説明

マンガン酸化物及びその製造方法

【課題】
二次電池の充放電サイクル特性に優れたマンガン酸リチウムを得るためのマンガン酸化物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
電解二酸化マンガンを還元処理した後、アンモニアで中和処理することを特徴とするマンガン酸化物の製造方法。マンガン原子価を2.7以上3.7以下に還元することが好ましい。また、本発明のマンガン酸化物はマンガン原子価が2.7以上3.7以下、マンガナイト(MnOOH)、γ−MnO及びハウスマンナイト(Mn)の群から選ばれるいずれか一種以上の結晶相を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池などの正極活物質に使用されるリチウム−マンガン複合酸化物のマンガン原料となるマンガン酸化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池(LIB)の正極活物質として、マンガンを主として含むスピネル構造マンガン酸リチウムが広く検討されており(非特許文献1)、その原料として各種のマンガン酸化物が利用されている(引用文献1〜4)。
【0003】
マンガン酸化物の中でも、緻密でエネルギー密度の高いマンガン酸リチウムが得られること、かつ、資源面、安全性、及び大量生産に向いていることから、電解二酸化マンガンが主に使用されているが、通常、電解二酸化マンガンは硫酸マンガン浴中から電解析出し、これを粉砕することで得られる。
【0004】
そのため、電解二酸化マンガンは不純物、特に硫酸根濃度が非常に高く(特許文献1)、さらに、粒度分布が広いため、これを原料として得られるマンガン酸リチウムは容量維持率が低かった。これを改善し、電解二酸化マンガンをマンガン酸リチウムに適したマンガン原料とするための検討がされている。
【0005】
例えば、100A/m以上の高電流密度、リン酸の添加、塩化マンガンの使用等の電解条件を制御した電解二酸化マンガンの製造方法が検討されている(特許文献5)。しかしながら、このような電解条件によって得られる電解二酸化マンガンは充填密度が低下するため、これを原料として得られるマンガン酸リチウムも充填密度が低く、エネルギー密度が著しく低かった。
【0006】
一方、電解析出後の電解二酸化マンガンをpH制御した酸で処理する方法が開示されている(特許文献6)。しかしながら、このような処理では電解二酸化マンガンの物性はほとんど改善せず、これを原料として得られるマンガン酸リチウムは十分な容量維持率を有していなかった。
【0007】
特許文献7及び8では、電解二酸化マンガンを加熱処理したマンガン酸化物を用いてリチウム化合物と混合する方法が開示されている。しかしながら、これらのマンガン酸化物は硫酸根濃度が低下するにも関わらず、これを原料として得られたマンガン酸リチウムは依然として容量維持率の低いものであった。
【0008】
また、ヒドラジンで還元された電解二酸化マンガンをリチウム塩で中和処理した過酸化度が1.50〜1.90のマンガン酸化物が開示されている(特許文献9)。しかしながら、これを原料として得られるマンガン酸リチウムは容量維持率が十分ではなかった。
【0009】
このように、これまで十分な容量維持率を有するマンガン酸リチウムが得られるマンガン酸化物はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平06−150914号公報
【特許文献2】特開2000−281347
【特許文献3】米国特許第2956860号公報
【特許文献4】特開2004−292264
【特許文献5】特開平05−21063号公報
【特許文献6】特開平10−294099号公報
【特許文献7】特開平11−157841号公報
【特許文献8】特開2008−156162
【特許文献9】特開平03−233869号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M. M. Thackeray et al., J. Electrochem. Soc., 139, 363 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
二次電池の正極活物質として使用される充放電サイクル特性に優れたマンガン酸リチウムの原料として好適なマンガン酸化物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、マンガン酸リチウムの原料として用いられるマンガン酸化物について鋭意検討した結果、従来の電解二酸化マンガン、及びこれを処理して得られたマンガン酸化物は硫酸根濃度は低減しているが、これに伴う極端な比表面積低下等の物性変化、および、広い粒子径分布など物性を有しているため、これを原料として得られるマンガン酸リチウムの結晶性が低くなり、充放電サイクル特性が低くなることを見出した。さらに、本発明者は電解二酸化マンガンを特定の状態まで還元した後にアンモニアで中和処理することで、これらの問題を解決し、充放電サイクル特性に優れたマンガン酸リチウムを得るために適したマンガン原料となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
以下、本発明の製造方法について説明する。
【0015】
本発明のマンガン酸化物の製造方法は、原料として電解二酸化マンガンを使用する。これにより、密度の高いマンガン酸化物が得られる。
【0016】
原料の電解二酸化マンガンは、BET比表面積が30m/g以上であることが好ましく、35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることが更に好ましい。BET比表面積が30m/g以上であると、還元処理、アンモニアによる中和処理による効果が得られやすい。一方、BET比表面積が大きいほど硫酸根の除去は容易になるが、60m/g以下、好ましくは50m/g以下であれば十分である。
【0017】
原料の電解二酸化マンガンは、硫酸根含有量がSO/Mnモル比率で0.8%以上3.0%以下であることが好ましく、0.8%以上2.5%以下であることが好ましい。電解二酸化マンガンのSO/Mnモル比率をこの範囲とすることで、還元処理およびアンモニアによる中和処理が効率よく行われやすい。
【0018】
なお、電解二酸化マンガンのSO/Mnモル比率は以下の式によって求めることができる。
【0019】
SO/Mnモル比率(%)=(MSO4/MMn)×100
SO4:電解二酸化マンガン中のSO(mol)
Mn:電解二酸化マンガン中のMn(mol)
【0020】
原料の電解二酸化マンガンは、マンガン原子価が3.9以上4.0以下であることが好ましい。マンガン原子価が3.9以上であれば、還元処理による硫酸根の除去効果が大きくなる。
【0021】
電解二酸化マンガンの平均粒子径は、目的とするマンガン酸化物と同程度であることが好ましく、例えば、平均粒子径が1μm以上35μm以下、好ましくは5μm以上25μm以下とすることが挙げられる。
【0022】
上記の性質を満たす電解二酸化マンガンとして、例えば、電解液中のMn2+/HSO重量比が1.0以上4.0以下の硫酸マンガン浴電解において、電流密度が0.6A/dmを超え1.1A/dm以下、好ましくは0.8A/dm以上0.9A/dm以下の電流密度の電解条件で得られた電解二酸化マンガンを粉砕し、洗浄したものを挙げることができる。
【0023】
なお、電解液中のMn2+/HSO重量比は以下の式により求まる値である。
【0024】
Mn=(C’F−Mn/0.90−C’H2SO4)×54.94
H2SO4=C’H2SO4×98.02
Mn2+/HSO重量比=CMn/CH2SO4
ここで、
C’F−Mn :補給液中のMn濃度(mol/L)
Mn :電解液中のMn濃度(g/L)
C’Mn :電解液中のMn濃度(mol/L)
H2SO4 :電解液中のHSO濃度(g/L)
C’H2SO4 :電解液中のHSO濃度(mol/L)
であり、係数54.94は電解二酸化マンガン(MnO)の質量数(g/mol)、98.02は硫酸(HSO)の質量数(g/mol)である。
【0025】
この場合において、電解期間を通じての電解液中の硫酸濃度は一定でもよいが、変化させてもよい。
【0026】
本発明の製造方法では、電解二酸化マンガンを還元処理する。
【0027】
還元処理は、マンガン原子価が2.7以上3.7以下となるまで行うことが好ましく、2.7以上3.6以下まで行うことがより好ましく、2.7以上3.5以下まで行うことが更に好ましい。マンガン原子価が3.7以下となるまで還元処理することで、硫酸根が十分に除去されやすくなる。一方、マンガン原子価を2.7以上まで還元処理することで、高い密度を有したマンガン酸化物が得られやすい。
【0028】
さらに、原料の電解二酸化マンガンが1μm以下の粒子を含んでいる場合、これらの粒子は還元処理の進行により溶解し、除去される。これにより、還元処理後のマンガン酸化物の粒子径分布がより均一になりやすい。なお、1μm以下の粒子が溶解によって、還元処理後のマンガン酸化物のBET比表面積は原料の電解二酸化マンガンよりも低くなりやすく、平均粒子径が大きくなりやすい。
【0029】
還元処理は、還元剤を使用して行うことが好ましい。還元剤としては金属イオンを含んでいないものが好ましく、ヒドラジン、ホルマリン、過酸化水素、シュウ酸化合物、蟻酸化合物であることが好ましく、ヒドラジン、ホルマリン、過酸化水素であることがより好ましい。さらに、沸点が高く、広い温度範囲で使用することができるため、ヒドラジンであることが特に好ましい。
【0030】
還元剤は水溶液として使用することが好ましい。水溶液とすることで還元剤の濃度を適宜調整できる。
【0031】
還元剤の使用量は、還元後のマンガン酸化物のマンガン原子価が上記の範囲になるようにすることが好ましく、例えば、ヒドラジン(N)を還元剤として使用した場合、使用する電解二酸化マンガン(MnO)1molに対してNを0.03mol以上0.3mol以下、好ましくは0.06mol以上0.3mol以下を例示することができる。
【0032】
還元処理は、還元剤を含む水溶液に電解二酸化マンガンを添加して還元する方法、電解二酸化マンガン分散液とし、これに還元剤を滴下して還元する方法など適宜使用することができるが、電解二酸化マンガンを水に分散させ、これに還元剤を滴下して還元することが好ましい。これにより、1μm以下の粒子の溶解が促進されやすい。
【0033】
還元処理は、反応温度が50℃以上90℃以下であることが好ましく、より好ましくは60℃以上90℃以下、更に好ましくは70℃以上90℃以下である。反応温度が50℃以上であると、還元反応が促進されやすくなる。一方、反応温度が90℃以下であれば十分に還元反応が進行しやすい。
【0034】
還元処理の時間は、上記のマンガン原子価が上記の範囲になるまで行えば制限はなく、1時間以上5時間以下を例示することができる。
【0035】
還元処理のpHは、使用する還元剤によって異なるが、2≦pH≦9であることが好ましい。必要に応じて金属イオンを含まないアルカリ化合物(アンモニアなど)を加えてpH調整してもよい。
【0036】
還元処理では、γ−MnOを主結晶相とする電解二酸化マンガンが還元される。そのため、得られるマンガン酸化物の結晶相はγ−MnO、マンガナイト(MnOOH)、ハウスマンナイト(Mn)のいずれか一種以上を有しやすく、これ以外にもγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)を含有しやすい。還元処理後のマンガン酸化物は、マンガナイト(MnOOH)及び/またはハウスマンナイト(Mn)とγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)を含むことがより好ましく、マンガナイト(MnOOH)とγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)を含むことが更に好ましい。一方、γ−MnOの熱分解生成物であるβ−MnOやMnは生成しない。
【0037】
本発明の方法では、還元処理をした後にアンモニアで中和処理をする。
【0038】
還元処理をした後にアンモニアで中和処理をすることで、より効率的な硫酸根除去ができる理由は不明だが、還元処理による粒子の変化に伴い硫酸根が脱離しやすい状態となり、アンモニアによる中和処理において存在するカウンターイオン(正電荷のイオン)の作用を受けやすくなり、還元処理をせずにアンモニアによる中和処理をする場合と比べて、硫酸根がより除去しやすくなるものと考えられる。そのため、本発明の製造方法では還元処理を行った後のマンガン酸化物に対してアンモニアによる中和処理を行うことが重要である。
【0039】
還元処理の後にアンモニアによる中和処理を行わずに得られたマンガン酸化物、例えば強アルカリの水酸化ナトリウムや水酸化カリウムで中和処理をしたもの、直接リチウム塩水溶液で処理又はリチウム化合物と混合したもの、或いは中和処理を全く施さないものでは、本発明の効果が得られない。その原因は明らかでないが、これらを焼成すると、リチウム化合物が副反応を起こしたり、リチウムとマンガンが不均一に反応する等によって、得られるマンガン酸リチウムの結晶性が低下しているのではないかと考えられる。
【0040】
還元処理およびアンモニアによる中和処理はバッチ式、連続式いずれの方法で行うこともできる。
【0041】
本発明の製造方法ではアンモニアによる中和処理後、洗浄および乾燥することが好ましい。洗浄および乾燥は、還元処理およびアンモニアによる中和処理で得られたマンガン酸化物の物性が大きく変化せず、かつ、不純物が混入しない条件であれば、特に制限はされないが、乾燥温度として100℃以下であることが好ましく、70℃以上90℃以下であることがより好ましい。乾燥温度が100℃以下であれば、本発明のマンガン酸化物の特性を損なわずに乾燥することができやすい。
【0042】
次に、本発明のマンガン酸化物について説明する。
【0043】
本発明は、マンガン原子価が2.7以上3.7以下、マンガナイト(MnOOH)、γ−MnO及びハウスマンナイト(Mn)の群から選ばれるいずれか一種以上の結晶相を有するマンガン酸化物である。
【0044】
本発明のマンガン酸化物は、マンガン価数が2.7以上3.7以下であり、2.7以上3.6以下であることが好ましく、2.7以上3.5以下であることが更に好ましい。本発明のマンガン酸化物のマンガン価数はこの範囲であり、マンガン価数が3.9〜4.0の二酸化マンガンとは異なる。
【0045】
本発明のマンガン酸化物は、マンガナイト(MnOOH)、γ−MnO及びハウスマンナイト(Mn)の群から選ばれるいずれか一種以上の結晶相を有し、γ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)を有していることがより好ましい。さらに、ハウスマンナイト(Mn)及び/又はマンガナイト(MnOOH)とγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)を有していることが好ましく、マンガナイト(MnOOH)およびγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)を有していることが更により好ましい。さらに、β−MnO、Mnのいずれも含んでいないことが好ましい。
【0046】
本発明のマンガン酸化物の硫酸根濃度は、SO/Mnモル比率で0.7%以下であることが好ましく、より好ましくは0.6%以下である。SO/Mnモル比率が0.7%以下のマンガン酸化物を原料とした場合、得られるマンガン酸リチウムの結晶子径が大きくなりやすく、充放電サイクル特性が向上しやすい。硫酸根濃度は低いほど好ましいが、SO/Mnモル比が0.1%以上であることが好ましく、より好ましくは0.15%以上であれば結晶性の高いマンガン酸リチウムを得ることができる。
【0047】
同様な理由により、本発明のマンガン酸化物のナトリウム濃度は、Na/Mnモル比率で0.1%以下であることが好ましく、0.08%以下であることがより好ましい。ナトリウム濃度は低いことが好ましいが、0.01%以上であることが好ましく、より好ましくは0.06%以上であれば結晶性の高いマンガン酸リチウムを得ることができる。
【0048】
なお、マンガン酸化物のSO/Mnモル比率およびNa/Mnモル比率は以下の式によって求めることができる。
【0049】
SO/Mnモル比率(%)=(MSO4/MMn)×100
Na/Mnモル比率(%)=(MNa/MMn)×100
SO4:マンガン酸化物中のSO(mol)
Na:マンガン酸化物中のNa(mol)
Mn:マンガン酸化物中のMn(mol)
【0050】
本発明のマンガン酸化物は、BET比表面積が25m/g以上50m/g以下であることが好ましく、25m/g以上40m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が25m/g以上であると、リチウム化合物との反応性が高くなりやすく、得られるマンガン酸リチウムの結晶性が高くなりやすい。一方、50m/g以下であればリチウム化合物と十分に反応しやすい。
【0051】
本発明のマンガン酸化物は、1μm以下の粒子が体積分率で5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましく、実質的に含んでいないことが更に好ましい。1μm以下の粒子が体積分率で5%以下であることでマンガン酸化物の粒子径がより均一になり、リチウム化合物との反応が均一に進みやすい。これにより、結晶子が大きく容量維持率に優れたマンガン酸リチウムが得られやすい。
【0052】
本発明のマンガン酸化物の平均粒子径は1μmを超えて35μm以下であることが好ましく、5μm以上30μm以下であることがより好ましく、5μm以上25μm以下であることが更に好ましい。平均粒子径が1μmを超えることでマンガン酸化物の二次凝集が抑制されやすく、このようなマンガン酸化物を原料として得られるマンガン酸リチウムの粒径が均一になり、粒径制御が容易になる。一方、粒径が35μm以下であれば、得られるマンガン酸リチウムの粒子径が正極活物質として使用する際に適した粒子径となる。
【0053】
本発明のマンガン酸化物のマンガン含有率は、58重量%以上67重量%以下であることが好ましく、60重量%を超えて67重量%以下であることがより好ましい。
【0054】
本発明のマンガン酸化物のタップ密度は1.5g/cm以上であることが好ましい。これにより、これを原料としたマンガン酸リチウムの密度も高くなる。
【0055】
本発明のマンガン酸化物及び本発明の製造方法で得られたマンガン酸化物は、リチウム化合物と混合、反応させることで、容量維持率に優れたマンガン酸リチウムを得ることができる。
【0056】
マンガン酸化物と反応させるリチウム化合物は特に制限はないが、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム等を例示することができる。
【0057】
また、本発明の特性を損なわない範囲において、マンガン酸化物とリチウム化合物と共に、ニッケル、コバルト、アルミニウム等の金属化合物を添加してもよい。
【0058】
マンガン酸化物とリチウム化合物との混合方法は、両者が均一に混合できれば制限はないが、マンガン酸化物とリチウム化合物を単純に乾式混合する方法や、マンガン酸化物とリチウム化合物と混合してスラリーとし、スプレー乾燥などにより造粒する方法が例示できる。本発明のマンガン酸化物は不純物が少なく、かつ、1μm以下の粒子を含まないため、単純な乾式混合であってもリチウム化合物と十分、かつ、均一に混合することができる。
【0059】
本発明のマンガン酸化物とリチウム化合物は、焼成することによりマンガン酸リチウムを製造する。焼成条件は一般的な条件を適用することができ、例えば、大気中、酸素中などの有酸素雰囲気で700℃以上1000℃以下の温度で焼成することが例示できる。
【0060】
得られるマンガン酸リチウムは、結晶子径が240Å以上であることが好ましく、特に260Å以上であることが好ましい。結晶子径が240Å以上であれば、正極活物質として優れた充放電サイクル特性を得ることができる。
【0061】
このように、本発明のマンガン酸化物はマンガン酸リチウム、特にスピネル構造を有するマンガン酸リチウムの原料に適している。
【0062】
本発明のマンガン酸化物を原料としたマンガン酸リチウムは、リチウムイオン二次電池などの二次電池用正極活物質として用いることができる。
【0063】
本発明のマンガン酸化物を原料としたマンガン酸リチウムを正極活物質として二次電池を構成する際は、一般に使用されている負極活物質、電解質、セパレーター等を使用することができ、例えば、負極活物質としては、金属リチウム並びにリチウムイオンまたはリチウムイオンを吸蔵放出可能な物質である、金属リチウム、リチウム/アルミニウム合金、リチウム/スズ合金、リチウム/鉛合金および電気化学的にリチウムイオンを挿入・脱離することができる炭素材料、電解質としては、カーボネート類、スルホラン類、ラクトン類、エーテル顆等の有機溶媒中にリチウム塩を溶解したものや、リチウムイオン導電性の固体電解質、セパレーターとしては、ポリエチレンまたポリプロピレン製の微細多孔膜等を用いることができる。
【発明の効果】
【0064】
本発明のマンガン酸化物を原料としたマンガン酸リチウムを正極活物質とすることで優れた充放電サイクル性能を有しており、後述の評価法による容量維持率が98.0%以上の高い充放電サイクル性能を有した二次電池を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】マンガン酸化物の粉末X線回折パターン(図中、上図:実施例1、中図:実施例2、下図:原料(電解二酸化マンガン))
【図2】実施例2のマンガン酸化物、及び原料(電解二酸化マンガン)の粒度分布曲線(図中、●:原料(電解二酸化マンガン)、▲:実施例2)
【図3】実施例1で使用した原料(電解二酸化マンガン)の粒子形態(図中スケールは5μm)
【図4】実施例2のマンガン酸化物の粒子形態(図中スケールは5μm)
【図5】マンガン酸リチウムの粉末X線回折パターン(図中、上図:実施例1、中図:実施例2、下図:比較例1)
【実施例】
【0066】
次に、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
(平均粒子径および粒子径分布)
マンガン酸化物およびマンガン酸リチウム0.5gを0.1N−アンモニア水50mL中に投入し、10秒間超音波照射を行い調製した分散スラリーを、マイクロトラックHRA(HONEWELL製)に所定量投入し、レーザー回折法で体積分布の測定を行ない、平均粒子径および粒子径分布を求めた。
【0068】
(結晶相の測定)
マンガン酸化物およびマンガン酸リチウムを、一般的なX線回折装置(マックサイエンス社製MXP−3)を使用して測定した。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は3秒、および測定範囲は2θとして5°から80°の範囲で測定した。
【0069】
(結晶子径の算出)
スピネル構造マンガン酸リチウム(空間群Fd−3m)の400回折ピーク(2θ=44°付近のピーク)の半値幅を測定し、Scherrer式によって結晶子径を算出した。
【0070】
(BET比表面積)
マンガン酸化物およびマンガン酸リチウムのBET比表面積は、BET1点法の窒素吸着により測定した。なお、BET比表面積の測定に使用した試料は、BET比表面積の測定に先立ち、150℃で40分間加熱して脱気処理を行った。
【0071】
(化学組成の測定)
原料の電解二酸化マンガン、マンガン酸化物およびマンガン酸リチウムの化学組成はICP発光分析を用いて測定した。
【0072】
(容量維持率の測定)
電池特性試験は以下に示した方法で行った。マンガン酸リチウムと導電剤のポリテトラフルオロエチレンとアセチレンブラックとの混合物(商品名:TAB−2)とを重量比で4:1の割合で混合し、1ton/cmの圧力でメッシュ(SUS316製)上にペレット状に成型した後、200℃で減圧乾燥し電池用正極を作製した。
【0073】
得られた電池用正極と、金属リチウム箔(厚さ0.2mm)からなる負極、およびエチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/dmの濃度で溶解した電解液を用いて電池を得た。
【0074】
得られた電池を用いて、定電流で電池電圧が4.2Vから3.0Vの間、室温下、1.0mA/cmで50回、充放電させた。10回目と50回目の放電容量(mAh/g)をそれぞれQ10、Q50とし、これらの比100×Q50/Q10(%)を容量維持率とした。
【0075】
実施例1
(電解二酸化マンガンの製造)
電流密度を0.83A/dm、電解温度を95℃、電解補給液をマンガン濃度47g/lの硫酸マンガン液とし、電解液中の硫酸濃度が20g/lとしとなるように10日間電解した。電解期間中の電解液中のMn2+/HSO重量比は2.1であった。電解析出した電解二酸化マンガンの塊をローラーミルで粉砕した後、洗浄して電解二酸化マンガンを得た。得られた電解二酸化マンガンの平均粒子径は25μmであった。得られた電解二酸化マンガンの結晶相を図1、粒子径分布を図2、粒子形態を図3に示した。
【0076】
得られた電解二酸化マンガンは、結晶相がγ−MnOの二酸化マンガン、化学組成がマンガン60重量%、硫酸根2重量%、SO/Mnモル比率が2.1%であった。また、BET比表面積は48m/g、1μm以下の粒子の体積分率は10%であった。
【0077】
(マンガン酸化物の製造)
電解二酸化マンガン10gに50mlの純水を添加し、二酸化マンガン分散液とした。これを攪拌して70℃で保持しながら、5重量%ヒドラジン水溶液を0.5g/minの滴下速度で滴下して、還元処理を行った。
【0078】
滴下量は、MnO+1/4N→MnOOH+1/4Nが完全に反応が進行した場合(MnO1molに対してN0.25mol)を還元率100%としたとき、還元率150%(MnO1molに対してN0.375mol)となるようにした。
【0079】
滴下終了後、さらに70℃で1時間攪拌、保持し、その後、ろ過分離してケーキを得た。分離後のケーキを50mlの0.1N−アンモニア水に浸漬し、室温で1時間、攪拌しアルカリ処理を行った。
【0080】
アルカリ処理の後、ろ過分離し、50mlの純水で3回リパルプ洗浄を行った。ろ過分離後、ケーキを空気中60℃で一夜間乾燥してマンガン酸化物を得た。結果を表1に示す。
【0081】
得られたマンガン酸化物のマンガン原子価は2.8価であり、結晶相はハウスマンナイト(Mn)を主結晶相とし、それ以外にγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)とその還元化合物を含んでいたが、β−MnOおよびMnは含まれていなかった。
【0082】
BET比表面積は35m/gと原料の電解二酸化マンガンよりも低下し、かつ、1μm以下の粒子は検出されなかった。
【0083】
なお、ヒドラジン還元後のろ液はpH5.8を示し、ろ液組成分析の結果、電解二酸化マンガンのろ液への溶出は認められなかった。
【0084】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られたマンガン酸化物と平均粒子径3.5μmの炭酸リチウムとを乾式混合し、(リチウム/マンガン)モル比=0.54となるように混合した。当該混合物100gをアルミナ坩堝に入れ、マッフル炉で空気中、850℃、1日間焼成してマンガン酸リチウムを得た。結果を表1に示す。
【0085】
得られたマンガン酸リチウムの結晶相はスピネル相単一相であった。さらに、X線回折測定において、全ての回折ピークはスピネル構造(空間群:Fd3−m)で指数付けされ、副生層に由来するピークは含まれていなかった。得られたマンガン酸リチウムは高い容量維持率であった。
【0086】
実施例2
(マンガン酸化物の製造)
実施例1と同様な方法で得られた電解二酸化マンガンを用い、ヒドラジン水溶液の滴下量を還元率65%とした以外は実施例1と同様な操作でマンガン酸化物を得た。
【0087】
得られたマンガン酸化物の結晶相を図1、粒子径分布を図2、粒子形態を図4に、結果を表1に示した。
【0088】
得られたマンガン酸化物のマンガン原子価は3.4であり、結晶相はマンガナイト(MnOOH)を主結晶相とし、それ以外にもγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)とその還元化合物を含んでいたが、β−MnOおよびMnは含まれていなかった。BET比表面積は29m/gであり、原料の電解二酸化マンガンよりも低かった。なお、1μm以下の粒子を含有していなかった。
【0089】
なお、ヒドラジン還元後のろ液はpH5.1であり、電解二酸化マンガンのろ液への溶出率は0.5%であった。
【0090】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られたマンガン酸化物を用いて、実施例1と同様な方法でマンガン酸リチウムを得た。結果を表1に示した。
【0091】
得られたマンガン酸リチウムの結晶相はスピネル相単一相であった。さらに、X線回折測定において、全ての回折ピークはスピネル構造(空間群:Fd3−m)で指数付けされ、副生層に由来するピークは含まれていなかった。
【0092】
比較例1
(マンガン酸化物の製造)
実施例1と同様な方法で得られた電解二酸化マンガンを使用し、電解二酸化マンガンの重量に対して5倍重量の0.1N−アンモニア水で攪拌、洗浄した後、ろ過、分離し、60℃で一夜間乾燥して、比較例1のマンガン酸化物とした。結果を表1に示す。
【0093】
得られたマンガン酸化物のマンガン原子価は4.0であり、また、硫酸根の除去が十分に進行せず、高いSO/Mnモル比を有していた。さらに、1μm以下の粒子を多く含んでいた。
【0094】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られたマンガン酸化物を用いて、実施例1と同様な方法でマンガン酸リチウムを得た。結果を表1に示す。
【0095】
得られたマンガン酸リチウムの結晶相はスピネル相単一相であった。さらに、X線回折測定において、全ての回折ピークはスピネル構造(空間群:Fd3−m)で指数付けされ、副生層に由来するピークは含まれていなかった。
【0096】
比較例2
(マンガン酸化物の製造)
実施例1と同様な方法で電解二酸化マンガンを得、0.1N−アンモニア水の代わりに0.1N−水酸化ナトリウム溶液を用いた以外は、実施例1と同様な方法でマンガン酸化物を得た。
【0097】
得られたマンガン酸化物粉体の結晶相は、マンガナイト(MnOOH)が主結晶相であり、それ以外にγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)とその還元化合物を含んでいたが、β−MnOおよびMnは含まれていなかった。
【0098】
ヒドラジン還元後のろ液はpH5.1を示し、電解二酸化マンガンのろ液への溶出率は0.5%であった。
【0099】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られたマンガン酸化物を用いて、実施例1と同様な方法でマンガン酸リチウムを得た。結果を表1に示す。
【0100】
得られたマンガン酸リチウムの結晶相はスピネル相単一相であった。さらに、X線回折測定において、全ての回折ピークはスピネル構造(空間群:Fd3−m)で指数付けされ、副生層に由来するピークは含まれていなかった。
【0101】
得られたマンガン酸リチウムの容量維持率は96.9%と低かった。
【0102】
比較例3
(マンガン酸化物の製造)
実施例1と同様な方法で電解二酸化マンガンを得、アンモニア水への浸漬および攪拌処理を行わなかった以外は実施例1と同様な方法でマンガン酸化物を得た。結果を表1に示す。アルカリ処理を行わない場合、硫酸根の除去が不十分であり、得られたマンガン酸化物の硫酸濃度は高かった。
【0103】
マンガン酸化物の結晶相は、マンガナイト(MnOOH)が主結晶相であり、それ以外にγ−MnOの還元相(γ−MnO2−x)とその還元化合物を含んでいたが、β−MnOおよびMnは含まれていなかった。
【0104】
なお、ヒドラジン還元後のろ液はpH5.1を示し、ろ液組成分析の結果、電解二酸化マンガンのろ液への溶出率は0.5%であった。
【0105】
(マンガン酸リチウムの製造)
得られたマンガン酸化物を用いて、実施例1と同様な方法でマンガン酸リチウムを得た。結果を表1に示す。
【0106】
得られたマンガン酸リチウムの結晶相はスピネル相単一相であった。さらに、X線回折測定において、全ての回折ピークはスピネル構造(空間群:Fd3−m)で指数付けされ、副生層に由来するピークは含まれていなかった。
【0107】
得られたマンガン酸リチウムの結晶子は小さく、容量維持率は97.3%と低かった。
【0108】
【表1】

【0109】
本発明のマンガン酸化物を原料として得られたマンガン酸リチウムを正極活物質として使用したリチウム二次電池の充放電サイクル特性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のマンガン酸化物を原料としてリチウム化合物と混合することで、高結晶性かつ微粉が少なく、充放電サイクル特性に優れたマンガン酸リチウムが得られる。これにより得られたマンガン酸リチウムを正極活物質とすることで、高い充放電サイクル特性を有するリチウムイオン二次電池が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解二酸化マンガンを還元処理した後、アンモニアで中和処理することを特徴とするマンガン酸化物の製造方法。
【請求項2】
マンガン原子価を2.7以上3.7以下に還元することを特徴とする請求項1に記載のマンガン酸化物の製造方法。
【請求項3】
還元処理をヒドラジン水溶液で行うことを特徴とする請求項1又2に記載のマンガン酸化物の製造方法。
【請求項4】
マンガン原子価が2.7以上3.7以下、マンガナイト(MnOOH)、γ−MnO及びハウスマンナイト(Mn)の群から選ばれるいずれか一種以上の結晶相を有するマンガン酸化物。
【請求項5】
SO/Mnモル比率が0.7%以下、Na/Mnモル比率が0.1%以下であることを特徴とする請求項4に記載のマンガン酸化物。
【請求項6】
1μm以下の粒子が体積分率で5%以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載のマンガン酸化物。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載のマンガン酸化物とリチウム化合物を混合し、熱処理することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項8】
電解二酸化マンガンを還元処理した後、アンモニアで中和処理、洗浄及び乾燥して得られたマンガン酸化物とリチウム化合物を混合、焼成することを特徴とするマンガン酸リチウムの製造方法。
【請求項9】
マンガン酸化物のマンガン原子価が2.7以上3.7以下に還元することを特徴とする請求項7又は8に記載のマンガン酸リチウム化合物の製造方法。
【請求項10】
還元処理をヒドラジン水溶液で行うことを特徴とする請求項8又は9に記載のマンガン酸リチウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−251862(P2011−251862A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125691(P2010−125691)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】