説明

マグネシウム系パイプの曲げ加工方法

【課題】マグネシウム材は常温での塑性加工性が劣ることが知られているため、パイプに成形してそのパイプを曲げようとすると予め焼純したり温間で行ったりすることになるだろうと予想されるが、マグネシウム材は酸化し易いため、パイプの用途によっては上記のような熱処理を施すことは好ましくない場合がある。
【解決手段】マグネシウム材で構成されたパイプ1は、曲がり部位には外側パイプ3に内側パイプ5が挿入された二重パイプ構造にしておく。この内側パイプ5は楕円状になって、その長軸方向の外面が外側パイプ3の内面と圧接している。このパイプ1を回転引き曲げタイプの装置にかけて曲げ加工する。このとき、曲げ内側部にその一方の圧接側がくるように位置調整して曲げ加工する。この方法によれば、マグネシウム材で成形したパイプをある程度の曲げ半径までは熱処理無く曲げ加工できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量性で着目されているマグネシウム系パイプの曲げ加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイプはフレームや配管として従来から汎用されており、その用途や設置場所に応じて曲げられて用いられる場合がある。
ところで、マグネシウムは従来から軽量性が評価されていたが、最近では、マグネシウム単体、マグネシウム合金と言ったマグネシウム材が入手し易くなってきたこともあり、従来の素材、例えば鋼材やアルミニウム材に代えての活用が期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
而して、マグネシウム材は常温での塑性加工性が劣ることが知られているため、パイプに成形してそのパイプを曲げようとすると予め焼純したり温間で行ったりすることになるだろうと予想される。
しかしながら、マグネシウム材は酸化し易いため、パイプの用途によっては上記のような熱処理を施すことは好ましくない場合がある。
【0004】
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、マグネシウム材で成形したパイプをある程度の曲げ半径までは熱処理無く曲げ加工できる、曲げ加工方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、マグネシウム材で構成されたパイプ内に複数の芯金片が揺動可能に連結されて一列を為す芯金群を挿入しておき、パイプを回転型と前記回転型と共に回転可能な締付型とで挟持した状態で、前記回転型を回転させてパイプを引き曲げすることを特徴とするマグネシウム系パイプの曲げ加工方法である。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載したマグネシウム系パイプの曲げ加工方法において、内側パイプを挿入した二重パイプの部位を曲げ加工することを特徴とする曲げ加工方法である。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載したマグネシウム系パイプの曲げ加工方法において、内側パイプは楕円状になって、その長軸方向の外面が外側パイプの内面と圧接しており、曲げ内側部にその圧接側がくるように位置調整して曲げ加工することを特徴とする曲げ加工方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の曲げ加工方法によれば、マグネシウム材で成形したパイプをある程度の曲げ半径までは熱処理すること無く曲げ加工できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】被加工物であるマグネシウム材のパイプの斜視図である。
【図2】図1のマグネシウム材のパイプの断面図である。
【図3】曲げ加工方法に用いる装置の模式的概略図である。
【図4】マグネシウム材のパイプの曲げ加工後の状態を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、被加工物を、図1に示すマグネシウム材のパイプ1とする。マグネシウム材はマグネシウム単体でもよいが、通常はマグネシウムを主として含むマグネシウム系合金である。押し出し成形によりパイプに成形されている。このパイプは焼鈍等の熱処理は施されておらず、押し出されたままの状態となっている。
【0011】
パイプ1は部分的には二重パイプ構造となっており、外側パイプ3の内側に内側パイプ5が圧入されている。外側パイプ3は、管厚が一定で断面真円状を為している。内側パイプ5は、真円状のパイプに成形された後に僅かであるが押し曲げられており、管厚が一定であるが、断面楕円状を為している。
外側パイプ3に内側パイプ5が圧入されており、図2に示すように、内側パイプ5の長軸方向の対向する2つの部位側の外面が、外側パイプ3の内面に圧接して圧接部位6となっており、短軸方向の対向する2つの部位側の外面は、外側パイプ3の内面からは隙間をあけて離間している。設計例としては、外側パイプ3の外径が22mm、管厚が2mmで、楕円にする前の内側パイプ5の外径が17mm、管厚が1.5mm程度の場合には、その間隔は両側合わせて1.2〜1.4mm程度が一例として挙げられる。なお、曲げ加工後には、内側パイプ5が広がってその外周全てが外側パイプ3の内周にくっつく。
【0012】
パイプ1では、上記構成により、内側パイプ5が外側パイプ3内の所定箇所に位置決めされている。そのため、曲げ加工部だけを二重パイプ構造とでき、結果的に、全体としての軽量化を損なわずに、必要な箇所に必要な強度を持たせることができる。
【0013】
図3は、マグネシウム材のパイプ1の曲げ加工に用いる装置7である。
この装置7が回転引き曲げタイプのものであり、パイプ1を送り装置の送り軸のチャックにクランプさせて装着する。
パイプ1の曲げ内側を溝部で抱持する回転型9に、パイプ1の曲げ外側を溝部で抱持する締付型11が間隔をおいて対向配置されており、締付型11は回転型9に対して接離自在で接近したときに、その両方の溝部の間に送られてきたパイプ1が抱持される。締付型11は回転型9とその軸芯周りに同期して回転すると、挟持されたパイプ1が回転型9の溝部に巻き付けられて引き曲がる。後方側には、パイプ1の曲げ外側を溝部で抱持する押え型13が接離自在に配置されており、曲がりの際にパイプ1の後方側が回転型9の半径方向外方に向かう動きが規制される。回転型9にパイプ1が巻き付けられる長さだけ、パイプ1が前進するのでその前進に合わせてパイプ1を前方に送り出すために、送り出し装置と同期して押え型13が前進するようになっている。
【0014】
パイプ1をチャックにクランプさせる際には、曲げ内側部と曲げ外側部に外側パイプ3と内側パイプ5とが圧接した両側の部位がくるように角度を調整する。曲げ内側部は回転型9に当たる側であり、曲げ外側部は締付型11に当たる側である。
【0015】
この曲げ加工装置7では、パイプ1に芯金群15を挿入する。この芯金群15には複数の芯金片17が備えられている。断面図に示すように、各芯金片17には後側に保持部19が前側には球面体部21が設けられており、先行側の芯金片17の保持部19に後続側の芯金片17の球面体部21が連結されて一列を為しており、前後で隣り合う芯金片17は互いに揺動可能になっている。
芯金片17の外径は内側パイプ5の内径より若干小さく設計されており、内側パイプ5にもスムーズに挿入可能になっている。
芯金群15の後端はベンダーロッド23に揺動可能に支持されている。
【0016】
曲げ加工の際の前に、ベンダーロッド23を駆動させて、芯金群15をパイプ1に挿入し、曲がり部位、すなわち外側パイプ3に内側パイプ5が圧入されて二重パイプ構造になったところまで前進させてから静止させておく。
【0017】
この状態でマグネシウム材のパイプ1に対して曲げ加工を施すと、曲げ加工時にパイプ1の曲がり部に生じる壁面の移動が規制される。
実施例では、パイプ1は90Rの曲げ半径までは、断面形状が変化したり、割れたり、皺を発生したりすることなく、綺麗な曲がり部位を得る曲げ加工に成功した。
しかも、曲げ加工後は、内側パイプ5の断面はほぼ真円に戻っていた。
【0018】
図4は、実際に曲げ加工に成功したパイプの例である。
このパイプ1は、AZ31Bのマグネシウム合金を素材とし、押し出し成形したものである。外側パイプ3の外径が25mm、管厚が2.0mm、内側パイプ5の外径が20mm、管厚が1.5mmになっている。この例では曲げ半径はR90となっている。このパイプは、自動車用のシートのフレーム材として利用することを想定したものである。
【0019】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、本発明では、マグネシウム材のパイプを曲げ加工する方法を提案するものであり、曲げを過酷になる、すなわち曲げ半径をより小さくする場合に熱処理を併用することを除外するものではない。
また、上記の実施の形態では、部分的に二重パイプになったものを被加工物としているが、単一のパイプを被加工物としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0020】
マグネシウム材はその軽量性で自動車等の部品として注目されており、それで構成したパイプを曲げ加工できる技術が確立されれば、マグネシウム材の市場を一気に広げることができると予測される。
【符号の説明】
【0021】
1…パイプ 3…外側パイプ 5…内側パイプ
6…圧接部位
7…曲げ加工装置 9…回転型 11…締付型
13…押え型 15…芯金群 17…芯金片
19…保持部 21…球面体部 23…ベンダーロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム材で構成されたパイプ内に複数の芯金片が揺動可能に連結されて一列を為す芯金群を挿入しておき、パイプを回転型と前記回転型と共に回転可能な締付型とで挟持した状態で、前記回転型を回転させてパイプを引き曲げすることを特徴とするマグネシウム系パイプの曲げ加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載したマグネシウム系パイプの曲げ加工方法において、内側パイプを挿入した二重パイプの部位を曲げ加工することを特徴とする曲げ加工方法。
【請求項3】
請求項2に記載したマグネシウム系パイプの曲げ加工方法において、内側パイプは楕円状になって、その長軸方向の外面が外側パイプの内面と圧接しており、曲げ内側部にその圧接側がくるように位置調整して曲げ加工することを特徴とする曲げ加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−81988(P2013−81988A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223915(P2011−223915)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(591145047)フジ精工株式会社 (4)
【Fターム(参考)】