説明

マグネシウム空気電池

【課題】容易に入手することの出来る原料にて構成されるマグネシウム空気電池において、低〜中出力で安定的に長期間の電流の取出しが可能なものを提供すること。
【解決手段】一方の板面及び全ての端面を覆うように密着させた導電性金属層(20)とその上に形成された絶縁性樹脂層(22)とからなる複合集電層(14)を有するMg合金板(12)の2枚を、板面が鉛直方向となるように位置せしめ、且つ該複合集電層(14)を相対向させた形態において重ね合わせて、各Mg合金板(12)における導電性金属層(20)に負極端子(26)を取り付ける一方、かかる重ね合わせ物の周囲に電解質液保持シート(16)を巻き付け、更に、該電解質液保持シート(16)の外周に炭素繊維シート(18)を巻き付けると共に、該炭素繊維シート(18)に正極端子(30)を取り付けて、マグネシウム空気電池を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム空気電池に係り、特に、負極としてマグネシウム(Mg)合金板を用いる一方、正極を空気極として、空気中の酸素を酸化剤に用いて放電するようにした構造の空気電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムを中心とした高電圧、高容量の電池の開発が進められているが、その主原料であるリチウムは、地殻存在度が20ppmと、希少金属の部類に属しており、そのために高価であって、電池のコストを高める大きな要因となっている他、今後の開発状況の如何によっては、枯渇する恐れもあることが指摘されている。
【0003】
このため、従来から提案され、また実用化されている各種の電池についても、その見直しが行なわれ、それぞれの特徴を更に高め得るようにする検討が進められつつある。
【0004】
そこにおいて、そのような従来から知られている電池の一つである空気電池は、空気中の酸素を酸化剤として、放電反応の際に電子を放出する物質(還元剤)のみを電池内に収納した構造を呈しており、放電にあたっては、酸素の還元と還元剤の酸化反応によって、電子の移動を行なわしめて、外部に電流を取り出すようにしたものであって、例えば、特許第3523506号公報や特開2009−93983号公報等に明らかにされている如く、その構造によって、ボタン型と称されるものや、ボックス型と称されるものが、知られている。
【0005】
そして、かかる空気電池では、正極として採用される空気極が、カーボンや炭素繊維等の材質にて構成される一方、負極としては、Zn、Al、Mgやその合金からなる金属電極が用いられて、電池としての使用時に空気(酸素)が供給されたり、或いは、電解液が注入されるようにしたものであるところから、材質的に地殻存在度の高い原料を用いることが出来ることによって、安価な電池を実現することが出来るという特徴を有している。しかしながら、この空気電池にも、先に指摘せる如く、その電池特性の向上が求められており、また、電流を安定して長期間に亘って取り出すことが出来、更には、その製造も容易に行ない得るものであることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3523506号公報
【特許文献2】特開2009−93983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、容易に入手することの出来る原料にて構成されるマグネシウム空気電池において、低、中出力で長期間の電流の取出しが可能なものを提供することにあり、また、安定して電流の取出しが可能な電池構造を提供することをも、その課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そして、本発明にあっては、上記した課題又は明細書全体の記載や図面から把握される課題を解決するために、以下に列挙せる如き各種の態様において、好適に実施され得るものであるが、また、以下に記載の各態様は、任意の組合せにおいても、採用可能である。なお、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに何等限定されることなく、明細書全体の記載並びに図面に開示の発明思想に基づいて、認識され得るものであることが、理解されるべきである。
【0009】
(1) 一方の板面及び全ての端面を覆うように密着させた導電性金属層とその上に形成された絶縁性樹脂層とからなる複合集電層を有するMg合金板の2枚を用い、それらを、板面が鉛直方向となるように位置せしめ、且つ該複合集電層が設けられた前記一方の板面を相対向させた形態において重ね合わせて、各Mg合金板における複合集電層の導電性金属層に負極端子を取り付ける一方、かかる重ね合わせ物の周囲に、電解質液が保持せしめられる電解質液保持シートを巻き付けて、前記Mg合金板の前記複合電極層が設けられていない他方の板面に対して電解質液を供給し得るように構成し、更に、該電解質液保持シートの外周に炭素繊維シートを巻き付けて、前記電解質液保持シートに保持されている電解質液に接触せしめられるように構成すると共に、該炭素繊維シートに正極端子を取り付けたことを特徴とするマグネシウム空気電池。
(2) 前記Mg合金板の上端部において、前記複合集電層が、前記一方の板面側から連続的に前記他方の板面側に回り込むようにして、且つ該他方の板面において該Mg合金板の上端から下方に所定長さ垂下するようにして、配設されると共に、その垂下部分の上に、前記巻き付けられた電解質液保持シートの上端が位置するように構成されている前記態様(1)に記載のマグネシウム空気電池。
(3) 前記複合集電層が、導電性金属箔と樹脂フィルムとからなる複合シートにて構成されている前記態様(1)又は(2)に記載のマグネシウム空気電池。
(4) 前記導電性金属箔が、銅箔である前記態様(3)に記載のマグネシウム空気電池。
(5) 前記電解質液保持シートが、吸水性のセルロース繊維シートである前記態様(1)乃至(4)の何れか一つに記載のマグネシウム空気電池。
(6) 前記炭素繊維シートが、炭素化繊維編織物である前記態様(1)乃至(5)の何れか一つに記載のマグネシウム空気電池。
(7) 前記巻き付けられた炭素繊維シートの外面を前記Mg合金板の板面に対して押圧する絶縁性の補強板が、更に設けられている前記態様(1)乃至(6)の何れか一つに記載のマグネシウム空気電池。
【発明の効果】
【0010】
このような本発明に従うマグネシウム空気電池においては、負極となるMg合金板の5つの面、即ち、1つの板面と4つの端面が複合集電層にて覆われ、残りの1つの板面のみが負極反応にて消耗されるようになっていると共に、そのような構成のMg合金板の2枚が、その複合集電層を相対向させてなる背中合わせの形態において、重ね合わされて、鉛直方向に位置せしめられていることにより、それら2枚のMg合金板の複合集電層の設けられていない板面において、負極反応が効果的に進行せしめられ得て、電流集中を起こすことなく、2枚のMg合金板の消耗が均一に為され得るようになり、以て、安定した放電を行ない、低〜中出力において、安定的に長期間の電流の取出しが可能となったのである。例えば、1.0〜1.4Vの電圧で、0.6mAの電流を2200時間或いはそれ以上の長期間に亘って取り出し得るのである。
【0011】
しかも、かかる本発明に従うマグネシウム空気電池にあっては、主原料として、容易に入手し得るMg合金板や炭素繊維シートを用い、それらの間に電解質液を供給して、放電を行なわしめるものであるところから、資源枯渇の恐れを全く顧慮することなく、且つ、安価に入手することが可能である利点を発揮する他、電池構造においても、単に、Mg合金板を中心にして、その周りに電解質液保持シートを巻き付け、更に、その上に炭素繊維シートを巻き付けて構成するだけで良いものであるところから、構造上においても簡略化され、その製造が容易となる特徴を有しているのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に従うマグネシウム空気電池の一例を示す分解斜視図である。
【図2】図1に示されるマグネシウム空気電池の組み立てた状態における鉛直方向の断面説明図である。
【図3】図1及び図2に示されるマグネシウム空気電池に用いられているMg合金板の断面説明図であって、(a)は、図2に示される断面における拡大説明図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面の説明図である。
【図4】本発明に従うマグネシウム空気電池の一例について、定抵抗試験を行なって得られた出力電圧と放電時間の関係を示すグラフである。
【図5】図1及び図2に示されるマグネシウム空気電池を補強板にて補強してなる形態を示す斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の代表的な実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0014】
先ず、図1に示される、本発明に従うマグネシウム空気電池の一例に係る分解斜視図において、10は、Mg合金板12とその表面に設けられた複合集電層14からなる負極板である。そして、この負極板10の2枚が重ね合わされて、その上に、吸水性のセルロース繊維シート等からなる電解質液保持シート16が巻き付けられ、更にその上に、負極となる炭素繊維シート18が巻き付けられて、図2に示される如き積層構造の空気電池とされているのである。なお、図2は、鉛直方向で且つMg合金板12の板面に垂直な方向の電池断面形態を示しており、この図2における上下が、鉛直方向における上下に対応することとなる。
【0015】
ここにおいて、かかる電池構造における負極の主体となるMg合金板12は、負極活物質を提供するものであって、公知の各種のMg合金材質のものを用いることが可能であるが、一般に、AlやZn等を合金成分とするMg合金、例えば、ASTM規格のAZ31、AZ61、AZ71等の材質のものが、好適に用いられることとなる。そして、そのようなMg合金板12には、図3(a)及び(b)に示される如く、その6つの面のうち、1つの板面(主面)を除き、残りの5つの面、即ち他の1つの板面(主面)と上下左右の4つの端面の面上に、複合集電層14が密着して設けられているのである。
【0016】
ところで、上記の複合集電層14は、導電性金属層としての銅箔20と、絶縁性樹脂層としての樹脂フィルム22とから構成され、銅箔20側において、Mg合金板12に対して、導電性アクリル系接着剤等の適当な導電性接着剤を用いて、密着固定せしめられている。また、ここでは、かかる複合集電層14は、Mg合金板12の上端面を回り込むようにして、一方の板面側から他方の板面側に延び、更に他方の板面側において、かかる上端面から下方に所定長さ垂下するようにして、Mg合金板12の上端部に密着せしめられて配設されており、これによって、Mg合金板12の上端部を所定長さにおいて覆う複合集電層14からなる垂下覆蓋部24が設けられている一方、そのような複合集電層14にて覆われていないMg合金板12の露呈された面12aが、放電による電極反応にて消耗される消耗面とされている。なお、かかる複合集電層14の銅箔20に対しては、負極板10の上部に位置する部位において、図2に示される如く、負極端子26が溶接等によって取り付けられている。
【0017】
そして、かくの如き構成の負極板10は、図1や図2に示される如く、その板面が鉛直方向となるように位置せしめられた状態において、その2枚が、複合集電層14の設けられている板面を相対向させた形態において重ね合わされ、その後、その重ね合わせ物の周囲に、電解質液が含浸され、また吸水せしめられる電解質液保持シート16、例えば、公知の吸水性のセルロース繊維シートが巻き付けられ、ここでは、そのような電解質液保持シート16が、Mg合金板12の露呈面12a上において二重となる形態において、2枚の負極板10,10の重ね合わせ物を取り囲み、覆うような形態とされている。
【0018】
しかも、かかる電解質液保持シート16は、図2から明らかな如く、その上端が負極板10における垂下覆蓋部24上に位置するように、かかる垂下覆蓋部24に対して、電解質液保持シート16の上部が重なり合うようにして配置されている一方、負極板10の下端から下方に延び出すようにして、スカート部28が設けられており、このスカート部28を介して、それが浸漬され或いは接触せしめられることによって、供給される所定の電解質液が、上方に吸い上げられて、それぞれの負極板10,10におけるMg合金板12の露出面12aに対して、電解質液が供給されるようになっている。なお、かかる電解質液の供給は、また、適当なチューブやパイプ等を通じて、巻き付けた電解質液保持シート16の上端部から、注入方式にて供給するようにすることも可能であり、それによって、Mg合金板12の露出面12aに対して、電解質液を有効に供給することが出来る。
【0019】
また、炭素繊維シート18が、上述の如くして巻き付けられた電解質液保持シート16の上に、更に巻き付けられて、重ね合わされた2枚の負極板10,10と、それら巻き付けられた電解質液保持シート16及び炭素繊維シート18との一体的な組付け体として、構成されている。なお、かかる炭素繊維シート18も、ここでは、負極板10におけるMg合金板12の露呈面12aの存在部位には、二重に重ね合わされるように巻き付けられて配されており、また、その上下方向の長さとしては、かかる露呈面12aの上下方向の長さ以上とされて、かかる炭素繊維シート18にて、Mg合金板12の露呈面12aを充分に覆蓋し得るような構造とされている。
【0020】
ここで、この炭素繊維シート18は、正極側活物質として機能して、空気極を構成するものである。即ち、炭素繊維シート18は、通気性を有し、電解質液保持シート16に保持されている電解質液を介して、負極板10におけるMg合金板12の露呈面12aとの間において電気的に接続され、空気中の酸素により、後述の如き正極反応を惹起せしめて、放電するものであり、そのために、かかる炭素繊維シート18には、図2に示される如く、正極端子30が取り付けられて、所定の電流が取り出されるようになっているのである。
【0021】
なお、かかる炭素繊維シート18としては、導電性のある炭素繊維からなる、通気性を有する公知のシートが、適宜に用いられることとなるが、有利には、特開2008−169490号公報や特開2007−180003号公報等に明らかにされている如き、炭素化布帛乃至は導電体、具体的には、セルロース系繊維の糸からなる織物や編物を原料として、これを加熱、炭素化して得られる炭素化繊維編織物が好適に用いられ、例えば、市場で入手し得る炭素素材:「わし炭」(新日本テックス株式会社製品)等を利用することが出来る。
【0022】
そして、かくの如き構造のマグネシウム空気電池において、その電解質液保持シート16に対して、所定の電解質液が供給されて、負極板10(具体的には、Mg合金板12の露呈面12a)に電解質液が接触するようになると、かかる露呈面12aにおいて、負極電極反応:Mg→Mg2++2e- が惹起されて、電子が放出されることに伴ない、Mg合金板12の露呈面12aの消耗が進行せしめられるようになる。一方、正極側となる炭素繊維シート18においては、導電性である炭素繊維の表面に、空気中の酸素と共に、電解質液保持シート16から与えられる電解質液とが接触させられることにより、正極電極反応:O2 +2H2O+4e-→4OH- が進行せしめられることとなるのであり、これによって、負極端子26と正極端子30との間において、放電(出力)が行なわれ得るようになるのである。なお、電極における全反応としては、Mg+1/2O2+H2O→Mg(OH)2 となるのである。そして、このような電極反応に基づくところの理論起電力は、2.70Vとなるが、実際の回路電圧は、大略1.45Vであり、また、実際の作動電圧は、1.0V〜1.4V程度となって、小〜中電流値での出力が効果的に実現され得ることとなるのである。
【0023】
ところで、かかるマグネシウム空気電池にあっては、2枚の負極板10,10が用いられると共に、それぞれの負極板10を構成するMg合金板12の一方の板面、即ち、その露呈面12aのみにおいて、電極反応が進行せしめられて、消耗される一方、残余の面(他方の板面及び上下左右の端面)が複合集電層14にて覆われ、その外表面が絶縁性樹脂層22にて構成されて、負極電極反応が惹起されないようになっているところから、Mg合金板12において、電流集中が惹起され難く、従って、Mg合金の不均一乃至は偏倚した消耗が惹起され難く、Mg合金板12の露呈面12aにおいてのみ消耗が進行することとなるところから、長期間に亘って安定した出力が発揮され得ることとなるのである。
【0024】
なお、そのような2枚の負極板10,10の使用に代えて、それを構成するMg合金板12の厚さの2倍の厚さを有するMg合金板の1枚を用い、その両側の板面を電解質液に接触させて、その両側の板面や端面において負極電極反応を進行せしめると、電極反応で生じたMg(OH)2 が、Mg合金板の消耗面に析出して、電極反応の進行が妨げられるようになることにより、電極としての寿命が短くなり、ひいては、電池寿命を低下せしめていることが、本発明者等の検討によって明らかとなっている。
【0025】
また、ここに例示の実施形態においては、Mg合金板12の外側となる板面の上部が、複合集電層14からなる垂下覆蓋部24にて覆われ、そして、この垂下覆蓋部24と重なるようにして、電解質液保持シート16が巻き付けられて、Mg合金板12の露呈面12aを覆う構造とされているところから、かかる電解質液保持シート16の上端部位において惹起され易い電流集中も、効果的に回避乃至は抑制され得ることとなるのであり、これによって、Mg合金板12の偏倚した消耗が効果的に回避され得て、電池寿命の向上に有利に寄与しているのである。
【0026】
加えて、かくの如き構成のマグネシウム空気電池にあっては、2枚の負極板10,10を重ね合わせ、そしてその周囲に、電解質液保持シート16と炭素繊維シート18とを、順次巻き付けるだけで、目的とする電池構造が実現され得ることとなるところから、その製造が容易であることに加えて、用いられる原材料も、クラーク数の大きな、容易に入手可能なものであるところから、資源枯渇の問題もなく、その製造コストを安価とすることが出来る利点を有している。
【0027】
ここにおいて、本発明に従うマグネシウム空気電池の電池性能を確認すべく、上記した構造のマグネシウム空気電池を用い、その両端子26,30間にシャント抵抗(40Ω、120Ω又は2.2kΩ)を配して、定抵抗放電を行なった。そして、終止電圧を0.9Vとしたときの出力電圧と放電時間との関係を求め、その結果が、図4に示されている。
【0028】
なお、ここで用いられたMg合金板12は、縦:110mm、横:35mm、厚さ:3mmの寸法を有し、また複合集電層14を構成する銅箔20の厚さは、約40μmであり、そして、かかる銅箔20の上に、電気絶縁性の塩ビ粘着テープを貼布して、その全面を覆うようにして、絶縁性樹脂層(22)を構成した。そして、その複合電極層14の垂下覆蓋部24の長さは、7〜8mmとされた。また、電解質液としては、15%NaCl水溶液を用い、それを収容した容器乃至は袋内に、電解質液保持シート16のスカート部28を浸漬して、NaCl水溶液を吸い上げさせて、負極板10におけるMg合金板12の露呈面12aと、炭素繊維シート18との間に介在させることによって、電極反応を進行せしめた。
【0029】
かかる図4に示される結果から明らかな如く、シャント抵抗が40Ωの場合には、放電時間が360時間、120Ωの場合には805時間となるのに対して、2.2kΩの場合には、1800時間以上となり、特に、小〜中電流値において、1ヶ月〜3ヶ月の長期使用が可能であることが、明らかとなった。
【0030】
以上、本発明の代表的な実施形態について詳述してきたが、それは、あくまでも、例示に過ぎないものであって、本発明が、そのような例示の実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
【0031】
例えば、負極板10を構成するMg合金板12は、適宜の寸法において用いられることとなるが、特に、負極電極反応によって効果的に消耗せしめられる厚さとして、1mm〜4mm程度が、有利に採用されることとなる。
【0032】
また、複合集電層14を構成する導電性金属層としては、例示の銅箔20に限定されるものでは決してなく、他の公知の導電性の金属箔、更には、公知の導電性金属シートであっても何等差し支えなく、その厚さも、適宜に選定されるところであるが、一般に、10〜100μm程度の厚さにおいて、用いられることとなる。そして、そのような導電性金属層(20)は、適当な導電性接着剤を用いて、Mg合金板12の被覆すべき5つの面に対して、接着固定することにより、密着せしめられると共に、その接着側の面とは反対側の外側の面上には、絶縁性樹脂層22が、適宜の厚さにおいて設けられて、導電性金属層(20)が、外部から電気的に絶縁されるようになっている。
【0033】
なお、そのような絶縁性樹脂層(22)は、各種の形態において、導電性金属層(20)の一方の表面を覆うようにして、一体的に形成され、例えば、適宜の厚さの樹脂フィルムや樹脂シートが接着固定せしめられることにより、或いは、絶縁性の接着テープを、導電性金属層(20)の上に全面に亘って貼付せしめることによって、目的とする電気絶縁性の樹脂層(22)が形成されることとなる。
【0034】
さらに、電解質液保持シート16や炭素繊維シート18の巻付け形態にあっても、例示の如く、Mg合金板12の露呈面12a上において二重となるような形態で巻き付けられる他、それらシート16,18の厚さに応じて、その巻付け回数を1回、或いは3回、若しくはそれ以上とすることも可能である。
【0035】
更にまた、本発明に従うマグネシウム空気電池においては、負極板10を構成するMg合金板が、負極活物質として、放電の進行に伴なって消耗することによって、電池形状が崩れる恐れがあるところから、例えば、図5に示される如く、適当な厚さの樹脂板等からなる電気絶縁性の補強板32の2枚を用い、巻き付けられた炭素繊維シート18の外面を両側から挟んで、Mg合金板12の板面に対して押圧するように、締結バンド34を用いて固定せしめる構造が、有利に採用される。このような補強板32により電池構造(形状)を保持することによって、電池特性をより有利に確保することが出来るのである。なお、この補強板32は、その1枚のみを用い、炭素繊維シート18の一方の外面に押し当てて、締結バンド34にて固定せしめるようにした構造も、同様に採用することが可能である。
【0036】
加えて、電解質液としては、NaClの水溶液の他、公知の各種の塩又はアルカリの水系電解質溶液が適宜に用いられることとなる。
【0037】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、そして、そのような実施の態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、何れも、本発明の範疇に属するものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0038】
10 負極板 12 Mg合金板
14 複合集電層 16 電解質液保持シート
18 炭素繊維シート 20 導電性金属層
22 絶縁性樹脂層 24 垂下覆蓋部
26 負極端子 28 スカート部
30 正極端子 32 補強板
34 締結バンド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の板面及び全ての端面を覆うように密着させた導電性金属層とその上に形成された絶縁性樹脂層とからなる複合集電層を有するMg合金板の2枚を用い、それらを、板面が鉛直方向となるように位置せしめ、且つ該複合集電層が設けられた前記一方の板面を相対向させた形態において重ね合わせて、各Mg合金板における複合集電層の導電性金属層に負極端子を取り付ける一方、かかる重ね合わせ物の周囲に、電解質液が保持せしめられる電解質液保持シートを巻き付けて、前記Mg合金板の前記複合電極層が設けられていない他方の板面に対して電解質液を供給し得るように構成し、更に、該電解質液保持シートの外周に炭素繊維シートを巻き付けて、前記電解質液保持シートに保持されている電解質液に接触せしめられるように構成すると共に、該炭素繊維シートに正極端子を取り付けたことを特徴とするマグネシウム空気電池。
【請求項2】
前記Mg合金板の上端部において、前記複合集電層が、前記一方の板面側から連続的に前記他方の板面側に回り込むようにして、且つ該他方の板面において該Mg合金板の上端から下方に所定長さ垂下するようにして、配設されると共に、その垂下部分の上に、前記巻き付けられた電解質液保持シートの上端が位置するように構成されている請求項1に記載のマグネシウム空気電池。
【請求項3】
前記複合集電層が、導電性金属箔と樹脂フィルムとからなる複合シートにて構成されている請求項1又は請求項2に記載のマグネシウム空気電池。
【請求項4】
前記導電性金属箔が、銅箔である請求項3に記載のマグネシウム空気電池。
【請求項5】
前記電解質液保持シートが、吸水性のセルロース繊維シートである請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載のマグネシウム空気電池。
【請求項6】
前記炭素繊維シートが、炭素化繊維編織物である請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載のマグネシウム空気電池。
【請求項7】
前記巻き付けられた炭素繊維シートの外面を前記Mg合金板の板面に対して押圧する絶縁性の補強板が、更に設けられている請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載のマグネシウム空気電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−181382(P2011−181382A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45325(P2010−45325)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(304011681)
【出願人】(598011503)新日本テックス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】