説明

マーキング機能付きレンチ

【課題】 仕組みを簡易化して加工コスト、製造コストを低廉化し、マーキング作業時の煩わしさを軽減すると共に、振動等に影響を受けることなく、また締め付け姿勢等に左右されることなく、簡単に且つ確実にマーキングできるようにする。
【解決手段】 ソケット2が、その軸心位置に棒形のマーカー8を備える。棒形ハンドル1が、先端部1aの位置に押し下げ部材19を備える。ソケット2の雌形嵌合部2aに臨むマーカー8の端面8bを、押し下げ時にボルト又はナット12にインクを塗布するためのインク塗布面に形成する。押し下げ部材19を、先端部1a内のバネ20の弾発力に抗して手で押圧操作するための頭部19aと、角ドライブ1bの軸心位置に配置されて頭部19aが押されると角ドライブ1bの軸方向に沿って頭部19aと共に移動しマーカー8を押し下げる軸棒19bとで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボルトやナットを締め付けるために使用するレンチに関し、更に詳しくは締め付け完了を示すためのマークをボルトやナットに表示できるよう形成したマーキング機能付きレンチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来この種のレンチとしては、例えば締め付けトルクが解放されるとマーカ筒が自動的に下降し、このマーカ筒の下面のスタンプ面でボルトの頭等にインクを塗布できるよう形成しているものがある(特許文献1参照)。
また従来、例えばトルクの設定手段と共に、マーキング機能を備えたアタッチメントを、アームの先のチャック(角ドライブ)に取り付けるよう形成したトルクレンチも知られている(特許文献2参照)。
【0003】
しかし特許文献1に記載のトルクレンチは、マーカ筒をバネの牽引力に抗して一方の手で持ち上げ、次にマーカ筒を持ち上げたまま他方の手でストッパ棒の先端をマーカ筒の環状溝に係合させ、マーカ筒を上方位置に一時的に係止させる、という操作を、ネジ締め作業の度に必要とするものであった。
従ってこれによると、この種の操作が面倒で煩雑であっただけではなく、ストッパ棒がネジ締め操作時に振動等で外れることがあったから、使い勝手が悪い、という問題点があった。
またこの従来品の場合は、マーカ筒を係止するためのストッパ棒や、このストッパ棒をマーカ筒に向かって付勢させるためのバネや、ストッパ棒を棒形ハンドルの上に、平行且つ摺動自在に支持するための支持機構が必要になるため、部品数が増え、製造加工に手間暇がかかり、加工コストや製造コストが高くなるのを避けられなかった。
また特許文献2に記載のトルクレンチは、上記の通り、チャック(角ドライブ)に取り付けるためのアタッチメントが、トルクの設定手段を備えているものである。
従ってこれによると、ネジ締め力を限定してボルトやナットを締め付けるとき以外はマーキングできず、またアタッチメントにトルクの設定手段が設けられているため、その分、ヘッド側が重くなって操作しにくい、という問題点があった。
またこの従来品は、トルクが解放した時の回転ピストン部等の移動を利用してインクをボルトやナットに塗布するものであるため、これによると例えば横向きや上向きの姿勢でネジ締め操作を行う場合に、マーカーの軸心の先がボルトやナットから離された状態のままマーキングされることがあり、そのため確実にマーキングできない、という問題点があった。
【特許文献1】特開平6−226653号公報
【特許文献2】特開2004−284008号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、提案されたものである。
従って本発明の解決しようとする技術的課題は、簡易な仕組みでマーキングできるようにして加工コスト、製造コストを低廉化でき、またマーキング作業時の煩わしさを軽減でき、振動等に影響を受けることなく、また締め付け姿勢や締め付けの向きに左右されることなく、簡単に且つ確実にマーキングできるよう形成したマーキング機能付きレンチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するため、次のような技術的手段を採る。
即ち本発明は、図1等に示されるように、棒形ハンドル1の先端部1aに、ソケット2を嵌め付けるための角ドライブ1bが設けられているレンチであって、上記のソケット2が、その軸心位置に、軸方向に沿って移動する棒形のマーカー8を備え、上記の棒形ハンドル1が、角ドライブ1bに対応する先端部1aの位置に、上記のソケット2に内蔵されているコイルバネ13の弾発力に抗して上記のマーカー8を角ドライブ1bと反対の側から押し下げるための押し下げ部材19を備え、上記のマーカー8は、ソケット2のボルト・ナット嵌合用の雌形嵌合部2aに臨む端面8bが、押し下げ時にボルト又はナット12にインクを塗布するためのインク塗布面に形成され、上記の押し下げ部材19が、先端部1a内のバネ20の弾発力に抗して手で押圧操作するための頭部19aと、角ドライブ1bの軸心位置に配置されて頭部19aが押されると角ドライブ1bの軸方向に沿って頭部19aと共に移動しマーカー8を押し下げる軸棒19bとで形成されていることを特徴とする(請求項1)。
【0006】
この場合本発明は、押し下げ部材19の頭部19aが、棒形ハンドル1の先端部1aに形成された凹段差部21に収納され、この凹段差部21の開口面21aが軟質性のカバー23で覆われ、このカバー23を介して上記の頭部19aが外部から押圧操作自在に形成されているのが好ましい(請求項2)。
【0007】
なぜならこれによると、押し下げ部材19の頭部19aをカバー23で保護できるから、手荒く扱っても頭部19aを損壊させることがないからである。またこの場合は、押し下げ部材19の頭部19aの首部と先端部1aの上面との間に隙間ができないため、頭部19aの首の周りから先端部1a内にゴミなどが入り込むことを防止できるからである。ここで、軟質性のカバー23としては、例えば軟質の樹脂シートや、ゴムシート等がある。
【0008】
また請求項1又は2に係る本発明品は、押し下げ部材19の軸棒19bの先端19b1が、角ドライブ1b内に位置決めされ、頭部19aが押し下げられると軸棒19bの先端19b1が角ドライブ1bの先端面1b1から突き出される状態に形成されているのが好ましい(請求項3)。
【0009】
なぜならこれによると、軸棒19bの先端19b1が角ドライブ1bから突き出されていないため、ソケット2が角ドライブ1bに嵌め付けられていないとき、軸棒19bの先端19b1が欠けることを防止できるからである。ここで、軸棒19bの先端19b1が角ドライブ1b内に位置決めされ、とは、軸棒19bの先端19b1が角ドライブ1b内に完全に没している場合、或いは角ドライブ1bの先端面1b1と軸棒19bの先端19b1とが面一状に位置決めされている場合を意味する。
【0010】
また請求項1乃至3の何れかに記載の本発明品は、棒形ハンドル1に、トルク設定機構3が設けられ、マーカー8のインクの色が異なるソケット2を複数備えて形成されているのが好ましい(請求項4)。
なぜならこれによると、ボルト又はナット12の締め付けトルク値に合わせて、マーキングの色を変更でき、設計通りに正確に締め付けられているかを、マーキングされた色から判別でき、使い勝手が良くなるからである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、このようにソケットが棒形のマーカーを備え、このマーカーを押し下げるための押し下げ部材を棒形ハンドルが備え、押し下げ部材を押すことによりマーカーを移動させて、ボルト又はナットにインクを塗布できるよう形成しているものである。
従って本発明は、仕組みが簡易であるため、これによれば従来品に比べ、はるかに少ない部品数で済み、その分、加工コスト、製造コストを低廉化できる。
また本発明品は、押し下げ部材を手で押すことによってボルトやナットをマーキングするものである。従ってこれによれば、締め付け操作時の振動や衝撃等の影響を受けることなく、また締め付け時の姿勢や向きに左右されることなく、簡単に、且つ確実にマーキングできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明は、図1等に示されるように、棒形ハンドル1の先端部1aに、ソケット2を嵌め付けるための角ドライブ1bが設けられているレンチである。この実施形態の本発明品は、棒形ハンドル1に、トルク設定機構3が設けられ、トルクレンチとして機能するよう構成されている。トルク設定機構3は、棒形ハンドル1の握り部1c(図5参照)内に、軸方向に沿って収納されているコイルスプリング3aや、このコイルスプリング3aの圧縮状態を変更するためのトルク調整リング3b等を備えて構成されている。なお4(図5参照)は、シャンク5と棒形ハンドル1とを枢着させるヒンジピンであり、棒形ハンドル1内のシャンク5とスラスタ6とは、トグルリンク7を介して連結されている。
【0013】
上記のソケット2は、その軸心位置に、軸方向に沿って移動する棒形のマーカー8を備えている。またソケット2は、この実施形態ではその一端部側に、角ドライブ1bの横孔1dに係合する鋼球9が、円錐コイルバネ10で弾発された状態で設けられている。11は、鋼球9と円錐コイルバネ10の脱落を防止するための蓋部材である。またソケット2の他端側は、ボルト又はナット12に嵌合するよう雌形嵌合部2aに形成されている。
【0014】
上記のマーカー8は、例えばインクの収納部8aを備え、上記の雌形嵌合部2aに臨む先端の端面8bがインク塗布面に形成され、押し下げ時にボルト又はナット12に、収納部8aから供給されるインクを付着可能に形成されている。13は、ソケット2内に、マーカー8を外装するよう内蔵されているコイルバネである。また14は、マーカー8に外装された断面T字形の上側の鍔付き管であり、15は下側の鍔付き管である。コイルバネ13は、これらの鍔付き管14、15を介してマーカー8に外装され、各鍔付き管14、15の鍔に端部が係止されている。
【0015】
而して上側の鍔付き管14は、マーカー8の頭部側の外周面に接着され、マーカー8と一体化されている。8cはマーカー8の外周面カバーであり、16は接着層である。マーカー8は、コイルバネ13の復元力により、径の拡大された拡大段差部17の段差面17aに、上側の鍔付き管14が係止された状態で、常時は、角ドライブ1bと嵌合するソケット2の断面四角形の開口部2bの側に向かって弾発されている。なお18は、下側の鍔付き管15の抜け落ちを防止するためのリング形ストッパー板である。マーカー8は、このストッパー板18の透孔18aを介して端面8bが雌形嵌合部2aに臨むよう、ソケット2の軸心位置に配置されている。なおこの実施形態に係る本発明品は、マーカー8のインクの色が異なるソケット2を複数備えている。
【0016】
また本発明の場合、上記の棒形ハンドル1は、角ドライブ1bに対応する先端部1aの位置に、上記のソケット2に内蔵されているコイルバネ13の弾発力に抗して上記のマーカー8を角ドライブ1bと反対の側から押し下げるための押し下げ部材19を備えて形成されている。この押し下げ部材19は、先端部1a内のバネ20の弾発力に抗して手で押圧操作するための頭部19aと、角ドライブ1bの軸心位置に配置されて頭部19aが押されると角ドライブ1bの軸方向に沿って頭部19aと共に移動しマーカー8を押し下げる軸棒19bとで形成されている。
【0017】
21は、バネ20としてのコイル形バネが収納される凹段差部である。バネ20は、この凹段差部21の底面と、押し下げ部材19のフランジ部19cとの間に、押し下げ部材19の拡大径部19dに外装されて配置されている。凹段差部21の開口面21aの近傍には、平面視でリング状の係止板22が固定されている。頭部19aは、この係止板22の孔22aを介して外部に突き出され、押し下げ部材19は、フランジ部19cがこの係止板22に係止されることにより、凹段差部21から飛び出さないよう先端部1aに設けられている。押し下げ部材19の軸棒19bの先端19b1は、この実施形態では図2に示されるように、角ドライブ1b内に完全に没した状態で位置決めされ、頭部19aが押し下げられると軸棒19bの先端19b1が角ドライブ1bの先端面1b1から突き出される状態に形成されている。
【0018】
次に本発明のレンチの作用を説明する。
作業者は、先ずソケット2を角ドライブ1bに嵌め付け(図1、図2参照)、次ぎにソケット2を図6に示されるように、ボルト又はナット12に嵌め合わせ、ボルト等を締め付ける。この場合、この実施形態に係る本発明品は、上記の通り、棒形ハンドル1がトルク設定機構3を備え、トルクレンチに構成されている。従って締め付けトルクが設定値に達すると、本発明品では、棒形ハンドル1にかかる力が急激に弱まり、棒形ハンドル1はヒンジピン4を軸にして急速に回動し、シャンク5のエンドが棒形ハンドル1の内壁に接触してカチンという強い衝撃音(金属音)を出す。作業者は、この衝撃音と脱力のある感触で予定締め付けトルクに達したことを知ったら、そのままの状態で押し下げ部材19の頭部19aを手指や手のひらで押す(図1の矢印参照)。すると本発明品は、押し下げ部材19の軸棒19bが押し下げられ、その下端が角ドライブ1bの先端面1b1から突き出されてマーカー8の頭部を突き、マーカー8をコイルバネ13の弾発力に抗して押し下げる。この結果マーカー8の先端の端面8bが、ボルト又はナット12の上面に押し付けられ、これらにインクを付着させる。
なおこの実施形態に係る本発明は、マーカー8のインクを違えたソケット2を複数備えているから、作業者は、必要に応じ、締め付けトルクが同じボルト又はナット12同士を色分けして区別できるよう、締め付けトルク値に合わせてソケット2を交換して使用すると良い。
【0019】
以上の処において、本発明は、トルクレンチには限られず、ソケット2の個数も任意である。即ち、上記の棒形ハンドル1は、ソケット2を嵌め付けるための角ドライブ1bを先端部1aに備えているのであれば良く、またソケット2は単数でも良い。
【0020】
また本発明は、図7、図8に示されるように、押し下げ部材19の頭部19aが、棒形ハンドル1の先端部1aに形成された凹段差部21に収納され、この凹段差部21の開口面21aが軟質性の例えば樹脂シート製のカバー23で覆われ、このカバー23を介して上記の頭部19aが外部から押圧操作自在に形成されているのでも良い。頭部19aは、この実施形態では短い円柱形に形成され、その周面にフランジ部19cが環状に形成されている。
この本発明の場合は、作業者がカバー23を介して頭部19aをバネ20の弾発力に抗して手指で押すと、カバー23が撓み、押し下げ部材19が押し下げられる。そして作業者が、手指をカバー23から離すと、バネ20の復元力で頭部19aが復帰し、頭部19aの上面をカバー23の内面に当接させた状態でフランジ部19cが係止板22に係止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のレンチの好適な一実施形態を示す使用状態時の要部断面図である。
【図2】同上レンチの要部分解断面図である。
【図3】ソケットの平面図である。
【図4】ソケットの底面図である。
【図5】同上レンチの側面図である。
【図6】同上レンチの使用状態時の要部側面図である。
【図7】同上レンチの他の実施形態を示す要部断面図である。
【図8】図7に係るレンチの要部平面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 棒形ハンドル
1a 先端部
1b 角ドライブ
2 ソケット
2a 雌形嵌合部
8 マーカー
8b 端面
12 ボルト又はナット
13 コイルバネ
19 押し下げ部材
19a 頭部
19b 軸棒
20 バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒形ハンドルの先端部に、ソケットを嵌め付けるための角ドライブが設けられているレンチであって、上記のソケットが、その軸心位置に、軸方向に沿って移動する棒形のマーカーを備え、上記の棒形ハンドルが、角ドライブに対応する先端部の位置に、上記のソケットに内蔵されているコイルバネの弾発力に抗して上記のマーカーを角ドライブと反対の側から押し下げるための押し下げ部材を備え、上記のマーカーは、ソケットのボルト・ナット嵌合用の雌形嵌合部に臨む端面が、押し下げ時にボルト又はナットにインクを塗布するためのインク塗布面に形成され、上記の押し下げ部材が、先端部内のバネの弾発力に抗して手で押圧操作するための頭部と、角ドライブの軸心位置に配置されて頭部が押されると角ドライブの軸方向に沿って頭部と共に移動しマーカーを押し下げる軸棒とで形成されていることを特徴とするマーキング機能付きレンチ。
【請求項2】
請求項1記載のマーキング機能付きレンチであって、押し下げ部材の頭部が、棒形ハンドルの先端部に形成された凹段差部に収納され、この凹段差部の開口面が軟質性のカバーで覆われ、このカバーを介して上記の頭部が外部から押圧操作自在に形成されていることを特徴とするマーキング機能付きレンチ。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマーキング機能付きレンチであって、押し下げ部材の軸棒の先端が、角ドライブ内に位置決めされ、頭部が押し下げられると軸棒の先端が角ドライブの先端面から突き出される状態に形成されていることを特徴とするマーキング機能付きレンチ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載のマーキング機能付きレンチであって、棒形ハンドルに、トルク設定機構が設けられ、マーカーのインクの色が異なるソケットを複数備えて形成されていることを特徴とするマーキング機能付きレンチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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