説明

マレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法及びそれを使用した繊維処理剤

【課題】 マレイン酸重合率が高く、かつ高分子量のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合樹脂の重合方法、該製造方法で得られた共重合樹脂を用いた繊維処理剤を提供すること。
【解決手段】 重無水マレイン酸と水を混合して、マレイン酸水溶液を得た後、該マレイン酸水溶液中に、アクリル酸の中和物及び重合触媒を滴下しながら重合することを特徴とするマレイン酸/アクリル酸共重合体の製造方法、該製造方法で得られたマレイン酸/アクリル酸共重合体を含有する繊維処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、繊維処理剤等に好適なマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体を与える製造方法、及び前記共重合体を用いた繊維処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マレイン酸系水溶性樹脂は繊維のサイジング剤、顔料分散剤等の分野に使用されている。該樹脂の製造方法としては、例えば、繊維のサイジング用途として有機溶剤を含まない水媒体中でのマレイン酸/アクリル酸系水溶性樹脂の製造方法として、マレイン酸(5〜50重量%)とアクリル酸(50〜90重量%)の混合水溶液中に過硫酸アンモニウム水溶液を添加して重合する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながらこの方法で製造された共重合樹脂はマレイン酸の重合率が低いことによる耐水性の不足や残存マレイン酸による環境負荷の増大が問題となる。これに対してマレイン酸重合率を向上する一般的手法として反応温度の上昇や重合触媒の増量が有効であると述べているが、これらの手法ではマレイン酸重合率の改善が十分でないばかりか、分子量の低下が著しい。
【0003】
また、顔料分散用途として水媒体中でのマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体塩の製造方法として、マレイン酸(1〜3モル)と(メタ)アクリル酸(1モル)の共重合反応において、無水マレイン酸を苛性ソーダで部分中和したマレイン酸モノ中和物水溶液中にアクリル酸、苛性ソーダ水溶液、及び重合触媒を滴下して重合する方法が記載され、マレイン酸の重合率が向上することが記述されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法で製造された共重合樹脂は分子量が1、000〜8、000と低くマレイン酸重合率も十分でないため、特に繊維処理剤(サイジング用途等)としては適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許公報第3635915号
【特許文献2】特公昭62−56890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的はマレイン酸重合率が高く、かつ高分子量のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合樹脂の重合方法、該製造方法で得られた共重合樹脂を用いた繊維処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記の課題を解決するため、鋭意検討を行なった結果、以下の知見を得た。
(1)マレイン酸は(メタ)アクリル酸に比べ重合速度が遅く、通常の共重合反応では(メタ)アクリル酸の単独重合が優先的に進むため、マレイン酸の重合率が低下する。
(2)アクリル酸の部分中和物は、未中和の(メタ)アクリル酸に比べ重合速度が遅くなる。
(3)マレイン酸水溶液中に、アクリル酸の部分中和物と触媒とを滴下しながら重合させると、相対的にマレイン酸重合率を向上し、未反応のマレイン酸量が減少する。
本発明は、このような知見に基づくものである。
【0007】
すなわち、本発明は、無水マレイン酸と水を混合して、マレイン酸水溶液を得た後、該マレイン酸水溶液中に、アクリル酸の中和物及び重合触媒を滴下しながら重合することを特徴とするマレイン酸/アクリル酸共重合体の製造方法、該製造方法で得られたマレイン酸/アクリル酸共重合体を含有する繊維処理剤を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、遊離マレイン酸含有率の低い高分子量のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体を得ることが可能であり、更に、該共重合体を用いたサイジング剤により、サイジング処理後の物性(耐水性)と、品質安定性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法は、無水マレイン酸と水を混合して、マレイン酸水溶液を得た後、該マレイン酸水溶液中に、(メタ)アクリル酸の部分中和物及び重合触媒を滴下しながら重合するものであり、(メタ)アクリル酸の部分中和物は、水溶液の形態で滴下する。
【0010】
本発明で用いるマレイン酸水溶液は、無水マレイン酸と水を混合し、攪拌することで得られる。この際のマレイン酸水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば5〜30重量%の範囲が好ましく、15〜25重量%であることが特に好ましい。
【0011】
本発明で用いる(メタ)アクリル酸の中和物とは、(メタ)アクリル酸の一部あるいは全部が、塩基性物質で中和されたものを表し、例えば、(メタ)アクリル酸に水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア水またはモノエタノールアミン等の有機アミン類で中和して得られる。また、前記アクリル酸の部分中和物も水溶液の形で滴下する。この際の(メタ)アクリル酸水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば20〜50重量%の範囲が好ましく、30〜40重量%であることが特に好ましい。
【0012】
(メタ)アクリル酸の中和率としては、50〜100モル%とすることが、(メタ)アクリル酸の重合活性を落として、(メタ)アクリル酸のみが重合してしまうことを防ぐことから好ましい。
なお、アクリル酸とメタクリル酸では、アクリル酸のほうがメタクリル酸に比べ共重合反応性が高く、本願発明の実施例に記載されたように、(メタ)アクリル酸の中和物をもちいてマレイン酸と共重合体を製造する際の効果は、メタクリル酸の中和物とマレイン酸との組み合わせでは、若干落ちる場合があるものの、メタクリル酸を未中和でマレイン酸と共重合した場合と比較して、マレイン酸の重合率は大幅に向上する。
【0013】
無水マレイン酸(MAH)と(メタ)アクリル酸(AA)の仕込みモル比(共重合比率)〔(MAH)/(AA)〕は、繊維との密着性が好ましいことから0.25以上が好ましく、重合反応性が低下しにくいことから1以下であることが好ましい。
【0014】
マレイン酸と(メタ)アクリル酸の反応容器への供給に関して、無水マレイン酸が(メタ)アクリル酸に比べて共重合性(つまり、反応性)が悪いため、マレイン酸水溶液として、あらかじめ反応開始時に反応容器に全量添加しておく。
【0015】
(メタ)アクリル酸は、予め前記の塩基性物質で中和した水溶液を用いる。この際のアクリル酸水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば20〜50重量%の範囲が好ましく、30〜40重量%であることが特に好ましい。
【0016】
本発明に用いる重合開始剤としては過酸化水素や過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウムのような遊離基型の無機過酸化物が好ましいが、また、過酸化ベンゾイルやターシャリーブチルハイドロパーオキサイドのような有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ系開始剤を用いても良い。これらは、10〜20重量%の水溶液の形で滴下する。
【0017】
重合開始剤の使用量は、無水マレイン酸と(メタ)アクリル酸の合計重量の0.5重量%以上であることが重合反応性低下しないことから好ましく、無水マレイン酸とアクリル酸の合計重量の10重量%以下であることが、高い分子量樹脂を得ることができることから好ましい。
【0018】
本発明におけるマレイン酸と(メタ)アクリル酸との反応は、反応容器中のマレイン酸水溶液に中和した(メタ)アクリル酸水溶液と触媒水溶液を滴下して、重合反応を進行させる。この際、反応温度は70〜95℃の範囲に制御する。70℃以下では重合反応性が低下する。また、中和アクリル酸水溶液と触媒水溶液の滴下時間は、90分〜360分が好ましく、特に、好ましくは120分〜240分である。反応の終了後、直ちに冷却してもよいし、所望の濃度に希釈してもよい。
【0019】
本発明で得られる共重合体は、特に限定なく、マレイン酸重合率が99%以上の樹脂を得ることができる。重量分子量5、000〜100、000の樹脂であれば、後述する繊維処理材として用いるのに好ましい。
【0020】
本発明の繊維処理剤は、前述の方法で得られたマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の水溶液を必須成分とするもので、必要に応じて、種々の添加剤を加えてもよい。
【0021】
例えば、ガラス繊維のサイジング剤を例にとれば、本発明のマレイン酸/アクリル酸共重合体にシランカップリング剤、特に、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等を配合したサイジング剤を用いると、ポリアミド系マトリックス樹脂とガラス繊維との結合力が増加し、ポリアミド系強化プラスチック成型品の機械的強度が向上する。上記した成分に加え、本発明の効果を損なわない範囲で、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の結束剤、潤滑剤、帯電防止剤等の成分を添加できる。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。なお、後述する実施例では、アクリル酸を例にとって、説明する。
【0023】
重量平均分子量の測定
なお、本発明における重量平均分子量は、水系GPCによる数平均分子量(ポリエチレングリコール換算)の測定値であり、島津製作所(株)社製LC−10Aを用い以下の条件で行った。
分離カラム:G3000PWXLおよびG6000PWXLを使用。
カラム温度:40℃。
移動層:0.1M硝酸ナトリウム:アセトニトリル=80:20。
流速:0.8ml/分。
試料濃度:0.8重量%。
試料注入量:300マイクロリットル。
【0024】
マレイン酸重合率の目視判定はキャストフィルムの透明性評価によって行なった。
(1)ガラスプレート上に試料を入れ40℃で24時間乾燥し0.2〜0.3mm厚のフィルムを形成。
(2)キャストフィルムの透明性を目視判定。
【0025】
キャストフィルムの吸水率測定
(1)前述の方法で作成したキャストフィルムを適量の水を入れたデシケーター中に入れ室温で静置する。
(2)24時間後、キャストフィルムを取り出して秤量し、重量増加率(吸水率)を測定。
【0026】
マレイン酸重合率の測定
試料を重水に溶解しHNMRにて残存マレイン酸を定量した。残存マレイン酸量から
次式(1)によりマレイン酸重合率(重量%)を計算した。
【0027】
【数1】

【0028】
実施例1
合成用フラスコにイオン交換水355g、無水マレイン酸66gを仕込み攪拌溶解し、マレイン酸水溶液を調製する。次いで、別容器にアクリル酸180g、イオン交換水200gを仕込み、攪拌しながら27重量%アンモニア水130gを加えてアクリル酸中和水溶液を調製する。前記合成用フラスコ内を80〜90℃に昇温し、窒素ガス置換を行う。次いで、前記合成用フラスコ内のマレイン酸水溶液中にアクリル酸中和物と10重量%過硫酸アンモニウム水溶液50gを3時間かけて滴下して重合を行う。冷却後、27重量%アンモニア水36gを加えてpH5.2、粘度140mPa・s、固形分28.1%、重量平均分子量(MW)65000の無色透明樹脂水溶液(1)を得た。
【0029】
次いで、前記の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0030】
実施例2
合成用フラスコにイオン交換水312g、無水マレイン酸98gを仕込み攪拌溶解し、マレイン酸水溶液を調製する。次いで、別容器にアクリル酸148g、イオン交換水200gを仕込み、攪拌しながら27重量%アンモニア水129gを加えてアクリル酸中和水溶液を調製する。前記合成用フラスコ内を80〜90℃に昇温し、窒素ガス置換を行う。次いで、前記合成用フラスコ内のマレイン酸水溶液中にアクリル酸中和物と10重量%過硫酸アンモニウム水溶液100gを3時間かけて滴下して重合を行う。冷却後、27重量%アンモニア水24gを加えてpH5.1、粘度52mPa・s、固形分28.6%、重量平均分子量(MW)25600の無色透明樹脂水溶液(1)を得た。次いで、前記の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0031】
実施例3
合成用フラスコにイオン交換水390g、無水マレイン酸123gを仕込み攪拌溶解し、マレイン酸水溶液を調製する。次いで、別容器にアクリル酸123g、イオン交換水100gを仕込み、攪拌しながら27重量%アンモニア水107gを加えてアクリル酸中和水溶液を調製する。前記合成用フラスコ内を80〜90℃に昇温し、窒素ガス置換を行う。次いで、前記合成用フラスコ内のマレイン酸水溶液中にアクリル酸中和物と17重量%過硫酸アンモニウム水溶液120gを3時間かけて滴下して重合を行う。冷却後、27重量%アンモニア水52gを加えてpH5.2、粘度21mPa・s、固形分31.1%、重量平均分子量(MW)13200の無色透明樹脂水溶液(1)を得た。次いで、前記の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0032】
比較例1
アクリル酸180g、無水マレイン酸66g、イオン交換水565gを仕込み攪拌溶解し、モノマー水溶液を調整する。次いで、イオン交換水180gを仕込んだ合成用フラスコに、前記モノマー水溶液とを10重量%過硫酸アンモニウム水溶液50gとを2.5時
間かけて滴下して重合を行う。ついで、冷却後、27重量%アンモニア水130gを加えて、pH5.5、粘度130mPa・s、固形分23.4重量%、重量平均分子量(MW)68、000の無色透明樹脂水溶液(R1)を得た。次いで、前記の評価を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1中の略号は、下記の物質を表す。
MAH:無水マレイン酸
APS:過硫酸アンモニウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無水マレイン酸(MAH)と水を混合して、マレイン酸水溶液を得た後、該マレイン酸水溶液中に、(メタ)アクリル酸(AA)の中和物及び重合開始剤を滴下しながら重合することを特徴とするマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法。
【請求項2】
無水マレイン酸(MAH)と(メタ)アクリル酸(AA)の仕込みモル比(共重合比率)〔(MAH)/(AA)〕が、0.25〜1である請求項1記載のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法。
【請求項3】
無水マレイン酸(MAH)と(メタ)アクリル酸(AA)の合計100重量部に対して、重合開始剤を0.5〜10重量部用いる請求項1記載のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記マレイン酸/アクリル酸共重合体の重量平均分子量(MW)が5、000〜10、0000である請求項1、2又は3記載のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法。
【請求項5】
マレイン酸重合率が、99重量%以上である請求項1記載の記載のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載の記載のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体の製造方法で得られた記載のマレイン酸/(メタ)アクリル酸共重合体を含有する繊維処理剤。

【公開番号】特開2011−116877(P2011−116877A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276419(P2009−276419)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】