説明

マスターバッチの形をしたナノメートルスケールのフィラーを含むオレフィン系熱可塑性ポリマー組成物

【課題】オレフィンモノマーと少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとから得られるオレフィンコポリマーから成るマトリックス中にシリケートのような剥離性を有する薄板状の有機親和性フィラーが分散したマスターバッチの形をした熱可塑性ポリマー組成物。
【解決手段】完全分散した後のフィラーの寸法がナノスケールサイズで且つフィラーの熱可塑性ポリマー組成物に対する含有率が少なくとも20重量%であることを特徴とする。本発明はさらに、熱機械的およびバリヤ特性が改良されたポリエチレン系ポリマー材料の製造での上記フィラーの使用にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターバッチの形をした熱可塑性ポリマー組成物に関するものである。
本発明は特に、エチレンまたはポリプロピレンタイプのオレフィンモノマーと少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとから成るオレフィンコポリマーのマトリックス中に、シリケートの層状タイプの剥離性有機親和性フィラー(charges organophiles exfoliable de type lamellaires)、例えば処理済み粘土が分散したマスターバッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターカレーション技術すなわち各種化合物、特に4級アンモニウム塩や窒素含有有機界面活性化合物をフィラー充填材、例えば粘土等の薄層の間にインターカレートすることで有機液体に低剪断率の膨潤性を与える方法は周知であり、特に下記特許文献1に開示されている。
【特許文献1】欧州特許第0133071号公報
【0003】
層状構造の無機フィラーを得る際にさらに追加のステップを行うことも知られており、例えばポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸またはポリビニルピロリドン(PVP)等の各種ポリマー(下記特許文献2)やポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル(下記特許文献3)で処理(インターカレート)された粘土が知られている。
【特許文献2】米国特許第5552469号明細書
【特許文献3】米国特許第5578672号明細書
【0004】
これらの粘土の層間には十分な量のポリマーが吸収され、各層の間隔は約10〜55オングストロームになる。これらのフィラーは熱可塑性ポリマー組成物から成るマトリックス(例えばポリアミドまたはポリエステル)中に混和され、コンパウンディング後に剥離性になる(すなわち細かく分散する)(下記特許文献4)。
【特許文献4】米国特許第5760121号明細書
【0005】
フィラーの上記処理によってフィラーは完全剥離可能な状態になる。すなわち、フィラーは単位分子層状態へ細かく分かれ、厚さは数ナノメートル(すなわち数十オングストローム)または数十ナノメートルの範囲になる。フィラーをナノ粒子(またはナノフィラー)の形で極めて微細に分散させて得られる材料は「ナノ複合材料(nanocomposites)」とよばれ、その機械特性、熱特性または光学特性は通常のフィラー(例えばタルク)を充填したまたは充填していないポリマー材料よりも優れたものになる。
【0006】
エチレン−酢酸ビニル(EVA)コポリマーのナノ複合材料に関する研究も行われており、特にP.Dubois教授の論文(下記非特許文献1)およびR.Mulhaupt教授の論文(下記非特許文献2)に記載されている。
【非特許文献1】Macromol.Rapid Communication 2001、22、643−646
【非特許文献2】Polymer,2001、42、4501−4507)
【0007】
しかし、ポリオレフィン、特にポリエチレン(PE)およびポリプロピレン(PP)のような無極性ポリマー中にこれらのフィラーを高濃度で分散させるには大きな問題点が存在している。
下記文献に記載のナノ複合材料は、ポリマーマトリックス(ポリオレフィンにすることができる)と、粘土と、この粘土と相溶性のある構造単位(A)およびマトリックスと相溶性がある構造単位(B)を有するマルチブロックコポリマーから成る上記粘土のインターカレート剤とで構成されている。
【特許文献5】国際特許第WO99/07790号公報
【0008】
粘土をポリエチレンイミンブロックを有するコポリマーで処理した場合、処理済み粘土のポリエチレン中への最大導入可能量は5重量%である。
下記文献には粘土をシランタイプのカップリング剤で処理し、オニウムイオンおよびポリマーを共インターカレーションする方法が開示されている。
【特許文献6】米国特許第6407155号明細書
【0009】
得られたナノ複合材料はマトリックスとなる上記ポリマーが少なくとも60重量%で、処理された粘土は40重量%以下である。処理済みの粘土をポリプロピレン中に混和させ、粘土を剥離性にするためには無水マレイン酸で変性したポリプロピレンを少量添加する必要がある。
下記文献にも処理済みのモンモリロナイト粘土型フィラーをポリマーオレフィンのマトリックス中に混合した高濃度のナノ複合材料組成物が開示されている。
【特許文献7】米国特許第2001/0033924A1号明細書
【0010】
しかし、実際に例示されたポリマーは無水マレイン酸で変性したポリプロピレンのみである。
ケーブルを難燃化させる配合物の分野で、ナノスケールの有機親和性粘土型フィラーをEVA(エチレン−酢酸ビニルコポリマー)型およびPE(ポリエチレン)/EVAブレンド型のポリマー組成物と一緒に用いることが下記文献に開示されている。
【特許文献8】国際特許出願第WO00/66657号公報
【特許文献9】国際特許出願第WO00/68312号公報
【0011】
しかし、ポリマー中に混和可能なフィラーの含有率は低い(最大5重量%)。
下記文献には有機オニウムイオンのイオン結合で変性した有機親和性粘土と、この粘土と強い親和性のある官能基を有するポリマーとからなる「樹脂複合材料」が開示されている。
【特許文献10】米国特許第6117932号明細書
【0012】
上記有機親和性粘土をエチレン/メチルメタクリレートコポリマーと一緒に押出機中で溶融混合して得られる配合物を用いることによって機械特性改良された(特に弾性率が増大した)製品が得られる。しかし、この樹脂に導入可能なフィラーの含有率は5重量%以下である(灰分で表示)。
下記文献にはシリケートおよび粘土の中から選択されるナノスケールフィラー(すなわちナノフィラー)を混練したエチレン/アクリル酸またはエチレン/アルキルアクリレートコポリマー型ポリマー結合剤の水性組成物の、熱可塑性ポリオレフィンフィルムの表面被覆での使用が開示されている。
【特許文献11】国際特許出願第WO00/40404号公報
【0013】
得られたフィルムは気体非透過性が改良される。しかし、上記水性ポリマー組成物はフィラー含有率が低く(<9重量%)、しかも、ポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)のような無極性オレフィンポリマーとは溶融混合できない。
下記文献にはポリアミド樹脂と、エチレン/ブチルアクリレート/無水マレイン酸コポリマーのような官能化されたポリオレフィンと、インターカレートされたシリケート型フィラーとをブレンドした機械特性および寸法安定性に優れた組成物が開示されている。
【特許文献12】欧州特許出願第1076077号公報
【0014】
しかし、官能化されたポリオレフィン中のフィラー含有率は3%に過ぎない。
下記文献には0〜99重量%のポリオレフィン(ポリプロピレン)と、1〜100重量%の官能化されたポリオレフィン(無水マレイン酸で変性したポリプロピレン)と、10〜50重量%の有機変性した粘土とを含むナノ複合材料マスターバッチとポリオレフィンとのブレンド物を用いて製品を製造する方法が開示されている。
【特許文献13】国際特許第WO02/066553号公報
【0015】
しかし、このマスターバッチは官能化されたポリオレフィンを必ず含み、フィラー含有率は50重量%を越えることはない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
発明者は、粘土の剥離性および完全分散性を維持した状態で、官能化されていない(すなわち反応性単位(官能基)、特に酸、無水物またはエポキシ官能基を持たない)オレフィンコポリマーまたはポリオレフィン中に有機親和性粘土を高濃度に充填してマスターバッチの形にすることができるということを見出した。
驚くことに、本発明のマスターバッチは、高剪断率を加える必要なしに、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン中に完全に剥離したフィラーを高い含有率で均一分散した状態で混和させるための担体として使用でき、しかも、得られた製品は各種特性、特に引張機械特性(弾性率および破断点伸び)および熱機械的特性が大幅に改良される。
【0017】
さらに、本発明のナノ充填したポリマー組成物から得られた材料は流体に対するバリヤ特性が高く、O2およびCO2のような気体、水蒸気または液体の透過性が低い。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の対象は、オレフィンモノマーと少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとから得られるオレフィンコポリマーから成るマトリックス中にシリケートのような剥離性を有する薄板状の有機親和性フィラーが分散したマスターバッチの形をした熱可塑性ポリマー組成物において、完全分散した後のフィラーの寸法がナノスケールサイズで且つフィラーの熱可塑性ポリマー組成物に対する含有率が少なくとも20重量%であることを特徴とする組成物にある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の熱可塑性ポリマー組成物のオレフィンコポリマーは60〜98重量%のオレフィンコポリマーと、2〜40重量%のアルキル(メタ)アクリレートコモノマーとを含むのが好ましい。
【0020】
官能化されていないポリオレフィンは一般にα−オレフィンまたはジオレフィンのホモポリマーまたはコポリマーであり、例としては下記を挙げることができる:
1) α−オレフィン、好ましくは3〜30個の炭素原子を有するもの、例えばポリプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−ドコセン、1−テトラコセン、1−ヘキサコセン、1−オクタコセンおよび1−トリアコンテン。このα−オレフィンは単独で用いても2種以上の混合物として用いてもよい。
【0021】
2) ポリエチレンのホモポリマーおよびコポリマー、特に高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)およびメタロセンポリエチレン、すなわち一般にジルコニウムまたはチタン原子とこの金属に結合した2つの環状アルキル分子とで構成される単一サイト触媒の存在下でエチレンとαオレフィン(例えばプロピレン、ブテン、ヘキセンまたはオクテン)とを共重合して得られるポリマー。メタロセン触媒は一般に金属に結合した2つのシクロペンタジエン環で構成される。この触媒は共触媒または活性剤としてのアルミノオキサン、好ましくはメチルアルミノオキサン(MAO)と一緒に用いられることが多い。シクロペンタジエンが結合する金属としてハフニウムを用いることもできる。他のメタロセンにはIVA、VAおよびVIA族の遷移金属が含まれる。ランタニド系列の金属を用いることもできる。
【0022】
3) ジエン、例えば1,4−ヘキサジエン等。
4) プロピレンのホモポリマーまたはコポリマー。
5) エチレン/α−オレフィンコポリマー、例えばエチレン/プロピレンコポリマー、エチレン−プロピレン−ゴム(EPR)およびエチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)エラストマー。
6)ポリエチレンとEPRまたはEPDMとの混合物。
7)スチレン/エチレン−ブテン/スチレンブロックコポリマー(SEBS)、スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマー(SIS)およびスチレン/エチレン−プロピレン/スチレン(SEPS)ブロックコポリマー。
【0023】
8)エチレンと、アルキル(メタ)アクリレート(例えばメチルアクリレート)等の不飽和カルボン酸の塩またはエステルまたは酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステルの中から選択される少なくとも1種の化合物とのコポリマー(コモノマーの比率は40重量%以下)。
例としてはエチレンコポリマー、例えばエチレンと酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリルエステルおよび1〜24個、好ましくは1〜9個の炭素原子を有するアルコールとの高圧ラジカル重合で得られるコポリマーが挙げられる。
【0024】
「ポリオレフィン」という用語には上記ポリオレフィンの2種以上のブレンドも含む。本発明のオレフィンコポリマーとしてはエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマーが特に好ましく用いられる。ここで、アルキル基は最大で24個、好ましくは10個以下の炭素原子を含み、直鎖、分岐鎖または環状にすることができる。
アルキルアクリレートまたはメタクリレートの例としてはメチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルメタクリレート、エチルアクリレート、n‐ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートおよびシクロヘキシルアクリレートが好ましい。
これらの(メタ)アクリレートの中では、メチルアクリレート、エチルアクリレート、および、n−ブチルアクリレートが好ましい。
【0025】
これらのコポリマーは2〜40重量%、好ましくは3〜35重量%のアルキル(メタ)アクリレートを含むのが有利である。コポリマーのMFI(メルトフローインデックス)は0.1〜50g/10分(ASTM D1238に従って190℃/2.16kgで測定)であるのが有利である。重量平均分子量Mwは30,000以上であるのが好ましい。これらのコポリマーは高圧オートクレーブまたはチューブラジカル重合によって製造できる。
本発明の好ましい実施例では、本発明組成物は好ましくは押出し成形でコンパウンディングして得られるマスターバッチの形をしており、この組成物は有機親和性フィラー含有率が少なくとも20重量%、最大で約90重量%であるのが好ましい。
【0026】
ナノフィラー(nanocharges)とは少なくとも1つの寸法がナノメートルの範囲内にある任意形状の粒子をいう。このナノフィラーは剥離可能な薄板状充填材(charges exfoliables lamellaires)であるのが有利である。この剥離可能な薄板状充填材としては特にシリケート、特に有機親和性処理をした粘土が挙げられる。この粘土は層状をしており、層間に膨潤化剤(有機分子またはポリマー分子)がインターカレートされて有機親和性になっている。その製造方法は下記特許文献に記載されている。
【特許文献14】米国特許第5,578,672号明細書
【0027】
使用する粘土はスメクタイト(smectite)型粘土が好ましい。これには天然由来のもの、例えばモンモリロナイト、ベントナイト、サポナイト、ヘクトライト、フルオロヘクトライト、バイデライト、スチベンサイト(stibensite)、ノントロナイト、スティプルガイト(stipulgite)、アタパルガイト、イライト、バーミキュライト、ハロイサイト、スチーブンスサイト、ゼオライト、珪藻土およびマイカ等でも、合成のスメクタイト型粘土、例えばパームチット等がある。
有機親和性粘土の例は下記特許文献に記載されている。
【特許文献15】米国特許第6,117,932号明細書
【0028】
この粘土は6個以上の炭素原子を有するオニウムイオンによるイオン結合で変性する有機物を用いるのが好ましい。炭素原子数が6以下の場合には有機オニウムイオンの親水性が高過ぎ、オレフィンコポリマーとの親和性が低下する。有機オニウムイオンの例としてはヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2−エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウム(ステアリルアンモニウム)イオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジステアリルジメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、およびラウリン酸アンモニウムイオンが挙げられる。その他のイオン、例えばホスホニウムイオンまたはスルホニウムイオン等も使用できる。両性の界面活性剤、脂肪族、芳香族またはアリール脂肪族のアミン誘導体、ホスフィンおよび硫化物も使用できる。
【0029】
ポリマーとの接触面ができるだけ大きい粘土を用いることが推奨される。接触面が大きければ大きい程、薄板状粘土が剥離しやすくなる。粘土の陽イオン交換容量は100g当たり50〜200ミリグラム当量にするのが好ましい。交換容量が50以下の場合にはオニウムイオンが十分に交換されず、薄板状粘土が剥離しにくくなる。逆に交換容量が200以上になると薄板状粘土間の結合強度が強くなりすぎて薄板の剥離が難しくなる。粘土の例としてはスメクタイト、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトナイト、バイデライト、スチベンサイト(stibensite)、ノントロナイト、バーミキュライト、ハロイサイトおよびマイカが挙げられる。この粘土は天然物でも合成物でもよい。有機オニウムイオンの比率は粘土のイオン交換容量の0.3〜3当量にするのが有利である。この比率が0.3以下になると薄板状の粘土が剥離し難くなり、3以上になるとポリマーが劣化する。有機オニウムイオンの比率は粘土のイオン交換容量の0.5〜2当量にするのが好ましい。
【0030】
この有機親和性粘土はポリマー(媒体)中に低剪断速度で分散する能力が高く、このポリマー(媒体)の流動学的挙動を変える。しかし、本発明では燐酸ジルコニウムや燐酸チタン等の薄板状フィラーを使用することができる。
本発明の別の対象は本発明組成物のマスターバッチの形での使用にあり、マスターバッチをポリエチレンまたはポリプロピレン等の熱可塑性オレフィン樹脂に押出し成形で導入して、「ナノ複合材料」充填樹脂とよばれるものに固有な改良された熱機械的特性をこれらの樹脂に与えることにある。この熱可塑性オレフィン樹脂としては高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよびメタロセン触媒を用いて得られるポリエチレンから成る群の中から選択されるポリエチレンが好ましい。しかし、その他の型のポリオレフィン、例えば上記のポリオレフィン、特にα−オレフィンのホモポリマーまたはコポリマーも適している。
【0031】
本発明者は、上記のナノ充填熱可塑性樹脂を射出成形して得られる部品または製品は添加物を全く含まない熱可塑性樹脂で得られるものよりも大幅に改良された機械的特性、例えば動的弾性率または引張弾性率を有するということを見出した。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて作られた材料は流体に対するバリヤ特性が高い。すなわち、気体または液体の流体に対する透過性が低い。この材料(以下、バリヤ材料)は食品包装の分野および溶媒または炭化水素等の液体の輸送、貯蔵の分野で使用するのに適している。本発明のバリヤ材料が低い透過性を示す気体としては酸素、二酸化炭素および水蒸気が特に挙げられる。このような酸素/二酸化炭素バリヤ材料は包装材料分野での用途、特に食品包装で極めて高い需要がある。
【0032】
本発明のバリヤ材料が非透過性でなければならない液体の例としては溶媒またはガソリン等の炭化水素化合物が挙げられる。本発明バリヤ材料の有利な用途の1つは自動車分野、特にガソリン貯蔵タンクまたは燃料供給管の材料の製造での使用である。
【実施例】
【0033】
原材料
(1)LOTRYL(ロットリル、登録商標)29MA03:29重量%のメチルアクリレートを含むエチレンコポリマー、MFI:3g/10分(ASTM D1238、190℃/2.16kgで測定)、
(2)LOTRYL(ロットリル、登録商標)28MA07:28重量%のメチルアクリレートを含むエチレンコポリマー、MFI:7g/10分(ASTM D1238、190℃/2.16kgで測定)、
(3)LOTRYL(ロットリル、登録商標)9MA02:9重量%のメチルアクリレートを含むエチレンコポリマー、MFI:2g/10分(ASTM D1238、190℃/2.16kgで測定)、
(4)LACQTENE(ラクテーヌ、登録商標)2040ML55:高密度ポリエチレン(HDPE、射出成形グレード)、密度:0.955、MFI:4g/10分(ASTM D1238、190℃/2.16kgで測定)、
以上の4つのポリマーはアトフィナ社の製品である。
【0034】
有機親和性フィラー
(1)NANOMER(ナノメール、登録商標) I.30P粘土〔オクタデシルアミン(25〜35重量%)をインターカレートしたモンモリロナイト〕
(2)NANOMER(ナノメール、登録商標) I.44PA粘土〔ジメチルジアルキル(C14〜C18)アンモニア(30〜40重量%)をインターカレートしたモンモリロナイト〕
(3)NANOMER(ナノメール、登録商標) I.31PS粘土〔オクタデシルアミン(15〜35重量%)とγ−アミノプロピルトリエトキシシラン(0.5〜5重量%)とをインターカレートしたモンモリロナイト〕
上記3つのポリマーは全てNanocor社の製品。
(4)NANOMER(登録商標) C.30PE::Nanocor社のPEマスターバッチ用ナノ複合材料〔LDPEとモンモリロナイト(最大含有率50重量%)〕
【0035】
装置
MEILI型の密閉型ミキサー
共回転式二軸スクリュー押出機(HAAKE 16型)
【0036】
分析法:
(1)灰分:直接焼成すなわち有機物を燃やし、残留物を恒量が得られるまで600℃の温度で処理して得た。マスターバッチ中に混和した材料(粉末状有機親和性粘土または顆粒状マスターバッチ)の量に対応し、フィラー含有率およびナノ複合材料の無機組成物(粘土の無機部分に相当)に対応する充填材の比率を特徴付ける。
(2)透過型電子顕微鏡(TEM):低温のウルトラスライス法で作った試験片をZEISS CEM 902で写真に取った。
(3)気体(O2/CO2)透過性:所定面積の膜を通って1日に拡散する気体流量(cm3)で透過性の測定値を求めた。気体流量はcc/m2.24hで表記した。この測定はDarragonプレス(220℃/最大100bar)で圧縮成形して得た150〜250μmのフィルムに対してLISSY GPM500型装置(クロマトグラフィ検出)で行った。
(4)水蒸気(H2O)透過性:Darragonプレス(220℃/最大100bar)で圧縮成形して得た150〜250μmのフィルムで重量を測定した。この測定の目的は所定面積(m2)の膜を通って1日に拡散する水蒸気の質量(g)を求めることにある〔ASTM E96およびNF ISO2528(1989年夏)規格〕。
【0037】
実施例1、2、3
最初の3つの試験は、それぞれNANOMER(登録商標)I.30P、NANOMER(登録商標)I.44PAおよびNANOMER(登録商標)I.31PSのフィラーの存在下にLOTRYL(登録商標)29MA03を押出して行った。操作は2つの段階で行った。すなわち、100℃の密閉式ミキサーで上記粘土をLOTRYL(登録商標)コポリマーマトリックス中に15分間大まかに導入する段階(材料温度:110〜150℃)と、その後にフィラーの剥離および分散を向上させるために予備配合物を二軸スクリュー押出機で180℃の温度(フラットな温度プロフィール)、60回転/分(滞留時間約2分)で顆粒化および押出する段階である。導入した有機親和性粘土の含有率は混合物の20重量%であった。
得られた混合物をTEMで分析し、得られた顕微鏡写真は[図1]、[図2]、[図3]に示してある。これらの顕微鏡写真から粘土の層が完全に剥離し、均一に分散している状態が明らかである〔特にNANOMER(登録商標)I.44PAおよびNANOMER(登録商標)I.31PSの場合〕。
【0038】
実施例4
実施例1〜3で説明した操作に従って、LOTRYL(登録商標)29MA03/有機親和性フィラー含有率が50重量%であるNANOMER(登録商標)I31PSのマスターバッチを製造した。測定された灰分は27.6%であり、これは処理済み粘土フィラーの有効含有率が42.4%であることに対応する。
得られたTEM顕微鏡写真は[図4]に示してある。粘土の良好な剥離とフィラーの均一な分散を示している。
【0039】
実施例5、6
実施例1〜4の場合と同じ操作を行って、50重量%のNANOMER(登録商標)I44PA粘土を、それぞれLOTRYL(登録商標)9MA02およびLOTRYL(登録商標)28MA07と一緒に導入して他に2つのマスターバッチを製造した。測定された灰分はそれぞれ30.3%および30.2%であり、これは処理済み粘土フィラーの有効含有率で47.5%および47.3%に対応する。
[図5]および[図6]に示したTEM顕微鏡写真から、ポリエチレンベースの市販のマスターバッチであるNANOMER(登録商標)C.30PE(図7)よりも、LOTRYL(登録商標)ベースのマスターバッチの方が、粘土がより良くインターカレーションし、剥離していることがわかる。層間距離はNANOMER(登録商標)I.44PAの場合は25.2Åであるが、LOTRYL(登録商標)ベースのマスターバッチの場合には36.73Åおよび45Åへ増加していることがX線回折像から分かった。なお、LDPEベースのマスターバッチに対応するX線回折像では22〜24Åしかない。このことは、LOTRYL(登録商標)の方がポリマーの粘土の層間へのインターカレーションがはるかに大きいことを証明している。
【0040】
実施例7、8および比較例9
実施例7〜9に対応する充填材量は、12重量%の実施例5および実施例6のマスターバッチまたはポリエチレンベースのマスターバッチ〔NANOMER(登録商標)C.30PE〕を、それぞれLACQTENE(登録商標)2040ML55(HDPE)中に混和して製造した。この混和はHAAKE 16型の二軸スクリュー押出機を用いて200℃の温度(材料温度は210〜235℃)、120回転/分のスクリュー回転速度、500g/時の材料流量で行った。HDPEおよび各マスターバッチはドライブレンドの形で単一フィードで導入した。
【0041】
[図8]〜[図10]はベースHDPEへの各材料の中程度の倍率(50,000倍)のTEM顕微鏡写真を示している(実施例7、実施例8、比較例9に対応)。これらの写真から、最初の2つの場合〔LOTRYL(登録商標)ベースのマスターバッチを使用〕の方がフィラーの分散がかなり微細な状態(粘土塊が砕壊)であることが明らかである。
[図11]に示す実施例8の高倍率(140,000倍)のTEM顕微鏡写真およびX線分析の結果(層間距離が約40Å)から、層間空間中へのポリマーのインターカレーションによってナノ複合材料が得られることは明らかである。HDPEベースのマスターバッチの場合は、実施例9の複合材料のX線回折像の分析から、NANOMER(登録商標)C.30PEマスターバッチ(24Å)に比べて層間距離(26.3Å)の広がりが極めて狭いことがわかる。これはPEマトリックスによるインターカレーション度が小さいことを表す。
【0042】
比較例10
実施例6〜8で説明したものと同じ操作条件下で、6%のNANOMER(登録商標)I44PAの有機親和性粘土を同じHDPE(LACQTENE(登録商標)2040ML55)に直接導入した。この場合には[図12]および[図13]のTEM顕微鏡写真(140,000×倍率)からわかるように、粘土のインターカレーションが全く存在しない生成物を生じた。このようにインターカレーションが存在しないことは、比較例10の複合材料および純粋なNANOMER(登録商標)I44PA粘土のX線回折像の分析でも確認された。これら2つの化合物の粘土の層間距離はNANOMER(登録商標)I44PAで25.2Å、実施例10の場合には26.6Åで、ほとんど差がなかった。
【0043】
比較例11、12、13
これらの3つの比較例も実施例7〜10で説明したものと同じ操作条件下で押出した。比較例11はHDPE(LACQTENE(登録商標)2040ML55)のみに対応し、比較例12および比較例13はこの同じHDPE中に6重量%のLOTRYL(登録商標)9MA02およびLOTRYL(登録商標)28MA07をそれぞれ混和したもの対応する。
実施例7および比較例11および比較例12のバリヤ特性を評価するために、圧縮成形で製造した厚さが150μmのフィルムでH2O、O2およびCO2の気体に対する透過性を求めた。結果は[表1]に示してある。少量のLOTRYL(非晶質PE)の添加によって透過性が増大する(実施例11と比較した実施例12)ことが注目される。透過性の変化(ゲイン)は対応する対照試験片(すなわち実施例10の場合は実施例11、実施例7の場合は実施例12)に対する変化である。粘土をLOTRYL(登録商標)ベースのマスターバッチの形で導入した場合、非透過性がかなり増大する(1/3変化)ことも注目すべきである。LOTRYL(登録商標)のマスターバッチを用いてフィラーが材料中で良く分散すればするほど、非透過性の点でもより良い結果が得られる。
【0044】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1の透過型電子顕微鏡の写真。
【図2】実施例2の透過型電子顕微鏡の写真。
【図3】実施例3の透過型電子顕微鏡の写真。
【図4】実施例4の透過型電子顕微鏡の写真。
【図5】実施例5の透過型電子顕微鏡の写真。
【図6】実施例6の透過型電子顕微鏡の写真。
【図7】ポリエチレンベースの市販のマスターバッチNANOMER(登録商標)C.30PEの場合の透過型電子顕微鏡の写真。
【図8】実施例7の中倍率(50,000倍)の透過型電子顕微鏡の写真。
【図9】実施例8の中倍率(50,000倍)の透過型電子顕微鏡の写真。
【図10】比較例9の中倍率(50,000倍)の透過型電子顕微鏡の写真。
【図11】実施例8の高倍率(140,000倍)の透過型電子顕微鏡の写真。
【図12】比較例10の透過型電子顕微鏡の写真(140,000×倍率)。
【図13】比較例10の透過型電子顕微鏡の写真(140,000×倍率)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンモノマーと少なくとも一種のアルキル(メタ)アクリレートモノマーとから得られるオレフィンコポリマーから成るマトリックス中にシリケートのような剥離性を有する薄板状の有機親和性フィラーが分散したマスターバッチの形をした熱可塑性ポリマー組成物において、
完全分散した後のフィラーの寸法がナノスケールサイズで且つフィラーの熱可塑性ポリマー組成物に対する含有率が少なくとも20重量%であることを特徴とする組成物。
【請求項2】
オレフィンコポリマーが60〜98重量%のオレフィンコモノマーと、2〜40重量%のアルキル(メタ)アクリレートコモノマーとからなる請求項1に記載の熱可塑性ポリマー組成物。
【請求項3】
オレフィンコモノマーがエチレンまたは好ましくは3〜30個の炭素原子を有するα−オレフィンのホモポリマーまたはコポリマーである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
アルキル(メタ)アクリレートコモノマーがメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレートまたは2−エチルヘキシルアクリレートである請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
有機親和性フィラーが膨潤化剤で処理されたスメクタイト型の粘土、例えばモンモリロナイト、ノントロナイト、バイデライト、ヘクトライトおよびベントナイトの中から選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
マスターバッチを熱可塑性樹脂と一緒に押出し混練することによって、ナノ複合材とよばれる充填材を含むオレフィン熱可塑性樹脂、特にポリエチレン系樹脂を得るための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンおよびメタロセン触媒を用いて得られたポリエチレンから成る群の中から選択されるポリエチレンである請求項6に記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2006−528993(P2006−528993A)
【公表日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530349(P2006−530349)
【出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001168
【国際公開番号】WO2004/104086
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】