説明

マット表面および光沢表面を作成する印刷方法

本発明は印刷方法および印刷物に関する。本発明による印刷法では、印刷材が、たとえば複数のオフセット印刷ユニット(6、8、10、12)および下流のニス塗布ユニット(14)を含むオフセット印刷機(2)を通過する単一の走行で、オフセット印刷ユニット(6、8、10、12)の少なくとも1機において、まず油性のオフセット印刷インクを用いて印刷され、続いて、下流の印刷ユニット(12)において、マット剤およびシリコーンを含む透明の油性マットニスを、オフセット印刷インクで印刷された表面の一部分に塗布され、次に、ニス塗布ユニット(14)において、透明光沢ニスをマットニスが塗布された表面部分を含む全印刷表面に塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法、特に、印刷の後で、印刷された表面の一部分にマット表面を、印刷された表面の他の一部分には光沢表面を備える印刷材が、または印刷材にマット表面と光沢表面が与えられる、透明ニスを用いるスポットニス塗布によってまたはマット剤を含有するインクを用いる重ね刷りによって与えられる、枚葉給紙オフセット印刷法に関する。隣接するマット表面部分と光沢表面部分の間の表面の異なる質とコントラストによって、たとえば印刷された画像のさまざまな色の間のコントラストを高めることができ、マットニスを塗布された表面部分にはベルベット様の外見、光沢ニスを塗布された表面部分には銀色または金色がかった反射する外見を与えることができ、あるいはその他の魅力的な光学的効果を達成することができる。本発明は、さらに、オフセット印刷法によって製作された印刷物にも関する。
【背景技術】
【0002】
隣接するマット表面部分と光沢表面部分を有する印刷物を作成するために、印刷材を立て続けに2回、オフセット印刷機に給紙することが知られるようになった。この方法では、すなわち最初の印刷では、印刷材は、印刷機の印刷ユニットに所望のインクを入れて印刷し、次に、印刷機の下流にあるニス塗布ユニットで、光沢となる区域に光沢ニスを塗布するか、あるいはマットとなる区域にマットニスを塗布する。それぞれについて他の区域は塗布しないままにおき、2回目の走行で印刷機に通すまではニス塗布を行わない。印刷インクがすでに乾燥したときに2回目のニス塗布を行うこの方法には、重大な不都合が3つある。
【0003】
第1に、印刷機を通る2回の走行が必要であることは、印刷物をより高価にする。第2に、2回の走行の間にレジストレーションの誤差を生じる可能性があり、それが原因となって印刷された画像のマット表面部分と光沢表面部分の境界で、2つの異なるタイプの表面の間に、目に見える重なりや隙間を生じる可能性がある。第3に、通常のオフセット印刷版は、印刷材の個別の表面部分に別々に塗布することには使用できないので、マットニス塗布と光沢ニス塗布の両方に高価な感光性高分子版が必要である。
【0004】
DE20020798U1は、大判印刷機中の印刷材上に、ニスのスポットを形成する装置を開示している。この装置は、印刷機の4機の印刷ユニットのうちの2機中で、印刷材にハイブリッドまたはUVインクシステムと称されるものを塗布するのに使用され、このインクシステムは、続く2機の印刷ユニット中で、印刷材が通常の油性オフセット印刷インクシステムを用いて印刷される前に、UV光に露光させて硬化させる。最後に、下流のニス塗布塔またはニス塗布ユニット中で、印刷材の全表面に無色のニスを塗布する。この無色のニスは、2種のインクシステムによって異なる程度に再吸収されるか、あるいは2種のインクシステムと化学的または物理的に異なる方法で協同して、インク層の光沢度の値にいろいろな形で影響する。この装置は、きわだったコントラストのあるマットおよび光沢表面を有する印刷物を作成する可能性を提供する。しかし、これは、一部の印刷ユニットの下流にUV露光ユニットを必要とし、従来のオフセット印刷ユニットについては高価な改良が必要であるか、あるいは実施が不可能なことさえある。さらに、ハイブリッドまたはUVインクシステムは、通常の油性オフセット印刷インクシステムよりも高価であり、かつより毒性である。
【0005】
さらに、EP0620115A1は、印刷材のニスのスポットを1回の走行でという可能性を提供する、オフセット印刷機で印刷材にインラインで塗布する装置を開示している。しかし、この目的のためには、知られている装置は、オフセット印刷ユニットの下流に2機のニス塗布ユニットを必要とし、その内のオフセット印刷ユニットに隣接する第1のユニットはフレキソグラフ印刷ユニットであって、蒸発の早い水性液の塗布を可能にするものであり、第1のニス塗布ユニットの下流に設置される2機のユニットのうちの第2のユニットは、たとえば印刷材の全表面にニス塗布するために使用される。しかし、知られている装置は、高度にコントラストのある非常にマットなニス塗布表面と非常に光沢性のニス塗布表面を有する印刷物を作成することはできない。さらに、知られている装置を備えたオフセット印刷機は、非常に高価であり、それゆえに広く使われてはいない。
【0006】
EP1237728は、円筒体を美装する方法を開示している。ホワイトカーボンなどのマット剤を含有するインクを塗布した後に続けて、全表面に光沢ニスを塗布することによってマットおよび光沢のものを同時に形成することができる。この文献が円筒体にニス塗布する特殊な印刷装置を取り扱っているという事実は別として、この方法は、限られたコントラスト、すなわち光沢度の値の間、マットな画像区域と光沢のある画像区域の間に限られた違いを作るためにしか使えない。
[発明の開示]
これらの説明に基づいて、本発明は、印刷方法を、特に、ただし排他的にではなく、枚葉給紙オフセット印刷法を、隣接するマット表面と光沢表面を有する印刷材が、従来の印刷機において単一の走行で作製されるように改良するという目的に基づいている。さらに、本発明は、従来のオフセット印刷機および従来の油性オフセット印刷インクだけを使用することによって、高度にコントラストのある隣接するマット表面と光沢表面を有する印刷物を作成するという目的に基づいている。
【0007】
特許請求項1に記載の方法に関しては、この目的は、複数の印刷ユニット(6、8、10、12)および下流のニス塗布ユニット(14)を含む印刷機(2)を通る1回の走行で処理される印刷材が、印刷ユニット(6、8、10、12)の少なくとも1機において、まず油性印刷インクで印刷され、続いて下流の印刷ユニット(12)において、マット剤を含有する油性のマットニスを、すでに印刷インクによって印刷されている表面の一部に塗布し、またはマット剤を含有するマットインクによって印刷し、続いてニス塗布ユニット(14)において、透明の光沢ニスを全印刷表面に塗布され、マットニスまたはマットインクにはシリコーン、PTFEまたは誘導体などの表面エネルギーの低い材料が混合されていることによって達成される。
【0008】
本発明による印刷方法は、オフセット印刷法およびフレキソグラフ印刷法を本発明に関連して、たとえば油性マットニスまたは油性マットインクを用いる表面部分への塗布は、オフセット印刷ユニットの1機で、改造や変更を必要とせずに実行できるので、従来の印刷機で容易に実施できる。これに続く全表面への水性光沢ニスの塗布は、光沢になる表面部分の光沢度の値を向上させるための、容易に実施される多少の軽微な変更を施された、オフセット印刷機の従来のニス塗布ユニットで実行することができる。
【0009】
本発明は、印刷物のマット表面部分および光沢表面部分が、DE20020798によって示唆されているように2種類のインクシステムの使用によって生成されるのではなく、油性のインクまたはニスからなる単一のインクシステムによって生成されるというアイデアに基づいている。インクまたはニスのマット層に含有されている低い表面エネルギーを有する材料のために、粒子形状のマット剤の成分によって改質されたインクまたはニスの層が、その後の全面への光沢ニスの塗布にもかかわらず、マット状の外観を維持することが見出された。
【0010】
これが起こるのは、他の理由の中でも、特にマットニスまたはマットインクの上に塗布された光沢ニスは、表面エネルギーの低い混合材料のためにマットニスまたはマットインクが充分に濡れることから保護されるからである。表面エネルギーが低い、好ましくは1メートル当たり40ミリニュートン未満、特に1メートル当たり25ミリニュートン未満の材料は、たとえば、シリコーンオイル、「テフロン」として知られているPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、またはこれらの材料の誘導体、たとえば、ヘキサフルオロプロピレン、フッ素化エチレンプロピレンコポリマー(FEP)、ホスタフロン(Hostaflon)、その他でよい。
【0011】
本発明のさらに好ましい実施形態では、マットインクまたはマットニスおよび光沢ニスはそれぞれ光沢印刷インクの前に塗布され、後者の場合は先に塗布されたマットニスも完全に硬化されるか吸収される。こうすることによって、使用する印刷インクおよびマットニスは従来の油性オフセット印刷インクおよび従来の油性マットニスでよく、これらはそれぞれ、従来のオフセット印刷機のオフセット印刷ユニット中のUVランプなどの追加の手段を用いることなく、印刷材に塗布することができる。
【0012】
使用する光沢ニスは、好ましくは水性分散ニスであり、それは水性分散ニスが、一方では、従来のオフセット印刷機のニス塗布ユニットで容易に処理することができ、他方では、マットニスを塗布していない表面部分で光沢のある表面を提供しつつマットインクまたはマットニスと共に所望のマット表面を提供することができるからである。使用される分散ニスは、好ましくはスチレン/アクリレートコポリマーを主成分とするものである。しかし、異なるポリマーを主成分とする他の種類の分散ニスも使用することができる。
【0013】
マット表面部分と光沢表面部分の間に可能な限り最もきわだったコントラストをもたらすためには、マット表面部分は可能な限り低い光沢度値を持たなければならず、光沢表面は可能な限り高い光沢度値を持つものである。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、マット表面部分の可能な限り最も低い光沢度値は、処理工程の質およびマットニスの透明性に影響をおよぼさずに、マット剤の含有量を可能な限り高く設定することによって促進される。好ましいマット剤は、細かくすりつぶしたケイ酸塩である。しかし、他の種類の従来のマット剤も使用することができる。高含有量の粒子形状マット剤のために、マットニスは、少なくともより少量の光沢ニスをほとんど完全に再吸収することができる粗い表面を有している。
【0015】
類似の効果が、マットニスまたはマットインクが、先に塗布された印刷インクを不完全な程度にしか濡らさない場合に得られ、これもまた表面が構造化する原因となる。この目的はマットニスまたはマットインクに加えられた好ましくは0.2〜0.6重量パーセントの範囲のシリコーンオイルまたはPTFEによってまた促進される。たとえばシリコーンオイルから生じるオフセット印刷インク基層の不完全な濡れは、マット剤と共に、マットニスが塗布後に均一な、ハンマートーン仕上げ、すなわちうろこ状表面を呈する原因となる。
【0016】
光沢ニスを塗布した際に、マット表面部分の光沢度値を大幅に増すことなく、光沢表面の光沢度の可能な最高値を達成するために、本発明のさらに好ましい実施形態は、個別にまたは好ましくは組み合わせて実施しうる、いくつかの対策を含んでいる。
【0017】
第1の対策は、一方では、マットにするための塗布が行われていない表面部分に連続した光沢表面を創るのには足るが、他方では、先にマットにするために塗布された表面部分が完全に溢れて粗い表面が滑らかになるのに足るほどは多くない量の光沢ニスを塗布することである。この観点での試験では、光沢ニスの塗布量が、塗布表面1m2当たり12〜14cm3であれば、両方の目的を達成することができることが見出された。したがって、光沢ニスは、好ましくはニス塗布ユニット内で、チャンバードクターブレードとテークアップ容量が約13cm3/m2のスクリーンローラーによって計量される。
【0018】
第2の対策は、高い粘度を有する光沢ニスを使用することである。これも粗い表面の平滑化に対抗する。光沢ニスの適当な粘度は、DIN 53 211にしたがって測定して、70s-1を超え、好ましくは75s-1を超え、理想的には80s-1を超える。光沢ニスの高粘度は、好ましくは、たとえばスチレンアクリレートコポリマーの形状の樹脂の含有量が高い光沢ニスにおいて達成される。適当な樹脂含有量は20重量パーセントを超え、好ましくは25重量パーセントを超え、理想的には30重量パーセントを超える。
【0019】
先に述べた高粘度の光沢ニスは、工程上の困難を引き起こす可能性があり、本発明のさらに好ましい実施形態では、光沢ニスを、高められた温度で、印刷され部分的にマットとなるように塗布された印刷材に塗布する。すなわち、光沢ニスの温度は、好ましくは20℃を超え、好ましくは25℃を超え、理想的には30℃を超える。この目的で、光沢ニスを、都合に合わせて30℃を超え、好ましくは40℃を超える温度まで、加熱可能な容器中で加熱し、その後必要に応じてチャンバードクターブレードへポンプで送る。光沢ニスが容器の壁に付着することを防ぐために、容器は、好ましくは掻き取り刃の付いた撹拌ユニットを備えている。
【0020】
第3の対策は、水分散光沢ニス中に普通に存在する湿潤剤の濃度を可能な限り下げることであり、都合に合わせて3重量パーセント未満、好ましくは2.5重量パーセント未満、理想的には2重量パーセント未満とする。これらの値は、湿潤剤の例としてのスルホコハク酸塩に関するものである。ダンプ印刷インクおよびダンプマットニスに塗布された光沢ニスを続いて乾燥している間に、光沢ニス中に亀裂が形成されることは、レンブラント効果と称される効果であり、このような低い湿潤剤含有量から発生するが、これを防ぐために、光沢ニスは、好ましくは光沢ニスの0.2〜1.5重量パーセント、好ましくは0.5〜1重量パーセントの柔軟剤を含む。
【0021】
本発明の別の好ましい実施形態においては、枚葉給紙オフセット印刷のニス塗布ユニットを出たシートのにじみなし堆積またはウェブ給紙オフセット印刷で印刷されニス塗布された印刷材の高速にじみなし巻取りをもたらすために、印刷材が光沢ニス塗布された後で、光沢ニスおよび印刷インクがより速やかに乾燥するように、印刷材の少なくとも印刷されニス塗布された面に、温風および/または熱放射を当てる。
【0022】
印刷物に関しては、先に述べた目的は、本発明に従って、印刷物の印刷材、好ましくはアート紙は、少なくとも片面を油性オフセット印刷インクで印刷され、この面の一部にマット剤を含有する油性マットニスまたはマットインクを塗布され、マットになるように塗布された表面部分を含めた、印刷面全面に透明の水性光沢ニスを塗布され、マットニスまたはマットインクが、シリコーンまたはテフロンあるいは類似の、疎水性または剥離性を有する材料を含有していることによって達成される。
【0023】
本発明を、図で表した例示的な実施形態に基づいて、以下に詳細に説明する。
【0024】
図1は、ニスのスポットを塗布する枚葉給紙オフセット印刷機を側面から見た略図であり、この印刷機は、複数のオフセット印刷ユニットおよび下流のニス塗布ユニットを含む。
【0025】
図に示した従来の4色枚葉給紙オフセット印刷機2は、実質的に、シートフィーダー4(部分的にのみ示されている)、全部で4機のオフセット印刷ユニット6、8、10、12、印刷ユニット6、8、10、12の下流に配置されたニス塗布ユニット14、乾燥ユニット16、および排紙部18からなる。印刷機2では、印刷材シート、特にアート紙が印刷された後で、ニスのスポットが印刷材シートに塗布され、それによってさまざまな印刷色が、印刷画像の異なる部分のマット表面または光沢表面によって強調され、コントラストが高まり、あるいは印刷色にベルベット状または光沢のある外見が与えられる。
【0026】
印刷およびスポットニス塗布の操作では、シートは第1、第2、および第3の印刷ユニット6、8、10で、従来の油性オフセット印刷インクを用いて単色または多色で印刷され、続いて最後の印刷ユニット12において印刷表面の部分に油性マットニスが塗布される。下流のニス塗布ユニット14で、シートは印刷面全体に水性光沢ニスを塗布され、乾燥装置16で乾燥された後、完成印刷物として排紙部18によってシートパイル20に堆積される。
【0027】
印刷材の部分的表面へのマットニスの塗布は、印刷機2の最後の印刷ユニット12で行われる。この目的のために、印刷ユニット12は通常、圧胴22、ブランケットシリンダー24、版シリンダー26、インキングユニット28、および湿しユニット30を備えている。インキングユニット28は、マットニスを計量するために使用され、次にマットニスは版シリンダー26、すなわちこれに版が固定される、に塗布され、ブランケットシリンダー24に塗布され、最後に圧胴22に導かれるシートに湿し水と共に塗布される。この工程では、マットニスは版シリンダー26およびシートの、完成印刷物のマット表面部分に相当する、区域に塗布され、湿し水は残りの部分、すなわち完成印刷物の光沢表面部分に相当する区域に塗布される。マットニスは、オフセット印刷インクがまだ湿っている間に、すなわち吸収および架橋結合の結果として印刷インクが完全に乾燥する前に、オフセット印刷インクに塗布される。
【0028】
使用されるマットニスは、従来の油性オフセット印刷インクと類似の組成を有しているが、有色顔料はまったく含有していない。そのかわり、マットニスは高含有量の、微細にすりつぶした形状のケイ酸塩である、マット剤および0.2〜0.6重量パーセントのシリコーンオイルまたは他のシリコーン化合物を有しており、マットニスの前に塗布されたオフセット印刷インクが完全に濡れるかまたは全体的に均一な状態で濡れることを防止する。好んで使用されるマットニスは、非常に高い光沢度値を有する。そのようなマットニスは、Aquaprint GmbH in Hoyen、GermanyによってHi Dual 0 700 Matteffect Litho Varnishの名で販売されている。
【0029】
部分的にマットニスを塗布された印刷済みのシートは、次にニス塗布ユニット14中で水性光沢ニスで完全に塗布される。光沢ニスは、スチレンアクリレートコポリマーを主成分とする改質された透明の分散ニスである。
【0030】
マットニスを塗布され、その結果、他の表面部分と比べて粗い表面を持つ表面部分が、光沢ニスで溢れ、それによって滑らかになることを防ぐために、分散ニスの粘度(DIN53 211に従って測定した)を75s-1より高くするために、分散ニス中のスチレンアクリレートコポリマーのパーセンテージを、25重量パーセントを超える値に設定する。
【0031】
このように高い粘度のニスを用いることによる工程上の困難を避けるために、ニス塗布ユニット14は加熱可能なニス塗布容器34を有し、その中でニスは約40℃の温度に保たれ、かつ絶えず掻き取り刃(図示せず)を備えた撹拌装置によって動かされる。こうして、ニスが容器34の壁に付着することは防止される。
【0032】
さらに、光沢ニスのスルホコハク酸塩含有量は、3重量パーセント未満、理想的には2〜2.5重量パーセントに設定される。スルホコハク酸塩は、オフセット印刷で普通に使用される、透明な分散ニスに含まれる代表的な湿潤剤である。このようなスルホコハク酸塩含有量は、印刷物が乾燥されるに従って、印刷物中に亀裂が現れる原因となる可能性があるので(レンブラント効果)、光沢ニスには、0.1〜1重量パーセントの柔軟剤を加える。
【0033】
さらに、ニス塗布ユニット14は、正確に規定された限られた量の光沢ニスの、すなわち、一方では、マットニスを塗布しなかった表面部分では充分に光沢のある表面をもたらし、他方では、光沢ニスが、マットニスを塗布した表面部分にほぼ完全に再吸収されて、それらの区域の光沢度値を大きく増すことがない量を塗布する。数回の試験の後で、光沢ニスの量を、塗布印刷材表面に対して13cm3/m2となるように選定すれば、このとおりになることが見出された。光沢ニスを計量するために、ニス塗布ユニット14にはチャンバードクターブレード36およびスクリーンローラー38が備えられており、後者のテークアップ容量は、ほぼ上記の値、すなわち13cm3/m2である。型すなわちブランケットシリンダー40は、光沢ニスをスクリーンローラー38からシートに移すために使用する。
【0034】
光沢ニスを塗布された後、完成印刷物は、少なくとも印刷およびニス塗布された面を、乾燥装置16内で、赤外線ランプによっておよび/または加熱された空気を当てることによって乾燥されてから、堆積部20に堆積される。
【0035】
上記の印刷条件を満たすことによって、アート紙形態の印刷材は、1回だけ印刷機2を通過する印刷およびニス塗布走行で処理されて、互いに隣接するマット表面の印刷面と光沢表面の印刷面を有する印刷物を創り出し、マット表面は約20%の光沢度値、光沢表面は約80%の光沢度値を有し(光の入射角および反射角60度で測定)、その結果その差は約60%となり、従来の印刷方法では今までに到達不可能であった値となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ニスのスポットを塗布する枚葉給紙オフセット印刷機を側面から見た略図である。
【符号の説明】
【0037】
2 枚葉給紙オフセット印刷機
4 シートフィーダー
6、8、10、12 印刷ユニット
14 ニス塗布ユニット
16 乾燥ユニット
18 排紙部
20 シートパイル
22 圧胴
24 ブランケットシリンダー
26 版シリンダー
28 インキングユニット
30 湿しユニット
34 ニス塗布容器
36 チャンバードクターブレード
38 スクリーンローラー
40 ブランケットシリンダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷材は、複数の印刷ユニット(6、8、10、12)および下流のニス塗布ユニット(14)を含む印刷機(2)を通過する単一の走行で、前記印刷ユニット(6、8、10)の少なくとも1機において、まず油性印刷インクを用いて印刷され、続いて、印刷材は、下流の印刷ユニット(12)において、油性マットニスを印刷インクで印刷された表面の部分に塗布され、あるいはマットインクで印刷され、前記マットニスまたは前記マットインクはマット剤を含有し、次に、印刷材は、ニス塗布ユニット(14)において、透明光沢ニスを全印刷表面に塗布され、前記マットニスまたはマットインクには、1種または複数の低い表面エネルギーを有する材料が混合されている印刷方法。
【請求項2】
前記マットニスまたはマットインクは、前記印刷インクが硬化し終わる前に塗布されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記光沢ニスは、前記印刷インクおよび前記マットニスまたは前記マットインクが硬化し終わる前に塗布されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記マットニスまたはマットインクが、高い比率のマット剤を含有することを特徴とする請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
前記印刷材が、水性光沢ニスを塗布されることを特徴とする請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
前記光沢ニスが、分散ニスであることを特徴とする請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
前記光沢ニスが、DIN 53 211に従って測定して、70s-1を超える、好ましくは75s-1を超える、理想的には80s-1を超える粘度を有することを特徴とする請求項1から6の一項に記載の方法。
【請求項8】
前記光沢ニスが、部分的に前記マットニスを塗布された前記印刷された印刷材表面に、加熱された状態で塗布されることを特徴とする請求項1から7の一項に記載の方法。
【請求項9】
前記光沢ニスが、部分的に前記マットニスを塗布された前記印刷された印刷材表面に塗布される場合に、20℃を超える、好ましくは25℃を超える、理想的には30℃を超える温度を有することを特徴とする請求項1から8の一項に記載の方法。
【請求項10】
前記光沢ニスが、塗布される前に、容器内に保持され、容器内において30℃を超える、好ましくは40℃を超える温度に保持され、かつ動かされ続けることを特徴とする請求項1から9の一項に記載の方法。
【請求項11】
前記光沢ニスが、3重量パーセント未満、好ましくは2.5重量パーセント未満、理想的には2重量パーセント未満の湿潤剤を含有することを特徴とする請求項1から10の一項に記載の方法。
【請求項12】
前記光沢ニスが、柔軟剤を含有することを特徴とする請求項1から11の一項に記載の方法。
【請求項13】
前記光沢ニス中の前記柔軟剤の比率が、0.2〜1.5重量パーセント、好ましくは0.5〜1重量パーセントの範囲であることを特徴とする請求項1から12の一項に記載の方法。
【請求項14】
前記光沢ニス中の樹脂含有量が、20重量パーセントを超える、好ましくは25重量パーセントを超える、理想的には30重量パーセントを超えることを特徴とする請求項1から13の一項に記載の方法。
【請求項15】
前記光沢ニスが、スチレン/アクリレートコポリマーを含有することを特徴とする請求項1から14の一項に記載の方法。
【請求項16】
前記光沢ニスが、前記ニス塗布ユニット中、ニス塗布印刷材表面1m2当たり約13cm3のテークアップ容量でスクリーンローラーを使用して計量されることを特徴とする請求項1から15の一項に記載の方法。
【請求項17】
前記印刷材に光沢ニスが塗布された後で、前記印刷材の少なくとも印刷されニス塗布された側に温風および/または熱放射を当てることを特徴とする請求項1から16の一項に記載の方法。
【請求項18】
前記混合された材料の表面エネルギーが、40×10-3N/m未満であることを特徴とする請求項1から17の一項に記載の方法。
【請求項19】
前記混合された材料の表面エネルギーが、25×10-3N/m未満であることを特徴とする請求項1から18の一項に記載の方法。
【請求項20】
前記混合された材料が、シリコーンオイルまたはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)または誘導体であることを特徴とする請求項1から19の一項に記載の方法。
【請求項21】
前記マットニスに混合された低い表面エネルギーを有する材料のパーセンテージが、2重量パーセント未満であることを特徴とする請求項1から20の一項に記載の方法。
【請求項22】
印刷材を含む印刷物であって、印刷材は、少なくとも片方の面が油性印刷インクで印刷され、油性マットニスを塗布されるか、あるいは印刷された面の一部分がマットインクで印刷され、前記マットニスまたは前記マットインクはマット剤を含有しており、マットニスを塗布されるかあるいはマットインクで印刷された表面部分を含む印刷された全面に水性光沢ニスを塗布され、前記マットニスまたは前記マットインクには、少なくとも1種の低い表面エネルギーを有する材料が混合されている印刷物。
【請求項23】
光沢ニスを塗布されたマット表面部分の光沢度値が25%未満、好ましくは20%未満であることを特徴とする請求項22に記載の印刷物。
【請求項24】
前記光沢ニスのみを塗布した前記印刷インクの光沢度値が、60%を超える、好ましくは70%を超える、理想的には約80%を超えることを特徴とする請求項22または23に記載の印刷物。
【請求項25】
前記マットニスが高いマット剤含有量を有することを特徴とする請求項22から24の一項に記載の印刷物。
【請求項26】
前記光沢ニスが、柔軟剤を含有することを特徴とする請求項22から25の一項に記載の印刷物。
【請求項27】
前記マットニスまたはマットインクが、40×10-3N/m未満の低い表面エネルギーを有する材料を含有することを特徴とする請求項22から26の一項に記載の印刷物。
【請求項28】
前記表面エネルギーが、25×10-3N/m未満である請求項27に記載の印刷物。
【請求項29】
前記低い表面エネルギーを有する材料が、シリコーンオイル、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、または誘導体である請求項27または28に記載の印刷物。

【図1】
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【公表番号】特表2007−518594(P2007−518594A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544385(P2006−544385)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014534
【国際公開番号】WO2005/063489
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(390009232)ハイデルベルガー ドルツクマシーネン アクチエンゲゼルシヤフト (347)
【氏名又は名称原語表記】Heidelberger Druckmaschinen AG
【住所又は居所原語表記】Kurfuersten−Anlage 52−60, Heidelberg, Germany
【Fターム(参考)】