説明

マンガン酸化物の製造方法

【課題】
本発明は、マンガン酸化物を製造する際に副生する廃水溶液を再生して環境に負荷を与えないマンガン酸化物の製造方法を提供する。さらには、廃水溶液からの再生物を原料として再利用するだけでなく、安定かつ効率的にマンガン酸化物を製造することができる方法を提供するものである。
【解決手段】
アルカリを含有するマンガン塩水溶液を電解することでマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する第一工程、該第一工程で回収された水溶液のpHが9未満、標準水素電極に対する酸化還元電位が0mV以上となるように該水溶液のpH及び酸化還元電位を調整した後に固相と水溶液とを分離して回収する第二工程、該第二工程で回収された水溶液を電気分解して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得る第三工程を含むことを特徴とするマンガン酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン酸化物の製造する方法に関する。特に、副生物の生成がなく、環境負荷が小さいマンガン酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池需要の増大に伴い、その正極材のリチウムマンガン系複合酸化物用原料であるマンガン酸化物の需要が増大している。
【0003】
リチウムマンガン系複合酸化物用原料のマンガン酸化物として、硫酸マンガン等のマンガンを含有した酸溶液の電解法により得られるマンガン酸化物が用いられている(例えば、特許文献1)。電解法によるマンガン酸化物の製造においては、生産効率を上げるためにアルカリを添加した上で電流密度を挙げて電解される。この場合、マンガン酸化物以外にアルカリと酸との塩を含む廃水溶液が副生物として多量に生成する。
【0004】
一方で、電解法による酸とアルカリの製造方法が知られている(特許文献2〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭和63−195287号公報
【特許文献2】特許3182216号公報
【特許文献3】特許3196382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまで、電解法によるマンガン酸化物の工業的な製造の際に副生する廃水溶液は、そのまま海に廃棄されていた。廃水溶液は主に硫酸ナトリウム(以下、「芒硝」とする)水溶液である場合が多く、その廃棄及び廃棄量の増加は環境に負荷を与えるものであった。
【0007】
一方、電解法により硫酸ナトリウムを硫酸と水酸化ナトリウムとに再生する技術、いわゆる芒硝電解が開示されている。しかしながら、マンガン酸化物の製造の際に副生する廃水溶液に芒硝電解を適用した場合、電解が不安定になるため連続的な電解が行なえない。そのため、芒硝電解は電解法による工業的なマンガン酸化物の製造には適用することはできなかった。
【0008】
本発明はこれらの課題を解決し、マンガン酸化物を製造する際に副生する廃水溶液を再生して環境に負荷を与えないマンガン酸化物の製造方法を提供する。さらには、廃水溶液からの再生物を原料として再利用するだけでなく、安定かつ効率的にマンガン酸化物を製造することができる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等はリチウムマンガン系複合酸化物の原料となるマンガン酸化物の製造方法について鋭意検討を重ねた。その結果、非常に簡便な工程を経ることによって、マンガン酸化物を製造した際の廃水溶液を有価な原料として再生できること、さらには、これをマンガン酸化物の原料として再利用できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明はアルカリを含有するマンガン塩水溶液を電解することでマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する第一工程、該第一工程で回収された水溶液のpHが9未満、標準水素電極に対する酸化還元電位が0mV以上となるように該水溶液のpH及び酸化還元電位を調整した後に固相と水溶液とを分離して回収する第二工程、該第二工程で回収された水溶液を電気分解して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得る第三工程を含むことを特徴とするマンガン酸化物の製造方法である。
【0011】
以下、本発明のマンガン酸化物の製造方法について説明する。
【0012】
本発明の製造方法は、アルカリを含有するマンガン塩水溶液を電解することでマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収することを第一工程とする。
【0013】
第一工程で使用するマンガン塩水溶液は、硫酸マンガン水溶液、塩化マンガン水溶液、又は硝酸マンガン水溶液のいずれか一種以上を例示することができる。このようなマンガン塩水溶液は、金属マンガン、又はマンガン鉱石を還元処理したマンガン還元鉱などを酸水溶液に溶解することで得られる。第一工程で使用するマンガン塩水溶液としては、硫酸マンガン水溶液であることが好ましい。
【0014】
第一工程においてマンガン酸化物が得られれば、マンガン塩水溶液中のマンガン濃度は特に制限はない。好ましいマンガン塩水溶液中のマンガン濃度は0.5mol%/L以上、より好ましくは0.5mol%以上5mol%以下を例示することができる。
【0015】
マンガン塩水溶液が含有するアルカリは、水酸化アルカリ金属水溶液又は水酸化アルカリ土類金属、又はアンモニアのいずれか一種以上を例示することができる。アルカリとしては、水酸化アルカリ金属であることが好ましく、水酸化ナトリウムであることがより好ましい。
【0016】
第一工程においてマンガン酸化物が得られれば、マンガン塩水溶液中のアルカリ濃度は特に制限はない。好ましいマンガン塩水溶液中のアルカリ濃度は1mol%/L以上、より好ましくは1mol%以上5mol%以下を例示することができる。
【0017】
第一工程では、アルカリを含むマンガン塩水溶液を電気分解することにより、マンガン酸化物を得る。アルカリを含むマンガン塩水溶液を電気分解することにより、マンガン酸化物が電極上に電解析出する。マンガン酸化物が電解析出した後、これと水溶液とを分離して回収する。
【0018】
本発明の製造方法の好ましい第一工程として、硫酸マンガン水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加して電解することでマンガン酸化物を析出させた後、マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する方法を挙げることができる。さらに、当該マンガン酸化物は電解二酸化マンガン(EMD)であることが好ましい。
【0019】
この際の電解条件として、電解温度が95〜98℃、電流密度が0.2〜1.5A/dm、電解期間が1時間〜10日間を例示することができる。
【0020】
本発明の製造方法は、該第一工程で回収された水溶液のpHが9未満、標準水素電極に対する酸化還元電位が0mV以上となるように該水溶液のpH及び酸化還元電位を調整した後に固相と水溶液とを分離して回収することを第二工程とする。このようにして得られた水溶液を第三工程で電気分解することで電解電圧が安定化する。
【0021】
水溶液のpHを上記の範囲とすることにより電解電圧が安定化する理由は必ずしも定かではない。しかしながら、pHを上記の範囲とすることにより水溶液中に僅かに溶存しているマンガンイオンによるイオン交換膜へのダメージが抑止されることが理由のひとつとして考えられる。
【0022】
第二工程では、第一工程で回収された水溶液のpHが9未満となるように該水溶液のpHを調整し、pHが10以上となるように調整することが好ましい。水溶液のpHをこの範囲にすることで、第一工程で得られた水溶液中に残存するマンガンイオンが固相として析出する。pHが9以上になると、一度析出したマンガンが再溶解して水溶液中に取り込まれる。第二工程における水溶液のpHは5以下とすることがより好ましく、4以下とすることが更に好ましい。
【0023】
pH調整方法は特に限定されないが、第一工程で回収された水溶液のpHに応じて酸水溶液又はアルカリ水溶液をpH調整剤として水溶液に添加することが例示できる。酸溶液としては、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸水溶液などが例示できる。アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液等の水酸化アルカリ金属水溶液又は水酸化アルカリ土類金属水溶液、又はアンモニア水溶液のいずれか一種以上を例示することができる。第二工程で使用するpH調整剤は、第三工程で回収される酸水溶液又はアルカリ水溶液をpH調整剤として使用することが好ましい。
【0024】
第二工程では、第一工程で回収された水溶液の標準水素電極(Standard Hydrogen Electrode;SHE)に対する酸化還元電位(Oxidation−Reduction Potential;以下、「ORP」とする)を0mV以上に調整することが好ましく、300mV以上に調整することがより好ましい。
【0025】
ORPは0mV以上であれば、その上限は特に限定されない。例えば、ORPを1500mV以下に調整することが好ましく、1200mV以下に調整することがより好ましい。
【0026】
ORPを調整する方法は特に限定されないが、空気又は酸素を水溶液中に混合する方法、酸化剤を水溶液中に混合する方法が例示できる。
【0027】
水溶液のpHが9未満であっても、ORPが0mV未満であると、第三工程における電解中の電解電圧が安定しなくなる。
【0028】
pHを調整後の水溶液若しくはpH及びOPR調整後の水溶液は、これをろ過等することによって、マンガンを含んだ固相と水溶液とを分離して回収することができる。マンガンを含んだ固相は回収し、これを第一工程で使用するマンガン塩水溶液の原料として再利用することができる。
【0029】
本発明の製造方法では、第二工程で回収された水溶液を電気分解して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得ることを第三工程とする。
【0030】
固相を分離した後の水溶液は電解する。これにより、水溶液を酸水溶液とアルカリ水溶液とに分離することができる。
【0031】
電解の方法は、水溶液中のアルカリ塩を酸とアルカリに分離できる方法であれば特に限定されない。本発明の製造方法に適用できる電解の方法としては、例えば、カチオン交換膜により陽極室と陰極室に分離された2室型電解による電解法や、カチオン交換膜とアニオン交換膜により陽極室、中間室、陰極室に分離された3室型電解による電解法が例示できる(図1)。
【0032】
本発明の製造方法における電解に使用する電極、カチオン交換膜、アニオン交換膜等は、特に制限はない。電極として、ガス発生型電極又はガス拡散型電極を例示することができ、電極の材質も通常用いられる電極を使用することができる。また、カチオン交換膜としてナフィオン膜や、アニオン交換膜としてセレミオン膜などを例示することができる。
【0033】
本発明の第三工程における電解温度は使用するカチオン交換膜又はアニオン交換膜の耐熱性により適宜調整することができる。炭化水素系のカチオン交換膜又はアニオン交換膜を使用した場合、電解温度として50℃未満を例示することができ、40℃以下を例示することができる。
【0034】
第三工程で得られる酸水溶液及びアルカリ水溶液は、任意の用途に使用することができる。
【0035】
本発明の製造方法では、第三工程で得られる酸水溶液又はアルカリ水溶液若しくはその両者を、第一工程又は第二工程若しくはその両者で利用することが好ましい。これにより、廃水溶液を回収するだけでなく、これらをマンガン酸化物の原料として再利用することができる。
【0036】
第三工程により得られるアルカリ水溶液は、第一工程のマンガン酸化物製造の際に添加するアルカリ水溶液や、第二工程におけるpH調整剤として使用できる。
【0037】
一方、第三工程により得られる酸水溶液は、第一工程で使用されるマンガン塩水溶液を調製する際の酸として使用できるだけでなく、第二工程におけるpH調整剤として使用することもできる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の製造方法は、マンガン酸化物を製造する際に副生する廃水溶液を再生して環境に負荷を与えないマンガン酸化物の製造方法とすることができる。さらには、廃水溶液からの再生物を原料として再利用できるだけでなく、安定かつ効率的にマンガン酸化物を製造することができる方法とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】電解槽の概要(A:2室式電解槽、B:3室式電解槽)
【図2】プロセスの概要
【実施例】
【0040】
次に、本発明を具体的な実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
実施例1
(第一工程)
1mol/Lの硫酸マンガン水溶液を電解液とし、当該電解液のpHが1となるように2mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液と添加しながら電解を行なった。なお、電流密度は1.2A/dm、電解温度は96℃とした。
【0042】
電解終了後に電極に析出した電解二酸化マンガンを取り出し、電解二酸化マンガンと芒硝水溶液とを得た。得られた芒硝水溶液の濃度は0.8mol/Lであった。
(第二工程)
第一工程で得られた芒硝水溶液に硫酸と空気を混合し、当該芒硝水溶液のpHを5、ORPを1000mVとした。pH及びORP調整後のマンガンイオンを含む芒硝水溶液をろ過分離し、マンガンを含む固相と芒硝水溶液とを得た。
【0043】
マンガンを含む固相は硫酸マンガンの原料として再利用した。
(第三工程)
第二工程で得られた芒硝水溶液を電気分解し、硫酸水溶液と水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0044】
電気分解は、陽極室と陰極室に分離された2室型電解槽を用いて電解で行なった。2室型電解槽において、陽極室と陰極室はカチオン交換膜(ナフィオン膜,デユポン社製)により分離した。陽極電極には白金電極を使用し、陰極電極にはニッケル電極使用した。
【0045】
陽極室には第二工程で得られた芒硝水溶液を添加し、陰極室へは水を添加しながら電解を行なった。陽極室から排出される硫酸濃度、及び陰極室から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度が、それぞれ2mol/L及び11mol/Lになるようにして芒硝水溶液及び水の流量を調整し、電解を行なった。また、電解の電流密度は20A/dmとし、電解温度は40℃とした。電解電圧は電解開始から10時間経過後も安定し、硫酸と水酸化ナトリウム水溶液を連続的に得ることができた。
【0046】
陽極室から得られた硫酸は硫酸マンガンの原料及び第二工程のpH調整に使用した。また、陰極室から得られた水酸化ナトリウムは第一工程及び第二工程のpH調整に利用した。
【0047】
実施例1におけるマンガン酸化物の製造フローを図2に示す。
【0048】
実施例2
陽極室、中間室及び陰極室からなる3室型電解槽を2室型電解槽の代わりに第三工程で使用したこと以外は、実施例1と同様にしてマンガン酸化物を得た。
【0049】
3室型電解槽において、陽極室と中間室はアニオン交換膜(セレミオン膜,旭硝子社製)で分離し、中間室と陰極室はカチオン交換膜(ナフィオン膜,デュポン社製)で分離した。陽極電極として白金陽極を使用し、陰極電極としてニッケル電極を使用した。
【0050】
中間室に第二工程で得られた芒硝水溶液を添加し、陽極室及び陰極室には水を流入しながら電解を行なった。陽極室から排出される硫酸濃度及び陰極室から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度が、それぞれ2mol/L及び11mol/Lになるように芒硝水溶液及び水の流量を調整して電解を行なった。また、電解の電流密度は20A/dmとした。電解電圧は電解開始から10時間経過後も安定し、硫酸と水酸化ナトリウム水溶液を連続的に得ることができた。
【0051】
陽極室から得られた硫酸は硫酸マンガンの原料及び第二工程のpH調整に使用した。また、陰極室から得られた水酸化ナトリウムは第一工程及び第二工程のpH調整に利用した。
【0052】
比較例1
第二工程において、第一工程で得られたマンガンイオンを含む芒硝水溶液に硫酸混合し、マンガンイオンを含む当該芒硝水溶液のpHを5とし、なおかつ、ORPを−100mVとした以外は実施例1と同様にしてマンガン酸化物を得た。
【0053】
第一工程からマンガン酸化物は得られた。しかしながら、第三工程において電解電圧は、電解時間が経過するに従って上昇し、電解開始から10時間経過したときに電解電圧が1V上昇したため、電解を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、リチウム二次電池の正極材料として用いられるリチウムマンガン複合酸化物の原料であるマンガン酸化物の製造に使用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:原料水溶液
2:水
3:酸水溶液
4:アルカリ水溶液
5:陽極
6:陰極
7:カチオン交換膜
8:アニオン交換膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリを含有するマンガン塩水溶液を電解することでマンガン酸化物を得、該マンガン酸化物と水溶液とを分離して回収する第一工程、該第一工程で回収された水溶液のpHが9未満、標準水素電極に対する酸化還元電位が0mV以上となるように該水溶液のpH及び酸化還元電位を調整した後に固相と水溶液とを分離して回収する第二工程、該第二工程で回収された水溶液を電気分解して酸水溶液とアルカリ水溶液とを得る第三工程を含むことを特徴とするマンガン酸化物の製造方法。
【請求項2】
第二工程において、第一工程で回収された水溶液の標準水素電極に対する酸化還元電位を300mV以上に調整することを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第三工程で得られる酸水溶液又はアルカリ水溶液若しくはその両者を、第一工程又は第二工程若しくはその両者で利用することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
マンガン塩が、硫酸マンガンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
アルカリが、水酸化アルカリ金属であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−7074(P2013−7074A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139122(P2011−139122)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】