説明

マンコンベア点検装置

【課題】磨耗などによる経年劣化や振動などの影響を受けずに、踏段の反転を検出して周回数を正確に得ることのできるマンコンベア点検装置を提供する。
【解決手段】マンコンベアであるエスカレータ1の各踏段の中の少なくとも1つを点検踏段2aとし、その点検踏段2aの反転を検出可能な方向に角速度センサ35を設ける。エスカレータ点検装置30には、この角速度センサ25の出力信号からエスカレータ1の運転方向を検出するための第1の設定値と点検踏段の反転を検出するための第2の設定値を記憶した記憶部36、一定時間内における角速度センサ35の出力信号と第1の設定値とが一致する回数からエスカレータ1の運転方向を検出すると共に、その運転方向に応じて第2の設定値の+値または−値に設定し、角速度センサ35の出力信号との比較から点検踏段2aが反転したことを検出して反転検出信号を出力する反転検出部37とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などのマンコンベアの状態を点検するためのマンコンベア点検装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マンコンベアの点検、整備、修理に関する保守を効率化するため、センサで計測した情報を情報収集装置で収集し、その収集した情報を無線ネットワークを介して遠隔地の監視センタに送信するようにした遠隔監視システムが考えられている。
【0003】
このような遠隔監視システムにおいて、マンコンベアの状態を点検する場合にはマンコンベアの踏段が何度周回したかを検出する必要がある。ここで、踏段の周回数をカウントする方法としては、有接点のセンサを用いてカウントする方法が一般的である。また、マンコンベアの踏段に加速度センサを設け、踏段の転動による重力加速度の変化から反転してことを検出して周回数をカウントする方法も考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4020204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、有接点センサの場合、接点部分が磨耗するため、定期的に交換を行う必要があり、メンテナンスコストが高くなる。また、加速度センサの場合、人の乗降による振動等の縦揺れに弱く、誤検知する可能性がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、磨耗などによる経年劣化や振動などの影響を受けずに、踏段の反転を検出して周回数を正確に得ることのできるマンコンベア点検装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係るマンコンベア点検装置は、複数の踏段が周回移動して乗客を運ぶマンコンベアの状態を点検するためのマンコンベア点検装置において、上記各踏段の中の少なくとも1つを点検踏段とし、その点検踏段の反転を検出可能な方向に設けられ、上記点検踏段の周回移動に伴う角速度の変化に応じた信号を出力する角速度センサと、この角速度センサの出力信号から上記マンコンベアの移動方向を検出するための第1の設定値と上記点検踏段の反転を検出するための第2の設定値を記憶した記憶手段と、一定時間内における上記角速度センサの出力信号と上記記憶手段に記憶された上記第1の設定値とが一致する回数から上記マンコンベアの運転方向を検出すると共に、その運転方向に応じて上記第2の設定値の+値または−値に設定し、上記角速度センサの出力信号との比較から上記点検踏段が反転したことを検出して反転検出信号を出力する反転検出手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1はエスカレータの全体の外観を示す図である。
【図2】図2は上記エスカレータの踏段の構成を示す図である。
【図3】図3は第1の実施形態に係るエスカレータ点検装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図4は同実施形態におけるアップ運転中のエスカレータを側面から見た場合の点検踏段の動きを模式的に示した図である。
【図5】図5は同実施形態におけるアップ運転中の角速度センサの出力変化を示した図である。
【図6】図6は同実施形態におけるダウン運転中のエスカレータを側面から見た場合の点検踏段の動きを模式的に示した図である。
【図7】図7は同実施形態におけるダウン運転中の角速度センサの出力変化を示した図である。
【図8】図8は同実施形態におけるエスカレータ点検装置によるエスカレータの運転方向検出処理を示すフローチャートである。
【図9】図9は同実施形態におけるアップ運転中の角速度センサの出力変化と第2の設定値との関係を示す図である。
【図10】図10は同実施形態におけるアップ運転中の角速度センサの出力変化と第2の設定値との関係を示す図である。
【図11】図11は同実施形態におけるエスカレータ点検装置による点検踏段の反転検出処理を示すフローチャートである。
【図12】図12は第2の実施形態に係るエスカレータ点検装置の構成を示すブロック図である。
【図13】図13は同実施形態における低速アップ運転中の角速度センサの出力変化を示した図である。
【図14】図14は同実施形態における高速アップ運転中の角速度センサの出力変化を示した図である。
【図15】図15は同実施形態におけるエスカレータ点検装置による基準時間演算処理を示すフローチャートである。
【図16】図16は第3の実施形態に係るエスカレータ点検装置の構成を示すブロック図である。
【図17】図17は同実施形態におけるエスカレータ点検装置による2つの角速度センサを用いた点検踏段の反転検出処理の動作を示すフローチャートである。
【図18】図18は第4の実施形態に係るエスカレータ点検装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、以下ではマンコンベアの一つであるエスカレータを例にして説明する。各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1はエスカレータの全体の外観を示す図である。図中の1はエスカレータ全体を示す。
【0011】
エスカレータ1は、複数の踏段(ステップ)2をチェーン(図示せず)を介して無端状に連結してなる帯状の踏段列3を備える。この踏段列3が建屋の下階の乗降口4と上階の乗降口5との間に掛け渡され、駆動源(図示せず)による動力で乗降口4,5間を周回移動する。
【0012】
踏段列3の両側部には一対の欄干6が設けられ、その欄干6の縁部に踏段列3と同期して周回移動する手すりベルト7が装着されている。また、欄干6の下部には、例えば鋼板からなるスカートガードパネル8が配置されている。このスカートガードパネル8に各踏段2の両側面が近接して対向しており、各踏段2がスカートガードパネル8の長手方向に沿って移動する。
【0013】
図2はエスカレータ1の踏段2の構成を示す図である。
【0014】
踏段列3を構成する各踏段2は、フレーム10と、このフレーム10の上に水平に取り付けられた踏板(踏面クリート)11と、フレーム10の後面に取り付けられたライザ12とを備える。踏板11の上に乗客が乗り込むことにより、各踏段2の移動と共に乗客が搬送される。フレーム10の左右両側の前部及び後部には、移動用の車輪13,14が回転自在に取り付けられている。
【0015】
エスカレータ1のアップ運転では、各踏段2が下階の乗降口4から上階の乗降口5に向って移動する。その際、乗降口5で各踏段2が順次反転しながら図示せぬ上部機械室に入り込み、逆方向に移動して図示せぬ下部機械室で反転して乗降口4から再び出現するといった動作を繰り返す。
【0016】
エスカレータ1のダウン運転では、各踏段2が上階の乗降口5から下階の乗降口4に向って移動する。その際、乗降口4で各踏段2が順次反転しながら図示せぬ下部機械室に入り込み、逆方向に移動して図示せぬ上部機械室で反転して乗降口5から再び出現するといった動作を繰り返す。
【0017】
このような構成のエスカレータ1において、各踏段2の中の少なくとも1つを点検踏段(以下、点検踏段2aと称す)として選び、その点検踏段2aの踏板11の裏側にエスカレータ点検装置30を設置しておく。このエスカレータ点検装置30は、無線機能付きのセンサ端末であり、エスカレータ1の点検に必要な各種情報を外部に伝送する機能を有する。
【0018】
なお、図2の状態つまり点検踏段2aの踏板11が水平状態にある場合に、エスカレータ点検装置30から見て垂直方向を「踏板方向」と呼び、水平方向を「ライザ方向」と呼ぶものとする。
【0019】
以下に、エスカレータ点検装置30の構成について詳しく説明する。
【0020】
図3は第1の実施形態に係るエスカレータ点検装置30の構成を示すブロック図である。
【0021】
エスカレータ点検装置30は、エスカレータ1の各踏段2の中の点検踏段2aに設置されている。このエスカレータ点検装置30は、点検センサ31と、一次診断部32と、無線通信部33と、外部アンテナ34と、角速度センサ35と、記憶部36と、反転検出部37とを備える。
【0022】
点検センサ31は、エスカレータ1の点検に必要なデータを計測する。この点検センサ31としては、例えば移動中に発生する音を計測するための音センサ(マイク)や、振動を計測するための振動センサなどがある。
【0023】
一次診断部32は、点検センサ31によって計測されたデータに基づいてエスカレータ1の状態を診断する。無線通信部33は、一次診断部32の診断結果や反転検出部37の検出結果を外部アンテナ34を介して外部に無線送信する。ここで言う外部とは、エスカレータ1の状態を無線ネットワークを介して遠隔的に監視している図示せぬ監視センタである。
【0024】
角速度センサ35は、エスカレータ1の点検踏段2aの裏に点検踏段2aの反転を検出可能な方向に設けられており、点検踏段2aが反転したときの角速度の変化に応じた電圧値を計測データとして反転検出部37に出力する。この場合、エスカレータ1の運転方向(点検踏段2aの移動方向)に応じて正または負の電圧値が出力される。
【0025】
記憶部36は、点検踏段2aの反転検出に必要な各種設定値を記憶する。反転検出部37は、角速度センサ35の出力信号(電圧値)と第1の設定値(電圧値)に基づいてエスカレータ1の運転方向を判断すると共に第2の設定値(電圧値)に基づいて点検踏段2aの反転を検出する。なお、この反転検出部37は、図示せぬA/D変換器、CPU、メモリ等から構成される。
【0026】
次に、このエスカレータ点検装置30の動作について説明する。
【0027】
図4はアップ運転中のエスカレータ1を側面から見た場合の点検踏段2aの動きを模式的に示した図である。図中のU1〜U4は反転検出ポイントであり、このうちのU2とU3が点検踏段2aの反転位置に相当する。図5はアップ運転中の角速度センサ35の出力変化を示した図であり、反転検出ポイントU1〜U4で変化する角速度センサ35の出力信号の様子が示されている。なお、図5の横軸は時間、縦軸は電圧を表す。
【0028】
図6はダウン運転中のエスカレータ1を側面から見た場合の点検踏段2aの動きを模式的に示した図である。図中のD1〜D4は反転検出ポイントであり、このうちのD1とD4が点検踏段2aの反転位置に相当する。図7はダウン運転中の角速度センサ35の出力変化を示した図であり、反転検出ポイントD1〜D4で変化する角速度センサ35の出力信号の様子が示されている。なお、図7の横軸は時間、縦軸は電圧を表す。
【0029】
エスカレータ1がアップ運転しているとき、点検踏段2aは反転位置(U2,U3)で反転しながら図4の矢印の方向(図中の右回り)に周回移動する。この点検踏段2aの周回移動に伴い、エスカレータ点検装置30に内蔵された角速度センサ35から角速度の変化に応じた電圧値の信号が出力される。
【0030】
一方、ダウン運転時では、点検踏段2aの移動する方向が逆になり、反転位置(D1,D4)で反転しながら図6の矢印の方向(図中の左回り)に周回移動する。この点検踏段2aの周回移動に伴い、エスカレータ点検装置30に内蔵された角速度センサ35から角速度の変化に応じた電圧値の信号が出力される。
【0031】
図5、図7に示すように、角速度センサ35の出力変化から点検踏段2aの反転動作が分かる。しかし、エスカレータ1の運転方向(点検踏段2aの移動方向)によって出力信号の波形が違うので、まずは運転方向を検出する必要がある。
【0032】
ここで、点検踏段2aの反転動作に伴う角速度変化を利用してエスカレータ1の運転方向を検出する方法について説明する。
【0033】
図8はエスカレータ点検装置30によるエスカレータ1の運転方向検出処理を示すフローチャートである。
【0034】
エスカレータ1の点検踏段2aにエスカレータ点検装置30を設置して運転を開始し、一定時間の間、点検踏段2aの周回移動に伴う角速度センサ35の出力信号を監視する(ステップS1)。
【0035】
エスカレータ点検装置30の反転検出部37は、予め記憶部36に記憶された第1の設定値V1と角速度センサ35の出力信号が一致する回数をカウントする(ステップS2)。そして、反転検出部37は両者の値が一致する回数でエスカレータ1の運転方向を判断する(ステップS3)。
【0036】
例えば、図5、図7に示すように設定値V1を負の値に設定した場合、1周のアップ運転で角速度センサ35の出力信号(電圧値)と設定値V1が一致する回数は6回である。一方、ダウン運転の場合は角速度センサ35の出力信号(電圧値)と設定値V1が一致する回数は2回となる。なお、V1は反転検出ポイントU1〜U4,D1〜D4をそれぞれ検出可能な値に設定されている。
【0037】
エスカレータ1の運転方向が「アップ運転」の方向と判断された場合(ステップS4)、反転検出部37は第2の設定値V2を負の値である「V2−」に設定する(ステップS5)。一方、エスカレータ1の運転方向が「ダウン運転」の方向と判断された場合(ステップS6)、反転検出部37は第2の設定値V2を正の値である「V2+」に設定する(ステップS7)。
【0038】
図9はアップ運転中の角速度センサ35の出力変化と第2の設定値V2との関係を示す図、図10はアップ運転中の角速度センサ35の出力変化と第2の設定値V2との関係を示す図である。なお、V2は反転検出ポイントU2,U3,D1,D4を検出可能な値に設定されている。
【0039】
図11はエスカレータ点検装置30による点検踏段2aの反転検出処理を示すフローチャートである。
【0040】
エスカレータ1の運転中に点検踏段2aの周回移動に伴う角速度センサ35の出力信号を監視する(ステップS11)。エスカレータ点検装置30の反転検出部37は、角速度センサ35の出力信号と記憶部36に記憶された第1の設定値V1とを比較し、両者の値が一致するか否かを判断する(ステップS12)。
【0041】
両者の値が一致する場合(ステップS12のYes)、反転検出部37は予め設定された基準時間内に角速度センサ35の出力信号が第1の設定値V1と再度一致するか否かを判断する(ステップS13)。上記基準時間内に両者の値が再度一致した場合には(ステップS13のYes)、反転検出部37は点検踏段2aが反転を始める直前であると判断して、ステップS14に移行する。一方、ステップS12またはS13で両者の値が一致しない場合にはステップS11に戻る。
【0042】
続いて、反転検出部37は、角速度センサ35の出力信号と記憶部36に記憶された第2の設定値V2とを比較する(ステップS14)。この場合、エスカレータ1の運転方向に応じて第2の設定値V2の+値と−値を切り替える。すなわち、アップ運転であれば「V2−」、ダウン運転であれば「V2+」に切り替えるだけで、アップ運転とダウン運転の両方に第2の設定値V2を適用することができる。
【0043】
角速度センサ35の出力信号と第2の設定値V2が一致した場合(ステップS14のYes)、反転検出部37は予め設定された基準時間内に角速度センサ35の出力信号が第2の設定値V2と再度一致するか否かを判断する(ステップS15)。上記基準時間内に両者の値が再度一致した場合には(ステップS15のYes)、反転検出部37は点検踏段2aが反転位置(アップ運転時であればU2またはU3、ダウン運転時であればD1またはD4)で反転したものと判断し、反転検出信号を出力する(ステップS16)。一方、上記ステップS14またはS15で両者の値が一致しない場合にはステップS11に戻る。
【0044】
このようにして、エスカレータ1の点検踏段2aが反転する毎にその状態が検出され、エスカレータ点検装置30から反転検出信号が出力される。この反転検出信号は無線通信部33を介して外部の図示せぬ監視センタに送られる。監視センタ側では、エスカレータ点検装置30から送られてきた反転検出信号に基づいてエスカレータ1の周回数をカウントし、そのカウント値からエスカレータ1の運転状態を分析して故障診断を行う。
【0045】
なお、角速度センサ35の出力信号が1回目に設定値V1,V2に一致してから2回目に設定値V1,V2に一致するまでの時間には多少のばらつきがある。上記ステップS13,15における基準時間は、このようなばらつき考慮して適切な時間に決められている。これにより、突発的なノイズの発生により反転位置を誤って検出することを防ぐことができる。
【0046】
このように、点検踏段2aの反転動作に伴う角速度変化を利用して、エスカレータ1の運転方向を検出することにより、エスカレータ点検装置30をエスカレータ1の運転方向に応じて再設定する手間が省ける。現在、時間帯に応じて運転方向を切り替えるエスカレータが増加しているため、そういった場合にフレキシブルに対応できる。
【0047】
また、角速度センサ35から出力される角速度変化の信号波形は、下部機械室と上部機械室の反転位置で非対称となる(図5のU2,U3、図7のD1,D4参照)。これを利用して点検踏段2aが反転したことを簡単に検出することができる。しかも、この角速度センサ35は、有接点センサのように磨耗などによる経年劣化が少なく、また、加速度センサのように振動などの影響を受けにくい。したがって、点検踏段2aの反転を正確に検出して、その検出した位置を基点にして周回数を正確に得ることができる。
【0048】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0049】
第2の実施形態では、エスカレータ1の運転速度に応じて反転検出の基準時間を適宜設定するようにしたものである。
【0050】
図12は第2の実施形態に係るエスカレータ点検装置30の構成を示すブロック図である。なお、上記第1の実施形態における図3の構成と同じ部分には同一符号を付してある。
【0051】
第2の実施形態では、エスカレータ点検装置30にタイマ38と時間演算部39が設けられている。タイマ38は、時刻データの計測を行う。時間演算部39は、タイマ38の時刻データを用いてエスカレータ1の運転速度に応じた反転検出の基準時間を演算する。
【0052】
ここで、低速アップ運転と高速アップ運転を例にして説明する。なお、低速アップ運転と高速アップ運転の違いは運転速度であり、低速アップ運転時の運転速度をv1、高速アップ運転時の運転速度をv2とすると、v1<v2の関係にある。
【0053】
図13は低速アップ運転中の角速度センサ35の出力変化を示した図であり、反転検出ポイントU1〜U4で変化する角速度センサ35の出力信号の様子が示されている。図14は高速アップ運転中の角速度センサ35の出力変化を示した図であり、反転検出ポイントU1〜U4で変化する角速度センサ35の出力信号の様子が示されている。
【0054】
なお、図13,図14共に横軸は時間、縦軸は電圧を表す。また、図3のt1、図14のt2は、点検踏段2aが下部機械室で反転する時の角速度変化と第2の設定値V2が一致するまでの時間を表したものである。
【0055】
図15はエスカレータ点検装置30による基準時間演算処理を示すフローチャートである。
【0056】
エスカレータ1の運転中に点検踏段2aの周回移動に伴う角速度センサ35の出力信号を監視する(ステップS21)。エスカレータ点検装置30の時間演算部39は、角速度センサ35の出力信号と記憶部36に記憶された第2の設定値V2とを比較し、両者の値が一致するか否かを判断する(ステップS22)。両者の値が一致したとき(ステップS22のYes)、時間演算部39は、その時点における時刻データT1をタイマ38から取得して記憶部36に記憶する(ステップS23)。
【0057】
続いて、角速度センサ35の出力信号が設定値V2と再度一致したとき(ステップS24のYes)、時間演算部39は、その時点における時刻データT2をタイマ38から取得して記憶部36に記憶する(ステップS25)。
【0058】
このようにして、角速度センサ35の出力信号が設定値V2と1回目に一致した時刻データT1と2回目に一致した時刻データT2が得られると、時間演算部39はT2−T1を演算し、その結果を基準時間Tとして記憶部36に記憶する(ステップS26)。
【0059】
以後、この基準時間Tを用いて点検踏段2aの反転検出を行う。詳しくは、図11のステップS15において、基準時間T以内に角速度センサ35の出力信号が設定値V2と再度一致するか否かを判断する。
【0060】
このように、エスカレータ1の運転速度に応じて反転検出のための基準時間を適宜設定できるので、運転速度が異なるエスカレータ1であっても適用でき、基準時間外に突発的に発生したノイズによって誤検出することなく、点検踏段2aの反転を正しく検出することができる。
【0061】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0062】
第3の実施形態は、2つの角速度センサを用いて点検踏段2aの回転を検出するものである。
【0063】
図16は第3の実施形態に係るエスカレータ点検装置30の構成を示すブロック図である。なお、上記第2の実施形態における図12の構成と同じ部分には同一符号を付してある。
【0064】
第3の実施形態では、エスカレータ点検装置30に2つの角速度センサ35a,35bが設けられている。第1の角速度センサ35aは、上記第1および第2の実施形態で説明した角速度センサ35と同様であり、エスカレータ1の点検踏段2aの裏に点検踏段2aの反転を検出可能な方向に設けられている。
【0065】
これに対し、第2の角速度センサ35bは、エスカレータ1の点検踏段2aの裏に上記第1の角速度センサ35aの振動子の振動方向と直交するように設けられている。この2つの角速度センサ35a,35bは、それぞれに点検踏段2aが反転したときの角速度の変化に応じた電圧値を計測データとして反転検出部37に出力する。
【0066】
図17はエスカレータ点検装置30による2つの角速度センサ35a,35bを用いた点検踏段2aの反転検出処理の動作を示すフローチャートである。
【0067】
まず、上記第1または第2の実施形態で説明した方法により、2つの角速度センサ35a,35bを用いて点検踏段2aが反転したことを検出する(ステップS31)。
【0068】
ここで、2つの角速度センサ35a,35bの一方を振動子が点検踏段2aの踏板方向に振動するように設置し、他方を振動子が点検踏段2aのライザ方向に振動するように設置した場合、点検踏段2aが正しく反転したときには角速度センサ35a,35bの両方が反応する。
【0069】
一方、乗客が点検踏段2aの踏板11に衝撃を与えた場合には第1の角速度センサ35aのみが反応し、第2の角速度センサ35bは反応しない。また、乗客が点検踏段2aのライザ12に衝撃を与えた場合には第2の角速度センサ35bのみが反応し、第1の角速度センサ35aは反応しない。
【0070】
反転検出部37は、この2つの角速度センサ35a,35bの検出結果を比較し、両者の検出結果が一致していれば(ステップS32のYES)、点検踏段2aが反転位置(アップ運転時であればU2またはU3、ダウン運転時であればD1またはD4)で反転したものと判断し、反転検出信号を出力する(ステップS33)。この反転検出信号は、無線通信部33を介して外部の監視センタに送られる。一方、ステップS22で両者の検出結果が一致しない場合にはステップS31に戻る。
【0071】
このように、2つの角速度センサ35a,35bを用いて、それぞれに振動子が点検踏段2aの踏板方向とライザ方向に振動するように設置しておくことで、乗客が点検踏段2aに乗っているときに生じる単方向の振動(踏板を踏む、ライザを蹴る等)を誤検出することなく、点検踏段2aの反転をより正確に検出することができる。
【0072】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0073】
第4の実施形態では、エスカレータ点検装置30の情報を収集するための装置を無線接続したものである。
【0074】
図18は第4の実施形態に係るエスカレータ点検装置30の構成を示すブロック図である。なお、上記第2の実施形態における図12の構成と同じ部分には同一符号を付してある。
【0075】
第4の実施形態では、エスカレータ点検装置30に情報収集装置40が無線接続されている。この情報収集装置40は、エスカレータ点検装置30の一次診断部32の診断結果や反転検出部37の反転検出結果等を無線通信により収集するものである。
【0076】
この情報収集装置40には、外部アンテナ34を介してエスカレータ点検装置30からの情報を無線通信により受信するための無線通信部41と、この無線通信部41で受信した情報を記憶しておくための記憶部42と、この記憶部42に記憶された情報を表示するための表示部43とを備える。
【0077】
なお、この情報収集装置40は、例えばエスカレータ1のトラス内など、エスカレータ1の近傍であればどこでも設置可能である。
【0078】
このような構成において、エスカレータ点検装置30では、一次診断部32により音センサ(マイク)や振動センサなどの点検センサ31を用いた故障診断が行われる。また、反転検出部37により角速度センサ35を用いた点検踏段2aの反転検出が行われる。このエスカレータ点検装置30の近傍に情報収集装置40を設置しておくことで、一次診断部32の診断結果や反転検出部37の反転検出結果などの情報を無線通信により情報収集装置40に送って収集しておくことができる。
【0079】
これにより、保守員が定期点検で現場に来た際に、エスカレータ1の点検作業を行わなくとも、情報収集装置40に収集された情報を確認することで、エスカレータ1の状態を簡単に把握することができ、保守点検の時間の短縮化を図ることができる。
【0080】
なお、上記各実施形態では、本発明をエスカレータに適用した場合を例にして説明したが、エスカレータに限らず、例えば動く歩道などでも良く、要は周回動作する機器全般に適用可能である。
【0081】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、磨耗などによる経年劣化や振動などの影響を受けずに、踏段の反転を検出して周回数を正確に得ることのできるマンコンベア点検装置を提供することができる。
【0082】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0083】
1…エスカレータ、2…踏段、2a…点検踏段、3…踏段列、4,5…乗降口、6…欄干、7…手すりベルト、8…スカートガードパネル、10…フレーム、11…踏板、12…ライザ、13,14…車輪、30…エスカレータ点検装置、31…点検センサ、32…一次診断部、33…無線通信部、34…外部アンテナ、35…角速度センサ、35a…第1の角速度センサ、35b…第2の角速度センサ、36…記憶部、37…反転検出部、38…タイマ、39…時間演算部、40…情報収集装置、41…無線通信部、42…記憶部、43…表示部、44…外部アンテナ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の踏段が周回移動して乗客を運ぶマンコンベアの状態を点検するためのマンコンベア点検装置において、
上記各踏段の中の少なくとも1つを点検踏段とし、その点検踏段の反転を検出可能な方向に設けられ、上記点検踏段の周回移動に伴う角速度の変化に応じた信号を出力する角速度センサと、
この角速度センサの出力信号から上記マンコンベアの移動方向を検出するための第1の設定値と上記点検踏段の反転を検出するための第2の設定値を記憶した記憶手段と、
一定時間内における上記角速度センサの出力信号と上記記憶手段に記憶された上記第1の設定値とが一致する回数から上記マンコンベアの運転方向を検出すると共に、その運転方向に応じて上記第2の設定値の+値または−値に設定し、上記角速度センサの出力信号との比較から上記点検踏段が反転したことを検出して反転検出信号を出力する反転検出手段と
を具備したことを特徴とするマンコンベア点検装置。
【請求項2】
上記反転検出手段は、
上記角速度センサの出力信号が上記第1の設定値と一致した後、一定時間内に上記第1の設定値と再度一致したときに上記点検踏段が反転を開始する直前と判断し、
続いて上記角速度センサの出力信号が上記第2の設定値と一致した後、一定時間内に上記第2の設定値と再度一致したときに上記点検踏段が反転を開始したと判断することを特徴とする請求項1記載のマンコンベア点検装置。
【請求項3】
上記マンコンベアの運転速度に応じて上記角速度センサの出力信号が上記第2の設定値と1回目に一致した時刻から2回目に一致した時刻までの時間を反転検出の基準時間として演算する時間演算手段をさらに具備し、
上記反転検出手段は、
上記角速度センサの出力信号が上記第2の設定値と一致した際に、上記時間演算手段によって演算された上記基準時間内に上記第2の設定値と再度一致したときに、上記点検踏段が反転を開始したと判断することを特徴とする請求項2記載のマンコンベア点検装置。
【請求項4】
上記角速度センサを第1の角速度センサとした場合に、上記点検踏段に上記第1の角速度センサの振動子の振動方向と直交するように設けられた第2の角速度センサをさらに具備し、
上記反転検出手段は、
上記第1の角速度センサの出力信号を用いて上記点検踏段の反転を検出した結果と上記第2の角速度センサの出力信号を用いた上記点検踏段の反転を検出した結果が一致した場合に上記点検踏段が反転したものと判断することを特徴とする請求項1記載のマンコンベア点検装置。
【請求項5】
上記マンコンベアの近傍に設置された情報収集装置を備え、
上記反転検出手段の検出結果を上記マンコンベアの故障診断に必要な情報と共に上記情報収集装置に送信することを特徴とする請求項1記載のマンコンベア点検装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−107711(P2013−107711A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251433(P2011−251433)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】