説明

マンノシルエリスリトールリピッドの製造方法

【課題】マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する新たな微生物を見出し、その培地組成及び培養条件を最適化することによって、製造に要する期間を短縮し、より安価にマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】栄養素と炭素源を含む培養液中でマンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物を培養してマンノシルエリスリトールリピッドを製造する方法において、前記マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物が、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)であることを特徴とするマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンノシルエリスリトールリピッド(以下、単に「MEL」と略記する場合がある。)の生産に要する期間を大幅に短縮させることができるマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンノシルエリスリトールリピッド(特許文献1参照)は、脂肪酸と糖(マンノースとエリスリトール)が結合した物質である。脂質の性質に由来する親油性と糖の性質に由来する親水性を併せ持つ両親媒性物質であるため界面活性能を有し、生物により生産されることより糖脂質系のバイオサーファクタントの一種である。MELは、界面活性作用を有すると共に抗微生物活性、細胞分化誘導活性(何れも非特許文献1参照 総説)や抗アレルギー活性(特許文献2参照)などが報告されている。また、マンノシルエリスリトールリピッドには生分解性があり、高い安全性を有すると考えられ、食品工業、医薬品工業、化学工業、環境関連分野などへの適用も広く検討されている。このような背景から安価なMELの製造方法の開発が望まれている。
【0003】
MELの製造方法については、キャンディダ(Candida)sp.B−7株を用いて5質量%の大豆油から5日間で35g/L(生産速度:0.3g/L/h、原料収率:70質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている(非特許文献2及び3参照)。また、キャンディダ アンタークティカ(Candida antarctica)T−34株を用いて8質量%の大豆油から8日間で38g/L(生産速度:0.2g/L/h、原料収率:48質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている(非特許文献4及び5参照)。同じく、キャンディダ アンタークティカ(Candida antarctica)T−34株を用いて6日間隔で計3回の逐次油脂流加により24日後に25質量%のピーナッツ油から110g/L(生産速度:0.2g/L/h、原料収率:44質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている(非特許文献6参照)。
【0004】
キャンディダ(Candida)sp.SY−16株を用いて流加培養法により200時間後に18質量%の大豆油から95g/L(生産速度:0.48g/L/h、原料収率:45質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている(非特許文献7参照)。また、醤油醸造工程において副産物として生産されるしょうゆ油(あぶら)を原料としてキャンディダ アンタークティカ(Candida antarctica)T−34株を用いて7日間で8質量%のしょうゆ油から17g/L(生産速度:0.1g/L/h、原料収率:21質量%)のMELの生産が可能であることが提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
シュードジーマ アフィディス(Pseudozyma aphidis)DSM14930株を用いて油脂の流加培養法により14日間で165g/L(生産速度:0.58g/L/h、原料収率:92質量%)のMELの生産が可能であることが報告されている(非特許文献8参照)。
また、本発明者らは、クルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)sp.I−11株を用いて18質量%の植物油脂から回分培養法により10日間で153g/L(生産速度:0.64g/L/h,原料収率:85質量%)のMELの生産が可能であること、及び、油脂の流加培養法により24日間で40質量%の油脂から307g/L(生産速度:0.53g/L/h,原料収率:77質量%)のMELの生産が可能であることを報告している(特許文献4参照)。
【0006】
さらに、最近になってPseudozyma rugulosa NBRC 10877を用いて植物油脂とエリスリトールの流加培養により28日間で190g/L(生産速度:0.28g/L/h)のMELの生産(特許文献5参照)、Pseudozyma antarctica KM−34株を用いてグルコースから2.7g/LのMELの生産(特許文献6参照)、Pseudozyma antarctica JCM 10317株を用いてグリセロールから3g/LのMELの生産(特許文献7参照)、Pseudozyma parantarctica JCM 11752株を用いて植物性油脂の流加により14日間で190g/L(生産速度:0.56g/L/h)のMEL生産(特許文献8参照)、Pseudozyma graminicola CBS 10092を用いて大豆油から7日間で13g/LのMEL−C生産(特許文献9参照)が可能であることが報告されている。
【0007】
【特許文献1】特公昭60−24797号公報
【特許文献2】特開2005−68015号公報
【特許文献3】特開2002−101847号公報
【特許文献4】特開2004−254595号公報
【特許文献5】特開2007−185142号公報
【特許文献6】特開2007−209332号公報
【特許文献7】特開2007−209333号公報
【特許文献8】特開2007−252279号公報
【特許文献9】特開2008−079600号公報
【非特許文献1】D.Kitamoto,H.Isoda and T.Nakahara:J.Biosci. Bioeng.,94,187(2002).
【非特許文献2】T.Nakahara,H.Kawasaki,T.Sugisawa,Y.Takamori and T.Tabuchi:J.Ferment.Technol.,61,19(1983).
【非特許文献3】H.Kawasaki,T.Nakahara,M.Oogaki and T.Tabuchi:J.Ferment.Technol.,61,143(1983).
【非特許文献4】D.Kitamoto,S.Akiba,C.Hioki and T.Tabuchi:Agric.Biol.Chem.,54,31(1990).
【非特許文献5】D.Kitamoto,K.Haneishi,T.Nakahara and T.Tabuchi:Agric.Biol.Chem.,54,37(1990).
【非特許文献6】D.Kitamoto,K.Fijishiro,H.Yanagishita,T.Nakane and T.Nakahara:Biotechnol.Lett.,14,305(1992).
【非特許文献7】H.S.Kim,J.W.Jeon,B.H.Kim,C.Y.Ahn,H.M.Oh and B.D.Yoon:Appl Microbiol Biotechnol.,70,391(2006).
【非特許文献8】U.Rau,L.A.Nguyen,H.Roeper,H.Koch and S.Lang:Appl Microbiol Biotechnol.,68,607(2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
生分解性が高く、低毒性で環境に優しく、新規な生理機能を持つといわれるマンノシルエリスリトールリピッドを食品工業、医薬品工業、化学工業などで広く普及させていくためには、マンノシルエリスリトールリピッドの生産効率を高め、生産コストの低減を図ることが必要である。しかしながら、前記のごとく、マンノシルエリスリトールリピッドの生産速度は低く、その充分な量の製造に10日以上の期間を要しているのが現状である。そこで、更なるマンノシルエリスリトールリピッドの製造期間を短縮できる製造方法の開発が強く望まれている。
【0009】
本発明は、このような要望に応え、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する新たな微生物を見出し、その培地組成及び培養条件を最適化することによって、製造に要する期間を短縮し、より安価にマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)のようなバイオサーファクタントは自然界に広く存在する微生物自身が生存するために生産している物質であって、今までに発見されてきたバイオサーファクタント生産微生物は自然界から分離されているという事実に基づき、日本各地から各種の試料を採取し、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を生産する微生物を分離したところ、新規酵母であるシュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)を得た。前記株はマンノシルエリスリトールリピッドの生産菌として優れた特徴を有しており、その培地組成、培養条件、培養方法を検討することにより、マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を効率的に生産できることを知見した。
【0011】
一般に、微生物を用いた発酵生産においては、培地組成及び培養条件によって菌体増殖や目的生産物の収率が大きく影響を受けることが知られている。そこで、前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)を用い、MEL生産用培地における酵母エキス、コーンスティープリカー、リン酸2水素カリウム、硫酸マグネシウム、及び無機窒素源の濃度を変えると共に、pH、溶存酸素濃度及び温度の培養条件を変えてMELの生産に与える影響を調べて、MELの生産における最適な培地組成及び培養条件を求めた。
【0012】
また、従来の回分培養では、前培養液を培養槽に接種することにより培養を行ってきた。通常、前培養液は培地に対して10容量%程度接種するが、前培養液中の菌体濃度は高くないために培養開始時の菌体濃度はあまり高くない。このため、MELの生産が開始するまでに1日程度の時間を要している。この期間を誘導期と呼んでいるが、この誘導期を短縮することにより、よりMEL生産に要する培養時間を短縮することができると考えられる。誘導期を短縮するためには、培養開始時の菌体濃度を高くすることが有効である。初発の菌体濃度を高くする手法の1つに繰り返し回分培養があり、この手法は、初発の菌体濃度を高くできること以外にも、前培養が不要、培養槽の洗浄が不要などの利点を有している。
繰り返し回分培養では、前記回分培養と同様の方法で培養を開始し、任意の時間培養を行ってMELを生産した後に菌体を含む培養液の大部分を培養槽外に排出し、一部を培養槽に残して予め滅菌しておいた新たな培地(油脂を含む)を所定量だけ無菌的に加えて、次の回分培養を開始する。以後、このような操作を繰り返すことによりMEL生産に要する培養期間を短縮できる。
【0013】
また、マンノシルエリスリトールリピッドは、後述する構造式(1)において、R〜Rへの水素原子及びアセチル基の結合の数と位置により4種類の物質が報告されている。アセチル基は親油基であり水への溶解度を低下させるため、アセチル基が結合していないマンノシルエリスリトールが望まれている。しかしながら、現在までその存在は知られていたが、生産量は微量であった。ここで、本発明者らは更に、回分培養或いは繰り返し回分培養を行った後の培養液を、最適の温度下に保存することにより、後述する構造式(1)においてR〜Rにアセチル基が結合していないMEL(後述する構造式(2)で示されるMEL)を製造できることを知見した。
【0014】
従って、前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)を用いてマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)生産用培地のpH等を制御し、最適な培地組成及び培養条件を設定して回分培養及び繰り返し回分培養を実施することにより、MEL生産に要する培養期間を短縮できることと共に、後述する構造式(1)においてR〜Rにアセチル基が結合しないマンノシルエリスリトールリピッド(後述する構造式(2)で示されるマンノシルエリスリトールリピッド)を生産できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、下記の通りである。即ち、
<1> 栄養素と炭素源を含む培養液中でマンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物を培養してマンノシルエリスリトールリピッドを製造する方法において、前記マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物が、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)であることを特徴とするマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<2> マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物が、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)である前記<1>に記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<3> 培養液のpHを5.0〜5.8の範囲に制御して培養を行う前記<1>から<2>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<4> 培養液のpH制御をアンモニアを用いて行う前記<3>に記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<5> 培養液の溶存酸素濃度を1〜5ppmの範囲に制御して培養を行う前記<1>から<4>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<6> 培養液中にコーンスティープリカーを0.1〜4g/L含有させて培養を行う前記<1>から<5>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<7> 炭素源として炭素数6〜24の直鎖脂肪族炭化水素を用いる前記<1>から<6>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<8> 炭素源として炭素数6〜24の脂肪酸を用いる前記<1>から<6>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<9> 炭素源として炭素数6〜24の直鎖脂肪族炭化水素基を含むトリグリセリドを用いる前記<1>から<6>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<10> 炭素源として炭水化物を用いる前記<1>から<6>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<11> 炭素源として食品廃油を用いる前記<1>から<6>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<12> 炭素源濃度が10〜32質量%の範囲で培養を行う前記<1>から<11>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<13> マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物におけるマンノシルエリスリトールリピッドを生産する上での培地組成及び培養条件が、下記の通りである前記<1>から<12>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
酵母エキス:0.1〜2g/L
コーンスティープリカー:0.1〜4g/L
硝酸アンモニウム:0.1〜1g/L
リン酸2水素カリウム:0.1〜2g/L
硫酸マグネシウム:0.1〜1g/L
炭素源:100〜320g/L
培養液pH:5.0〜5.8
溶存酸素濃度:1〜5ppm
培養温度:26〜32℃
<14> 炭素源濃度が10〜30質量%の範囲で培養を開始し、該培養開始後2〜6日間の培養終了時に菌体とマンノシルエリスリトールリピッドを含む培養液の大部分を培養槽外に排出し、一部を培養槽に残して新たな培地を加えて、次の回分培養を開始し、該操作を繰り返して培養を行う前記<1>から<13>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
<15> 更に、培養終了後の培養液を20〜70℃に保持する工程を含み、下記構造式(2)で表される構造を有するマンノシルエリスリトールリピッドを得る前記<1>から<14>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
【化2】

ただし、前記構造式(2)において、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、又は炭素原子数1〜20の飽和若しくは不飽和の脂肪族アシル基を表す(ただし、アセチル基を除く)。
<16> マンノシルエリスリトールリピッドの生産量が、7質量%以上(70g/L以上)である前記<1>から<15>のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する新たな微生物を用い、その培地組成及び培養条件を最適化することによって、製造に要する期間を短縮し、より安価にマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)を製造することができる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(マンノシルエリスリトールリピッドの製造方法)
本発明のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法は、栄養素と炭素源を含む培養液中でマンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物を培養してマンノシルエリスリトールリピッドを製造する方法であって、前記マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物が、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)であることを特徴とする。
【0018】
<マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物>
前記マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物としては、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)を使用する。前記シュードジーマ ツクバエンシスとしては、使用する菌株に特に制限はなく、例えば、TM−181株(NITE P−530)、NBRC1940、ATCC24555、CBS6389などが挙げられるが、これらの中でも、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)が、MELの生産速度が高い点で、特に好ましい。
【0019】
前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株は、本発明者らにより単離された新規酵母であり、国内寄託機関である独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに2008年3月17日に寄託(NITE P−530)されている。なお、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株がマンノシルエリスリトールリピッドの生産菌として優れた特徴を有していることは、従来には全く知られておらず、このことは、本発明者の新知見にかかるものである。
【0020】
以下、前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株について説明する。
【0021】
(a)各培地における生育状態
i.コロニー観察
YM寒天培地上で25℃下、7日間の培養において、形成したコロニーは次のような形状を示した。
周縁の形状はほぼ全縁、隆起状態はクッション状、表面の状態は平滑、光沢及び性状は弱い光沢と湿性、色調は桃色味から黄色味を帯びたクリーム色
ii.顕微鏡観察
YM寒天培地上で25℃下、7日間の培養において,栄養細胞は長楕円形であり、極出芽により増殖する。培養開始後3週間後において有性生殖器官の形成は認められない。
(b)生理性状試験
1)生育できる範囲
pH2〜7、温度10〜37℃
2)糖類醗酵試験
グルコースを醗酵しなかった。
3)炭素源資化性試験
【表1】

4)窒素源資化性試験
【表2】

5)ビタミンの要求性無し。
6)デンプン類似物質の生成無し。
(c)26SrDNA−D1/D2塩基配列解析
抽出からサイクルシークエンスまでの操作は、各プロトコールに基づいて行った。
1)DNA抽出:DNAeasy Plant Mini Kit(QIAGEN,Hilden,Germany)
2)PCR:puReTaq Ready−To−Go PCR beads(Amersham Biosciences,NJ,USA)
3)サイクルシークエンス:GigDye Terminator v3.1 Kit(Applied Biosystems,CA,USA)
4)使用プライマー:NL1,NL2,NL3及びNL4(O’Donnell,1993)
5)シークエンス:ABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System(Applied Biosystems,CA,USA)
6)配列決定:ChromasPro 1.4(Technelysium Pty Ltd.,Tewantin,AUS)
7)相同性検索及び簡易分子系統解析:
ソフトウエア アポロン 2.0
データベース アポロン DB−FU 1.0
国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)
以上の26SrDNA−D1/D2塩基配列解析、簡易形態観察、及び生理・生化学的性状試験の結果より、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に帰属すると推定した。
【0022】
<培養>
前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株の培養には、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができ、酵母に対して一般に用いられる培地、例えば、YPD培地(例えば、イーストイクストラクト10g、ポリペプトン20g、及びグルコース20gの組成)を使用することができる。また、最適生育pHは5.2であり、生育可能なpH範囲は2〜7である。最適生育温度は30℃であり、生育可能な温度範囲は10〜36℃である。なお、MELの生産性を高めるためには、単にシュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株が生育できるだけでは十分ではなく、培地組成及び培養条件を最適化する必要があり、これら最適条件については後述する。
【0023】
前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株を培養するための炭素源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、トリグリセリド、脂肪族炭化水素、脂肪酸、炭水化物等が挙げられる。
【0024】
前記トリグリセリドとしては、特に制限はなく、植物油脂、動物油脂等が挙げられ、目的に応じて適宜選定することができる。前記植物油脂としては、大豆油、亜麻仁油、菜種油、コーン油、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ごま油、オリーブ油、バーム油等が挙げられ、これらの中でも、亜麻仁油、大豆油、菜種油が好ましい。前記動物油脂としては、牛脂、豚脂、魚脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を適宜混合して用いてもよい。前記トリグリセリドとしては、炭素数6〜24の直鎖脂肪族炭化水素基を含むトリグリセリドが好ましい。なお、植物油脂、動物油脂等としては、てんぷら等を製造した後の食品廃油等も利用可能である。
【0025】
前記脂肪族炭化水素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。前記炭化水素の炭素数は6〜24の範囲であることが好ましく、さらにそれぞれの分子内に1〜3箇所の不飽和結合を含んでいてもよい。例えば、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカンといった飽和炭化水素、或いは1−ペンタデセン(C1530)、1−ヘプタデセン(C1734)等の不飽和炭化水素及びその混合物であって、より好ましくは炭素数14〜20の飽和或いは不飽和炭化水素及びその混合物、さらに好ましくはオクタデカンを主成分とする混合物を用いることができる。また、前記脂肪族炭化水素としては、直鎖の脂肪族炭化水素が好ましい。
【0026】
前記脂肪酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。前記脂肪酸の炭素数は6〜24の範囲であることが好ましく、さらにそれぞれの分子内に1〜3箇所の不飽和結合を含んでいてもよい。例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸といった飽和脂肪酸、或いはミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸及びその混合物であって、より好ましくは炭素数14〜20の飽和或いは不飽和脂肪酸及びその混合物、さらに好ましくはリノール酸及びリノール酸を主成分とする混合物を用いることができる。
【0027】
前記炭水化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができる。例えば、グルコース、マンノース、グリセロール、マンニトール等の単糖とその誘導体、ショ糖、麦芽糖、乳糖等のオリゴ糖及びその混合物であって、好ましくは単糖、さらに好ましくはグルコースである。
【0028】
中でも、前記炭素源としては植物油脂が好ましく、亜麻仁油、大豆油、菜種油が特に好ましい。前記炭素源の含有量は、培地中、10〜32質量%が好ましく、14〜30質量%が特に好ましい。
【0029】
前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株を培養するための栄養素としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、酵母エキス、麦芽エキス、肉エキス、ポリペプトン、コーンスティープリカー、硝酸アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫安、リン酸2水素カリウム、リン酸1水素カリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられ、酵母エキス、コーンスティープリカー、硝酸アンモニウム、リン酸2水素カリウム、硫酸マグネシウムなどが好ましい。
【0030】
前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株を培養するための無機窒素源としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、硝酸アンモニウム、尿素、硝酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫安等が挙げられ、これらの中でも、硝酸アンモニウム、尿素が好ましい。
【0031】
前記シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株を用いてマンノシルエリスリトールリピッドを生産する場合の好適な培地組成及び培養条件としては、以下の通りである。酵母エキスは、0.1〜2g/Lが好ましく、1g/Lが特に好ましい。コーンスティープリカーは、0.1〜4g/Lが好ましく、2g/Lが特に好ましい。硝酸アンモニウムは、0.1〜1g/Lが好ましく、0.5g/Lが特に好ましい。リン酸2水素カリウムは、0.1〜2g/Lが好ましく、0.4g/Lが特に好ましい。硫酸マグネシウムは、0.1〜1g/Lが好ましく、0.2g/Lが特に好ましい。植物油脂等の炭素源は、100〜320g/Lが好ましく、140〜300g/Lが特に好ましい。溶存酸素濃度は、1〜5ppmが好ましく、3〜5ppmが特に好ましい。培養温度は、26〜32℃が好ましく、30℃が特に好ましい。pHは、5.0〜5.8が好ましく、5.2が特に好ましい。なお、培養液のpH調整は、菌体の栄養素となり得るアンモニアを用いて行うことが好ましい。
【0032】
本発明のマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の製造方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選定することができるが、例えば、グルコース20g/L、酵母エキス1g/L、硝酸アンモニウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地4mLが入った試験管にシュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)を1白金耳接種し、30℃で1日間振とう培養を行う。これを同じ組成の培地100mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で2日間振とう培養を行う。更に、これを所定量の油脂と酵母エキス1g/L、コーンスティープリカー2g/L、硝酸アンモニウム0.5g/L、リン酸2水素カリウム0.4g/L、及び硫酸マグネシウム0.2g/Lの組成の液体培地1.4Lが入ったジャーファメンターに接種して、30℃で1.5L/分の通気速度と800rpmの撹拌速度で本培養を開始する。なお、pHは、pHメーターで測定できる。溶存酸素濃度は、溶存酸素濃度メーターで測定できる。
【0033】
−回分培養−
回分培養では、培養途中で油脂などの炭素源の供給は行わないで、1日に2乃至3回培養液を無菌的に採取して、培養液中の各成分を経時的に測定する。MEL、トリグリセリド、ジグリセリド、炭化水素、及び脂肪酸については、採取した培養液に酢酸エチルを加えて激しく振とうした後に静置し、上清の酢酸エチル層を回収し、この酢酸エチル溶液をイアトロスキャン(ヤトロン社製)のロッドにチャージして、所定の方法により各成分を定量分析する。
【0034】
ここで、前記回分培養においては、培養液のpHを5.0〜5.8の範囲に制御し、培養液中に無機窒素源を含有させ、該無機窒素源が、硝酸アンモニウム及び尿素のいずれかであることが好ましい。この場合、初発炭素源濃度が10〜32質量%の範囲で培養を行うことが好ましく、10〜30質量%の範囲で培養を行うことがより好ましい。
【0035】
−繰り返し回分培養−
前記回分培養では、前培養液を培養槽に接種することにより培養を行う。通常、前培養は培地に対して10容量%程度接種するが、前培養液中の菌体濃度は高くないために培養開始時の菌体濃度はあまり高くない。このため、MELの生産が開始するまでに1日程度の時間を要する。この期間を誘導期と呼んでいるが,この誘導期を短縮することにより,より短時間でMELを生産することができると考えられる。誘導期を短縮するためには,培養開始時の菌体濃度を高くすることが有効である。初発の菌体濃度を高くする手法の1つに繰り返し回分培養があり、この手法は,初発の菌体濃度を高くできること以外に、前培養が不要、培養槽の洗浄が不要などの利点を有している。
【0036】
繰り返し回分培養では、前記回分培養と同様の方法で培養を開始し、任意の時間培養を行ってMELを生産した後に菌体を含む培養液の大部分を培養槽外に排出し、一部を培養槽に残して予め滅菌しておいた新たな培地(油脂を含む)を所定量だけ無菌的に加えて,次の回分培養を開始する。以後、このような操作を繰り返す。
【0037】
ここで、前記繰り返し回分培養においては、培養液のpHを5.0〜5.8の範囲に制御し、培養液中に無機窒素源を含有させ、該無機窒素源が、硝酸アンモニウム及び尿素のいずれかであることが好ましい。この場合、初発炭素源濃度が10〜36質量%の範囲で培養を行うことが好ましく、14〜30質量%の範囲で培養を行うことがより好ましい。培養時間は2〜6日間が好ましい。また、該培養槽内に残す培養液量を培養液全体の6〜35容量%として、次の回分培養を開始することが好ましい。
【0038】
<マンノシルエリスリトールリピッド>
本発明のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法により得られるマンノシルエリスリトールリピッドは、下記構造式(1)で表される化合物である。
【0039】
【化3】

【0040】
前記構造式(1)において、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、アセチル基、又は炭素原子数1〜20、好ましくは3〜20の飽和若しくは不飽和の脂肪族アシル基を表す。
【0041】
−R〜Rにアセチル基が結合していないマンノシルエリスリトールリピッドの製造−
マンノシルエリスリトールリピッドは、前記構造式(1)において、R〜Rへの水素原子及びアセチル基の結合の数と位置により4種類の物質が報告されている。ここで、アセチル基は親油基であり水への溶解度を低下させるため、中でも、アセチル基の無いマンノシルエリスリトールリピッドが望まれている。
このアセチル基の無いマンノシルエリスリトールリピッドは、下記構造式(2)で示される。(前記構造式(1)と前記構造式(2)とでは、R〜Rの種類が異なる。)
【化4】

前記構造式(2)において、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、又は炭素原子数1〜20の飽和若しくは不飽和の脂肪族アシル基を表す(ただし、アセチル基を除く)。
【0042】
しかしながら、前記構造式(2)で表されるアセチル基の無いMELは、現在までその存在は知られていたが、生産量は微量であった。
そこで、本発明者らは更に、前記のように回分培養或いは繰り返し回分培養を行った後のMEL含有培養液を、任意の温度下に保存することにより、前記構造式(1)においてR〜Rにアセチル基が結合していないMEL(前記構造式(2)で示されるMEL)を製造できることを見出した。方法は以下の通りである。
【0043】
培養を行った後のMEL含有培養液を10〜70℃の温度の恒温槽に入れて保温する。一定期間毎に等容積量の酢酸エチルで脂質成分を抽出し、TLCプレートにチャージし、クロロホルム:メタノール:水=65:15:2(容積比)で展開する。展開終了後、オルシノール硫酸試薬でMELの存在を確認する。ここで、MEL含有培養液の保存温度は、20〜70℃が好ましく、30〜50℃が特に好ましい。保存時間は、2〜30日が好ましく、3〜20日が特に好ましい。
【0044】
一定温度で保存したMEL含有培養液に等容量の酢酸エチルで脂質成分を抽出し、エバポレーターを用いて酢酸エチルを留去し、脂質成分を回収する。この脂質成分を等量のクロロホルムに溶解し、これをシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム、クロロホルム:酢酸エチル溶液(4:1)、アセトン、メタノールの順で溶出させる。各溶液をTLCプレートにチャージし、クロロホルム:メタノール:水=65:15:2(容積比)で展開する。展開終了後、オルシノール硫酸試薬でMELの存在を確認する。アセチル基が結合していないと思われるMEL成分の含まれる溶出液を集め、溶媒を留去してアセチル基が結合していないと思われるMEL成分を得た。得られたMEL成分を再度クロロホルム1mLに溶解し、イアトロビーズカラムクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム:メタノール=95:5(容積比)で溶出させ、TLCで単一のバンドを示す糖脂質成分を単離する。
【0045】
マンノース残基上のアシル基の結合位置の同定は、過ヨウ素酸酸化糖脂質のNMRによる解析で行うことができる。1H−NMRスペクトルでは、一般に糖のH−2〜H−6のプロトンは3.5ppm付近にまとまって検出されるが、水酸基の水素がアシル基とエステル結合すると、そのα−プロトンのシグナルは低磁場にシフトすることが知られている。本MELにおいても脂肪酸の結合によると考えられる低磁場シフトした2つのプロトンシグナルが観測されたことから、このMELは、2分子のアシル基が結合していると同定できる。さらに、2分子の−COCH−の存在を示すシグナルが観測されたが、アセチル基(−COCH)の存在を示すシグナルは観測されなかったことより、マンノースに結合しているアシル基は、2つの脂肪酸であると同定できる。
【0046】
以上説明したような、本発明のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法によれば、前記マンノシルエリスリトールリピッドを、好ましくは7質量%以上(70g/L以上)、より好ましくは20質量%以上(200g/L以上)、更に好ましくは20〜40質量%(200〜400g/L)の高濃度に、短期間で製造することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明について更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1:マンノシルエリスリトールリピッド生産微生物株の選択)
本実施例1では、マンノシルエリスリトールリピッドを短時間で効率的に生産できる微生物株を選択した。
【0049】
糖脂質生産量の高い微生物8菌株(TM−179、TM−180、TM−181、TM−182、TM−183、TM−184、TM−185、TM−186)について、以下のように培養を行った。なお、前記各菌株は、特開2005−104837号の段落番号〔0023〕、〔0049〕等に記載の方法に従い、本発明者らにより自然界から分離されたものである。グルコース20g/L、酵母エキス1g/L、硝酸アンモニウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地(以下、前培養用培地と略する)4mLが入った試験管に当該菌株を1白金耳接種し、30℃で1日間振とう培養を行った。これを同じ組成の培地100mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で2日振とう間培養を行った。更に、これを18質量%の大豆油と酵母エキス1g/L、硝酸アンモニウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地1.4Lが入ったジャーファメンターに接種して、30℃で1.5L/分の通気速度と800rpmの撹拌速度で本培養を開始した。なお、pHは、pHコントローラーを用いて14質量%のアンモニアを供給することにより5.4に保持した。1日に2乃至3回培養液を無菌的に採取した培養液に酢酸エチルを加えて激しく振とうした後に静置し、上清の酢酸エチル層を回収し、この酢酸エチル溶液をイアトロスキャン(ヤトロン社製)のロッドにチャージして、経時的に培養液中の各成分を測定した。各菌株におけるMEL生産量とこの濃度に達するために要した培養時間を、参考菌株としてのクルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)sp.I−11株(FERM P−18126)の結果と共に表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
菌株によりMEL生産量とこの濃度に達するために要した培養時間に違いがあった。TM−179、TM−181、TM−182、TM−183は、いずれも130g/L以上のMELを生産したが、最も培養に要する期間が短かったのはTM−181であった。
【0052】
TM−181株は、クルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)sp.I−11株(FERM P−18126)に比較してMEL生産量は7g/L低い値であったが、生産に要する時間は144時間であり、96時間(4日)生産に要する時間を短縮できた。
【0053】
このTM−181株は、26SrDNA−D1/D2塩基配列解析、簡易形態観察、及び生理・生化学的性状試験等の結果から、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)に帰属すると推定され(詳細は前記の通り)、本発明者らにより、国内寄託機関である独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに2008年3月17日に寄託(NITE P−530)された。
本実施例1における結果から、以降の実施例については、マンノシルエリスリトールリピッド生産微生物株として、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)を用いることとした。
【0054】
(実施例2:培地成分の最適濃度の決定)
本実施例2では、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)におけるマンノシルエリスリトールリピッドの生産効率を高めるための培地成分の最適濃度を決定した。
【0055】
培地成分の酵母エキス、コーンスティープリカー、硝酸アンモニウム、リン酸2水素カリウム、及び硫酸マグネシウムの各培地成分の最適濃度を決定するため、各成分について6〜8段階に濃度を変えて以下のように回分培養を行った。前培養用培地の4mLが入った試験管に当該菌株を1白金耳接種し、30℃で1日間振とう培養を行った。これを同じ組成の培地100mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で2日間振とう培養を行った。更に、これを18質量%の大豆油と酵母エキス1g/L、硝酸アンモニウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成を基準として、酵母エキス(0〜4g/L)、コーンスティープリカー(0〜6g/L)、硝酸アンモニウム(0〜4g/L)、リン酸2水素カリウム(0〜4g/L)、及び硫酸マグネシウム(0〜4g/L)の濃度を6〜8段階に変えた液体培地1.4Lが入ったジャーファメンターに接種して、30℃で1.5L/分の通気速度と800rpmの撹拌速度で本培養を開始した。なお、pHは、pHコントローラーを用いて14質量%のアンモニアを供給することにより、5.4に保持した。1日に2乃至3回培養液を無菌的に採取した培養液に酢酸エチルを加えて激しく振とうした後に静置し、上清の酢酸エチル層を回収し、この酢酸エチル溶液をイアトロスキャン(ヤトロン社製)のロッドにチャージして、経時的に培養液中の各成分を測定した。
その結果、酵母エキス1g/L、コーンスティープリカー2g/L、硝酸アンモニウム0.5g/L、リン酸2水素カリウム0.4g/L、及び硫酸マグネシウム0.2g/Lが最適濃度であった。
【0056】
(実施例3:pH、溶存酸素濃度、培養温度の最適条件の決定)
本実施例3では、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)におけるマンノシルエリスリトールリピッドの生産効率を高めるためのpH、溶存酸素濃度、培養温度の最適条件を決定した。
【0057】
pH、溶存酸素濃度、培養温度の最適条件を決定するため、これらの3つの条件について3〜7段階に変えて回分培養を行った。なお、培養液のpHは、pHメーターにより測定し、アンモニアを滴下することにより所定のpHに制御した。溶存酸素濃度は、溶存酸素濃度メーターにより測定し、回転数を自動的に制御することにより所定の溶存酸素濃度に制御した。その結果、pH5.2、溶存酸素濃度3〜5ppm、培養温度30℃が最適条件であった。これらのうち、pH、及び、溶存酸素濃度の最適条件の決定方法の詳細を以下に示す。
【0058】
−基本培養条件−
前培養用培地4mLが入った試験管にシュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)を1白金耳接種し、30℃で1日間振とう培養を行った。これを同じ組成の培地100mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で2日間振とう培養を行った。更に、これを所定量の植物油脂(亜麻仁油あるいは大豆油)と酵母エキス1g/L、コーンスティープリカー2g/L、硝酸アンモニウム0.5g/L、リン酸2水素カリウム0.4g/L、及び硫酸マグネシウム0.2g/Lの組成の液体培地(以下、本培養用培地と略する)1.4L(回分培養)及び4.6L(繰り返し回分培養)が入ったジャーファメンターに接種して、30℃で1.5L/分(回分培養)及び5L/分(繰り返し回分培養)の通気速度と800rpmの撹拌速度で本培養を開始した。
【0059】
−回分培養−
回分培養では、培養途中において植物油脂(亜麻仁油あるいは大豆油)の供給を行わないで、1日に1乃至2回培養液を無菌的に採取して、培養液中の各成分を経時的に測定した。MEL、トリグリセリド、ジグリセリド、及び脂肪酸は、採取した培養液に酢酸エチルを加えて激しく振とうした後、静置し、上清の酢酸エチル層を回収した。この酢酸エチル溶液をイアトロスキャン(ヤトロン社製)のロッドにチャージして所定の方法により各成分を定量分析した。
【0060】
−培養液のpH選定−
次に、MEL生産に及ぼす培養液のpHの影響を調べるため、初発油脂濃度を18質量%として、pHコントローラーを用いて培養期間中のpH5.0〜5.8の間で一定の値に保持して培養を行った。なお、pHを調整するために用いるアルカリ溶液としては、菌体の栄養素となり得るアンモニア(14質量%アンモニア溶液)を使用した。
各pHにおけるMEL生産量とこの濃度に達するために要した培養時間を表4に示す。pHが5.0〜5.8、特にpH5.2に制御して培養することがMELの生産効率を高める上で効果的であることが認められた。
【0061】
【表4】

【0062】
−培養液の溶存酸素濃度(DO)の選定−
次に、MEL生産に及ぼす培養液の溶存酸素濃度の影響を調べるため、初発油脂濃度を20質量%としてDOを1、3、5ppmに制御して培養を行った。この時、溶存酸素濃度は溶存酸素濃度メーターにより測定し、回転数を自動的に制御することにより所定の溶存酸素濃度に制御した。各溶存酸素濃度におけるMEL生産量とこの濃度に達するために要した培養時間を表5に示す。DOを3〜5に制御して培養することがMELの生産効率を高める上で効果的であることが認められた。
【0063】
【表5】

【0064】
(実施例4:最適油脂濃度の決定)
上記実施例3のようにして設定した基本培養条件において、初発油脂濃度を表6に示すように変化させて、MEL生産に与える初発油脂濃度の影響を検討した。MELの効率生産を考慮すると、更なる高濃度化が望まれる。このためには、初発の油脂濃度を増加させる必要がある。そこで、油脂濃度を10から36質量%まで変化させて培養を行った。各培養におけるMEL生産量とこの濃度に達するために要した培養時間を表6に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
初発油脂濃度の増加により、MEL生産量は増加し、30質量%で220g/LのMELを126時間で生産した。34質量%以上では生産量は急激に低下した。現在、MEL生産量は、クルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)sp.I−11を用いた流加回分培養法による307g/Lが最も高い。シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株での回分培養では221g/Lが最高値であるが、流加回分培養法を用いることにより、さらに高濃度のMELをより短時間で生産できると考えられる。
【0067】
なお、参考として、クルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)sp.I−11株は、初発油脂濃度20質量%とした場合に240時間で153g/LのMELを生産し、油脂濃度をこれ以上に増加させてもMEL生産量は増加しなかった。シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株は、クルツマノマイセス(Kurtzmanomyces)sp.I−11株よりも69g/L高いMEL生産量で114時間短い時間で生産できた。
【0068】
(実施例5:繰り返し回分培養)
前培養用培地4mLが入った試験管に当該菌株を1白金耳接種し、30℃で1日間振とう培養を行った。これを同じ組成の培地100mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で2日間振とう培養を行った。更に、これを18質量%の亜麻仁油と本培養用培地4.6Lが入ったジャーファメンターに4本(合計0.4L)接種して、30℃で5L/分の通気速度と800rpmの撹拌速度で本培養を開始した。なお、pHは、pHコントローラーを用いて14質量%のアンモニアを供給することにより5.2に保持して、1回目の回分培養を96時間行った。植物油脂(亜麻仁油)は、菌体が分泌したリパーゼにより急速に脂肪酸とグリセロールに分解された。生成した中間代謝物である脂肪酸は、細胞内に取り込まれて代謝され、菌体とMELが生産された。
2回目の回分培養は、攪拌羽根の回転を停止させ、4.3Lの培養液を試料採取管を通じてジャーファメンターから引き抜き、0.7Lをジャーファメンター内に残した。直ちに、予め滅菌しておいた18質量%の亜麻仁油を含む本培養用培地4.3Lを接種口からジャーファメンターに無菌的に流し込み、回転羽根を800rpmの攪拌速度で培養を開始した。pHは、pHコントローラーを用いて14量%のアンモニアを供給することにより5.2に保持した。
3回目以降の回分培養は、上記のような操作を繰り返し、培養時間を次第に短くして、計10回の回分培養を繰り返した。この時、各回分培養での残存培養液量は表7に示すように0.3〜1.75Lの範囲で変化させると共に引き抜いた培養液と同量の滅菌した新たな培地を加えた。また、1日に2乃至3回培養液を無菌的に採取した培養液に酢酸エチルを加えて激しく振とうした後に静置し、上清の酢酸エチル層を回収し、この酢酸エチル溶液をイアトロスキャン(ヤトロン社製)のロッドにチャージして、経時的に培養液中の各成分を測定した。
表7に示したように、10回の培養何れも原料の油脂を完全に分解し、生成した脂肪酸をほぼ消費して約130g/LのMELを安定に生産でき、菌株の生産能力の低下はなかった。また、培養液を随時顕微鏡で観察した結果、バクテリアなどの雑菌は観察されず、雑菌汚染もなかった。これらのことより、さらに長期間の培養も可能であると考えられた。
【0069】
【表7】

【0070】
1回目の回分培養では、MELを開始するまでに要する時間(誘導時間)に18時間を要した。2回目以降は、誘導時間は短縮された。このように誘導時間が短縮されたのは、1回目の培養では振とうフラスコからの培養液を接種したために培養槽中の初発の菌体が低濃度であるのに対して、2回目以降では新たな回分培養開始時の菌体濃度が高くなっているためである。新たな回分培養開始時のMEL及び菌体濃度は、残液率に影響される。また、MEL生産を開始した後、何れの培養においてもMEL濃度はほぼ直線的に増加した。その後、MEL濃度は最高生産量に達する前からその増加の程度は次第に低下していった。なお、MEL生産速度は、培養の経時変化よりMELがほぼ直線的に増加する部分の傾きから最小自乗法により計算した。初発のMEL濃度が高い(=残存培養液の量が多い)と最高生産量に達するまでの時間が短くなり、2回目以降は、何れも72時間(3日)で130g/Lに達した。なかでも、10回目の培養(残液率:0.35)では60時間(2.5日)で130g/Lに達した。これは、残液率を高くすることにより培養槽内の菌体濃度を高くできたことによるものと考えられる。また、リパーゼとMELが培養の最初から相当量存在するために油脂の分解が促進され、脂肪酸の細胞への取り込みが促進されたと考えられる。
【0071】
(実施例6:構造式(1)においてRからRにアセチル基が結合しないマンノシルエリスリトールリピッド(=構造式(2)で示されるマンノシルエリスリトールリピッド)の製造方法)
前培養用培地4mLが入った試験管に当該菌株を1白金耳接種し、30℃で1日間振とう培養を行った。これを同じ組成の培地100mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で2日間振とう培養を行った。更に、これを18質量%の亜麻仁油と本培養用培地1.4Lが入ったジャーファメンターに接種して、30℃で1.5L/分の通気速度と800rpmの撹拌速度で本培養を開始した。培養期間中、pHコントローラーを用いてpHを5.2に保持しつつ4日間培養を行い、MEL含有培養液を作製した。MEL含有培養液が20〜70℃となるように、温度計で測定しながら恒温槽に入れて保温した。一定期間毎に試料を採取して等容積量の酢酸エチルで脂質成分を抽出し、TLCプレートにチャージし、クロロホルム:メタノール:水=65:15:2(容積比)で展開した。展開終了後、オルシノール硫酸試薬でMELの存在を確認した。結果を図1に示す。
【0072】
図1は、培養液を7日間所定の温度で保存したものである。レーン番号の1は保存開始前、2は30℃、3は20℃、4は40℃、5は50℃、6は60℃、7は70℃で保存した。図中、スポットが大きいものほどMELの存在量が多い。保存開始前は、アセチル基が1つ結合したMELのみであったが、7日間の保存後、アセチル基が1つ結合したMEL(図1中、上のスポット)は減少し、アセチル基が無いと推定されるMELのスポット(図1中、下のスポット)が大きくなった。レーン3の20℃ではアセチル基が1つ結合したMELの方がスポット(上のスポット)は大きいが、レーン2、4、5の30〜50℃では、アセチル基が1つ結合したMELのスポットはほとんど無く、ほぼ全てがアセチル基が無いと推定されるMELのスポット(下のスポット)となった。レーン6と7の60と70℃では両方のスポットが小さくなった。このような結果から、MEL含有培養液の保存温度は、20〜70℃が好ましく、特に30〜50℃が好ましいことがわかる。
【0073】
<糖脂質の単離>
一定温度で保存したMEL含有培養液に等容量の酢酸エチルの酢酸エチルで脂質成分を抽出し、酢酸エチルをエバポレーターを用いて留去し、脂質成分を回収した。この脂質成分を等量のクロロホルムに溶解し、これをシリカゲルクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム、クロロホルム:酢酸エチル溶液(4:1)、アセトン、メタノールの順で溶出させた。各溶液をTLCプレートにチャージし、クロロホルム:メタノール:水=65:15:2(容積比)で展開した。展開終了後、オルシノール硫酸試薬でMELの存在を確認した。アセチル基が結合していないと思われるMEL成分の含まれる溶出液を集め、溶媒を留去してアセチル基が結合していないと思われるMEL成分を得た。得られたMEL成分を再度クロロホルム1mLに溶解し、イアトロビーズカラムクロマトグラフィーにかけ、クロロホルム:メタノール=95:5(容積比)で溶出させ、TLCで単一のバンドを示す糖脂質成分を単離した。
【0074】
<糖脂質の構造決定>
アシル基の結合位置は、過ヨウ素酸酸化糖脂質のNMRにより解析した。対照としてマンノースに2つのアセチル基と脂肪酸が結合したマンノシルエリスルトールリピッド(MEL:4,6−ジ−O−アセチル−2,3−ジ−O−アルカノイル−β−D−マンノピラノシル1−4−meso−エリスリトール)を用いた。
4.0ppmより低磁場側のシグナルから、マンノースが確認された。これらのシグナルに加えて、高磁場の領域には、アシル基の特性を示すシグナルが観測されており、それぞれ−COCH−基の−CH−プロトンシグナルと同定できることから、2分子の脂肪酸が存在していることがわかる。一方、アセチル基(−COCH)のメチルプロトンの存在を示すシグナルは観測されなかったことより、マンノースにアセチル基は結合していないと同定できた。結果を図2に示す。なお、この化合物は慣例的にMEL−Dと呼ばれている。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によると、マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物としてシュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)を用い、その培地組成及び培養条件を最適化することによって、バイオサーファクタントの一種であるマンノシルエリスリトールリピッドの生産に要する時間を大幅に向上させることができた。更に、本発明では、アセチル基が結合していないマンノシルエリスリトールリピッドの大量生産をも可能とした。本発明により得られるマンノシルエリスリトールリピッドは、例えば、食品工業、医薬品工業、化学工業、環境関連分野などで好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、MEL含有培養液を7日間所定の温度で保存した後、薄層クロマトグラフィー(TLC)で展開し、存在するMELの種類を確認した結果を示す図である。(レーン番号の1は保存開始前のMEL含有培養液、2は30℃、3は20℃、4は40℃、5は50℃、6は60℃、7は70℃で保存した後のMEL含有培養液を示す。)
【図2】図2は、実施例6に係わるマンノシルエリスリトールリピッドの1H−NMRスペクトルである。<1H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素,DO)>マンノシルエリスリトール部:3.30−4.00(Man−4−H,5−H,6−H,Ery−1−H,2−H,3−H,4−H),4.77(Man−1−H),4.93(Man−3−H),5.43(Man−2−H);アシル部:0.86,0.95(CH),1.05−1.40,1.90−2.10[−(CH−],1.60−1.70(−CO−CHCH−),2.27,2.36(−CO−CH−),5.23(−CH=CH−)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養素と炭素源を含む培養液中でマンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物を培養してマンノシルエリスリトールリピッドを製造する方法において、前記マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物が、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)であることを特徴とするマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項2】
マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物が、シュードジーマ ツクバエンシス(Pseudozyma tsukubaensis)TM−181株(NITE P−530)である請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項3】
培養液のpHを5.0〜5.8の範囲に制御して培養を行う請求項1から2のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項4】
培養液のpH制御をアンモニアを用いて行う請求項3に記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項5】
培養液の溶存酸素濃度を1〜5ppmの範囲に制御して培養を行う請求項1から4のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項6】
培養液中にコーンスティープリカーを0.1〜4g/L含有させて培養を行う請求項1から5のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項7】
炭素源として炭素数6〜24の直鎖脂肪族炭化水素を用いる請求項1から6のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項8】
炭素源として炭素数6〜24の脂肪酸を用いる請求項1から6のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項9】
炭素源として炭素数6〜24の直鎖脂肪族炭化水素基を含むトリグリセリドを用いる請求項1から6のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項10】
炭素源として炭水化物を用いる請求項1から6のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項11】
炭素源として食品廃油を用いる請求項1から6のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項12】
炭素源濃度が10〜32質量%の範囲で培養を行う請求項1から11のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項13】
マンノシルエリスリトールリピッドを生産する能力を有する微生物におけるマンノシルエリスリトールリピッドを生産する上での培地組成及び培養条件が、下記の通りである請求項1から12のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
酵母エキス:0.1〜2g/L
コーンスティープリカー:0.1〜4g/L
硝酸アンモニウム:0.1〜1g/L
リン酸2水素カリウム:0.1〜2g/L
硫酸マグネシウム:0.1〜1g/L
炭素源:100〜320g/L
培養液pH:5.0〜5.8
溶存酸素濃度:1〜5ppm
培養温度:26〜32℃
【請求項14】
炭素源濃度が10〜36質量%の範囲で培養を開始し、該培養開始後2〜6日間の培養終了時に菌体とマンノシルエリスリトールリピッドを含む培養液の大部分を培養槽外に排出し、一部を培養槽に残して新たな培地を加えて、次の回分培養を開始し、該操作を繰り返して培養を行う請求項1から13のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【請求項15】
更に、培養終了後の培養液を20〜70℃に保持する工程を含み、下記構造式(2)で表される構造を有するマンノシルエリスリトールリピッドを得る請求項1から14のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。
【化1】

ただし、前記構造式(2)において、R〜Rは、互いに同一であっても異なっていてもよく、水素原子、又は炭素原子数1〜20の飽和若しくは不飽和の脂肪族アシル基を表す(ただし、アセチル基を除く)。
【請求項16】
マンノシルエリスリトールリピッドの生産量が、7質量%以上(70g/L以上)である請求項1から15のいずれかに記載のマンノシルエリスリトールリピッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−296908(P2009−296908A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152690(P2008−152690)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】