらに強度が増加可能であることも記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献4において各元素は溶融・鋳造されているため、0.5〜4%程度の活性金属元素はMgやその他の元素とともにインゴット中で固溶あるいは金属間化合物を形成していると考えられる。特許文献4には、活性金属元素を金属粒子として単体で存在させることは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−105575号公報
【特許文献2】特開2008−195978号公報
【特許文献3】特許第3030338号公報
【特許文献4】特開2006−348349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記背景技術の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、マグネシウム合金とTiなどの金属粉末とを特定領域にまで微細化し、金属粉末の微粒子をマグネシウム合金の結晶粒界に分散させたマグネシウム基複合材料において、少ない金属粒子量で耐食性や延性の低下を抑制しながら、常温〜高温での強度に優れるマグネシウム基複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明者等が鋭意検討を行った結果、マグネシウム合金と金属粉末とを固相状態で特定領域にまで微細化し、金属粉末の微粒子をマグネシウム合金の結晶粒界に分散させたマグネシウム基複合材料において、Caを含有するマグネシウム合金を母材として用いた場合には、金属粒子を分散させない場合やCaを含有しないマグネシウム合金に金属粒子を分散させた場合に比べて、非常に少ない金属粒子量で引張強さや引張耐力が顕著に向上し、耐食性や延性の低下を抑制しながらも室温〜高温で高い強度が得られ、強度と延性のバランスがよく、耐食性も良好なマグネシウム基複合材料が得られることを見出した。
マグネシウム合金と金属粉末とを固相状態で特定領域にまで微細化し、金属粉末の微粒子をマグネシウム合金の結晶粒界に分散させたマグネシウム基複合材料において、このようにCa含有マグネシウム合金と金属粒子の間で特異的に相乗的効果が発揮され、一定の強度特性をより少ない金属粒子の使用量で達成できることはこれまで知られておらず、前記特許文献2においてもCa含有マグネシウム合金は用いられていない。
【0012】
すなわち、本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、Caを含有するマグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界に金属粒子が分散しており、Ca含有マグネシウム合金の最大結晶粒径が20μm以下であり、金属粒子の最大粒径が30μm以下であり、金属粒子が複合材料中0.1〜1vol%であることを特徴とするマグネシウム基複合材料を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記何れかに記載の複合材料において、CaがCa含有マグネシウム合金中1〜5質量%であることを特徴とするマグネシウム基複合材料を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載の複合材料において、Ca含有マグネシウム合金がさらにAlを含むことを特徴とするマグネシウム基複合材料を提供する。
【0014】
また、本発明は、前記何れかに記載の複合材料において、金属粒子が六方稠密充填構造の金属であることを特徴とするマグネシウム基複合材料を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載の複合材料において、金属粒子がTiであることを特徴とするマグネシウム基複合材料を提供する。
また、本発明は、前記何れかに記載の複合材料において、複合材料の20℃での引張強度が360MPa以上、150℃での引張強度が220MPa以上、20℃での0.2%耐力が300MPa以上、20℃で伸びが5%以上であることを特徴とするマグネシウム基複合材料を提供する。
【0015】
また、本発明は、母材となるCa含有マグネシウム合金の粉末と、金属粒子となる金属粉末とを機械的に均一に混合する工程と、
前記工程で得られたCa含有マグネシウム合金粉末と金属粉末の混合体を固相状態で機械的に微細化する工程と、
この微細化混合体又はその圧粉体を融点未満で加熱塑性加工することにより、Caを含有するマグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界に金属粒子が分散し、Ca含有マグネシウム合金の最大結晶粒径が20μm以下であり、金属粒子の最大粒径が30μm以下であるマグネシウム基複合材料を得る工程と、
を備えることを特徴とするマグネシウム基複合材料の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、母材としてCa含有マグネシウム合金を用い、このマグネシウム合金とTiなどの金属粉末とを固相状態で特定領域にまで微細化し、微細化されたCa含有マグネシウム合金の結晶粒界に金属粉末の微粒子を分散させることにより、極少量の金属粒子量で引張強度や耐力などの強度特性において高い性能を発揮するマグネシウム基複合材料が得られ、金属粉末の使用量を低減することができる。そして、該マグネシウム基複合材料は金属粒子量が非常に少ないので、金属粒子の存在による耐食性や室温での伸びの低下がほとんどなく、室温〜高温で強度と耐食性・延性のバランスに優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造において用いられる微細化装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造における微細化工程の一例を示す説明図である。
【図3】本発明にかかるマグネシウム基複合材料の製造における微細化工程の一例を示す説明図である。
【0018】
【図4】Ca含有マグネシウム合金(AMX602)又はCa非含有マグネシウム合金(AM60)に、0〜3vol%の金属粉末(Ti粉末)を添加し混合処理した混合体を微細化処理及び押し出し加工して得られたマグネシウム基複合材料の、20℃での引張強度、0.2%耐力及び伸びを示す図である。
【図5】Ca含有マグネシウム合金(AMX602)に金属粉末(Ti粉末)を添加し混合処理した混合体を微細化処理及び押し出し加工して得られたマグネシウム基複合材料のレーザー顕微鏡写真であり、混合体中の金属粉末量は(a)0vol%、(b)0.4vol%、(c)1vol%である。
【0019】
【図6】Ca非含有マグネシウム合金(AM60)に金属粉末(Ti粉末)を添加し混合処理した混合体を微細化処理及び押し出し加工して得られたマグネシウム基複合材料のレーザー顕微鏡写真であり、混合体中の金属粉末量は(a)0vol%、(b)1vol%である。
【図7】Ca含有マグネシウム合金(AMX602)に金属粉末(Ti粉末)を添加し混合処理した混合体を微細化処理及び押し出し加工して得られたマグネシウム基複合材料のSEM−EDX分析結果及びSEM観察写真であり、混合体中の金属粉末量は(a)0.4vol%、(b)1vol%である。
【0020】
【図8】Ca含有マグネシウム合金(AMX602)に金属粉末(Ti粉末)を添加し混合処理した混合体を微細化処理及び押し出し加工して得られたマグネシウム基複合材料のX線回折図であり、混合体中の金属粉末量は(a)0vol%、(b)1vol%である。
【図9】Ca含有マグネシウム合金(AMX602)に金属粉末(Zr粉末)を添加し混合処理した混合体を微細化処理及び押し出し加工して得られたマグネシウム基複合材料のレーザー顕微鏡写真であり、混合体中の金属粉末量は0.4vol%である。
【図10】Ca含有マグネシウム合金(AMX602)に金属粉末(Zr粉末)を添加し混合処理した混合体を微細化処理及び押し出し加工して得られたマグネシウム基複合材料のSEM−EDX分析結果及びSEM観察写真であり、混合体中の金属粉末量は0.4vol%である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、Caを含有するマグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界に金属粒子が分散されたマグネシウム基複合材料である。
本発明において、「金属粒子がCa含有マグネシウム合金の結晶粒界に分散された」とは、金属粒子が、Ca含有マグネシウム合金の結晶粒内には存在せず、金属粒子がマグネシウム合金の結晶粒間に分散していることを意味する。
【0022】
本発明のマグネシウム基複合材料においては、結晶粒が微細化されたCa含有マグネシウム合金の結晶粒界に微細な金属粒子が分散されている。このようなマグネシウム基複合材料は、例えば、Ca含有マグネシウム合金と金属粉末とを混合機で均一に混合した混合体を固相状態で機械的に微細化し、その後、融点未満の温度で加熱塑性加工を行うことにより得ることができる。塑性加工としては、押出し、鍛造、圧延、引抜き、プレスなど公知の加工の1種以上が挙げられ、好適な例としては押出しが挙げられる。
【0023】
<Ca含有マグネシウム合金>
本発明において出発原料として用いるCa含有マグネシウム合金は、主成分であるマグネシウムに加えて、Caを合金構成元素として含む。Ca含有マグネシウム合金中、Caは固溶体及び/又は金属間化合物を形成していてよい。また、融解・冷却で得られたマグネシウム合金は必要に応じて機械的に粉砕してもよい。
【0024】
Ca含有マグネシウム合金中のCa量は、0.2質量%以上、好ましくは1質量%以上である。Ca含有量が少ない場合には、本発明の効果が十分得られないことがある。一方、過剰に配合してもそれに見合った効果の向上は期待できず、かえってマグネシウム基複合材料の物性に影響を及ぼす可能性がある。このようなことから、Ca含有マグネシウム合金中のCa含有量は10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0025】
Ca含有マグネシウム合金としては、任意のマグネシウム合金をベースとして、Caを合金構成元素として含むものを用いることができる。このようなCa含有マグネシウム合金は、通常ベースとなるマグネシウム合金にCaあるいはその化合物を添加し、融解、冷却して得ることができる。なお、本発明においては、Ca含有マグネシウム合金にCa金属間化合物を析出させるための熱処理を行う必要はない。
【0026】
ベースとなるマグネシウム合金としては特に限定されず、主成分であるMg以外に、Al、Zn、Mn、Zr、Ce、Li、Ag、RE(RE:希土類元素)など、通常マグネシウム合金の構成元素として用いられる元素が含まれていてよい。一般によく知られているマグネシウム合金としては、Mg−Al−Mn系合金(AM系)、Mg−Al−Zn系合金(AZ系)、Mg−Zn−Zr系合金(ZK系)などがある。また、Ca含有マグネシウム合金としては、AMX602などのAMX系、AZX912、AZX312などのAZX系合金などが挙げられる。
【0027】
Ca含有マグネシウム合金は、マグネシウム基複合材料の強度などの点からさらにAlを含むことが好適である。Alの含有量は、通常、Ca含有マグネシウム合金中1〜20質量%、好ましくは2〜15質量%、より好ましくは3〜10質量%である。
また、Ca含有マグネシウム合金中におけるMg、Ca、Al以外の元素の総和は、通常10質量%以下であり、典型的には0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%である。
【0028】
Ca含有マグネシウム合金の形状、サイズは特に限定されず、粉末状、粒状、塊状、チップ状などが挙げられるが、例えば、平均粒子径0.5mm〜5mm程度のチップまたは粒状体が簡便に用いられる。
【0029】
<金属粉末>
本発明で用いる金属粉末は、後述する微細化工程において上記Ca含有マグネシウム合金とともに微細化されて、金属粒子としてマグネシウム合金の結晶粒界に分散するものである。
本発明で用いられる金属粉末としては、本発明の効果を発揮する限りにおいて特に制限されないが、マグネシウム基複合材料の強度などの点で、その結晶構造が六方稠密充填構造(hcp構造)である金属が好適に用いられる。ただし、本発明のマグネシウム基複合材料の製造中にCa含有マグネシウム合金と固溶したり金属間化合物を生成しない金属である必要がある。そのような金属としては、例えば、Ti、Zr、Co、Hfなどが挙げられる。
【0030】
Tiは特に好ましい金属粉末の一つである。Tiは本発明の製造方法においては、Ca含有マグネシウム合金と固溶したり、金属間化合物を生成したりすることがなく、マグネシウム合金の結晶粒界に単粒子として分散し、機械的性質及び耐熱性を顕著に向上させることができる。
金属粉末の形状、サイズは特に限定されず、例えば、平均粒子径5μm〜100μm、さらに望ましくは10μm〜50μmの粉末が簡便に用いられる。
【0031】
金属粉末量は、微細化処理される混合体全成分中に占める金属粉末の割合として、0.1vol%以上、好ましくは0.2vol%以上である。添加材量が少なすぎるとその効果が十分発揮されない。一方、耐食性や室温での延性の低下を抑制するために、金属粉末量は、微細化処理される混合体全成分中1vol%以下、さらには0.5vol%以下とすることが好ましい。
なお、金属粉末量は、微細化される混合体をその全成分からなる空隙のない一固体であると見なしたときの混合体中の添加材の割合(vol%)を意味し、Ca含有マグネシウム合金及び金属粉末の真密度とその配合質量とから、下記式により算出されるものである。
【0032】
【数1】

【0033】
なお、Ca含有マグネシウム合金と金属粉末との混合体には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じてその他の元素やその化合物を補助的に添加することもできる。また、マグネシウム合金に対する公知の強化材を添加することもできる。
また、Ca含有マグネシウム合金と金属粉末の混合体には、金属粒子をCa含有マグネシウム合金の結晶粒表面により均一に分散させるために、分散剤(例えばオレイン酸などの高級脂肪酸)を必要に応じて適量添加してもよい。
【0034】
<製造方法>
本発明にかかるマグネシウム基複合材料の好適な製造方法について、以下に代表例を挙げてさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明にかかるマグネシウム基複合材料は、
(a)混合工程と、
(b)微細化工程と、
(c)加熱塑性加工工程と、
を備えた製造方法で製造することが好適である。
【0035】
<(a)混合工程>
まず混合工程では、Ca含有マグネシウム合金と金属粉末を機械的に混合し、金属粉末がCa含有マグネシウム合金に均一に分散するようにする。混合機としては、粉体を均一に混合できる方法であれば特に制限されず、公知の混合機、例えば、V型混合機、W型混合機、タンブラーミキサー、ロッキングミル等の粉体混合機を採用することができる。この工程により、次の微細化工程において、Ca含有マグネシウム合金の結晶粒の微細化が促進されると共に、微細化された金属粉末粒子が均一に分散化され、加熱塑性加工工程を経たマグネシウム基複合材料のマグネシウム合金結晶粒界に金属粉末粒子を効率よく分散させることができる。
【0036】
<(b)微細化工程>
微細化工程では、前記混合工程で得られたCa含有マグネシウム合金と金属粉末との混合体が固相状態で機械的に粉砕されるとともに、マグネシウム合金の結晶粒ならびに金属粉末が微細化される。このような微細化方法としては、混合体に強歪み加工を与えてマグネシウム合金結晶粒ならびに金属粉末を微細化できる方法であれば特に制限されず、公知の方法を採用することができるが、後の加熱塑性加工工程での結晶粒の粗大化を抑制し、室温〜高温の広い範囲において高強度とするためには、マグネシウム合金結晶粒及び金属粉末が十分且つ均一に微細化されることが望ましい。
【0037】
好適な微細化方法としては、押し固め及び押し崩しによる方法、特に剪断力及び/又は摩擦力を伴う押し固め及び押し崩しによる方法が採用できる。
また、微細化工程においては、取り扱い性の点などから、最後に圧縮成形を行って圧粉体とすることが好ましい。
このような微細化工程は、前記混合工程と同様に、特に加熱を必要とせず、環境温度下でも十分行うことができる。
【0038】
例えば、Ca含有マグネシウム合金チップまたは粒状体と金属粉末との混合体を、互いに交差して連なる複数の直線状の成形穴を有する型内に収容した状態で、上記成形穴内に挿入された押圧部材の前進、後退に伴い、上記混合原料を一の成形穴で押し固め、更にこの押し固めた混合原料を押し崩しながら他の成形穴へと送り込み、この押し固め、押し崩しを繰り返して微細化し、最後に押し固めることにより、圧粉体を作製する、という方法が好適である。
【0039】
以下、好適な実施形態についてさらに説明する。
本実施形態にかかる微細化工程では、図1に示したような装置を用いてCa含有マグネシウム合金チップと金属粉末との混合体を微細化し、最後に圧縮成形して圧粉体を得ることが好適である。図1の装置によれば、混合体が交差部を通過する際にほぼ全面領域で大きな剪断力、摩擦力を受けるので、Mg合金結晶粒及び金属粉末の微細化・分散化が均一に効率よく行われる。
【0040】
図1に示した装置10は、直方体形状の型12を備えており、型12には直線状の4つの成形穴14a,14b,14c,14dが形成されている。各成形穴14a〜14dは同一の断面形状(好ましくは同一径の断面円形)をなしており、型12の中心の交差部15にて放射状に連結されている。また、各成形穴14a〜14dは、この順序で周方向に90°の角度間隔をなして同一平面上(垂直面または水平面上)に配置されている。
【0041】
成形穴14a〜14dには、それぞれ各成形穴14a〜14dとほぼ等しい断面形状の押圧部材16a〜16d(第1〜第4の押圧部材)がスライド可能に挿入されており、各成形穴に沿って前進、後退するようになっている。これらの押圧部材16a〜16dの前進、後退は駆動手段18a〜18dによって行われる。駆動手段は油圧シリンダ等で構成される。また、制御手段20では各該駆動手段18a〜18dの圧力情報、位置センサからの情報等を基に、各駆動手段の制御を行う。
【0042】
まず、押圧部材16aを抜いた状態で混合体を成形穴14aに装填する。この際、図2(a)に示すように、押圧部材16b、16c、16dの前進方向(型の内部へ向う方向)側の端部は、交差部15に隣接する成形穴14b、14c、14dの奥端と一致する位置にある(以下、この位置を前進位置と呼ぶ)。各押圧部材16b、16c、16dは、駆動手段18b、18c、18dによって後退(型の外部へ向う方向)不能な状態で拘束され、実質的に固定された状態にある。そして、押圧部材16aを成形穴14aに挿入した後、以下のシーケンス制御を開始する。
【0043】
最初に押圧部材16aについて押し固め工程を実行する。押圧部材16aを駆動手段18aにより成形穴14a内部へ押し込む。すると他の押圧部材16b〜16dは固定されているので混合体は成形穴14b〜14dに向わずに成形穴14aにおいて押し固められ、円柱形状の塊になる。この塊は所定の強度を持っているが、比較的脆いものである。この押し固め状態は所定の加圧状態で短時間、例えば2秒程度維持される。
【0044】
次に押圧部材16aについて押し崩し工程を実行する。駆動手段18aにより押圧部材16aを更に高い圧力で押し込むと同時に、駆動手段18bにより押圧部材16bを後退可能にする。すると、図2(b)、(c)に示すように押圧部材16aは前進位置まで押し込まれ、混合体は成形穴14aから交差部15を経て成形穴14bへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16bは流れ込んだ混合体に押されて後退する。そして、押圧部材16aの前端が成形穴14a奥端に達したときに押し崩し工程が完了する。
【0045】
次に押圧部材16bについて上記同様の押し固め工程を実行する。つまり、図2(d)に示すように、押圧部材16a、16c、16dを前進位置で固定し、押圧部材16bを駆動手段18bにより内部へ押し込むことで、混合体を押し固める。
次に押圧部材16bについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16cを後退可能な状態(フリーな状態)にし、押圧部材16bを押し込む。すると、図2(e)、(f)に示すように押圧部材16bは前進位置まで押し込まれ、混合体は成形穴14bから交差部15を経て成形穴14cへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16cは流れ込んだ混合体に押されて後退する。
【0046】
同様に押圧部材16cについて押し固め工程を実行する。つまり、図2(g)に示すように押圧部材16a、16b、16dを前進位置で固定し、押圧部材16cを駆動手段18cにより型12内部へ押し込むことで、混合体を押し固める。
次に押圧部材16cについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16dを後退可能な状態(自由な状態)にし、押圧部材16cを押し込む。すると、図2(h)、(i)に示すように押圧部材16cは前進位置まで押し込まれ、混合体は成形穴14cから交差部15を経て成形穴14dへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16dは流れ込んだ混合体に押されて後退する。
【0047】
同様に押圧部材16dについて押し固め工程を実行する。つまり、図2(j)に示すように押圧部材16a、16b、16cを前進位置で固定し、押圧部材16dを駆動手段18dにより型12内部へ押し込むことで、混合体を押し固める。
次に押圧部材16dについて上記同様の押し崩し工程を実行する。つまり、押圧部材16aを後退可能な状態(自由な状態)にし、押圧部材16dを押し込む。すると、図2(k)、(l)に示すように押圧部材16dは前進位置まで押し込まれ、混合体は成形穴14dから交差部15を経て成形穴14aへと流動し、この過程で押し崩される。また、押圧部材16aは流れ込んだ混合体に押されて後退する。
【0048】
図2(a)〜(l)に示された工程を任意回数繰り返し行って、均一且つ十分に微細化・分散化した後、最後に押し固め工程を行うことで圧粉体を得る。
圧粉体形成のために加える圧力は、特に制限されるものではないが、例えば、250kg/cm〜400kg/cmとすることができる。
このように、出発原料である混合体は、押し固め工程により一旦押し固められた後で、押し崩し工程で交差部を通過する際にほぼ全断面領域で大きなせん断力、摩擦力を受けて押し崩されるため、Mg合金結晶粒及び金属粉末の微細化・分散化が均一に効率よく行われる。
【0049】
また、より均一な微細化、分散化を行うために、上記押し固め及び押し崩し工程の間に図3に示すような攪拌工程を行うことが好適である。
まず、図3(a)に示すように、押圧部材16cを前進位置で固定状態にし、押圧部材16b、dは後進可能なフリーの状態にする。この状態で押圧部材16aを押し込むと、図3(b)、(c)に示すように、混合体は成形穴14aから交差部15を経て成形穴14b、14dへ流れ込む。すると、押圧部材16bと16dは混合体に押されて後退する。
【0050】
押圧部材16aを前進位置にまで押し込んだ後、図3(d)に示すように押圧部材16aを固定状態、押圧部材16cをフリーな状態にし、押圧部材16bと16dを押し込む。すると、図3(e)、(f)に示すように成形穴14b、14dに存在した混合体は、成形穴14cに流れ込む。ここで、押圧部材14cは混合体に押されて後退する。
押圧部材14b、14dを図3(f)に示すようにその前進位置にまで押し込んだのち、図3(g)に示すように押圧部材16b、16dを固定状態、押圧部材16aをフリーの状態にする。そして、図3(h)、(i)に示すように押圧部材16cをその前進位置にまで押し込むと、混合体は成形穴14cから交差部15を経て成形穴14aに至り、押圧部材14aは混合体に押されて後退する。
【0051】
このような攪拌工程を上記押し固め及び押し崩し工程の間に設けることで、より効率よく微細化、分散化することができる。
上記実施形態では、型に成形穴を4つ設けた構成の装置における例を示したが、これに限定されず、成形穴を複数、例えば2〜6つ設けた構成の装置を用いてもよい。また、型を固定して押圧部材毎に駆動手段を設ける装置構成の場合を説明したが、駆動手段を一つにして型を回転させる構成の装置を用いてもよい。
【0052】
このような微細化工程の例として、例えば特開2005−248325号公報や前記特許文献2などを参照することができる。
【0053】
<(c)加熱塑性加工工程>
次に、上記で得られた混合分散体またはその圧粉体を、公知の装置を用いて加熱塑性加工を行う。加熱塑性加工を行うことで粒子同士が強固に密着・接合固化し、微細なマグネシウム合金結晶粒界に微細な金属粒子が分散したマグネシウム基複合材料が得られる。
【0054】
加熱塑性加工としては、例えば、押出し加工が好適である。この場合、押出し条件は、粒子同士の密着・接合固化が充分行われるように、適宜設定可能である。
例えば、押出し比は、通常2以上、さらには5以上、好ましくは10以上である。
また、押出し温度は、融点未満で設定可能であるが、押出し性などの点から、250〜500℃の範囲とすることが好ましい。
【0055】
また、微細化混合体又はその圧粉体は、押出しなどの加熱塑性加工することにより、結晶粒が微細化されたマグネシウム合金中に微細な金属粒子が分散した高強度マグネシウム基複合材料とすることができるので、塑性加工用材料として好適に利用可能である。
【0056】
<マグネシウム基複合材料>
本発明のマグネシウム基複合材料において、常温強度の点からは、マグネシウム合金の結晶粒は微細化されていることが好ましい。例えば、金属組織の顕微鏡写真から求めたマグネシウム合金の最大結晶粒径が20μm以下、さらには10μm以下であることが好適である。
【0057】
一方、マグネシウム合金の結晶粒が微細化していると高温では粒界すべりを生じやすくなり強度が低下するが、本発明においては、Ca含有マグネシウム合金の結晶粒界に極少量の金属粒子が分散しているだけであるにもかかわらず、Ca金属間化合物と相俟って高温での粒界すべりが効果的に抑制されて高い強度が発揮される。
マグネシウム基複合材料中において、金属組織の顕微鏡写真から求めた金属粒子の最大粒径は通常30μm以下、典型的には20μm以下であり、最小粒径としては通常1μm以上、典型的には3μm以上である。
【0058】
本発明においては、金属粒子の量が少ないために、金属粒子を用いなかった場合に比べて耐食性や室温での延性における低下がほとんどない。しかも、金属粒子の量が極少量であるにもかかわらず、高強度のマグネシウム基複合材料を得ることができる。例えば、従来のマグネシウム合金においては、20℃での引張強度が350MPa以上ものはほとんどないが、本発明によれば、20℃での引張強度が360MPa以上(好ましくは400MPa以上)、150℃での引張強度が220MPa以上(好ましくは230MPa以上)、20℃での0.2%耐力が300MPa以上(好ましくは340MPa以上)と高強度で、しかも20℃での伸びが5%以上(好ましくは8%以上)、150℃での伸びが25%以上(好ましくは30%以上)のマグネシウム基複合材料を得ることができる。
このように、本発明のマグネシウム基複合材料は、耐食性・延性と、高強度とのバランスに優れている。
【0059】
本発明のマグネシウム基複合材料は、市販されているCa含有マグネシウム合金と金属粉末を用いて、特許文献1や特許文献3〜4のような鋳造などの溶製法ではなく固相法で製造でき、目的とする合金組成のインゴット化やその粉末化が不要で、簡便である。
【0060】
本発明のマグネシウム基複合材料は常温〜高温での強度特性や延性のバランスに優れているので、これらの特性が要求される各種用途に好適に利用できる。例えば、これに限定されるものではないが、高温での強度特性が優れているので自動車のエンジン周り部品(ピストン、バルブリテーナー、バルブリフターなど)、また、常温強度も高いので、ねじ、工具部品、スポーツレジャー用品(釣具等)などに適用できる。
【実施例】
【0061】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本発明で用いた試験方法及び材料と試薬は次の通りである。
【0062】
(0.2%耐力、引張強さ)
JIS Z 2201「金属材料引張試験片」に基づき試験片として、平行部直径4mm、標点間距離25mmの形状(JIS 14A号試験片形状に準拠)に切り出したものを用いた。JIS Z 2241「金属材料引張試験方法」に基づき室温(約20℃)ならびに150℃で引張試験を行った。引張試験機は加熱炉付きオートグラフ万能試験機AG−10TB((株)島津製作所製、引張最大荷重100kN)を用い、試験機ストローク速度8.4mm/min(変位制御)で行った。なお、150℃での引張試験は、試験片をオートグラフ万能試験機にチャッキングしてから加熱炉で試験片を包み込み、試験片平行部近傍に、耐熱テープで熱電対を貼り、試験片が150℃になった後行った。
なお、0.2%耐力は上記引張試験方法に規定するオフセット法によって測定した。
【0063】
(X線回折)
X線回析図は、X線回折装置RAD−2Bシステム(理学電機(株)製)で角度 30°〜80°、サンプリング幅 0.020°、スキャン速度1°/min、線源CuKα、電圧40KV、電流値30mA で採取した。
【0064】
(組織観察)
レーザー顕微鏡VK−9500((株)キーエンス製)を用いた。
【0065】
(粒径)
粒径の測定には上記と同じ顕微鏡を用いた。平均結晶粒径は求積法により算出した。
ここで求積法では、結晶粒径を求める金属組織の顕微鏡写真の面積(測定面積A)内に完全に含まれる結晶粒の数(Z)と、写真の周辺で切断されている結晶粒の数(W)の半分との和を全結晶粒数(n)とし、結晶粒を正方形と考えて、平均結晶粒径(d)を次の式で表わす。式中、dは平均結晶粒径、nは全結晶粒数、Aは測定面積、Zは測定面積A内に完全に含まれる結晶粒数(白丸)、Wは周辺部の結晶粒数(黒丸)を表す。
【0066】
【数2】

【0067】
(SEM−EDX分析)
エネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡JSM−7001F(日本電子(株)製)により分析した。
【0068】
(耐食性)
試験片(Φ7mm×約10mm)を、3%食塩水に20℃で48時間浸漬した。浸漬前後の試験片の質量から、浸漬による減量割合を算出した。
【0069】
(材料)
Ca含有マグネシウム合金チップ:AMX602(JX金属商事(株)製)、粒度<6mm
Ca非含有マグネシウム合金チップ:AM60(JX金属商事(株)製)、粒度<2.5mm
Ti粉末:(株)高純度化学研究所製、 粒度<45μm 純度99.9%
Zr粉末:(株)ニラコ製、 粒度<40μm 純度 約96.5%
【0070】
製造例1 マグネシウム基複合材料の製造
マグネシウム合金チップと、金属粉末とを混合し、混合体を得た。該混合体を上記図1に示した装置によって微細化処理し圧粉体(ビレット)とした。微細化処理回数は、図2(a)〜(l)で示した微細化工程および図3(a)〜(i)の攪拌工程を合わせたものを4回と数え、処理回数200回で行った。
得られた圧粉体を450℃で予備加熱し、コンテナ及びダイス加熱温度450℃、押出し径7mm、押出し比28で押出し成形し、マグネシウム基複合材料からなる押出し材(丸棒)を得た。
上記製造例1に準じて各種マグネシウム基複合材料を製造し、試験を行った。
【0071】
試験例1 機械的特性
金属粉末量を変えてマグネシウム基複合材料を製造した。代表例として、金属粉末としてTi粉末を用いたマグネシウム基複合材料の機械的特性を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1の試料7〜10のように、Caを含まないマグネシウム合金(AM60)を母材とした場合には、金属粉末を用いることによって20℃引張強度や0.2%耐力は向上するものの、1vol%以上添加してもそれ以上の向上はほとんど得られず、金属粉末添加量が5vol%でも20℃温引張強度は400MPa未満、0.2%耐力は340MPa未満であった。また、金属粉末添加量が多くなると、20℃伸びは著しく低下した。
【0074】
これに対して、表1の試料2〜5のように、Ca含有マグネシウム合金(AMX602)を原料とした場合、1vol%以下、例えば0.4vol%の極微量の金属粉末の添加でも20℃引張強度が400MPa以上、0.2%耐力が340MPa以上の複合材料を得ることができた。また、150℃の高温引張強度においても230MPa以上の高い値が得られた。
【0075】
図4は、母材としてCa含有マグネシウム合金(AMX602)又はCa非含有マグネシウム合金(AM60)、金属粉末としてTi粉末を0〜3vol%用いて製造したマグネシウム基複合材料(押出し材)の、20℃での引張強度、0.2%耐力及び伸びについて示した結果である(n=1〜3)。
【0076】
図4のように、Caを含有しないマグネシウム合金を用いた場合には、Ti粉末の増量に伴って引張強度や0.2%耐力は向上するものの、いくら増量しても引張強度400MPa以上、0.2%耐力340MPa以上のものは得られない。また、Ti粉末の増量に伴って、伸びは著しく低下する。
【0077】
これに対して、Ca含有マグネシウム合金を用いた場合には、Ca非含有マグネシウム合金を用いた場合に比べて、同じTi粉末量でも引張強度や0.2%耐力が顕著に高くなり、一定の強度特性をより少ないTi粉末量で得ることができる。
【0078】
このように、本発明によれば、Ca含有マグネシウム合金を母材として用いることにより、Caを含有しないマグネシウム合金を用いた場合に比べて、極少量の金属粉末で常温〜高温の引張強度や耐力を著しく向上することができる。また、金属粉末の使用量が極少量であるため、室温での伸びの低下はほとんどなく、150℃での伸びも25%以上で、室温〜高温で高い強度と伸びとを兼ね備えることができる。
【0079】
試験例2 耐食性
表2に試料3、試料5、及び試料8の塩水に対する耐食性試験の結果を示す。
表2のように、金属粉末の添加量が多くなると耐食性が著しく低下してしまう。よって、耐食性の低下を抑制するには金属粉末の添加量を低減することが必要であることが理解される。
【0080】
【表2】

【0081】
試験例3 組織観察
図5〜6は各種のマグネシウム基複合材料について押し出し方向の組織を観察した結果である。図5の(a)、(b)及び(c)はそれぞれ試料1(AMX602のみ)、試料3(AMX602+0.4vol%Ti)、及び試料5(AMX602+1vol%Ti)のマグネシウム基複合材料、図6(a)及び(b)はそれぞれ試料6(AM60のみ)、及び試料8(AM60+1vol%Ti)のマグネシウム基複合材料である。
図5(b)〜(c)、及び図6(b)では、10μm以下にまで微細化されたマグネシウム合金の結晶粒界に微細な粒子が分散している。これは金属粉末粒子と考えられる。
【0082】
図5〜6のマグネシウム基複合材料は何れも同じ製造工程により製造されたものであるにもかかわらず、図5(b)〜(c)及び図6(b)の金属粉末を用いたマグネシウム基複合材料では、図5(a)及び図6(a)の金属粉末を用いなかったマグネシウム基複合材料に比べて、それぞれマグネシウム合金の結晶粒が微細になっていることがわかる。これは、加熱塑性加工工程におけるマグネシウム合金の結晶粒の粗大化が金属粒子の存在により抑制されたためと考えられる。
また、図5(a)[AMX602のみ]と図6(a)[AM60のみ]との比較、図5(c)[AMX602+1vol%Ti]と、図6(b)[AM60+1vol%Ti]との比較から、Ca含有マグネシウム合金を用いた場合の方が、Ca非含有マグネシウム合金を用いた場合に比べて、マグネシウム合金の結晶粒が微細であることがわかる。
【0083】
下記表3に試料1、5、6及び8のマグネシウム合金複合材料の平均結晶粒径を示す。
試料1(AM60)と試料6(AMX602)とを比較すると、Ti粉末を用いずともCa含有マグネシウム合金を用いることで平均結晶粒径が約0.52倍小さくなることがわかる。
また、試料6(AM60)と試料8(AM60+1vol%Ti)とを比較すると、Ca非含有マグネシウム合金でもTi粉末を用いることで平均結晶粒径が約0.4倍小さくなることがわかる。
【0084】
これに対して、試料6(AM60)と試料5(AMX602+1vol%Ti)との比較からわかるように、Ca含有マグネシウム合金にTi粉末を用いた場合には、平均結晶粒径が約0.19倍にまで小さくなり、Ca含有マグネシウム合金のみによる微細化効果、Ti粉末のみによる微細化効果に比べて、相乗的に向上した微細化効果が得られることが理解される。そして、このような相乗的効果が、極少量の金属粉末で常温〜高温の引張強度や耐力を顕著に向上できるという本発明の効果に寄与しているものと考えられた。
【0085】
【表3】

【0086】
試験例4 SEM−EDX分析
図7(a)及び(b)は、それぞれ試料3(AMX602+0.4vol%Ti)及び試料5(AMX602+1vol%Ti)のSEM−EDX分析結果である。なお、図7(a)及び(b)にはSEM写真も併せて示し、SEM−EDXの反射電子像図−Ti分布図で観察された粒子を囲み線で表示した。
図7から、Ti粒子がマグネシウム合金の結晶粒界に単独で単独で存在していることがわかる。
【0087】
試験例5 X線回折
図8(a)及び(b)はそれぞれ試料1(AMX602)及び試料5(AMX602+1vol%Ti)のXRDである。図8からわかるように、Ti粉末を用いて製造した試料5のマグネシウム基複合材料では、Tiのピークは観察されたもののTiの化合物は全く検出されなかった。このことからも、Ti粉末はマグネシウム合金の結晶粒界の分散していることが支持された。
【0088】
試験例6 金属粉末
Tiの結晶構造は六方稠密充填構造であり、他の結晶構造に比べてすべり面が少ない。そこで、Ti以外の六方稠密充填構造金属の粉末を用いて同様にマグネシウム基複合材料を製造し、評価を行った。代表例として、Zr粉末を用いたマグネシウム基複合材料(試料11)の機械的特性を下記表4に示す。
表4から、六方稠密充填構造の結晶構造を持つ金属を用れば、極少量の添加量で耐食性や室温での伸びの低下を抑制しながら、常温〜高温での強度を高めることができることが理解される。
【0089】
【表4】

【0090】
図9は試料11の押し出し方向の組織観察結果、図10は試料11のSEM−EDX分析結果及びSEM写真である。SEM写真中には、SEM−EDXの反射電子像図−Zr分布図で観察された部分(Zr粒子)を囲み線で表示した。
図9〜10のように、金属粉末としてZr粉末を用いたマグネシウム基複合材料においてもマグネシウム合金の結晶粒は1〜10μmにまで微細化され、その結晶粒界には微細なZr粒子が分散していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Caを含有するマグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界に金属粒子が分散しており、Ca含有マグネシウム合金の最大結晶粒径が20μm以下であり、金属粒子の最大粒径が30μm以下であり、金属粒子が複合材料中0.1〜1vol%であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項2】
請求項1記載の複合材料において、CaがCa含有マグネシウム合金中1〜5質量%であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の複合材料において、Ca含有マグネシウム合金がさらにAlを含むことを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の複合材料において、金属粒子が六方稠密充填構造の金属であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の複合材料において、金属粒子がTiであることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の複合材料において、複合材料の20℃での引張強度が360MPa以上、150℃での引張強度が220MPa以上、20℃での0.2%耐力が300MPa以上、20℃で伸びが5%以上であることを特徴とするマグネシウム基複合材料。
【請求項7】
母材となるCa含有マグネシウム合金の粉末と、金属粒子となる金属粉末とを機械的に均一に混合する工程と、
前記工程で得られたCa含有マグネシウム合金粉末と金属粉末の混合体を固相状態で機械的に微細化する工程と、
この微細化混合体又はその圧粉体を融点未満で加熱塑性加工することにより、Caを含有するマグネシウム合金を母材として、該マグネシウム合金の結晶粒界に金属粒子が分散し、Ca含有マグネシウム合金の最大結晶粒径が20μm以下であり、金属粒子の最大粒径が30μm以下であるマグネシウム基複合材料を得る工程と、
を備えることを特徴とするマグネシウム基複合材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−1987(P2013−1987A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137031(P2011−137031)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】