マスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法
【課題】研磨加工において、斜断面からなる基板マークによる平坦度への悪影響を排除し、平坦度を向上させることができるマスクブランク用基板、マスクブランク及び転写マスク、並びに、それらの製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】マスクブランク用基板1は、斜断面からなる基板マーク4が形成され、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角が、45°よりも大きく90°未満であり、主表面112と基板マーク4の境界からマスクブランク用基板1の外周までの距離W1が、1.5mm未満である。
【解決手段】マスクブランク用基板1は、斜断面からなる基板マーク4が形成され、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角が、45°よりも大きく90°未満であり、主表面112と基板マーク4の境界からマスクブランク用基板1の外周までの距離W1が、1.5mm未満である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、研磨加工において、斜断面からなる基板マーク(ノッチマークとも呼ばれる。)による平坦度への悪影響を排除し、平坦度を向上させることができるマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超LSIデバイスの高密度化や高精度化に伴い、マスクブランク用基板、マスクブランク、転写マスクなどに要求される基板表面の微細化傾向は年々厳しくなる状況にある。特に、露光光源の波長が短くなるにしたがって、基板表面の形状精度(平坦性)や品質(欠陥サイズ)に対する要求が厳しくなっており、きわめて平坦度が高く、かつ、微小欠陥がないマスクブランク用基板などが求められている。また、露光光を反射する反射型マスクに用いられるマスクブランク用基板の場合においては、基板表面の形状精度や品質に対する要求が特に厳しい。
【0003】
上記の要求に応えるために、様々な技術が開発されている。
たとえば、特許文献1には、マスクブランク用ガラス基板表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程を有するマスクブランク用ガラス基板(マスクブランク用基板とも呼ばれる。)の製造方法が開示されている。
この技術は、研磨砥粒が、有機ケイ素化合物を加水分解することで生成したコロイダルシリカ砥粒を含むことや、研磨液が、コロイダルシリカ砥粒を含むものであるとともに、中性であることを特徴としている。
【0004】
また、特許文献2には、マスクブランク用ガラス基板表面の凹凸形状を測定する凹凸形状測定工程と、凹凸形状測定工程で得られた測定結果にもとづいて、ガラス基板表面に存在する凸部位の凸度を特定するとともに、この凸度に応じた加工条件で凸部位に局所加工を施すことにより、ガラス基板表面の平坦度を所定の基準値以下に制御する平坦度制御工程と、平坦度制御工程の後、局所加工が施されたガラス基板表面を研磨する研磨工程と、を有するマスクブランク用ガラス基板の製造方法の技術が開示されている。この技術は、平坦度制御工程の後で、かつ、研磨工程の前に、局所加工が施されたガラス基板表面に、酸処理を施す方法としてある。
【0005】
また、上記の特許文献2の技術は、凹凸形状測定工程や平坦度制御工程などを有しており、凹凸形状測定工程の前に、準備工程を有している。
この準備工程は、少なくとも、マスクブランク用基板の両面を粗研磨する粗研磨工程と、粗研磨されたマスクブランク用基板の両面を精密研磨する精密研磨工程とを有し、段階的な研磨が行われる。この際、たとえば、粗研磨工程では、比較的研磨砥粒の大きい酸化セリウムを含む研磨液が使用され、精密研磨工程では、比較的研磨砥粒の小さいコロイダルシリカを含む研磨液が使用される。
【0006】
また、従来、マスクブランク用基板では、基板の種類や基板の表裏を判別できるようにするため、矩形のマスクブランク用基板のコーナー部(角部とも呼ばれる。)において、主表面を斜断面状に切り落としてなる基板マーク(あるいは、ノッチマークとも呼ばれる。)が利用されてきた。
【0007】
基板マークに関連する様々な技術が開発されている。
たとえば、特許文献3には、所定の光学特性が要求されるマスクブランク用透明基板であって、所定のコーナー部を斜断面状に切り落として形成され、その形状が光学特性に応じて定められた基板マークを有することを特徴とするマスクブランク用透明基板の技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、略矩形のフォトマスク用基板であって、該矩形のコーナー部において、主表面と該コーナー部を形成する2つの端面との3面を斜断面状に切り落としてなるノッチマークを少なくとも1以上有し、該ノッチマークが、該フォトマスク用基板の該コーナー部を含む対角線に対し非対称形状であることを特徴とするフォトマスク用基板の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−98278号公報
【特許文献2】特開2004−310067号公報
【特許文献3】特開2006−78991号公報
【特許文献4】特開2000−356849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、基板マークは、上記の特許文献4に記載されているように、「マスク用基板の品質に直接影響するものではない」と考えられていた。しかし、本発明者は、マスクブランク用基板の平坦度を向上させる研究において、斜断面からなる基板マークが、研磨加工において、平坦度へ悪影響を及ぼしていることを見い出した。
【0011】
すなわち、斜断面からなる基板マークの形成されたマスクブランク用基板に対し、両面研磨装置(たとえば、上記特許文献1に記載した両面研磨装置)を用いて、粗研磨工程、精密研磨工程、及び、コロイダルシリカを含む研磨液を使用する超精密研磨工程を施したところ、基板マークの形成された裏面(裏側の主表面)のコーナー部近傍において、縁ダレが発生し、また、該コーナー部近傍に対応する表面(転写パターンを有する薄膜が形成される側の主表面)において、隆起が発生するといった問題があった。
【0012】
なお、特許文献1〜4の技術は、本発明に関連する技術ではあるものの、上記の課題を効果的に解決することはできない技術であった。
【0013】
本発明は、以上のような問題を解決するために提案されたものであり、研磨加工において、斜断面からなる基板マークによる平坦度への悪影響を排除し、平坦度を向上させることができるマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、および反射型マスク、並びにそれらの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のマスクブランク用基板は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満である構成としてある。
更に望ましくは、前記基板マークは、主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さいことを特徴とする構成としてある。
【0015】
本発明のマスクブランク用基板は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さい構成としてある。
また、前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする構成としてある。
【0016】
また、本発明のマスクブランクは、前記マスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えることを特徴とする構成としてある。
さらに、本発明の反射型マスクブランクは、前記マスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を備えることを特徴とする構成としてある。
また、本発明の転写マスクは、前記マスクブランクの薄膜に転写パターンが形成されたことを特徴とする構成としてある。
さらに、本発明の反射型マスクは、前記反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成されたことを特徴とする構成としてある。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満に形成されている方法としてある。
更に望ましくは、前記基板マークは、主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されることを特徴とする方法としてある。
【0018】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されている方法としてある。
また、前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする方法としてある。
【0019】
また、本発明のマスクブランクの製造方法は、前記マスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えることを特徴とする方法としてある。
さらに、本発明の反射型マスクブランクの製造方法は、前記マスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を備えることを特徴とする方法としてある。
また、本発明の転写マスクの製造方法は、前記マスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの薄膜に薄膜パターンを形成することを特徴とする方法としてある。
さらに、本発明の反射型マスクの製造方法は、前記反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成されたことを特徴とする方法としてある。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法によれば、研磨加工において、斜断面からなる基板マークによる平坦度への悪影響を排除し、平坦度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はA部拡大図を示しており、(c)はB−B断面図を示している。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はC部拡大図を示しており、(c)はD−D断面図を示している。
【図3】図3は、本発明の実施例1にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図4】図4は、本発明の実施例1にかかるマスクブランク用基板の要部の概略拡大断面図を示している。
【図5】図5は、本発明の比較例1にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図6】図6は、本発明の比較例2にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図7】図7は、本発明の比較例3にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図8】図8は、本発明に関連するマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はE部拡大図を示しており、(c)はF−F断面図を示している。
【図9】図9は、本発明の課題を説明するためのマスクブランク用基板の要部の概略図であり、(a)は超精密研磨工程を開始した際の拡大断面図を示しており、(b)は超精密研磨工程を終了した後の拡大断面図を示している。
【図10】図10は、本発明の実施例2にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図11】図11は、本発明の実施例3にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に関連するマスクブランク用基板及び基板マークについて、図面を参照して説明する。図8は、本発明に関連するマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はE部拡大図を示しており、(c)はF−F断面図を示している。
図8において、マスクブランク用基板101は、平面形状がほぼ正方形であり、2つの側面110が隣接するコーナー部にR面102が形成され、主表面111,112と側面110(R面102を含む)との間に面取り面103が形成されており、裏側の主表面112(転写パターンを形成するための薄膜が成膜される側の主表面とは反対側の主表面)側のコーナー部には、基板マーク104が形成されている。
【0023】
マスクブランク用基板101の材料は、マスクブランクとして用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば、合成石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラスのほか、特に反射型マスクに用いられる基板には、SiO2−TiO2ガラス等の低熱膨張ガラスなども用いられる。
また、マスクブランク用基板101は、一辺の長さが約152mm(6インチ)、厚さが6.35mm(0.25インチ)前後のものが広く用いられている。ただし、マスクブランク用基板101の形状、大きさ、厚さなどは、特に限定されるものではない。
【0024】
R面102は、マスクブランク用基板101の四隅に形成された湾曲面であり、曲率半径は、通常、2.5±0.5mmである。
また、主表面111,112の各周縁には、側面110(R面102を含む)との間に環状の面取り面103が形成されている。この面取り面103は、約45°傾斜した斜面(C面とも呼ばれる。)であり、通常、面取り幅は0.4〜0.6mmである。
なお、マスクブランク用基板101は、裏側の主表面112に基板マーク104が形成されるが、これに限定されるものではない。
【0025】
基板マーク104は、図8では右上の角に形成されており、主表面112と、R面102と、R面102に続く側面110と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とにかかって形成された斜断面(一つの斜断面)形状としている。
この基板マーク104は、主表面112と交差する線状の境界141(すなわち、基板マーク104と主表面112との境界141)、及び、R面102と交差する線状の境界(すなわち、基板マーク104とR面102との境界)を有している。また、基板マーク104と主表面112との境界141から基板マーク104とR面102との境界までの距離W0(この距離W0は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界141の任意の点から、境界141の線に対して直交する方向における、基板マーク104とR面102との境界までの距離の最大値である。)を、この例では約2.4mmとしている。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク104とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H0を、この例では約1mmとしてあり、主表面112に対する基板マーク104の傾斜角θ0は、約25°である。
【0026】
図8のマスクブランク用基板101では、一つの角に基板マーク104が形成されている。しかし、材料などに応じて、複数の角に基板マーク104を形成し、この形成した基板マーク104の数量や位置などによって、材料を識別することも行われる。基板マーク104は、通常、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、さらに、洗浄工程等で汚れが付着しないように、鏡面加工の仕上げが施される。
【0027】
ここで、一般的なマスクブランク用基板101における縁ダレや隆起の問題について、図面を参照して説明する。図9は、マスクブランク用基板の要部の概略図であり、(a)は主表面111,112に対して超精密研磨工程を開始した際の拡大断面図を示しており、(b)は超精密研磨工程を終了した後の拡大断面図を示している。
図9(a)において、マスクブランク用基板101は、両面研磨装置に設けられた対向する一対の研磨パッド21に挟まれている。研磨パッド21は、コロイダルシリカを含む研磨液(図示せず)が供給されており、また、上下方向に所定の圧力が加えられている。また、研磨パッド21は、通常、超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)が用いられる。
【0028】
研磨パッド21に挟まれたマスクブランク用基板101は、キャリア(図示せず)に保持された状態で、公転及び自転し、主表面111,112に対して、同時に研磨工程が行われる。
このとき、主表面112が、下側の研磨パッド21を押圧することによって、境界141より外側であって、研磨パッド21の基板101によって押圧されていない領域である基板マーク104の下方に、破線で示す研磨パッド21からなる凸部211が発生する。また、マスクブランク用基板101は、上記の状態で公転及び自転するので、応力が集中している境界141が、凸部211と接触し、境界141が凸部211を乗り越えようとする状態で、研磨されると推察される。このため、主表面112の境界141の近傍は、主表面112の他の領域よりも優先的に研磨される状態になってしまう。
【0029】
所定の時間だけ研磨されたマスクブランク用基板101は、図9(b)に示すように、基板マーク104の形成された主表面112のR面102の近傍において、大きく縁ダレ部106が形成されてしまう。一方、R面102の近傍に対応する主表面111(主表面112の縁ダレ部106が形成された領域に対応する主表面111)においては、逆に隆起部105が形成されてしまう。
縁ダレ部106は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面に対して、0.1μm以上のへこみ量h01を有しており、また、隆起部105は、主表面111の中央部付近を含む仮想平面に対して、0.1μm以上の突出量h02を有していた。さらに、縁ダレ部106及び隆起部105は、おおむね、R面102から半径R(R=約5〜15mm)以内の領域に形成されていた。
【0030】
ここで、縁ダレ部106及び隆起部105の形成された領域は、ほぼ対応しており、かつ、h01≒h02であった。これは、主表面112側に縁ダレ部106が形成され始めると、縁ダレ部106と下側の研磨パッド21との間に隙間が生じ、下側の圧力が低下してくる。そして、上側の研磨パッド21から掛かる主表面111側に対する圧力が下側に逃げやすくなり、上側の研磨レートが低下する。このような現象によるものと推察される。
【0031】
[マスクブランク用基板及びその製造方法の第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はA部拡大図を示しており、(c)はB−B断面図を示している。
図1において、本実施形態のマスクブランク用基板1は、斜断面からなる基板マーク4が形成された構成としてある。
また、マスクブランク用基板1は、上述したマスクブランク用基板101と比べると、基板マーク104の代わりに、基板マーク4を形成した点などが相違する。なお、本実施形態の他の構成は、マスクブランク用基板101とほぼ同様としてある。
したがって、図1において、図8と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0032】
(基板マーク)
基板マーク4は、図1の場合も基板マーク104とほぼ同様に右上の角に形成されており、主表面112と、R面102と、R面102に続く2つの側面110と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とにかかって形成された斜断面(一つの斜断面)形状としてある。
この基板マーク4は、主表面112と交差する線状の境界41(すなわち、基板マーク4と主表面112との境界41)、及び、R面102と交差する線状の境界(すなわち、基板マーク4とR面102との境界)を有している。また、基板マーク4と主表面112との境界41から基板マーク4とR面102との境界までの距離W1(この距離W1は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界41の任意の点から、境界41の線に対して直交する方向における、基板マーク4とR面102との境界までの距離の最大値である。)を、1.5mm未満としてある。なお、この距離W1は、好ましくは1.4mm以下である。
【0033】
主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H1は、特に限定されない。基板マーク4を視認し易くすることを考慮する場合、H1を1.1mm以上とすることが好ましく、1.5mm以上であるとより好ましい。換言すれば、上記の最大値H1(基板マーク4の最大高さとも呼ばれる。)は、厚さ6.35mmのマスクブランク用基板の場合、厚さの17%を超えることが望ましく、24%以上であることが更に望ましい。また、この基板マーク4の表面形状は、基板のR面102を通る対角線Bに対して対称性が高い形状(線対称な形状)であることが好ましい。基板マーク4の表面形状の対称性が高いと、研磨工程で研磨した後の主表面111および主表面112の表面形状の対称性が高くなる傾向がある。
【0034】
マスクブランク用基板の場合、主表面111,112はともに高水準の表面粗さが求められる。このため、研削工程後の基板の主表面に対して研磨工程を行う必要がある。前記の説明の通り、主表面に対して研磨工程を行った場合、縁ダレが境界41から主表面の中心側に向かって進行していき、研磨工程後に縁ダレ部106が形成されてしまう(図9(b)参照)。上記の距離W1を1.5mm以上とすると、研磨工程後に形成されてしまう縁ダレ部106が主表面112の中心側に進行しすぎてしまう。さらに、縁ダレ部106に対応するように主表面111に隆起部105が形成されるため、主表面111の平坦度への悪影響が大きくなってしまう。上記の距離W1を、1.5mm未満とすると、縁ダレ部106の主表面112の中心側への進行、さらには隆起部105の主表面111の中心側への進行を最小限にとどめることができ、研磨工程後の主表面111の平坦度をほぼ所定値(後述する0.05μm)以下とすることが可能となる。
【0035】
本発明のマスクブランク用基板は、光透過型リソグラフィで用いられる光透過型の転写マスクおよびその原版となるマスクブランク、反射型リソグラフィで用いられる反射型マスクおよびその原版となる反射型マスクブランクのいずれにおいても適用可能である。特に、反射型マスクに用いられる基板は、主表面の平坦度、表面粗さともに非常に高い水準が求められている。たとえば、主表面の中心を基準とする132mm×132mmの角内領域(すなわち、主表面111における、側面110の位置から10mmだけ中央側に移動した位置およびその位置よりも中央側の領域)での平坦度が0.05μm以下である必要がある。また、主表面の表面粗さについては、10μm×10μmの角内領域での自乗平方根平均粗さRqで0.15nm以下である必要がある。
【0036】
通常、研磨工程後の基板は、上記の求められる優れた平坦度を満たせない場合が多い。このため、従来、研磨工程後の基板の主表面形状を測定し、主表面の凸部分を局所加工することで上記の平坦度を満たす基板を製造している。しかし、主表面上の凸部分の領域が多いほど、あるいは凸部分の高さが高いほど局所加工の加工時間が掛ってしまう。また、通常、局所加工を行う時間が長くなるほど、研磨加工で良好にした主表面の表面粗さが悪化する度合いが大きくなる。これらのことから、研磨工程後の基板の平坦度が、上記の数値を満たせるように、また、満たせないとしてもより近い水準になるように、基板マークの形状を規定することは重要である。
【0037】
通常、反射型マスクは、多層反射膜が形成される主表面111とは反対側の主表面112に導電性材料からなる導電膜が設けられる。そして、反射型マスクを露光装置にセットするときは、その導電膜の全面を平面のチャックステージに静電チャックすることで固定する。このため、主表面112にも前記の所定値以下の優れた平坦度が求められており、主表面112の縁ダレ部の中心側への進行を抑制する基板マークの形状を規定することは重要である。
一方、光透過型の転写マスクの場合においても、反射型マスクほどではないが、パターンを形成する薄膜を設ける側の主表面111には優れた平坦度が求められており、上記のように基板マーク4の形状を規定することは重要である。
【0038】
主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ1は、45°よりも大きく90°未満とすることが好ましい。より好ましくは、上記の傾斜角θ1を60°以上90°未満とするとよい。このような構成とすることで、基板マーク4を厚さ方向に広がる面とすることができ、目視性を向上させることができる。
【0039】
また、より好ましくは、上記の距離W1を1.0mm未満とするとよい。このようにすると、縁ダレ部106の主表面112の中心側への進行、さらには隆起部105の主表面111の中心側への進行をより最小限にとどめることができ、主表面111、112の平坦度を上記所定値以下とすることが可能な範囲を拡大(例えば、主表面の中心を基準とする142mm×142mmの角内領域など)しても、局所加工に要する時間を低減することができる。
さらに、基板マーク4の境界41は、基板のR面102を通る対角線Bに対して略直交することが望ましい。このように構成することで、研磨工程後における主表面112の縁ダレ部106の分布を対角線Bに対する線対称性が高くなる傾向にできる。
【0040】
また、図1(c)に二点鎖線で示す基板マーク4aは、上記の距離W1を約0.9mmとし、かつ、傾斜角θ1を約60°としてある。さらに、図1(c)に破線で示す基板マーク4bは、上記の距離W1を約0.9mmとし、かつ、傾斜角θ1を約70°としてある。これら基板マーク4aや基板マーク4bの形成されたマスクブランク用基板1は、上述したように、より平坦度を向上させることができる。
なお、基板マーク4などの各寸法は、上記の寸法に限定されるものではなく、距離W1が1.5mm未満であるという条件を満足する限り、適宜の寸法に設定される。
【0041】
基板マーク4の距離W1をこの第1の実施形態で示したような条件とすることにより、基板マーク4を形成する基板の一辺の長さに関係なく(すなわち、一辺が6インチよりも大きい、例えば、8インチあるいはそれ以上の長さを有する矩形状の主表面を有する基板や、一辺が6インチよりも小さい、例えば5インチあるいはそれ以下の長さを有する矩形状の主表面を有する基板等に対しても)、基板の主表面111における、側面110の位置から10mmだけ主表面111の中央側に移動した位置およびその位置よりも中央側の領域(適宜、中央側領域という。)で、基板マーク4に起因して生じる隆起部105や縁ダレ部106の中央側領域への進行を最小限にとどめることができる。その結果、研磨工程後における主表面111および主表面112の中央側領域の平坦度を大幅に向上させることができる。
【0042】
次に、上記マスクブランク用基板1の製造方法について説明する。
本実施形態のマスクブランク用基板の製造方法は、マスクブランク用基板1に、斜断面からなる基板マーク4を形成する基板マーク形成工程と、マスクブランク用基板1の両面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程を有する方法としてある。
【0043】
(基板マーク形成工程)
まず、基板マーク形成工程において、マスクブランク用基板1は、上記の距離W1を1.5mm未満とするように、基板マーク4が形成される(図1参照)。
また、基板マーク4は、通常、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、さらに、洗浄工程等で汚れが付着しないように、鏡面加工の仕上げが施される。
【0044】
(研磨工程)
次に、研磨工程において、基板マーク4の形成されたマスクブランク用基板1に対し、両面研磨装置(たとえば、上記特許文献1に記載した両面研磨装置)を用いて、研磨加工が施される。
なお、研磨加工は、通常、酸化セリウムを含む研磨液を使用する粗研磨加工及び精密研磨加工、並びに、コロイダルシリカを含む研磨液を使用する超精密研磨加工を有しており、段階的に研磨加工が施される。
【0045】
上記の両面研磨装置は、図示してないが、遊星歯車方式であり、太陽歯車、その外方に同心円状に配置される内歯歯車、太陽歯車と内歯歯車に噛み合い、太陽歯車や内歯歯車の回転に応じて公転及び自転するキャリア、このキャリアに保持されたマスクブランク用基板1を研磨パッドが貼着された挟持可能な上定盤と下定盤、及び、上定盤と下定盤との間に研磨液を供給する研磨液供給部などを備えている。
この両面研磨装置は、キャリアに保持されたマスクブランク用基板1を上定盤と下定盤とで挟持し、上下定盤の研磨パッドとマスクブランク用基板1との間に研磨液を供給しながら太陽歯車や内歯歯車の回転に応じて、キャリアが公転及び自転し、マスクブランク用基板1の両主表面111,112を同時に研磨加工する。
【0046】
研磨加工(特に、超精密研磨加工)の施されたマスクブランク用基板1は、基板マーク4を上記条件で形成していることにより、上述したように、隆起部105や縁ダレ部106が形成されるといった悪影響(図9参照)を効果的に排除でき、優れた平坦度を実現することができる。
【0047】
また、マスクブランク用基板1の製造方法によっては、上述した特許文献2に記載してあるように、本実施形態の研磨工程(この工程は、特許文献2においては、準備工程に相当する。)の後に、凹凸形状測定工程や平坦度制御工程を行う場合がある。このような場合であっても、優れた平坦度を実現することができる本実施形態の研磨工程は、有効であり、平坦度制御工程における作業負荷(局所的に研磨加工を行う負荷)を低減することができ、生産性などを向上させることができる。
なお、本実施形態では、遊星歯車方式の両面研磨装置を使って研磨加工を行っているが、研磨装置はこれに限定されるものではなく、たとえば、他の方式の両面研磨装置や片面ずつ研磨を行う片面研磨装置を使用してもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態のマスクブランク用基板1及びその製造方法によれば、研磨加工において、斜断面からなる基板マーク4による平坦度への悪影響を排除し、マスクブランク用基板1の平坦度を向上させることができる。
【0049】
[マスクブランク用基板及びその製造方法の第2の実施形態]
図2は、本発明の第2の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はC部拡大図を示しており、(c)はD−D断面図を示している。
図2において、本実施形態のマスクブランク用基板1cは、上述したマスクブランク用基板1と比べると、基板マーク4の代わりに、基板マーク4cを形成した点などが相違する。なお、本実施形態の他の構成は、マスクブランク用基板1とほぼ同様としてある。
したがって、図2において、図1と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0050】
(基板マーク)
基板マーク4cは、図2の場合も基板マーク4とほぼ同様に右上の角に形成されているが、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103と、R面102とにかかって形成された斜断面(一つの斜断面)形状としてある。
この基板マーク4cは、面取り面103と交差する曲線状の境界41c(すなわち、基板マーク4cと面取り面103との境界41c)、及び、R面102と交差する線状の境界(すなわち、基板マーク4cとR面102との境界)を有しており、境界41cが、主表面112と面取り面103との境界よりも外周側に位置するように形成されている。
【0051】
ここでは一例として、基板マーク4cと面取り面103との境界41cから基板マーク4cとR面102との境界までの距離W2(この距離W2は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界41cの任意の点から、境界41cの線(接線)に対して直交する方向における、基板マーク4cとR面102との境界までの距離の最大値である。)を、約0.3mmとしてある。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4cとR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H2を、約1.1mmとしてあり、主表面112に対する基板マーク4cの傾斜角θ2は、約75°である。したがって、基板マーク4cは、傾斜角θ2が45°よりも大きく90°未満であるといった条件を満足する。また、この実施形態に係る基板マーク4cの最大高さH2は、厚さ(6.35mm)の17%以上であり、基板マーク4cを容易に視認することができる。
【0052】
上記の基板マーク4cは、主表面112と面取り面103との境界上、または、主表面112と面取り面103との境界よりも外周側に位置するように形成されているので、基板マーク4cが形成されていることによる研磨工程時における主表面112の中心側への縁ダレ部106の進行について、基板マーク4cが形成されていない他の角部との間での差を実質的になくすることができる。また、主表面112の縁ダレ部106に関する各角部間での差をなくすことができることにより、反対側の主表面111で生じる隆起部105に関する各角部間での差も実質的になくすことができる。さらに、前記の効果により、研磨工程後の主表面111,112ともに平坦度を所定値以上とすることが可能となる。主表面111の隆起部105に関する各角部間での差や、主表面112の縁ダレ部106に関する各角部間での差がともに実質的になくなることから、主表面111、112がともに線対称性、点対称性の高い表面形状とすることが可能となる。
【0053】
基板マーク4cは、上記のような効果を有するため、この第2の実施形態で示すような条件とすることにより、基板マーク4cを形成する基板の一辺の長さに関係なく(すなわち、一辺が6インチよりも大きい、例えば、8インチあるいはそれ以上の長さを有する矩形状の主表面を有する基板や、一辺が6インチよりも小さい、例えば5インチあるいはそれ以下の長さを有する矩形状の主表面を有する基板等に対しても)、基板の主表面111における、主表面111側から見た側面110の位置から10mmだけ主表面111の中央側に移動した位置およびその位置よりも中央側の領域(以下、中央側領域という。)で、基板マーク4cに起因して生じる隆起部5や縁ダレ部6の中央側領域への進行を最小限にとどめることができる(図4参照)。その結果、研磨工程後における主表面111および主表面112の中央側領域の平坦度を大幅に向上させることができる。さらに、主表面111、112がともに線対称性、点対称性の高い表面形状とすることが可能となる。
【0054】
また、特に反射型マスクに用いられるマスクブランクス用基板に求められる前記平坦度の所定値を満たすために、主表面111、112の凸部分に対して前記の局所加工を行う場合においても、加工時間を大幅に短縮することができる。さらに、局所加工を行うことによる主表面111、112の表面粗さが悪化することを抑制することもできる。
【0055】
また、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ2を、45°よりも大きく90°未満とすることにより、基板マーク4を厚さ方向に広がる面とすることができ、目視性を向上させることができる。より好ましくは、上記の傾斜角θ2を60°以上90°未満とするとよい。
【0056】
また、マスクブランク用基板1cの製造方法は、上述した実施形態の製造方法と比べると、基板マーク4の代わりに、基板マーク4cを形成した点などが相違する。この相違点を除くと、本実施形態の製造方法は、上述した実施形態の製造方法とほぼ同様であり、マスクブランク用基板1cの平坦度をさらに向上させることができる。
【0057】
このように、本実施形態のマスクブランク用基板1c及びその製造方法によれば、上述した実施形態とほぼ同様の効果を奏するとともに、基板マーク4cに起因する平坦度への悪影響をほぼ確実に排除でき、マスクブランク用基板1cのさらに優れた平坦度を実現することができる。
【0058】
[マスクブランク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態のマスクブランクは、上述した第1および第2の各実施形態のマスクブランク用基板1、1cの主表面111上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えた構成としてある。このマスクブランクは、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【0059】
光透過型のマスクブランクに形成される薄膜は、被転写体に転写するときに使用される露光光(露光光源から発せられる光)に対し、光学的変化をもたらす薄膜であり、たとえば、遮光膜、ハーフトーン位相シフト膜、光半透過膜などが挙げられる。遮光膜は、露光光に対する所定値以上の光学濃度(例えば、光学濃度3.0以上、2.5以上等)を有し、露光光を遮光する機能を有する。転写パターンを形成する薄膜に遮光膜を用いたマスクブランクは、バイナリ型転写マスクや掘込レベンソン型マスクを作製する場合に主に用いられる。遮光膜は、単層構造に限らず、遮光機能の主体とする遮光層と露光光に対する反射率を低減する機能を主体とする反射防止層を積層した構造も含まれる。遮光膜に適用可能な材料としては、Crを含有する材料、遷移金属とケイ素を含有する材料、Taを含有する材料などがある。
【0060】
前記のCrを含有する材料としては、具体的には、Cr金属あるいは、CrにN、C、O、F、Hから選ばれる1以上の元素を含有するCr化合物があげられる。遷移金属とケイ素を含有する材料としては、遷移金属とケイ素からなる遷移金属シリサイドあるいは、遷移金属シリサイドのほかにC、N、O、Bから選ばれる1以上の元素を含有する遷移金属シリサイド化合物があげられる。また、前記の遷移金属としては、Mo、Ta、Hf、Zr、Cr、Ti、V、Ni、Fe、Nb、W、Ru、Rh、Pd、Agから選ばれる金属または合金であることが好ましい。Taを含有する材料としては、Ta金属あるいは、TaにB、C、N、Oから選ばれる1以上の元素を含有するTa化合物があげられる。
【0061】
ハーフトーン位相シフト膜は、露光光を所定の透過率で透過させ、かつ、この膜が形成されていない光透過部を透過する露光光に対して所定の位相差を生じさせる膜であり、この膜を透過する露光光と光透過部を透過する露光光との間で位相シフト効果を生じさせる機能を有する。転写パターンを形成する薄膜にハーフトーン位相シフト膜を用いたマスクブランクは、ハーフトーン位相シフトマスクを作製する場合に主に用いられる。ハーフトーン位相シフト膜に適用可能な材料としては、遷移金属とケイ素を含有する材料などがある。遷移金属とケイ素を含有する材料としては、遷移金属とケイ素からなる遷移金属シリサイドのほかにC、N、O、Bから選ばれる1以上の元素を含有する遷移金属シリサイド化合物があげられる。なお、遷移金属については、遮光膜の場合と同様である。
【0062】
光半透過膜は、露光光を所定の透過率で透過させるが、この膜を透過する露光光と光透過部を透過する露光光との間で位相シフト効果が実質的に生じない位相差を生じさせるか、あるいは位相差が生じない膜である。転写パターンを形成する薄膜に光半透過膜用いたマスクブランクは、エンハンサ型位相シフトマスクを作製する場合に主に用いられる。光半透過膜に適用可能な材料としては、ハーフトーン位相シフト膜と同様、遷移金属とケイ素を含有する材料が好ましい。
【0063】
なお、光透過型のマスクブランクは、露光光源として、g線(波長:436nm)、i線(波長:365nm)、KrF(波長:246nm)、ArF(波長:193nm)、F2(波長:157nm)が使用される。
また、上記の遮光膜、ハーフトーン位相シフト膜、光半透過膜は、たとえば、DCスパッタ、RFスパッタ、イオンビームスパッタなどのスパッタリング法で形成することができる。
【0064】
次に、本実施形態のマスクブランクの製造方法は、上述した第1および第2の実施形態のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板1、1cの上に、前記に列挙した転写パターンとなる薄膜を形成する方法としてある。このマスクブランクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
以上説明したように、本実施形態のマスクブランク及びその製造方法によれば、優れた平坦度を有するマスクブランクを提供することができる。
【0065】
[反射型マスクブランク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態の反射型マスクブランクは、上述した第1および第2の各実施形態のマスクブランク用基板1、1cの主表面111上に、露光光を高反射率で反射する多層反射膜と、多層反射膜上に露光光を吸収する機能を有し、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を少なくとも備えた構成である。本実施形態の反射型マスクブランクは、多層反射膜と吸収体膜との間に、保護膜やバッファ膜を備える構成も含む。また、本実施形態の反射型マスクブランクは、多層反射膜等が形成されている主表面111とは反対側の主表面112に、導電性を有する導電膜を備える構成も含む。
【0066】
多層反射膜は、露光光に対して低屈折率の材料からなる低屈折率層と高屈折率の材料からなる高屈折率層の積層を1周期とし、これを複数周期(少なくとも20周期以上、好ましくは40周期以上)積層した膜構造を有する。露光光に、波長13.5nm前後のEUV(Extreme Ultra Violet)光を適用する場合においては、低屈折率層にはSi層が好ましく、高屈折率層にはMoが好ましい。
【0067】
吸収体膜は、転写パターンを形成するための薄膜であり、露光光に対して高い吸収性能が求められる。露光光がEUV光の場合、吸収体膜を形成する材料としては、Taを含有する材料が好適である。具体的には、Ta金属のほか、TaとB、Hf、Zr、Nb、Pt、W、Au、Re、Os、Siから選ばれる1以上の元素からなるTa化合物、Ta金属やTa化合物に、N、O、Cから選ばれる1以上の元素を含有する材料などがあげられる。
【0068】
保護膜は、吸収体膜に転写パターンを形成するときのドライエッチング時に多層反射膜を保護する役割や、反射型マスクの作製プロセス時や作成後の反射型マスクに対して行われる洗浄プロセスから多層反射膜を保護する役割を主に有する。保護膜に適用可能な材料としては、Ruを含有する材料、Siを含有する材料などが挙げられる。Ruを含有する材料の中でも、Ru金属、RuにNb、Zr、Mo、Ti、Laから選ばれる1以上の金属との合金などが好ましい。
【0069】
バッファ膜は、吸収体膜をドライエッチングする際に用いられるエッチングガスに対して耐性を有する材料からなるが、吸収体膜に転写パターンが形成された後、その吸収体パターンをマスクとするドライエッチングでパターニングされるものである。バッファ膜を形成する材料には、吸収体膜をドライエッチングする際に用いられるエッチングガスに対して耐性を有することのほかに、バッファ膜自体をドライエッチングするときのエッチングガスが、多層反射膜にダメージを与えないことが求められる。吸収膜がTa系材料の場合においては、バッファ膜には、Crを含有する材料が好ましい。具体的には、Cr金属あるいは、CrにN、C、O、F、Hから選ばれる1以上の元素を含有するCr化合物が挙げられる。
【0070】
導電膜は、多層反射膜を成膜するときに回転ステージに基板を静電チャックするとき、作製された反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックする際に必要とされる膜であり、その役割上、導電性が求められる。この導電膜に好適な材料としては、Crを含有する材料、Taを含有する材料が挙げられる。具体的には、Crを含有する材料では、Cr金属あるいは、CrにN、C、O、F、Hから選ばれる1以上の元素を含有するCr化合物がある。また、Taを含有する材料では、Ta金属あるいは、TaにB、C、N、Oから選ばれる1以上の元素を含有するTa化合物がある。
なお、上記の多層反射膜、吸収体膜、保護膜、バッファ膜、導電膜は、たとえば、DCスパッタ、RFスパッタ、イオンビームスパッタなどのスパッタリング法で形成することができる。
【0071】
なお、この反射型マスクブランクの場合においては、反射型のリソグラフィで用いられる反射型マスクを作製するためのものであるため、このマスクブランク用基板には、露光光に対する高い透過率は求められない。その代り、露光時に多層反射膜から発生する熱の影響が大きいため、基板は熱膨張係数が低い材料で形成されることが求められる。熱膨張係数が低い材料からなる基板としては、SiO2−TiO2系ガラス、石英ガラスなどのアモルファスガラスや、β−石英固溶体を析出した結晶化ガラスなどが挙げられる。
【0072】
次に、本実施形態の反射型マスクブランクの製造方法は、上述した第1および第2の実施形態のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板1、1cの上に、露光光を高反射率で反射する多層反射膜と、多層反射膜上に露光光を吸収する機能を有し、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を少なくとも形成する方法としてある。この反射型マスクブランクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
以上説明したように、本実施形態の反射型マスクブランク及びその製造方法によれば、優れた平坦度を有する反射型マスクブランクを提供することができる。
【0073】
[転写マスク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態の転写マスクは、上述したマスクブランクの薄膜に転写パターンが形成された構成としてある。この転写マスクは、上述したマスクブランクを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【0074】
次に、本実施形態の転写マスクの製造方法は、上述した実施形態のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成する方法としてある。
すなわち、転写マスクの製造方法は、通常、上記のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクを準備する工程と、薄膜上にスピンコート法等によってレジスト膜を成膜し、レジスト膜に対して転写パターンを露光描画し、現像処理等を経て所望のレジストパターンを形成するパターン形成工程と、レジストパターンをマスクして、薄膜をエッチング除去して薄膜に転写パターンを形成する薄膜パターン形成工程とを有する。
【0075】
この転写マスクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
なお、本実施形態の転写マスクは、前記のバイナリ型転写マスク、掘込レベンソン位相シフトマスク、ハーフトーン位相シフトマスク、エンハンサ型位相シフトマスクなどに適用される。
【0076】
[反射型マスク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態の反射型マスクは、上述した反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成された構成としてある。この反射型マスクは、上述した反射型マスクブランクを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【0077】
次に、本実施形態の反射型マスクの製造方法は、上述した実施形態の反射型マスクブランクの製造方法によって得られた反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンを形成する方法としてある。
すなわち、反射型マスクの製造方法は、通常、上記の反射型マスクブランクの製造方法によって得られた反射型マスクブランクを準備する工程と、吸収体膜上にスピンコート法等によってレジスト膜を成膜し、レジスト膜に対して転写パターンを露光描画し、現像処理等を経て所望のレジストパターンを形成するパターン形成工程と、レジストパターンをマスクして、吸収体膜をエッチング除去して吸収体膜に転写パターンを形成する吸収体パターン形成工程とを有する。
【0078】
この反射型マスクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【実施例】
【0079】
[実施例1]
最初に、低熱膨張係数を有するTiO2−SiO2からなり、平面形状がほぼ正方形であり、一辺の長さが約152mm(6インチ)、厚さが6.35mm(0.25インチ)の基板1cを準備した。
基板マーク形成工程において、基板1cに、R面102、面取り面103及び基板マーク4cを形成した(図2参照)。R面102は、基板1cの四隅に形成された湾曲面であり、曲率半径を2.5mmとした。また、面取り面103は、主表面111及び主表面112の周縁に形成され、面取り幅0.5mmとした。なお、基板1cは、主表面111を多層反射膜や吸収体膜が形成される側とし、主表面112を導電成膜が形成される側とした。
【0080】
基板マーク4cは、図2でいう右上の角及び左下の角に形成され、R面102と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とを切り落とした斜断面(一つの斜断面)とした。なお、基板マーク4cは、面取り面103と交差する曲線状の境界41cを有しており、主表面112と面取り面103との境界より外周側に位置するように形成した。
また、基板マーク4cと面取り面103との境界41cから基板マーク4cとR面102との境界までの距離W2(この距離W2は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界41cの任意の点から、境界41cの線(接線)に対して直交する方向における、基板マーク4cとR面102との境界までの距離の最大値である。)を、約0.4mmとした。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4cとR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H2を、約1.5mmとし、主表面112に対する基板マーク4cの傾斜角θ2を、約75°とした。なお、図示された基板マーク4cの最大高さ値H2は、厚さ(6.35mm)の23%以上であった。
また、基板マーク4cは、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、鏡面加工の仕上げを施した。
続いて、基板1cに、両面ラッピング装置によって研削加工を施した。
【0081】
次に、研磨工程において、基板マーク4cの形成された基板1cに対し、上述した両面研磨装置を用いて、研磨加工(粗研磨加工、精密研磨加工、及び、超精密研磨加工)を施した。
(1)粗研磨工程
研削加工を施した基板1cを、両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨工程を行った。この研磨を10回行い合計100枚の基板1cの粗研磨工程を行った。
なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液:酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)+水
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
粗研磨工程後、基板1cに付着した研磨砥粒を除去するため、基板1cを洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0082】
(2)精密研磨工程
粗研磨加工を施した基板1cを、両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨工程を行った。この研磨を10回行い合計100枚の基板1cの精密研磨工程を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液:酸化セリウム(平均粒径1μm)+水
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
精密研磨工程後、基板1cに付着した研磨砥粒を除去するため、基板1cを洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0083】
(3)超精密研磨工程
精密研磨加工を施した基板1cを、両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨工程を行った。この研磨を10回行い合計100枚の基板1cの超精密研磨工程を行った。なお、加工荷重、研磨時間は必要な平坦度(所望の平坦度:0.1μm以下)となるように適宜調整して行った。
研磨液:コロイダルシリカ(平均粒径30〜200nm)+水
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
超精密研磨工程後、基板1cに付着した研磨砥粒を除去するため、基板1cを、フッ酸およびケイフッ酸を含む洗浄液が入った洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0084】
(測定結果)
洗浄された基板1cの主表面111の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図3に示す。図3の表面形状分布は、基板の主表面111の中心を基準とした142mm×142mmの角内領域のものである(以下、各比較例においても同様。)。基板1cの主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.065μmであり、良好な結果であった。
また、図3の主表面111の表面形状分布では、基板1cの4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少凸形状となっている(隆起部5が発生している)が、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった(図4参照)。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1cの4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少縁ダレ部6は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部6の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様、良好であった。
【0085】
基板1cの表面形状分布の測定結果は良好ではあるが、主表面111,112ともに、主表面111(主表面112)の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度が、EUV光を露光光とする反射型マスクブランクを製造するためのマスクブランク用基板に求められる132mm×132mmの角内領域における平坦度0.05μm以下を満たしていない。そこで、所定の平坦度を満たすために、局所加工工程を行った。具体的には、まず、先に測定した主表面111,112の各表面形状分布のデータを基に、所定の平坦度を満たすために局所加工すべき凸部の位置および必要加工量を算出した。次に、磁性流体を用いて局所加工を行うMRF加工装置に、基板1cをセットおよび凸部位の位置および必要加工量の情報を入力し、主表面111,112に対して局所加工を行った。加工に要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、大幅に短縮できていた。
【0086】
次に、局所加工後の基板1cの主表面111,112に対して、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨を用い、両面研磨装置で表面粗さを回復(Rqで0.15nm以下)するための極短時間の研磨を行った。表面粗さを回復させるのに要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、やはり短縮できていた。最後に、所定の洗浄処理等を行い、反射型マスクブランクの製造に使用可能なマスクブランク用基板1cを得た。
【0087】
次に、得られたマスクブランク用基板1cの主表面112に導電膜としてCrN膜をスパッタリング法により膜厚30nmで成膜した。このとき、主表面112の外周領域(少なくとも面取り面103)には導電膜を形成しないようにした。次に、イオンビームスパッタ装置の回転ステージに導電膜の形成されたマスクブランク用基板1cを静電チャックさせ、イオンビームスパッタ法によりSi/Mo多層反射膜を成膜した。具体的には、主表面111側からSi膜4.2nm、Mo膜2.8nmを1周期として40周期成膜し、最後に、Si膜を4nm成膜した。次に、多層反射膜のSi膜上にRuNbからなる保護膜を2.5nmの膜厚で成膜した。さらに、保護膜上にTaNからなる下層とTaOからなる上層の積層構造の吸収体膜を成膜し、反射型マスクブランクを得た。
【0088】
次に、得られた反射型マスクブランクの吸収体膜上に、電子線露光用のレジスト膜をスピンコート法で成膜した。レジスト膜に対して電子線描画および現像処理を行い、転写パターンを有するレジストパターンを形成した。レジストパターンをマスクとして、CF4ガスによるドライエッチングを行い吸収体膜の上層に転写パターンを形成した。さらに、レジストパターンおよび上層の転写パターンをマスクとして、Cl2ガスによるドライエッチングを行い、吸収体膜の下層に転写パターンを形成した。さらに、レジストパターンを剥離、所定の洗浄処理を行い、反射型マスクを得た。
【0089】
得られた反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックで固定し、半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、EUV光を露光光とする露光転写を行った。露光転写後のレジスト膜に対し、所定の現像処理等を行い、このレジスト膜をマスクとし、半導体ウェハ上の薄膜に対してドライエッチングを行い、回路パターンを形成した。半導体ウェハ上に形成された回路パターンをTEM観察したところ、高い精度で形成されていることが確認された。この結果は、使用した反射型マスクの基板1cが優れた平坦度を有していることによるところが大きい。
【0090】
<比較例1>
比較例1は、実施例1と比べると、基板マーク4を形成する代わりに、上述した基板マーク104を形成した点が相違する。なお、比較例の研磨工程等の加工条件等は、実施例1とほぼ同様としてある。
したがって、実施例1と同様な内容については、その詳細な説明を省略する。
基板マーク104は、図8でいう右上の角及び左下の角に形成され、主表面112と、R面102と、R面102に続く2つの側面110と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とを切り落とした斜断面(一つの斜断面)とした。なお、基板マーク104は、主表面112と交差する線分状の境界141を有しており、この境界141が、上方から見ると、R面102を通る対角線と直交するように、基板マーク104を形成した。
また、基板マーク104と主表面112との境界141から基板マーク104とR面102との境界までの距離W0(この距離W0は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界141の任意の点から、境界141の線に対して直交する方向における、基板マーク104とR面102との境界までの距離の最大値である。)を、約3.0mmとした。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク104とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H0を、約1.2mmとし、主表面112に対する基板マーク104の傾斜角θ0を、約22°とした。なお、基板マーク104の最大高さ値H0は、基板の厚さ(6.35mm)の19%未満であった。
また、基板マーク104は、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、鏡面加工の仕上げを施した。
続いて、基板101に、両面ラッピング装置によって研削加工を施した。
【0091】
次に、研磨工程において、基板マーク104の形成された基板101に対し、実施例1と同様に、両面研磨装置を用いて、研磨加工(粗研磨加工、精密研磨加工、及び、超精密研磨加工)を施した。
続いて、超精密研磨工程後、基板101に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を、フッ酸およびケイフッ酸を含む洗浄液が入った洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0092】
(測定結果)
洗浄された基板101の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図5に示す。基板101の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.168μmであり、かなりよくない結果であった。
また、図5の主表面111の表面形状分布では、基板101の基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、基板マークが形成されていない2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく高い凸形状となっている(隆起部105が発生している)。4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に大きい。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、他の2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく縁ダレており、4隅の間で縁ダレ部106の高さレベルのバラツキも非常に大きかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様よくなかった。
【0093】
<比較例2>
比較例2は、比較例1と比べると、基板マーク104を図8でいう4角の全てに形成した点と、基板マーク104と主表面112との境界141から基板マーク104とR面102との境界までの距離W0を、約2.4mmとし、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク104とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H0を、約1.1mmとし、主表面112に対する基板マーク104の傾斜角θ0を、約25°とした点のみ異なる。なお、比較例2における基板マーク104の最大高さ値H0は、基板の厚さ(6.35mm)の17%以上であった。
【0094】
(測定結果)
比較例1と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板101の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図6に示す。基板101の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.116μmであった。
また、図6の主表面111の表面形状分布では、基板101の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも凸形状となっている(隆起部105が発生している)が、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1cの4隅のR面102近傍の形状は、いずれも縁ダレ部106は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部106の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。しかし、主表面111、112ともに132mm×132mmの角内領域における平坦度は、比較例1よりは良好であるが、実施例1と比べるとよくない結果であった。
【0095】
<比較例3>
比較例3は、比較例2と比べると、基板マーク104を図8でいう右上の角及び左下の角にのみ形成した点が異なる。
【0096】
(測定結果)
比較例2と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板101の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図7に示す。基板101の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.111μmであった。
また、図7の主表面111の表面形状分布では、基板101の基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、基板マークが形成されていない2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく高い凸形状となっている(隆起部105が発生している)。4隅の間で凸形状の高さのバラツキは大きい。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、他の2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく縁ダレており、4隅の間で縁ダレ部106の高さレベルのバラツキも大きかった。さらに、主表面111、112ともに132mm×132mmの角内領域における平坦度は、比較例1よりは良好であるが、実施例1と比べるとよくない結果であった。
【0097】
<実施例2>
実施例2は、実施例1と比べると、基板マーク4と主表面112との境界41から基板マーク4とR面102との境界までの距離W1を、約0.9mmとし、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H1を、約2.0mmとし、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ1を、約66°とした点のみ異なる(図1参照)。なお、基板マーク4の最大高さ値H1は、基板の厚さ(6.35mm)の31%以上であった。
【0098】
(測定結果)
実施例1と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板1の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図10に示す。基板1の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.075μmであった。
【0099】
また、図10の主表面111の表面形状分布では、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少凸形状となっているが、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少縁ダレ部は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様、良好であった。
【0100】
基板1の表面形状分布の測定結果は良好ではあるが、主表面111,112ともに、主表面111(主表面112)の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度が、EUV光を露光光とする反射型マスクブランクを製造するためのマスクブランク用基板に求められる132mm×132mmの角内領域における平坦度0.05μm以下を満たしていない。そこで、所定の平坦度を満たすために、実施例1と同様の手順で局所加工工程を行った。局所加工に要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、大幅に短縮できていた。
【0101】
次に、局所加工後の基板1の主表面111,112に対して、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨を用い、両面研磨装置で表面粗さを回復(Rqで0.15nm以下)するための極短時間の研磨を行った。表面粗さを回復させるのに要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、やはり短縮できていた。最後に、所定の洗浄処理等を行い、反射型マスクブランクの製造に使用可能なマスクブランク用基板1を得た。
【0102】
次に、得られたマスクブランク用基板1を用い、実施例1と同様の手順により、実施例2の反射型マスクブランクを得た。さらに、得られた反射型マスクブランクを用い、実施例1と同様の手順により、実施例2の反射型マスクを得た。得られた実施例2の反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックで固定し、半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、EUV光を露光光とする露光転写を行った。露光転写後のレジスト膜に対し、所定の現像処理等を行い、このレジスト膜をマスクとし、半導体ウェハ上の薄膜に対してドライエッチングを行い、回路パターンを形成した。半導体ウェハ上に形成された回路パターンをTEM観察したところ、高い精度で形成されていることが確認された。この結果は、使用した反射型マスクの基板1が優れた平坦度を有していることによるところが大きい。
【0103】
<実施例3>
実施例3は、実施例1と比べると、基板マーク4と主表面112との境界41から基板マーク4とR面102との境界までの距離W1を、約1.4mmとし、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H1を、約1.5mmとし、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ1を、約47°とした点のみ異なる(図1参照)。なお、実施例3に係る基板マーク4の最大高さ値H1は、基板の厚さ(6.35mm)の23%以上であった。
【0104】
(測定結果)
実施例1と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板1の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図11に示す。基板1の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.080μmであった。
【0105】
また、図11の主表面111の表面形状分布では、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少凸形状となっているが、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少縁ダレ部は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様、良好であった。
【0106】
基板1の表面形状分布の測定結果は良好ではあるが、主表面111,112ともに、主表面111(主表面112)の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度が、EUV光を露光光とする反射型マスクブランクを製造するためのマスクブランク用基板に求められる132mm×132mmの角内領域における平坦度0.05μm以下を満たしていない。そこで、所定の平坦度を満たすために、実施例1と同様の手順で局所加工工程を行った。局所加工に要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、大幅に短縮できていた。
【0107】
次に、局所加工後の基板1の主表面111,112に対して、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨を用い、両面研磨装置で表面粗さを回復(Rqで0.15nm以下)するための極短時間の研磨を行った。表面粗さを回復させるのに要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、やはり短縮できていた。最後に、所定の洗浄処理等を行い、反射型マスクブランクの製造に使用可能なマスクブランク用基板1を得た。
【0108】
次に、得られたマスクブランク用基板1を用い、実施例1と同様の手順により、実施例3の反射型マスクブランクを得た。さらに、得られた反射型マスクブランクを用い、実施例1と同様の手順により、実施例3の反射型マスクを得た。得られた実施例3の反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックで固定し、半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、EUV光を露光光とする露光転写を行った。露光転写後のレジスト膜に対し、所定の現像処理等を行い、このレジスト膜をマスクとし、半導体ウェハ上の薄膜に対してドライエッチングを行い、回路パターンを形成した。半導体ウェハ上に形成された回路パターンをTEM観察したところ、高い精度で形成されていることが確認された。この結果は、使用した反射型マスクの基板1が優れた平坦度を有していることによるところが大きい。
【0109】
以上、本発明のマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法について、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係るマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法は、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、マスクブランク用基板1、1cは、一つの角部に一つの斜断面からなる基板マーク4、4cを形成してあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、一つの角部に二つ以上の斜断面からなる基板マークを形成してもよく、さらに、膜マークなどと併用してもよい。これにより、識別能力を向上させることができる。更に、上記した実施形態及び実施例では、一辺の長さが約152mmで厚さが6.35mmの正方形マスクブランク用基板について説明したが、本発明は何等これに限定されることなく、長方形マスクブランク用基板にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0110】
1、1c、101 マスクブランク用基板
4、4a、4b、4c、104 基板マーク
5、105 隆起部
6、106 縁ダレ部
21 研磨パッド
41、141 境界
102 R面
103 面取り面
110 側面
111,112 主表面
211 凸部
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、研磨加工において、斜断面からなる基板マーク(ノッチマークとも呼ばれる。)による平坦度への悪影響を排除し、平坦度を向上させることができるマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超LSIデバイスの高密度化や高精度化に伴い、マスクブランク用基板、マスクブランク、転写マスクなどに要求される基板表面の微細化傾向は年々厳しくなる状況にある。特に、露光光源の波長が短くなるにしたがって、基板表面の形状精度(平坦性)や品質(欠陥サイズ)に対する要求が厳しくなっており、きわめて平坦度が高く、かつ、微小欠陥がないマスクブランク用基板などが求められている。また、露光光を反射する反射型マスクに用いられるマスクブランク用基板の場合においては、基板表面の形状精度や品質に対する要求が特に厳しい。
【0003】
上記の要求に応えるために、様々な技術が開発されている。
たとえば、特許文献1には、マスクブランク用ガラス基板表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程を有するマスクブランク用ガラス基板(マスクブランク用基板とも呼ばれる。)の製造方法が開示されている。
この技術は、研磨砥粒が、有機ケイ素化合物を加水分解することで生成したコロイダルシリカ砥粒を含むことや、研磨液が、コロイダルシリカ砥粒を含むものであるとともに、中性であることを特徴としている。
【0004】
また、特許文献2には、マスクブランク用ガラス基板表面の凹凸形状を測定する凹凸形状測定工程と、凹凸形状測定工程で得られた測定結果にもとづいて、ガラス基板表面に存在する凸部位の凸度を特定するとともに、この凸度に応じた加工条件で凸部位に局所加工を施すことにより、ガラス基板表面の平坦度を所定の基準値以下に制御する平坦度制御工程と、平坦度制御工程の後、局所加工が施されたガラス基板表面を研磨する研磨工程と、を有するマスクブランク用ガラス基板の製造方法の技術が開示されている。この技術は、平坦度制御工程の後で、かつ、研磨工程の前に、局所加工が施されたガラス基板表面に、酸処理を施す方法としてある。
【0005】
また、上記の特許文献2の技術は、凹凸形状測定工程や平坦度制御工程などを有しており、凹凸形状測定工程の前に、準備工程を有している。
この準備工程は、少なくとも、マスクブランク用基板の両面を粗研磨する粗研磨工程と、粗研磨されたマスクブランク用基板の両面を精密研磨する精密研磨工程とを有し、段階的な研磨が行われる。この際、たとえば、粗研磨工程では、比較的研磨砥粒の大きい酸化セリウムを含む研磨液が使用され、精密研磨工程では、比較的研磨砥粒の小さいコロイダルシリカを含む研磨液が使用される。
【0006】
また、従来、マスクブランク用基板では、基板の種類や基板の表裏を判別できるようにするため、矩形のマスクブランク用基板のコーナー部(角部とも呼ばれる。)において、主表面を斜断面状に切り落としてなる基板マーク(あるいは、ノッチマークとも呼ばれる。)が利用されてきた。
【0007】
基板マークに関連する様々な技術が開発されている。
たとえば、特許文献3には、所定の光学特性が要求されるマスクブランク用透明基板であって、所定のコーナー部を斜断面状に切り落として形成され、その形状が光学特性に応じて定められた基板マークを有することを特徴とするマスクブランク用透明基板の技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、略矩形のフォトマスク用基板であって、該矩形のコーナー部において、主表面と該コーナー部を形成する2つの端面との3面を斜断面状に切り落としてなるノッチマークを少なくとも1以上有し、該ノッチマークが、該フォトマスク用基板の該コーナー部を含む対角線に対し非対称形状であることを特徴とするフォトマスク用基板の技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−98278号公報
【特許文献2】特開2004−310067号公報
【特許文献3】特開2006−78991号公報
【特許文献4】特開2000−356849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、基板マークは、上記の特許文献4に記載されているように、「マスク用基板の品質に直接影響するものではない」と考えられていた。しかし、本発明者は、マスクブランク用基板の平坦度を向上させる研究において、斜断面からなる基板マークが、研磨加工において、平坦度へ悪影響を及ぼしていることを見い出した。
【0011】
すなわち、斜断面からなる基板マークの形成されたマスクブランク用基板に対し、両面研磨装置(たとえば、上記特許文献1に記載した両面研磨装置)を用いて、粗研磨工程、精密研磨工程、及び、コロイダルシリカを含む研磨液を使用する超精密研磨工程を施したところ、基板マークの形成された裏面(裏側の主表面)のコーナー部近傍において、縁ダレが発生し、また、該コーナー部近傍に対応する表面(転写パターンを有する薄膜が形成される側の主表面)において、隆起が発生するといった問題があった。
【0012】
なお、特許文献1〜4の技術は、本発明に関連する技術ではあるものの、上記の課題を効果的に解決することはできない技術であった。
【0013】
本発明は、以上のような問題を解決するために提案されたものであり、研磨加工において、斜断面からなる基板マークによる平坦度への悪影響を排除し、平坦度を向上させることができるマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、および反射型マスク、並びにそれらの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のマスクブランク用基板は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満である構成としてある。
更に望ましくは、前記基板マークは、主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さいことを特徴とする構成としてある。
【0015】
本発明のマスクブランク用基板は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さい構成としてある。
また、前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする構成としてある。
【0016】
また、本発明のマスクブランクは、前記マスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えることを特徴とする構成としてある。
さらに、本発明の反射型マスクブランクは、前記マスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を備えることを特徴とする構成としてある。
また、本発明の転写マスクは、前記マスクブランクの薄膜に転写パターンが形成されたことを特徴とする構成としてある。
さらに、本発明の反射型マスクは、前記反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成されたことを特徴とする構成としてある。
【0017】
上記目的を達成するため、本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満に形成されている方法としてある。
更に望ましくは、前記基板マークは、主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されることを特徴とする方法としてある。
【0018】
本発明のマスクブランク用基板の製造方法は、2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されている方法としてある。
また、前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする方法としてある。
【0019】
また、本発明のマスクブランクの製造方法は、前記マスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えることを特徴とする方法としてある。
さらに、本発明の反射型マスクブランクの製造方法は、前記マスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を備えることを特徴とする方法としてある。
また、本発明の転写マスクの製造方法は、前記マスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの薄膜に薄膜パターンを形成することを特徴とする方法としてある。
さらに、本発明の反射型マスクの製造方法は、前記反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成されたことを特徴とする方法としてある。
【発明の効果】
【0020】
本発明のマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法によれば、研磨加工において、斜断面からなる基板マークによる平坦度への悪影響を排除し、平坦度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はA部拡大図を示しており、(c)はB−B断面図を示している。
【図2】図2は、本発明の第2の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はC部拡大図を示しており、(c)はD−D断面図を示している。
【図3】図3は、本発明の実施例1にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図4】図4は、本発明の実施例1にかかるマスクブランク用基板の要部の概略拡大断面図を示している。
【図5】図5は、本発明の比較例1にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図6】図6は、本発明の比較例2にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図7】図7は、本発明の比較例3にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図8】図8は、本発明に関連するマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はE部拡大図を示しており、(c)はF−F断面図を示している。
【図9】図9は、本発明の課題を説明するためのマスクブランク用基板の要部の概略図であり、(a)は超精密研磨工程を開始した際の拡大断面図を示しており、(b)は超精密研磨工程を終了した後の拡大断面図を示している。
【図10】図10は、本発明の実施例2にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【図11】図11は、本発明の実施例3にかかるマスクブランク用基板における主表面の表面形状を測定した結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に関連するマスクブランク用基板及び基板マークについて、図面を参照して説明する。図8は、本発明に関連するマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はE部拡大図を示しており、(c)はF−F断面図を示している。
図8において、マスクブランク用基板101は、平面形状がほぼ正方形であり、2つの側面110が隣接するコーナー部にR面102が形成され、主表面111,112と側面110(R面102を含む)との間に面取り面103が形成されており、裏側の主表面112(転写パターンを形成するための薄膜が成膜される側の主表面とは反対側の主表面)側のコーナー部には、基板マーク104が形成されている。
【0023】
マスクブランク用基板101の材料は、マスクブランクとして用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、たとえば、合成石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラスのほか、特に反射型マスクに用いられる基板には、SiO2−TiO2ガラス等の低熱膨張ガラスなども用いられる。
また、マスクブランク用基板101は、一辺の長さが約152mm(6インチ)、厚さが6.35mm(0.25インチ)前後のものが広く用いられている。ただし、マスクブランク用基板101の形状、大きさ、厚さなどは、特に限定されるものではない。
【0024】
R面102は、マスクブランク用基板101の四隅に形成された湾曲面であり、曲率半径は、通常、2.5±0.5mmである。
また、主表面111,112の各周縁には、側面110(R面102を含む)との間に環状の面取り面103が形成されている。この面取り面103は、約45°傾斜した斜面(C面とも呼ばれる。)であり、通常、面取り幅は0.4〜0.6mmである。
なお、マスクブランク用基板101は、裏側の主表面112に基板マーク104が形成されるが、これに限定されるものではない。
【0025】
基板マーク104は、図8では右上の角に形成されており、主表面112と、R面102と、R面102に続く側面110と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とにかかって形成された斜断面(一つの斜断面)形状としている。
この基板マーク104は、主表面112と交差する線状の境界141(すなわち、基板マーク104と主表面112との境界141)、及び、R面102と交差する線状の境界(すなわち、基板マーク104とR面102との境界)を有している。また、基板マーク104と主表面112との境界141から基板マーク104とR面102との境界までの距離W0(この距離W0は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界141の任意の点から、境界141の線に対して直交する方向における、基板マーク104とR面102との境界までの距離の最大値である。)を、この例では約2.4mmとしている。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク104とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H0を、この例では約1mmとしてあり、主表面112に対する基板マーク104の傾斜角θ0は、約25°である。
【0026】
図8のマスクブランク用基板101では、一つの角に基板マーク104が形成されている。しかし、材料などに応じて、複数の角に基板マーク104を形成し、この形成した基板マーク104の数量や位置などによって、材料を識別することも行われる。基板マーク104は、通常、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、さらに、洗浄工程等で汚れが付着しないように、鏡面加工の仕上げが施される。
【0027】
ここで、一般的なマスクブランク用基板101における縁ダレや隆起の問題について、図面を参照して説明する。図9は、マスクブランク用基板の要部の概略図であり、(a)は主表面111,112に対して超精密研磨工程を開始した際の拡大断面図を示しており、(b)は超精密研磨工程を終了した後の拡大断面図を示している。
図9(a)において、マスクブランク用基板101は、両面研磨装置に設けられた対向する一対の研磨パッド21に挟まれている。研磨パッド21は、コロイダルシリカを含む研磨液(図示せず)が供給されており、また、上下方向に所定の圧力が加えられている。また、研磨パッド21は、通常、超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)が用いられる。
【0028】
研磨パッド21に挟まれたマスクブランク用基板101は、キャリア(図示せず)に保持された状態で、公転及び自転し、主表面111,112に対して、同時に研磨工程が行われる。
このとき、主表面112が、下側の研磨パッド21を押圧することによって、境界141より外側であって、研磨パッド21の基板101によって押圧されていない領域である基板マーク104の下方に、破線で示す研磨パッド21からなる凸部211が発生する。また、マスクブランク用基板101は、上記の状態で公転及び自転するので、応力が集中している境界141が、凸部211と接触し、境界141が凸部211を乗り越えようとする状態で、研磨されると推察される。このため、主表面112の境界141の近傍は、主表面112の他の領域よりも優先的に研磨される状態になってしまう。
【0029】
所定の時間だけ研磨されたマスクブランク用基板101は、図9(b)に示すように、基板マーク104の形成された主表面112のR面102の近傍において、大きく縁ダレ部106が形成されてしまう。一方、R面102の近傍に対応する主表面111(主表面112の縁ダレ部106が形成された領域に対応する主表面111)においては、逆に隆起部105が形成されてしまう。
縁ダレ部106は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面に対して、0.1μm以上のへこみ量h01を有しており、また、隆起部105は、主表面111の中央部付近を含む仮想平面に対して、0.1μm以上の突出量h02を有していた。さらに、縁ダレ部106及び隆起部105は、おおむね、R面102から半径R(R=約5〜15mm)以内の領域に形成されていた。
【0030】
ここで、縁ダレ部106及び隆起部105の形成された領域は、ほぼ対応しており、かつ、h01≒h02であった。これは、主表面112側に縁ダレ部106が形成され始めると、縁ダレ部106と下側の研磨パッド21との間に隙間が生じ、下側の圧力が低下してくる。そして、上側の研磨パッド21から掛かる主表面111側に対する圧力が下側に逃げやすくなり、上側の研磨レートが低下する。このような現象によるものと推察される。
【0031】
[マスクブランク用基板及びその製造方法の第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はA部拡大図を示しており、(c)はB−B断面図を示している。
図1において、本実施形態のマスクブランク用基板1は、斜断面からなる基板マーク4が形成された構成としてある。
また、マスクブランク用基板1は、上述したマスクブランク用基板101と比べると、基板マーク104の代わりに、基板マーク4を形成した点などが相違する。なお、本実施形態の他の構成は、マスクブランク用基板101とほぼ同様としてある。
したがって、図1において、図8と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0032】
(基板マーク)
基板マーク4は、図1の場合も基板マーク104とほぼ同様に右上の角に形成されており、主表面112と、R面102と、R面102に続く2つの側面110と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とにかかって形成された斜断面(一つの斜断面)形状としてある。
この基板マーク4は、主表面112と交差する線状の境界41(すなわち、基板マーク4と主表面112との境界41)、及び、R面102と交差する線状の境界(すなわち、基板マーク4とR面102との境界)を有している。また、基板マーク4と主表面112との境界41から基板マーク4とR面102との境界までの距離W1(この距離W1は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界41の任意の点から、境界41の線に対して直交する方向における、基板マーク4とR面102との境界までの距離の最大値である。)を、1.5mm未満としてある。なお、この距離W1は、好ましくは1.4mm以下である。
【0033】
主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H1は、特に限定されない。基板マーク4を視認し易くすることを考慮する場合、H1を1.1mm以上とすることが好ましく、1.5mm以上であるとより好ましい。換言すれば、上記の最大値H1(基板マーク4の最大高さとも呼ばれる。)は、厚さ6.35mmのマスクブランク用基板の場合、厚さの17%を超えることが望ましく、24%以上であることが更に望ましい。また、この基板マーク4の表面形状は、基板のR面102を通る対角線Bに対して対称性が高い形状(線対称な形状)であることが好ましい。基板マーク4の表面形状の対称性が高いと、研磨工程で研磨した後の主表面111および主表面112の表面形状の対称性が高くなる傾向がある。
【0034】
マスクブランク用基板の場合、主表面111,112はともに高水準の表面粗さが求められる。このため、研削工程後の基板の主表面に対して研磨工程を行う必要がある。前記の説明の通り、主表面に対して研磨工程を行った場合、縁ダレが境界41から主表面の中心側に向かって進行していき、研磨工程後に縁ダレ部106が形成されてしまう(図9(b)参照)。上記の距離W1を1.5mm以上とすると、研磨工程後に形成されてしまう縁ダレ部106が主表面112の中心側に進行しすぎてしまう。さらに、縁ダレ部106に対応するように主表面111に隆起部105が形成されるため、主表面111の平坦度への悪影響が大きくなってしまう。上記の距離W1を、1.5mm未満とすると、縁ダレ部106の主表面112の中心側への進行、さらには隆起部105の主表面111の中心側への進行を最小限にとどめることができ、研磨工程後の主表面111の平坦度をほぼ所定値(後述する0.05μm)以下とすることが可能となる。
【0035】
本発明のマスクブランク用基板は、光透過型リソグラフィで用いられる光透過型の転写マスクおよびその原版となるマスクブランク、反射型リソグラフィで用いられる反射型マスクおよびその原版となる反射型マスクブランクのいずれにおいても適用可能である。特に、反射型マスクに用いられる基板は、主表面の平坦度、表面粗さともに非常に高い水準が求められている。たとえば、主表面の中心を基準とする132mm×132mmの角内領域(すなわち、主表面111における、側面110の位置から10mmだけ中央側に移動した位置およびその位置よりも中央側の領域)での平坦度が0.05μm以下である必要がある。また、主表面の表面粗さについては、10μm×10μmの角内領域での自乗平方根平均粗さRqで0.15nm以下である必要がある。
【0036】
通常、研磨工程後の基板は、上記の求められる優れた平坦度を満たせない場合が多い。このため、従来、研磨工程後の基板の主表面形状を測定し、主表面の凸部分を局所加工することで上記の平坦度を満たす基板を製造している。しかし、主表面上の凸部分の領域が多いほど、あるいは凸部分の高さが高いほど局所加工の加工時間が掛ってしまう。また、通常、局所加工を行う時間が長くなるほど、研磨加工で良好にした主表面の表面粗さが悪化する度合いが大きくなる。これらのことから、研磨工程後の基板の平坦度が、上記の数値を満たせるように、また、満たせないとしてもより近い水準になるように、基板マークの形状を規定することは重要である。
【0037】
通常、反射型マスクは、多層反射膜が形成される主表面111とは反対側の主表面112に導電性材料からなる導電膜が設けられる。そして、反射型マスクを露光装置にセットするときは、その導電膜の全面を平面のチャックステージに静電チャックすることで固定する。このため、主表面112にも前記の所定値以下の優れた平坦度が求められており、主表面112の縁ダレ部の中心側への進行を抑制する基板マークの形状を規定することは重要である。
一方、光透過型の転写マスクの場合においても、反射型マスクほどではないが、パターンを形成する薄膜を設ける側の主表面111には優れた平坦度が求められており、上記のように基板マーク4の形状を規定することは重要である。
【0038】
主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ1は、45°よりも大きく90°未満とすることが好ましい。より好ましくは、上記の傾斜角θ1を60°以上90°未満とするとよい。このような構成とすることで、基板マーク4を厚さ方向に広がる面とすることができ、目視性を向上させることができる。
【0039】
また、より好ましくは、上記の距離W1を1.0mm未満とするとよい。このようにすると、縁ダレ部106の主表面112の中心側への進行、さらには隆起部105の主表面111の中心側への進行をより最小限にとどめることができ、主表面111、112の平坦度を上記所定値以下とすることが可能な範囲を拡大(例えば、主表面の中心を基準とする142mm×142mmの角内領域など)しても、局所加工に要する時間を低減することができる。
さらに、基板マーク4の境界41は、基板のR面102を通る対角線Bに対して略直交することが望ましい。このように構成することで、研磨工程後における主表面112の縁ダレ部106の分布を対角線Bに対する線対称性が高くなる傾向にできる。
【0040】
また、図1(c)に二点鎖線で示す基板マーク4aは、上記の距離W1を約0.9mmとし、かつ、傾斜角θ1を約60°としてある。さらに、図1(c)に破線で示す基板マーク4bは、上記の距離W1を約0.9mmとし、かつ、傾斜角θ1を約70°としてある。これら基板マーク4aや基板マーク4bの形成されたマスクブランク用基板1は、上述したように、より平坦度を向上させることができる。
なお、基板マーク4などの各寸法は、上記の寸法に限定されるものではなく、距離W1が1.5mm未満であるという条件を満足する限り、適宜の寸法に設定される。
【0041】
基板マーク4の距離W1をこの第1の実施形態で示したような条件とすることにより、基板マーク4を形成する基板の一辺の長さに関係なく(すなわち、一辺が6インチよりも大きい、例えば、8インチあるいはそれ以上の長さを有する矩形状の主表面を有する基板や、一辺が6インチよりも小さい、例えば5インチあるいはそれ以下の長さを有する矩形状の主表面を有する基板等に対しても)、基板の主表面111における、側面110の位置から10mmだけ主表面111の中央側に移動した位置およびその位置よりも中央側の領域(適宜、中央側領域という。)で、基板マーク4に起因して生じる隆起部105や縁ダレ部106の中央側領域への進行を最小限にとどめることができる。その結果、研磨工程後における主表面111および主表面112の中央側領域の平坦度を大幅に向上させることができる。
【0042】
次に、上記マスクブランク用基板1の製造方法について説明する。
本実施形態のマスクブランク用基板の製造方法は、マスクブランク用基板1に、斜断面からなる基板マーク4を形成する基板マーク形成工程と、マスクブランク用基板1の両面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程を有する方法としてある。
【0043】
(基板マーク形成工程)
まず、基板マーク形成工程において、マスクブランク用基板1は、上記の距離W1を1.5mm未満とするように、基板マーク4が形成される(図1参照)。
また、基板マーク4は、通常、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、さらに、洗浄工程等で汚れが付着しないように、鏡面加工の仕上げが施される。
【0044】
(研磨工程)
次に、研磨工程において、基板マーク4の形成されたマスクブランク用基板1に対し、両面研磨装置(たとえば、上記特許文献1に記載した両面研磨装置)を用いて、研磨加工が施される。
なお、研磨加工は、通常、酸化セリウムを含む研磨液を使用する粗研磨加工及び精密研磨加工、並びに、コロイダルシリカを含む研磨液を使用する超精密研磨加工を有しており、段階的に研磨加工が施される。
【0045】
上記の両面研磨装置は、図示してないが、遊星歯車方式であり、太陽歯車、その外方に同心円状に配置される内歯歯車、太陽歯車と内歯歯車に噛み合い、太陽歯車や内歯歯車の回転に応じて公転及び自転するキャリア、このキャリアに保持されたマスクブランク用基板1を研磨パッドが貼着された挟持可能な上定盤と下定盤、及び、上定盤と下定盤との間に研磨液を供給する研磨液供給部などを備えている。
この両面研磨装置は、キャリアに保持されたマスクブランク用基板1を上定盤と下定盤とで挟持し、上下定盤の研磨パッドとマスクブランク用基板1との間に研磨液を供給しながら太陽歯車や内歯歯車の回転に応じて、キャリアが公転及び自転し、マスクブランク用基板1の両主表面111,112を同時に研磨加工する。
【0046】
研磨加工(特に、超精密研磨加工)の施されたマスクブランク用基板1は、基板マーク4を上記条件で形成していることにより、上述したように、隆起部105や縁ダレ部106が形成されるといった悪影響(図9参照)を効果的に排除でき、優れた平坦度を実現することができる。
【0047】
また、マスクブランク用基板1の製造方法によっては、上述した特許文献2に記載してあるように、本実施形態の研磨工程(この工程は、特許文献2においては、準備工程に相当する。)の後に、凹凸形状測定工程や平坦度制御工程を行う場合がある。このような場合であっても、優れた平坦度を実現することができる本実施形態の研磨工程は、有効であり、平坦度制御工程における作業負荷(局所的に研磨加工を行う負荷)を低減することができ、生産性などを向上させることができる。
なお、本実施形態では、遊星歯車方式の両面研磨装置を使って研磨加工を行っているが、研磨装置はこれに限定されるものではなく、たとえば、他の方式の両面研磨装置や片面ずつ研磨を行う片面研磨装置を使用してもよい。
【0048】
以上説明したように、本実施形態のマスクブランク用基板1及びその製造方法によれば、研磨加工において、斜断面からなる基板マーク4による平坦度への悪影響を排除し、マスクブランク用基板1の平坦度を向上させることができる。
【0049】
[マスクブランク用基板及びその製造方法の第2の実施形態]
図2は、本発明の第2の実施形態にかかるマスクブランク用基板の基板マークを説明するための概略図であり、(a)は平面図を示しており、(b)はC部拡大図を示しており、(c)はD−D断面図を示している。
図2において、本実施形態のマスクブランク用基板1cは、上述したマスクブランク用基板1と比べると、基板マーク4の代わりに、基板マーク4cを形成した点などが相違する。なお、本実施形態の他の構成は、マスクブランク用基板1とほぼ同様としてある。
したがって、図2において、図1と同様の構成部分については同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0050】
(基板マーク)
基板マーク4cは、図2の場合も基板マーク4とほぼ同様に右上の角に形成されているが、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103と、R面102とにかかって形成された斜断面(一つの斜断面)形状としてある。
この基板マーク4cは、面取り面103と交差する曲線状の境界41c(すなわち、基板マーク4cと面取り面103との境界41c)、及び、R面102と交差する線状の境界(すなわち、基板マーク4cとR面102との境界)を有しており、境界41cが、主表面112と面取り面103との境界よりも外周側に位置するように形成されている。
【0051】
ここでは一例として、基板マーク4cと面取り面103との境界41cから基板マーク4cとR面102との境界までの距離W2(この距離W2は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界41cの任意の点から、境界41cの線(接線)に対して直交する方向における、基板マーク4cとR面102との境界までの距離の最大値である。)を、約0.3mmとしてある。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4cとR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H2を、約1.1mmとしてあり、主表面112に対する基板マーク4cの傾斜角θ2は、約75°である。したがって、基板マーク4cは、傾斜角θ2が45°よりも大きく90°未満であるといった条件を満足する。また、この実施形態に係る基板マーク4cの最大高さH2は、厚さ(6.35mm)の17%以上であり、基板マーク4cを容易に視認することができる。
【0052】
上記の基板マーク4cは、主表面112と面取り面103との境界上、または、主表面112と面取り面103との境界よりも外周側に位置するように形成されているので、基板マーク4cが形成されていることによる研磨工程時における主表面112の中心側への縁ダレ部106の進行について、基板マーク4cが形成されていない他の角部との間での差を実質的になくすることができる。また、主表面112の縁ダレ部106に関する各角部間での差をなくすことができることにより、反対側の主表面111で生じる隆起部105に関する各角部間での差も実質的になくすことができる。さらに、前記の効果により、研磨工程後の主表面111,112ともに平坦度を所定値以上とすることが可能となる。主表面111の隆起部105に関する各角部間での差や、主表面112の縁ダレ部106に関する各角部間での差がともに実質的になくなることから、主表面111、112がともに線対称性、点対称性の高い表面形状とすることが可能となる。
【0053】
基板マーク4cは、上記のような効果を有するため、この第2の実施形態で示すような条件とすることにより、基板マーク4cを形成する基板の一辺の長さに関係なく(すなわち、一辺が6インチよりも大きい、例えば、8インチあるいはそれ以上の長さを有する矩形状の主表面を有する基板や、一辺が6インチよりも小さい、例えば5インチあるいはそれ以下の長さを有する矩形状の主表面を有する基板等に対しても)、基板の主表面111における、主表面111側から見た側面110の位置から10mmだけ主表面111の中央側に移動した位置およびその位置よりも中央側の領域(以下、中央側領域という。)で、基板マーク4cに起因して生じる隆起部5や縁ダレ部6の中央側領域への進行を最小限にとどめることができる(図4参照)。その結果、研磨工程後における主表面111および主表面112の中央側領域の平坦度を大幅に向上させることができる。さらに、主表面111、112がともに線対称性、点対称性の高い表面形状とすることが可能となる。
【0054】
また、特に反射型マスクに用いられるマスクブランクス用基板に求められる前記平坦度の所定値を満たすために、主表面111、112の凸部分に対して前記の局所加工を行う場合においても、加工時間を大幅に短縮することができる。さらに、局所加工を行うことによる主表面111、112の表面粗さが悪化することを抑制することもできる。
【0055】
また、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ2を、45°よりも大きく90°未満とすることにより、基板マーク4を厚さ方向に広がる面とすることができ、目視性を向上させることができる。より好ましくは、上記の傾斜角θ2を60°以上90°未満とするとよい。
【0056】
また、マスクブランク用基板1cの製造方法は、上述した実施形態の製造方法と比べると、基板マーク4の代わりに、基板マーク4cを形成した点などが相違する。この相違点を除くと、本実施形態の製造方法は、上述した実施形態の製造方法とほぼ同様であり、マスクブランク用基板1cの平坦度をさらに向上させることができる。
【0057】
このように、本実施形態のマスクブランク用基板1c及びその製造方法によれば、上述した実施形態とほぼ同様の効果を奏するとともに、基板マーク4cに起因する平坦度への悪影響をほぼ確実に排除でき、マスクブランク用基板1cのさらに優れた平坦度を実現することができる。
【0058】
[マスクブランク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態のマスクブランクは、上述した第1および第2の各実施形態のマスクブランク用基板1、1cの主表面111上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えた構成としてある。このマスクブランクは、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【0059】
光透過型のマスクブランクに形成される薄膜は、被転写体に転写するときに使用される露光光(露光光源から発せられる光)に対し、光学的変化をもたらす薄膜であり、たとえば、遮光膜、ハーフトーン位相シフト膜、光半透過膜などが挙げられる。遮光膜は、露光光に対する所定値以上の光学濃度(例えば、光学濃度3.0以上、2.5以上等)を有し、露光光を遮光する機能を有する。転写パターンを形成する薄膜に遮光膜を用いたマスクブランクは、バイナリ型転写マスクや掘込レベンソン型マスクを作製する場合に主に用いられる。遮光膜は、単層構造に限らず、遮光機能の主体とする遮光層と露光光に対する反射率を低減する機能を主体とする反射防止層を積層した構造も含まれる。遮光膜に適用可能な材料としては、Crを含有する材料、遷移金属とケイ素を含有する材料、Taを含有する材料などがある。
【0060】
前記のCrを含有する材料としては、具体的には、Cr金属あるいは、CrにN、C、O、F、Hから選ばれる1以上の元素を含有するCr化合物があげられる。遷移金属とケイ素を含有する材料としては、遷移金属とケイ素からなる遷移金属シリサイドあるいは、遷移金属シリサイドのほかにC、N、O、Bから選ばれる1以上の元素を含有する遷移金属シリサイド化合物があげられる。また、前記の遷移金属としては、Mo、Ta、Hf、Zr、Cr、Ti、V、Ni、Fe、Nb、W、Ru、Rh、Pd、Agから選ばれる金属または合金であることが好ましい。Taを含有する材料としては、Ta金属あるいは、TaにB、C、N、Oから選ばれる1以上の元素を含有するTa化合物があげられる。
【0061】
ハーフトーン位相シフト膜は、露光光を所定の透過率で透過させ、かつ、この膜が形成されていない光透過部を透過する露光光に対して所定の位相差を生じさせる膜であり、この膜を透過する露光光と光透過部を透過する露光光との間で位相シフト効果を生じさせる機能を有する。転写パターンを形成する薄膜にハーフトーン位相シフト膜を用いたマスクブランクは、ハーフトーン位相シフトマスクを作製する場合に主に用いられる。ハーフトーン位相シフト膜に適用可能な材料としては、遷移金属とケイ素を含有する材料などがある。遷移金属とケイ素を含有する材料としては、遷移金属とケイ素からなる遷移金属シリサイドのほかにC、N、O、Bから選ばれる1以上の元素を含有する遷移金属シリサイド化合物があげられる。なお、遷移金属については、遮光膜の場合と同様である。
【0062】
光半透過膜は、露光光を所定の透過率で透過させるが、この膜を透過する露光光と光透過部を透過する露光光との間で位相シフト効果が実質的に生じない位相差を生じさせるか、あるいは位相差が生じない膜である。転写パターンを形成する薄膜に光半透過膜用いたマスクブランクは、エンハンサ型位相シフトマスクを作製する場合に主に用いられる。光半透過膜に適用可能な材料としては、ハーフトーン位相シフト膜と同様、遷移金属とケイ素を含有する材料が好ましい。
【0063】
なお、光透過型のマスクブランクは、露光光源として、g線(波長:436nm)、i線(波長:365nm)、KrF(波長:246nm)、ArF(波長:193nm)、F2(波長:157nm)が使用される。
また、上記の遮光膜、ハーフトーン位相シフト膜、光半透過膜は、たとえば、DCスパッタ、RFスパッタ、イオンビームスパッタなどのスパッタリング法で形成することができる。
【0064】
次に、本実施形態のマスクブランクの製造方法は、上述した第1および第2の実施形態のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板1、1cの上に、前記に列挙した転写パターンとなる薄膜を形成する方法としてある。このマスクブランクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
以上説明したように、本実施形態のマスクブランク及びその製造方法によれば、優れた平坦度を有するマスクブランクを提供することができる。
【0065】
[反射型マスクブランク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態の反射型マスクブランクは、上述した第1および第2の各実施形態のマスクブランク用基板1、1cの主表面111上に、露光光を高反射率で反射する多層反射膜と、多層反射膜上に露光光を吸収する機能を有し、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を少なくとも備えた構成である。本実施形態の反射型マスクブランクは、多層反射膜と吸収体膜との間に、保護膜やバッファ膜を備える構成も含む。また、本実施形態の反射型マスクブランクは、多層反射膜等が形成されている主表面111とは反対側の主表面112に、導電性を有する導電膜を備える構成も含む。
【0066】
多層反射膜は、露光光に対して低屈折率の材料からなる低屈折率層と高屈折率の材料からなる高屈折率層の積層を1周期とし、これを複数周期(少なくとも20周期以上、好ましくは40周期以上)積層した膜構造を有する。露光光に、波長13.5nm前後のEUV(Extreme Ultra Violet)光を適用する場合においては、低屈折率層にはSi層が好ましく、高屈折率層にはMoが好ましい。
【0067】
吸収体膜は、転写パターンを形成するための薄膜であり、露光光に対して高い吸収性能が求められる。露光光がEUV光の場合、吸収体膜を形成する材料としては、Taを含有する材料が好適である。具体的には、Ta金属のほか、TaとB、Hf、Zr、Nb、Pt、W、Au、Re、Os、Siから選ばれる1以上の元素からなるTa化合物、Ta金属やTa化合物に、N、O、Cから選ばれる1以上の元素を含有する材料などがあげられる。
【0068】
保護膜は、吸収体膜に転写パターンを形成するときのドライエッチング時に多層反射膜を保護する役割や、反射型マスクの作製プロセス時や作成後の反射型マスクに対して行われる洗浄プロセスから多層反射膜を保護する役割を主に有する。保護膜に適用可能な材料としては、Ruを含有する材料、Siを含有する材料などが挙げられる。Ruを含有する材料の中でも、Ru金属、RuにNb、Zr、Mo、Ti、Laから選ばれる1以上の金属との合金などが好ましい。
【0069】
バッファ膜は、吸収体膜をドライエッチングする際に用いられるエッチングガスに対して耐性を有する材料からなるが、吸収体膜に転写パターンが形成された後、その吸収体パターンをマスクとするドライエッチングでパターニングされるものである。バッファ膜を形成する材料には、吸収体膜をドライエッチングする際に用いられるエッチングガスに対して耐性を有することのほかに、バッファ膜自体をドライエッチングするときのエッチングガスが、多層反射膜にダメージを与えないことが求められる。吸収膜がTa系材料の場合においては、バッファ膜には、Crを含有する材料が好ましい。具体的には、Cr金属あるいは、CrにN、C、O、F、Hから選ばれる1以上の元素を含有するCr化合物が挙げられる。
【0070】
導電膜は、多層反射膜を成膜するときに回転ステージに基板を静電チャックするとき、作製された反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックする際に必要とされる膜であり、その役割上、導電性が求められる。この導電膜に好適な材料としては、Crを含有する材料、Taを含有する材料が挙げられる。具体的には、Crを含有する材料では、Cr金属あるいは、CrにN、C、O、F、Hから選ばれる1以上の元素を含有するCr化合物がある。また、Taを含有する材料では、Ta金属あるいは、TaにB、C、N、Oから選ばれる1以上の元素を含有するTa化合物がある。
なお、上記の多層反射膜、吸収体膜、保護膜、バッファ膜、導電膜は、たとえば、DCスパッタ、RFスパッタ、イオンビームスパッタなどのスパッタリング法で形成することができる。
【0071】
なお、この反射型マスクブランクの場合においては、反射型のリソグラフィで用いられる反射型マスクを作製するためのものであるため、このマスクブランク用基板には、露光光に対する高い透過率は求められない。その代り、露光時に多層反射膜から発生する熱の影響が大きいため、基板は熱膨張係数が低い材料で形成されることが求められる。熱膨張係数が低い材料からなる基板としては、SiO2−TiO2系ガラス、石英ガラスなどのアモルファスガラスや、β−石英固溶体を析出した結晶化ガラスなどが挙げられる。
【0072】
次に、本実施形態の反射型マスクブランクの製造方法は、上述した第1および第2の実施形態のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板1、1cの上に、露光光を高反射率で反射する多層反射膜と、多層反射膜上に露光光を吸収する機能を有し、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を少なくとも形成する方法としてある。この反射型マスクブランクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
以上説明したように、本実施形態の反射型マスクブランク及びその製造方法によれば、優れた平坦度を有する反射型マスクブランクを提供することができる。
【0073】
[転写マスク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態の転写マスクは、上述したマスクブランクの薄膜に転写パターンが形成された構成としてある。この転写マスクは、上述したマスクブランクを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【0074】
次に、本実施形態の転写マスクの製造方法は、上述した実施形態のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成する方法としてある。
すなわち、転写マスクの製造方法は、通常、上記のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクを準備する工程と、薄膜上にスピンコート法等によってレジスト膜を成膜し、レジスト膜に対して転写パターンを露光描画し、現像処理等を経て所望のレジストパターンを形成するパターン形成工程と、レジストパターンをマスクして、薄膜をエッチング除去して薄膜に転写パターンを形成する薄膜パターン形成工程とを有する。
【0075】
この転写マスクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
なお、本実施形態の転写マスクは、前記のバイナリ型転写マスク、掘込レベンソン位相シフトマスク、ハーフトーン位相シフトマスク、エンハンサ型位相シフトマスクなどに適用される。
【0076】
[反射型マスク及びその製造方法の実施形態]
本実施形態の反射型マスクは、上述した反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成された構成としてある。この反射型マスクは、上述した反射型マスクブランクを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【0077】
次に、本実施形態の反射型マスクの製造方法は、上述した実施形態の反射型マスクブランクの製造方法によって得られた反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンを形成する方法としてある。
すなわち、反射型マスクの製造方法は、通常、上記の反射型マスクブランクの製造方法によって得られた反射型マスクブランクを準備する工程と、吸収体膜上にスピンコート法等によってレジスト膜を成膜し、レジスト膜に対して転写パターンを露光描画し、現像処理等を経て所望のレジストパターンを形成するパターン形成工程と、レジストパターンをマスクして、吸収体膜をエッチング除去して吸収体膜に転写パターンを形成する吸収体パターン形成工程とを有する。
【0078】
この反射型マスクの製造方法によれば、マスクブランク用基板1、1cを用いることにより、優れた平坦度を実現することができる。
【実施例】
【0079】
[実施例1]
最初に、低熱膨張係数を有するTiO2−SiO2からなり、平面形状がほぼ正方形であり、一辺の長さが約152mm(6インチ)、厚さが6.35mm(0.25インチ)の基板1cを準備した。
基板マーク形成工程において、基板1cに、R面102、面取り面103及び基板マーク4cを形成した(図2参照)。R面102は、基板1cの四隅に形成された湾曲面であり、曲率半径を2.5mmとした。また、面取り面103は、主表面111及び主表面112の周縁に形成され、面取り幅0.5mmとした。なお、基板1cは、主表面111を多層反射膜や吸収体膜が形成される側とし、主表面112を導電成膜が形成される側とした。
【0080】
基板マーク4cは、図2でいう右上の角及び左下の角に形成され、R面102と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とを切り落とした斜断面(一つの斜断面)とした。なお、基板マーク4cは、面取り面103と交差する曲線状の境界41cを有しており、主表面112と面取り面103との境界より外周側に位置するように形成した。
また、基板マーク4cと面取り面103との境界41cから基板マーク4cとR面102との境界までの距離W2(この距離W2は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界41cの任意の点から、境界41cの線(接線)に対して直交する方向における、基板マーク4cとR面102との境界までの距離の最大値である。)を、約0.4mmとした。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4cとR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H2を、約1.5mmとし、主表面112に対する基板マーク4cの傾斜角θ2を、約75°とした。なお、図示された基板マーク4cの最大高さ値H2は、厚さ(6.35mm)の23%以上であった。
また、基板マーク4cは、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、鏡面加工の仕上げを施した。
続いて、基板1cに、両面ラッピング装置によって研削加工を施した。
【0081】
次に、研磨工程において、基板マーク4cの形成された基板1cに対し、上述した両面研磨装置を用いて、研磨加工(粗研磨加工、精密研磨加工、及び、超精密研磨加工)を施した。
(1)粗研磨工程
研削加工を施した基板1cを、両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で粗研磨工程を行った。この研磨を10回行い合計100枚の基板1cの粗研磨工程を行った。
なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液:酸化セリウム(平均粒径2〜3μm)+水
研磨パッド:硬質ポリシャ(ウレタンパッド)
粗研磨工程後、基板1cに付着した研磨砥粒を除去するため、基板1cを洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0082】
(2)精密研磨工程
粗研磨加工を施した基板1cを、両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で精密研磨工程を行った。この研磨を10回行い合計100枚の基板1cの精密研磨工程を行った。なお、加工荷重、研磨時間は適宜調整して行った。
研磨液:酸化セリウム(平均粒径1μm)+水
研磨パッド:軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
精密研磨工程後、基板1cに付着した研磨砥粒を除去するため、基板1cを洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0083】
(3)超精密研磨工程
精密研磨加工を施した基板1cを、両面研磨装置に10枚セットし、以下の研磨条件で超精密研磨工程を行った。この研磨を10回行い合計100枚の基板1cの超精密研磨工程を行った。なお、加工荷重、研磨時間は必要な平坦度(所望の平坦度:0.1μm以下)となるように適宜調整して行った。
研磨液:コロイダルシリカ(平均粒径30〜200nm)+水
研磨パッド:超軟質ポリシャ(スウェードタイプ)
超精密研磨工程後、基板1cに付着した研磨砥粒を除去するため、基板1cを、フッ酸およびケイフッ酸を含む洗浄液が入った洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0084】
(測定結果)
洗浄された基板1cの主表面111の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図3に示す。図3の表面形状分布は、基板の主表面111の中心を基準とした142mm×142mmの角内領域のものである(以下、各比較例においても同様。)。基板1cの主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.065μmであり、良好な結果であった。
また、図3の主表面111の表面形状分布では、基板1cの4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少凸形状となっている(隆起部5が発生している)が、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった(図4参照)。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1cの4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少縁ダレ部6は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部6の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様、良好であった。
【0085】
基板1cの表面形状分布の測定結果は良好ではあるが、主表面111,112ともに、主表面111(主表面112)の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度が、EUV光を露光光とする反射型マスクブランクを製造するためのマスクブランク用基板に求められる132mm×132mmの角内領域における平坦度0.05μm以下を満たしていない。そこで、所定の平坦度を満たすために、局所加工工程を行った。具体的には、まず、先に測定した主表面111,112の各表面形状分布のデータを基に、所定の平坦度を満たすために局所加工すべき凸部の位置および必要加工量を算出した。次に、磁性流体を用いて局所加工を行うMRF加工装置に、基板1cをセットおよび凸部位の位置および必要加工量の情報を入力し、主表面111,112に対して局所加工を行った。加工に要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、大幅に短縮できていた。
【0086】
次に、局所加工後の基板1cの主表面111,112に対して、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨を用い、両面研磨装置で表面粗さを回復(Rqで0.15nm以下)するための極短時間の研磨を行った。表面粗さを回復させるのに要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、やはり短縮できていた。最後に、所定の洗浄処理等を行い、反射型マスクブランクの製造に使用可能なマスクブランク用基板1cを得た。
【0087】
次に、得られたマスクブランク用基板1cの主表面112に導電膜としてCrN膜をスパッタリング法により膜厚30nmで成膜した。このとき、主表面112の外周領域(少なくとも面取り面103)には導電膜を形成しないようにした。次に、イオンビームスパッタ装置の回転ステージに導電膜の形成されたマスクブランク用基板1cを静電チャックさせ、イオンビームスパッタ法によりSi/Mo多層反射膜を成膜した。具体的には、主表面111側からSi膜4.2nm、Mo膜2.8nmを1周期として40周期成膜し、最後に、Si膜を4nm成膜した。次に、多層反射膜のSi膜上にRuNbからなる保護膜を2.5nmの膜厚で成膜した。さらに、保護膜上にTaNからなる下層とTaOからなる上層の積層構造の吸収体膜を成膜し、反射型マスクブランクを得た。
【0088】
次に、得られた反射型マスクブランクの吸収体膜上に、電子線露光用のレジスト膜をスピンコート法で成膜した。レジスト膜に対して電子線描画および現像処理を行い、転写パターンを有するレジストパターンを形成した。レジストパターンをマスクとして、CF4ガスによるドライエッチングを行い吸収体膜の上層に転写パターンを形成した。さらに、レジストパターンおよび上層の転写パターンをマスクとして、Cl2ガスによるドライエッチングを行い、吸収体膜の下層に転写パターンを形成した。さらに、レジストパターンを剥離、所定の洗浄処理を行い、反射型マスクを得た。
【0089】
得られた反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックで固定し、半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、EUV光を露光光とする露光転写を行った。露光転写後のレジスト膜に対し、所定の現像処理等を行い、このレジスト膜をマスクとし、半導体ウェハ上の薄膜に対してドライエッチングを行い、回路パターンを形成した。半導体ウェハ上に形成された回路パターンをTEM観察したところ、高い精度で形成されていることが確認された。この結果は、使用した反射型マスクの基板1cが優れた平坦度を有していることによるところが大きい。
【0090】
<比較例1>
比較例1は、実施例1と比べると、基板マーク4を形成する代わりに、上述した基板マーク104を形成した点が相違する。なお、比較例の研磨工程等の加工条件等は、実施例1とほぼ同様としてある。
したがって、実施例1と同様な内容については、その詳細な説明を省略する。
基板マーク104は、図8でいう右上の角及び左下の角に形成され、主表面112と、R面102と、R面102に続く2つの側面110と、主表面112および側面110(R面102を含む)の間の面取り面103とを切り落とした斜断面(一つの斜断面)とした。なお、基板マーク104は、主表面112と交差する線分状の境界141を有しており、この境界141が、上方から見ると、R面102を通る対角線と直交するように、基板マーク104を形成した。
また、基板マーク104と主表面112との境界141から基板マーク104とR面102との境界までの距離W0(この距離W0は、主表面112の中央部付近を含む仮想平面上の距離であって、境界141の任意の点から、境界141の線に対して直交する方向における、基板マーク104とR面102との境界までの距離の最大値である。)を、約3.0mmとした。また、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク104とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H0を、約1.2mmとし、主表面112に対する基板マーク104の傾斜角θ0を、約22°とした。なお、基板マーク104の最大高さ値H0は、基板の厚さ(6.35mm)の19%未満であった。
また、基板マーク104は、ダイヤモンド砥石等を使用した研削加工により形成され、鏡面加工の仕上げを施した。
続いて、基板101に、両面ラッピング装置によって研削加工を施した。
【0091】
次に、研磨工程において、基板マーク104の形成された基板101に対し、実施例1と同様に、両面研磨装置を用いて、研磨加工(粗研磨加工、精密研磨加工、及び、超精密研磨加工)を施した。
続いて、超精密研磨工程後、基板101に付着した研磨砥粒を除去するため、ガラス基板を、フッ酸およびケイフッ酸を含む洗浄液が入った洗浄槽に浸漬(超音波印加)し、洗浄を行った。
【0092】
(測定結果)
洗浄された基板101の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図5に示す。基板101の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.168μmであり、かなりよくない結果であった。
また、図5の主表面111の表面形状分布では、基板101の基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、基板マークが形成されていない2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく高い凸形状となっている(隆起部105が発生している)。4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に大きい。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、他の2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく縁ダレており、4隅の間で縁ダレ部106の高さレベルのバラツキも非常に大きかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様よくなかった。
【0093】
<比較例2>
比較例2は、比較例1と比べると、基板マーク104を図8でいう4角の全てに形成した点と、基板マーク104と主表面112との境界141から基板マーク104とR面102との境界までの距離W0を、約2.4mmとし、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク104とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H0を、約1.1mmとし、主表面112に対する基板マーク104の傾斜角θ0を、約25°とした点のみ異なる。なお、比較例2における基板マーク104の最大高さ値H0は、基板の厚さ(6.35mm)の17%以上であった。
【0094】
(測定結果)
比較例1と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板101の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図6に示す。基板101の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.116μmであった。
また、図6の主表面111の表面形状分布では、基板101の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも凸形状となっている(隆起部105が発生している)が、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1cの4隅のR面102近傍の形状は、いずれも縁ダレ部106は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部106の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。しかし、主表面111、112ともに132mm×132mmの角内領域における平坦度は、比較例1よりは良好であるが、実施例1と比べるとよくない結果であった。
【0095】
<比較例3>
比較例3は、比較例2と比べると、基板マーク104を図8でいう右上の角及び左下の角にのみ形成した点が異なる。
【0096】
(測定結果)
比較例2と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板101の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図7に示す。基板101の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.111μmであった。
また、図7の主表面111の表面形状分布では、基板101の基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、基板マークが形成されていない2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく高い凸形状となっている(隆起部105が発生している)。4隅の間で凸形状の高さのバラツキは大きい。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板マーク104が形成されている2隅のR面102近傍の形状が、他の2隅のR面102近傍の形状に比べて、大きく縁ダレており、4隅の間で縁ダレ部106の高さレベルのバラツキも大きかった。さらに、主表面111、112ともに132mm×132mmの角内領域における平坦度は、比較例1よりは良好であるが、実施例1と比べるとよくない結果であった。
【0097】
<実施例2>
実施例2は、実施例1と比べると、基板マーク4と主表面112との境界41から基板マーク4とR面102との境界までの距離W1を、約0.9mmとし、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H1を、約2.0mmとし、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ1を、約66°とした点のみ異なる(図1参照)。なお、基板マーク4の最大高さ値H1は、基板の厚さ(6.35mm)の31%以上であった。
【0098】
(測定結果)
実施例1と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板1の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図10に示す。基板1の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.075μmであった。
【0099】
また、図10の主表面111の表面形状分布では、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少凸形状となっているが、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少縁ダレ部は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様、良好であった。
【0100】
基板1の表面形状分布の測定結果は良好ではあるが、主表面111,112ともに、主表面111(主表面112)の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度が、EUV光を露光光とする反射型マスクブランクを製造するためのマスクブランク用基板に求められる132mm×132mmの角内領域における平坦度0.05μm以下を満たしていない。そこで、所定の平坦度を満たすために、実施例1と同様の手順で局所加工工程を行った。局所加工に要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、大幅に短縮できていた。
【0101】
次に、局所加工後の基板1の主表面111,112に対して、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨を用い、両面研磨装置で表面粗さを回復(Rqで0.15nm以下)するための極短時間の研磨を行った。表面粗さを回復させるのに要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、やはり短縮できていた。最後に、所定の洗浄処理等を行い、反射型マスクブランクの製造に使用可能なマスクブランク用基板1を得た。
【0102】
次に、得られたマスクブランク用基板1を用い、実施例1と同様の手順により、実施例2の反射型マスクブランクを得た。さらに、得られた反射型マスクブランクを用い、実施例1と同様の手順により、実施例2の反射型マスクを得た。得られた実施例2の反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックで固定し、半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、EUV光を露光光とする露光転写を行った。露光転写後のレジスト膜に対し、所定の現像処理等を行い、このレジスト膜をマスクとし、半導体ウェハ上の薄膜に対してドライエッチングを行い、回路パターンを形成した。半導体ウェハ上に形成された回路パターンをTEM観察したところ、高い精度で形成されていることが確認された。この結果は、使用した反射型マスクの基板1が優れた平坦度を有していることによるところが大きい。
【0103】
<実施例3>
実施例3は、実施例1と比べると、基板マーク4と主表面112との境界41から基板マーク4とR面102との境界までの距離W1を、約1.4mmとし、主表面112の中央部付近を含む仮想平面を基準とする、基板マーク4とR面102との境界までの側面方向における高さの最大値H1を、約1.5mmとし、主表面112に対する基板マーク4の傾斜角θ1を、約47°とした点のみ異なる(図1参照)。なお、実施例3に係る基板マーク4の最大高さ値H1は、基板の厚さ(6.35mm)の23%以上であった。
【0104】
(測定結果)
実施例1と同様の研磨工程が行われた後、洗浄された基板1の表面形状(平坦度)を光学干渉式の平坦度測定装置(Corning TROPEL社製 UltraFLAT200M)で測定した。測定した主表面111の表面形状分布を図11に示す。基板1の主表面111の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度は、約0.080μmであった。
【0105】
また、図11の主表面111の表面形状分布では、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少凸形状となっているが、4隅の間で凸形状の高さのバラツキは非常に小さかった。なお、主表面112側の表面形状分布も同様に測定したが、基板1の4隅のR面102近傍の形状は、いずれも多少縁ダレ部は発生していたが、4隅の間で縁ダレ部の高さレベルのバラツキは非常に小さかった。また、主表面112の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度も主表面111と同様、良好であった。
【0106】
基板1の表面形状分布の測定結果は良好ではあるが、主表面111,112ともに、主表面111(主表面112)の中心を基準とした132mm×132mmの角内領域における平坦度が、EUV光を露光光とする反射型マスクブランクを製造するためのマスクブランク用基板に求められる132mm×132mmの角内領域における平坦度0.05μm以下を満たしていない。そこで、所定の平坦度を満たすために、実施例1と同様の手順で局所加工工程を行った。局所加工に要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、大幅に短縮できていた。
【0107】
次に、局所加工後の基板1の主表面111,112に対して、コロイダルシリカ砥粒を含む研磨を用い、両面研磨装置で表面粗さを回復(Rqで0.15nm以下)するための極短時間の研磨を行った。表面粗さを回復させるのに要した時間は、従来の基板マーク形状を有する基板の場合に比べて、やはり短縮できていた。最後に、所定の洗浄処理等を行い、反射型マスクブランクの製造に使用可能なマスクブランク用基板1を得た。
【0108】
次に、得られたマスクブランク用基板1を用い、実施例1と同様の手順により、実施例3の反射型マスクブランクを得た。さらに、得られた反射型マスクブランクを用い、実施例1と同様の手順により、実施例3の反射型マスクを得た。得られた実施例3の反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックで固定し、半導体ウェハ上のレジスト膜に対して、EUV光を露光光とする露光転写を行った。露光転写後のレジスト膜に対し、所定の現像処理等を行い、このレジスト膜をマスクとし、半導体ウェハ上の薄膜に対してドライエッチングを行い、回路パターンを形成した。半導体ウェハ上に形成された回路パターンをTEM観察したところ、高い精度で形成されていることが確認された。この結果は、使用した反射型マスクの基板1が優れた平坦度を有していることによるところが大きい。
【0109】
以上、本発明のマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法について、好ましい実施形態などを示して説明したが、本発明に係るマスクブランク用基板、マスクブランク、反射型マスクブランク、転写マスク、及び反射型マスク、並びにそれらの製造方法は、上述した実施形態などにのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、マスクブランク用基板1、1cは、一つの角部に一つの斜断面からなる基板マーク4、4cを形成してあるが、これに限定されるものではなく、たとえば、図示してないが、一つの角部に二つ以上の斜断面からなる基板マークを形成してもよく、さらに、膜マークなどと併用してもよい。これにより、識別能力を向上させることができる。更に、上記した実施形態及び実施例では、一辺の長さが約152mmで厚さが6.35mmの正方形マスクブランク用基板について説明したが、本発明は何等これに限定されることなく、長方形マスクブランク用基板にも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0110】
1、1c、101 マスクブランク用基板
4、4a、4b、4c、104 基板マーク
5、105 隆起部
6、106 縁ダレ部
21 研磨パッド
41、141 境界
102 R面
103 面取り面
110 側面
111,112 主表面
211 凸部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、
前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満であることを特徴とするマスクブランク用基板。
【請求項2】
前記基板マークは、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さいことを特徴とする請求項1記載のマスクブランク用基板。
【請求項3】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、
前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さいことを特徴とするマスクブランク用基板。
【請求項4】
前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク用基板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えることを特徴とするマスクブランク。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を備えることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項7】
請求項5に記載のマスクブランクの薄膜に転写パターンが形成されていることを特徴とする転写マスク。
【請求項8】
請求項6に記載の反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成されていることを特徴とする反射型マスク。
【請求項9】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、
前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満に形成されていることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板マークは、主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項9記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項11】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、
前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されていることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項12】
前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項13】
上記請求項9から12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を設けることを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項14】
上記請求項9から12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を設けることを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項15】
上記請求項13に記載のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することを特徴とする転写マスクの製造方法。
【請求項16】
上記請求項14に記載の反射型マスクブランクの製造方法によって得られた反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項1】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、
前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満であることを特徴とするマスクブランク用基板。
【請求項2】
前記基板マークは、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さいことを特徴とする請求項1記載のマスクブランク用基板。
【請求項3】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板であり、
前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって形成された斜断面形状の基板マークを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さいことを特徴とするマスクブランク用基板。
【請求項4】
前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク用基板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を備えることを特徴とするマスクブランク。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を備えることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項7】
請求項5に記載のマスクブランクの薄膜に転写パターンが形成されていることを特徴とする転写マスク。
【請求項8】
請求項6に記載の反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンが形成されていることを特徴とする反射型マスク。
【請求項9】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記主表面または面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、
前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界から該基板マークと前記R面との境界までの距離が1.5mm未満に形成されていることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板マークは、主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されていることを特徴とする請求項9記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項11】
2つの主表面と、4つの側面と、隣接する側面間に形成されるR面と、前記主表面および側面の間に形成される面取り面とを備えた薄板状の基板に対し、前記面取り面と、前記R面とにかかって斜断面形状の基板マークを形成する基板マーク形成工程と、
前記基板の両主表面を、研磨砥粒を含む研磨液を用いて研磨する研磨工程とを有し、
前記基板マークは、該基板マークと前記主表面または面取り面との境界が、前記主表面と面取り面との境界上または、前記主表面と面取り面との境界よりも外周側に位置し、前記主表面に対する傾斜角が45度よりも大きく、90度よりも小さく形成されていることを特徴とするマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項12】
前記基板マークは、転写パターンを有する薄膜が形成される主表面側とは反対の主表面側に形成されていることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法。
【請求項13】
上記請求項9から12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板の主表面上に、転写パターンを形成するための薄膜を設けることを特徴とするマスクブランクの製造方法。
【請求項14】
上記請求項9から12のいずれかに記載のマスクブランク用基板の製造方法によって得られたマスクブランク用基板の主表面上に、多層反射膜と、転写パターンを形成するための薄膜である吸収体膜を設けることを特徴とする反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項15】
上記請求項13に記載のマスクブランクの製造方法によって得られたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することを特徴とする転写マスクの製造方法。
【請求項16】
上記請求項14に記載の反射型マスクブランクの製造方法によって得られた反射型マスクブランクの吸収体膜に転写パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図8】
【図9】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図2】
【図4】
【図8】
【図9】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−256038(P2012−256038A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−112104(P2012−112104)
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月16日(2012.5.16)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
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