説明

マッサージ機

【課題】 ブラシレスDCモータを用いたマッサージ機において、モータの騒音による不快感を低減すると共に、モータの回転速度を正確に制御する。
【解決手段】
ガイドレール22に沿って上下動される駆動ユニット30と、駆動ユニット30を上下動させる第1モータ11と、互いに逆方向に往復駆動される施療子ベース3A、3Bと、施療子ベースを互いに逆方向に往復駆動させる第2モータ12と、施療子ベース保持された施療子2と、施療子2を椅子の背もたれに対して略直交する面内で駆動させる第3モータ13と、各モータを独立して駆動する制御回路25を備え、各モータはブラシレスDCモータであり、制御回路25は、モータの回転速度に応じて、モータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施療子を3次元的な軌跡を描くように駆動させてさまざまな施療を行うマッサージ機に関する。
【背景技術】
【0002】
もみ球と呼ばれる略球状の施療子を3次元的な軌跡を描くように駆動させるマッサージ機では、例えば独立して駆動される3つのモータを用い、施療子の椅子の背もたれに沿った上下動、椅子の幅方向の往復動(幅調節)及び椅子の背もたれに略直交する面での旋回動(前後動)を組み合わせて、指圧、もみ及び背筋伸ばしなどの施療を行っている。さらに、近年では、施療子の3次元動作(手技と呼ばれる)が複雑になり、それに伴って、モータを短時間のうちに低速回転と高速回転の間で切り換えたり、頻繁に正転と反転を切り換えたりする必要が生じている。
【0003】
このようなマッサージ機の負荷は人体ということになるが、ユーザの体格や座り方などにより負荷が大きく変動する。さらに、施療中にユーザが体を動かしたりすると、それに伴って体重移動が起こるので、施療中における負荷変動も大きい。そのため、従来から、短時間のうちに回転速度や正転/反転の切り替えが可能であり、かつ高トルクのモータとして、DCモータ、特にブラシ付きDCモータが広く用いられていた。一般的に、高トルクのブラシ付きDCモータは、その外形が大きく、かつ重量も重くなるという性質を有している。そのため、マッサージ機自体の小型軽量化は困難であった。また、小型のブラシ付きDCモータを用いたマッサージ機も存在するが、モータのトルクが小さく、十分な施療効果が得られにくいという問題がある。
【0004】
一方で、メンテナンス性、耐久性及び小型化の面から、ブラシレスDCモータの使用も検討されている。ブラシレスDCモータは、小型で高トルク(大出力)のモータを実現することができる反面、負荷変動の大きなマッサージ機に使用すると新たな問題が生じる。具体的には、3相4極の一般的なブラシレスモータの場合、コギングによるトルク変動が大きいので、120度通電矩形波駆動を行うと、モータの騒音が大きくなる。この騒音は施療子を介して人体に伝わるため、特に首筋や肩など頭部に近い部分に施療する場合に、ユーザに不快感を与えることになる。一方、低騒音、低振動を重視する場合、正弦波駆動を行うことも考えられるが、ブラシレスDCモータのロータの回転角度を高精度に検出しなければならず、エンコーダなどを必要とするため、コストダウン及び小型軽量化を妨げる要因となる。また、正弦波駆動でブラシレスDCモータの制御を行う場合、電気角で180度刻みに通電しなければならないが、上記のようにマッサージ機に使用した場合は負荷が一定でないため、正弦波駆動ではブラシレスDCモータを起動させることができないか又はスムーズに起動させることが困難である。特に、モータの正転と反転の切り替えがスムーズに行われない場合、施療子の動きが瞬間的に停止するが、ユーザは敏感に施療子が停止したことを認識する。さらに、施療子が所定の3次元的軌跡を描くように駆動する場合、3つのモータを同期させて駆動させなければならないが、負荷変動などによってモータの出力軸の回転速度(以下、単にモータの回転速度とする)が所定の速度から外れると、施療子が本来の軌跡と異なる軌跡を描くように駆動される。そのため、ユーザにとって気持ちのよいマッサージ効果が得られない可能性がある。
【0005】
なお、特許文献1は、省エネルギー化を目的として、空気調和機の圧縮機を高効率で駆動するためのブラシレスDCモータの駆動方法について開示している。だたし、空気調和機は、マッサージ機に比べて負荷変動が非常に小さいため、上記のような問題は生じない。
【特許文献1】特開2000−333465号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、特に重負荷がかかる駆動軸を駆動するために小型高トルクのブラシレスDCモータを用いたマッサージ機において、エンコーダなどを用いることなく低コストで、かつモータの回転速度に応じて最適な駆動方法を選択してブラシレスDCモータを駆動することにより、モータの騒音による不快感を低減して、気持ちのよいマッサージ効果が得られるマッサージ機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1の発明はマッサージ機に関し、椅子と、前記椅子の背もたれに設けられたガイドレールに沿ってそれ自体が上下動する駆動ユニットと、前記駆動ユニットを前記ガイドレールに沿って上下動させる第1モータと、前記駆動ユニットに設けられ、前記椅子の幅方向に沿って互いに逆方向に往復駆動される一対の施療子ベースと、前記一対の施療子ベースを互いに逆方向に往復駆動させる第2モータと、前記一対の施療子ベースにそれぞれ保持され、その動作の主成分が前記椅子の背もたれに対して略直交する面内で駆動される施療子と、前記施療子を、その動作の主成分が前記椅子の背もたれに対して略直交するように駆動させる第3モータと、前記第1モータ、第2モータ及び第3モータをそれぞれ独立して駆動する制御回路を備え、前記第1モータ、第2モータ及び第3モータの少なくとも1つはブラシレスDCモータであり、前記制御回路は、前記ブラシレスDCモータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段により検出された回転速度に応じて、前記ブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換える通電方式切り換え手段を備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1のマッサージ機において、前記通電方式切り換え手段は、前記ブラシレスDCモータの起動時からその回転速度が所定の速度に達するまでは、120度の矩形波電圧をモータの巻線に通電する120度通電矩形波駆動方式を選択し、前記ブラシレスDCモータの回転速度が所定の速度に達した後は、前記ブラシレスDCモータの巻線に略正弦波形の電流が流れるように通電する正弦波駆動方式を選択することを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1のマッサージ機において、前記通電方式切り換え手段は、前記ブラシレスDCモータの起動時からその回転速度が所定の速度に達するまでは、120度の矩形波電圧をモータの巻線に通電する120度通電矩形波駆動方式を選択し、前記ブラシレスDCモータの回転速度が所定の速度に達した後は、前記ブラシレスDCモータの巻線に120度以上の矩形波電圧をモータの巻線に通電する矩形波駆動方式を選択することを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明は、請求項2又は3のマッサージ機において、前記120度通電矩形波駆動時において、前記ブラシレスDCモータの巻線に印加されるパルス幅変調されたパルス電圧のパルス幅を、所定時間を経過するごとに増大させていくことを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明は、請求項2又は3のマッサージ機において、前記回転速度検出手段により検出された現在の回転速度と目標回転速度の差が一定以上である場合に、前記通電方式切り換え手段は、通電方式を120度通電矩形波駆動方式に切り換えて、前記ブラシレスDCモータを駆動することを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明は、施療子を3次元的な軌跡を描くように駆動させて施療を行うマッサージ機であって、前記施療子を駆動させるモータのうち、前記施療子が前記3次元的な軌跡を1回描く間に少なくとも1回正転と反転が切り換えられるモータとしてブラシレスDCモータを使用し、前記ブラシレスDCモータを駆動する制御回路は、前記ブラシレスDCモータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段により検出された回転速度に応じて、前記ブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換える通電方式切り換え手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、第1モータ、第2モータ及び第3モータをそれぞれ独立して駆動することにより、施療子が3次元的な任意の軌跡を描くように駆動することができる。そして、第1モータ、第2モータ及び第3モータの少なくとも1つ、好ましくは負荷変動の大きい駆動軸を駆動するモータとしてブラシレスDCモータを使用しているので、モータの小型軽量化と大出力化を同時に達成することができる。さらに、制御回路では、回転速度検出手段により検出された回転速度に応じて、通電方式切り換え手段によりブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換えられるので、ブラシレスDCモータにかかる負荷に応じて、最適な駆動方法でブラシレスDCモータが駆動されるため、モータの騒音による不快感を低減して、気持ちのよいマッサージ効果が得られる。特に、エンコーダなどを用いることなく、ブラシレスDCモータに標準的に備えられているホールICを用いてモータの回転相度を検出することも可能であるため、低コストで低騒音のマッサージ機を実現することができる。
【0014】
請求項2の発明によれば、ブラシレスDCモータの起動時からその回転速度が所定の速度に達するまでは、120度の矩形波電圧をモータの巻線に通電する120度通電矩形波駆動方式を選択し、所定の速度に達した後は、ブラシレスDCモータの巻線に略正弦波形の電流が流れるように通電する正弦波駆動方式を選択するので、比較的騒音の大きい120度通電矩形波駆動方式でブラシレスDCモータが駆動される時間を短くすることができる。また、ブラシレスDCモータの起動直後は正弦波駆動方式による駆動を行わないので、エンコーダが不要となり、低コストで低騒音のマッサージ機を実現することができる。
【0015】
請求項3の発明によれば、ブラシレスDCモータの起動時からその回転速度が所定の速度に達するまでは、120度の矩形波電圧をモータの巻線に通電する120度通電矩形波駆動方式を選択し、所定の速度に達した後は、ブラシレスDCモータの巻線に120度以上(例えば、130度や150度など)の矩形波電圧をモータの巻線に通電するので、正弦波駆動方式には劣るものの、トルク変動の幅を低減することができる。一方、正弦波駆動を行う場合に比べて制御プログラムが簡単になるため、制御回路の構成部品として演算処理速度の遅い安価なマイクロコンピュータを使用することも可能であり、さらに低コスト化が可能である。
【0016】
請求項4の発明によれば、120度通電矩形波駆動時において、ブラシレスDCモータの巻線に印加されるパルス幅変調(PWM)されたパルス電圧のパルス幅を、所定時間を経過するごとに拡大させていくので、ブラシレスDCモータの起動直後に、モータの回転数が時間の経過と共に上昇するので、短時間で所定の回転速度に到達させることができる。その結果、比較的モータの騒音が大きい120度通電矩形波駆動方式による駆動時間を短縮することができ、さらに低騒音化をはかることができる。なお、パルス幅の拡大は、線形(1次関数)的であってもよいし、非線形(例えば2次関数)的であってもよい。
【0017】
請求項5の発明によれば、回転速度検出手段により検出された現在の回転速度と目標回転速度の差が一定以上である場合、通電方式を120度通電矩形波駆動方式に切り換えてブラシレスDCモータを駆動するので、比較的短時間のうちに現在の回転速度を目標回転速度に一致させることができる。その結果、例えば正弦波駆動時における急激な速度変化による脱調(モータの回転子の状態と電機子に通電するタイミングがずれること)を防止することができる。
【0018】
請求項6の発明によれば、施療子を3次元的な軌跡を描くように駆動させて施療を行うマッサージ機であって、施療子を駆動させるモータのうち、施療子が前記3次元的な軌跡を1回描く間に少なくとも1回正転と反転が切り換えられるモータとしてブラシレスDCモータを使用し、ブラシレスDCモータを駆動する制御回路は、ブラシレスDCモータの回転速度を検出し、検出された回転速度に応じて、ブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換えるので、マッサージ機の構成にかかわらず、上記請求項1の場合と同様の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施の形態に係るマッサージ機について説明する。本実施の形態に係るマッサージ機の背もたれの後側から見た構成を図1に示す、また、マッサージ機の駆動ユニットの構成を図2に示す。
【0020】
図1に示すように、本実施の形態に係るマッサージ機1は、椅子20と、椅子20の背もたれ21に設けられたガイドレール22に沿ってそれ自体が上下動する駆動ユニット30と、肘掛け23に設けられた操作スイッチ24及び制御回路25などを備えている。
【0021】
駆動ユニット30は、図示しない歯車機構を介して、第1駆動軸26を回転駆動させる第1モータ11を備えている。第1駆動軸26には、ガイドレール22のラック(図示せず)と噛み合うピニオン27が固着されている。そのため、第1モータ11の正転と逆転を切り換えることにより、駆動ユニット30の全体がガイドレール22に沿って上下動される。
【0022】
駆動ユニット30には、椅子20の幅方向に沿って互いに逆方向に往復駆動される一対の施療子ベース3A、3Bが、略水平に設けられた第2駆動軸31に支持されている。例えば、第2駆動軸31の外周面で、かつ各施療子ベース3A、3Bが往復駆動される範囲には、それぞれ逆方向のおねじが形成されており、各施療子ベース3A、3Bには、第2駆動軸31のおねじ螺合される互いに逆向きのめねじが形成されている。第2駆動軸31は、ベルト32及びプーリ33などを介して第2モータ12により回転駆動される。第2モータ12の正転と逆転を切り換えることにより、一対の施療子ベース3A、3Bは、互いに逆方向に往復駆動される。
【0023】
各施療子ベース3A、3Bには、アーム5の先端に装着された施療子(もみ球)2が支持されている。各アーム5は、第2駆動軸31を中心として旋回する1対の扇形歯車14にリンクされており、各扇形歯車14の旋回に連動して、椅子20の背もたれ21に対して略直交する面内で変位する。各扇形歯車14は、略水平に設けられた第3駆動軸15の両端近傍に固着された駆動力伝達用の歯車16と螺合され、第3駆動軸15の回転によって旋回される。第3モータ13は、図示しない歯車機構を介して第3駆動軸15に連結されており、第3モータの正転と逆転を切り換えることにより、扇形歯車14が所定の範囲で往復旋回される。それに応じて、アーム5の先端に装着された施療子2が、その動作の主成分が椅子20の背もたれ21に対して略直交するように駆動される。なお、例えばアーム5が途中で曲がっている場合など、アーム5の形状又は構造によっては、施療子2は、必ずしも背もたれ21に対して直交する面内のみで変位されるとは限らず、背もたれ21に対して直交しない方向成分に変位することもあり得る。従って、上記のように、施療子2は、その動作の主成分が椅子20の背もたれ21に対して略直交する面内で駆動されていればよい。
【0024】
第2駆動軸31には、扇形歯車14を介して、アーム5の変位、すなわち椅子20の背もたれ21に対して略直交する面における施療子2の位置を検出するための第1位置検出センサ17が設けられている。また、施療子ベース3A、3Bの背面近傍には、各施療子ベース3A、3Bの位置を検出するための第2センサ18が設けられている。さらに、駆動ユニット30の側部近傍には、椅子20の背もたれ21に設けられたガイドレール22に沿った駆動ユニット30の上下位置を検出するための第3センサ19が設けられている。
【0025】
制御回路25は、第1モータ11、第2モータ12及び第3モータ13をそれぞれ独立して駆動する。それによって、各施療子2は、それぞれ所定の3次元的な軌跡を描くように駆動される。第1センサ17、第2センサ18及び第3センサ19の各出力は制御回路25に入力されるので、制御回路は、各センサ17〜19からの出力をモニタしながら、予め定められた手技に対応する施療子2の3次元的な軌跡と、各センサ17〜19からの出力から演算された施療子2の現在の位置情報を比較する。そして、各施療子2ができるだけ、予め定められた手技に対応する軌跡に近い軌跡を描くように、各モータの回転速度や回転方向などを制御する。
【0026】
ここで、本実施の形態では、第1モータ11、第2モータ12及び第3モータ13として、小型で高トルクのブラシレスDCモータを使用している。制御回路25は、ブラシレスDCモータをなるべく正弦波駆動方式で駆動するように制御する。
【0027】
制御回路25の基本的なブロック構成を図3に示す。交流入力電源251より供給される電圧は、整流ダイオード、アルミ電解コンデンサなどで構成された整流・平滑回路部252で電圧変動の少ない直流電圧に変換され、パワー回路部253に供給される。パワー回路部253は、IGBT、FETなどのフリーホィーリング用としての高周波ダイオードが逆並列に接続され、ブリッジ回路を構成している。制御回路部255は、マイクロコンピュータなどで構成されており、回転数検出回路部254で得られた情報を演算処理し、駆動信号を生成し、パワー回路部253にその駆動信号を伝達する。モータ11、12及び13は、この伝達信号に基づき駆動される。制御回路部255は、全体を統括するマイクロコンピュータから目標回転速度データテーブルが指定され、所定の回転数毎にテーブル内の記載の回転速度を目標回転速度にすることで、各モータ11、12及び13の速度変化をさせている。制御回路部255は、ブラシレスDCモータ(モータ11、12及び13)の回転速度を検出する回転速度検出手段と、検出された回転速度に応じて、ブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換える通電方式切り換え手段として機能する。
【0028】
各モータ11、12及び13として3相4極のブラシレスDCモータを使用した場合のパワー回路部253の構成を図4に示す。上記回転速度検出回路部254として、各モータ11、12及び13の内部に配置された3個のホールICを使用し、ホールICからの信号を制御回路部255内に取り込むことにより、電気角120度刻みにロータの位置を特定することができる。制御回路部255は、ホールICからの信号をもとに、パワー回路部253の各スイッチング素子U−H、U−L、V−H、V−L、W−H及びW−Lを制御する信号を出力し、通電するタイミングを制御している。
【0029】
また、制御回路部255は、各モータ11、12及び13の3つのホールICからの各信号間の時間をカウントすることにより回転速度を演算により求めるプログラムと、目標回転速度と計測された回転速度を比較し、目標回転速度にする速度制御プログラムと、複数の通電方式を制御するプログラムと、演算により得られたモータの回転速度に応じて複数の通電方式の中から最適な通電方式を選択して通電方式を切り換えるプログラムを備えている。そのため、使用されるブラシレスDCモータの特性に最も適した駆動方式を随時選択して切り換えることにより、効率良くブラシレスDCモータを駆動させることができる。なお、本実施の形態では、マッサージ機のコスト低減を目的としているため、各ブラシレスDCモータの回転子のいちを高精度に検出するためのエンコーダは使用していない。しかしながら、高機能で高価なマッサージ機においては、エンコーダを使用してもよい。
【0030】
本実施の形態では、複数の通電方式として、例えば各モータ11、12及び13の巻線に流れる電流を略正弦波状にするために、各モータの各巻線に印加される電圧を制御する正弦波駆動と、各モータ11、12及び13の巻線に矩形波状に電流を流す矩形波通電方式を備えている。それぞれの通電方式による各モータ11、12及び13の巻線に印加される電圧波形を図5に示す。
【0031】
正弦波駆動方式で通電する場合、騒音の原因となるモータのトルクリップルが低減されるので、モータの騒音が大幅に低減される。しかしながら、実際に正弦波駆動を行うためには、図5に示すように、電気角で180度刻みで通電しなければならないが、通電のタイミングをホールICでは直接測定できない。そのため、制御回路部255では、演算により求めた回転速度から推測して通電開始タイミングを決定する。また、通電波形として、モータの巻線の各相に対して、モータの回転速度変化に応じた正弦波形の電圧を印加しなければならないが、モータの起動開始時にはモータの回転速度が0であり、かつモータの回転速度の変化が予測できないため、最適な正弦波形の電圧を印加することができない。そのため、正弦波駆動方式では、ブラシレスDCモータを起動できないか、あるいは、起動できたとしてもモータの回転が滑らかではない。負荷が一定の場合、予め実験によりモータの速度変化を測定しておき、それに応じて正弦波形の電圧を発生させれば、モータを滑らかに回転させることができる。しかしながら、マッサージ機の負荷は人体であるため、負荷の状態を予測することは不可能に近い。
【0032】
そのため、本実施の形態では、モータの起動時からその回転速度が所定の速度に達するまでは、120度の矩形波電圧をモータの巻線に通電する120度通電矩形波駆動方式を選択し、ホールICからの信号の立ち上がり又は立ち下がりで通電のタイミングを取り、電気角で120度の期間だけモータの巻線にパルス電圧を印加する。これによって、ブラシレスDCモータを確実に起動させることができる。そして、モータの回転速度が所定の速度に達した後は、正弦波駆動方式を選択し、モータの巻線に略正弦波形の電流が流れるように通電する。これによって、ブラシレスDCモータを低騒音で、かつ低振動に駆動することができる。通電方式を切り換えるタイミングとしてのモータの回転速度が到達すべき所定の速度は、任意に設定することができ、例えば、マイクロコンピュータの回転速度を検出するために用いられるカウンタがオーバーフローする値とすることができる。但し、ユーザに騒音による不快感を与えないためには、できるだけブラシレスDCモータを正弦波駆動方式で駆動することが好ましい。そのためには、120度通電矩形波駆動方式でブラシレスDCモータを駆動する時間を短くすることが好ましい。
【0033】
次に、本実施の形態の変形例について説明する。矩形波駆動方式において、モータの各相の巻線に通電する期間を、電気角での120度よりも長く(例えば130度や150度など)して、各層への通電時間に若干の重なりを与えることによっても、正弦波駆動方式ほどではないが、トルク変動幅を小さくすることができ、さらにモータの騒音を低減することができる。図6は、120度通電矩形波駆動方式の場合、150度通電矩形波駆動方式の場合及び正弦波駆動方式の場合の電圧波形を示す。なお、150度通電の場合、通電の開始と終了のタイミングは、ホールICからの信号の立ち上がり又は立ち下がりとずれている。そのため、制御回路部255において、演算されたモータの回転速度から推測して、通電の開始と終了のタイミングを決定する。また、120度通電矩形波駆動の場合のトルク変動を図7(a)に示し、150度通電矩形波駆動の場合のトルク変動を図7(b)に示す。図7(a)と図7(b)を比較すると、例えばU相とV相の通電時間をオーバーラップさせることにより、モータ全体のトルク変動が小さくなることがわかる。
【0034】
このように、120度通電矩形波駆動と150度通電矩形波駆動とを切り換える場合、矩形波駆動のためのプロクラムにおいて、通電の期間を120度から150度などに切り換えるだけであるので、120度通電矩形波駆動と正弦波駆動とを切り換える場合に比べて制御プログラムが簡単になる、そのため、制御回路の構成部品として演算処理速度の遅い安価なマイクロコンピュータを使用することも可能であり、さらに低コスト化が可能である。
【0035】
次に、本実施の形態の別の変形例について説明する。この変形例では、120度通電矩形波駆動時において、モータの巻線に印加されるパルス幅変調(PWM)されたパルス電圧のパルス幅を、所定時間を経過するごとに増大させている。図8(a)は、8ビット(256階調)の分解能を持つPWM方式において、モータの起動直後はモータの回転速度を測定又は演算することができないので、所定時間(例えば5mS)ごとに1階調ずつパルス幅を拡げて行き、徐々にモータの回転速度を増大させている。そして、所定の回転速度Vcに到達した時点で、120度通電矩形波駆動から正弦波駆動に切り換えている。これにより、ユーザはモータ起動時の衝撃を感じることなく、滑らかなマッサージを受けることができる。図8(b)は、パルス幅を非線形、例えば2次関数的に拡大させた例を示している。後者の場合、特にモータの回転速度の増加が破砕ので、短時間に所定の回転速度Vcに到達させることができる。その結果、120度通電矩形波駆動による時間を短縮することができ、より低騒音化することが可能になると共に、手技の1周期を短くすることができる。
【0036】
次に、本実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図9(a)は、輪状揉捏動作と呼ばれる手技を行う際の施療子2の動きを表したものである。また、図9(b)は、そのときの第1モータ(上下駆動軸モータ)11と第2モータ(幅駆動軸モータ)12の時間による回転数の変化を表す。施療子2は直径2cm程度の円形の軌跡を描くように駆動され、その1周期は2秒程度である。駆動ユニット30を上下方向に移動させる第1モータ11は、片道1秒ほどの間に停止、起動、最高速(例えば1500rpm)への加速、停止の動作を行う必要がある。このような場合に、正弦波駆動を行うと、急激な速度変化による脱調(モータの回転子の状態と電機子に通電するタイミングがずれること)を起こす可能性が高い。そのため、この変形例では、検出された現在の回転速度と目標回転速度の差が一定以上である場合に、通電方式を正弦波駆動方式から120度通電矩形波駆動方式に切り換える。それにより、モータを目標回転数で回転させることが可能になると共に、脱調によるモータの巻線への過電流を防止することができる。なお、モータを150度通電矩形波駆動方式で駆動する場合にも、モータの回転速度が急激に変化するときには、同様の現象が生じする。従って、その場合にも通電方式を150度通電矩形波駆動方式から120度通電矩形波駆動方式に切り換えることが好ましい。
【0037】
なお、上記実施の形態では、3つのモータの全てにブラシレスDCモータを使用した例を示したが、本発明は、これに限定されるものではなく、手技に寄与しない駆動軸を駆動するためのモータとして、ブラシ付きDCモータなどを使用してもよい。
【0038】
さらに、本発明は、上記実施の形態のような独立して駆動される3つのモータを使用したマッサージ機に限定されるものではなく、施療子を3次元的な軌跡を描くように駆動させて施療を行うマッサージ機全般に適用することが可能である。そして、施療子を駆動させるモータのうち、施療子が3次元的な軌跡を1回描く間に少なくとも1回正転と反転が切り換えられるモータとしてブラシレスDCモータを使用し、ブラシレスDCモータを駆動する制御回路は、ブラシレスDCモータの回転速度を検出するし検出された回転速度に応じて、ブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換える機能を有していれば、マッサージ機の構成にかかわらず、上記と同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の一実施の形態に係るマッサージ機の背もたれの後側から見た構成を示す斜視図。
【図2】上記マッサージ機における駆動ユニットの構成を示す斜視図。
【図3】上記マッサージ機における制御回路の基本的な構成を示すブロック図。
【図4】3相4極のブラシレスDCモータを使用した場合のパワー回路部の構成を示す回路図。
【図5】120度矩形波駆動の場合及び正弦波駆動の場合のモータの巻線に印加される電圧の波形を示す波形図。
【図6】20度矩形波駆動の場合、150度通電矩形波駆動の場合及び正弦波駆動の場合のモータの巻線に印加される電圧の波形を示す波形図。
【図7】(a)は120度通電矩形波駆動の場合のトルク変動を示す波形図、(b)は150度通電矩形波駆動の場合のトルク変動を示す波形図。
【図8】(a)はPWMされたパルス幅を所定時間ごとに1階調ずつパルス幅を拡げて行った場合のモータの巻線に流れる電流を示す波形図、(b)はパルス幅を非線形に拡大させた場合の電流波形図。
【図9】(a)は輪状揉捏動作と呼ばれる手技を行う際の施療子の動きを表した図、(b)はそのときの上下駆動軸モータと幅駆動軸モータの時間による回転数の変化を表す波形図。
【符号の説明】
【0040】
1 マッサージ機
2 施療子(もみ球)
3A、3B 施療子ベース
5 アーム
11 第1モータ
12 第2モータ
13 第3モータ
20 椅子
21 背もたれ
22 ガイドレール
25 制御回路
251 交流入力電源
252 整流・平滑回路部
253 パワー回路部
254 回転速度検出回路部
255 制御回路部(回転速度演算手段、速度制御手段、電圧制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子と、
前記椅子の背もたれに設けられたガイドレールに沿ってそれ自体が上下動する駆動ユニットと、
前記駆動ユニットを前記ガイドレールに沿って上下動させる第1モータと、
前記駆動ユニットに設けられ、前記椅子の幅方向に沿って互いに逆方向に往復駆動される一対の施療子ベースと、
前記一対の施療子ベースを互いに逆方向に往復駆動させる第2モータと、
前記一対の施療子ベースにそれぞれ保持され、その動作の主成分が前記椅子の背もたれに対して略直交する面内で駆動される施療子と、
前記施療子を、その動作の主成分が前記椅子の背もたれに対して略直交するように駆動させる第3モータと、
前記第1モータ、第2モータ及び第3モータをそれぞれ独立して駆動する制御回路を備え、
前記第1モータ、第2モータ及び第3モータの少なくとも1つはブラシレスDCモータであり、
前記制御回路は、前記ブラシレスDCモータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段により検出された回転速度に応じて、前記ブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換える通電方式切り換え手段を備えたことを特徴とするマッサージ機。
【請求項2】
前記通電方式切り換え手段は、前記ブラシレスDCモータの起動時からその回転速度が所定の速度に達するまでは、120度の矩形波電圧をモータの巻線に通電する120度通電矩形波駆動方式を選択し、前記ブラシレスDCモータの回転速度が所定の速度に達した後は、前記ブラシレスDCモータの巻線に略正弦波形の電流が流れるように通電する正弦波駆動方式を選択することを特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。
【請求項3】
前記通電方式切り換え手段は、前記ブラシレスDCモータの起動時からその回転速度が所定の速度に達するまでは、120度の矩形波電圧をモータの巻線に通電する120度通電矩形波駆動方式を選択し、前記ブラシレスDCモータの回転速度が所定の速度に達した後は、前記ブラシレスDCモータの巻線に120度以上の矩形波電圧をモータの巻線に通電する矩形波駆動方式を選択することを特徴とする請求項1に記載のマッサージ機。
【請求項4】
前記120度通電矩形波駆動時において、前記ブラシレスDCモータの巻線に印加されるパルス幅変調されたパルス電圧のパルス幅を、所定時間を経過するごとに増大させていくことを特徴とする請求項2又は3に記載のマッサージ機。
【請求項5】
前記回転速度検出手段により検出された現在の回転速度と目標回転速度の差が一定以上である場合に、前記通電方式切り換え手段は、通電方式を120度通電矩形波駆動方式に切り換えて、前記ブラシレスDCモータを駆動することを特徴とする請求項2又は3に記載のマッサージ機。
【請求項6】
施療子を3次元的な軌跡を描くように駆動させて施療を行うマッサージ機であって、
前記施療子を駆動させるモータのうち、前記施療子が前記3次元的な軌跡を1回描く間に少なくとも1回正転と反転が切り換えられるモータとしてブラシレスDCモータを使用し、
前記ブラシレスDCモータを駆動する制御回路は、前記ブラシレスDCモータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、前記回転速度検出手段により検出された回転速度に応じて、前記ブラシレスDCモータへの通電方式を少なくとも2以上の通電方式の中からいずれか1つを選択して切り換える通電方式切り換え手段を備えたことを特徴とするマッサージ機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−110036(P2006−110036A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−299805(P2004−299805)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】