説明

マグネトロンスパッタリング装置

【課題】被成膜面が山型形状のワークを成膜する場合に、均一な成膜を行なえるターゲットの裏面側に磁石を配設した平板型のカソ−ドを備えたマグネトロンスパッタリング装置を提供する。
【解決手段】ターゲット11を、ターゲット面11aがワーク4の被成膜面4aに沿うように、ワーク4の被成膜面4aの形状に対応して逆山型形状となるように折曲せしめる一方、磁石13を、前記逆山型形状のターゲット11の裏面側の外周部に配される外側磁石と、該外側磁石の内周側に配される内側磁石とを用いて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被成膜面が山型形状のワークを成膜する場合に適したマグネトロンスパッタリング装置の技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、成膜装置の一つとして、ターゲットの裏側に磁石を配設し 、該磁石によりターゲット表面に磁場を形成してマグネトロン放電を行なうように構成した所謂マグネトロンスパッタリング装置が広く知られているが、該マグネトロンスパッタリング装置に用いられるターゲットは、従来、平板状のものであって、ターゲット面が成膜されるワーク(基板)に対して平行状となるように配されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【特許文献1】特開平10−280139公報
【特許文献2】特許第4130263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、前記マグネトロンスパッタリング装置によって成膜されるワークは、平板状のものに限らないのは勿論であって、種々の形状のワークが成膜されることになるが、例えば、被成膜面が山型形状をしたワークを、前記特許文献1、2に示されるようなターゲットを用いて成膜しようとした場合、ワークの被成膜面の山部と裾部とでは、スパッタリング粒子がターゲット面から被成膜面に到達するまでの距離が大きく異なってしまう。このため、被成膜面の裾部の成膜に時間がかかって非効率的である許りか、山部に対して裾部の膜厚が薄くなって、膜厚分布にバラツキが生じてしまうという問題がある。さらに、ターゲットのエロージョン領域をなるべく広くしてターゲット利用率を向上させたいという要望もあり、これらに、本発明が解決しようとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、ターゲットの裏面側に磁石を配設した平板型のカソ−ドを備えてなるマグネトロンスパッタリング装置において、被成膜面が山型形状のワークを成膜するにあたり、前記カソ−ドのターゲットを、ターゲット面が前記ワークの被成膜面に沿うよう、ワークの被成膜面の形状に対応して逆山型形状となるように折曲せしめたことを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置である。
請求項2の発明は、カソ−ドの磁石を、逆山型形状のターゲットの裏面側の外周部に配される外側磁石と、該外側磁石の内周側に配される内側磁石とを用いて構成したことを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング装置である。
【発明の効果】
【0005】
請求項1の発明とすることにより、ターゲット面と山型形状のワークの被成膜面との対向間距離を略一定にすることができて、膜厚にバラツキのない均一な成膜を行なえると共に、成膜速度を速くすることができて、生産性向上に大きく貢献できる。
請求項2の発明とすることにより、ターゲットの表面側には、ターゲットの折曲部の両側に亘って連続する状態で磁場が形成されることになり、この結果、均一な成膜を行なえると共に、エロージョン領域を広くすることができて、ターゲット利用率の向上に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図面において、1は成膜を行なう成膜用金型装置、2、3は該成膜用金型装置1を構成する第一、第二金型であって、本実施の形態では、第一金型2は可動金型、第二金型3は固定金型で構成されており、そして、可動金型である第一金型2は、図示しない移動機構を介して、固定金型である第二金型3に対して対向方向に離接移動できると共に、第二金型3から離間した状態で上記対向方向とは直交する方向にスライド移動できるように構成されている。
【0007】
さらに、前記第一金型2には、第二金型3に対向する側に、成膜されるワーク4を支持するワーク支持部2aが突出形成される一方、第二金型3には、第一金型2に対向する側が開口した成膜チャンバー3aが形成されている。そして、第一金型2と第二金型3とを型閉じすることにより、前記ワーク支持部2aに支持されたワーク4が成膜チャンバー3a内に突入する一方、成膜チャンバー3aの開口側は、第一金型2によって閉じられるように構成されている。
尚、本実施の形態において、前記第一金型2は、射出成形を行なう射出成形用金型を兼ねていて、射出成形用のキャビティを形成する型面が、ワーク4を支持するワーク支持部2aになっている。つまり、ワーク4は、射出成形された後に、型面(ワーク支持部2a)に支持されたままの状態で成膜されるようになっている。
【0008】
前記ワーク4は、本実施の形態では、車両用ランプの構成部品であって、図1に示すように、第一金型2のワーク支持部2aに支持された状態で上面が山型形状をしており、そして、該山型形状の上面が、成膜される被成膜面4aになっている。
【0009】
さらに、5は前記ワーク支持部2aに支持されたワーク4を成膜するべく第二金型3に組込まれるマグネトロンスパッタリング装置であって、該マグネトロンスパッタリング装置5は、後述するカソ−ド6、成膜チャンバー3aの外部に設置される真空ポンプ7、成膜チャンバー3aの内外を貫通するように形成される排気路8およびアルゴンガス導入路9等の各種部材装置を具備している。
【0010】
前記カソ−ド6は、矩形状をした平板型のカソ−ドであって、成膜チャンバー3aの内壁面に固設される支持ブラケット10を介して、第二金型3に対して絶縁された状態で成膜チャンバー3aの天井部に配されていると共に、ターゲット11、該ターゲットを固定するバッキングプレート12、該バッキングプレート12を介してターゲット11の裏面側に配設される磁石13、ヨーク14、図示しない冷却水用配管等を備えて形成されている。
【0011】
ここで、前記ターゲット11およびバッキングプレート12は、ターゲット面(ターゲット11の表面)11aが前記ワーク支持部2aに支持されたワーク4の被成膜面4aに沿うように、ワーク4の被成膜面4aの形状に対応して逆山型形状となるように折曲されており、これによって、ターゲット面11aとワーク4の被成膜面4aとの対向間距離が略一定になるように構成されている。尚、前記逆山型形状のターゲット11は、一枚のターゲット板を折曲して形成することもできるが、二枚のターゲット板を逆山型形状に接合して形成することもできる。また、逆山型形状に形成されたバッキングプレート12に、二枚のターゲット板を固定することによって、逆山型形状のターゲット11とすることもできる。
【0012】
また、磁石13は、逆山型形状のターゲット11の裏面側の外周部に配され、N極、S極のうち一方の磁極(本実施の形態ではN極)がターゲット11を向く外側磁石13Aと、該外側磁石13Aの内周側に間隔Sを存して配され、外側磁石13Aとは逆の磁極(本実施の形態ではS極)がターゲット11を向く内側磁石13Bとを用いて構成されている。そして、これら外側磁石13Aと内側磁石13Bとによって、逆山型形状のターゲット11の表面側に、該ターゲット11の折曲部の両側に亘って連続する状態で磁場が形成されるようになっており、これによって、図3に示すように、ターゲット11の折曲部の両側に亘って連続する状態でエロージョン領域Eが形成されるようになっている。
尚、前記外側磁石13Aと内側磁石13Bとの間の間隙Sは、冷却用水路になっている。
【0013】
ここで、前記外側磁石13Aおよび内側磁石13Bは、ターゲット11の折曲部の裏側面に位置する部分が切欠かれており、該切欠き部には、非磁性体からなるブロック15が配置されている。これによって、ターゲット11の表面側において折曲部近傍の両側部分が互いに近接していても、該近接部分の磁力線が重なって他の部分よりも高密度になってしまうことを防止できるようになっている。
【0014】
叙述の如く構成された本形態において、マグネトロンスパッタリング装置5は、ターゲット11の裏面側に磁石13を配設した平板型のカソ−ド6を備える一方、前記マグネトロンスパッタリング装置1によって成膜されるワーク4の被成膜面4aは山型形状をしているが、このものにおいて、前記カソ−ド6のターゲット11は、ターゲット面11aがワーク4の被成膜面4aに沿うように、ワーク4の被成膜面4aの形状に対応して逆山型形状となるように折曲されている。
【0015】
而して、前記逆山型形状に折曲されたターゲット11によって、ターゲット面11aと山型形状のワーク4の被成膜面4aとの対向間距離を略一定にすることができることになって、膜厚にバラツキのない均一な成膜を行なえると共に、成膜速度を速くすることができて、生産性向上に大きく貢献できる。
【0016】
さらにこのものにおいて、カソ−ド6の磁石13は、前記逆山型形状のターゲット11の裏面側の外周部に配される外側磁石13Aと、該外側磁石13Aの内周側に配される内側磁石13Bとを用いて構成されている。そして、これら外側磁石13Aと内側磁石13Bとによって、逆山型形状のターゲット11の表面側に、該ターゲット11の折曲部の両側に亘って連続する状態で磁場が形成され、而して、ターゲット11の折曲部の両側に亘って連続する状態でエロージョン領域Eが形成されることになる。この結果、均一な成膜を行なえると共に、エロージョン領域Eを広くすることができて、ターゲット利用率の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】成膜用金型装置を示す図である。
【図2】(A)はマグネトロンスパッタリング装置の要部の断面図、(B)は(A)のX−X矢視図である。
【図3】ターゲットのエロージョン領域を示す図である。
【符号の説明】
【0018】
4 ワーク
4a 被成膜面
5 マグネトロンスパッタリング装置
6 カソ−ド
11 ターゲット
11a ターゲット面
13 磁石
13A 外側磁石
13B 内側磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットの裏面側に磁石を配設した平板型のカソ−ドを備えてなるマグネトロンスパッタリング装置において、被成膜面が山型形状のワークを成膜するにあたり、前記カソ−ドのターゲットを、ターゲット面が前記ワークの被成膜面に沿うよう、ワークの被成膜面の形状に対応して逆山型形状となるように折曲せしめたことを特徴とするマグネトロンスパッタリング装置。
【請求項2】
カソ−ドの磁石を、逆山型形状のターゲットの裏面側の外周部に配される外側磁石と、該外側磁石の内周側に配される内側磁石とを用いて構成したことを特徴とする請求項1に記載のマグネトロンスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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