説明

マルチ型空気調和装置およびその室外機、その制御方法

【課題】室外機と室内機の設置高低差が大きい場合においても、設置が容易で、複雑な制御を行うことなく冷媒回路内の冷媒圧力が過大となるのを防ぎ、従来以上の高低差で室外機と室内機とを設置する。
【解決手段】減圧膨張弁40の開度制御を、冷房運転時において、室外機10における高圧側の冷媒圧力が高い場合にのみ行うようにした。減圧膨張弁40の開度制御は、その時点での圧縮機16の駆動周波数、すなわち冷媒の体積流量に基づいて減圧膨張弁40の開度が決定され、冷媒の体積流量が大きく、渡り配管30での圧力損失が多い場合には、減圧膨張弁40における減圧を抑え、冷媒の体積流量が小さく、渡り配管30での圧力損失が少ない場合には、減圧膨張弁40における減圧を増大させ、圧縮機16から室内膨張弁22までの冷媒回路トータルにおいて、冷媒の減圧量を調整するようにした。これにより、運転状態に関わらず、常に冷媒圧力を適度に減圧して抑え、室内膨張弁に過大な冷媒圧力が作用するのを防ぐ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つの室外機に対して、複数の室内機が設けられるマルチ型空気調和装置およびその室外機、その制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルディング等においては、一つの室外機に対し、複数台の室内機が設けられた、マルチ型空気調和装置が用いられている。
マルチ型空気調和装置の室外機と各室内機は、冷媒配管、電気配線を介して接続される。
【0003】
ビルディング等の複数階層を有した建物においては、室外機を屋上に設置することが多く、建物内の各階に設置される室内機との間では、設置高さの違いによる冷媒の圧力差、いわゆるヘッド差が生じる。
室外機を室内機に対して上側に設置する条件においてヘッド差が大きくなると、室内機側の高圧側、つまり室内機の膨張弁に作用する冷媒圧力が大きくなる。膨張弁に作用する冷媒圧力が過大になると膨張弁が損傷する等の可能性がある。これを避けるため、冷媒回路内の冷媒圧力の上限値が設定されており、設計段階においては、その上限値に基づいて、室外機と室内機の高低差が設定されている。
【0004】
それでも、複数台の室内機の運転負荷状況や、外気温等、諸々の条件により、特に冷房運転時には、室内機側の高圧側、つまり室内機の膨張弁に作用する冷媒圧力が大きくなる。特に冷房運転時には、冷媒圧力が設計段階での上限値を超えてしまう可能性もある。
【0005】
また、冷媒圧力が上限値を超えない場合であっても、室内機の膨張弁に作用する冷媒圧力は、ヘッド差が大きくなることによって、平地に設置した場合よりも高まる。そのため、膨張弁前後の圧力差が大きくなる。
すると、個別の室内機の冷媒流量を制御するため等に膨張弁の開度を変えた場合、同じ開度変化量でも、膨張弁前後の圧力差が大きいほど冷媒流量変動量が大きく、冷媒流量の制御性が悪化する。
【0006】
これらの問題に対し、運転中における室内機側の膨張弁に流入する冷媒の圧力が所定の基準値以下となるよう、室外機側の膨張弁の開度を制御するという提案がなされている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−185292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1においては、室外機と室内機の設置高低差に基づき、運転中の室外機の膨張弁における冷媒の圧力損失の目標値を設定する必要がある。運転中は、室外機の膨張弁における冷媒の圧力損失が、設定した目標値に保たれるように室外機の膨張弁の開度を制御するためである。
しかしながら、このような手法においては、運転中、常に冷媒回路の冷媒の循環量を算定する必要があり、制御部における制御負荷が大きい。
また、室外機と室内機の設置高低差に基づいて冷媒の圧力の目標値を設定する必要があるため、設置する建物に応じた設定作業等が必要となり、手間がかかる。さらに、設定作業を間違えた場合には、想定どおりの圧力制御ができない。
【0009】
また、室外温度が高く、室内機の多くで冷房運転を強度に行っているような場合等、高負荷な時を想定して冷媒回路内の冷媒圧力の上限値が設定されているため、室外機と室内機の高低差に限りがあり、それ以上の高低差で室外機と室内機を設置することができなかった。
【0010】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、室外機と室内機の設置高低差が大きい場合においても、設置が容易で、複雑な制御を行うことなく冷媒回路内の冷媒圧力が過大となるのを防ぎ、従来以上の高低差で室外機と室内機とを設置することのできるマルチ型空気調和装置およびその室外機、その制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的のもとになされた本発明のマルチ型空気調和装置は、冷媒を圧縮する圧縮機を備えた室外機と、室内熱交換器を備えた複数の室内機と、を具備したマルチ型空気調和装置であって、室外機から吐出する冷媒を減圧させる減圧膨張弁と、冷房運転時に、圧縮機の回転数に基づき、減圧膨張弁の開度を調整する制御部と、を備えることを特徴とする。
このように、冷房運転時に、圧縮機の回転数に基づいて減圧膨張弁の開度を調整し、室外機から吐出する冷媒を減圧させることで、室内機の膨張弁の高圧側で冷媒圧力が過大となるのを防ぐことができる。
このとき、制御部は、圧縮機の回転数、すなわち圧縮機から吐出する冷媒の体積流量に基づき、減圧膨張弁の開度を調整する。具体的には、圧縮機の回転数が高いときには、減圧膨張弁の開度を大きく設定し、圧縮機の回転数が低いときには、減圧膨張弁の開度を小さく設定することで、減圧膨張弁の開度を調整する。これは、室外機と室内機を接続する渡り配管における圧力損失を加味したうえで、減圧膨張弁における減圧量を最適に調整するためである。
【0012】
室外機の圧縮機の高圧側または室内機の膨張弁の高圧側における冷媒圧力を検出する圧力センサをさらに備え、制御部は、圧力センサで検出した冷媒圧力が予め定めた基準値を超えたときに、減圧膨張弁の開度を調整するようにしてもよい。このようにすることで、圧力センサで検出した冷媒圧力が予め定めた基準値を超えたときのみ、減圧膨張弁の開度を調整する制御を実行することができる。
なお、圧力センサを室内機の膨張弁の高圧側に設ける場合、複数台の室内機のすべてに圧力センサを設けるとコストが上昇するため、室外機とのヘッド差の最も大きな一台にのみ圧力センサを設けるのが好ましい。
【0013】
室外機は、液冷媒を過冷却する過冷却熱交換器を備え、減圧膨張弁は、過冷却熱交換器の下流側に設けられていることを特徴とすることができる。また、減圧膨張弁を過冷却熱交換器の上流側に設けることも可能である。
【0014】
本発明は、複数の室内機を具備したマルチ型空気調和装置の室外機において、複数の室内機に供給する冷媒を圧縮する圧縮機と、室外機から吐出する冷媒を減圧させる減圧膨張弁と、冷房運転時に、圧縮機の回転数に基づき減圧膨張弁の開度を調整する制御部と、を備えることを特徴とするマルチ型空気調和装置の室外機とすることもできる。
【0015】
また、本発明は、圧縮機を備えた室外機と、室内熱交換器を備えた複数の室内機と、を具備したマルチ型空気調和装置の制御方法とすることもできる。その場合、室外機の圧縮機の高圧側または室内機の膨張弁の高圧側における冷媒圧力を検出するステップと、検出した冷媒圧力が予め定めた基準値を超えたときに、減圧膨張弁の開度を調整するステップと、を備え、減圧膨張弁の開度を調整するステップは、圧縮機の回転数を検出し、検出された圧縮機の回転数に基づき、室外機から吐出する冷媒を減圧させるための減圧膨張弁の開度を調整する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷房運転時に、圧縮機の回転数に基づいて減圧膨張弁の開度を調整し、室外機から吐出する冷媒を減圧させることで、室内機の膨張弁の高圧側で冷媒圧力が過大となるのを防ぐことができる。このとき、圧縮機の回転数、すなわち圧縮機から吐出する冷媒の体積流量に基づいて減圧膨張弁の開度調整を行うようにした。これにより、圧縮機の回転数が高いとき、すなわち圧縮機から吐出する冷媒の体積流量が大きく、配管における圧力損失が大きいときには減圧膨張弁の開度を大きく設定し、逆に圧縮機の回転数が低く、配管における圧力損失が小さいときには、減圧膨張弁の開度を小さく設定することで、減圧膨張弁における減圧量を適切に調整できる。
これにより、室外機と室内機の設置高低差が大きい場合においても、冷媒回路内の冷媒圧力が過大となるのを防ぐことができ、従来にない高低差で室外機と室内機を設置することができる。また、圧縮機の回転数に基づき、予め定められた相関マップ(開度マップ)等により減圧膨張弁の開度をダイレクトに調整できるので、複雑な計算を行って制御する必要もなく、制御負荷も軽減でき、事前に、設置する建物に応じたセッティング作業も不要となり、設置が容易となる。
また、室外機の圧縮機高圧側、または室内機膨張弁高圧側の冷媒圧力が基準値を超えたときに減圧膨張弁の開度を調整するようにしたので、冷媒圧力が基準値を超えない限りは減圧膨張弁開度調整処理が介入することがなく、この点でも制御負荷を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態におけるマルチ型空気調和装置の概略構成を示す図である。
【図2】室外機の冷媒回路構成を示す図である。
【図3】減圧膨張弁開度調整処理の全体の流れを示す図である。
【図4】減圧膨張弁開度調整処理に用いる開度マップの例であり、圧縮機駆動周波数と減圧膨張弁開度の関係を示すものである。
【図5】圧縮機の駆動周波数と、冷媒高圧側圧力、圧力損失、液ヘッド負荷圧力、室内膨張弁直前圧力との関係を示す図である。
【図6】本実施形態におけるモリエル線図である。
【図7】従来の構成におけるモリエル線図である。
【図8】本発明に係るマルチ型空気調和装置における室外機の冷媒回路構成の他の例を示す図である。
【図9】図8の構成におけるモリエル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施形態におけるマルチ型空気調和装置の構成を示すものである。
図1に示すように、マルチ型空気調和装置は、建物100の主に屋上に設置される一台の室外機10に対し、建物100内の各階に設置される複数台の室内機20A、20B、…が接続されることで構成されている。
室外機10と各室内機20A、20B、…は、冷媒を送る冷媒配管と、制御信号等を伝達する電気配線とを含む渡り配管30によって互いに接続されている。
【0019】
室内機20A、20B、…は、それぞれ、室内熱交換器21と、室内膨張弁22と、コンピュータから構成されるサブコントローラと、室温センサ(図示無し)と、を備える。サブコントローラでは、室内機20A、20B、…が設置された室内の温度を室温センサで検出し、検出された室内の温度が、ユーザによって設定された目標温度に近づくよう、室内膨張弁22の開度を制御し、室内熱交換器21における熱交換量を調整する。
【0020】
図2に示すように、室外機10は、レシーバ11、室外膨張弁12、室外熱交換器13、四方弁14、アキュムレータ15、圧縮機16で主に構成されている。圧縮機16の下流であって、四方弁14との間の配管には、圧縮機16によって昇圧された冷媒の高圧側圧力を検出する圧力センサ17が設けられる。
また、室外機10は、図示しないコンピュータで構成されるメインコントローラ(制御部)が、外気温センサや、各室内機20A、20B、…から送信されてくる電気的情報に基づいて、圧縮機16の回転数、および室外膨張弁12の開度等を制御する。なお、メインコントローラは、暖房と冷房の切り替えを、四方弁14にて行う。ここで、レシーバ11、室外膨張弁12、室外熱交換器13、四方弁14、アキュムレータ15、圧縮機16、自体は、従来よく知られた公知要素なので、構成、機能の説明を省略する。
【0021】
さて、本実施の形態においては、室外機10には、レシーバ11を経た冷媒に過冷却を付与する過冷却熱交換器35が備えられている。過冷却熱交換器35は、内管35aと外管35bとを備えた二重管構造である。内管35aには、レシーバ11の出口において液冷媒の一部が分流され、膨張弁35cで減圧されて送り込まれる。この、減圧された冷媒を内管35a内で蒸発させることにより、外管35b側を流れる冷媒を冷却して過冷却を付与する。過冷却熱交換器35の外管35bで過冷却された冷媒が室内機20A、20B、…へと送給され、内管35a内で蒸発した冷媒はアキュムレータ15に送り込まれる。
【0022】
さらに、室外機10には、室外熱交換器13、レシーバ11を経た凝縮冷媒を減圧する減圧膨張弁40が設けられている。この減圧膨張弁40は、逆止弁41と並設され、冷房運転時のみ減圧膨張弁40に冷媒を通すようになっている。なお、本実施形態においては、減圧膨張弁40は、冷房運転時において過冷却熱交換器35よりも下流側となる。
【0023】
この減圧膨張弁40は、室外機10のメインコントローラにより、その開度が制御される。
以下、メインコントローラによる減圧膨張弁の開度制御内容について図3を用いて説明する。なお、メインコントローラは、予めメモリ等の記憶部に記憶されたコンピュータプログラムに基づき、CPU等の処理部が所定の処理を記憶部と共働して行うことで、以下に示す減圧膨張弁の開度制御を自動的に実行する。
【0024】
メインコントローラにおける減圧膨張弁40の開度制御は、冷房運転時のみ行われる。このため、図3に示すように、メインコントローラにおいて、冷房運転を開始すると(ステップS101)、メインコントローラは、予め定めた一定時間ごとに、圧力センサ17から出力される、圧縮機16によって昇圧された冷媒の高圧側圧力を検出する(ステップS102)。
【0025】
検出された冷媒圧力が、予め定められたしきい値(基準値)、例えば3.0MPaを超えているか否かを判定する(ステップS103)。その結果、しきい値を超えていない場合は、ステップS102に戻り、処理を繰り返す。一方、検出された冷媒圧力が、予め定められたしきい値を超えていた場合、減圧膨張弁40の開度調整を、後に詳述するようにして行う(ステップS104)。
【0026】
減圧膨張弁の開度調整後、冷房運転が継続されていれば、ステップS102に戻り、冷房運転が継続されていなければ、一連の処理を終了する(ステップS105)。
【0027】
ここで、減圧膨張弁40の開度調整処理について詳述する。
減圧膨張弁40の開度調整処理は、例えば図4に示すような開度マップに基づいて行う。
メインコントローラは、室外機10の運転のため、圧縮機16の駆動周波数(回転数)を認識している。また、メインコントローラは、減圧膨張弁40の開度も認識しているものとする。
また、メインコントローラには、図4に示すように、圧縮機16の駆動周波数と、減圧膨張弁40の開度とを予め関連付けた開度マップの情報が記憶されている。
【0028】
メインコントローラでは、ステップS104の減圧膨張弁40の開度調整処理に移行すると、減圧膨張弁40の開度を、開度マップの情報に基づき、その時点での圧縮機16の駆動周波数に対応した開度に調整する。
【0029】
このとき、減圧膨張弁40の開度は、圧縮機16の駆動周波数に対し、図4中、符号(イ)で示す線のように、正比例関係とし、圧縮機16の駆動周波数が増減すると、減圧膨張弁40の開度も連続的に増減する構成とすることもできるが、これでは、圧縮機16の駆動周波数の変化に連動して、減圧膨張弁40の開閉動作が頻繁に行われてしまう。そこで、図4中、符号(ロ)に示すように、減圧膨張弁40の開度を、圧縮機16の駆動周波数に対し、階段状に設定した開度マップを採用するのが好ましい。すなわち、圧縮機16の駆動周波数の範囲を、例えば周波数F0〜F1、F1〜F2、F2〜F3、…といった具合に複数に区分し、それぞれの区分においては、減圧膨張弁40の開度W1、W2、…を一定として関連付ける。これにより、減圧膨張弁40の開度は、圧縮機16の駆動周波数に応じて、複数段階に設定される。
また、圧縮機16の駆動周波数が、減圧膨張弁40の開度が他の段階に切り替わる周波数の前後にある場合、圧縮機16の駆動周波数の変化に応じて減圧膨張弁40の開度が度々切り替わり、いわゆるハンチング現象を起こしてしまうことがある。このため、図4中、符号(ロ)、(ハ)に示すように、減圧膨張弁40の開度を大きくしていくときと、小さくしていくときとで、減圧膨張弁40の開度が切り替わる圧縮機16の駆動周波数を互いに異ならせる、いわゆるヒステリシス制御を採用するのが好ましい。
【0030】
さてここで、図4の開度マップにおいては、圧縮機16の駆動周波数が大きいときには、減圧膨張弁40の開度を大きくし、圧縮機16の駆動周波数が小さいときには、減圧膨張弁40の開度を小さくするマップ構成とされている。
これは、本発明においては、圧縮機16から吐出し、室内膨張弁22に送り込まれる冷媒の圧力を減圧膨張弁40で減圧するわけであるが、圧縮機16から吐出し、室内膨張弁22に送り込まれる冷媒の圧力は、これ以外に、渡り配管30における冷媒の圧力損失も影響する。このため、この渡り配管30における圧力損失を考慮し、減圧膨張弁40の開度マップを設定する。
図5(a)に示すように、圧縮機16の駆動周波数が大きくなると、圧縮機の高圧側の冷媒圧力が高まる。また、図5(b)に示すように、渡り配管30における圧力損失は、圧縮機16の駆動周波数が大きくなると低くなる(絶対値としては大きくなる)。一方、図5(c)に示すように、室外機10と室内機20A、20B、…との間での高低差による液ヘッド負荷圧力は、大きな密度変化が無い限り圧縮機16の駆動周波数に関わらずほぼ一定である。したがって、これらを総合すると、室内膨張弁22の直前における冷媒圧力は、図5(d)に示すように、圧縮機16の駆動周波数が大きくなると高まる。
すなわち、圧縮機16の駆動周波数が大きい場合には、圧縮機16から吐出する冷媒流量(体積流量)が大きく、圧縮機の高圧側の冷媒圧力も高まる。しかし、渡り配管30における圧力損失が大きいためにそれ自身で減圧できること、また減圧膨張弁40が抵抗となって能力不足となることを防止するため、減圧膨張弁40の開度を大きくすることで、減圧膨張弁40における減圧の度合いを少なくする。一方、圧縮機16の駆動周波数が小さい場合には、圧縮機16から吐出する冷媒流量が小さく、渡り配管30における圧力損失が小さいので、減圧膨張弁40の開度を小さくして、減圧膨張弁40における減圧の度合いを多くする。
【0031】
さて、上記のごとくして、減圧膨張弁40により室外機10から送り出す冷媒の圧力を低減することができる。図6、図7は、本実施形態に示す構成と、従来の減圧膨張弁40を備えない構成とを比較するためのモリエル線図である。
図7に示すように、従来の構成においては、室外機出口X1から室内機入り口X2の間の渡り配管において、室外機と室内機のヘッド差により冷媒圧力が上昇している。これにより、室内機側の高圧側において、冷媒圧力が過度に上昇してしまう可能性がある。
一方、図6に示すように、本実施形態に示す構成によれば、減圧膨張弁40(図6中符号X3の位置)により室外機10から送り出す冷媒の圧力を低減することができる。これにより、室外機出口X1から室内機入口X2の間の渡り配管において、室外機と室内機のヘッド差により冷媒圧力が上昇しても、室内機入口側において、冷媒圧力が過度に上昇してしまうのを防ぐことができる。
【0032】
このようにして、減圧膨張弁40の開度を調整することで、室内機20A、20B、…に送給する冷媒圧力を下げることができる。これにより、室内機20A、20B、…において、室内膨張弁22に過大な冷媒圧力が作用するのを防ぐことができる。その結果、室内膨張弁22の損傷を防ぐのはもちろんのこと、室内膨張弁22の前後の差圧を抑制することができる。
また、圧力センサ17で検出した冷媒圧力、圧縮機16の駆動周波数に基づいて減圧膨張弁40の開度制御を行うため、この開度調整を行うための設定作業を、このマルチ型空気調和装置を設置する建物100ごとに行う必要が無く、設置が容易となる。
さらに、減圧膨張弁40の開度制御は、冷房運転時において、室外機10における高圧側の冷媒圧力が高い場合にのみ行われる。したがって、不必要に減圧膨張弁40の開度制御が介入することなく、室外温度が高く、室内機20A、20B、…の多くで冷房運転を強度に行っているような場合等、高負荷な時のみ開度制御が行われ、その制御負荷を抑えることができる。
加えて、減圧膨張弁40の開度制御は、その時点での圧縮機16の駆動周波数、すなわち冷媒の体積流量に基づいて減圧膨張弁40の開度が決定される。これにより、運転状態に応じ、冷媒の体積流量が大きく、渡り配管30での圧力損失が多い場合には、減圧膨張弁40における減圧を抑え、冷媒の体積流量が小さく、渡り配管30での圧力損失が少ない場合には、減圧膨張弁40における減圧を増大させ、圧縮機16から室内膨張弁22までの冷媒回路トータルにおいて、冷媒の減圧量を調整することができる。これにより、運転状態に関わらず、常に冷媒圧力を適度に抑え、室内膨張弁22に過大な冷媒圧力が作用するのを防ぐことができる。
そして、これらにより、従来以上にヘッド差の大きい、すなわち室外機10と室内機20A、20B、…との高低差が大きい場合であっても、本実施形態のマルチ型空気調和装置を設置することが可能になる。
【0033】
なお、上記実施の形態では、減圧膨張弁40を、過冷却熱交換器35の下流側に配置したが、これに限るものではない。例えば、図8に示すように、減圧膨張弁40を、過冷却熱交換器35の上流側に配置することも可能である。この場合、図9に示すように、室外機10の出口手前に設けられた減圧膨張弁40により冷媒の減圧がなされた後、室外機10の出口を経て、渡り配管30において液ヘッドが負荷されて冷媒圧力が増大する。これによっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
この場合、減圧膨張弁40で減圧してから過冷却熱交換器を冷媒が通過するため、室外機10の出口においては過冷却を大きく取れる。これにより、室内機20A、20B、…の膨張弁入り口で二相化しにくく、室内膨張弁22のチョークによる不冷や冷媒流動音の発生を抑えることができる。
【0034】
また、減圧膨張弁40の開度調整処理も、上記実施形態で示した構成に限られるものではない。例えば、減圧膨張弁40の開度調整を行う場合、減圧膨張弁40を一定開度だけ開閉することも可能である。例えば、減圧膨張弁40の開度が50段階に区切られている場合、減圧膨張弁40の開度制御を行う際には、例えば2段階分だけ減圧膨張弁40の開度を小さくするのである。この場合、減圧膨張弁40の開度を小さくすることで、室内膨張弁22の上流側における冷媒圧力が低下したか否かを確認するため、室内膨張弁22の直前に設けた冷媒圧力センサや、室外機10の圧力センサ17で、開度調整後の冷媒圧力をモニタリングし、そのモニタリング結果に基づいて、さらに減圧膨張弁40の開度を小さくすることを繰り返すか否かを判断する、いわゆるフィードバック制御を行うのが好ましい。
また、減圧膨張弁40の開度調整処理に用いる開度マップは、図4に示すものに限るものはないのは言うまでもなく、例えば、圧縮機16の駆動周波数に対して減圧膨張弁40の開度が二次曲線的に変化する等、適宜他の開度マップ構成とすることが可能である。
【0035】
さらに、上記実施形態では、室外機10の圧力センサ17で検出する圧縮機16の高圧側の冷媒圧力に基づき、減圧膨張弁40の開度調整処理に移行するようにしたが、これを、室内膨張弁22の直前に設けた圧力センサで検出する冷媒圧力に基づいて行う構成とすることも可能である。ただしこの場合、複数の室内機20A、20B、…のすべてに室内膨張弁22を設けるとコスト上昇に繋がる。そこで、複数の室内機20A、20B、…のうち、室外機10とのヘッド差がもっとも大きな一台のみに室内膨張弁22の直前に圧力センサを設け、この圧力センサで検出する冷媒圧力に基づいて減圧膨張弁40の開度調整処理に移行させる構成とすることも可能である。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
10…室外機、11…レシーバ、12…室外膨張弁、13…室外熱交換器、14…四方弁、15…アキュムレータ、16…圧縮機、17…圧力センサ、20A、20B…室内機、21…室内熱交器、22…室内膨張弁、30…渡り配管、35…過冷却熱交換器、40…減圧膨張弁、41…逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機を備えた室外機と、
室内熱交換器を備えた複数の室内機と、を具備したマルチ型空気調和装置であって、
前記室外機から吐出する冷媒を減圧させる減圧膨張弁と、
冷房運転時に、前記圧縮機の回転数に基づき、前記減圧膨張弁の開度を調整する制御部と、
を備えることを特徴とするマルチ型空気調和装置。
【請求項2】
前記室外機の前記圧縮機の高圧側または前記室内機の膨張弁の高圧側における冷媒圧力を検出する圧力センサをさらに備え、
前記制御部は、前記圧力センサで検出した前記冷媒圧力が予め定めた基準値を超えたときに、前記減圧膨張弁の開度を調整することを特徴とする請求項1に記載のマルチ型空気調和装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記圧縮機の回転数が高いときには、前記減圧膨張弁の開度を大きく設定し、前記圧縮機の回転数が低いときには、前記減圧膨張弁の開度を小さく設定することで、前記減圧膨張弁の開度を調整することを特徴とする請求項1または2に記載のマルチ型空気調和装置。
【請求項4】
前記室外機は、当該室外機から吐出する液冷媒を過冷却する過冷却熱交換器を備え、
前記減圧膨張弁は、前記過冷却熱交換器の下流側に設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマルチ型空気調和装置。
【請求項5】
室内熱交換器を備えた複数の室内機を具備したマルチ型空気調和装置の室外機であって、
複数の前記室内機に供給する冷媒を圧縮する圧縮機と、
前記室外機から吐出する冷媒を減圧させる減圧膨張弁と、
冷房運転時に、前記圧縮機の回転数に基づいて前記減圧膨張弁の開度を調整する制御部と、
を備えることを特徴とするマルチ型空気調和装置の室外機。
【請求項6】
冷媒を圧縮する圧縮機を備えた室外機と、
室内熱交換器を備えた複数の室内機と、を具備したマルチ型空気調和装置の制御方法であって、
前記室外機の前記圧縮機の高圧側または前記室内機の膨張弁の高圧側における冷媒圧力を検出するステップと、
検出した前記冷媒圧力が予め定めた基準値を超えたときに、前記減圧膨張弁の開度を調整するステップと、を備え、
前記減圧膨張弁の開度を調整するステップは、
前記圧縮機の回転数を検出し、検出された前記圧縮機の回転数に基づき、前記室外機から吐出する冷媒を減圧させるための前記減圧膨張弁の開度を調整することを特徴とするマルチ型空気調和装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−196985(P2010−196985A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42869(P2009−42869)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】