説明

マルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用制御システム及び該システムを用いたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置

【課題】分離特性の相違する複数のカラムを用いたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置を安全に使用するための制御システム及び該制御システムを用いたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置を提供する。
【解決手段】本発明は、複数のカラムと、該複数のカラムを同一のカラム温度に加熱する共通の温調手段と、を具備するマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システムにおいて、各カラムの耐熱温度を入力する耐熱温度入力部と、入力された耐熱温度のうち最も低い温度を、カラム温度の上限値として設定する上限設定部と、分析の際にカラム温度が上限設定部で設定された上限値を超えないよう温調手段を制御する上限制御部と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離特性の相違する複数のカラムを用いたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置を安全に使用するための制御システム及び該制御システムを用いたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境分析、石油化学分析、香料分析、食品分析などの分野では、多種類の微量成分が含まれる複雑な組成の試料中の各成分を分離して高い感度で定量分析する必要があるが、一般的なガスクロマトグラフ(GC)装置では複数の成分のピークを完全には分離できず、十分な分析ができない場合も多い。こうした場合に、分離特性の相違する複数のカラムを組み合わせたマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置(以下、MDGCと称す)が非常に有用である。
【0003】
MDGCでは、大別して、2つのシステム構成が考えられる。その1つは、第1カラム、第1カラムで成分分離された試料ガス中の各成分を検出する第1検出器、第1カラムとは分離特性の相違する第2カラム、第2カラムで成分分離された試料ガス中の各成分を検出する第2検出器、及び、第1カラムを通過した試料ガスを第2カラム又は第1検出器のいずれか一方に選択的に送るように流路を切り替える流路切替部、を1つのカラムオーブンに収容したシステム構成である(例えば特許文献1参照)。他の1つは、第1カラム、第1検出器、及び流路切替部を1つのカラムオーブン内に収容し、第2カラム及び第2検出器を別の1つのカラムオーブン内に収容したシステム構成である。後者の場合、独立した2台のGCを組み合わせてシステムを構築するのが、一般的である(例えば非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−103666号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「複雑なマトリックスから目的成分を高分離 マルチディメンジョナルGC/GCMSシステム」、[online]、株式会社島津製作所、[平成21年7月21日検索]、インターネット<URL : http://www.an.shimadzu.co.jp/gc/mdgc/mdgc.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のような構成のMDGCでは、複数のカラムを同一の温度で加熱することになる。しかしながら、MDGCで用いられるカラムはそれぞれが異なる分離特性を有しており、その耐熱温度もそれぞれで異なっている。従って、カラムオーブン内の温度(カラムオーブン温度)が或るカラムに耐えられる温度であっても、他のカラムの耐熱温度を超えている場合がある。
【0007】
カラムオーブン温度がカラムの耐熱温度を超えると、カラムが変形乃至は破損してしまい、分析に悪影響を及ぼすことがある。しかしながら、従来のMDGCでは、各カラムの耐熱温度を考慮したシステム及び装置は存在しなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、カラムが変形・破損しないようにするためのMDGC用の制御システム及び該制御システムを用いたMDGCを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システムは、
複数のカラムと、該複数のカラムを同一のカラム温度に加熱する共通の温調手段と、を具備するマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システムにおいて、
使用者が各カラムの耐熱温度を入力するための耐熱温度入力部と、
前記入力された耐熱温度のうち最も低い温度を、前記カラム温度の上限値として設定する上限設定部と、
前記カラム温度が前記上限値を超えないよう前記温調手段を制御する上限制御部と、
を有することを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明に係るマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システムは、
前記カラム温度を含む、成分分析に用いるパラメータを使用者が入力するための分析パラメータ入力部と、
前記入力されたカラム温度が前記上限値を超えた際に警告を発する警告部と、
を有することを特徴とする。
【0011】
なお、前記耐熱温度は、それらの代わりに使用者がカラムの種類や名称等を入力することにより、自動的に耐熱温度入力部に入力されるようにしても良い。これにより、使用者がカラムの耐熱温度を知らなくても、容易にその情報をシステムに与えることができる。ここで、カラムの名称とは個々のカラムを特定する情報のことをいい、予め与えられたID番号や管理番号等を指す。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るMDGC用制御システムによれば、分析を行う前に各カラムの耐熱温度を使用者が入力することにより、例えばコンピュータから成るMDGCの制御部において、カラム温度の上限値が設定され、この上限値に基づいてカラムオーブン等の温調手段が制御される。これにより、加熱し過ぎることによるカラムの変形や破損を防止することができ、精密な成分分析が可能となる。
【0013】
なお、上記のカラム温度は、一定の温度で維持するようにしても良いし、時間により変化するように制御しても良い。このようにカラム温度を変化させる場合においても、本発明の制御システムは、カラム温度が設定された上限温度を超えないよう温調手段を制御するため、安全且つ好適にMDGCを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施例に係るMDGCの一実施例を示す装置構成図。
【図2】本実施例に係るMDGCの制御プログラムの手順を示すフローチャート。
【図3】本実施例のMDGCにおいて、耐熱温度の入力画面の一例を示す図。
【図4】本実施例のMDGCにおいて、分析パラメータの入力画面の一例を示す図。
【図5】本実施例のMDGCにおいて、耐熱温度の自動入力を行うための構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
本発明に係るMDGCの一実施例について図1を用いて説明する。なお、図1は本実施例によるMDGCの装置構成図である。
【0016】
本実施例のMDGCは、キャリアガス流路2からキャリアガス(例えばヘリウムHe)が供給される試料気化室1と、試料気化室1に液体試料を注入するインジェクタ3と、試料気化室1に入口端が接続された第1カラム5と、第1カラム5の出口端に接続された流路切替部6と、流路切替部6の2つの出口端のうちの一方に接続された第1検出器7と、流路切替部6の他方の出口端に入口端が接続された第2カラム8と、第2カラム8の出口端に接続された第2検出器9と、第1カラム5、第2カラム8及び流路切替部6を内部に収容する、図示しないヒータを具備するカラムオーブン4と、を備えている。第1カラム5及び第2カラム8は、これらに共通して用いられるカラムオーブン4により、使用者により設定される一定の又は時間的に変化するカラム温度に加熱される。
【0017】
流路切替部6は、例えばディーンズ方式の流路切替装置であり、分析制御部27の指令に従ってスイッチングガス供給部10から供給されるキャリアガスと同一成分のスイッチングガスの流れを切り替えることにより、第1カラム5を通過してきたガスを、第1検出器7側と第2カラム8側との一方に択一的に流す。このとき、第1検出器7側と第2カラム8側との他方にはスイッチングガスが供給される。
【0018】
第1検出器7及び第2検出器9による検出信号は、いずれもデータ処理部26に送られる。データ処理部26は得られた検出信号に基づいてクロマトグラムを作成するとともに、クロマトグラムの波形解析を行うことで各種成分の定量分析や定性分析を実行する。インジェクタ3や流路切替部6、カラムオーブン4に付設された図示しないヒータ、スイッチングガス供給部10などの動作は、中央制御部20の統括的な指示の下に分析制御部27により制御される。また、カラムオーブン4の上限温度の制御も、中央制御部20に内蔵された上限制御部22により行われる。さらに、中央制御部20は分析制御部27及びデータ処理部26を制御するとともに、データ処理部26よりクロマトグラムなどの処理結果を受け取って表示部25に表示する。また、中央制御部20には、カラム5及び8の耐熱温度を入力する耐熱温度入力部241及び分析に用いる各種のパラメータを入力する分析パラメータ入力部242を備える入力部24が接続されている。なお、中央制御部20及びデータ処理部26の実体は汎用のパーソナルコンピュータであって、このパーソナルコンピュータにインストールされた所定の制御・処理プログラムを動作させることにより、MDGC各部の制御・処理が達成される。また、入力部24は通常のキーボードやタッチパネル等で構成することができ、同様にパーソナルコンピュータにインストールされた所定のプログラムにより、耐熱温度入力部241や分析パラメータ入力部242として動作する。
【0019】
本実施例のMDGCに特徴的な構成として、中央制御部20は、上限設定部21、上限制御部22及び警告部23を機能ブロックとして備える。これらもパーソナルコンピュータのCPU上で上記制御・処理プログラムを動作させることで実現される処理機能である。
【0020】
本実施例のMDGCにおける典型的な分析動作の一例を図2〜図5を用いて概略的に説明する。なお、図2は本発明の制御システムを実行するプログラムの処理の手順を示すフローチャート、図3及び図4は耐熱温度及び分析パラメータの入力画面の一例を示す図、
図5は耐熱温度の自動入力を行うための構成を示す模式図である。
使用者は分析に先立って、第1カラム5及び第2カラム8の耐熱温度の入力設定を行う。まず入力部24で所定の操作を行うことにより、図3に示すような設定画面を表示部25の画面上に表示させる。図3の設定画面には、第1カラム5及び第2カラム8の耐熱温度を入力する耐熱温度入力部241が設けられており、この耐熱温度入力部241に各カラムの耐熱温度を入力することにより(ステップS1)、中央制御部20の上限設定部21においてカラムオーブン4の加熱温度(カラム温度)の上限値が設定される(ステップS2)。
【0021】
次に使用者は分析を実行するための各種条件の設定を、図4に示すような設定画面の分析パラメータ入力部242において行う(ステップS3)。ここで、分析パラメータは、第1及び第2カラムの内径、長さなどのサイズ、カラム温度、キャリアガスの供給圧、スイッチングガスの供給圧(又はガスの線速度)、キャリアガス(スイッチングガス)の種類などである。なお、これらの分析パラメータは個々に入力してもよいし、予め定められ、一括して保持(記憶)されているグループ値を特定する値(メソッド名等)を入力することにより、これらの分析パラメータを一括して入力するようにしてもよい。
ここで、入力されたカラム温度が上記の上限設定部21で定められた上限値を超えている場合には、警告部23が警告メッセージを表示部25の画面上に表示又は音に出して警告する。なお、カラム温度が時間により変化する分析の場合は、その最高値が上限値を超えている場合に警告を発する。入力パラメータに問題がなければ、これらのパラメータに従って分析を開始する(ステップS5)。これにより、使用者がカラム温度を入力ミスすることによるカラムの変形や破損を防止することができる。
【0022】
なお、本発明に係るMDGCの制御システムでは、上記の分析パラメータを入力せずに、予めパーソナルコンピュータにインストールされた所定のプログラムの動作に従って分析を行うこともできる。この場合、分析パラメータ入力部242及び警告部23の機能は、上記の構成から省略しても良い。同様に、それらの機能に相当するプログラムの各ステップも図2のフローチャートから省略することができる。
【0023】
また、図3の耐熱温度入力部241に入力するのは各カラムの耐熱温度の値であるが、一般の使用者はカラムの耐熱温度を知らない場合がある。この場合、耐熱温度入力部241に設けられた名称入力部241Aにカラムの種類や名称を入力することにより、自動的に耐熱温度を入力するようにすることもできる。この構成を図5を用いて説明する。図5に示すように、中央制御部20には、更に記憶部241Bが内蔵されており、カラムの種類や名称に対応づけられた耐熱温度のデータが格納されている。使用者が図3の耐熱温度入力部241に設けられた名称入力部241Aにカラムの種類又は名称を入力することにより、記憶部241Bからそれに対応する耐熱温度のデータが読み出され、耐熱温度出力部241C(図3の耐熱温度の入力欄)に該耐熱温度データが出力される。このような機能を耐熱温度入力部241に持たせることで、一般の使用者がよりMDGCを使用しやすくすることができる。
【0024】
また、上記のように各カラムの耐熱温度の情報を入力し、カラム温度の上限値を設定してカラムオーブンを制御する機能は、既に中央制御部に制御・処理ソフトウエアがインストールされている状態で追加又は更新プログラムを新たにインストールすることにより付加することができる。
【0025】
さらに、本実施例では分岐部で2つの検出器に分岐させた例を示したが、同様の考えを適用することにより、検出器の数をさらに増やすこともできる。
【符号の説明】
【0026】
1…試料気化室
2…キャリアガス流路
3…インジェクタ
4…カラムオーブン
5…第1カラム
6…流路切替部
7…第1検出器
8…第2カラム
9…第2検出器
10…スイッチングガス供給部
20…中央制御部
21…上限設定部
22…上限制御部
23…警告部
24…入力部
241…耐熱温度入力部
241A…名称入力部
241B…記憶部
241C…耐熱温度出力部
242…分析パラメータ入力部
25…表示部
26…データ処理部
27…分析制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカラムと、該複数のカラムを同一のカラム温度に加熱する共通の温調手段と、を具備するマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システムにおいて、
使用者が各カラムの耐熱温度を入力するための耐熱温度入力部と、
前記入力された耐熱温度のうち最も低い温度を、前記カラム温度の上限値として設定する上限設定部と、
前記カラム温度が前記上限値を超えないよう前記温調手段を制御する上限制御部と、
を有することを特徴とするマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システム。
【請求項2】
更に、前記カラム温度を含む、成分分析に用いるパラメータを使用者が入力するための分析パラメータ入力部と、
前記入力されたカラム温度が前記上限値を超えた際に警告を発する警告部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システム。
【請求項3】
前記耐熱温度入力部は、前記カラムの種類又は名称を入力するための名称入力部と、
前記カラムの種類又は名称に対応づけられた耐熱温度のデータが格納されている記憶部と、
を有し、前記名称入力部に入力された前記カラムの種類又は名称に基づいて、前記記憶部から各カラムの耐熱温度を読み出すことを特徴とする請求項1又は2に記載のマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御システム。
【請求項4】
複数のカラムと、該複数のカラムを同一のカラム温度に加熱する共通の温調手段と、を具備するマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置において、請求項1〜3のいずれかに記載の制御システムを搭載したことを特徴とするマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置。
【請求項5】
複数のカラムと、該複数のカラムを同一のカラム温度に加熱する共通の温調手段と、を具備するマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御プログラムであって、コンピュータを、
使用者に各カラムの耐熱温度を入力させる耐熱温度入力部、
前記入力された耐熱温度のうち最も低い温度を、前記カラム温度の上限値として設定する上限設定部、
前記カラム温度が前記上限値を超えないよう前記温調手段を制御する上限制御部、
として機能させることを特徴とするマルチディメンジョナルガスクロマトグラフ装置用の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−33419(P2011−33419A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178538(P2009−178538)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)