説明

マーキング付きの物体

【課題】十分なトレーサビリティを確保するマーキング付きの物体を提供する。
【解決手段】市場を流通している鉄道車両の検査時に、ブレーキディスク1を取り外し、蛍光X線装置にて改質部2の成分及び重量比を測定する。このときに得られた測定結果と製造履歴情報の内容とを比較することにより、そのブレーキディスク1の製造年月日及び製造場所を知ることができる。また、測定結果が特定の値から外れているものであった場合は、そのブレーキディスク1は自社で製造されたものではないと識別することができるため、他社製品との自他識別を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、車両(例えば、電車、自動車等)における構造体の自他識別や、自社の製造年月日等の特定等に用いるマーキングが付された物体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこのような分野の技術として、特開平7−204872号公報がある。この公報に記載されたマーキング付きの物体は、対象物にレーザを照射して表面を融解させ、自他識別情報や製造履歴情報を文字及び図形等で表記することによりマーキングされており、これによってトレーサビリティを確保していた。
【特許文献1】特開平7−204872号公報
【0003】
ここで、上記物体にあっては、対象物の表面を融解させることにより自他識別情報や製造履歴情報が表記されていたため、摩耗等により表面の文字や図形等が消えてしまう可能性があった。そのような場合には、対象物に表記された自他識別情報や製造履歴情報を読み取ることができず、トレーサビリティの確保に問題を生じる場合があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、十分なトレーサビリティを確保するマーキング付きの物体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るマーキング付きの物体は、対象物にマーキング部が施された物体において、マーキング部は、対象物と異なった成分を有する改質部によって構成されることを特徴とする。
【0006】
このマーキング付きの物体では、自他識別情報や製造履歴情報等を示すマーキング部は、改質部として形成されているため、対象物の表面が摩耗又は腐食しても、改質部が僅かでも残存していれば、自他識別情報や製造履歴情報等を読み取ることができる。これによって、より確実にトレーサビリティを確保することができる。更に、改質部は対象物の製造時に予め定められた成分により形成されているため、使用中又は使用後に改質部を、破壊又は非破壊検査することにより、製造時の成分との比較が容易となり、市場に流通している対象物のトレーサビリティを確保することができる。
【0007】
また、改質部は、溶融手段による成分の溶融後の凝固により形成されたことが好ましい。成分の融解後の凝固により、改質部が強固に対象物に固定され、残存し易くなるので、より確実にトレーサビリティを確保することができる。
【0008】
また、融解手段はレーザであることが好ましい。レーザにて集中して融解させることができるので、改質部周辺において、対象物への熱影響を限りなく少なくすることができる。
【0009】
また、対象物の摩耗面又は腐食面と反対側の面に改質部を形成し、改質部は貫通していないことが好ましい。この方法によれば、摩耗面又は腐食面が一定量だけ摩耗又は腐食したとき、改質部の一部が露出することとなる。この改質部の露出状況は、対象物の交換時期の目安に利用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るマーキング付きの物体によれば、十分なトレーサビリティを確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るマーキング付きの物体の好適な実施形態について説明する。
【0012】
図1は、鉄道車両のブレーキディスク(対象物)1を示す斜視図である。ブレーキディスク1の摩耗面1aと反対側の面1bには、製造履歴情報を示すマーキング部である改質部2が設けられている。
【0013】
改質部2の成分や重量比は、製造年月日及び製造場所等の製造履歴情報に従って定められている。表1は改質部2の成分と製造履歴情報の項目との対応を示しており、Niの重量比により製造年を示し、Crの重量比により製造月を示し、Moの重量比により製造場所を示している。
【0014】
【表1】

【0015】
ブレーキディスク1が製造された製造年に基づいて、改質部2に含有するNiの重量比(wt.%)は表2に示すように決定されている。
【0016】
【表2】

【0017】
ブレーキディスク1が製造された製造月に基づいて、改質部2に含有するCrの重量比(wt.%)は表3に示すように決定されている。
【0018】
【表3】

【0019】
ブレーキディスク1が製造された製造場所に基づいて、改質部2に含有するMoの重量比(wt.%)は表4に示すように決定されている。
【0020】
【表4】

【0021】
市場に流通している鉄道車両の検査時に、ブレーキディスク1を取り外し、可搬タイプの蛍光X線装置にて改質部2の成分及び重量比を測定する。このときに得られた測定結果と表2〜4に示す製造履歴情報の内容とを比較することにより、そのブレーキディスク1の製造年月日及び製造場所を知ることができる。また、測定結果が表2〜4に示す値から外れているものであった場合は、そのブレーキディスク1は自社で製造されたものではないと識別することができるため、他社製品との自他識別を行うことができる。
【0022】
このように、改質部2は、ブレーキディスク1の製造時において予め定められた成分及び重量比により形成されているため、使用中又は使用後に改質部2を、破壊又は非破壊検査することにより、製造時の成分及び重量比との比較が容易となり、市場に流通しているブレーキディスク1のトレーサビリティを確保することができる。
【0023】
例えば、ブレーキディスク1の製造時において、表5に示す成分及び重量比からなる改質部2がブレーキディスク1に形成されている。
【0024】
【表5】

【0025】
そして、検査時に蛍光X線装置にて測定すると、測定結果は表6のようになる。
【0026】
【表6】

【0027】
表2〜4と表6とを比較することにより、ブレーキディスク1が2007年10〜12月の間にB工場にて製造されたものであることが分かる。
【0028】
そして、蛍光X線装置を用いて、改質部2の成分及び重量比、すなわち製造履歴情報を読み取ることによって、ブレーキディスク1を破壊することなく、十分なトレーサビリティを確保することができる。
【0029】
次にブレーキディスク1に改質部2を設ける工程を、図2(a)〜(e)を参照して説明する。
【0030】
ブレーキディスク1の面1bに、ドリルにより直径1mm、深さ0.5mmの円錐状の凹部3を形成し、その凹部3に金属パウダー4を充填する。なお、金属パウダー4に含有されるNi、Cr及びMoの重量比は、ブレーキディスク1の製造年月日及び製造場所に基づき、表2〜4によって決定される。
【0031】
照射エネルギー20J/pの条件にてパルス発振YAGレーザ5から発振したレーザ(融解手段)6を、金属パウダー4に照射し、融解させる。レーザ6は集光点6aにて集中して金属パウダー4を融解させることができるので、凹部3周辺の母材への熱影響を限りなく少なくすることができる。
【0032】
レーザ6により融解された金属パウダー4が冷えて凝固することにより、凹部3に改質部(合金)2が形成されることとなる。このように、製造履歴情報を示すマーキング部は、改質部2として形成されているため、ブレーキディスク1の表面が摩耗又は腐食しても、改質部2が僅かでも残存していれば、製造履歴情報を読み取ることができる。これによって、より確実にトレーサビリティを確保することができる。
【0033】
また、金属パウダー4の融解後の凝固により、改質部2が強固にブレーキディスク1に固定され、残存し易くなるので、より確実にトレーサビリティを確保することができる。
【0034】
また、図3に示すように、改質部2は、摩耗面1aと反対側の面1bに形成されており、貫通していない。従って、図4に示すように、ので、摩耗面1aが一定量摩耗することにより、改質部2の一部が露出することとなる。この改質部2の露出状況は、ブレーキディスク1の交換時期の目安に利用することができる。
【0035】
本発明は上記実施形態に限られない。凹部3は面1bに形成される代わりに、摩耗面1aに形成されていてもよい。
【0036】
また、本発明に係るマーキング付きの物体は、ブレーキディスク1の他にブレーキドラム等であってもよい。また、金属製の対象物に限らず、樹脂製の対象物であってもよい。
【0037】
また、摩耗面1aの代わりに腐食面を有する対象物であってもよく、摩耗面1aあるいは腐食面を有さない対象物であってもよい。
【0038】
さらに、改質部2は、合金に限らず、対象物と異なる材質であればよい。例えば、金属に限らず、樹脂であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】鉄道車両のブレーキディスクの斜視図である。
【図2】ブレーキディスクに改質部を設ける工程を示す断面図である。
【図3】ブレーキディスクの摩耗面が摩耗する前の状態を示す部分断面図である。
【図4】ブレーキディスクの摩耗面が摩耗した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…ブレーキディスク(対象物)、1a…摩耗面、1b…摩耗面又は腐食面と反対側の面、2…改質部、6…レーザ(融解手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にマーキング部が施された物体において、
前記マーキング部は、前記対象物と異なった成分を有する改質部によって構成されることを特徴とするマーキング付きの物体。
【請求項2】
前記改質部は、溶融手段による前記成分の溶融後の凝固により形成されたことを特徴とする請求項1記載のマーキング付きの物体。
【請求項3】
前記溶融手段はレーザであることを特徴とする請求項2記載のマーキング付きの物体。
【請求項4】
前記対象物の摩耗面又は腐食面と反対側の面に前記改質部を形成し、前記改質部は貫通していないことを特徴とする請求項1〜3記載のマーキング付きの物体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−268535(P2007−268535A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93495(P2006−93495)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】