説明

マスタシリンダ

【課題】逆止弁の開弁時にリザーバに繋がる通路の管路抵抗の増大を低減して、接続機器の円滑な作動を得ることのできるマスタシリンダを提供する。
【解決手段】リザーバ2に接続されるシリンダ本体3に、リザーバ2から圧力室6に作動液を補給する補給通路を設ける。補給通路をバイパスしてリザーバ2と圧力室6を連通するバイパス通路37を設け、バイパス通路37に、圧力室6の圧がリザーバ2の圧よりも低いときに開く逆止弁34を設ける。バイパス通路37を、逆止弁34を収容する弁室33と、リザーバ通路35および圧力室通路36によって構成する。リザーバ通路35を弁室33の底面31aに開口させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両のブレーキ装置等に用いられるマスタシリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マスタシリンダは、リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体にピストンが摺動自在に嵌合され、シリンダ本体の内部に、ピストンの作動に応じて作動液を加圧する圧力室が形成されている。そして、圧力室は配管を通してブレーキ装置等の液圧機器に接続され、ピストンの作動に応じて液圧機器を作動させるようになっている。また、シリンダ本体には、ピストンの戻り作動時等に圧力室内の圧力が負圧になるのを防止するため、リザーバから圧力室に作動液を補給する補給通路が設けられている。
【0003】
近年、車両の車輪スリップ状況に応じて車輪に自動的に制動力を付与するトラクションコントロールシステムが開発されている。このようにシステムにおいては、トラクション制御時に液圧機器の一部である制御用ポンプがマスタシリンダの圧力室内から作動液を吸い込み、その作動液を車輪制動部に供給する。この場合、マスタシリンダでは、圧力室から吸い込まれる分に対応する作動液が前記補給通路を通してリザーバから圧力室に補給されるが、制御用ポンプの吸い込み量が多い場合には作動液の補給が不足し易くなる。
【0004】
従来、これに対処するマスタシリンダとして、圧力室で作動液が不足する状況になった場合に、リザーバと圧力室を接続する別通路を開く構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
このマスタシリンダは、シリンダ本体に、補給通路を迂回してリザーバと圧力室を連通するバイパス通路が設けられ、このバイパス通路内に、圧力室内の圧力がリザーバの圧力よりも低くなったときに開弁する逆止弁が介装されている。
【特許文献1】特開平11−268629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この従来のマスタシリンダにおいては、逆止弁が収容される弁室が、シリンダ本体内の圧力室に近接した位置に形成され、弁室とリザーバが、弁室の軸方向と斜めに交差する比較的長い通路で接続されているため、低温で作動液の粘度が高くなったときに管路抵抗が大きくなり、トラクションコントロールの作動性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0006】
そこでこの発明は、逆止弁の開弁時にリザーバに繋がる通路の管路抵抗の増大を低減して、接続機器の円滑な作動を得ることのできるマスタシリンダを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体と、このシリンダ本体に摺動自在に嵌合されてシリンダ本体内に圧力室を画成するピストンと、前記シリンダ本体に形成されて前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、この補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室を連通するバイパス通路と、このバイパス通路に介装されて前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁と、を備えたマスタシリンダにおいて、前記バイパス通路は、前記逆止弁が設けられる弁室と、この弁室と前記リザーバを連通するリザーバ通路と、前記弁室と前記圧力室を連通する圧力室通路とから成り、前記弁室は、前記シリンダ本体に一体に形成された底面およびこの底面を取り囲む側壁から成る凹部と、この凹部を閉塞する蓋部材と、により構成され、さらに、前記弁室は、前記シリンダ本体の前記リザーバとの接続部分に形成され、前記リザーバ通路は、前記弁室の底面に開口していることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマスタシリンダにおいて、前記シリンダ本体の前記リザーバとの接続部分には、前記リザーバの作動液の供給部が嵌合される接続凹部が形成され、この接続凹部の底面の延長線上に、前記弁室の凹部の底面がこの接続凹部の底面とほぼ直交するように形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のマスタシリンダにおいて、前記弁室の底面は、前記リザーバ通路の開口部の周囲が、前記逆止弁の弁座を構成することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスタシリンダにおいて、前記圧力室通路の端部は前記弁室の底面または側壁に開口していることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のマスタシリンダにおいて、前記逆止弁は、前記弁室の底面の弁座に着座する弁体と、この弁体と前記蓋部材の間に設けられて、前記弁体を前記弁座方向に付勢するばね部材とから成ることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のマスタシリンダにおいて、前記弁体は、前記蓋部材に向けて延出する弁棒部を備え、前記蓋部材は、前記弁棒部を摺動自在に案内するガイド部を備えていることを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマスタシリンダにおいて、前記蓋部材には、前記逆止弁を介して液圧機器に作動液を供給する供給口が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載のマスタシリンダにおいて、前記弁体は、蓋部材に向けて延出する弁棒部に、一端が前記弁室に連通する軸孔が形成され、前記蓋部材は、前記弁棒部を摺動自在に案内するガイド孔を備え、このガイド孔の端部に前記供給口が一体に形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8項のいずれか1項に記載のマスタシリンダにおいて、前記蓋部材には、前記逆止弁を進退変位可能に保持する拘束部材が設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項1または2に記載のマスタシリンダにおいて、前記蓋部材には、前記逆止弁を進退変位可能に保持する拘束部材が設けられ、この拘束部材に前記逆止弁の弁座が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、弁室を構成する凹部がシリンダ本体のリザーバとの接続部分に形成され、弁室とリザーバ室を連通するリザーバ通路が前記凹部の底面に開口されるため、リザーバ通路を比較的短くして、逆止弁の開弁時におけるリザーバ通路の管路抵抗を減少させることができる。したがって、温度の低下による作動液の粘性上昇等に拘わらず、接続機器の円滑な作動を得ることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、凹部の底面が弁座となるため、逆止弁回りの構造を簡素化できるうえ、凹部を通して容易に弁座を加工することができる。
【0019】
また、請求項8に記載の発明によれば、弁体の弁棒部に設けられた軸孔と、蓋部材のガイド孔を介して蓋部材から液圧機器に作動液を供給することができるため、部品の効率配置が可能になり、弁室周囲のコンパクト化を図ることが可能になる。
【0020】
請求項9に記載の発明によれば、逆止弁が拘束部材を介して蓋部材に保持されるため、部品搬送や組立の段階において逆止弁が損傷しにくくなり、しかも、逆止弁を蓋部材とともにシリンダ本体の凹部に容易に取付けることが可能になる。
【0021】
請求項10に記載の発明によれば、請求項9に記載の発明と同様の効果を得ることができるうえ、蓋部材と一体化される拘束部材に弁座が設けられていることから、逆止弁と弁座の調整を外部で容易に行なえるとともに、メンテナンスも容易になるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。最初に、図1〜図4に示す第1の実施形態について説明する。
図面において、1は、この発明に係るマスタシリンダであり、2は、このマスタシリンダ1の上部に取付けられたリザーバである。この実施形態のマスタシリンダ1は車両のブレーキ装置に用いられ、運転席のブレーキ操作に連動してブレーキ回路に作動液を供給する。また、ブレーキ回路には図示せぬトラクションコントロール用の制御ポンプ(液圧機器)が設けられ、車両の運転状況に応じて、運転者のブレーキ操作とは別にマスタシリンダ1から制御ポンプに作動液が吸引されるようになっている。
【0023】
マスタシリンダ1は、有底円筒状のシリンダ本体3内にプライマリピストン4とセカンダリピストン5が直列に配置されたタンデム型のマスタシリンダであり、シリンダ本体3内の両ピストン4,5によって画成される第1,第2圧力室6,7が夫々給排孔10a,10bを介して車両の異なるブレーキ配管系(例えば、前輪側のブレーキ配管系と後輪側のブレーキ配管系)に接続されている。
【0024】
プライマリピストン4は、シリンダ本体3の開口側(図2中の右側)に摺動自在に嵌合され、その開口側の端部が図示しないブースタを介してブレーキペダルの操作ロッドに連結されている。セカンダリピストン5は、シリンダ本体3に摺動自在に嵌合され、プライマリピストン4との間に第1圧力室6を形成するとともに、シリンダ本体3の底部との間に第2圧力室7を形成している。各圧力室6,7内には、プライマリピストン4とセタンダリピストン5に戻り方向の反力を付与するリターンスプリング8が設けられている。各リターンスプリング8は、スプリングリテーナ9に一体に組み付けられ、スプリングユニットとして各圧力室6,7内に配置されている。
【0025】
また、シリンダ本体3の上面には、リザーバ2を取付けるためのボス部11a,11bが設けられ、この各ボス部11a,11bにリザーバ2の円筒状の給排口12a,12b(作動液の供給部)が接続されている。そして、各ボス部11a,11bには、シリンダ本体3の軸心に向かってほぼ直角に凹設され、前記リザーバ2の給排口12a,12bを受容する接続凹部20a,20aが形成されている。
一方、シリンダ本体3の内周面の軸方向に離間した二位置には環状溝14a,14bが夫々形成され、この各環状溝14a,14bと前記接続凹部20a,20bが連通孔13a,13bによって接続されている。各環状溝14a,14bは、夫々プライマリピストン4とセカンダリピストン5の外周面に臨む位置に形成され、後述する導通溝18a,18bを通して対応する圧力室6,7に接続されるようになっている。また、シリンダ本体3の内周面の各環状溝14a,14bの軸方向の前後位置にはシールリング15,16が装着され、これらのシールリング15,16によってシリンダ本体3と各ピストン4,5の摺動隙間が液密にシールされている。
【0026】
さらに、シリンダ本体3の内周面のうちの環状溝14a,14bの各前方側(図2中左側)には、環状溝14a,14bと圧力室6,7を夫々接続する導通溝18a,18bが形成されている。各導通溝18a,18bは、シリンダ本体3の軸方向に沿って形成されているが、この各導通溝18a,18bの延出方向の途中には前述の一方のシールリング15が介在されている。シールリング15は断面E字状に形成され、その断面の開口側が前方(図2中左側)に向くようにシリンダ本体3に設置され、内周壁が各ピストン4,5の外周面に摺動自在に密接するようになっている。また、シールリング15は、前方側の圧力室6,7の圧力が後方側の環状溝14a,14bの圧力よりも低くなった場合に、外周壁が撓み変形することによって導通溝18a,18bを開き、環状溝14a,14b(リザーバ2)から対応する圧力室6,7への作動液の補給を許容する。
【0027】
プライマリ・セカンダリの各ピストン4,5には夫々前方側(図2中左側)の第1圧力室6と第2圧力室7に臨む円筒壁4a,5aが設けられ、各円筒壁4a,5aには径方向に貫通する戻し孔17が形成されている。この各戻し孔17は、各ピストン4,5が最大に後退した初期位置にあるとき、圧力室6,7と各対応する環状溝14a,14bとを導通させ、圧力室6,7及びブレーキ回路をリザーバ2と同圧の大気圧とする。
【0028】
したがって、各ピストン4,5が初期位置にあるときには、リザーバ2と各圧力室6,7が通路孔13a,13b、環状溝14a,14b、及びピストン4,5の戻し孔17を通して導通しており、トラクションコントロール作動により圧力室6,7の作動液量が不足したときにリザーバ2から作動液が補給されるようになっている。上記の初期位置の状態から各ピストン4,5が前方側に移動して戻し孔17が環状溝14a,14bに臨む位置から前方側にずれると、戻し孔17がシールリング15の内周面によって閉塞され、リザーバ2と各圧力室6,7との導通が遮断される。このとき、各ピストン4,5の前進作動に応じて各圧力室6,7内の圧力が高まり、作動液が給排孔10a,10bを通してブレーキ回路に供給されるようになる。この作動液の供給時には、各圧力室6,7内の圧力が高まることのよって、シールリング15が導通溝18a,18bを閉塞する力が大きくなる。
なお、本明細書において、給排孔10a,10bは圧力室6,7の一部を成すものとする。
また、この状態から各ピストン4,5がリターンスプリング8の力を受けて後退すると、ブレーキ回路の作動液が給排孔10a,10bを通して各圧力室6,7内に戻される。そして、このとき各圧力室6,7内の圧力が一時的にリザーバ2の内圧よりも低くなると、前述のようにシールリング15の外周壁が撓んで導通溝18a,18bを通って各圧力室6,7内での不足分の作動液がリザーバ2から補給される。
なお、この実施形態の場合、シリンダ本体3の通路孔13a,環状溝14aおよび戻し孔17がこの発明における補給通路21を構成している。
【0029】
ところで、シリンダ本体3の第1圧力室6側のボス部11aの付根位置には、図1,図3に示すようにシリンダ本体3の軸方向とボス部11aの突出方向に略直交する方向に突出した弁収容ブロック30が一体に形成されている。弁収容ブロック30の端面には凹部31が形成され、その凹部31の開口端が蓋部材32で閉塞され、これらの間に弁室33が形成されている。凹部31は、弁収容ブロック30の突出方向に沿って断面円形状に凹設され、中心部付近が偏平な底面31aと、その底面31aを取り囲む環状の側壁31bとによって構成されている。弁室33には後述する逆止弁34が収容配置されている。
凹部31の底面31aの略中心位置には、リザーバ2との接続部である接続凹部20aと凹部31を連通するリザーバ通路35が形成されている。なお、凹部31の底面31aは、接続凹部20aの底面20aの延長上に位置され、かつ、接続凹部20aの底面20aに対して直交するように形成されている。また、シリンダ本体3のうちの、凹部31の底面31aと側壁31bの連接位置には、第1圧力室6と弁室33を連通する圧力室通路36が形成されている。この圧力室通路36は、図1に示すように凹部31の軸線とシリンダ本体3の軸線に対して斜めに傾斜して形成されている。
ここで説明したリザーバ通路35,弁室33,圧力室通路36は、前述した補給通路21をバイパスしてリザーバ2と第1圧力室6を連通するバイパス通路37を構成している。
【0030】
また、逆止弁34は第1圧力室6内の圧力がリザーバ2の圧力よりも設定圧だけ低いときにバイパス通路37を開放するものであり、蓋部材32側からばね部材38で付勢された弁体39がリザーバ通路35の端部を開閉する基本構造となっている。
弁体39は、外周面と前部側(リザーバ通路35に臨む側)の周縁部にかけてシール材が被着された頭部39aと、この頭部39aから蓋部材32側に向けて突出する円筒状の弁棒部39bと、を備え、頭部39aの周縁部が、凹部31内の底面31aのうちの、リザーバ通路35の開口周縁に着座するようになっている。つまり、凹部31内の底面31aは、リザーバ通路35の開口縁部が弁体39の着座する弁座を成している。
【0031】
一方、凹部31内に臨む蓋部材32の端面には、ばね部材38を支持するための凹部32aが形成されるとともに、その凹部32aの中心位置に、弁体39の弁棒部39bの外周面が摺動自在に嵌合されるガイド穴32b(ガイド部)が形成されている。なお、弁棒部39bには、ガイド穴32bと弁室33とを連通する貫通孔39cが形成されている。
【0032】
以上の構成において、車両の走行中にトラクションコントロールが作動してブレーキ回路内の制御ポンプがマスタシリンダ1側から作動液を吸い上げ、マスタシリンダ1内の第1圧力室6の圧力がリザーバ2内の圧力よりも設定圧以上に低下すると、弁収容ブロック30内の逆止弁34がバイパス通路37を開き、リザーバ2内の作動液が補給通路21とバイパス通路37を通って第1圧力室6内に補給されるようになる。したがって、これにより充分な量の作動液が第1圧力室6から制御ポンプに迅速に供給されるようになり、所望のトラクションコントロールが安定して得られるようになるとともに、マスタシリンダ1内での負圧の発生も防止される。
【0033】
このマスタシリンダ1においては、バイパス通路37の一部を成す弁室33が、弁収容ブロック30に形成された凹部31と、この凹部31を閉塞する蓋部材32によって構成されるとともに、リザーバ通路35の端部が凹部31の底面31aに開口しているため、弁室33と第1圧力室6を連通する圧力室通路36と比較してリザーバ通路35を短くすることができる。特に、このマスタシリンダ1においては、リザーバ接続用の接続凹部20aの底面20aの延長上に弁室33側の凹部31の底面31aが略直交するように形成されているため、リザーバ通路35の長さを充分に短く設定することができる。
したがって、このマスタシリンダ1を採用した場合には、低温時に作動液の粘度が上昇する状況下にあっても、逆止弁34の開弁時におけるリザーバ通路35の管路抵抗の増大を抑制し、トラクションコントロールの安定作動と、マスタシリンダ1での負圧発生の防止を図ることができる。
【0034】
また、このマスタシリンダ1においては、弁収容ブロック30に形成された凹部31の底面31aを逆止弁34の弁座としているため、逆止弁回りの構造を簡素化することができるうえ、比較的開口面積の大きい凹部31を通して容易に弁座の加工を行うことができる。
【0035】
さらに、この実施形態のマスタシリンダ1の場合、逆止弁34の弁体には蓋部材32方向に突出する弁棒部39bが一体に形成され、この弁棒部39bが蓋部材32のガイド穴32bに摺動自在に保持される構造となっているため、常時弁体39の安定作動を得ることができるとともに、製造時における弁体39の組付調整が容易になるという利点がある。
【0036】
次に、図5に示すこの発明の第2の実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態の説明においては、第1の実施形態と同一部分に同一符号を付して、重複する説明を省略するものとする。
この実施形態のマスタシリンダ101は、基本的な構成は第1の実施形態とほぼ同様であるが、弁室33を成す蓋部材132に、トラクションコントロールの制御ポンプ(液圧機器)に作動液を直接供給する供給口45(軸孔)が設けられている点が異なっている。
【0037】
即ち、蓋部材132の外面側の軸心位置には、制御ポンプ側の導入配管46が接続される供給口45が形成され、この供給口45がガイド穴32bを介して弁室33内に連通している。
したがって、この実施形態の場合、制御ポンプの作動時に第1圧力室とリザーバの間の差圧によって逆止弁34が開くと、バイパス通路37が開いてリザーバの作動液がバイパス通路37を通って第1圧力室6に補給されるとともに、供給口45と導入配管46を通って制御ポンプ側に直接供給されるようになる。よって、この実施形態のマスタシリンダにおいては、トラクションコントロール側の作動液の供給要求により迅速に対応することができる。
【0038】
図6は、この発明の第3の実施形態を示すものである。
この実施形態のマスタシリンダ201は、弁室33を構成する蓋部材232と逆止弁234の構造が第1の実施形態と異なっている。
即ち、蓋部材232は、弁収容ブロック30の凹部31に挿入される軸部の先端に、軸部の一般部外周面よりも小径の円筒係止部50が設けられている。円筒係止部50は先端側外周に径方向外側に張り出す係止フランジ50aが設けられ、この係止フランジ50aに円環状の抜け止めリング51(拘束部材)が係止されている。なお、図中51aは円筒係止部50の係止フランジ50aに係合する抜け止めリング51の係止突起である。
逆止弁234の弁体239の頭部外周には係止フランジ52が形成され、この係止フランジ52が蓋部材232の凹部232a内に進退作動可能に収容されるとともに、抜け止めリング51の内周縁部によって突出方向の変位を規制されるようになっている。したがって、弁体239は蓋部材232の凹部232aと抜け止めリング51によって進退作動可能に保持されている。
【0039】
このマスタシリンダ201においては、逆止弁234が蓋部材232に係止されることから、逆止弁234を蓋部材232とともに容易に凹部232aに取付けることができる。即ち、逆止弁234の弁体239をばね部材38とともに蓋部材232の凹部232aに所定姿勢で収容し、その状態のまま蓋部材232の円筒係止部50に抜け止めリング51を取り付けておくことにより、蓋部材232を凹部31に螺合等によって固定するだけで逆止弁234が弁室33内の設定位置に容易、かつ確実に設置されることになる。
【0040】
図7は、この発明の第4の実施形態を示すものである。この実施形態は第3の実施形態に類似する実施形態であるため、第3の実施形態と同一部分に同一符号を付し、以下では相違点を中心として説明するものとする。
【0041】
この実施形態では、逆止弁234の弁体239を保持する抜け止めリング351がほぼ有底円筒状に形成され、抜け止めリング351の底壁351bの中央にリザーバ通路35に連通する連通孔351cが形成されるとともに、底壁351bの外面が凹部31の底面31aに密接するようになっている。抜け止めリング351は、逆止弁234の弁体239の頭部の周域をほぼ被い、底壁351bの内面のうちの、連通孔351cの周縁部分が、弁体239の頭部が離接する弁座を成すようになっている。また、抜け止めリング351の周壁には同リング351の内外を連通する連通孔351dが形成され、この連通孔351dを介して抜け止めリング351の内側空間が圧力室通路36と導通するようになっている。なお、55は、抜け止めリング351のコーナ部と凹部31の間に介装され、抜け止めリング351の外面を通してのリザーバ通路35と圧力室通路36の間の液漏れを防止するシール部材である。
【0042】
この実施形態のマスタシリンダ301は、基本的に第3の実施形態と同様の効果を売ることができるが、さらに、抜け止めリング351で逆止弁234の弁体239の周囲を被い、抜け止めリング351の底面351bを弁体239の着座する弁座としたため、逆止弁234と弁座の調整をシリンダ本体3の外部で容易に行うことができるうえ、メンテナンスも容易になるという利点がある。また、抜け止めリング351が逆止弁234の弁体239の周囲を覆う状態で蓋部材232に取り付けられるため、搬送時やシリンダ本体3への組付時に弁体239の頭部が他の部材と接触して損傷するのを防止できるという利点もある。
【0043】
図8は、この発明の第5の実施形態を示すものである。
この実施形態のマスタシリンダ401は、第1の実施形態とほぼ同様の基本的な構成であるが、逆止弁434の構造が若干異なっている。
即ち、逆止弁434の弁体439は、リザーバ通路35の開口縁(凹部31の底面31a)に離接する頭部439aと、この頭部439aから軸方向に突出する弁棒部439bを有するが、弁棒部439bは、蓋部材432と逆向きに延出してリザーバ通路35内に進退自在に嵌装されている。弁棒部439bとリザーバ通路35は隙間をもって嵌装され、弁体439の頭部439aが凹部31の底面31aから離反したときにリザーバ側と弁室33内を連通させるようになっている。
この実施形態の場合、蓋部材432側に弁棒部439bを案内するガイド穴を設けずに済むため、蓋部材432の構造を簡素化することができる。
【0044】
次に、図9,図10に示すこの発明の第6の実施形態について説明する。
この実施形態のマスタシリンダ501は、第1の実施形態に対し、リザーバ2と第1,第2圧力室6,7を連通する基本通路である補給通路521と、補給通路521をバイパスしてリザーバ2と第1圧力室6を連通するバイパス通路537の構成が異なっている。また、この実施形態の場合、プライマリ・セカンダリの各ピストン504,505とシリンダ本体3の内周面の摺動隙間をシールするシールリング515a,515bは、シリンダ本体3側ではなく、各ピストン504,505の外周面側に設けられている。
【0045】
各ピストン504,505の外周面には環状溝60a,60bが形成され、この各環状溝60a,60bがシリンダ本体3側の連通孔13a,13bと接続凹部20a,20bを介してリザーバ2の給排口12a,12bに接続されている。各環状溝60a,60bはピストン504,505の軸方向に充分な幅を持ち、各ピストン504,505の全ストローク範囲において常時に連通孔13a,13bに導通するようになっている。
【0046】
各ピストン504,505の環状溝60a,60bの形成範囲内には、ピストン504,505を直径方向に貫通し、軸方向に延出するスリット孔61a,61bが形成されている。また、各ピストン504,505には、前方側(図9,図10中の左側)の端面とスリット孔61a,61bを連通する軸心孔62a,62bが形成されている。この実施形態の場合、連通孔13a、環状溝60a、スリット孔61a、及び、軸心孔62aがリザーバ2と第1圧力室6を連通する補給通路521を構成している。
【0047】
また、各ピストン504,505の前方側の端面には凹部63a,63bが設けられ、この凹部63a,63bに逆止弁64a,64bが設けられている。各凹部63a,63bの開口側は、各前方側の圧力室6,7に導通する導通孔(符号省略)を有する蓋部材66a,66bによって閉塞されている。
【0048】
逆止弁64a,64bの弁体は、凹部63a,63bの底面を座面として離接する頭部67と、頭部67から軸方向に突出する弁棒部68を有し、弁棒部68の先端部には後述する制御突起69が設けられている。弁棒部68は、各ピストン504,505の軸心孔62a,62bに挿入され、その状態において制御突起69がスリット孔61a,61b内に突出するようになっている。また、弁体の頭部67と蓋部材66a,66bの間には、頭部67を弁座方向に付勢するばね部材70が設けられている。
【0049】
また、プライマリピストン504の環状溝60aにはスリーブ71が摺動自在に嵌合され、このスリーブ71に直径方向を跨ぐように取付けられたキープレート72aがプライマリピストン504のスリット孔61a内に挿入され、そのキープレート72aには逆止弁64aの制御突起69が当接するようになっている。そして、プライマリピストン504とスリーブ71の間にばね部材73が設けられ、スリーブ71がピストン504に対して後方側(図10中右側)に付勢されるようになっている。また、スリーブ71はプライマリピストン504が初期位置まで戻される直前にシリンダ本体3内のエンドプレート74に当接し、それによって後退変位を規制されるようになっている。
このため、プライマリピストン504が初期位置まで戻されるときには、スリーブ71が同ピストン504に対して相対的に前進し、キーププレート72aがスリット孔61a内を前進するようになり、その結果、キープレート72が制御突起69を押圧して逆止弁64aの弁体を強制的に開弁させる。
したがって、逆止弁64aは基本的に第1圧力室6内の圧力がリザーバ2の圧力よりも低くなったときに開弁するが、プライマリピストン504が初期位置に戻されるときには、上記のキープレート72による強制開弁が行われる。
【0050】
一方、セカンダピストン505のスリット孔61bには、シリンダ本体3の内壁に直径を跨ぐように突設されたキープレート72bが挿入されている。このため、セカンダリピストン505が初期位置まで戻されるときには、キープレート72bがセカンダリピストン505に対して相対的に前進することになり、その結果、キープレート72bが制御突起69を押圧して逆止弁64bの弁体を強制的に開弁させる。セカンダリピストン505側の逆止弁は、基本的に第2の圧力室7内の圧力がリザーバ2側の圧力よりも低くなったときに開弁し、セカンダリピストン505が初期位置に戻されたときには、上記のキープレート72bによる強制開弁が行われる。
【0051】
ところで、図9に示すようにシリンダ本体3の接続ボス部11aの付根部には第1の実施形態と同様に弁収容ブロック30が形成され、この弁収容ブロック30の弁室33内に逆止弁34が配置されるとともに、弁室33を構成する凹部31の底面31aとリザーバ2側の接続凹部20aがリザーバ通路35で接続され、凹部31の側壁31bと第1圧力室6の給排孔10aが圧力室通路36によって接続されている。これら弁室33,リザーバ通路35、及び圧力室通路36によりバイパス通路537が構成されているが、弁室33,逆止弁34を含む弁収容ブロック30の内部の構造やリザーバ通路35の構造等は第1の実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略するものとする。
ここで、この実施形態において、第1の実施形態に対してバイパス通路537が異なっているのは、圧力室通路36の構成であって、弁室33と第1圧力室6の一部である給排孔10aを直結するように圧力室通路36がシリンダ本体3の軸線と略平行に形成されている。
【0052】
この実施形態のマスタシリンダ501は、上記のように第1の実施形態と構造は異なるものの、ほぼ同様の基本的な機能が得られる。また、トラクションコントロールの作動時には、リザーバ2と第1圧力室6の差圧に応じてバイパス通路537が開くため、充分な作動液を第1圧力室6側に補給することができる。
【0053】
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば、上記の各実施形態はタンデム型のマスタシリンダについて説明したが、ピストンが単一であるシングル型のマスタシリンダであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】この発明の第1の実施形態を示すマスタシリンダの平面図。
【図2】同実施形態を示す図1のA−A断面図。
【図3】同実施形態を示す図1のP−P断面図。
【図4】同実施形態を示す図1のQ−Q線に沿う立体断面図。
【図5】この発明の第2の実施形態を示す図1のP−P断面に対応する断面図。
【図6】この発明の第3の実施形態を示す図1のP−P断面に対応する断面図。
【図7】この発明の第4の実施形態を示す図1のP−P断面に対応する断面図。
【図8】この発明の第5の実施形態を示す図1のP−P断面に対応する断面図。
【図9】この発明の第6の実施形態を示すマスタシリンダの部分断面平面図。
【図10】同実施形態を示す図9のB−B断面図。
【符号の説明】
【0055】
1,101,201,301,401,501…マスタシリンダ
2…リザーバ
3…シリンダ本体
4,504…プライマリピストン(ピストン)
6…第1圧力室(圧力室)
20a…接続凹部
21,521…補給通路
31…凹部
31a…底面
31b…側壁
32,132,232,432…蓋部材
32b…ガイド穴(ガイド部)
33…弁室
34,234,434…逆止弁
35…リザーバ通路
36…圧力室通路
37,537…バイパス通路
38…ばね部材
39,239,439…弁体
39b,439b…弁棒部
45…供給口
51,351…抜け止めリング(拘束部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リザーバから作動液が導入されるシリンダ本体と、
このシリンダ本体に摺動自在に嵌合されてシリンダ本体内に圧力室を画成するピストンと、
前記シリンダ本体に形成されて前記リザーバから前記圧力室に作動液を補給する補給通路と、
この補給通路をバイパスして前記リザーバと前記圧力室を連通するバイパス通路と、
このバイパス通路に介装されて前記圧力室内の圧力が前記リザーバの圧力よりも低いときに開弁する逆止弁と、
を備えたマスタシリンダにおいて、
前記バイパス通路は、前記逆止弁が設けられる弁室と、この弁室と前記リザーバを連通するリザーバ通路と、前記弁室と前記圧力室を連通する圧力室通路とから成り、
前記弁室は、前記シリンダ本体に一体に形成された底面およびこの底面を取り囲む側壁から成る凹部と、この凹部を閉塞する蓋部材と、により構成され、
さらに、前記弁室は、前記シリンダ本体の前記リザーバとの接続部分に形成され、
前記リザーバ通路は、前記弁室の底面に開口していることを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記シリンダ本体の前記リザーバとの接続部分には、前記リザーバの作動液の供給部が嵌合される接続凹部が形成され、この接続凹部の底面の延長線上に、前記弁室の凹部の底面がこの接続凹部の底面とほぼ直交するように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記弁室の底面は、前記リザーバ通路の開口部の周囲が、前記逆止弁の弁座を構成することを特徴とする請求項1または2に記載のマスタシリンダ。
【請求項4】
前記圧力室通路の端部は前記弁室の底面または側壁に開口していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスタシリンダ。
【請求項5】
前記逆止弁は、前記弁室の底面の弁座に着座する弁体と、この弁体と前記蓋部材の間に設けられて、前記弁体を前記弁座方向に付勢するばね部材とから成ることを特徴とする請求項3に記載のマスタシリンダ。
【請求項6】
前記弁体は、前記蓋部材に向けて延出する弁棒部を備え、
前記蓋部材は、前記弁棒部を摺動自在に案内するガイド部を備えていることを特徴とする請求項5に記載のマスタシリンダ。
【請求項7】
前記蓋部材には、前記逆止弁を介して液圧機器に作動液を供給する供給口が設けられていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のマスタシリンダ。
【請求項8】
前記弁体は、蓋部材に向けて延出する弁棒部に、一端が前記弁室に連通する軸孔が形成され、
前記蓋部材は、前記弁棒部を摺動自在に案内するガイド孔を備え、このガイド孔の端部に前記供給口が一体に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のマスタシリンダ。
【請求項9】
前記蓋部材には、前記逆止弁を進退変位可能に保持する拘束部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のマスタシリンダ。
【請求項10】
前記蓋部材には、前記逆止弁を進退変位可能に保持する拘束部材が設けられ、
この拘束部材に前記逆止弁の弁座が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−62934(P2008−62934A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302247(P2007−302247)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【分割の表示】特願2006−236931(P2006−236931)の分割
【原出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】