説明

マスタシリンダおよびこれを用いたブレーキシステム

【課題】作動開始時のピストンの無効ストロークを小さくかつ作動液の自給性を良好にしつつ、流量制御弁の作動の安定性および確実性を良好に確保しかつ耐久性を向上する。
【解決手段】弁体26a,28aの一端側の支持部26b,28bがそれぞれリザーバ21の接続口部22,23に、これらの支持部26b,28bを支点として回動可能に支持される。作動開始時に液圧室10,11からブレーキ液がリザーバ21へ流出する際、弁体26a,28aが回動して閉じ、切欠き22a,23aによってブレーキ液の流れが絞られて、ピストン5,6の無効ストロークが小さくなる。ポンプによるブレーキ液の吸込み時には、リザーバ21からブレーキ液が液圧室10,11へ流れる際、弁体26a,28aが回動して開き、ブレーキ液の流れが絞られずに液圧室10,11へ流れ、液自給性が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動液を蓄えるリザーバを有し、通常作動時にこのリザーバから液圧室を遮断して液圧を発生するとともに、非作動時にポンプによってリザーバ内の作動液を液圧室を通して吸込み可能なマスタシリンダおよびこれを用いたブレーキシステムの技術分野に関し、特に、ポンプによるリザーバ内の作動液の吸込み時に作動液の必要な吸込み量を確保して作動液の自給性を良好にしつつ、通常作動時にマスタシリンダピストンの無効ストロークを減少させるマスタシリンダおよびブレーキシステムの技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両のブレーキシステムにおいては、通常ブレーキ作動時にマスタシリンダによって発生されたブレーキ液圧をホイールシリンダに供給することでブレーキが作動するとともに、例えばトラックションコントロール装置や車両姿勢安定制御装置等における自動ブレーキの作動時にポンプによってリザーバ内のブレーキ液をマスタシリンダの液圧室を通して吸い込み、かつホイールシリンダに供給することで自動ブレーキが作動するブレーキシステムが提案されている(例えば、特許文献1および2等参照)。
【0003】
ところで、前述のようなマスタシリンダによる通常ブレ−キ作動を行うとともに、ポンプによる自動ブレーキ作動を行うブレーキシステムに用いられるマスタシリンダにおいては、通常ブレーキ作動開始時にマスタシリンダのピストンの無効ストロークをできるだけ小さくするとともに、自動ブレーキ作動時には、ポンプによってリザーバ内のブレーキ液をマスタシリンダの液圧室を通して確実にかつ容易に吸い込むことができるようにしてブレーキ液の自給性を良好にすることが求められる。
【0004】
そこで、このような要求に応えたマスタシリンダが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この特許文献3に開示されているマスタシリンダでは、シリンダ本体とリザーバとの接続部に、ブレーキ液に浮動可能な流量を制御する浮動弁体あるいは可撓性のバルブシート付き絞り弁が設けられている。
【0005】
そして、通常ブレーキ作動開始時には、浮動弁体が上方に浮動しリザーバに着座してブレーキ液の流れを絞り、あるいは可撓性のバルブシート付き絞り弁がリザーバに着座してブレーキ液の流れを絞ることで、マスタシリンダの液圧室からリザーバにブレーキ液が逃げるのを制限して、マスタシリンダピストンの無効ストロークを小さくしている。一方、自動ブレーキ作動時には、浮動弁体が下方に移動しシリンダ本体に着座してブレーキ液の流れを絞らず、あるいは可撓性のバルブシート付き絞り弁がブレーキ液の流動力で下方に撓んでブレーキ液の流れを絞らないことで、ポンプがリザーバから必要な量のブレーキ液を制限することなくマスタシリンダの液圧室を通して吸い込んで、マスタシリンダのブレーキ液の自給性を良好にしている。
【特許文献1】特開2002−79930号公報。
【特許文献2】特開2004−22412号公報等参照。
【特許文献3】特開2000−309262号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前述の特許文献3に開示のマスタシリンダにおいては、通常ブレーキ作動開始時でのマスタシリンダピストンの無効ストロークを小さくすることができ、また、自動ブレーキ作動時でのブレーキ液の自給性を良好にすることができるものの、次の点に改善の余地がある。
【0007】
すなわち、浮動弁体の場合には、この浮動弁体の外周面とシリンダ本体の内周面との間がブレーキ液の液通路となるため、浮動弁体の上下移動する際のガイドがシリンダ本体に設けられていない。このため、浮動弁体の上下移動が安定しなく、浮動弁体の開閉作動の安定性および確実性の考慮が必要となる。その場合、特許文献3には、浮動弁体の上動を確実にするために弱いばね力の圧縮スプリングで浮動弁体を上方に押圧することが提案されているが、このように圧縮スプリングを用いた場合には、ばね力のばらつきやスプリングのへたりが生じるため、スプリングの設定においてこれらのばらつきやへたりを考慮する必要がある。
また、可撓性のバルブシート付き絞り弁の場合には、弁の開閉作動時に弁が強制的に撓むため、この撓みによる弁の耐久性の考慮が必要となる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、流量制御弁により作動開始時のピストンの無効ストロークを小さくするとともに作動液の自給性を良好にしつつ、流量制御弁の作動の安定性および確実性を良好に確保するとともに流量制御弁の耐久性を向上することのできるマスタシリンダおよびこれを用いたブレーキシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の課題を解決するために、請求項1の発明に係るマスタシリンダは、シリンダ本体と、このシリンダ本体の軸方向穴と、この軸方向穴に液密にかつ摺動可能に嵌合挿入されたピストンと、このピストンによって前記シリンダ本体の軸方向穴内に形成され、前記ピストンの非作動時に前記リザーバに連通しかつ前記ピストンの作動時に前記リザーバから遮断されて作動液が外部装置に供給される液圧室とを備え、前記リザーバと前記液圧室との間の作動液通路に、前記液圧室から前記リザーバへ作動液が流動するときその作動液の流れを制限し、前記リザーバから前記液圧室へ作動液が流動するときその作動液の流れを制限しない流量制御弁が設けられているマスタシリンダにおいて、前記流量制御弁が、一端部を前記リザーバまたはシリンダ本体に回動可能に支持され、前記液圧室から前記リザーバへ作動液が流動するとき前記一端部を支点として回動して閉じることで作動液の流れを制限し、前記リザーバから前記液圧室へ作動液が流動するとき前記一端部を支点として回動して開くことで作動液の流れを制限しない弁体を備えることを特徴としている。
【0010】
また、請求項2の発明は、前記弁体が、この弁体が閉じたとき前記リザーバまたは前記シリンダ本体との間に小さい流路面積の液通路を形成し、また、前記弁体が開いたとき、閉じたときの流路面積より大きい流路面積の液通路を形成することを特徴としている。
更に、請求項3の発明は、前記リザーバまたは前記シリンダ本体に切欠きが形成されており、前記小さい流路面積の液通路が、前記弁体が閉じたときに前記弁体と前記切欠きとによって形成されることを特徴としているダ。
更に、請求項4の発明は、前記弁体に小孔が形成されており、前記小さい流路面積の液通路は、前記弁体が閉じたときに前記弁体の小孔によって形成されることを特徴としている。
【0011】
更に、請求項5の発明のブレーキシステムは、シリンダ本体と、このシリンダ本体の軸方向穴と、この軸方向穴に液密にかつ摺動可能に嵌合挿入されたピストンと、このピストンによって前記シリンダ本体の軸方向穴内に形成され、前記ピストンの非作動時に前記リザーバに連通しかつ前記ピストンの作動時に前記リザーバから遮断される液圧室とを備え、前記リザーバと前記液圧室との間の作動液通路に、前記液圧室から前記リザーバへ作動液が流動するときその作動液の流れを制限し、前記リザーバから前記液圧室へ作動液が流動するときその作動液の流れを制限しない流量制御弁が設けられているマスタシリンダと、前記ピストンの作動時に前記液圧室からブレーキ液が供給されてブレーキ力を発生するブレーキシリンダと、前記液圧室に接続され、前記ピストンの非作動時に前記リザーバ内のブレーキ液を吸い込んで前記ブレーキシリンダに供給可能なブレーキ液吸込み手段とを少なくとも備えているブレーキシステムにおいて、前記マスタシリンダが請求項1ないし4のいずれか1記載のマスタシリンダであることを特徴とするブレーキシステム。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明に係るマスタシリンダによれば、リザーバと液圧室との間の作動液の流量を制御する流量制御弁が、一端部が回動可能に支持された弁体を備えているので、弁体を一端部を支点として回動させることで、弁体を安定して確実に開閉作動させることができるとともに、流量制御弁を簡単な構造で構成できる。しかも、弁体を作動液の流れに応じて単に回動させているだけであるので、弁体の耐久性を向上できる。
【0013】
また、マスタシリンダの作動開始時に、作動液がマスタシリンダの液圧室からリザーバに逃げようとするが、その作動液の流れに応じて流量制御弁が閉じてマスタシリンダの液圧室からリザーバに逃げる作動液の流れを制限するので、マスタシリンダの作動開始時に、リザーバに逃げる作動液の量を少なくすることができ、マスタシリンダのピストンの無効ストロークを小さくすることができる。
【0014】
更に、外部装置に作動液を供給する際、作動液がマスタシリンダのリザーバから液圧室に流動しようとするが、その作動液の流れに応じて流量制御弁が開いてマスタシリンダのリザーバから液圧室を通して吸い込まれる作動液の流れを制限しないので、外部装置に十分な作動液を確実に供給することができ、マスタシリンダの作動液の良好な自給性を得ることができる。
【0015】
しかも、流量制御弁が閉じて形成される小さい流路面積の液通路を、リザーバまたはシリンダ本体に形成された切欠き、または、弁体に形成された小孔で構成することにより、簡単な構造で流量制御弁の流量制限制御を行うことができ、流量制御弁の作動信頼性を更に向上できる。
【0016】
特に、請求項5に係るブレーキシステムによれば、マスタシリンダの作動開始時に、マスタシリンダのピストンの無効ストロークを小さくすることができることから、ブレ−キペダルの無効ストロークを低減でき、ペダルフィーリングを向上できる。
また、ブレーキ液吸込み手段を作動してリザーバからブレーキ液をマスタシリンダの液圧室を通して吸込んでブレーキシリンダに供給することで自動ブレーキを作動させる際、マスタシリンダの作動液の良好な自給性を得ることができることから、自動ブレーキを確実に作動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明に係るマスタシリンダの実施形態の一例を模式的に示す縦断面図、図2はこの例のリザーバの第1接続口部を示し、(a)は弁の非作動状態を示す図1の部分拡大図、(b)は(a)におけるIIB−IIB線に沿う断面図、(c)は弁の作動状態を示す(a)と同様の図、(d)は(c)におけるIID−IID線に沿う断面図である。以下の説明において、前、後はそれぞれ図1で左、右に対応している。
【0018】
図1に示すように、この例のマスタシリンダ1はタンデムマスタシリンダとして構成されており、このマスタシリンダ1はシリンダ本体2を有している。このシリンダ本体2の軸方向穴2aには、プライマリピストン3が第1および第2カップシール4,5で液密にかつ摺動可能に嵌合されているとともに、セカンダリピストン6が第3および第4カップシール7,8で液密にかつ摺動可能に嵌合されている。これらの両ピストン3,6は伸縮自在な間隔保持部材9によって連結されている。プライマリピストン3は、図示しないブレーキペダルのペダル踏力あるいはこのペダル踏力を所定のサーボ比で倍力して出力する倍力装置の出力によって作動され、前進するようになっている。
【0019】
シリンダ本体2の軸方向穴2a内において、両ピストン3,6の間にプライマリ液圧室10が設けられているとともに、シリンダ本体2における軸方向穴2aの底部とセカンダリピストン6との間にセカンダリ液圧室11が設けられている。また、プライマリ液圧室10内において、両ピストン3,6の間にプライマリリターンスプリング12が縮設されているとともに、セカンダリ液圧室11内において、シリンダ本体2における軸方向穴2aの底部とセカンダリピストン6との間にセカンダリリターンスプリング13が縮設されている。マスタシリンダ1の非作動時に、間隔保持部材9はプライマリリターンスプリング12のばね力で最大に伸張して両ピストン3,6の間隔を最大限に保持する。
【0020】
プライマリピストン3は前端に開口してプライマリ液圧室10の一部を構成する第1軸方向状穴14を有しているとともに、セカンダリピストン6は前端に開口してセカンダリ液圧室11の一部を構成する第2軸方向穴15を有している。また、プライマリピストン3には、その外周面と第1軸方向穴14の内周面とを連通する所定数の第1径方向孔16が周方向に所定の間隔を置いて設けられているとともに、セカンダリピストン6には、その外周面と第2軸方向穴15の内周面とを連通する所定数の第2径方向孔17が周方向に所定の間隔を置いて設けられている。
【0021】
シリンダ本体2には、第1および第2ブレーキ液給排孔18,19がともに軸方向穴2aに開口するようにして設けられている。第1ブレーキ液給排孔18は、シリンダ本体2に設けられた通路孔20を通してリザーバ21の第1接続口部22に連通しているとともに、第2ブレーキ液給排孔19はリザーバ21の第2接続口部23に連通している。
【0022】
マスタシリンダ1の非作動状態では、両ピストン3,6は、それぞれプライマリリターンスプリング12およびセカンダリリターンスプリング13のばね力によって図1に示す後退限位置とされている。プライマリピストン3の後退限位置では、第1径方向孔16の一部が第2カップシール5のリップ部5aより後方に位置するようになっており、このときにはプライマリ液圧室10が、径方向孔16、プライマリピストン3の外周面と軸方向穴2aの内周面との間の隙間、第1ブレーキ液給排孔18、および通路孔20を通してリザーバ21の第1接続口部22に連通する。また、セカンダリピストン6の後退限位置では、第2径方向孔17の一部が第4カップシール8のリップ部8aより後方に位置するようになっており、このときにはセカンダリ液圧室11が、第2径方向孔17、セカンダリピストン6の外周面と軸方向穴2aの内周面との間の隙間、および第2ブレーキ液給排孔19を通してリザーバ21の第2接続口部23に連通する。
【0023】
プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11は、それぞれ、第1出力口24および第2出力口25を介して図示しない第1および第2ブレーキ系統の各ホイールシリンダ(本発明の外部装置、ブレーキシリンダに相当)に接続されている。その場合、図示しないが、第1および第2出力口24,25と各ホイールシリンダとの間には、例えば、特許文献1および2に開示されている従来の自動ブレーキ装置と同様の、リザーバ21のブレーキ液(本発明の作動液に相当)を吸い込むポンプ(本発明のブレーキ液吸込み手段に相当)による自動ブレーキ装置が設けられている。
【0024】
図2(a)ないし(d)に示すように、リザーバ21の第1接続口部22の先端には、流量制御弁26が設けられている。この流量制御弁26の弁体26aはほぼ円形平板状に形成されているとともに、その一端側の支持部26bが第1接続口部22にこの支持部26bを支点として回動可能に支持されている。この弁体26aはブレーキ液中で浮きやすい合成樹脂(例えば、ポリプロピレン等)から構成されている。また、支持部26bの取付部と反対側の第1接続口部22の先端には、切欠き22aが形成されている。
【0025】
そして、流量制御弁26の図2(a)および(b)に示す非作動位置では、弁体26aが第1接続口部22の先端に形成された弁座26cの一部に当接して流量制御弁26が閉じる。この流量制御弁26が閉じた状態では、リザーバ21側の接続孔27とシリンダ本体2側の通路孔20とが切欠き22aを通して連通するようになっている。したがって、流量制御弁26の閉弁時には、プライマリ液圧室10とリザーバ21とは切欠き22aからなる小さい流路面積の液通路を介して連通する。
【0026】
一方、流量制御弁26の図2(c)および(d)に示す作動位置では、弁体26aが支持部26bを中心に図2(c)において時計回りに回動して第1接続口部22の先端の弁座26cから離れて、流量制御弁26が開く。この流量制御弁26が開いた状態では、リザーバ21側の接続孔27とシリンダ本体2側の通路孔20とが切欠き22aを含む接続孔27の全体の大きな流路面積の通路を通して連通するようになっている。したがって、流量制御弁26の開弁時には、プライマリ液圧室10とリザーバ21とは流路面積が拡大されて制限されることなく連通する。
【0027】
図1に示すように、リザーバ21の第2接続口部23の先端にも流量制御弁26とまったく同じ流量制御弁28が流量制御弁26とまったく同じようにして設けられているとともに、第2接続口部23の先端には、切欠き23aが形成されている。流量制御弁28が閉じた状態では、リザーバ21側の接続孔29とシリンダ本体2側の第2ブレーキ液給排孔19とが切欠き23aを通して連通するようになっている。したがって、流量制御弁28の閉弁時には、セカンダリ液圧室11とリザーバ21とは切欠き23aからなる液通路を介して流路面積を制限されて連通する。
【0028】
このように構成されたこの例のマスタシリンダ1においては、その非作動時は、図1,図2(a)および(b)に示すように流量制御弁26の弁体26aがブレーキ液からの浮力を受けてリザーバ21の第1接続口部22の先端の弁座26cに当接しており、また、図1に概略的に示すように流量制御弁28の弁体28aが同様にブレーキ液からの浮力を受けてリザーバ21の第2接続口部23の先端の弁座28cに当接していて、流量制御弁26および流量制御弁28は閉弁状態にされている。
【0029】
この状態で、ブレーキペダルの踏み込みによる通常ブレーキ操作が行われると、従来の一般的なタンデムマスタシリンダと同様に、プライマリピストン3が前進する。そして、プライマリピストン3の第1径方向孔16のすべてが第2カップシール5のリップ部5aより前方に位置すると、プライマリ液圧室10とリザーバ21とが遮断され、プライマリ液圧室10に液圧が発生する。また、セカンダリピストン6が、プライマリリターンスプリング12を介するプライマリピストン3からの押圧力とプライマリ液圧室10内の液圧とにより前進する。そして、セカンダリピストン6の第2径方向孔17のすべてが第4カップシール7のリップ部7aよりより前方に位置すると、セカンダリ液圧室11とリザーバ21とが遮断され、セカンダリ液圧室11に液圧が発生する。
【0030】
そして、第1径方向孔16のすべてが第2カップシール5のリップ部5aより前方へ移動するとき、および第2径方向孔17のすべてが第4カップシール7のリップ部7aより前方へ移動するとき、プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11内の各ブレーキ液がそれぞれリザーバ21の方へ流出しようとするが、両流量制御弁26,28が閉弁状態にあるので、プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11内の各ブレーキ液は、それぞれ切欠き22a,23aからなる流路面積の比較的小さな液通路を介してのみ流出するようになる。
【0031】
したがって、プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11内の各ブレーキ液のリザーバ21への流れが絞られ、各ブレーキ液のリザーバ21への流出量が制限される。これにより、プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11内の各ブレーキ液が第1出力口24および第2出力口25介して有効に各ホイールシリンダに供給されるので、マスタシリンダ1からホイールシリンダまでのブレーキ系のロスストロークが比較的速く解消され、ペダルストロークが短縮される。
【0032】
ブレーキペダルを解放して通常ブレーキ操作を解除すると、従来の一般的なタンデムマスタシリンダと同様に、プライマリリターンスプリング12およびセカンダリリターンスプリング13の各ばね力で、プライマリピストン3およびセカンダリピストン6が後退する。そして、図1示すようにプライマリピストン3の第1径方向孔16の一部が第2カップシール5のリップ部5aより後方に位置すると、プライマリ液圧室10とリザーバ21とが連通するとともに、セカンダリピストン6の第2径方向孔17の一部が第4カップシール7のリップ部7aより後方に位置すると、セカンダリ液圧室11とリザーバ21とが連通する。これにより、プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11内の各ブレーキ液がリザーバに戻され、プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11内が大気圧となって通常ブレーキが解除する。
【0033】
そして、プライマリピストン3およびセカンダリピストン6がそれらの図1に示す後退限位置の方へ後退するが、このとき、プライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11内が負圧になろうとして、両ピストン3,6の戻りに支障を来す。しかし、このときにはリザーバ21からブレーキ液がプライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11の方へ流動する。このため、図2(c)および(d)に示すように流量制御弁26の弁体26aが支持部26bを支点として回動し、また、図1に概略的に示すように流量制御弁28の弁体28aが支持部28bを支点として回動して、流量制御弁26,28が開く。したがって、ブレーキ液の流路面積が拡大して、十分なブレーキがリザーバ21からプライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11に供給され、プライマリピストン3およびセカンダリピストン6が確実に後退限位置まで後退し、非作動状態となる。
【0034】
一方、例えばトラックションコントロール装置や車両姿勢安定制御装置(ESP)等における自動ブレーキが作動すると、従来の自動ブレーキ装置と同様に、マスタシリンダ1とホイールシリンダとの間に配設されたポンプによってリザーバ21内のブレーキ液がマスタシリンダ1を通して吸い込まれる。このとき、リザーバ21からブレーキ液がプライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11の方へ流動する。
【0035】
このため、図2(c)および(d)に示すように各弁体26a,28aがそれぞれ支持部26b,28bを支点として回動して、流量制御弁26,28が開く。したがって、ブレーキ液の流路面積が拡大して、自動ブレーキ作動に必要なブレーキがリザーバ21からプライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11を通して確実に各ホイールシリンダに供給される。こうして、自動ブレーキが作動する。
【0036】
自動ブレーキを解除するためにポンプが停止されると、各ホイールシリンダに供給されたブレーキ液がマスタシリンダ1のプライマリ液圧室10およびセカンダリ液圧室11を通してリザーバ21に戻され、自動ブレーキが解除する。このとき、流量制御弁26,28が閉じるが、ブレーキ液は切欠き22aを通してリザーバ21に戻されるので、マスタシリンダ1の両液圧室10,11内に残圧が生じることはない。
【0037】
この例のマスタシリンダ1によれば、流量制御弁26,28が閉じて切欠き22aにより、マスタシリンダ1の両液圧室10,11からリザーバ21に逃げるブレーキ液を抑制するので、マスタシリンダ1の作動開始時に、リザーバ21に逃げるブレーキ液の量を少なくすることができ、マスタシリンダ1のピストンの無効ストロークを減少させることができる。これにより、ブレーキペダルのフィーリングを良好にすることができる。
【0038】
また、例えばトラックションコントロールや車両姿勢安定制御装置等における自動ブレーキ作動時にポンプがマスタシリンダ1の両液圧室10,11を通してリザーバ21からブレーキ液を吸い込む際、流量制御弁26,28が開いて大きな流路面積が確保されるので、リザーバ21からホイールシリンダへ十分なブレーキ液をスムーズに供給することができる。したがって、自動ブレーキ作動時の良好な液自給性を確保することができるとともに、自動ブレーキを確実に作動させることができる。
【0039】
更に、流量制御弁26,28は、それらの弁体26a,28aの一端側の支持部26b,28bがそれぞれ第1接続口部22および第2接続口部23に回動可能に支持されているので、それらの弁体26a,28aを支持部26b,28bを支点として回動可能にできる。したがって、弁体26a,28aを安定して確実に開閉作動させることができるとともに、流量制御弁26,28を簡単な構造で構成できる。しかも、第1接続口部22および第2接続口部23に単に切欠き22a,23aを設けるだけで、流量制御弁26,28の流量制限制御を行うことができ、流量制御弁26,28の作動信頼性を向上できる。
【0040】
図3は、本発明に係るマスタシリンダの実施形態の他の例のリザーバの第1接続口部を模式的に示し、(a)は弁の非作動状態を示す図2(a)と同様の図、(b)は(a)におけるIIIB−IIIB線に沿う断面図、(c)は弁の作動状態を示す図2(c)と同様の図、(d)は(c)におけるIIID−IIID線に沿う断面図である。なお、前述の例と同じ構成要素には同じ符号を付すことにより、その詳細な説明は省略する。
【0041】
前述の図1および図2に示す例ではリザーバ21の第1および第2接続口部22,23に切欠き22a,23aをそれぞれ設け、流量制御弁26,28の非作動時にこれらの切欠き22a,23aによる液通路によりブレーキ液の流れを制限するようにしているが、図3(a)ないし(d)に示すようにこの例のマスタシリンダ1では、リザーバ21の第1および第2接続口部22,23には切欠き22a,23aがいずれも設けられておらず、代わりに、流量制御弁26,28の弁体26a,28aに、これらの弁体26a,28aの上下面を貫通する小孔26d,28dがそれ穿設されている(説明の便宜上、符号28a,28dも図3(b),(d)にかっこを付して記載している)。
【0042】
これらの弁体26a,28aの小孔26d,28dは、いずれも前述の例の切欠き22a,23aと同じ機能を有している。つまり、流量制御弁26,28が閉じた状態では、リザーバ21側とシリンダ本体2の両液圧室10,11側とが、それぞれ狭い流路面積の小孔26d,28dを介して連通される。したがって、流量制御弁26,28の閉弁時には、ブレーキ液が小孔26d,28dからなる液通路によって流量を制限されて流れるようになる。
【0043】
この例のマスタシリンダ1によれば、リザーバ21の第1および第2接続口部22,23に特別の加工を施す必要がなく、あらかじめ小孔26d,28dを設けた弁体26a,28aを用意するだけで済むようになる。したがって、その分、マスタシリンダ1の製造が容易になる。
この例のマスタシリンダ1の他の構成および他の作用効果は、前述の例と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係るマスタシリンダは、ポンプによるリザーバ内の作動液の吸込み時に作動液の必要な吸込み量を確保して作動液の自給性を良好にしつつ、通常作動時にマスタシリンダピストンの無効ストロークを減少させるマスタシリンダに好適に利用することができる。
また、本発明に係るブレーキシステムは、ポンプ駆動によりホイールシリンダのブレーキを加圧してブレーキを行う自動ブレーキ装置(例えば、トラクションコントロール装置や車両姿勢安定性制御装置など)を備えるとともに、通常ブレーキ作動時にマスタシリンダのピストンの無効ストロークを小さくして、ブレーキペダルフィーリングを良好にするブレーキシステムに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明に係るマスタシリンダの実施形態の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1に示す例のリザーバの第1接続口部を示し、(a)は弁の非作動状態を示す図1の部分拡大図、(b)は(a)におけるIIB−IIB線に沿う断面図、(c)は弁の作動状態を示す(a)と同様の図、(d)は(c)におけるIID−IID線に沿う断面図である。
【図3】本発明に係るマスタシリンダの実施形態の他の例のリザーバの第1接続口部を模式的に示し、(a)は弁の非作動状態を示す図2(a)と同様の図、(b)は(a)におけるIIIB−IIIB線に沿う断面図、(c)は弁の作動状態を示す図2(c)と同様の図、(d)は(c)におけるIIID−IIID線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1…マスタシリンダ、2…シリンダ本体、3…プライマリピストン、6…セカンダリピストン、10…プライマリ液圧室、11…セカンダリ液圧室、21…リザーバ、22…第1接続口部、22a…切欠き、23…第2接続口部、23a…切欠き、26,28…流量制御弁、26a,28a…弁体、26b,28b…支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ本体と、このシリンダ本体の軸方向穴と、この軸方向穴に液密にかつ摺動可能に嵌合挿入されたピストンと、このピストンによって前記シリンダ本体の軸方向穴内に形成され、前記ピストンの非作動時に前記リザーバに連通しかつ前記ピストンの作動時に前記リザーバから遮断されて作動液が外部装置に供給される液圧室とを備え、前記リザーバと前記液圧室との間の作動液通路に、前記液圧室から前記リザーバへ作動液が流動するときその作動液の流れを制限し、前記リザーバから前記液圧室へ作動液が流動するときその作動液の流れを制限しない流量制御弁が設けられているマスタシリンダにおいて、
前記流量制御弁が、一端部を前記リザーバまたはシリンダ本体に回動可能に支持され、前記液圧室から前記リザーバへ作動液が流動するとき前記一端部を支点として回動して閉じることで作動液の流れを制限し、前記リザーバから前記液圧室へ作動液が流動するとき前記一端部を支点として回動して開くことで作動液の流れを制限しない弁体を備えることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記弁体は、この弁体が閉じたとき前記リザーバまたは前記シリンダ本体との間に小さい流路面積の液通路を形成し、また、前記弁体が開いたとき、閉じたときの流路面積より大きい流路面積の液通路を形成することを特徴とする請求項1記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記リザーバまたは前記シリンダ本体に切欠きが形成されており、前記小さい流路面積の液通路は、前記弁体が閉じたときに前記弁体と前記切欠きとによって形成されることを特徴とする請求項2記載のマスタシリンダ。
【請求項4】
前記弁体に小孔が形成されており、前記小さい流路面積の液通路は、前記弁体が閉じたときに前記弁体の小孔によって形成されることを特徴とする請求項2記載のマスタシリンダ。
【請求項5】
シリンダ本体と、このシリンダ本体の軸方向穴と、この軸方向穴に液密にかつ摺動可能に嵌合挿入されたピストンと、このピストンによって前記シリンダ本体の軸方向穴内に形成され、前記ピストンの非作動時に前記リザーバに連通しかつ前記ピストンの作動時に前記リザーバから遮断される液圧室とを備え、前記リザーバと前記液圧室との間の作動液通路に、前記液圧室から前記リザーバへ作動液が流動するときその作動液の流れを制限し、前記リザーバから前記液圧室へ作動液が流動するときその作動液の流れを制限しない流量制御弁が設けられているマスタシリンダと、
前記ピストンの作動時に前記液圧室からブレーキ液が供給されてブレーキ力を発生するブレーキシリンダと、
前記液圧室に接続され、前記ピストンの非作動時に前記リザーバ内のブレーキ液を吸い込んで前記ブレーキシリンダに供給可能なブレーキ液吸込み手段とを少なくとも備えているブレーキシステムにおいて、
前記マスタシリンダは請求項1ないし4のいずれか1記載のマスタシリンダであることを特徴とするブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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