説明

マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法およびこの方法を使用する偏心量検出装置

【課題】本願発明は、マスターギヤーの振れを前以て測定する必要がなく、定期的なマスターギヤーの振れ測定も不要なマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法を提供するとともに、この検出方法に使用される偏心量検出装置を提供する。
【解決手段】マスターギヤーと被検査用ギヤーの歯数比を略m/w(ただしm≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である。)とし、該マスターギヤーおよび該被検査用ギヤーは互いに圧接噛合して該マスターギヤーがw回転する間の両者の中心間距離の変動量を記録し、この変動量の記録を二分割して演算することにより該マスターギヤーおよび該被検査用ギヤーの回転中心の偏心量を検出することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤーの検査方法に関し、とくに、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの相対的な移動量からマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量を算出する方法およびこの方法を使用する被検査用ギヤーの偏心量の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ギヤーの精度を計測、判定する「ギヤー検査装置」は、被検査用ギヤーをマスターギヤーと噛み合わせて回転させ、被検査用ギヤーの移動量により被検査用ギヤーの(1)歯溝の振れ、(2)O.B.D.(オーバボール径)、(3)打痕、などの検査項目を検査するものである。そして、この検査項目の(1)の歯溝の振れは、被検査用ギヤーの移動量の差で求められ、(2)のO.B.D.は、基準寸法に被検査用ギヤーの移動量の平均値を加算することにより求められ、(3)の打痕は、被検査用ギヤーの1ギヤー中の最大値から平均値を差し引くことにより求められる。
【0003】
ギヤー検査装置に使用されるマスターギヤーは基準となるギヤーであるため、歯筋、歯径および噛み合い溝部の振れの精度は、きわめて高いことが求められる。
たとえば、マスターギヤーに振れがあると、この振れの数値がそのまま被検査用ギヤーの振れの数値に加算されるので、噛み合わせ位置が異なる場合、加算されるマスターギヤーの位相の違いにより、測定のバラツキ(誤差)が大きくなる。このため、マスターギヤーの振れの精度を高めることが求められるが、たとえ、マスターギヤーの振れの精度を「0」を目指して研磨しようとしても、研磨に際してはマスターギヤーの内径に芯金を挿入し、これを基準としてギヤー研磨機に取り付けるために芯ズレ誤差を生じ、精度良く加工できた場合であっても3μmから5μm程度の振れ、あるいは8μm程度の誤差でしか加工できない場合が多い。
【0004】
したがって、マスターギヤーを使用するギヤー検査装置では、マスターギヤーを起因とする正弦波状の振れを補正することにより、マスターギヤーの振れを「0」に近づけ、被検査用ギヤーの振れの値のみを測定することが求められる。
【0005】
マスターギヤーの振れを補正する方法としては、以下の2通りが行われている。その1つは、
(1)マスターギヤーを被検査用ギヤーの歯数より大きい、たとえば、8倍程度以上とすることにより、マスターギヤーの1周(マスターギヤーの振れの全幅)を使わずに済むことになり、マスターギヤーの振れは1周の大きさの略1/3程度に低減させることができる。
しかし、この方法では、マスターギヤーが大きくなるため設備化が難しくなるという課題がある。また、使用するマスターギヤーが磨耗した場合には、通常の被検査用ギヤーを検査しているギヤー測定方法では、マスターギヤー自体の磨耗は検出できないので、振れの値の分かっている被測定ギヤー形状の精度の良いモニターギヤーを使って、定期的に使用に耐えるものであるか否かの判定を行う必要がある。
【0006】
もう1つは、
(2)芯金を軸としてマスターギヤーを回転させながらダイヤルゲージの測定子を各歯溝に落として、すべての歯溝について測定する。そして、被検査用ギヤーを測定するときには、その噛み合ったマスターギヤーの歯溝の振れ分をデーターから差し引き、マスターギヤーの振れが「0」であるように補正する。ただし、マスターギヤーの歯溝と振れのデーターは1:1で対応させる必要があることから、マスターギヤーの回転方向(位相)の基準となるマークを付けることにより、補正データーとして使用することが可能になる。
【0007】
ところで、マスターギヤーの偏心補正方法としては、特開平6−241769号公報に開示の技術がある。この技術は、「精度向上と低価格化とを同時に達成する事の出来る二歯面噛合式歯車試験におけるマスターギヤーの偏心補正方法を提供する事」を目的としていて、この目的を「この発明に係わる二歯面噛合式歯車試験におけるマスターギヤーの偏心補正方法は、マスターギヤーの歯数を、校正用ギヤーの歯数に対して共通な素因数を持たない様に設定し、このように設定した歯数を有するマスターギヤーと校正用ギヤーとを二歯面噛合状態で互いに回転させ、この回転により得られる両者の中心間距離の変動量を、前記マスターギヤーの一歯毎に測定し、前記マスターギヤーの一歯毎の測定値の変動量を測定して、前記マスターギヤーの回転中心の偏心量及びマスターギヤーの一歯毎の歯溝の振れに関する統括的補正量を算出する事を特徴としている」方法により解決したものである。
【特許文献1】特開平6−241769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特開平6−241769号公報に開示の技術では、マスターギヤーの歯数を、校正用ギヤーの歯数に対して共通な素因数を持たない様に設定し、かつ、マスターギヤーと校正用ギヤーとの中心間距離の変動量を、マスターギヤーの一歯毎に測定しなければならず、マスターギヤーを校正用ギヤー毎に用意する必要があることから、マスターギヤーの汎用性が低くなるとともに、測定する時間と手間が掛かる。また、マスターギヤーの交換時期を知るための定期的なマスターギヤーの振れ測定をしなければならないことは、従来技術と同様である。
【0009】
そこで、本願発明は、マスターギヤーの振れを前以て測定する必要がなく、定期的なマスターギヤーの振れ測定も不要で、マスターギヤーの回転方向の基準となるマークをつけることも不要なマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法を提供するとともに、この検出方法に使用される偏心量検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法は、マスターギヤーの歯数Zmと被検査用ギヤーの歯数Zwの歯数比を略m/w(ただし、m≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である。)とし、前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーは互いに圧接噛合して該マスターギヤーは略w回転するとともに該被検査用ギヤーは略m回転し、前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーの回転に伴う両者の中心間距離の変動量は時間軸をもって記録され、前記マスターギヤーが略w回転あるいは前記被検査用ギヤーが略m回転する時間を[t]としたときに前記記録は時間[0〜t/2]の第1の記録と時間[t/2〜t]の第2の記録に二分割されて、該第1の記録の時間[0]を該第2の記録の時間[t/2]に、かつ、該第1の記録の時間[t/2]を該第2の記録の時間[t]に対置させ、それぞれ時間毎に対置する該第1の記録の変動量に該第2の記録の変動量を加える、および/または該第1の記録の変動量から該第2の記録の変動量を差引く、ことにより該マスターギヤーおよび該被検査用ギヤーの回転中心の偏心量を算出する、ことを特徴としている。
なお、時間[t]には、マスターギヤーおよび/または被検査用ギヤーの回転数、回転角度、角速度、あるいはマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの噛み合わせ数のような時間に換算できるパラメーターを含む。
また、本願請求項2に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法は、請求項1に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法であって、前記マスターギヤーと前記被検査用ギヤーの歯数比Zm/Zwは前記m/wに対し100±2%以内である、ことを特徴としている。
そして、本願請求項3に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法は、請求項1または請求項2に記載のマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法であって、前記m/wは2/3あるいは3/2である、ことを特徴としている。
さらに、本願請求項4に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置は、歯数がZwの被検査用ギヤーに圧接噛合する歯数がZmのマスターギヤーと、前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーを回転自在に圧接噛合させる圧接噛合部と、前記マスターギヤーまたは前記被検査用ギヤーを駆動させる駆動部と、前記マスターギヤーおよび/または前記被検査用ギヤーの回転数を検出する回転数検出部と、前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーの回転に伴う両者の中心間距離の変動量を計測する変動量計測部と、前記変動量計測部により計測される変動量を時間軸で記録する変動量記録部と、を備え、前記マスターギヤーと前記被検査用ギヤーの歯数比Zm/Zwは略m/w(ただし、m≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である。)であり、前記変動量記録部に記録された前記マスターギヤーが略w回転する時間[t]分の情報から前記被検査用ギヤーの回転中心の偏心量を算出するとともに該マスターギヤーの回転中心の偏心量を算出する、ことを特徴としている。
また、本願請求項5に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置は、請求項4に記載のマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置であって、前記マスターギヤーと前記被検査用ギヤーの歯数比Zm/Zwは前記m/wに対し100±2%以内である、ことを特徴としている。
そして、本願請求項6に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置は、請求項4または請求項5に記載のマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置であって、前記m/wは2/3あるいは3/2である、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本願発明はマスターギヤーと被検査用ギヤーの歯数比を所定の整数値比とし、所定数の回転による両者の中心間距離の変動量の記録から、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの振れである偏心量を算出することとしている。このため、
(1)マスターギヤーの振れを前以て測定することがなく、被検査用ギヤーと噛み合わせて振れのデーターを得て演算することにより、精度良く被検査用ギヤーの振れの値を得ることができる。
(2)マスターギヤーの振れのデーターを必要としないことから、マスターギヤーの補正データーを得るためのマスターギヤーに基準となるマークをつける必要がない。
(3)マスターギヤーの基準となるマークを測定開始点にする必要がなく、噛み合わせたところから測定が始められる。
(4)通常の被検査用ギヤーの振れを測定中に、マスターギヤーの振れの値が分かるので、マスターギヤーの交換時期を的確に判断することができ、また、被検査用ギヤーの基準(模範)となるモニターギヤーを製作する必要がない。
(5)さらに、「m≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である」ところのmとwの組み合わせにおける最小数は「2と3」あるいは「3と2」であり、かつ、マスターギヤーと被検査用ギヤーの歯数比Zm/Zwは、m/wに対し100±2%以内であるので、1つのマスターギヤーを複数種類の被検査用ギヤーに対して使用することができる汎用性が高くなる。
なお、歯数比Zm/Zwをm/wに対し100±2%以内とすることにより、測定誤差は通常必要とされる許容範囲の±1μm程度以下となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本願発明を実施するための最良の形態に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置と、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法の一実施例について、図1ないし図3に基づいて説明する。なお、図1は、実施例に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置の模式図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は側面図、図2は、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの回転に伴う中心間距離の変動量のグラフであり、図3は、図2におけるマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの回転に伴う中心軸の変動量のグラフを時間軸(X軸)に対して二分割して上下に並べたグラフ、である。
【0013】
図1において、符号1は実施例に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置(以下、単に「偏心量検出装置」という。)、符号11はマスターギヤー、符号13は被検査用ギヤー、符号30は圧接噛合部、符号31はベース、符号33は主軸ホルダー、符号35はマスターギヤー取付け軸、符号37は玉軸受け、符号39はスライドユニットベース、符号41はスライドユニット、符号43は被検査用ギヤー芯金、符号45はばね、符号50は駆動部、符号51はモーター、符号53はモーター側プーリー、符号55はマスターギヤー側プーリー、符号57はベルト、符号70は回転数検出部、符号71はロータリーエンコーダ、符号73はカップリング、符号80は変動量記録部、符号90は変動量計測部、符号91は検出器、符号93はスライドユニット突起片、である。
【0014】
図1に示すように、偏心量検出装置1は、主に、マスターギヤー11、被検査用ギヤー13、圧接噛合部30、駆動部50、回転数検出部70、変動量記録部80および変動量計測部90から構成されている。
ここで、圧接噛合部30、駆動部50、回転数検出部70、変動量記録部80および変動量計測部90を偏心量検出装置本体とすると、マスターギヤー11および被検査用ギヤー13は偏心量検出装置本体に対して着脱自在になるように形成されていて、被検査用ギヤー13の歯数、歯の形状等に応じて適宜、マスターギヤー11を取り替えることができるようになっている。
【0015】
圧接噛合部30は、主に、床上に固定されるベース31、ベース31に固定され玉軸受け37を介してマスターギヤー取付け軸35を回動自在に軸支する主軸ホルダー33、ベース31に固定されるスライドユニットベース39、およびスライドユニットベース39上をばね45により付勢されて主軸ホルダー33方向に摺動するスライドユニット41、から構成されている。そして、スライドユニット41上には被検査用ギヤー芯金43が立設されている。
【0016】
また、主軸ホルダー33に回動自在に軸支されるマスターギヤー取付け軸35の上部はマスターギヤー11が嵌合できるように形成され、マスターギヤー取付け軸35の下部には、カップリング73を介してロータリーエンコーダ71が取着されている。
このロータリーエンコーダ71とカップリング73により回転数検出部70が構成され、回転数検出部70が取得した回転数検出データーは、変動量記録部80に送られるようになっている。
【0017】
駆動部50は、電動モーター51、電動モーター51の回転軸に嵌着されたモーター側プーリー53、マスターギヤー取付け軸35に嵌着されたマスターギヤー側プーリー55、およびモーター側プーリー53とマスターギヤー側プーリー55とに架渡されたベルト57とから構成されていて、電動モーター51の回転により、マスターギヤー取付け軸35が回転するようになっている。
【0018】
変動量計測部90は、検出器91、およびスライドユニット41に突設されたスライドユニット突起片93から構成されていて、検出器91の先端がスライドユニット突起片93の表面を軽く押圧して密着している。そして、スライドユニット41の移動に伴いスライドユニット突起片93も移動し、この移動量が検出器91で検出されて、主軸ホルダー33に対するスライドユニット41の移動距離が検出されるようになっていて、検出された移動距離データーは変動量記録部80に送られ、変動量記録部80は回転数検出部70が取得したデーターに移動距離データーを同期させて記録する。
【0019】
つぎに、偏心量検出装置1を使用した被検査用ギヤー13の偏心量の測定手順の例について説明する。
【0020】
(1)まず、被検査用ギヤー13の歯数、歯の形状に見合ったマスターギヤー11を選択する。被検査用ギヤー13の歯数をZwとしたときに、マスターギヤー11の歯数Zmは、Zm/Zw≒m/wを満たすようにして決められる。ここで、m、wは、m≧2、w≧2、mとwとは共通の因数を持たない自然数である。また、m+w=2n+1(nは自然数)からm、wのいずれか一方は偶数となり他方は奇数となるが、Zm、Zwについては、偶数、奇数の制限はないことはもちろんである。なお、Zm/Zwはm/wに一致することがベストであるが、必ずしもm/wに一致する必要はなく、m/w×(100±2)%以内であれば良い。
【0021】
(2)マスターギヤー11をマスターギヤー取付け軸35に嵌合させ、被検査用ギヤー13を被検査用ギヤー芯金43に嵌合させると、被検査用ギヤー13はばね45によりマスターギヤー11方向に付勢されてマスターギヤー11に圧接噛合する。
【0022】
(3)電動モーター51のスイッチを入れると電動モーター51が回転し、この電動モーター51の回転は、モーター側プーリー53、ベルト57およびマスターギヤー側プーリー55を介してマスターギヤー取付け軸35を回転させる。そして、マスターギヤー取付け軸35の回転とともに、マスターギヤー11および被検査用ギヤー13が回転する。
【0023】
(4)マスターギヤー11および被検査用ギヤー13の回転に伴い、回転数検出部70によりマスターギヤー11の回転数(あるいは回転角度、角速度等)が検出され、変動量計測部90によりマスターギヤー11と被検査用ギヤー13の相対的な中心間距離の変動量が検出され、この回転数のデーターと変動量データーとは同期されて、変動量記録部80に記録されるが、この記録は少なくともマスターギヤー11がw回転する間取り続けられる。
【0024】
(5)前記の(4)で得られた記録のマスターギヤー11がw回転する記録時間を[t]としたときに、(4)の記録を時間[0〜t/2]の第1の記録と時間[t/2〜t]の第2の記録に二分割し、第1の記録の時間[0]を第2の記録の時間[t/2]に、かつ、第1の記録の時間[t/2]を第2の記録の時間[t]に対置させ、それぞれ時間毎に対置する第1の記録の変動量に第2の記録の変動量を加える、および/または第1の記録の変動量から第2の記録の変動量を差引く、ことによりマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの回転中心の偏心量を算出することができる。
なお、上記(1)で、m、wをそれぞれm≧2、w≧2としているのは、たとえば、m/wを2/1とした場合には、マスターギヤー11および被検査用ギヤー13が同じ高次成分を有しているときに、被検査用ギヤー13の高次成分がマスターギヤー11の一次成分となって、「第1の記録の変動量から第2の記録の変動量を差引く」ことにより被検査用ギヤー13の高次成分まで打ち消されてしまうからである。
【0025】
(6)そして、被検査用ギヤーの回転中心の偏心量から「歯溝の振れ」が直接的に求められ、基準寸法に被検査用ギヤーの移動量の平均値を加算することにより「O.B.D.」が求められ、被検査用ギヤーの1ギヤー中の最大値から平均値を差し引くことにより「打痕」が求められる。
【0026】
ここで、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法について、図2および図3を基に説明する。
【0027】
実施例では、モデルケースとして、マスターギヤー11および被検査用ギヤー13の数値を以下のように定める。
マスターギヤー11の歯数・・・・・・・・25
被検査用ギヤー13の歯数・・・・・・・・37
マスターギヤー11の振れ・・・・・・・・20μm
被検査用ギヤー13の振れ・・・・・・・・40μm
なお、マスターギヤー11の振れおよび被検査用ギヤー13の振れは、本来、未知数であるが、ここでは、説明し易くするために上記のように設定した。
【0028】
マスターギヤー11の歯数と被検査用ギヤー13の歯数比であるZm/Zwは0.6756・・・であって、「6756」を循環数とする循環小数である。そして、これはm/wを2/3としたときの1.014に相当するので、マスターギヤー11は本願発明に係る要件である「m/w×(100±2)%以内」を満たす。また、マスターギヤー11が3回転すると被検査用ギヤー13は2.027回転するので、実施例では、マスターギヤー11を3回転させたときのデーター例に基づいて説明する。
【0029】
なお、図2および図3では、縦軸(Y軸)を変動量(振れ幅(μm))とし、横軸(X軸)を所定の回転に要する時間としていて、実線を「マスターギヤー+被検査ギヤー」の変動量、破線を「マスターギヤー」の変動量、点線を「被検査ギヤー」の変動量としている。また、図2および図3におけるY軸の「0」点(y=0の点)は、本来あるべきマスターギヤー11および被検査用ギヤー13の中心間距離を「0」としたときの点であるが、多少のずれは補正することができる。この補正方法については、後述する。
なお、図2および図3では、マスターギヤー11が3回転する時間を[t]としている。
【0030】
図2に示すように、「マスターギヤー+被検査ギヤー」の変動量(実線)は、「マスターギヤー」の変動量(破線)に「被検査ギヤー」の変動量(点線)を加えたものである。そして、「マスターギヤー」の変動量および「被検査ギヤー」の変動量は正弦波を描き、時間[0]から[t]の間では、「マスターギヤー」の描く正弦波は3サイクル、「被検査ギヤー」の描く正弦波は2.027サイクルすなわち略2サイクルとなる。
【0031】
図2のグラフを時間[0]から[2/t]と[2/t]から[t]に二分割して上下に並べたものが図3のグラフであるが、「マスターギヤー」の変動量(破線)のグラフについては、正負が逆になっているもののその絶対値は同一であり、「被検査ギヤー」の変動量(点線)のグラフについては、正負が同一でその形状も同一となっている。
このため、「マスターギヤー+被検査ギヤー」の変動量(実線)のグラフを、時間[0]から[2/t]の第1の記録と、[2/t]から[t]の第2の記録に二分割するとともに、第1の記録の時間[0]を第2の記録の時間[t/2]に、かつ、第1の記録の時間[t/2]を第2の記録の時間[t]に対置させ、それぞれ時間毎に対置する第1の記録の変動量に第2の記録の変動量を加えることにより、「マスターギヤー」の変動量のみが打ち消されて、2倍となった「被検査ギヤー」の変動量が求められる。したがって、「マスターギヤー+被検査ギヤー」の変動量の記録を第1の記録と第2の記録に二分割し、その後、第1の記録と第2の記録を加算したものの最大値と最小値を差し引いたものを[2]で除することにより被検査ギヤーの振れが求められる。
【0032】
また、マスターギヤーの振れを求めるには、「マスターギヤー+被検査ギヤー」の変動量から既知となった被検査ギヤーの振れを差し引くことにより求められるが、「マスターギヤー+被検査ギヤー」の変動量の記録を第1の記録と第2の記録に二分割し、その後、第1の記録と第2の記録を差し引いたもの最大値と最小値を差し引いたものを[2]で除することによりマスターギヤーの振れを求めることもできる。
なお、実施例において、図2および図3におけるY軸の「0」点は、本来あるべきマスターギヤー11および被検査用ギヤー13の中心間距離を「0」としたときの点であるが、多少この「0」点がずれたとしても、第1の記録と第2の記録を加算しあるいは差し引き、そこで得られた最大値と最小値を加算して1/2とすることにより、補正することができる。
【0033】
実施例では、マスターギヤーと被検査ギヤーのm/wを2/3としているが、マスターギヤーの歯数が被検査ギヤーの歯数よりも多くても良く、m/wが「m≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である。」とする要件を満たすとともに、実際の歯数比がm/w×(100±2)%以内であれば良いことは勿論である。
【0034】
以上説明したように、本願発明においては、マスターギヤーがw回転し、および/または被検査用ギヤーがm回転する間の中心間距離の変動量の記録から、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の算出を求めることとし、この偏心量から直接的にマスターギヤーの振れを求めることができるので、マスターギヤーの振れを前以て測定する必要がなく、かつ、検査の都度、マスターギヤーの振れが判明するので、マスターギヤーの交換時期が的確に判断できるとともに、被検査用ギヤーの基準(模範)となるモニターギヤーを製作する必要がない。
また、検査開始に際しては、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの噛み合わせは任意箇所から始めることができるので、マスターギヤーに基準となるマークを付する必要がない。
さらに、マスターギヤーと被検査用ギヤーとの歯数比m/wが「m≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である。」とする要件、および実際の歯数比がm/w×(100±2)%以内とする要件を満たせば良いので、被検査用ギヤーの種類が変わる都度、マスターギヤーを代える必要がなくなるケースも従来よりは増加することになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、実施例に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置の模式図であり、図1(a)は平面図、図1(b)は側面図である。
【図2】図2は、マスターギヤーおよび被検査用ギヤーの回転に伴う中心間距離の変動量のグラフである。
【図3】図3は、図2におけるマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの回転に伴う中心軸の変動量のグラフを時間軸(X軸)に対して二分割して上下に並べたグラフである。
【符号の説明】
【0036】
1 実施例に係るマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置
11 マスターギヤー
13 被検査用ギヤー
30 圧接噛合部
50 駆動部
70 回転数検出部
80 変動量記録部
90 変動量計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターギヤーの歯数Zmと被検査用ギヤーの歯数Zwの歯数比を略m/w(ただし、m≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である。)とし、
前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーは互いに圧接噛合して該マスターギヤーは略w回転するとともに該被検査用ギヤーは略m回転し、
前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーの回転に伴う両者の中心間距離の変動量は時間軸をもって記録され、
前記マスターギヤーが略w回転あるいは前記被検査用ギヤーが略m回転する時間を[t]としたときに前記記録は時間[0〜t/2]の第1の記録と時間[t/2〜t]の第2の記録に二分割されて、該第1の記録の時間[0]を該第2の記録の時間[t/2]に、かつ、該第1の記録の時間[t/2]を該第2の記録の時間[t]に対置させ、それぞれ時間毎に対置する該第1の記録の変動量に該第2の記録の変動量を加える、および/または該第1の記録の変動量から該第2の記録の変動量を差引く、ことにより該マスターギヤーおよび該被検査用ギヤーの回転中心の偏心量を算出する、ことを特徴とするマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法。
【請求項2】
前記マスターギヤーと前記被検査用ギヤーの歯数比Zm/Zwは前記m/wに対し100±2%以内である、ことを特徴とする請求項1に記載のマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法。
【請求項3】
前記m/wは2/3あるいは3/2である、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量の検出方法。
【請求項4】
歯数がZwの被検査用ギヤーに圧接噛合する歯数がZmのマスターギヤーと、
前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーを回転自在に圧接噛合させる圧接噛合部と、
前記マスターギヤーまたは前記被検査用ギヤーを駆動させる駆動部と、
前記マスターギヤーおよび/または前記被検査用ギヤーの回転数を検出する回転数検出部と、
前記マスターギヤーおよび前記被検査用ギヤーの回転に伴う両者の中心間距離の変動量を計測する変動量計測部と、
前記変動量計測部により計測される変動量を時間軸で記録する変動量記録部と、を備え、
前記マスターギヤーと前記被検査用ギヤーの歯数比Zm/Zwは略m/w(ただし、m≧2、w≧2、m+w=2n+1、かつ、mとwとは共通の因数を有せず、m、wおよびnは自然数である。)であり、
前記変動量記録部に記録された前記マスターギヤーが略w回転する時間[t]分の情報から前記被検査用ギヤーの回転中心の偏心量を算出するとともに該マスターギヤーの回転中心の偏心量を算出する、ことを特徴とするマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置。
【請求項5】
前記マスターギヤーと前記被検査用ギヤーの歯数比Zm/Zwは前記m/wに対し100±2%以内である、ことを特徴とする請求項4に記載のマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置。
【請求項6】
前記m/wは2/3あるいは3/2である、ことを特徴とする請求項4または請求項5に記載のマスターギヤーおよび被検査用ギヤーの偏心量検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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