説明

マルチホーミング通信方法及び通信装置

【課題】各ノードの送信部及び受信部の処理負荷の増大を招かないホーミング通信方法を提供する。
【解決手段】アプリケーションの指定に従い、送信すべきデータについて、アソシエーションを構成するプライマリパスと、セカンダリパス等のプライマリパス以外のパスとのそれぞれに割り当てるストリーム数を設定し、プライマリパスとプライマリパス以外のパスとを同時に使用する。ノード間で複数のパスを有するSCTPのアソシエーションを構築し、マルチホーミング通信を行う通信装置において、アソシエーションを構成するプライマリパスとプライマリパス以外のパスへのストリームの配分を指定するアプリケーションと、そのアプリレーションの指定に基づいてプライマリパスとプライマリパス以外のパスのそれぞれに割り当てるストリーム数を設定し、プライマリパスとプライマリパス以外のパスとを同時に使用して他のノードとの間で通信させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチホーミングによる通信方法及び同方法を用いる通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公衆電話網で信号化されたメッセージをIP(Internet Protocol)ネットワーク上で送信するための転送プロトコルであるSCTP(Stream Control Transmission Protocol)は、マルチホーミング機能を有する。SCTPでサポートされるマルチホーミングによれば、ノード(ネットワークに接続されたパソコン等の電子計算機、ルーター等の中継機器などの通信端末)に複数のIPアドレスを持たせることにより、ノード間のパス(通信経路)を多重化することができるので、ノード間の論理的な接続であるアソシエーションの中のパスも多重化されている。
【0003】
そして、従来のSCTPで対応されるマルチホーミングにおいては、一つのアソシエーションの中の複数のパスの一つをプライマリパスとし、他のパスをセカンダリパスとして、通常はプライマリパスを使用して通信し、プライマリパスが通信不能になった時は、予め設定されたセカンダリパスを用いて通信を続行することにより、データ通信の信頼性の向上を図っている。
【0004】
図6を用いて具体的に説明する。図6は、マルチホーミングを行う場合のネットワークの構成図である。ノードXと、ノードYは、それぞれ2つのIPアドレス(IP-X1,IP-X2;IP-Y1,IP-Y2)を持ち、IP-X1とIP-Y1、IP-X2とIP-Y2でそれぞれ一つのパスを形成し、IP-X1とIP-Y1のパスをプライマリパスPPとし、IP-X2とIP-Y2のパスをセカンダリパスSPとしてマルチホーミングを行い、プライマリパスPPの通信が正常である間は、SCTPメッセージのデータ通信にはプライマリパスのみを使用し、プライマリパスの通信が不能になった時のみ、セカンダリパスSPを使用する。つまり、プライマリパスとセカンダリパスに同時にデータが流れることはない。
【0005】
アソシエーションには、ストリームという論理的なパスがある。SCTPで対応される従来のマルチホーミングにおいては、全てのストリームは物理的には同一のパスを通るように、ストリームが割り当てられる。
【0006】
具体的な例として、図7に示すように、ノードXが3本のストリームを要求した場合は、3本のストリームを使用して通信を開始するが、その際は、全てのストリームがプライマリパスPPを使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-279467号公報
【特許文献2】特開2010-147732号公報
【特許文献3】特開2010-258587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記のアソシエーション構築におけるパスとストリームの使用法には、次の問題点があった。すなわち、全てのストリームがプライマリパスのみを使用し、プライマリパス以外のパス(セカンダリパス等)はプライマリパスが通信不能になった時にしか使用されない。つまり、冗長構成になっているだけで、同時運用は行わない。そのため、プライマリパスにトラフィックが集中してしまう。これは各ノードの送信部及び受信部の処理負荷の増大に繋がる。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、各ノードの送信部及び受信部の処理負荷の増大を招かないホーミング通信方法を提供することを第一の目的とする。また、本発明は、同方法を使用する通信装置を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記第一の目的を達成するため、アプリケーションの指定に従い、送信すべきデータについて、アソシエーションを構成するプライマリパスに割り当てるストリーム数と、前記アソシエーションを構成するセカンダリパス等のプライマリパス以外のパスに割り当てるストリーム数とを設定し、プライマリパスとプライマリパス以外のパスとを同時に使用することを特徴としている。
また、本発明は、上記第二の目的を達成するため、ノード間で複数のパスを有するSCTPのアソシエーションを構築し、マルチホーミング通信を行う通信装置において、アソシエーションを構成するプライマリパスとプライマリパス以外のパスへのストリームの配分を指定するアプリケーションと、そのアプリレーションの指定に基づいてプライマリパスに割り当てるストリーム数とプライマリパス以外のパスに割り当てるストリーム数を設定し、プライマリパスとプライマリパス以外のパスとを同時に使用して他のノードとの間で通信させる制御部とを備えたことを特徴としている。
上記通信装置には、他のノードとの間に形成されたアソシエーションのプライマリパスとプライマリパス以外のパスのそれぞれにストリーム数を割り当てて送信されたデータを、前記プライマリパスとプライマリパス以外のパスを同時に使用して受信する受信部と、前記プライマリパスとプライマリパス以外のパスによりデータを受信してから所定時間内にいずれかのパスによりデータを受信しないときは、そのデータを受信しないパスを異常パスと判断する異常検知部とを備え、前記制御部は、その異常検知部が異常パスを検知したときは、送信すべきデータの全ストリームを前記異常検知部が異常パスを検知していないパスを使用して通信させるものであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プライマリパスへのトラフィックの集中を避けることができるので、送信部及び受信部の処理負荷が軽減される。
また、本発明によれば、プライマリパスとプライマリパス以外のパスとを同時に使用して他のノードとの間で行われるマルチホーミング通信の信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のノードの機能構成を示す図である。
【図2】ノード間の通信イメージ図である。
【図3】3本のストリームを使用する場合のアソシエーションの割り当て例を示す図である。
【図4】本発明のノードの他の機能構成を示す図である。
【図5】一つのパスに通信異常が発生した場合のノード間の通信イメージ図である。
【図6】マルチホーミングを行う場合のネットワークの構成図である。
【図7】従来の通信装置における3本のストリームを使用する場合のアソシエーションの割り当て例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
続いて、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、ノード1の機能的構成例を示すブロック図である。ノート1は、ネットワークに接続されたワークステーションやパソコン等の電子計算機、又は、ルーター等の中継機器などの通信端末であり、SCTP USERアプリケーション11と、送信部12と、受信部13と、制御部14とを有している。
【0014】
送信部12は、一のノードから他のノードへの通信開始要求と、使用したいストリーム数とからなるデータAを送信する機能を有している。これは、ノード間でSCTPのリンク、すなわちアソシエーションを構築する際に用いられるINIT(Initiation)に相当する。使用したいストリーム数を、以下、OS(Number of Outbound Streams)という。
【0015】
受信部13は、他のノードからINITを受信したときに、その返答と、使用可能なストリーム数とかららなるデータBを送信する機能を有している。これは、ノード間でSCTPのアソシエーションを構築する際に用いられるINIT ACK(Initiation Acknowledgement)に相当する。使用可能なストリーム数を、以下、MIS(Number of Inbound Streams)という。
【0016】
制御部14は、送信部12のデータAのOSと受信部13のデータBのMISから得られる最小ストリーム数で、一のノードと他のノードを通信させる機能を有する。さらに、制御部14は、プライマリパスに割り当てるストリーム数OSとセカンダリパスに割り当てるストリーム数OSを設定することができるように構成されている。各パスへのストリームの配分方法は、上位アプリケーション11が指定する。このストリーム数OSの割り当て制御により、プライマリパスにストリームが独占されることを防ぐことができ、より多くの異なるパスにストリームを分散したアソシエーションAを構築することができる。
【0017】
上記構成により、図1に示したノード1は、そのノードと同様の構成を有する他のノードとの間でSCTP のアソシエーションAを構築することができ、そのSCTPのアソシエーションを構築する際に、そのアソシエーションAで用いるストリーム数OSを決定し、通信を開始することができる。
【0018】
図2に示すように、図1に示したノードと同様の2台のノードX、Yの間で通信を行う場合について、具体的に説明する。ノードXが3本のストリームを要求した場合は、3本のストリームS1,S2,S3を使用して通信を開始する。また、各ノードX、Yは、IPを複数持つとする。図示の例では、ノードX、Yは、それぞれ2つずつのIPを持つとし、ノードXが持つIPをIP-X1,IP-X2、ノードY持つIPをIP-Y1,IP-Y2とする。そして、このノードXとノードYがマルチホーミングでアソシエーションAを構築しているとする。その際、IP-X1とIP-Y1を結ぶパスをプライマリパスPP、IP-X2とIP-Y2を結ぶパスをセカンダリパスSPとする。
【0019】
本発明では、制御部14は、プライマリパスPPとセカンダリパスSPの両方が有効な状態のときは、ストリームをプライマリパスPPに対して割り当てるほか、セカンダリパスSPに対してもストリームを割り当てるように構成されている。図2の例では、アプリケーション11の指定に基づき、2本のストリームS1,S2をプライマリパスPPに、1本のストリームS3をセカンダリパスSPに割り当てている。
【0020】
ノードXとノードYでは、同一ストリームを同一パスで設定する必要はないので、ノード間でどのストリームをどのパスで使用するかの同期を取る必要はない。そのため、従来のSCTPアソシエーションの確立の際のメッセージに変更はない。
【0021】
上述したように、従来技術では、マルチホーミング時に、全てのストリームがプライマリパスのみを使用し、その他のパスはプライマリパスが導通不可になった時にしか使用されない。つまり、冗長構成になっているだけで、同時運用は行わない。そのため、プライマリパスにトラフィックが集中し、セカンダリパスにはトラフィックが一切流れない不均等なトラフィックが発生する。これに対して、本発明では、常時、一部のストリームがプライマリパスを、他のストリームがセカンダリパスなどプライマリパス以外のパスを使用するようにしたので、従来、プライマリパスに集中していたトラフィックがそれ以外のパスに分散するため、ノードの送信部や受信部などの特定箇所への処理負荷が軽減される効果が得られる。
【0022】
本発明は、上述のように、常時、一部のストリームがプライマリパスを、他のストリームがセカンダリパスなどプライマリパス以外のパスを使用するようにしたものであるが、好ましい実施の形態においては、上記通信方法における通信の信頼性を向上させるため、図4に示すように、プライマリパスとプライマリパス以外のパスのいずれかにおいて通信異常が発生した場合にその異常を検知する異常検知部15を付加し、制御部14は、その異常検知部15が異常パスを検知したときは、送信すべきデータの全ストリームを前記異常検知部15が異常パスを検知していないパスを使用して通信させるように構成してある。
【0023】
図5は、図3に示す接続環境において、アソシエーションのパスPPに異常が発生した場合に、他のパスSPを使用して通信を行っている状態を示す。ノードXからYにデータが送信されている際に正常にノードYにそのデータが到達した場合は、ノードYからパスごとにS-ACKチャンク(chunk)が返送される。チャンクはSCTPにおけるメッセージストリームの構成単位である。しかし、いずれかのパスに通信異常が発生した場合は、ノードYからそのパスに対応するS-ACKチャンクが返送されないので、ノードXは、送信データがノードYに到達したか否かを確認できない。この場合は、ノードXは、S-ACKチャンクが返送されないパスに対してそのデータの再送信を所定回数行う。そして、そのデータの再送信の間にノードXの異常検知部15は、所定の送信タイマを起動監視し、そのタイマのタイムアップにより当該データの送信に使用しているパスに異常が発生したことを検知する。異常を検知したノードXの制御部は、送信部12に異常を検知されていないパスを使用してその通信異常をノードYに通知させる。
【0024】
また、制御部14は、異常検知部15が通信異常を検知した時は、その通信異常が発生したパス(例えば、図5ではPP)に割り当てていたストリームを全て、異常を検知されていないパス(例えば、図5ではSP)に割り当てて、通信を続行する。従って、マルチホーミング通信の信頼性が従来よりも向上する。
【0025】
そして、一つのパスの異常が検知されて、残りのパスで通信が続行されている際に、その残りパスにも異常が検知された時は、その両ノード間の通信は中止される。
【符号の説明】
【0026】
1…ノード、11…アプリケーション、12…送信部、13…受信部、14…制御部、15…異常検知部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アプリケーションの指定に従い、送信すべきデータについて、アソシエーションを構成するプライマリパスに割り当てるストリーム数と、前記アソシエーションを構成するセカンダリパス等のプライマリパス以外のパスに割り当てるストリーム数とを設定し、プライマリパスとプライマリパス以外のパスとを同時に使用することを特徴とするマルチホーミング通信方法。
【請求項2】
ノード間で複数のパスを有するSCTPのアソシエーションを構築し、マルチホーミング通信を行う通信装置において、アソシエーションを構成するプライマリパスとプライマリパス以外のパスへのストリームの配分を指定するアプリケーションと、そのアプリレーションの指定に基づいてプライマリパスに割り当てるストリーム数とプライマリパス以外のパスに割り当てるストリーム数を設定し、プライマリパスとプライマリパス以外のパスとを同時に使用して他のノードとの間で通信させる制御部とを備えたことを特徴とする通信装置。
【請求項3】
他のノードとの間に構築されたアソシエーションのプライマリパスとプライマリパス以外のパスのそれぞれにストリーム数を割り当てて送信されたデータを、前記プライマリパスとプライマリパス以外のパスを同時に使用して受信する受信部と、前記プライマリパスとプライマリパス以外のパスによりデータを受信してから所定時間内にいずれかのパスによりデータを受信しないときは、そのデータを受信しないパスを異常パスと判断する異常検知部とを備え、前記制御部は、その異常検知部が異常パスを検知したときは、送信すべきデータの全ストリームを前記異常検知部が異常パスを検知していないパスを使用して通信させるものであることを特徴とする請求項2に記載の通信装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−5347(P2013−5347A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136707(P2011−136707)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】