説明

マグネシウム部材

【課題】マグネシウム系金属からなる基材の腐食を緩和することができるマグネシウム部材を提供する。
【解決手段】マグネシウム部材1は、マグネシウム系金属からなる基材11と、基材11の表面に形成されたニッケル膜12と、ニッケル膜12上に形成された鉄を含有する腐食緩和膜13と、を備えることを特徴とする。さらに、マグネシウム部材10は腐食緩和膜13上にニッケルよりイオン化傾向が低い金属14を含有する皮膜をさらに備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面にニッケル膜が形成されたマグネシウム部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、軽量性、強度、熱伝導性など優れた特性を有しており、実用面での様々な研究がなされている。このマグネシウム合金は、化学的活性が高く、研磨を行っても直ちに酸化膜が生成されるという問題があった。また、防食性能を有する皮膜を、マグネシウム合金の表面に形成することが困難であるという問題があった。これに対し、無電解めっきが可能で、マグネシウム合金に対しても容易に皮膜が形成できるニッケルを用いて、マグネシウム合金の表面にニッケルめっきが施されることが多い。これにより、マグネシウム合金の表面が物理的に保護されるとともに、ニッケル膜上に各種めっきが可能となる。
【0003】
マグネシウム合金の表面にニッケルめっきが施されたものとしては、例えば、特開2004−68087号公報(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−68087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マグネシウム合金の表面にニッケル皮膜を形成すると、耐蝕性の面でマグネシウム合金単体の場合よりも悪化してしまうという問題がある。ニッケル膜は、マグネシウム合金に対してイオン化傾向が低く、ニッケル膜の欠落部分よりマグネシウムとニッケル間で電蝕が発生し、マグネシウム合金のほうが腐食してしまうからと考えられる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、マグネシウム系金属からなる基材の腐食を緩和することができるマグネシウム部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のマグネシウム部材は、マグネシウム系金属からなる基材と、基材の表面に形成されたニッケル膜と、ニッケル膜上に形成された鉄を含有する腐食緩和膜と、を備えることを特徴とする。マグネシウム系金属とは、マグネシウム合金、又は、純粋なマグネシウムを意味する。
【0008】
鉄のイオン化傾向がニッケルよりも高いため、ニッケル膜上に鉄を含有する腐食緩和膜を形成することで、ニッケルと鉄の間に犠牲防食能を発揮させることができる。これにより、ニッケル膜が施されたマグネシウム部材の耐蝕性が向上する。
【0009】
また、鉄で形成される皮膜(腐食緩和膜)の表面は、粒が緻密に集合したアスファルト状となる。これにより、基材表面がニッケル膜の欠落部分から大気に露出する可能性が低減される。
【0010】
これらの作用により、本発明のマグネシウム部材は、ニッケルとマグネシウムの間の腐食作用(電蝕作用)、すなわち基材(マグネシウム系金属)の腐食を緩和することができる。また、本発明のマグネシウム部材によれば、防食皮膜の下地としてめっきの自由度は向上する。
【0011】
ここで、本発明のマグネシウム部材は、腐食緩和膜上にニッケルよりイオン化傾向が低い金属を含有する皮膜をさらに備えてもよい。腐食緩和膜上に当該金属による皮膜を形成しても、腐食緩和膜がない場合と比較して、腐食速度が低減し、腐食が緩和される。つまり、本発明のマグネシウム部材によれば、ニッケルよりイオン化傾向が低い金属膜でも、耐蝕性を低下させることなく、形成することができる。
【0012】
具体的に、ニッケルよりイオン化傾向が低い金属による皮膜を形成すると、仮にニッケルと当該金属とが接触した場合、その間で電蝕作用が働き、下地であるニッケル膜が腐食してしまうという問題がある。しかし、本発明によれば、当該金属膜は腐食緩和膜上に形成される。上記同様、腐食緩和膜(鉄による皮膜)の表面は緻密なアスファルト状であり、破れ部分が少ないため、ニッケルと当該金属が接触する可能性は大きく低減する。さらに、鉄による皮膜は、剥がれにくいため、上記接触の可能性を低減できる。
【0013】
また、当該金属皮膜が傷ついた場合でも、ニッケルの前に腐食緩和膜が腐食作用(当該金属と鉄の間での電蝕作用)を受けるため、ニッケル膜へのダメージは軽減される。以上の作用から、本発明のマグネシウム部材によれば、ニッケルよりイオン化傾向が低い金属であっても、腐食緩和機能を維持したまま皮膜として形成することができ、当該金属皮膜による作用効果を付加することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマグネシウム部材によれば、基材の腐食を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一実施形態のマグネシウム部材を示す模式断面図である。
【図2】皮膜表面を示す拡大写真である。
【図3】第二実施形態のマグネシウム部材を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、実施形態を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【0017】
<第一実施形態>
図1に示すように、第一実施形態のマグネシウム部材1は、マグネシウム合金からなる基材11と、ニッケル膜12と、腐食緩和膜13と、を備えている。なお、図1は模式図であり、説明のために縦横の比は変更されている。
【0018】
ニッケル膜12は、基材11の表面に無電解ニッケルめっきにより形成されたニッケル(Ni)めっきである。腐食緩和膜13は、ニッケル膜12上に形成された鉄(Fe)を含有する皮膜であって、鉄を用いた公知の電気めっきにより形成されている。
【0019】
(実施例)
基材11としてマグネシウム合金AZ31を用いた。ニッケル膜12は、無電解ニッケルめっきにより形成されたニッケルめっきであり、膜厚は30μmで形成した。腐食緩和膜13は、公知の電気めっきにより形成された鉄めっきであり、膜厚は20μmで形成した。なお、マグネシウム合金はAZ31に限らず、マグネシウムを主成分とした合金であればよい。
【0020】
(比較例)
実施例同様、基材11としてマグネシウム合金AZ31を用いた。ニッケル膜12も、実施例同様、無電解ニッケルめっきにより形成されたニッケルめっきであり、膜厚は30μmで形成した。比較例は、腐食緩和膜13(鉄めっき)がない点で実施例と相違している。
【0021】
(塩水噴霧試験)
腐食試験として、実施例及び比較例に対し、塩水噴霧試験(JIS Z2371)150時間を実施した。試験前後の重量減少率は、以下のとおりとなった。なお、重量減少率は、その値が小さいほど、耐蝕性が優れていることを意味する。
【0022】
実施例の重量減少率は、22.8%であった。比較例の重量減少率は、65.58%であった。腐食緩和膜13を有するマグネシウム部材の重量減少率は、腐食緩和膜13を有さないものに比べて、飛躍的に小さくなった。
【0023】
これは、ニッケルと鉄の間に犠牲防食能を発揮させることができること、鉄めっき(腐食緩和膜13)の表面が破れ部分の少ないアスファルト状となること、及び、鉄めっきが剥がれにくいことに起因していると考えられる。これら腐食緩和膜13の作用により、マグネシウム合金の腐食を緩和することができる。
【0024】
ここで、図2は、試験前の表面の拡大写真であって、比較例の表面(上段)、実施例の表面(中段)、及び、後述するニッケル膜12上に亜鉛めっきを施したものの表面(下段)を表している。なお、図2において、左列は250倍、中列は800倍、右列はおよそ14000倍で拡大した写真であり、中列最下段は、亜鉛表面の黒色部分の8000倍拡大写真である。これによれば、腐食緩和膜13(鉄めっき)表面が緻密なアスファルト状であることがわかる。
【0025】
腐食緩和膜13は、鉄を含有する皮膜(鉄めっき)であることが重要である。他の金属によるめっき膜を腐食緩和膜としても、上記作用効果が必ずしも得られない。例えば、亜鉛(Zn)めっきをニッケル膜12上に形成した場合、図2に示すように、亜鉛めっきの表面は、網状になっており、破れ部分(黒色部)が多く存在する。したがって、この場合、ニッケル膜12が露出してしまい、その部分でマグネシウム合金の腐食が進行してしまう。つまり、亜鉛めっきでは、本発明ほどの作用効果(腐食緩和機能)を得ることができない。参考として、比較例と同条件により形成したニッケルめっきマグネシウム合金のニッケルめっき上に亜鉛めっき10μmを施したものについて、上記塩水噴霧試験を実施した結果は、重量減少率が42.14%であった。膜厚が異なるものの、腐食緩和機能は、実施例のおよそ1/2であった。
【0026】
<第二実施形態>
第二実施形態のマグネシウム部材10は、マグネシウム合金からなる基材11と、ニッケル膜12と、腐食緩和膜13と、銅膜14と、を備えている。第二実施形態は、銅膜14を備える以外、第一実施形態と同じ構成であるため、同構成については同符号を付して説明は省略する。
【0027】
銅膜14は、公知の電解めっきにより形成された銅めっきである。つまり、銅膜14は、銅(ニッケルよりイオン化傾向が低い金属)を含有する皮膜である。これにより、マグネシウム部材の装飾性が向上する。
【0028】
腐食緩和膜13は、図2の中段(Ni−Fe膜)に示すように、表面がアスファルト状に緻密に成膜されている。したがって、ニッケル膜12の露出を抑制できる。つまり、腐食緩和膜13により、銅膜14とニッケル膜12が直接接触することは抑制される。これにより、ニッケルと銅との間での電蝕作用によるニッケル膜12の腐食は抑えられる。また、銅膜14が傷ついた場合でも、ニッケル膜12の前に腐食緩和膜13が腐食作用(電蝕作用)を受けるため、ニッケル膜12へのダメージは軽減される。
【0029】
このように、第二実施形態のマグネシウム部材10によれば、ニッケルより貴な金属を最表面に皮膜したとしても、下地であるニッケル膜12の腐食が防止され、その結果、腐食進行が緩和された、優れた耐蝕性を有するマグネシウム部材とすることができる。
【0030】
なお、図2の下段(Ni−Zn膜)に示すように、亜鉛めっきの表面は、網状で破れ部分が多く存在する。したがって、その部分からニッケルめっきが露出してしまい、銅膜14とニッケルとが直接接触し易くなる。両者が接触することで、下地であるニッケルめっきが腐食し易くなり、結果としてマグネシウム合金の耐蝕性は低下する。一方、本発明では、最表面に貴な金属を皮膜しても、マグネシウム部材の腐食を確実に緩和させることができる。
【0031】
また、腐食緩和膜13上の皮膜は、銅膜14に限られない。例えば、白金(Pt)、金(Au)、又は、銀(Ag)などを含有する皮膜でもよい。本発明によれば、ニッケルより貴な金属であっても腐食緩和機能を維持しつつ皮膜として形成することができ、当該皮膜による機能(作用効果)をさらに付加することが可能となる。
【符号の説明】
【0032】
1、10:マグネシウム部材、
11:基材、 12:ニッケル膜、 13:腐食緩和膜、
14:銅膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム系金属からなる基材と、
前記基材の表面に形成されたニッケル膜と、
前記ニッケル膜上に形成された鉄を含有する腐食緩和膜と、
を備えることを特徴とするマグネシウム部材。
【請求項2】
前記腐食緩和膜上にニッケルよりイオン化傾向が低い金属を含有する皮膜をさらに備える請求項1に記載のマグネシウム部材

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−225946(P2011−225946A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97658(P2010−97658)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】