説明

マーキングフィルム基材及びマーキングフィルム

【課題】耐薬品性(たとえば、耐ガソリン性)や環境温度での良好な貼り作業性を有するマーキングフィルム基材を提供する。
【解決手段】(i)ガラス転移温度(Tg)が−15℃〜15℃であるポリオール100質量部と、
(ii)前記第一のポリオールより高いガラス転移温度(Tg)を有し、当該ガラス転移温度(Tg)が10℃〜30℃である第二のポリオール10〜60質量部と、
(iii)ポリイソシアネートと、
を含む混合物から得られるポリウレタンを含むマーキングフィルム基材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマーキングフィルム基材及びそれを用いたマーキングフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動四輪車、自動二輪車、電車などの車両ボディー、航空機及び船舶などのボディーや建築物の壁及び窓ガラスには接着フィルムの形態のマーキングフィルムが適用されることがある。このようなマーキングフィルムとして、特に、自動四輪車のボディーのコーナー部分、自動二輪車の燃料タンクなどの比較的大きな三次元曲面に貼ることができる柔軟性を持つマーキングフィルムが必要とされている。かかる用途には、マーキングフィルム基材としては、貼り作業性や各種耐久性の観点から軟質塩化ビニルフィルムが主に使用されていた。また、軟質塩化ビニルフィルムは可塑剤の添加により、硬さを容易に調節することができ、かつ、安価である。しかし、成分としてハロゲンを含むため、環境保護の観点から、非塩化ビニル材料への代替が求められている。
【0003】
柔軟な非塩化ビニル材料としては、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、アクリル系などの材料があるが、曲面追従性、印刷適性、カッティング適性、価格、耐薬品性、耐久性などのマーキングフィルムに、特に車両用マーキングフィルムに要求される特性要件を満足できるものは少ない。オレフィン系樹脂を用いたマーキングフィルムとしては、特許文献1(特開平8−157780号公報)に記載がある。またアクリル系樹脂を用いたマーキングフィルムとしては、特許文献2(特開2003−236998号公報)に、装飾用シートとしての記載がある。しかし、オレフィン系フィルムは安価に製造できるが、曲面に対する形状の追従性が低く、カッティング適性が悪い。また、アクリル系フィルムは一般に脆く、ガソリンや溶剤などの薬品に侵されやすい。
さらに、基材材料としてポリウレタンフィルムを用いるマーキングフィルムは特許文献3(特開2003−295769号公報)に記載されている。このポリウレタンフィルムは軟化点が80〜190℃であるポリエステル系もしくはポリカーボネート系のものから形成されている。
また、一般に、マーキングフィルムの貼付作業は、戸外やガレージ等の空調設備が完備されていない場所でなされることも多い。このような作業環境では、気候により作業温度が大きく変動し、安定した貼り付け作業性を得ることが困難である。
【0004】
【特許文献1】特開平8−157780号公報(請求項1の記載)
【特許文献2】特開2003−236998号公報(請求項1の記載)
【特許文献3】特開2003−295769号公報(請求項1及び実施例1の記載)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、耐薬品性(たとえば、耐ガソリン性)や環境温度での良好な貼り作業性を有する非塩化ビニル材料を用いたマーキングフィルム基材及びそれを用いたマーキングフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、1つの態様において、
(i)ガラス転移温度(Tg)が−15℃〜15℃である第一のポリオール100質量部と、
(ii)前記第一のポリオールより高いガラス転移温度(Tg)を有し、当該ガラス転移温度(Tg)が10℃〜30℃である第二のポリオール10〜60質量部と、
(iii)ポリイソシアネートと、
を含む混合物から得られるポリウレタンを含むマーキングフィルム基材を提供する。
【0007】
本発明は、別の態様において、
上記のマーキングフィルム基材と、
前記マーキングフィルム基材の主表面上に形成された画像層と、
前記画像層上に形成された保護層と、
前記マーキングフィルム基材の裏面上に形成された接着剤層と
を含む、マーキングフィルムを提供する。
「ガラス転移温度(Tg)」は、十分に低い温度から10℃/分の温度上昇速度でサンプルを加熱し、示差走査熱量計(DSC)にて吸熱量を測定し、縦軸を発熱量(吸熱量)とし、横軸を温度として作成した吸熱曲線に2本の延長線(A及びB)を引き、この延長線間距離(h)のほぼ中央の位置(1/2h)で、延長線ABに対し平行に引いた1/2直線(C)と吸熱曲線との交点に対応する温度(D)として測定される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマーキングフィルム基材を用いたマーキングフィルムは、比較的高いガラス転移温度のポリオールと、比較的低いガラス転移温度のポリオールを組み合わせ、イソシアネートで架橋しているため、耐薬品性(たとえば、耐ガソリン性)を有するとともに、単一のポリオールを用いる場合に較べ、広い環境温度で良好な貼り付け作業性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明をその好適な態様に基づいて説明する。しかし、本発明の範囲はかかる態様に限定されるものではない。
【0010】
本発明のマーキングフィルム基材を構成するポリマーは、(i)ガラス転移温度(Tg)が−15℃〜15℃であるポリオール(以下において、「第一のポリオール」又は「低ガラス転移温度ポリオール」とも呼ぶことがある)と、
(ii)上記第一のポリールよりも高いガラス転移温度(Tg)を有し、当該ガラス転移温度(Tg)が10℃〜30℃であるポリオール(以下において、「第二のポリオール」又は「高ガラス転移温度ポリオール」とも呼ぶことがある)と、
(iii)ポリイソシアネートと、
を混合して得られる混合物を反応させて得られるポリウレタンを含む。
第一のポリオールは水酸基価が10〜20であることができ、第二のポリオールは水酸基価が5〜10であることができる。
なお、本明細書中にわたって使用される「水酸基価」はポリオール1gから得られるアセチル化物を加水分解して遊離する酢酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム数(mg)を意味する。
混合物には、成分(i)100質量部に対して、成分(ii)が10〜60質量部、好ましくは25〜50質量部の量で含まれる。成分(iii)のイソシアネート(NCO)/(成分(i)及び(ii)の水酸基(OH))の当量比は少なくとも0を超え、好ましくは0.5〜1である。高ガラス転移温度ポリオールとともに、低ガラス転移温度ポリオールを主な成分として用いることで、貼り付け作業を行う際の温度が低い場合にも、被着体の形状に追従して良好に貼り付け作業を行うことができる。また、高ガラス転移温度ポリオールを用いることで、貼り付け作業温度が高い場合にも、貼り付け作業時の伸びを抑制できる。イソシアネート架橋していることで、フィルムの過度の伸びを抑制し、また、耐ガソリン性などの耐薬品性を有することができる。
なお、第一のポリオールより第二のポリオールのガラス転移温度は常に高く、その温度差は、例えば10℃〜50℃、好ましくは20℃以上、さらに好ましくは25℃以上である。
【0011】
本発明に使用される第一のポリオール及び第二のポリオールは、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートポリオールであることができる。ポリエステルポリールはポリカーボネートポリオールよりも可とう性があるので、特に、ポリエステルポリオールを用いることができる。また、第一と第二のポリオールがポリエステルポリオールであると、ポリウレタンフィルムを取り扱うのが容易である。さらに、ポリエステルポリオールは安価である。それゆえ、第一のポリオール又は第二のポリオールとしてポリエステルポリオールが好ましくは用いられる。ポリエステルポリオールは、たとえば、アジピン酸、ヘキサメチレンジカルボン酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などからなる群から選ばれた1種または2種以上のジカルボン酸と、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール及びカプロラクトンジオ−ルからなる群から選ばれた1種または2種以上のジオールとから形成されたポリエステル単位を主鎖に含み、少なくとも主鎖両末端に水酸基を有するものが使用できる。また、カプロラクトンの開環重合により得られたポリオールも使用できる。また、上記ジオール化合物に加えて、1,1,1−トリメチロールプロパン、グリセリン等のトリオールを主鎖に組み込み、側鎖に水酸基を有するようにすることもできる。なお、衝撃吸収性を高めるために好適には、脂肪族ジカルボン酸を原料として用いたポリエステルポリオールである。
【0012】
ガラス転移温度が低い第一のポリオールの水酸基価は10〜20に調節され、ガラス転移温度が高い第二のポリオールの水酸基価は、より少ない5〜10に調節される。水酸基価は得られるポリウレタンの架橋点となり、フィルムの硬さや破断点伸び率に影響を及ぼす。水酸基価は得られるポリウレタンの分子量を調節することで調節可能であり、また、トリオールの使用量によっても調節可能である。すなわち、単位質量当たりの水酸基の数を調節することで上記範囲の水酸基価とすることができる。なお、「水酸基価」はポリオール1gから得られるアセチル化物を加水分解して遊離する酢酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム数(mg)を意味する。水酸基価は無水酢酸法(JISK3342)、無水フタル酸法 (JISK1557)によって測定できる。
【0013】
第一のポリオール及び第二のポリールのガラス転移温度(Tg)はポリオールを構成するモノマーの種類やポリオールの分子量などによって決まる。市販の各種のポリエステルポリオールの中から、所定のガラス転移温度を有するものを選択することが可能である。なお、ガラス転移温度(Tg)は、十分に低い温度から10℃/分の温度上昇速度でサンプルを加熱し、示差走査熱量計(DSC)にて吸熱量を測定し、縦軸を発熱量(吸熱量)とし、横軸を温度として作成した吸熱曲線に2本の延長線(A及びB)を引き、延長線間の1/2直線(C)と発熱曲線の交点に対応する温度(D)として測定される。
なお、第一と第二のポリオールと、ポリイソシアネートとを混合し、架橋反応により得られるポリウレタンのガラス転移温度は、複数のガラス転移温度を示すか、もしくは単一でもブロードな転移温度範囲を示す。実質的に広い範囲にガラス転移温度を有することになり、単独のポリオールを使用した場合に比較し、広い環境温度、例えば10℃〜35℃での貼り付け作業を行うことが可能になる。なお、この場合に得られるガラス転移温度は、それぞれ単独で第一と第二のポリオールをポリイソシアネートで架橋した場合に得られる架橋後のガラス転移温度と比較すると、低温側のガラス転移温度はやや高温側に、高温側のガラス転移温度はやや低温側にシフトする傾向がみられる。
【0014】
第一のポリオールとしてのポリエステルポリオールの市販製品の例としては2065Bや2154A(荒川化学工業株式会社)などが挙げられる。
一方、第二のポリオールとしての別のポリエステルポリオールの市販製品の例としては2170(荒川化学工業株式会社)やバイロンGK150(東洋紡績株式会社)などが挙げられる。
【0015】
第一のポリオール(成分(i))と第二のポリオール(成分(ii))との割合は、成分(i)100質量部に対して、好ましくは成分(ii)が10〜60質量部、より好ましくは25〜50質量部の量で混合する。成分(ii)の量が少なすぎると、環境温度が高い場合に(たとえば、35℃)、フィルムが延び過ぎて良好な貼り付け作業が行われなくなる。一方、成分(ii)の量が多すぎると、環境温度が低い場合に(たとえば、10℃)、フィルムが剛直になり、良好な貼り付け作業が行われなくなる。
【0016】
ポリウレタンでは、第一のポリオール及び第二のポリオールは、第一のポリオールどうし、第二のポリオールどうし、そして第一のポリオールと第二のポリオールとがイソシアネートで架橋している。このような架橋は、フィルムの凝集力や強度を高めるとともに、高温(たとえば、35℃)時のフィルムの過度の伸張を抑制するので、高温時の貼り付け作業を良好にする。ポリウレタンを製造するためのポリイソシアネート化合物は、たとえば、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)、または、水添MDI、1,6−ヘキサンジオールジイソシアネートからなる群から選ばれた1種または2種以上のジイソシアネートである。また、この様なジイソシアネートを含む出発原料から合成されたものも使用できる。たとえば、(A)上記トリオール(1,1,1−トリメチロールプロパン等)と、上記ジイソシアネートとをウレタン化反応させて得た化合物、または(B)上記ジイソシアネートどうしを反応させて得た、ビウレット構造またはイソシアヌレート構造を有する化合物などが利用できる。また、NCO当量を調節するために、上記化合物と、ポリカプロラクトンジオール等のジオールとを反応させて得た多官能イソシアネート化合物も使用できる。
【0017】
ポリウレタンを製造するための混合物中のポリイソシアネート(成分(iii))の量は、成分(iii)のイソシアネート(NCO)/(成分(i)及び(ii)の水酸基(OH))の当量比は少なくとも0を超え、好ましくは0.5〜1とする。イソシアネートが含まれないと、ポリウレタンが得られない。また、この当量比が0.5以上になると十分な架橋密度が得られ、強度と耐薬品性が備わる。1を超えると、未反応ポリイソシアネートが残存するとともに、フィルムが硬すぎて低温での貼り付け作業が困難になる可能性があるため、成分(iii)のイソシアネート(NCO)/(成分(i)及び(ii)の水酸基(OH))の当量比は、1以下が好ましい。
【0018】
ポリウレタンは、通常のウレタン生成反応を用いることで製造できる。たとえば、上記の特定の第一のポリオールと、第二のポリオールと、ポリイソシアネートとを、上記のNCO/OH当量比となるようにして、酢酸ブチルまたはメチルエチルケトンなどの溶剤中で、必要に応じてジブチルチンジラウレートなどの適切な触媒とともに混合して混合物を得る。
なお、混合するポリオールとしては、第一及び第二のポリオール以外に、さらにガラス転移点が異なる他のポリオールを1種あるいは複数種さらに混合してもよい。
これらのポリオールは好ましくは分子量が10,000〜30,000である。もし、分子量が10,000より低いと、十分に延伸可能でなくなることがある。もし、分子量が30,000より大きいと、結合点の数が減少し、靭性が失われる。
【0019】
上述のようにして得られた混合物の溶液に、必要に応じて添加される添加剤を添加し、剥離処理ポリエステル(剥離処理ポリエチレンテレフタレート(PET))などの剥離ライナー上に、乾燥後の厚さが適当な厚さとなるように塗布し、そして加熱(たとえば、80℃以上の温度)して架橋反応を完了するとともにフィルムを乾燥する。このようにして、本発明のマーキングフィルム基材を得ることができる。マーキングフィルムの基材の厚さは、限定するわけではないが、通常、20〜200μm程度である。
【0020】
本発明のマーキングフィルム基材には、たとえば、ポリウレタンの他に、必要に応じて、顔料などの着色剤を含有させてもよい。顔料の含有量は、通常、マーキングフィルム基材の質量の1〜80質量%である。また、着色剤のほか、本発明の効果を損なわないかぎり、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤などの添加剤も含んでよい。
【0021】
得られたマーキングフィルム基材には、インクジェット印刷やシルクスクリーン印刷などの方法により画像層を形成し、装飾などを施すことができる。画像層は、マーキングフィルム基材が着色剤を含有するなどして不透明な場合には、主表面(観察側)に形成されるが、マーキングフィルム基材が透明な場合には、主表面又は裏面のいずれの面に形成されてもよい。
【0022】
マーキングフィルム基材上の画像層の上には、通常、保護層が形成される。保護層は、通常、下層の画像層を観察できるように透明な層である。このような層には、塗布後に硬化させることで保護層を形成することができる硬化性樹脂を用いることで製造できる。具体的には、硬化性樹脂として使用できるのは、たとえば、アクリル系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、シリコーン系(シリコーンポリウレア等の変性シリコーンも含む)のポリマーであって、たとえば、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基等の硬化剤と反応可能な官能基や、光硬化性官能基を有する硬化性ポリマーである。このようなポリマーと、硬化剤等を含む溶液を、画像層上に適用し、光又は熱などの適切な手段で硬化させることで保護層が形成される。また、保護層には、耐候性、安定性、その他性能を向上させる目的で、紫外線吸収剤や安定剤、あるいはその他添加剤を加えることも可能である。保護層の厚さは、限定するわけではないが、通常、1〜50μm程度でよい。
【0023】
さらに、本発明のマーキングフィルム基材の裏面(保護層と反対側の面)には、通常、接着剤層が形成され、マーキングフィルムとされる。接着剤層としては、通常の接着シートにおいて使用されるものが使用できる。たとえば、接着剤層は、感圧接着剤(粘着剤)、感熱接着剤(ホットメルト接着剤を含む)、溶剤活性型接着剤等の接着剤を含む層である。接着剤としては、たとえば、加工性、施工性、耐候性、価格を考慮した場合、アクリル系粘着剤を用いるのが好適である。粘着剤中には、耐候性を向上させるための紫外線吸収剤、熱安定剤を添加することができる。また、接着力を向上させるために、架橋剤(硬化剤)、粘着付与剤、可塑剤などを添加することができる。接着剤は、アクリル系粘着剤の他、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリウレタン系、シリコーン系(シリコーンポリウレア等の変性シリコーンも含む)、エポキシ系の接着剤も使用できる。接着層は、接着剤を含む塗布液の塗膜から形成できる。また、接着層の厚さは、特に限定されないが、通常5〜500μm、通常10〜300μmの範囲である。
【実施例】
【0024】
1.評価方法
1.1.ポリマーの特性
1.1.1.ポリマーの水酸基価
製造者のカタログ値を用いた。
【0025】
1.1.2.ポリマーのガラス転移温度(Tg)測定
−50℃から10℃/分の温度上昇速度でサンプルを加熱し、(株)リガクのThermoplus DSC8234にて吸熱量を測定し、縦軸を発熱量(吸熱量)とし、横軸を温度として吸熱曲線を作成した。得られた曲線に対して、図1に示すように、2本の延長線(A及びB)を引き、延長線ABに対して平行に引いた1/2直線(C)と発熱曲線の交点に対応する温度(D)をガラス転移温度(Tg)として求めた。未架橋ポリエステルと架橋後のポリエステルのガラス転移温度を測定した。
【0026】
1.2.物性試験
1.2.1.破断点伸び率はJISK7161に規定される方法に準拠し、以下の条件で測定した。
測定サンプル形状:JISK7161に記載される「試験片タイプ2」25mm幅
引張速度:300mm/分
測定温度:10℃、23℃、35℃
破断点伸び率(%):測定サンプルの破断時の距離L1(mm)と、初期距離L0(mm)を測定し、(L1−L0)/L0×100より求めた。
【0027】
1.2.2.耐ガソリン性評価
サンプルをメラミン塗装板に貼り付け、48時間以上、養生させたものを、フューエルC(トルエン/2,2,4−トリメチルペンタン=50/50質量比)の溶剤中に20分間浸漬した。取り出して24時間後の様子を目視にて観察して、殆ど変化しない場合を○、しわが入るなどの変化があった場合を×と評価した。
【0028】
1.2.3.曲面貼り付け評価
直径200mmのメラミン塗料で塗装された半球に、各大きさの直径(70mm、80mm、90mm、100mm、110mm、120mm)に切り抜いた円形のマーキングフィルムをスキージを用いて貼り付けた。貼り付けは温度10℃及び相対湿度30%、24℃及び64%、ならびに、35℃及び80%で行った。貼り付け時にしわが入らず、形状に歪みがなく貼ることができた円形マーキングフィルムの最大直径で評価した。
【0029】
参考例1
第一のポリオールとして、荒川化学工業株式会社のポリエステルポリオール2154A(品番)を用意した。ポリエステルポリオール2154Aは水酸基価が15であり、分子量が18,000である。このポリオールをメチルエチルケトンで希釈し、剥離処理ポリエチレンテレフタレート(PET)ライナー(東セロ株式会社製、SP−PET−O1−B(品番))上に乾燥厚さが50μmとなるようにベーカー式アプリケーター(またはドクターブレード)にて塗布した。これを80℃で3分間、150℃で3分間オーブンにて乾燥させた後に、室温で十分にエイジングさせ、ライナーからフィルムを剥がし、マーキングフィルム基材を得た。
このマーキングフィルム基材(未架橋の第一のポリオール)の評価結果を下記の表1に示す。
【0030】
参考例2
参考例1と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、第一のポリオールにNCO/OH当量比が1:1となるように、イソホロンジイソシアネート(IPDI)トリマー(Degussa社製、T−1890E(品番))を添加した。このマーキングフィルム基材(イソシアネート架橋した第一のポリオール)の評価結果を下記の表1に示す。
【0031】
参考例3
参考例1と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、第一のポリオールの代わりに、荒川化学工業株式会社のポリエステルポリオール2170(品番)を用いた。ポリエステルポリオール2170(品番)は水酸基価が6であり、分子量が18,000である。
このマーキングフィルム基材(未架橋の第二のポリオール)の評価結果を下記の表1に示す。
【0032】
参考例4
参考例3と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、第二のポリオールにNCO/OH当量比が1:1となるように、イソホロンジイソシアネート(IPDI)トリマー(Degussa社製、T−1890E(品番))を添加した。このマーキングフィルム基材(イソシアネート架橋した第二のポリオール)の評価結果を下記の表1に示す。
【0033】
実施例1
第一のポリオールとして、荒川化学工業株式会社のポリエステルポリオール2154A(品番)を用意した。また、第二のポリオールとして、荒川化学工業株式会社のポリエステルポリオール2170(品番)を用意した。これらの第一のポリオール及び第二のポリオールを、第一のポリオール100質量部に対して第二のポリオールを25質量部の割合で混合し、メチルエチルケトンで希釈した。この溶液に、NCO/OH当量比が1:1となるように、イソホロンジイソシアネート(IPDI)トリマー(Degussa社製、T−1890E(品番))を添加した。次いで、剥離処理ポリエチレンテレフタレート(PET)ライナー(東セロ株式会社製、SP−PET−O1−B(品番))上に乾燥厚さが50μmとなるように塗布した。これを80℃で3分間、150℃で3分間オーブンにて乾燥させた後に、ライナーからフィルムを剥がし、マーキングフィルム基材を得た。
このマーキングフィルム基材(本発明:第一のポリオール:第二のポリオールの重量比=100/25)の評価結果を下記の表1に示す。
【0034】
比較例1
実施例1と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、イソホロンジイソシアネート(IPDI)トリマーを添加しなかった。
このマーキングフィルム基材(未架橋、第一のポリオール:第二のポリオールの重量比=100/25)の評価結果を下記の表1に示す。
【0035】
実施例2
実施例1と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、第一のポリオール:第二のポリオールの重量比=100/50とした。
このマーキングフィルム基材(本発明:第一のポリオール:第二のポリオールの重量比=100/50)の評価結果を下記の表1に示す。
【0036】
比較例2
実施例2と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、イソホロンジイソシアネート(IPDI)トリマーを添加しなかった。
このマーキングフィルム基材(未架橋、第一のポリオール:第二のポリオールの重量比=100/50)の評価結果を下記の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
第一のポリオールと第二のポリオールとを組み合わせることで、広い温度範囲にわたって適度な破断点伸び率を示した。また、イソシアネート架橋によって耐ガソリン性が向上した。なお、参考例1及び2において、35℃における破断点伸び率が23℃における破断点伸び率より見かけ上低いデータが得られたが、これは35℃において基材の伸長性が増した結果、切断されやすくなるためである。
【0039】
実施例3
実施例1と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、イソホロンジイソシアネート(IPDI)トリマーの量をNCO/OH当量比が0.75/1となるようにし、マーキングフィルム基材の厚さを100μmとした。このようなマーキングフィルム基材に対して、ライナーつきの粘着剤(3M社製、RD2738、厚み30μm)を貼りあわせて粘着フィルムとした。保護層として(ウレタン系硬化性樹脂塗料)からなる層(住友スリーエム社製、GA−3S(品番)、厚さ20μm))を印刷し、90℃1.5時間オーブンにて硬化し、クリア層を形成した。また、クリア層の上にアプリケーションテープ(住友スリーエム社製、SCT331J(品番)、厚さ80μm)をラミネートし、マーキングフィルムを得た。なお、画像層はマーキングフィルムの特性に影響を及ぼさないので、省略した。
このマーキングフィルムに対して、上記の曲面貼り付け評価を行なった。結果を表2に示す。
【0040】
実施例4
実施例3と同様にマーキングフィルムを形成したが、NCO/OH当量比が1/1となるようにした。このマーキングフィルムに対して、上記の曲面貼り付け評価を行なった。結果を表2に示す。
【0041】
実施例5
実施例2と同様にマーキングフィルム基材を製造したが、イソホロンジイソシアネート(IPDI)トリマーの量をNCO/OH当量比が0.5/1となるようにし、マーキングフィルム基材の厚さを100μmとした。このようなマーキングフィルム基材に対して、実施例3と同様の操作を行い、マーキングフィルムを得た。このマーキングフィルムに対して、上記の曲面貼り付け評価を行なった。結果を表2に示す。
【0042】
実施例6
実施例2と同様にマーキングフィルム基材を形成したが、NCO/OH当量比が0.75/1となるようにし、マーキングフィルム基材の厚さを100μmとした。このようなマーキングフィルム基材に対して、実施例3と同様の操作を行い、マーキングフィルムを得た。このマーキングフィルムに対して、上記の曲面貼り付け評価を行なった。結果を表2に示す。
【0043】
実施例7
実施例2と同様にマーキングフィルム基材を形成したが、マーキングフィルム基材の厚さを100μmとした。このようなマーキングフィルム基材に対して、実施例3と同様の操作を行い、マーキングフィルムを得た。このマーキングフィルムに対して、上記の曲面貼り付け評価を行なった。結果を表2に示す。
【0044】
比較例3
実施例2と同様にマーキングフィルム基材を形成したが、第一のポリオールのみを用い、第二のポリオールを用いずにマーキングフィルム基材を製造し、その厚さを100μmとした。このようなマーキングフィルム基材に対して、実施例3と同様の操作を行い、マーキングフィルムを得た。このマーキングフィルムに対して、上記の曲面貼り付け評価を行なった。結果を表2に示す。
【0045】
比較例4
実施例2と同様にマーキングフィルム基材を形成したが、第一のポリオール/第二のポリオールの質量比が100/65となるようにし、マーキングフィルム基材の厚さを100μmとした。このようなマーキングフィルム基材に対して、実施例3と同様の操作を行い、マーキングフィルムを得た。このマーキングフィルムに対して、上記の曲面貼り付け評価を行なった。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
比較例3の結果から、第一のポリオールのみを用いた場合には、高温で伸張性が高すぎ、高温での貼り付け作業性が低く、また、比較例4の結果から、第二のポリオールの添加量が多すぎると、低温で剛直になり、低温での貼り付け作業性が若干低くなることが判る。一方、本発明のマーキングフィルムでは、広い温度範囲にわたって良好な貼り付け作業性が得られた。
以上、実施の形態及び実施例を用いて、本発明のマーキングフィルム基材及びマーキングフィルムについて説明したが、本発明はこれらの記載に限定されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】ガラス転移温度(Tg)測定法を説明する略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ガラス転移温度(Tg)が−15℃〜15℃であるポリオール100質量部と、
(ii)前記第一のポリオールより高いガラス転移温度(Tg)を有し、当該ガラス転移温度(Tg)が10℃〜30℃である第二のポリオール10〜60質量部と、
(iii)ポリイソシアネートと、
を含む混合物から得られるポリウレタンを含むマーキングフィルム基材。
【請求項2】
前記第一のポリオール及び第二のポリオールはポリエステルポリオールである、請求項1に記載のマーキングフィルム基材。
【請求項3】
前記第一のポリオールは水酸基価が10〜20であり、前記第二のポリオールは水酸基価が5〜10である、請求項1又は2に記載のマーキングフィルム基材。
【請求項4】
前記ポリウレタンは、前記第一と第二のポリオールの水酸基総量に対する前記ポリイソシアネート成分(iii)のイソシアネート基の当量比((NCO)/(OH))が0.5〜1となるように、前記第一と第二のポリオール及び前記ポリイソシアネートを混合して得られたものである、請求項3に記載のマーキングフィルム基材。
【請求項5】
前記第一のポリオールのガラス転移温度に対し、前記第二のポリオールのガラス転移温度は、少なくとも10℃以上高い、請求項1〜4のいずれか1項に記載のマーキングフィルム基材。
【請求項6】
前記ポリウレタンは、複数の転移温度を持つことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のマーキングフィルム基材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のマーキングフィルム基材と、
前記マーキングフィルム基材の主表面上に形成された画像層と、
前記画像層上に形成された保護層と、
前記マーキングフィルム基材の裏面上に形成された接着剤層と
を含む、マーキングフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2008−208246(P2008−208246A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−47268(P2007−47268)
【出願日】平成19年2月27日(2007.2.27)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】