マスク
【課題】 マスクの装着者に息苦しさなどの不快感を発現させることなしに、ウイルスなどの体内への侵入を阻止し、感染を抑制することができるマスクを提供する。
【解決手段】 マスク1は、マスク本体2とガーゼ3とを含み、マスク本体2は、顔面4に装着した状態で、顔面4の鼻頭部4aと下顎部4bと両顎関節部4cとにわたる口腔周縁部を覆うように構成される。マスク本体2は、たとえば、金属製の基材5に複数の突起6が設けられており、突起6には、マスク本体2の内面7と外面8とに連通する透孔がそれぞれ形成される。突起6は、マスク本体2の、顔面4に臨む内面7とは反対側の外面8から隆起するように基材5に複数設けられる。マスク本体2の外面8には、酸化チタンを含む被覆層9が形成される。
【解決手段】 マスク1は、マスク本体2とガーゼ3とを含み、マスク本体2は、顔面4に装着した状態で、顔面4の鼻頭部4aと下顎部4bと両顎関節部4cとにわたる口腔周縁部を覆うように構成される。マスク本体2は、たとえば、金属製の基材5に複数の突起6が設けられており、突起6には、マスク本体2の内面7と外面8とに連通する透孔がそれぞれ形成される。突起6は、マスク本体2の、顔面4に臨む内面7とは反対側の外面8から隆起するように基材5に複数設けられる。マスク本体2の外面8には、酸化チタンを含む被覆層9が形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ウイルス、細菌などによる感染を防止するためのマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の原因はウイルスや細菌(以下では、単に「ウイルスなど」という)であり、ウイルスなどの感染は、主に空気感染、飛沫感染および接触感染による。飛沫感染は、直径が5μmより大きなウイルスなどを含む飛沫粒子により感染を起こすもので、咳やくしゃみ、会話、気管吸引など、約1mの距離内で濃厚に感染を受ける。飛沫感染を起こす微生物には、インフルエンザウイルス、髄膜炎菌、ジフテリア菌、百日咳、ペスト菌、溶連菌、マイコプラズマ、麻疹ウイルスなどがある。
【0003】
インフルエンザウイルスは、抗原性などの違いからA型、B型、C型の3属に分類され、さらに、その形態的特徴から100種類以上が存在すると考えられている。インフルエンザは流行性疾患であり、予防のためにはワクチンの接種が有効であるが、流行するウイルスの種類の予測が難しく、予測が外れた場合にはワクチン接種による予防効果が全く期待できず感染爆発(パンデミック)のおそれがある。
【0004】
そのため、予防策としては、手洗い、うがいの励行、マスクの着用など体内にウイルスを侵入させないための基本的な対策が重要視されている。
【0005】
ウイルスなどによる感染対策に用いられるマスクには、日常的に使用されるサージカルマスク、医療従事者用マスクなどがあり、いずれもフィルター機能を利用して呼気および吸気に含まれるウイルスなどを捕集する。
【0006】
したがって、紙、ガーゼ、布、綿製生地、不織布、発泡性樹脂生地等の各種素材が生地として採用され、生地に設けられた開口を小さくすることで、ウイルスなどの捕集特性を向上させる必要がある。
【0007】
たとえば、感染の可能性が高い医療従事者用マスクとしては、N95基準に準拠したマスクが有効である。N95基準は、米国疾病管理予防センター(CDC)の下部研究機関である、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が定めた国家工業基準であり、0.3μm以上の微粒子を95%以上阻止できることが基準とされている。
【0008】
このように、従来のマスクの機能は、すなわちフィルター機能であり、フィルター機能を向上させることで、マスクによる感染予防効果を向上させている。しかしながら、フィルター機能は、単にウイルスをマスクに捕集するだけであり、捕集されなかった一部のウイルスが体内に吸引されたり、捕集されたウイルスがマスクから離れたりすることで十分な予防効果が得られない。
【0009】
また、フィルター機能を向上させることは、通気抵抗を高めることになり、マスク装着者が呼吸しにくく、息苦しくなるため長時間の装着が困難である。
【0010】
特許文献1記載のマスクは、二酸化チタンなどの光触媒体をマスク素地に付着加工し、抗菌、殺菌作用を付与している。また、特許文献2記載のマスクは、光触媒性酸化チタン粒子に金属銀微粒子を担持させた複合粒子をマスク本体部に定着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−202052号公報
【特許文献2】特開2005−73949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1,2記載のマスクでは、通気抵抗の上昇を抑え、捕集されたウイルスに対する殺菌作用により、感染予防効果を向上させているが、抗菌作用、殺菌作用を有効に機能させるには、フィルター機能による捕集が前提であり、フィルター機能を向上させることによる息苦しさは改善されない。また、光触媒を不織布やガーゼ生地に付着させただけでは、光触媒を励起させるための紫外線、可視光が十分に照射されず、触媒活性も十分に向上しない。
【0013】
本発明の目的は、マスクの装着者に息苦しさなどの不快感を発現させることなしに、ウイルスなどの体内への侵入を阻止し、感染を抑制することができるマスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、顔面に装着した状態で、前記顔面の鼻頭部と下顎部と両顎関節部とにわたる口腔周縁部を覆うマスク本体を有するマスクであって、
前記マスク本体は、前記顔面に臨む内面とは反対側の外面に酸化チタンを含む被覆層が形成されるとともに、前記外面および前記被服層が隆起した複数の突起が形成され、各突起には前記内面と前記被覆層の表面とに連通する透孔がそれぞれ形成されることを特徴とするマスクである。
【0015】
また本発明は、前記透孔が、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および上方に臨んで開放していることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記透孔が、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および内側方に臨んで開放していることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、顔面に装着した状態で、前記マスク本体と前記顔面との間に介在するシート体を備え、
前記シート体は、厚み方向の通気性を有し、前記中央領域に対応する領域の目開きが、前記各側部領域に対応する領域の目開きよりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化チタンを含む被覆層が外面に形成されていることから、酸化チタンに紫外線、可視光が十分に照射される。また、複数の突起を有することで、マスク本体の表面積を大きくすることができ、酸化チタンとウイルスなどとの接触機会を増加させることができる。
【0019】
したがって、マスク本体によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果を向上させることができる。
【0020】
透孔がそれぞれ形成される複数の突起によって、面内での呼気の流れ抵抗が少なく、呼気を円滑に外部へ排出することができ、高い呼気圧を要することなく呼気を排出し、また高い吸気圧を要することなく吸気を取り込むことができる。これによってマスクの装着者に息苦しさなどの不快感を発現させることなしに、ウイルスなどの体内への侵入を阻止し、感染を抑制することができる。
【0021】
また本発明によれば、マスク本体の中央領域の透孔は、下方に臨んで開放しているので、マスク本体内側で鼻孔から排出された呼気が大きく迂回することなしに透孔から外部へと排出され、呼気のマスク本体内における淀みや滞りの発生を少なくして、可及的に短い距離でマスク本体から外部へ排出することができる。またマスク本体の各側部領域の透孔から流入する空気も呼気とともに一部が排出される。
【0022】
吸気のときには、外部から空気が流入するが、このときには外側方および上方に開放する2つの透孔、または外側方および内側方に開放する2つの透孔が設けられることで通気抵抗がより小さい各側部領域の透孔から流入する。したがって、吸気のときには、中央領域よりも広い各側部領域に沿って流れる空気が流入するので、外部のウイルスなどと酸化チタンとの接触機会が増加する。
【0023】
このように、中央領域と各側部領域とにおいて透孔が開放する方向を違えることによって、呼気と吸気とのマスク本体内での流れを制御することができ、円滑な呼吸と殺菌効果および抗菌効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の一形態であるマスク1の外観を示す正面図である。
【図2】マスク1の外観を示す側面図である。
【図3】図1に示す切断面線A−Aにおけるマスク1の断面図である。
【図4】マスク本体2の中央領域11に形成された突起6部分の拡大断面図である。
【図5】マスク本体2の各側部領域12に形成された突起6部分の拡大断面図である。
【図6】折り返し部14の拡大断面図である。
【図7】ガーゼ3の他の例を示す概略図である。
【図8】本発明の他の実施形態であるマスク20の外観を示す正面図である。
【図9】マスク20の外観を示す側面図である。
【図10】図8に示す切断面線A−Aにおけるマスク20の断面図である。
【図11】折り返し部16の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態であるマスク1の外観を示す正面図であり、図2は、マスク1の外観を示す側面図である。また図3は、図1に示す切断面線A−Aにおけるマスク1の断面図である。
【0026】
マスク1は、マスク本体2とガーゼ3とを含む。マスク本体2は、顔面4に装着した状態で、顔面4の鼻頭部4aと下顎部4bと両顎関節部4cとにわたる口腔周縁部を覆うように構成される。マスク本体2は、たとえば、金属製の基材5に複数の突起6が設けられており、突起6には、マスク本体2の内面7と外面8とに連通する透孔がそれぞれ形成される。突起6は、マスク本体2の、顔面4に臨む内面7とは反対側の外面8から隆起するように基材5に複数設けられる。
【0027】
本発明のマスク本体2には、外面8に酸化チタンを含む被覆層9が形成される。被覆層9は、マスク本体2の外面8のうち、少なくとも突起6が形成された領域に設け、好ましくは、外面8の全面を被覆するように設ける。
【0028】
本発明のマスク1は、光触媒である酸化チタンが有害物質を分解する能力の一つである活性酸素発生時の殺菌作用を利用している。酸化チタンは、用いる種類により紫外線でも可視光でも励起させることが可能で、屋外で太陽光を照射させずとも、室内の蛍光灯からの照射光でも十分に励起させることができる。紫外線、可視光の照射により、酸化チタン表面で瞬間的に発生する活性酸素が、インフルエンザウイルスなどを殺菌することができるのである。
【0029】
従来のマスクでは、酸化チタンなどの光触媒がガーゼなどの繊維体に付着されていたため、触媒を励起させるための紫外線、可視光が十分に照射されないが、本発明のマスク1は、酸化チタンを含む被覆層9が外面8に形成されていることから、酸化チタンに紫外線、可視光が十分に照射され、酸化チタンが励起されることにより、触媒活性が効果的に発揮される。
【0030】
さらに、上記のようにマスク本体2には、複数の突起6が形成されており、これによって、ウイルスなどを含む空気と接触するマスク本体2の外表面の表面積を大きくすることができる。ウイルスなどは、吸気時に外部の空気とともに吸引されるので、マスク本体2の外表面の表面積を大きくすることで、被覆層9に含まれる酸化チタンとウイルスなどとの接触機会が増大し、マスク本体2によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果を向上させることができる。
【0031】
また、マスク本体2に形成された複数の突起6には、照射光をマスク本体2表面で乱反射させることができ、突起6が形成されていない場合に比べて触媒活性をより向上させることができる。
【0032】
光触媒である酸化チタンは、ウイルスなどの殺菌作用だけでなく花粉の分解、窒素酸化物などの有害物質の分解も可能であるので、本発明のマスク1を使用することで、感染症の予防効果のみならず、花粉症の予防、有毒物質の吸引防止にも顕著な効果を発揮する。
【0033】
図4は、マスク本体2の中央領域11に形成された突起6部分の拡大断面図であり、図5は、マスク本体2の各側部領域12に形成された突起6部分の拡大断面図である。
【0034】
上記のように、突起6には、内面7と外面8および被覆層9の表面とに連通する透孔13がそれぞれ形成される。
【0035】
透孔13がそれぞれ形成されることによって、面内での呼気の流れ抵抗が少なく、呼気を円滑に外部へ排出することができ、高い呼気圧を要することなく呼気を排出し、また高い吸気圧を要することなく吸気を取り込むことができる。
【0036】
このとき、マスク本体2の内面7と顔面4とで囲まれる空間には、マスク本体2の表面で殺菌され清浄化された空気が充満し、マスク1を装着した状態で、深呼吸することができる。
【0037】
これによってマスク1の装着者に息苦しさなどの不快感を発現させることなしに、ウイルスなどの体内への侵入を阻止し、感染を抑制することができる。
【0038】
透孔13は、突起6に形成されていれば、装着者が息苦しさなどの不快感を覚えることなく呼吸することができるが、さらには、突起6を形成する領域に応じて透孔13の開放する方向を違えることが好ましい。本発明では、透孔13の開放方向を上方、下方および外側方の3種類としている。マスク本体2の、鼻頭部4aを覆う鼻頭カバー部と下顎部4bを覆う下顎カバー部とにわたる中央領域11の突起6に形成する透孔13と、中央領域11から各顎関節部4cにわたる各側部領域12の突起6に形成する透孔13とで、透孔13の開放する方向を違えている。
【0039】
具体的には、中央領域11の突起6に形成する透孔13は、下方に臨んで開放し、各側部領域12の突起6に形成する透孔13は、外側方および上方に臨んで開放している。
【0040】
また、各側部領域12の突起6に形成する透孔13については、外側方および上方に限らず、外側方および内側方に臨んで開放するように設けてもよい。
【0041】
呼気については、中央領域11の突起6に形成する透孔13が、下方に臨んで開放しているので、マスク装着時に、マスク本体2内側で鼻孔から排出された呼気が大きく迂回することなしに透孔13から外部へと排出される。呼気のマスク本体2内側における淀みや滞りの発生を少なくして、可及的に短い距離でマスク本体2から外部へと速やかに排出することができる。また呼気がマスク本体2内側から外部へと排出されると、マスク本体2内側での圧力が低下するためにマスク本体2の各側部領域12の突起6に形成される透孔13から空気が流入するが、その一部は呼気とともに中央領域11の透孔13から排出される。
【0042】
吸気のときには、マスク本体2の外部から内部に向かって空気が流入する。このときにはより通気抵抗が小さな箇所から流入しやすい。ここで、各側部領域12の突起6に形成される透孔13は、外側方および上方に開放するように設けられ、中央領域11の突起6に形成される透孔13は、下方に開放するように設けられている。透孔13が2箇所設けられている方が通気抵抗は小さいので、吸気時には主に各側部領域12の透孔13から流入する。
【0043】
吸気は、マスク本体2の外表面に沿って流れる空気が透孔13から流入する。各側部領域12は中央領域11よりも広いので、マスク本体2の外部から内部に向かって流入する空気と接触する、マスク本体2の外表面の接触面積を広くすることができ、その結果、流入する空気に含まれるウイルスなどと被覆層9に含まれる酸化チタンとの接触機会が増加することになる。これにより、マスク本体2によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果をさらに向上させることができる。
【0044】
また、各側部領域12の突起6のうち、最も外側に配置される列の突起6については、外側方に臨んで開放する透孔13を設けず、上方に臨んで開放する透孔13か、または内側方に臨んで開放する透孔13のみを設けることが好ましい。最も外側に配置される列の突起6周辺では、突起6の外側方において十分にウイルスなどが酸化チタンに接触する機会が与えられない可能性があるので、外側方に臨んで開放する透孔13を設けた場合、ウイルスなどを比較的多く含む空気が流入してしまうおそれがある。最も外側に配置される列の突起6では、外側方に臨んで開放する透孔13を設けないことによって、ウイルスなどの侵入をより効果的に防止することができる。
【0045】
マスク本体2は、上記のように金属製であり、表面に酸化チタンコーティングが可能な材質であれば使用することができる。また、顔面との密着性を得るためには、顔面の形状に沿って容易に変形する材質が好ましい。このような材質として、たとえば、厚さが0.05mm〜1.0mm程度のアルミニウム板部材を用いることができる。
【0046】
酸化チタンを含む被覆層9のコーティングは、公知の方法で行うことができ、たとえば、ゾルゲル法のディッピングによる液体コーティング法、化学蒸着による蒸着法などでコーティングすることができる。
【0047】
被覆層9は、その表面において酸化チタンによる殺菌作用を発揮するので、厚みは特に限定されない。たとえば、数nmから数μm程度の厚みがあれば十分に触媒活性が得られる。
【0048】
突起6の大きさは、特に限定されないが、マスク本体2の表面積を増加させること、マスク本体2表面で照射光を乱反射させることを考えると、たとえば直径が2mm〜5mm程度、高さも同じく2mm〜5mm程度とすることが好ましい。
【0049】
突起6に形成される透孔13は、通気孔となるので、たとえば、孔径が1mm〜3mm程度とすればよい。
【0050】
なお、突起6の数、大きさ、透孔13の孔径は、一回の呼吸量である500mlを排出および流入できるように適宜設定すればよい。
【0051】
顔面4に装着した状態で、マスク本体2と顔面4との間に介在するシート体として、本発明では、ガーゼ3を例として説明しているが、少なくとも厚み方向の通気性を有していればガーゼに限らず、不織布やメッシュ状の各種布部材を用いることができる。
【0052】
マスク本体2の内側に流入する空気は、マスク本体の外側で酸化チタンにより死滅されているので、流入する空気中にはウイルスなどはほとんど含まれていない。したがって、従来のようなN95基準に準拠したシート体を用いる必要はなく、市販されているガーゼを用いることができる。
【0053】
マスク本体2の各側部領域12のさらに外側には、装着時に耳に掛けるためのループ状のゴム紐10が設けられる。ゴム紐10の伸縮性により、マスク本体2の装着時には、マスク本体2の内面7が顔面4に圧接されるので、マスク本体2の内面7と顔面4との間にガーゼ3を保持することができる。
【0054】
ガーゼ3のずれ防止のために、たとえば、マスク本体2の内面7に両面テープや、面ファスナーなどにより固定してもよい。しかしながら、両面テープや、面ファスナーなどを用いた場合は、ガーゼ3を剥がすときに破れたり、繊維が解れたりして再利用できなくなる恐れがある。
【0055】
マスク本体2は、金属製であり、上記のように比較的薄い板状部材であるので、曲げ加工などを施しやすい。マスク本体2の周縁部に折り曲げ加工を施し、図6の拡大断面図に示すような折り返し部14を設けることで、この折り返し部14にガーゼ3の周縁部を挟み込んで固定することができる。折り返し部14は、マスク本体2の周縁部全体に設ける必要はなく、たとえば下方と両側方の周縁部に設ければ、ガーゼ3を固定することができる。
【0056】
この折り返し部14を設けることにより周縁部での強度が上昇する。顔面との密着性を得るためには、顔面の形状に沿って容易に変形することが好ましいが、強度が低すぎると、小さな外力でも変形してしまい、逆に密着性が劣ることになる。折り返し部14により周縁部のみの強度を高め、マスク本体2全体としては、顔面の形状に沿って容易に変形するとともに、顔面に密着する周縁部では、一定以上の外力により変形させたのちは、変形しないので、顔面との高い密着性が保持される。
【0057】
図7は、ガーゼ3の他の例を示す概略図である。本例でのガーゼ3は、マスク本体2の中央領域11に対応する領域11aにおける目開きが、各側部領域12に対応する領域12aにおける目開きよりも大きくなるように構成されている。領域11aは、主に呼気が通過する領域であり、この領域11aでは目開きを大きくして、より通気抵抗を小さくすることができる。
【0058】
なお、本発明では、ガーゼ3のフィルター機能を高め、通気抵抗を上昇させることはないが、通気抵抗を上昇させることなくガーゼ3に殺菌性、抗菌性を付与することは好ましい。インフルエンザウイルス用としては、たとえばダチョウなどの生体内で生成された抗体や経鼻ワクチンを染み込ませたものを用いることで、マスク本体2の透孔13を通過したウイルスをガーゼ3によって撃退することができる。
【0059】
図8は、本発明の他の実施形態であるマスク20の外観を示す正面図であり、図9は、マスク20の外観を示す側面図である。また図10は、図8に示す切断面線A−Aにおけるマスク20の断面図である。
【0060】
本実施形態のマスク20は、図1などに示したマスク1と類似の構成を有しており、マスク本体2の周縁部に略半円形状に張出し部15が、周縁部に沿って隣接して設けられ、全体としてマスク本体2の外形が波型に設けられる。
【0061】
張出し部15は、その幅(半円の直径に相当)が0.5cm〜2cm程度に設けられる。複数設けられる張出し部15は、それぞれが独立して変形することができるので、マスク20を顔面4に装着したときに、各張出し部15がそれぞれ接触する顔面4の各部位の形状に応じて変形する。これにより、マスク本体2の顔面4への密着性をさらに高めることができる。
【0062】
マスク本体2の張出し部15には、上記の実施形態と同様に折り返し部を設けることが好ましい。
【0063】
図11は、折り返し部16の拡大断面図である。本実施形態の折り返し部16は、図6に示したような、ガーゼ3を挟み込んで固定するためのものではなく、張出し部15の強度を上昇させるために設けている。張出し部15は、それぞれ変形して顔面4へと密着するため、前述のように、強度が低すぎると小さな外力でも変形してしまい、逆に密着性が劣ることになる。折り返し部16により張出し部15の強度を高め、マスク本体2全体としては、顔面の形状に沿って容易に変形するとともに、顔面に密着する張出し部15では、一定以上の外力により変形させたのちは、変形しないので、顔面との高い密着性が保持される。
【0064】
本発明のさらに他の実施形態として、複数の突起6の頂部にわたって、基材5と同様の材質で構成された帯状部材または線状部材(以下では「帯状部材など」という)を設けることもできる。これにより、マスク本体2と帯状部材などとが突起6の高さと同じだけの間隔をあけて、互いに平行に設けられる。帯状部材などとマスク本体2との間には、微小な空間が複数形成され、吸気時に外部から流入しようとする空気は、これら形成された微小な複数の空間を通って突起6の透孔13から内部へと流入する。
【0065】
したがって、吸気時に流入する空気の流れを微小空間に規制するとともに、空気の流れを複雑化し、被覆層9に含まれる酸化チタンとの接触機会が増加することになる。これにより、マスク本体2によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果をさらに向上させることができる。
【0066】
また、このような帯状部材などは、規則的に配置された突起6から適宜選択した突起6の頂部にわたって設けることにより、たとえば、帯状部材などを平行に複数設けたり、湾曲するように設けたり、ジグザグ状や折れ線状などに設けることができ、設けた帯状部材などによりマスク1に意匠性を持たせることもできる。
【0067】
本発明のマスクは、金属製のマスク本体2を用いており、洗浄によっても酸化チタンの活性は低下することがない。酸化チタンは触媒であるので、殺菌作用を発揮しても酸化チタン自体は劣化することがなく、長期にわたって殺菌作用を持続することができる。また、顔面への密着性に優れるため呼気による眼鏡の曇りも効果的に防止される。
【0068】
また、本発明のマスクは、未感染者が装着して自らの感染を防ぐためだけでなく、感染者が装着して他者への感染を防ぐ効果も発揮する。突起6に設けられた透孔13は、上方、下方および側方のいずれかの方向に形成されるため、感染者が装着した場合に、ウイルスなどが含まれているであろう呼気は、顔の正面方向には放出されず、上下または側方へと放出される。したがって、呼気に含まれる飛沫が正面方向へは飛翔せず、上下または側方へと飛翔するため、飛沫の飛翔距離が短くなる。
【符号の説明】
【0069】
1 マスク
2 マスク本体
3 ガーゼ
4 顔面
5 基材
6 突起
9 被覆層
11 中央領域
12 側部領域
13 透孔
【技術分野】
【0001】
ウイルス、細菌などによる感染を防止するためのマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症の原因はウイルスや細菌(以下では、単に「ウイルスなど」という)であり、ウイルスなどの感染は、主に空気感染、飛沫感染および接触感染による。飛沫感染は、直径が5μmより大きなウイルスなどを含む飛沫粒子により感染を起こすもので、咳やくしゃみ、会話、気管吸引など、約1mの距離内で濃厚に感染を受ける。飛沫感染を起こす微生物には、インフルエンザウイルス、髄膜炎菌、ジフテリア菌、百日咳、ペスト菌、溶連菌、マイコプラズマ、麻疹ウイルスなどがある。
【0003】
インフルエンザウイルスは、抗原性などの違いからA型、B型、C型の3属に分類され、さらに、その形態的特徴から100種類以上が存在すると考えられている。インフルエンザは流行性疾患であり、予防のためにはワクチンの接種が有効であるが、流行するウイルスの種類の予測が難しく、予測が外れた場合にはワクチン接種による予防効果が全く期待できず感染爆発(パンデミック)のおそれがある。
【0004】
そのため、予防策としては、手洗い、うがいの励行、マスクの着用など体内にウイルスを侵入させないための基本的な対策が重要視されている。
【0005】
ウイルスなどによる感染対策に用いられるマスクには、日常的に使用されるサージカルマスク、医療従事者用マスクなどがあり、いずれもフィルター機能を利用して呼気および吸気に含まれるウイルスなどを捕集する。
【0006】
したがって、紙、ガーゼ、布、綿製生地、不織布、発泡性樹脂生地等の各種素材が生地として採用され、生地に設けられた開口を小さくすることで、ウイルスなどの捕集特性を向上させる必要がある。
【0007】
たとえば、感染の可能性が高い医療従事者用マスクとしては、N95基準に準拠したマスクが有効である。N95基準は、米国疾病管理予防センター(CDC)の下部研究機関である、国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が定めた国家工業基準であり、0.3μm以上の微粒子を95%以上阻止できることが基準とされている。
【0008】
このように、従来のマスクの機能は、すなわちフィルター機能であり、フィルター機能を向上させることで、マスクによる感染予防効果を向上させている。しかしながら、フィルター機能は、単にウイルスをマスクに捕集するだけであり、捕集されなかった一部のウイルスが体内に吸引されたり、捕集されたウイルスがマスクから離れたりすることで十分な予防効果が得られない。
【0009】
また、フィルター機能を向上させることは、通気抵抗を高めることになり、マスク装着者が呼吸しにくく、息苦しくなるため長時間の装着が困難である。
【0010】
特許文献1記載のマスクは、二酸化チタンなどの光触媒体をマスク素地に付着加工し、抗菌、殺菌作用を付与している。また、特許文献2記載のマスクは、光触媒性酸化チタン粒子に金属銀微粒子を担持させた複合粒子をマスク本体部に定着させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−202052号公報
【特許文献2】特開2005−73949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1,2記載のマスクでは、通気抵抗の上昇を抑え、捕集されたウイルスに対する殺菌作用により、感染予防効果を向上させているが、抗菌作用、殺菌作用を有効に機能させるには、フィルター機能による捕集が前提であり、フィルター機能を向上させることによる息苦しさは改善されない。また、光触媒を不織布やガーゼ生地に付着させただけでは、光触媒を励起させるための紫外線、可視光が十分に照射されず、触媒活性も十分に向上しない。
【0013】
本発明の目的は、マスクの装着者に息苦しさなどの不快感を発現させることなしに、ウイルスなどの体内への侵入を阻止し、感染を抑制することができるマスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、顔面に装着した状態で、前記顔面の鼻頭部と下顎部と両顎関節部とにわたる口腔周縁部を覆うマスク本体を有するマスクであって、
前記マスク本体は、前記顔面に臨む内面とは反対側の外面に酸化チタンを含む被覆層が形成されるとともに、前記外面および前記被服層が隆起した複数の突起が形成され、各突起には前記内面と前記被覆層の表面とに連通する透孔がそれぞれ形成されることを特徴とするマスクである。
【0015】
また本発明は、前記透孔が、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および上方に臨んで開放していることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記透孔が、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および内側方に臨んで開放していることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、顔面に装着した状態で、前記マスク本体と前記顔面との間に介在するシート体を備え、
前記シート体は、厚み方向の通気性を有し、前記中央領域に対応する領域の目開きが、前記各側部領域に対応する領域の目開きよりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、酸化チタンを含む被覆層が外面に形成されていることから、酸化チタンに紫外線、可視光が十分に照射される。また、複数の突起を有することで、マスク本体の表面積を大きくすることができ、酸化チタンとウイルスなどとの接触機会を増加させることができる。
【0019】
したがって、マスク本体によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果を向上させることができる。
【0020】
透孔がそれぞれ形成される複数の突起によって、面内での呼気の流れ抵抗が少なく、呼気を円滑に外部へ排出することができ、高い呼気圧を要することなく呼気を排出し、また高い吸気圧を要することなく吸気を取り込むことができる。これによってマスクの装着者に息苦しさなどの不快感を発現させることなしに、ウイルスなどの体内への侵入を阻止し、感染を抑制することができる。
【0021】
また本発明によれば、マスク本体の中央領域の透孔は、下方に臨んで開放しているので、マスク本体内側で鼻孔から排出された呼気が大きく迂回することなしに透孔から外部へと排出され、呼気のマスク本体内における淀みや滞りの発生を少なくして、可及的に短い距離でマスク本体から外部へ排出することができる。またマスク本体の各側部領域の透孔から流入する空気も呼気とともに一部が排出される。
【0022】
吸気のときには、外部から空気が流入するが、このときには外側方および上方に開放する2つの透孔、または外側方および内側方に開放する2つの透孔が設けられることで通気抵抗がより小さい各側部領域の透孔から流入する。したがって、吸気のときには、中央領域よりも広い各側部領域に沿って流れる空気が流入するので、外部のウイルスなどと酸化チタンとの接触機会が増加する。
【0023】
このように、中央領域と各側部領域とにおいて透孔が開放する方向を違えることによって、呼気と吸気とのマスク本体内での流れを制御することができ、円滑な呼吸と殺菌効果および抗菌効果を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の一形態であるマスク1の外観を示す正面図である。
【図2】マスク1の外観を示す側面図である。
【図3】図1に示す切断面線A−Aにおけるマスク1の断面図である。
【図4】マスク本体2の中央領域11に形成された突起6部分の拡大断面図である。
【図5】マスク本体2の各側部領域12に形成された突起6部分の拡大断面図である。
【図6】折り返し部14の拡大断面図である。
【図7】ガーゼ3の他の例を示す概略図である。
【図8】本発明の他の実施形態であるマスク20の外観を示す正面図である。
【図9】マスク20の外観を示す側面図である。
【図10】図8に示す切断面線A−Aにおけるマスク20の断面図である。
【図11】折り返し部16の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態であるマスク1の外観を示す正面図であり、図2は、マスク1の外観を示す側面図である。また図3は、図1に示す切断面線A−Aにおけるマスク1の断面図である。
【0026】
マスク1は、マスク本体2とガーゼ3とを含む。マスク本体2は、顔面4に装着した状態で、顔面4の鼻頭部4aと下顎部4bと両顎関節部4cとにわたる口腔周縁部を覆うように構成される。マスク本体2は、たとえば、金属製の基材5に複数の突起6が設けられており、突起6には、マスク本体2の内面7と外面8とに連通する透孔がそれぞれ形成される。突起6は、マスク本体2の、顔面4に臨む内面7とは反対側の外面8から隆起するように基材5に複数設けられる。
【0027】
本発明のマスク本体2には、外面8に酸化チタンを含む被覆層9が形成される。被覆層9は、マスク本体2の外面8のうち、少なくとも突起6が形成された領域に設け、好ましくは、外面8の全面を被覆するように設ける。
【0028】
本発明のマスク1は、光触媒である酸化チタンが有害物質を分解する能力の一つである活性酸素発生時の殺菌作用を利用している。酸化チタンは、用いる種類により紫外線でも可視光でも励起させることが可能で、屋外で太陽光を照射させずとも、室内の蛍光灯からの照射光でも十分に励起させることができる。紫外線、可視光の照射により、酸化チタン表面で瞬間的に発生する活性酸素が、インフルエンザウイルスなどを殺菌することができるのである。
【0029】
従来のマスクでは、酸化チタンなどの光触媒がガーゼなどの繊維体に付着されていたため、触媒を励起させるための紫外線、可視光が十分に照射されないが、本発明のマスク1は、酸化チタンを含む被覆層9が外面8に形成されていることから、酸化チタンに紫外線、可視光が十分に照射され、酸化チタンが励起されることにより、触媒活性が効果的に発揮される。
【0030】
さらに、上記のようにマスク本体2には、複数の突起6が形成されており、これによって、ウイルスなどを含む空気と接触するマスク本体2の外表面の表面積を大きくすることができる。ウイルスなどは、吸気時に外部の空気とともに吸引されるので、マスク本体2の外表面の表面積を大きくすることで、被覆層9に含まれる酸化チタンとウイルスなどとの接触機会が増大し、マスク本体2によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果を向上させることができる。
【0031】
また、マスク本体2に形成された複数の突起6には、照射光をマスク本体2表面で乱反射させることができ、突起6が形成されていない場合に比べて触媒活性をより向上させることができる。
【0032】
光触媒である酸化チタンは、ウイルスなどの殺菌作用だけでなく花粉の分解、窒素酸化物などの有害物質の分解も可能であるので、本発明のマスク1を使用することで、感染症の予防効果のみならず、花粉症の予防、有毒物質の吸引防止にも顕著な効果を発揮する。
【0033】
図4は、マスク本体2の中央領域11に形成された突起6部分の拡大断面図であり、図5は、マスク本体2の各側部領域12に形成された突起6部分の拡大断面図である。
【0034】
上記のように、突起6には、内面7と外面8および被覆層9の表面とに連通する透孔13がそれぞれ形成される。
【0035】
透孔13がそれぞれ形成されることによって、面内での呼気の流れ抵抗が少なく、呼気を円滑に外部へ排出することができ、高い呼気圧を要することなく呼気を排出し、また高い吸気圧を要することなく吸気を取り込むことができる。
【0036】
このとき、マスク本体2の内面7と顔面4とで囲まれる空間には、マスク本体2の表面で殺菌され清浄化された空気が充満し、マスク1を装着した状態で、深呼吸することができる。
【0037】
これによってマスク1の装着者に息苦しさなどの不快感を発現させることなしに、ウイルスなどの体内への侵入を阻止し、感染を抑制することができる。
【0038】
透孔13は、突起6に形成されていれば、装着者が息苦しさなどの不快感を覚えることなく呼吸することができるが、さらには、突起6を形成する領域に応じて透孔13の開放する方向を違えることが好ましい。本発明では、透孔13の開放方向を上方、下方および外側方の3種類としている。マスク本体2の、鼻頭部4aを覆う鼻頭カバー部と下顎部4bを覆う下顎カバー部とにわたる中央領域11の突起6に形成する透孔13と、中央領域11から各顎関節部4cにわたる各側部領域12の突起6に形成する透孔13とで、透孔13の開放する方向を違えている。
【0039】
具体的には、中央領域11の突起6に形成する透孔13は、下方に臨んで開放し、各側部領域12の突起6に形成する透孔13は、外側方および上方に臨んで開放している。
【0040】
また、各側部領域12の突起6に形成する透孔13については、外側方および上方に限らず、外側方および内側方に臨んで開放するように設けてもよい。
【0041】
呼気については、中央領域11の突起6に形成する透孔13が、下方に臨んで開放しているので、マスク装着時に、マスク本体2内側で鼻孔から排出された呼気が大きく迂回することなしに透孔13から外部へと排出される。呼気のマスク本体2内側における淀みや滞りの発生を少なくして、可及的に短い距離でマスク本体2から外部へと速やかに排出することができる。また呼気がマスク本体2内側から外部へと排出されると、マスク本体2内側での圧力が低下するためにマスク本体2の各側部領域12の突起6に形成される透孔13から空気が流入するが、その一部は呼気とともに中央領域11の透孔13から排出される。
【0042】
吸気のときには、マスク本体2の外部から内部に向かって空気が流入する。このときにはより通気抵抗が小さな箇所から流入しやすい。ここで、各側部領域12の突起6に形成される透孔13は、外側方および上方に開放するように設けられ、中央領域11の突起6に形成される透孔13は、下方に開放するように設けられている。透孔13が2箇所設けられている方が通気抵抗は小さいので、吸気時には主に各側部領域12の透孔13から流入する。
【0043】
吸気は、マスク本体2の外表面に沿って流れる空気が透孔13から流入する。各側部領域12は中央領域11よりも広いので、マスク本体2の外部から内部に向かって流入する空気と接触する、マスク本体2の外表面の接触面積を広くすることができ、その結果、流入する空気に含まれるウイルスなどと被覆層9に含まれる酸化チタンとの接触機会が増加することになる。これにより、マスク本体2によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果をさらに向上させることができる。
【0044】
また、各側部領域12の突起6のうち、最も外側に配置される列の突起6については、外側方に臨んで開放する透孔13を設けず、上方に臨んで開放する透孔13か、または内側方に臨んで開放する透孔13のみを設けることが好ましい。最も外側に配置される列の突起6周辺では、突起6の外側方において十分にウイルスなどが酸化チタンに接触する機会が与えられない可能性があるので、外側方に臨んで開放する透孔13を設けた場合、ウイルスなどを比較的多く含む空気が流入してしまうおそれがある。最も外側に配置される列の突起6では、外側方に臨んで開放する透孔13を設けないことによって、ウイルスなどの侵入をより効果的に防止することができる。
【0045】
マスク本体2は、上記のように金属製であり、表面に酸化チタンコーティングが可能な材質であれば使用することができる。また、顔面との密着性を得るためには、顔面の形状に沿って容易に変形する材質が好ましい。このような材質として、たとえば、厚さが0.05mm〜1.0mm程度のアルミニウム板部材を用いることができる。
【0046】
酸化チタンを含む被覆層9のコーティングは、公知の方法で行うことができ、たとえば、ゾルゲル法のディッピングによる液体コーティング法、化学蒸着による蒸着法などでコーティングすることができる。
【0047】
被覆層9は、その表面において酸化チタンによる殺菌作用を発揮するので、厚みは特に限定されない。たとえば、数nmから数μm程度の厚みがあれば十分に触媒活性が得られる。
【0048】
突起6の大きさは、特に限定されないが、マスク本体2の表面積を増加させること、マスク本体2表面で照射光を乱反射させることを考えると、たとえば直径が2mm〜5mm程度、高さも同じく2mm〜5mm程度とすることが好ましい。
【0049】
突起6に形成される透孔13は、通気孔となるので、たとえば、孔径が1mm〜3mm程度とすればよい。
【0050】
なお、突起6の数、大きさ、透孔13の孔径は、一回の呼吸量である500mlを排出および流入できるように適宜設定すればよい。
【0051】
顔面4に装着した状態で、マスク本体2と顔面4との間に介在するシート体として、本発明では、ガーゼ3を例として説明しているが、少なくとも厚み方向の通気性を有していればガーゼに限らず、不織布やメッシュ状の各種布部材を用いることができる。
【0052】
マスク本体2の内側に流入する空気は、マスク本体の外側で酸化チタンにより死滅されているので、流入する空気中にはウイルスなどはほとんど含まれていない。したがって、従来のようなN95基準に準拠したシート体を用いる必要はなく、市販されているガーゼを用いることができる。
【0053】
マスク本体2の各側部領域12のさらに外側には、装着時に耳に掛けるためのループ状のゴム紐10が設けられる。ゴム紐10の伸縮性により、マスク本体2の装着時には、マスク本体2の内面7が顔面4に圧接されるので、マスク本体2の内面7と顔面4との間にガーゼ3を保持することができる。
【0054】
ガーゼ3のずれ防止のために、たとえば、マスク本体2の内面7に両面テープや、面ファスナーなどにより固定してもよい。しかしながら、両面テープや、面ファスナーなどを用いた場合は、ガーゼ3を剥がすときに破れたり、繊維が解れたりして再利用できなくなる恐れがある。
【0055】
マスク本体2は、金属製であり、上記のように比較的薄い板状部材であるので、曲げ加工などを施しやすい。マスク本体2の周縁部に折り曲げ加工を施し、図6の拡大断面図に示すような折り返し部14を設けることで、この折り返し部14にガーゼ3の周縁部を挟み込んで固定することができる。折り返し部14は、マスク本体2の周縁部全体に設ける必要はなく、たとえば下方と両側方の周縁部に設ければ、ガーゼ3を固定することができる。
【0056】
この折り返し部14を設けることにより周縁部での強度が上昇する。顔面との密着性を得るためには、顔面の形状に沿って容易に変形することが好ましいが、強度が低すぎると、小さな外力でも変形してしまい、逆に密着性が劣ることになる。折り返し部14により周縁部のみの強度を高め、マスク本体2全体としては、顔面の形状に沿って容易に変形するとともに、顔面に密着する周縁部では、一定以上の外力により変形させたのちは、変形しないので、顔面との高い密着性が保持される。
【0057】
図7は、ガーゼ3の他の例を示す概略図である。本例でのガーゼ3は、マスク本体2の中央領域11に対応する領域11aにおける目開きが、各側部領域12に対応する領域12aにおける目開きよりも大きくなるように構成されている。領域11aは、主に呼気が通過する領域であり、この領域11aでは目開きを大きくして、より通気抵抗を小さくすることができる。
【0058】
なお、本発明では、ガーゼ3のフィルター機能を高め、通気抵抗を上昇させることはないが、通気抵抗を上昇させることなくガーゼ3に殺菌性、抗菌性を付与することは好ましい。インフルエンザウイルス用としては、たとえばダチョウなどの生体内で生成された抗体や経鼻ワクチンを染み込ませたものを用いることで、マスク本体2の透孔13を通過したウイルスをガーゼ3によって撃退することができる。
【0059】
図8は、本発明の他の実施形態であるマスク20の外観を示す正面図であり、図9は、マスク20の外観を示す側面図である。また図10は、図8に示す切断面線A−Aにおけるマスク20の断面図である。
【0060】
本実施形態のマスク20は、図1などに示したマスク1と類似の構成を有しており、マスク本体2の周縁部に略半円形状に張出し部15が、周縁部に沿って隣接して設けられ、全体としてマスク本体2の外形が波型に設けられる。
【0061】
張出し部15は、その幅(半円の直径に相当)が0.5cm〜2cm程度に設けられる。複数設けられる張出し部15は、それぞれが独立して変形することができるので、マスク20を顔面4に装着したときに、各張出し部15がそれぞれ接触する顔面4の各部位の形状に応じて変形する。これにより、マスク本体2の顔面4への密着性をさらに高めることができる。
【0062】
マスク本体2の張出し部15には、上記の実施形態と同様に折り返し部を設けることが好ましい。
【0063】
図11は、折り返し部16の拡大断面図である。本実施形態の折り返し部16は、図6に示したような、ガーゼ3を挟み込んで固定するためのものではなく、張出し部15の強度を上昇させるために設けている。張出し部15は、それぞれ変形して顔面4へと密着するため、前述のように、強度が低すぎると小さな外力でも変形してしまい、逆に密着性が劣ることになる。折り返し部16により張出し部15の強度を高め、マスク本体2全体としては、顔面の形状に沿って容易に変形するとともに、顔面に密着する張出し部15では、一定以上の外力により変形させたのちは、変形しないので、顔面との高い密着性が保持される。
【0064】
本発明のさらに他の実施形態として、複数の突起6の頂部にわたって、基材5と同様の材質で構成された帯状部材または線状部材(以下では「帯状部材など」という)を設けることもできる。これにより、マスク本体2と帯状部材などとが突起6の高さと同じだけの間隔をあけて、互いに平行に設けられる。帯状部材などとマスク本体2との間には、微小な空間が複数形成され、吸気時に外部から流入しようとする空気は、これら形成された微小な複数の空間を通って突起6の透孔13から内部へと流入する。
【0065】
したがって、吸気時に流入する空気の流れを微小空間に規制するとともに、空気の流れを複雑化し、被覆層9に含まれる酸化チタンとの接触機会が増加することになる。これにより、マスク本体2によるウイルスなどの殺菌効果および抗菌効果をさらに向上させることができる。
【0066】
また、このような帯状部材などは、規則的に配置された突起6から適宜選択した突起6の頂部にわたって設けることにより、たとえば、帯状部材などを平行に複数設けたり、湾曲するように設けたり、ジグザグ状や折れ線状などに設けることができ、設けた帯状部材などによりマスク1に意匠性を持たせることもできる。
【0067】
本発明のマスクは、金属製のマスク本体2を用いており、洗浄によっても酸化チタンの活性は低下することがない。酸化チタンは触媒であるので、殺菌作用を発揮しても酸化チタン自体は劣化することがなく、長期にわたって殺菌作用を持続することができる。また、顔面への密着性に優れるため呼気による眼鏡の曇りも効果的に防止される。
【0068】
また、本発明のマスクは、未感染者が装着して自らの感染を防ぐためだけでなく、感染者が装着して他者への感染を防ぐ効果も発揮する。突起6に設けられた透孔13は、上方、下方および側方のいずれかの方向に形成されるため、感染者が装着した場合に、ウイルスなどが含まれているであろう呼気は、顔の正面方向には放出されず、上下または側方へと放出される。したがって、呼気に含まれる飛沫が正面方向へは飛翔せず、上下または側方へと飛翔するため、飛沫の飛翔距離が短くなる。
【符号の説明】
【0069】
1 マスク
2 マスク本体
3 ガーゼ
4 顔面
5 基材
6 突起
9 被覆層
11 中央領域
12 側部領域
13 透孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔面に装着した状態で、前記顔面の鼻頭部と下顎部と両顎関節部とにわたる口腔周縁部を覆うマスク本体を有するマスクであって、
前記マスク本体は、前記顔面に臨む内面とは反対側の外面に酸化チタンを含む被覆層が形成されるとともに、前記外面および前記被服層が隆起した複数の突起が形成され、各突起には前記内面と前記被覆層の表面とに連通する透孔がそれぞれ形成されることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記透孔は、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および上方に臨んで開放していることを特徴とする請求項1記載のマスク。
【請求項3】
前記透孔は、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および内側方に臨んで開放していることを特徴とする請求項1記載のマスク。
【請求項4】
顔面に装着した状態で、前記マスク本体と前記顔面との間に介在するシート体を備え、
前記シート体は、厚み方向の通気性を有し、前記中央領域に対応する領域の目開きが、前記各側部領域に対応する領域の目開きよりも大きいことを特徴とする請求項2または3記載のマスク。
【請求項1】
顔面に装着した状態で、前記顔面の鼻頭部と下顎部と両顎関節部とにわたる口腔周縁部を覆うマスク本体を有するマスクであって、
前記マスク本体は、前記顔面に臨む内面とは反対側の外面に酸化チタンを含む被覆層が形成されるとともに、前記外面および前記被服層が隆起した複数の突起が形成され、各突起には前記内面と前記被覆層の表面とに連通する透孔がそれぞれ形成されることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記透孔は、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および上方に臨んで開放していることを特徴とする請求項1記載のマスク。
【請求項3】
前記透孔は、前記マスク本体の前記鼻頭部を覆う鼻頭カバー部と前記下顎部を覆う下顎カバー部とにわたる中央領域では、下方に臨んで開放し、前記中央領域から各顎関節部にわたる各側部領域では、外側方および内側方に臨んで開放していることを特徴とする請求項1記載のマスク。
【請求項4】
顔面に装着した状態で、前記マスク本体と前記顔面との間に介在するシート体を備え、
前記シート体は、厚み方向の通気性を有し、前記中央領域に対応する領域の目開きが、前記各側部領域に対応する領域の目開きよりも大きいことを特徴とする請求項2または3記載のマスク。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−178765(P2010−178765A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−14809(P2009−14809)
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(592002950)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月26日(2009.1.26)
【出願人】(592002950)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】
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