説明

マスキングインク用ガラス組成物、マスキングインク、フィルタ基板とその製造方法、及びディスプレイ装置

【課題】マスキング層の厚さを薄くしても、十分な吸光度や光遮蔽性を得ることができるマスキングインク用ガラス組成物とマスキングインクを提供する。
【解決手段】ガラス組成物は、下記成分基準のモル%表示で、18〜55%のSiO2、1〜30%のZnO、1〜30%のB23、0〜10%のBi23、8〜25%のLi2O、Na2O、及びK2Oから選ばれる少なくとも1種、0〜10%のCuO、0〜8%のAl23、0〜3%のZrO2、SnO2、及びCeO2から選ばれる少なくとも1種、1%以下のFe23、及び0.5%未満のTiO2から本質的になる。マスキングインクは、ガラス組成物40〜80質量%と耐熱顔料20〜40質量%と耐火物フィラー0〜30質量%とを含有する固形成分組成物を、ビヒクルに混合・分散させてなり、マスキング層4の形成に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスキングインク用ガラス組成物、マスキングインク、フィルタ基板とその製造方法、及びディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、有機ELディスプレイ(Organic Electro−Luminescence Display:OELD)等のフラットパネルディスプレイ装置(FPD)においては、表示パネルの前面に衝撃破損防止機能、外光反射防止機能、電磁波遮蔽機能、近赤外線遮蔽機能、色調補正機能、耐擦傷性機能等を目的とした前面フィルタが用いられている。そこで、このような機能を持つフィルタ基板(ガラス基板の片面もしくは両面にフィルタ膜を設けた基板)やその製造方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
FPDに組み入れられる表示パネルは、通常、駆動のための電極がパネル周縁部に形成されており、FPDの外観の意匠性からパネル外周部を隠蔽する必要がある。このため、従来は黒色の樹脂板材等を表示パネルの前面外周部に設けていたが、パネル前面部に段差が生じて意匠性を損ねていた。意匠性の向上のために、フィルタ基板の周囲に可視光線遮蔽用のマスキング層を形成した基板が提案されている(特許文献2参照)。マスキング層は顔料を含んだ低融点ガラスをフィルタ基板に焼付けることより形成される。マスキング層の可視光波長域での吸光度は3.0以上であることが好ましい。
【0004】
近年、さらなる意匠性の向上のために、マスキング層の一部にくりぬき印刷を施すと共に、フィルタ基板の背面側に光源を設け、ロゴ表示等を実現することが求められている。このような点に対し、生産性よく精細なパターンを得るためには、線径が小さく、メッシュ数が多いメッシュを用いてスクリーン印刷することが適当である。スクリーンは200メッシュよりメッシュ数が多いことが望まれるが、このような細かいメッシュを用いてスクリーン印刷した場合には、形成されるマスキング層の焼付け後の膜厚は15μm以下というように薄くなってしまう。
【0005】
特許文献2において、マスキング層の厚さが13μmの場合には、吸光度は2.5となっている。このようなマスキング層では十分な性能を得ることができない。また、フィルタ基板のマスキング層を形成した面側にフィルタ用のフィルムを貼り付ける際に、マスキング層の厚さが薄いほど、マスキング層とガラス基板との段差部分に気泡が生じにくいため、良好な外観を得ることができる。さらに、追従性の悪いフィルムでも気泡を生じさせることなく使用することが可能になる。このため、薄くても十分な遮光性を確保することが可能なマスキング層やその形成材料が求められている。
【0006】
ガラス板に着色層を形成する材料としては、黒色系低融点ガラス粉末及び無機顔料からなる固形成分粉末と有機ビヒクルとを含有するセラミックカラー組成物が知られている(特許文献3参照)。黒色系低融点ガラス粉末はCuO、Cr23、Fe23等のガラス着色成分をガラス組成に導入することによって、低融点ガラス自体を黒色化したものである。黒色系低融点ガラス粉末を含むセラミックカラー組成物によれば、セラミックカラー焼付け膜を薄膜化することができる。しかしながら、これをFPD用のマスキング層に適用しようとすると、ガラス着色では吸光度等が不十分となる。
【0007】
例えば、ガラス組成にCr23やFe23を導入したセラミックカラー組成物においては、ガラス自体が褐色に着色する反面、焼成時の焼結性が低下するため、無機顔料の発色を損ねることになる。このようなセラミックカラー組成物を用いて形成したマスキング層では、十分な吸光度や光遮蔽性を得ることができない。FPD用のマスキング層を形成するにあたっては、無機顔料の発色を損ねないようなガラス組成に調整し、無機顔料を十分に発色させて光遮蔽性を高めることが重要となる。
【0008】
また、特許文献4には低い温度でガラス基板に焼付けることが可能な無鉛セラミックカラー組成物が記載されている。しかしながら、特許文献4に記載されたセラミックカラー組成物は、ガラス粉末が比較的多くのTiO2を必須成分として含有しているため、焼付け時に結晶化しやすく、焼結性が低いために無機顔料の発色が低下しやすい。このようなセラミックカラー組成物では、FPD用のマスキング層に求められる厚さ(例えば15μm以下)で十分な吸光度や光遮蔽性を得ることは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−215304号公報
【特許文献2】特開2002−091326号公報
【特許文献3】特開平11−228177号公報
【特許文献4】特開2005−089285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、マスキング層の厚さを薄くした場合においても、十分な吸光度や光遮蔽性を再現性よく得ることを可能にしたマスキングインク用ガラス組成物とマスキングインク、またそのようなマスキングインクを用いることによって、意匠性や信頼性等を向上させたフィルタ基板とその製造方法、さらにそのようなフィルタ基板を用いたディスプレイ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様に係るマスキングインク用ガラス組成物は、下記成分基準のモル%表示で、18〜55%のSiO2、1〜30%のZnO、1〜30%のB23、0〜10%のBi23、8〜25%のLi2O、Na2O、及びK2Oから選ばれる少なくとも1種、0〜10%のCuO、0〜8%のAl23、0〜3%のZrO2、SnO2、及びCeO2から選ばれる少なくとも1種、1%以下のFe23、及び0.5%未満のTiO2から本質的になることを特徴としている。
【0012】
本発明の態様に係るマスキングインクは、本発明の態様に係るマスキングインク用ガラス組成物40〜80質量%と、耐熱顔料20〜40質量%と、耐火物フィラー0〜30質量%とを含有する固形成分組成物を、ビヒクルに混合・分散させてなることを特徴としている。
【0013】
本発明の態様に係るフィルタ基板は、ガラス基板と、前記ガラス基板の少なくとも一方の表面に設けられたフィルタ膜と、前記ガラス基板の周囲の少なくとも一部に形成されたマスキング層とを具備するフィルタ基板において、前記マスキング層は本発明の態様に係るマスキングインクの焼付け層からなることを特徴としている。
【0014】
本発明の態様に係るフィルタ基板の製造方法は、ガラス基板と、前記ガラス基板の少なくとも一方の表面に設けられたフィルタ膜と、前記ガラス基板の周囲の少なくとも一部に形成されたマスキング層とを具備するフィルタ基板の製造方法であって、前記ガラス基板の周囲の少なくとも一部に本発明の態様に係るマスキングインクを塗布する工程と、前記マスキングインクの塗布層を焼成し、前記マスキング層として前記マスキングインクの焼付け層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0015】
本発明の態様に係るディスプレイ装置は、表示パネルと、前記表示パネルの前面に配置された、本発明の態様に係るフィルタ基板とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様に係るマスキングインク用ガラス組成物及びマスキングインクによれば、マスキング層の厚さを薄くした場合においても十分な吸光度や光遮蔽性を再現性よく得ることができる。従って、そのようなマスキング用インクを使用することによって、フィルタ基板やディスプレイ装置の意匠性や信頼性等を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態によるフィルタ基板を示す断面図である。
【図2】図1に示すフィルタ基板の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明の実施形態によるフィルタ基板の構成を示す断面図、図2は図1に示すフィルタ基板の裏面図である。図2では裏面側のフィルタ膜の図示を省略している。図1に示すフィルタ基板1はガラス基板2を備えている。フィルタ基板1を構成するガラス基板2としては、ソーダライムガラス基板が好適である。ガラス基板2の板厚は1〜3mmの範囲であることが好ましい。
【0019】
ガラス基板2は透過率が高く、着色が少ないことが望ましい。典型的には、1.8mmの厚さで、可視光透過率Tvが90.15%、可視光反射率Rvが8.18%、ヘイズ(濁度)が0.06%、xy色度座標における色度値がx=0.307、y=0.314のガラス基板2が例示される。ガラス基板2の外周は所定の形状に切断されており、さらに外周部は面取り加工されていることが好ましい。
【0020】
フィルタ基板1はガラス基板2の少なくとも一方の表面に設けられたフィルタ膜を備えている。図1はガラス基板2の表面2a及び裏面2bにフィルタ膜3A、3Bをそれぞれ設けたフィルタ基板1を示している。フィルタ膜3A、3Bは、フィルタ基板1を適用する用途に応じて適宜に選択されるものである。フィルタ膜3A、3Bの具体例としては、衝撃破損防止膜、外光反射防止膜、電磁波遮蔽膜、近赤外線遮蔽膜、色調補正膜、耐擦傷性膜等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
フィルタ膜3A、3Bは、例えば各種の機能を有する樹脂膜をガラス基板2の表面に貼り付けることにより形成される。フィルタ膜3A、3Bの形成方法としては、蒸着法、スパッタ法、CVD法等の薄膜形成法を適用してもよい。この場合、フィルタ膜3A、3Bを構成する各種の機能膜(薄膜)は、ガラス基板2の表面に薄膜形成法を適用して形成される。フィルタ膜3A、3Bの構成材料は各種公知のものを適用することができ、また厚さや形状等も用途に応じて適宜に選択されるものである。
【0022】
この実施形態のフィルタ基板1は、LCD、PDP、OELD等のFPDに組み入れられる表示パネルの前面に配置されるものであり、これによりLCD、PDP、OELD等のディスプレイ装置が構成される。この実施形態のディスプレイ装置は、表示パネルとその前面に配置されたフィルタ基板1とを具備している。なお、表示パネルの構成は特に限定されるものではなく、各種公知の構造を適用することができる。
【0023】
FPDに組み入れられる表示パネルは、通常、駆動のための電極等がパネル周縁部に形成されている。このような電極等を隠蔽するために、フィルタ基板1を構成するガラス基板2の周囲にはマスキング層4が設けられている。図1に示すフィルタ基板1は、ガラス基板2の裏面2bの外縁部に全周にわたって形成されたマスキング層4を有している。マスキング層4はガラス基板2の外縁部の少なくとも一部に形成されていればよい。
【0024】
マスキング層4は、ガラス組成物と耐熱顔料とを含有し、さらに必要に応じて耐火物フィラーを含有する固形成分組成物を、ビヒクルに混合・分散させてなるマスキングインクを用いて形成される。具体的には、ガラス基板2の周囲にマスキングインクを塗布し、この塗布層を焼成して耐熱顔料(及び耐火物フィラー)をガラス組成物と共に焼付けることによって、ガラス基板2の所定部位にマスキング層4を形成する。マスキングインクの塗布には、スクリーン印刷を適用することが好ましい。
【0025】
ここで、フィルタ基板1のマスキング層4が形成された面にもフィルタ膜3Bを設ける場合には、フィルタ膜3Bを構成する樹脂フィルム(PETフィルム等)を、その一部がマスキング層4と重なるように、ガラス基板2の裏面2bに貼り合わせることが好ましい。この際に、マスキング層4の厚さが厚いと、ガラス基板2とマスキング層4との段差部分に対する樹脂フィルムの追従性が低下し、段差部分に気泡が生じるおそれがある。特に、追従性の悪い樹脂フィルムの場合には、段差部分に気泡が生じやすくなる。段差部分に生じた気泡は、フィルタ基板1やそれを用いたディスプレイ装置の外観を低下させる要因となる。
【0026】
さらに、フィルタ基板1を用いたディスプレイ装置の意匠性を向上させるために、マスキング層4にはその一部をくり抜いたくり抜きパターン5が形成されることがある。図2に示すフィルタ基板1のマスキング層4はくり抜きパターン5を有している。くり抜きパターン5は、フィルタ基板1の背面側に設けられた光源から光が照射され、くり抜きパターン5に応じた文字や図形等を表示するものである。くり抜きパターン5を有するマスキング層4を形成するにあたっては、マスキングインクを細かいメッシュ(線径が小さく、メッシュ数が多いメッシュ)を用いてスクリーン印刷することが好ましい。
【0027】
上述したスクリーン印刷を適用してマスキングインクを印刷した場合、マスキング層4の膜厚は薄くなり、例えば焼付け後の膜厚は15μm以下というように薄くなる。このため、膜厚が15μm以下のマスキング層4で十分な吸光度を得ることが好ましい。さらに、マスキング層4のくり抜きパターン5は背面側から照明されるため、マスキング層4で照明光を十分に遮蔽することが好ましい。具体的には、マスキング層4の吸光度だけでなく、黒色度等を高めて光遮蔽性を向上させることが好ましい。マスキング層4による光遮蔽性が不十分であると、くり抜きパターン5による文字や図形等の表示性が低下する。
【0028】
この実施形態のマスキングインクにおいては、耐熱顔料(黒色顔料等)の発色を妨げることがなく、十分な吸光度や光遮蔽性(黒色度等)を得ることが可能なガラス組成物として、下記の成分基準のモル%表示で、18〜55%のSiO2、1〜30%のZnO、1〜30%のB23、0〜10%のBi23、8〜25%のLi2O、Na2O、及びK2Oから選ばれる少なくとも1種、0〜10%のCuO、0〜8%のAl23、0〜3%のZrO2、SnO2、及びCeO2から選ばれる少なくとも1種、1%以下(0%を含む)のFe23、及び0.5%未満(0%を含む)のTiO2から本質的になるガラス組成物を適用している。このガラス組成物は実質的に鉛を含むことなく、ガラス基板2への焼付けを可能にしたものである。実質的に鉛を含むことなくとは、Pb23成分基準のモル%表示での含有量が、0.3モル%以下であることを意味する。
【0029】
上述したガラス組成物は焼結性に優れるため、マスキング層4の膜厚を例えば15μm以下と薄くした場合においても耐熱顔料の発色を損なうことがない。すなわち、膜厚が薄いマスキング層4で良好な吸光度や光遮蔽性を得ることが可能となる。従って、フィルタ膜3Bの一部をマスキング層4と重なるように貼り合わせる場合においても、マスキング層4の機能を維持しつつ、ガラス基板2とマスキング層4との段差部分に起因する気泡の発生を抑制することができる。さらに、マスキング層4にくり抜きパターン5を形成する際に、パターン精度の向上と光遮蔽性とを両立させることができるため、くり抜きパターン5による表示精度等を高めることができる。以下にガラス組成について詳述する。
【0030】
この実施形態のマスキングインク用ガラス組成物において、SiO2はガラスの網目を形成する成分であって、ガラスの安定性を向上させる成分である。また、SiO2はマスキング層4の化学耐久性を確保する上で必須の成分である。SiO2の含有量が55モル%を超えるとガラスの軟化点(Ts)が高くなり、焼付け時の焼結性が低下する。このため、マスキングインクに添加した耐熱顔料の発色が悪くなり、マスキング層4の吸光度や光遮蔽性が不十分になる。一方、SiO2の含有量が18モル%未満の場合には、マスキング層4の化学耐久性が低下する。マスキング層4の化学耐久性をさらに高める上で、SiO2の含有量は40モル%以上とすることがより好ましい。
【0031】
ZnOはガラスの軟化点を低下させ、焼付け時の焼結性を向上させる成分であり、耐熱顔料の発色を向上させてマスキング層4の吸光度や光遮蔽性を高める上で必須の成分である。ZnOの含有量が1モル%未満であると焼付け時の焼結性が低下し、耐熱顔料を十分に発色させることができない。ZnOの含有量は5モル%以上とすることがより好ましく、これにより焼結性及びそれに基づく耐熱顔料の発色性をさらに向上させることができる。一方、ZnOの含有量が30モル%を超えるとガラスの焼付け時に結晶化しやすくなり、焼結性が低下して耐熱顔料の発色が悪くなる。ZnOの含有量は20モル%以下することがさらに好ましく、これにより焼結性及びそれに基づく耐熱顔料の発色性を一層向上させることができる。
【0032】
23はZnOと同様にガラスの軟化点を低下させ、焼付け時の焼結性を向上させる成分であり、耐熱顔料の発色を向上させてマスキング層4の吸光度や光遮蔽性を高める上で必須の成分である。B23の含有量が1モル%未満であると焼付け時の焼結性が低下し、耐熱顔料を十分に発色させることができない。B23の含有量は5モル%以上とすることがより好ましく、これにより焼結性及びそれに基づく耐熱顔料の発色性をさらに向上させることができる。一方、B23の含有量が30モル%を超えるとマスキング層4の化学耐久性が低下する。マスキング層4の化学耐久性をさらに高める上で、B23の含有量は20モル%以下とすることがより好ましい。
【0033】
さらに、ガラスを焼付ける際の焼結性をより再現性よく向上させる上で、B23の含有量はZnOの含有量に応じて適宜に調整することが好ましい。具体的には、ZnOに対するB23のモル比(B23/ZnO比)を0.83以上とすることが好ましい。B23/ZnO比が0.83未満であると、ガラスの結晶化温度が低下しやすい。この場合には耐熱顔料の発色が不十分となり、マスキング層4の吸光度や光遮蔽性を十分に高めることができないおそれがある。一方、B23/ZnO比が高すぎると化学耐久性が低下するため、B23/ZnO比は10以下とすることが好ましい。
【0034】
Bi23はガラスの軟化点を低下させ、焼付け時の焼結性を向上させる成分であり、マスキング層4の吸光度や光遮蔽性を高める上で有用な成分である。Bi23を含有することで焼付け時の焼結性が向上し、耐熱顔料を十分に発色させることができるため好ましい。Bi23の含有量は3モル%以上とすることがより好ましく、これにより焼結性及び耐熱顔料の発色性をさらに向上させることができる。Bi23の含有量を増やすほどガラスの軟化点を低下させることができるものの、Bi23が高価な材料であることから、その含有量は焼結性を確保し得る範囲で少量とすることが好ましい。このため、Bi23の含有量は10モル%以下とする。
【0035】
Li2O、Na2O、及びK2Oから選ばれる少なくとも1種は、ガラスの軟化点を低下させ、焼付け時の焼結性を向上させる成分であり、マスキング層4の吸光度や光遮蔽性を高める上で必須の成分である。Li2O、Na2O、及びK2Oの合計含有量が25モル%を超えると、ガラスの熱膨張係数が大きくなり、マスキング層4を形成したフィルタ基板1の強度が低下する。一方、上記成分の合計含有量が8モル%未満ではガラスの軟化点が高くなり、焼付け時の焼結性が低下しやすくなる。この場合、軟化点を低下させるためには高価なBi23の含有量を増やす必要が生じ、ガラス組成物の製造コストが増加する。
【0036】
マスキングインク用ガラス組成物は、上述した各成分(必須成分)のみでも、耐熱顔料の発色を向上させてマスキング層4の吸光度や光遮蔽性を高めることができる。この場合には、必須成分の合計含有量が実質的に100モル%となるように調製される。さらに、ガラスの焼結性、安定性、化学耐久性等をさらに向上させたり、またガラスの酸化還元度等を調整するために、10%モル%以下のCuO、8モル%以下のAl23、3モル%以下のZrO2、SnO2、及びCeO2から選ばれる少なくとも1種、及び0.5%未満のTiO2を含有させることができる。
【0037】
CuOはガラスの軟化点を低下させ、焼付け時の焼結性を向上させる成分である。耐熱顔料の発色を向上させてマスキング層4の吸光度や光遮蔽性を向上させるために、CuOを10モル%以下の範囲で含有させてもよい。CuOの含有量が10モル%を超えるとガラスの安定性が低下すると共に、焼付け時の焼結性も低下する。さらに、CuOはガラスの着色を補助する成分としても機能する。このような点を考慮した場合、CuOは2〜8モル%の範囲で含有させることが好ましい。
【0038】
Al23はガラスの安定性を向上させる目的で含有させてもよい。Al23の含有量が8モル%を超えるとガラスの軟化点が上昇するため、その含有量は8モル%以下とする。TiO2はガラスの化学耐久性を向上させる目的で含有させてもよい。ただし、TiO2の含有量が多いとガラスの焼付け時に結晶化しやすくなり、焼結性が低下して耐熱顔料の発色が悪くなる。このため、TiO2の含有量は0.5モル%未満とする。ZrO2、SnO2、及びCeO2から選ばれる少なくとも1種は、ガラスの安定化やガラスの酸化還元度の調整目的で含有させてもよい。これらの合計含有量が3モル%を超えるとガラスの軟化点が高くなるため、その含有量は合計量で3モル%以下とする。
【0039】
この実施形態のガラス組成物は、典型的には上記した必須成分及び任意成分から本質的になり、各成分の合計含有量が実質的に100モル%となるように調製される。なお、場合によっては本発明の目的を損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。その場合のその他の成分の含有量は合計で15モル%以下とすることが好ましく、より好ましくは10モル%以下、典型的には5モル%以下である。
【0040】
例えば、ガラスの耐酸性を向上させるために、5モル%以下のLa23を含有してもよい。La23の含有量が5モル%を超えるとガラスの軟化点が高くなる。ガラスの軟化点をさらに低下させたい場合、5モル%以下のP25や5モル%以下のV25を含有してもよい。P25の含有量が5モル%を超えるとガラス熔解時に失透しやすくなる。V25の含有量が5モル%を超えると耐酸性が低下する。耐酸性をより向上させたい場合には、F及びClから選ばれる少なくとも1種を5モル%以下の範囲で含有してもよい。
【0041】
なお、MgO、CaO、SrO、及びBaOは、軟化点の低下がほとんど期待できないだけでなく、熱膨張係数を大きくするおそれがあると共に、耐酸性を悪化させるおそれもあるため、これらは含有しないことが好ましい。Fe23はガラスを着色する代表的な成分であるが、焼付け時の焼結性を阻害するため、ガラス組成物には含有させないことが好ましく、含有量は1モル%以下である。Cr23も同様であり、ガラス組成物には含有させないことが好ましい。Cr23が不純物等としてガラス組成物に含まれることがあるが、そのような場合でもCr23の含有量は1質量%以下とすることが好ましい。
【0042】
この実施形態で用いられるマスキングインクは、上述したガラス組成物40〜80質量%と耐熱顔料20〜40質量%とを含有する固形成分組成物、さらに必要に応じて耐火物フィラー0〜30質量%を含有する固形成分組成物を、ビヒクルに混合・分散させてなるものである。このようなマスキングインクを用いて、ガラス基板の周囲の一部、もしくは全周にマスキング層4を形成する。前記ガラス組成物は粉末であることが好ましく、マスキング層の厚さを15μm以下とする場合、ガラス組成物からなる粉末(ガラス粉末)は粒径が10μmを超える粗粒を篩分け等で除去した粒度分布や平均粒径を有することが好ましい。
【0043】
耐熱顔料は、マスキング層4を黒色に着色する場合にはCu、Cr、Fe、Co、Ni、及びMnから選ばれる1種の金属の酸化物、又はこれら金属の複合酸化物を用いることが好ましい。黒色顔料の具体例としては、アサヒ化成工業社製のCu−Cr−Mn系顔料(#3700)やCu−Fe−Mn系顔料(#3300)、東罐マテリアル・テクノロジー社製のCu−Cr系顔料(42−302A)、Fe−Mn系顔料(42−313A)、Mn−Co−Cu−Al系顔料(42−712A)等が挙げられる。
【0044】
マスキング層4は耐熱無機顔料を選択することにより黒色以外の色調に着色することも可能であるが、光遮蔽性を高める上で耐熱無機顔料として黒色無機顔料を用いることが好ましい。耐熱顔料は粉末であることが好ましく、耐熱顔料からなる粉末(耐熱顔料粉末)の質量平均粒子径D50は0.5〜5.0μmの範囲であることが好ましい。耐熱顔料粉末の平均粒子径(D50)が0.5μm未満の場合には、マスキングインクへの分散性が低下し、マスキング層4に着色ムラ等が生じやすくなる。一方、耐熱顔料粉末の平均粒子径(D50)が5.0μmを超えると着色性が低下しやすくなる。いずれの場合にも、マスキング層4によるマスキング性が悪化する。
【0045】
マスキングインク中の固形成分組成物において、ガラス組成物の含有量は40〜80質量%の範囲、耐熱顔料の含有量は20〜40質量%の範囲とする。ガラス組成物の含有量が40質量%未満であると、マスキングインクの焼付け性が低下する。ガラス組成物の含有量が80質量%を超えると相対的に他の成分量が低下するため、マスキング層4の吸光度や光遮蔽性の低下、またガラス基板2の強度低下等が生じるおそれがある。また、耐熱顔料の含有量が20質量%未満の場合には、マスキング層4に十分な吸光度や光遮蔽性を付与することができない。耐熱顔料の含有量が40質量%を超えると焼付け性が低下したり、また界面が増加して黒色度等の着色度が不十分になるおそれがある。
【0046】
マスキングインク用の固形成分組成物は、焼付け時の焼結性の調整、ガラス基板2に対するマスキング層4の熱膨張係数の整合、フィルタ基板1の強度低下の抑制等を目的として、耐火物フィラーを含有することができる。耐火物フィラーとしては、アルミナ、石英ガラス、β−ユークリプタイトやβ−スポジュメンに代表されるβ−石英結晶類、ムライト、ホウ酸アルミニウム、チタン酸アルミニウム、チタン酸カリウム、リン酸ジルコニウム、ジルコン、コージェライト、フォルステライト、ステアタイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等の酸化物系フィラーが好適である。これら酸化物以外にも、シリコンのような金属、ホウ化チタニウムのようなホウ化物、窒化珪素のような窒化物、炭化珪素のような炭化物、珪化チタンのような珪化物等を使用することができる。
【0047】
マスキングインク用の固形成分組成物において、耐火物フィラーの含有量は30質量%以下とする。耐火物フィラーの含有量が30質量%を超えると焼付け時に焼結性が低下し、マスキング層4の吸光度や光遮蔽性が不十分になる。ガラス基板2の強度、ガラス基板2及びガラス粉末の熱膨張係数等にもよるが、耐火物フィラーの含有量は8質量%以下とすることがより好ましい。耐火物フィラーは必要に応じて固形成分組成物に含有させるものであるが、その含有量は1質量%以上とすることが好ましい。なお、固形成分組成物はこれら以外の添加材を必要に応じて含有していてもよい。
【0048】
マスキングインクは、上述したガラス組成物、耐熱顔料、及び必要に応じて耐火物フィラーを含有する固形成分組成物を、樹脂を溶剤に溶解して作製したビヒクルに混合・分散させて調製される。ビヒクルを構成する樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類、ポリビニルブチラール等のポリビニルアセタール類、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート等のポリ(メタ)アクリレート類等が好適に用いられる。溶剤は樹脂を溶解することができ、スクリーン印刷等による塗布時に適度な作業性をもつと共に、塗布後の後工程で乾燥することが可能なものであればよい。
【0049】
ビヒクルに使用される溶剤の具体例としては、ターピネオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等のアルコール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコール類、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールアセテート等のプロピレングリコール類、クエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル類、セバシン酸ジブチル等のセバシン酸エステル類、アジピン酸ジオクチル等のアジピン酸エステル類、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル等のフタル酸エステル類等が挙げられる。
【0050】
マスキングインクは必要に応じてその他の添加物を含んでいてもよい。例えば、固形分に吸着して表面改質し、インクの粘度特性を調整する添加物、あるいはその他公知の添加物を含むことができる。上記した粘度調整用の添加物としては、水酸基を含む化合物類、アミン基を含む化合物類、リン酸、カルボン酸、スルホン酸等の酸基を含む化合物類、及びそのエステル類、中和塩類等の構造をもつ界面活性剤が例示される。
【0051】
マスキング層4を形成するにあたっては、まず上述したマスキングインクをガラス基板2の周囲の一部又は全周に塗布する。マスキングインクは、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法、あるいはディスペンサ等を用いた塗布法等を適用して塗布される。くり抜きパターン5を有するマスキング層4を形成する場合には、スクリーン印刷を適用することが好ましく、典型的には225〜250メッシュのポリエステルスクリーンを用いたスクリーン印刷を適用して塗布することが好ましい。
【0052】
マスキングインクの塗布層はインク中の溶剤成分を乾燥させるために、例えば80〜140℃の温度で5〜15分程度加熱することが好ましい。そして、乾燥後の塗布層を例えば550〜650℃の温度で焼成し、インク中の樹脂成分を除去した後にガラス組成物を耐熱顔料や耐火物フィラーと共にガラス基板2に焼付ける。このようにして、ガラス基板2の所定部位にマスキングインクの焼付け層(実際にはマスキングインク中の固形成分組成物の焼付け層)からなるマスキング層4を形成する。フィルタ基板1はこのようなマスキング層4の形成工程を経て作製されるものである。
【0053】
この実施形態のマスキングインクによれば、広い焼成温度域で安定した発色を得ることができるため、例えば厚さが15μm以下のマスキング層4に十分な吸光度と光遮蔽性を付与することが可能となる。さらに、焼成温度、昇温速度、降温時の冷却条件等を調整して、焼成時の反りを制御することができる。フィルタ基板1には比較的板厚が薄いものが望まれているため、風冷強化や化学強化で板強度を強化するという手法には期待できない。この実施形態のマスキングインク及びそれを用いたフィルタ基板1によれば、マスキングインク中の耐火物フィラーの調整により必要な板強度は確保した上で、破損時の飛散防止フィルム等を添付することによって、安全なフィルタ基板1を得ることができる。
【0054】
マスキング層4を有するフィルタ基板1は、前述したようにディスプレイ装置を構成する表示パネルの前面に貼り付ける等して使用される。マスキング層4は可視光線の遮蔽層として機能し、パネル周縁部に設けられた電極等を隠蔽するために用いられる。また、マスキング層4にくり抜きパターン5が形成されている場合には、フィルタ基板1の背面側に設けられた光源から光が照射され、くり抜きパターン5に応じた文字や図形等を表示する等して、ディスプレイ装置の意匠性を向上させることができる。
【0055】
マスキング層4は、くり抜きパターン5の形成精度やフィルタ膜3Bの貼り付け性等を高める上で、その厚さを15μm以下とすることが好ましい。マスキング層4の厚さは10μm以上とすることが好ましい。このような厚さのマスキング層4で十分な吸光度と光遮蔽性を得ることができる。マスキング層4は可視光領域の吸光度が3.0以上であることが好ましい。厚さが15μm以下で吸光度が十分なマスキング層4を有するフィルタ基板1によれば、フィルタ膜3Bの貼り付け時における気泡の発生を抑制することができると共に、高精細なくり抜きパターン5に基づいて良好な表示を実現することができる。従って、ディスプレイ装置の意匠性や信頼性を高めることが可能となる。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の具体的な実施例及びその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変が可能である。
【0057】
[ガラス組成物の作製]
まず、表1及び表2に示すガラス組成(モル%表示)となるように、各粉体原料を調合して混合した。各粉体原料において、SiO2等の酸化物で入手可能な原料は酸化物を使用し、Li2O等のアルカリ成分は炭酸化物を使用した。粉体原料の混合はVミキサーを用いて実施した。表1に示すガラス組成は実施例に相当し、表2に示すガラス組成は比較例に相当する。次いで、各原料混合物を白金るつぼに充填し、電気炉中にて1150〜1450℃の温度で1時間加熱して溶融させた。溶融状態のガラスをステンレス製の水冷ロールを通過させて急冷することによって、それぞれ薄片状のガラスを成形した。
【0058】
次に、ボールミルを用いて薄片状のガラスをそれぞれ粉砕した。具体的には、得られた薄片状のガラスを、20mm径のアルミナボールと助剤として少量の水と共にアルミナポットに仕込み、約12時間回転させることにより粉砕した。粉砕終了後に篩を通過させてアルミナボールを分離した。得られたガラス粉末を、気流分級機を通過させて粗粒を除去した。このようにして、10μm以上の粗粒を除去したガラス粉末を得た。
【0059】
得られたガラス粉末の平均粒径(D50)を測定した。また、得られたガラス粉末の熱特性を示差熱分析装置(DTA)で測定し、転移点(Tg)、軟化点(Ts)、結晶化点(Tc)を検出した。さらに、得られたガラス粉末の一部を成形した後に580℃×10分間の条件で焼成して焼結体を作製し、この焼成体を直径5mm、長さ20mmの円柱形に加工した。このような試料を用いて、熱膨張計で50〜350℃における熱膨張曲線を測定し、平均線熱膨張係数α(単位:10-7/℃)を算出した。これらの測定・検出結果を表1及び表2に併せて示す。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
[マスキングインクの作製]
上述したガラス粉末(表1に示す試料No1〜14と表2に示す試料No15〜26)とCu−Crから構成される複合酸化物系耐熱黒色顔料粉末と耐火物フィラーとを表3〜表6に示す割合で混合することによって、それぞれマスキングインクの固形成分を調製した。これら各固形成分に、予めエチルセルロースとポリビニルブチラールをターピネオールと2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートの混合溶剤に溶解して作製した有機ビヒクルを添加し、さらに粘度調整のための溶剤を適宜添加して混合した。これらの混合物を、固形分の凝集をほぐして分散状態を良好にするために3本ロールミルで混練することによって、それぞれマスキングインクを作製した。
【0063】
[マスキング層の形成]
上述したマスキングインクを用いて、ガラス基板上にマスキング層を形成した。すなわち、まず1.8mmの厚さで、可視光透過率Tv=90.15%、可視光反射率Rv=8.18%、ヘイズ(濁度)=0.06%、xy色度座標においてx=0.307、y=0.314の透明なソーダライムガラスから100mm角のガラス基板を切り出した。切り出したガラス基板の非スズ面、すなわちフロート製法にて製造されるガラスにおいてスズバスと接触しない面、いわゆるトップ面に、マスキングインクをスクリーン印刷した。スクリーン印刷は225メッシュのテトロンスクリーンを用いて実施し、基板中心部に90mm角の正方形パターンを1層印刷した。これを140℃で10分間乾燥させることによって、ガラス基板上にマスキングインクの乾燥膜を形成した。
【0064】
次いで、マスキングインクの乾燥膜を有するガラス基板を、550℃、580℃、610℃の3水準にてコンベア炉を通過させ、マスキングインクの乾燥膜を焼成することによって、ガラス基板上にマスキング層を形成した。なお、実際の使用に際しては、ソーダライムガラス基板のスズ面、すなわちフロート製法にて製造されるガラスにおいてスズバスと接触する面に印刷しても差し支えない。むしろ、マスキング層の黒色度は向上する。具体的にはL値で1程度低減する。ただし、ここでは黒色度の評価には厳しい条件となる非スズ面にマスキングインクを印刷して評価を実施している。
【0065】
このようにして得たマスキング層の特性等を以下のようにして測定・評価した。それらの結果を表3〜表6に併せて示す。まず、マスキング層が形成された部分とガラス基板の表面との段差について、触針式の表面形状測定装置(東京精密社製サーフコム)で表面形状を測定し、それに基づいてマスキング層の厚さを測定した。
【0066】
マスキング層の色調については、分光測色計(ミノルタ社製CM−508d)を用いてL値、a値、及びb値を測定した。マスキング層の色調は、マスキング層を形成した面とは反対側のガラス基板面からガラス基板越しにSCIモードで測定した。L値、a値、及びb値はJISZ8729にも採用されている表色系である。L値は明度を表す指標であり、L値が小さいということは色調が黒いことを示すものである。ここでは、550℃で焼成したマスキング層のL値について、30を上回るものは十分な発色が得られていないと判断した。L値は28以下であることがより好ましい。
【0067】
マスキング層の可視光波長域の吸光度を、積分球付きの分光光度計(日立ハイテク社製U−4100)を用いて測定した。吸光度が3を下回るものは十分なマスキング性を得られていないと判断した。可視光波長域の吸光度は4以上であることがより好ましい。
【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

【0072】
表3〜表6から明らかなように、各実施例のマスキングインクを用いて形成したマスキング層は、15μm以下の厚さで十分な吸光度(可視光波長域の吸光度で3以上、さらには4以上)を有しており、さらに表色系のL値で30以下の黒色度が得られていることが分かる。従って、このようなマスキング層を有するフィルタ基板を使用することによって、ディスプレイ装置の意匠性(例えばマスキング層のくり抜きパターンに基づく表示機能やその表示精度)等を向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のマスキングインク用ガラス組成物及びマスキングインクは、液晶テレビ、プラズマテレビ、モバイルディスプレイ等のディスプレイ装置のマスキング及び意匠性向上のために、前記ディスプレイ装置のフィルタのマスキング層に用いることができる。また、自動車用ガラスのマスキング層にも適用できる。
【符号の説明】
【0074】
1…フィルタ基板、2…ガラス基板、3A,3B…フィルタ膜、4…マスキング層、5…くり抜きパターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分基準のモル%表示で、18〜55%のSiO2、1〜30%のZnO、1〜30%のB23、0〜10%のBi23、8〜25%のLi2O、Na2O、及びK2Oから選ばれる少なくとも1種、0〜10%のCuO、0〜8%のAl23、0〜3%のZrO2、SnO2、及びCeO2から選ばれる少なくとも1種、1%以下のFe23、及び0.5%未満のTiO2から本質的になることを特徴とするマスキングインク用ガラス組成物。
【請求項2】
前記SiO2を40〜55%、前記ZnOを5〜20%、及び前記B23を5〜20%の範囲で含むことを特徴とする請求項1記載のマスキングインク用ガラス組成物。
【請求項3】
前記ZnOに対する前記B23のモル比(B23/ZnO比)が0.83以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のマスキングインク用ガラス組成物。
【請求項4】
前記CuOを2〜10%の範囲で含むことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のマスキングインク用ガラス組成物。
【請求項5】
Cr23の含有量が1質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載のマスキングインク用ガラス組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載のマスキングインク用ガラス組成物40〜80質量%と、耐熱顔料20〜40質量%と、耐火物フィラー0〜30質量%とを含有する固形成分組成物を、ビヒクルに混合・分散させてなることを特徴とするマスキングインク。
【請求項7】
ディスプレイ装置の可視光線遮蔽用マスキング層の形成に用いられることを特徴とする請求項6項記載のマスキングインク。
【請求項8】
ガラス基板と、前記ガラス基板の少なくとも一方の表面に設けられたフィルタ膜と、前記ガラス基板の周囲の少なくとも一部に形成されたマスキング層とを具備するフィルタ基板において、
前記マスキング層は請求項6記載のマスキングインクの焼付け層からなることを特徴とするフィルタ基板。
【請求項9】
前記マスキング層は15μm以下の厚さを有し、かつ可視光波長域の吸光度が3.0以下であることを特徴とする請求項8記載のフィルタ基板。
【請求項10】
前記マスキング層はその一部をくり抜いたくり抜きパターンを有することを特徴とする請求項8又は請求項9記載のフィルタ基板。
【請求項11】
ガラス基板と、前記ガラス基板の少なくとも一方の表面に設けられたフィルタ膜と、前記ガラス基板の周囲の少なくとも一部に形成されたマスキング層とを具備するフィルタ基板の製造方法であって、
前記ガラス基板の周囲の少なくとも一部に、請求項6記載のマスキングインクを塗布する工程と、
前記マスキングインクの塗布層を焼成し、前記マスキング層として前記マスキングインクの焼付け層を形成する工程と
を具備することを特徴とするフィルタ基板の製造方法。
【請求項12】
表示パネルと、
前記表示パネルの前面に配置された、請求項8ないし請求項10のいずれか1項記載のフィルタ基板と
を具備することを特徴とするディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−121809(P2011−121809A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280162(P2009−280162)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】