説明

マスクロマトグラム表示方法

【課題】 類似の構造を有する成分が複数存在する試料を連続して測定する場合における成分のグループ分けに有用なマスクロマトグラムの表示方法を提供。
【解決手段】 マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段と、マスクロマトグラムからピークを検出するピーク検出手段と、保持時間範囲と質量電荷比範囲とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段と、被検体のピークの一部が保持時間範囲と質量電荷比範囲に含まれる場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段、を備えたマスクロマトグラム表示方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)やガスクロマトグラフ(GC)等における定量手段としてのマスクロマトグラムの表示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HPLCやGCにおける検出手段としてマススペクトル分析(マスクロマトグラフィー)は、検出感度が高く、微量分析手段として広く用いられている。類似の構造を有する成分が複数存在する試料を分析する場合、それらをグループ分けする必要が生じることがある。例えば、天然物由来の脂肪酸を用いて得られた界面活性剤の分析等においては、脂肪酸部分の炭素数だけが相違する複数の界面活性剤の混合物であることから、それら類似の構造を有する界面活性剤をグループ分けする必要が生じる。また、例えば類似の構造を持った炭素数16〜20の脂肪酸を有する界面活性剤と、炭素数18〜22の脂肪酸を有する界面活性剤とを分析する場合、これらを同一のグループに分類する必要も生じる。
【0003】
従来、このような類似の構造を有する成分が複数存在する試料のクロマトグラムは、試料毎に得られた分析結果に基づいて、測定者が個別に判断していた。
【0004】
また、当該個別のクロマトグラム上のピークを色分けする技術(特許文献1)が知られているが、この場合も個別のデータの色分け表示にすぎず、類似の構造を有する成分が複数存在する試料を連続して測定する場合には適用できなかった。
【特許文献1】特開2004−53283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、類似の構造を有する成分が複数存在する試料を連続して測定する場合における成分のグループ分けに有用なマスクロマトグラムの表示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、前記グループ分けについて種々検討した結果、保持時間範囲と質量電荷比範囲に入るピークを同一の色又はマークで表示するか、又は保持時間と質量電荷比との関係式を求めておき、その関係式を満たす場合にそのピークを同一の色又はマークで表示するようにすれば、同一のグループに属する成分を同一の色又はマークで画面上にグループ分けすることができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段と、マスクロマトグラムからピークを検出するピーク検出手段と、保持時間範囲と質量電荷比範囲とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段と、被検体のピークの一部が保持時間範囲と質量電荷比範囲に含まれる場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段、を備えたマスクロマトグラム表示方法(第1の発明)を提供するものである。
また、本発明は、マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段と、マスクロマトグラムからピークを検出するピーク検出手段と、保持時間と質量電荷比の関係式とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段と、被検体のピークの一部が前記関係式を満たす場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段、を備えたマスクロマトグラム表示方法(第2の発明)を提供するものである。
さらに本発明は、マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段と、マスクロマトグラムからピークを検出するピーク検出手段と、保持時間範囲と質量電荷比範囲とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段と、保持時間と質量電荷比から関係式を求める手段と、入力データに基づいて関係式を修正する手段と、被検体のピークの一部が前記関係式を満たす場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段、を備えたマスクロマトグラム表示方法(第3の発明)を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表示方法によれば、天然物由来の原料を用いて調製された界面活性剤等の類似の構造を有する成分が複数存在する試料を、連続して測定した場合、類似の成分を簡便かつ正確にグループ分けして表示できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第一の発明における、マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段は、カラムから流出した試料についてのマススペクトルデータに基づいてマスクロマトグラムを作成する。マスクロマトグラムを作成する方法は、カラムから流出した試料について逐次マススペクトルを採取し、その強度を時間軸に対してプロットすることにより行なわれる。
【0010】
ピーク検出手段は、得られたマスクロマトグラムから所定の基準によりピークを検出する。この基準としては、従来より知られている閾値法や傾斜法(微分法)等を用いることができる。
【0011】
保持時間範囲は、保持時間(t)のデータから、保持時間(tC)に対する下側偏差(tL)と上側偏差(tU)とを求める。そして、(tC+tL)〜(tC+tU)の範囲を保持時間範囲〔tC+tL,tC+tU〕とする。一方、質量電荷比範囲は、質量電荷比(m)のデータから、質量電荷比(mC)に対する下側偏差(mL)を上側偏差(mU)とを求める。そして、(mC+mL)〜(mC+mU)の範囲を質量電荷比範囲〔mC+mL,mC+mU〕とする。また、ピーク表示色は、同一の物質又は同一のグループに属する物質を同一の色で表示するものであり、例えばピークを赤、青、黄、緑等と変化させるものである。また、ピーク表示マークは、同一の物質又は同一のグループに属する物質を同一のマークで表示するものであり、例えば四角、丸、三角等の表示又はこれと色との組み合せである。本発明は、これらを記憶する手段を有する。
【0012】
被検体のピークの一部が、前記保持時間範囲と質量電荷比範囲に含まれる場合に、前記記憶に基づき、対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段を有する。被検体のピークの一部が保持時間範囲に含まれる場合とは、被検体のピークの開始時間(pL)からピークの終了時間(pR)までの一部が保持時間範囲に含まれる場合をいう。また、被検体のピークの一部が質量電荷比範囲に含まれる場合とは、被検体の質量電荷比が質量電荷比範囲に含まれる場合をいう。本発明においては、被検体のピークの一部が前記保持時間範囲と質量電荷比範囲に含まれる場合には、前記記憶された情報に基づき、同一の表示色又はマークが表示される。
【0013】
このように記憶された情報に基づき、同一の表示色又はマークが表示されれば、類似の構造を有する被検体については、同一の表示色又はマークを有するマスクロマトグラムが得られる。
【0014】
第2の発明におけるマスクロマトグラム作成手段、及びピーク検出手段は、前記第1の発明と同様である。
【0015】
第2の発明においては、保持時間と質量電荷比の関係式とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段を有する。保持時間と質量電荷比の関係式は、例えばピークの保持時間(t)=(傾き)×(ピークの質量電荷比(m))+(切片)で表される式である。この場合、保持時間と質量電荷比との関係は、(傾き)と(切片)で決定される。関係式には、ピークの質量電荷比の2次以上の多項式を用いることもできる。また、ピーク表示色又はピーク表示マークの記憶手段は、前記第一の発明と同様である。本発明ではこれらをあらかじめ記憶しておく。
【0016】
被検体のピークの一部が前記関係式を満たす場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段を有する。被検体のピークの一部が前記関係式を満たす場合とは、被検体のピークの開始時間(pL)からピークの終了時間(pR)までの一部が前記関係式を満たす場合をいう。本発明においては、被検体の一部が前記関係式を満たす場合に、前記記憶された情報に基づき、同一の表示色又はマークが表示される。
【0017】
このように第2の本発明においても、記憶された情報に基づき、同一の表示色又はマークが表示されれば、類似の構造を有する被検体については、同一の表示色又はマークを有するマスクロマトグラムが得られる。
【0018】
また、第2の本発明においては、入力データに基づいて前記関係式を修正する手段を有するのが好ましい。ここで入力データに基づいて前記関係式を修正する手段とは、例えばあらかじめ(切片)(bC)の下側偏差(bL)と上側偏差(bU)を定め、関係式の(切片)bを(bC+bL)〜(bC+bU)の範囲で一定の刻みdで変化させ、関係式を満たす保持時間での強度の合計が最大になる(切片)b*を採用する手段である。かかる関係式の修正により、入力データ中の保持時間にずれがあっても同一のグループに属するピークを分類することができる。
【0019】
第3の本発明における、マスクロマトグラム作成手段、ピーク検出手段、あらかじめ保持時間範囲と質量電荷比範囲とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段は、前記第1の発明と同様である。
【0020】
保持時間と質量電荷比から関係式を求める手段は、前記第2の発明に記載のように、複数のサンプルのマスクロマトグラムにおける保持時間と質量電荷比のデータに基づき、ピークの保持時間(t)=(傾き)×(ピークの質量電荷比(m))+(切片)で表される式を最小二乗法などを用いて求める手段である。この関係式は、類似の構造を有する異なる成分について複数のサンプルを測定すれば算出できる。
【0021】
第3の発明における関係式を修正する手段、及びピークの一部が関係式を満たす場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段は、前記第2の発明と同様である。
【0022】
さらに、第3の発明においては、保持時間と質量電荷比の関係を表わすグラフとマスクロマトグラムを重ねて表示することにより、前記関係式とピークの表示色又は表示マークとの一致性を確認することができる。ここで、保持時間と質量電荷比の関係を表わすグラフは、前記関係式で得られたピークを結んだグラフ、すなわち直線である。
【0023】
このように、本発明によれば、類似の構造を有する成分を同じ表示色、表示マーク及び/又はそれらを結ぶ直線で表示することができる。
【実施例】
【0024】
本発明の一実施例である高速液体クロマトグラフ(HPLC)−質量分析装置の概略を図1に示す。
溶離液槽11からポンプ12により吸引された溶離液(移動相)に、インジェクタ13で分析対象の試料液が注入され、分離カラム14へと送り込まれる。試料中の各成分が分離カラム14を通過する時間(保持時間)は成分により異なるため、分離カラム14を通過した溶離液中において試料の各成分は時間的に分離して溶出する。溶出した試料を含む溶出液は質量分析器15に送られる。質量分析器15においては、溶出液がイオン源151に送られイオン化される。そのイオンを四重極などの質量分離部152により分離させ、二次電子増倍管などの検出部153にて質量数毎の強度を検出する。この質量分析器15の検出信号は増幅器16で増幅され、A/D変換器17でデジタル信号に変換され、コンピュータ18に入力される。
【0025】
図2にコンピュータ18の本実施例における機能をブロック図で示す。
【0026】
参考例1
X-(CH2)n-CH3(群1)、Y-(CH2)n-CH3(群2)及びZ-(CH2)n-CH3(群3)の成分を混合した試料を、図1のHPLC−MS分析した結果を図3に示す。
【0027】
実施例1(第1の発明)
(1)あらかじめピーク表示色を記憶
下記の表1の基準に従い、群1は赤色、群2は黄色、群3は緑色と記憶した。すなわち、保持時間については、基準値の±0.8を保持時間範囲とした。質量電荷比については基準値の±0.5を質量電荷比範囲とした。この範囲内にピークの一部が含まれる場合を、赤色、黄色又は緑色に表示するよう記憶した。
【0028】
【表1】

【0029】
(2)試料の測定
参考例1で用いた被検試料についての測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
ピーク開始からピーク終了の一部でも前記範囲に含まれている場合をそれぞれの群に属するものとして、同一色を表示した。その結果を図4に示す。
【0032】
実施例2(第2の発明)
(1)あらかじめ関係式を記憶
下記表3の基準に従い、各群の関係式の傾き及び切片を記憶した。
【0033】
【表3】

【0034】
(2)試料の測定
参考例1で用いた被検試料についての測定結果は、前記表2と同じである。第2の発明に基づき、関係式を表わすグラフ(直線)と、表示色とを結んだグラフを図5に示す。
【0035】
実施例3(関係式を修正する手段を含む場合)
(1)あらかじめ関係式と修正手段を記憶
下記表4の基準に従い、各群の関係式の傾き及び切片を記憶した。また、切片の基準値の偏差を±0.8とし、その範囲内で0.1刻みで関係式を示すグラフを移動するようにして修正するよう記載した。すなわち、切片が基準値±0.8の範囲内で関係式を満たす保持時間での強度の合計が最大になる切片を用い、ピークの一部が修正後の関係式を満たす場合に同一表示色又は同一マークとして表示される。
【0036】
【表4】

【0037】
(2)試料の測定
参考例1で用いた被検試料についての測定結果は、前記表2と同じである。第3の発明に基づき、修正前の表示色及び関係式を修正した結果を図6及び図7に示す。
【0038】
実施例4(表示色及び関係式)
(1)あらかじめピーク表示色を記憶
下記表5の基準に従い、群1は赤色、群2は黄色、群3は緑色と記憶した。保持時間範囲は±0.8とした。
【0039】
【表5】

【0040】
(2)関係式を求める手段
表5に示された各値を用いて、前記の式;ピークの保持時間(t)=(傾き)×(ピークの質量電荷比(m))+切片、について最小二乗法によって表6の傾き及び切片を定めた。また、それらの偏差を±0.8、刻みを±0.1として、関係式の修正を行った。
【0041】
【表6】

【0042】
(3)試料の測定
第3の発明において、得られた表示色と関係式を表わすグラフを重ねて表示した結果(図8)を示す。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】高速液体クロマトグラフ(HPLC)−質量分析(MS)装置の構成例の概略図である。
【図2】コンピュータ18の本実施例における機能を表すブロック図である。
【図3】参考例1のクロマトグラフを示す。
【図4】実施例1で得られたマスクロマトグラムを示す群1は赤色、群2は黄色、群3は緑色である。
【図5】実施例2で得られたマスクロマトグラムを示す。
【図6】実施例3で得られたマスクロマトグラム(修正前)を示す。
【図7】実施例3で得られたマスクロマトグラム(修正後)を示す。
【図8】実施例4で得られたマスクロマトグラムを示す(左は表示色のみ、右がグラフを重ねた後のマスクロマトグラム)。
【符号の説明】
【0044】
11:溶離液槽
12:ポンプ
13:インジェクタ
14:分離カラム
15:質量分析器
151:イオン化部
152:質量分離部
153:検出部
16:増幅器
17:A/D変換器
18:コンピュータ
19:ディスプレイ
20:マウス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段と、マスクロマトグラムからピークを検出するピーク検出手段と、保持時間範囲と質量電荷比範囲とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段と、被検体のピークの一部が保持時間範囲と質量電荷比範囲に含まれる場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段、を備えたマスクロマトグラム表示方法。
【請求項2】
マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段と、マスクロマトグラムからピークを検出するピーク検出手段と、保持時間と質量電荷比の関係式とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段と、被検体のピークの一部が前記関係式を満たす場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段、を備えたマスクロマトグラム表示方法。
【請求項3】
さらに、入力データに基づいて前記関係式を修正する手段を有する請求項2記載のマスクロマトグラム表示方法。
【請求項4】
マスクロマトグラムを作成するマスクロマトグラム作成手段と、マスクロマトグラムからピークを検出するピーク検出手段と、保持時間範囲と質量電荷比範囲とピーク表示色又はピーク表示マークを記憶する手段と、保持時間と質量電荷比から関係式を求める手段と、入力データに基づいて関係式を修正する手段と、被検体のピークの一部が前記関係式を満たす場合に対応する表示色又は表示マークでピークを表示する手段、を備えたマスクロマトグラム表示方法。
【請求項5】
さらに、保持時間と質量電荷比の関係を表すグラフとピークを表示色又は表示マークで表示されたマスクロマトグラムとを重ねて表示する手段を備えたものである請求項4記載のマスクロマトグラム表示方法。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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