説明

ミクロ相分離構造膜、ナノ多孔質膜、およびそれらの製造方法

【課題】耐熱性に優れたナノ多孔質膜、およびこのナノ多孔質膜を容易に製造するためのミクロ相分離構造膜を提供すること。
【解決手段】重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体、および水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を含有することを特徴とするミクロ相分離構造膜、および前記ブロック共重合体の架橋構造体からなることを特徴とするナノ多孔質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロ相分離構造膜、ナノ多孔質膜、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ細孔を有する多孔質膜は、機能性分離膜として有用である他、触媒や薬効成分などの各種機能性材料の担体として有用である。このようなナノ多孔質膜の製造方法の1つとして、ミクロ相分離構造膜から特定の成分を除去してナノ細孔を形成する方法が知られている。
【0003】
例えば、A.Laforgueら、Macromolecules、2006年、第39巻、6473〜6482頁(非特許文献1)には、ポリ(スチレン−b−4−ビニルピリジン)(PS4VP)と1,5−ジヒドロキシナフタレン(DHN)とを含有する薄膜が開示されており、PS4VPとDHNが水素結合していることも開示されている。また、この非特許文献1には、前記薄膜からDHNを除去して得られた規則的なパターンを有するナノ多孔質膜も開示されている。しかしながら、非特許文献1に記載のナノ多孔質膜は耐熱性に劣るものであり、高温環境下ではナノ細孔が閉塞する場合があった。
【0004】
一方、特開2000−204189号公報(特許文献1)には、エポキシ変性ブロック共重合体、架橋剤、無機充填材、低分子材料および溶媒を含有する組成物を用い、前記ブロック共重合体を硬化せしめた後に、低分子材料および溶媒を除去する三次元連続網状骨格構造を有するミクロ多孔質体の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法で得られるミクロ多孔質体のセル径は2〜50μmであり、ナノオーダーの細孔径を有する多孔質膜を得ることは困難であった。
【特許文献1】特開2000−204189号公報
【非特許文献1】A.Laforgueら、Macromolecules、2006年、第39巻、6473〜6482頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れたナノ多孔質膜、このナノ多孔質膜を容易に製造するためのミクロ相分離構造膜、およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合したブロック共重合体、および水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を含有する塗膜形成用組成物を用いて塗膜を形成し、この塗膜に硬化処理を施すことによって、前記ブロック共重合体の架橋構造体と前記水素結合を形成し得る極性基を有する化合物とを含有し、ナノオーダーで相分離したミクロ相分離構造膜を形成することができ、また、このミクロ相分離構造膜から容易に前記水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を除去して膜中にナノ細孔を形成することができ、さらに、このナノ多孔質膜が耐熱性に優れるものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のミクロ相分離構造膜は、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体、および水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を含有することを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明のナノ多孔質膜は、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体の架橋構造体からなることを特徴とするものである。
【0009】
このようなミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜において、前記ポリマーセグメントB中の極性末端基は、窒素原子、酸素原子、フッ素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含有するものであることが好ましい。
【0010】
また、前記ポリマーセグメントAとしては、下記式(1):
【0011】
【化1】

【0012】
[式(1)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−O−、−COO−、−OOC−、−OCOO−、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕、−O(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−O(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Mはメソゲン基を表し、Pは重合可能な基を表し、mは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものが好ましく、
前記ポリマーセグメントBとしては、下記式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
[式(2)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Qは水素結合を形成し得る極性末端基を有するアルキル基およびアリール基、ならびにヘテロ基含有複素環からなる群から選択される1種の基を表し、nは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものが好ましい。さらに、前記式(1)中のPとしてはオキセタン基が好ましい。
【0015】
本発明のミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜において、前記ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.5以下であることが好ましく、且つ前記ポリマーセグメントBは、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下のポリマーにより形成されたものであることが好ましい。また、前記ポリマーセグメントBとしては、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%の数平均分子量を有するポリマーにより形成されたものが好ましい。さらに、前記ブロック共重合体の数平均分子量は3000〜1000000であることが好ましい。
【0016】
このような本発明のミクロ相分離構造膜は、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体、水素結合を形成し得る極性基を有する化合物、溶媒、および必要に応じてカチオン性開始剤を含有する塗膜形成用組成物を基板上に塗布する工程、前記基板上の塗膜を乾燥させて塗膜中の溶媒を除去する工程、および前記溶媒を除去した塗膜を加熱してミクロ相分離構造を形成する工程を含む方法によって製造することができる。前記ミクロ相分離構造を形成する工程においては、前記塗膜を前記ブロック共重合体のガラス転移温度より高い温度で加熱することが好ましい。
【0017】
また、本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法においては、前記ミクロ相分離構造を形成した塗膜に紫外線照射または加熱処理を施して前記ミクロ相分離構造を固定化することが好ましい。
【0018】
本発明のナノ多孔質膜は、本発明のミクロ相分離構造膜を水または有機溶媒で洗浄して、前記水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を除去し、空孔を形成することによって製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐熱性に優れたナノ多孔質膜、およびこのナノ多孔質膜を容易に製造するためのミクロ相分離構造膜を得ることできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
先ず、本発明のミクロ相分離構造膜およびナノ多孔質膜について説明する。本発明のミクロ相分離構造膜は、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体、および水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を含有し、これらの成分によってミクロ相分離構造が形成されていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明のミクロ相分離構造膜におけるミクロ相分離構造としては海島構造、ラメラ構造、シリンダー構造などが挙げられる。前記水素結合を形成し得る極性基を有する化合物によって形成された相の平均径としては0.1〜100nmが好ましく、1〜30nmがより好ましい。前記平均径が上記下限未満になると十分なミクロ相分離構造を形成しにくい傾向にあり、他方、分子量分布が狭い高分子量のセグメントが合成しにくいため、平均径が上記上限を超える相を形成することは困難な傾向にある。
【0023】
また、本発明のナノ多孔質膜は、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体の架橋構造体からなり、ナノオーダーの空孔を有することを特徴とするものである。
【0024】
本発明のナノ多孔質膜の平均細孔径としては0.1〜100nmが好ましく、1〜30nmがより好ましい。上記下限未満の平均細孔径に対応するミクロ相分離構造を十分に形成しにくいため、平均細孔径が上記下限未満のナノ多孔質膜は得ることは困難な傾向にあり、他方、分子量分布が狭い高分子量のセグメントが合成しにくく、上記上限を超える平均細孔径に対応するミクロ相分離構造を十分に形成しにくいため、平均細孔径が上記上限を超えるナノ多孔質膜は得ることは困難な傾向にある。
【0025】
<ブロック共重合体およびその架橋構造体>
本発明に用いられるブロック共重合体は、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したものである。また、本発明に用いられるブロック共重合体の架橋構造体は、前記ブロック共重合体中の重合性末端基が反応して架橋構造を形成したものである。
【0026】
このようなブロック共重合体の数平均分子量(Mn)としては3000〜1000000が好ましく、10000〜300000がより好ましい。ブロック共重合体の数平均分子量が上記下限未満になると十分なミクロ相分離構造を形成しにくい傾向にあり、他方、上記上限を超えると分子量分布が狭いブロック共重合体を合成しにくくなり、平均径が均一なミクロ相分離構造を形成することが困難であり、また、細孔径が均一なナノ多孔質膜を得にくい傾向にある。
【0027】
また、ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は1.0に近いほど好ましいが、合成上1.0より若干大きくなる傾向にあり、その上限としては1.5以下が好ましく、1.3以下がより好ましい。ブロック共重合体の分子量分布が上記上限を超えるとミクロ相分離構造やナノ細孔の周期性がなくなる傾向にある。
【0028】
なお、ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0029】
(ポリマーセグメントA)
前記ブロック共重合体中のポリマーセグメントAとしては、重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるものであれば特に制限はないが、例えば、下記式(1):
【0030】
【化3】

【0031】
で表される繰り返し単位を含有するものが好ましい。
【0032】
前記式(1)において、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは、単結合、−O−、−COO−、−OOC−、−OCOO−、−(CH−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、−(CHO−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、−O(CH−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、および−O(CHO−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは水素原子またはメチル基を表す。Mはメソゲン基を表し、Pは重合可能な基を表す。mは2以上、好ましくは5〜1000である。
【0033】
前記重合性末端基(例えば、前記式(1)中のP)としては、オキセタン基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、ビニルエーテル基、シンナモイル基、アリル基、アセチレニル基、クロトニル基、アジリジニル基、エポキシ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、カルボン酸基、アシル基、ハロカルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基、およびシラノール基などが挙げられ、中でも、オキセタン基が好ましい。本発明に用いられるブロック共重合体は、このような重合性末端基を有するポリマーセグメントAを備えているため、架橋構造を形成することができ、架橋することにより自己支持性、耐熱性、機械強度に優れたミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜を形成することが可能となる。
【0034】
前記メソゲン基としては、下記式:
【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
で表されるものなどが挙げられ、中でも、下記式:
【0038】
【化6】

【0039】
で表されるものが好ましい。本発明に用いられるブロック共重合体は、このようなメソゲン基を側鎖に有するポリマーセグメントAを備えているため、ポリマーセグメント間の斥力的相互作用によりミクロ相分離構造を形成する際に、メソゲン基の配向方向が揃いやすいという特徴を利用することができ、長距離秩序を有し、膜厚の厚い、規則性に優れたミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜を形成することが可能となる。
【0040】
(ポリマーセグメントB)
前記ブロック共重合体中のポリマーセグメントBとしては、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるものであれば特に制限はないが、例えば、窒素原子、酸素原子、フッ素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含有する極性末端基を側鎖に備えるものが好ましく、下記式(2):
【0041】
【化7】

【0042】
で表される繰り返し単位を含有するものが好ましい。
【0043】
前記式(2)において、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数(好ましくは2〜12の整数)である〕からなる群から選択される1種の結合を表す。Rは水素原子またはメチル基を表す。Qは水素結合を形成し得る極性末端基を有するアルキル基およびアリール基、ならびにヘテロ基含有複素環からなる群から選択される1種の基を表す。nは2以上、好ましくは5〜1000である。
【0044】
前記極性末端基としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ピリジニウム基、アミド基、イミノ基、フルオロ基、スルフィド基などが挙げられ、中でも、ピリジニウム基、カルボキシル基、アミド基、水酸基が好ましい。また、前記式(2)中のQであるヘテロ基含有複素環としては、ピリジン環、ε−カプロラクトン環などが挙げられる。本発明に用いられるブロック共重合体は、このような極性末端基を側鎖に有するポリマーセグメントBを備えているため、後述する水素結合を形成し得る極性基を有する化合物と容易に水素結合を形成することができ、安定したミクロ相分離構造を形成することが可能となる。また、この水素結合が比較的切断しやすいため、本発明のミクロ相分離構造膜から前記極性基を有する化合物が除去しやすく、容易にミクロ相分離構造膜に空孔を形成することが可能となる。
【0045】
このようなポリマーセグメントBは、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%(より好ましくは10〜90%)の数平均分子量を有するポリマーにより形成されたものであることが好ましい。ポリマーセグメントBを前記範囲の数平均分子量を有するポリマーにより形成させると水素結合切断によって容易にミクロ相分離構造膜に空孔を形成することができる傾向にある。
【0046】
また、ポリマーセグメントBは、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下(より好ましくは1.3以下)のポリマーにより形成されたものであることが好ましい。ポリマーセグメントBを前記上限を超える分子量分布のポリマーにより形成させると規則的なミクロ相分離構造やナノ細孔を形成しにくい傾向にある。
【0047】
なお、前記ポリマーの数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0048】
本発明に用いられるブロック共重合体は、このようなポリマーセグメントAとポリマーセグメントBとが共有結合したものであり、その製造方法としては、ポリマーセグメントAを形成するポリマーとポリマーセグメントBを形成するポリマーをそれぞれ合成した後、これらのポリマーを反応させる方法;ポリマーセグメントAを形成するポリマーを合成した後、このポリマーにポリマーセグメントBを形成するモノマーを重合させる方法;ポリマーセグメントBを形成するポリマーを合成した後、このポリマーにポリマーセグメントAを形成するモノマーを重合させる方法、などが挙げられる。
【0049】
本発明のミクロ相分離構造膜中の前記ブロック共重合体またはその架橋構造体の含有率としては、5〜95質量%が好ましく、10〜90質量%がより好ましい。ブロック共重合体またはその架橋構造体の含有率が上記下限未満になるとブロック共重合体またはその架橋体の特性が十分に発現せず、自己支持性、耐熱性、機械強度に優れたミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜を形成しにくい傾向にあり、他方、上記上限を超えると十分なミクロ相分離構造やナノ細孔を形成しにくい傾向にある。
【0050】
<水素結合を形成し得る極性基を有する化合物>
本発明に用いられる水素結合を形成し得る極性基を有する化合物(以下、「極性基含有化合物」という)としては、前記ブロック共重合体中の極性末端基と水素結合を形成するものであれば特に制限はないが、後述するように本発明のミクロ相分離構造膜からナノ多孔質膜を製造する際に、ミクロ相分離構造膜から前記極性基含有化合物を除去しやすいという観点から、分子量が100〜5000のものが好ましく、150〜2000のものがより好ましい。また、この極性基を有する化合物の分子量を調整することによって、ミクロ相分離構造膜においては前記極性基を有する化合物によって形成される相のサイズを制御することができ、ナノ多孔質膜においては細孔径を制御することが可能となる。前記水素結合を形成し得る極性基としてはカルボキシル基、水酸基などが挙げられる。
【0051】
このような極性基含有化合物としては、3−ペンタデシルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、シアノビフェノール、メトキシビフェノール、4−(4−ブチル−フェニルアゾ)フェノール、4−(4−ヘキシル−フェニルアゾ)フェノール、11−{4−(4−ブチル−フェニルアゾ)−フェノキシ}−ウンデカン−1−オール、10−{4−(4−ヘキシル−フェニルアゾ)−フェノキシ}−デカン−1−オールなどが挙げられ、中でも、コストなどの観点から、3−ペンタデシルフェノール、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルが特に好ましい。
【0052】
また、これらの化合物を適宜選択することによって、種々の形状のミクロ相分離構造やナノ細孔を形成することが可能となる。例えば、3−ペンタデシルフェノールを用いると海島型のミクロ相分離構造を形成でき、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸を用いるとシリンダー型のミクロ相分離構造を形成することが可能となる。
【0053】
本発明のミクロ相分離構造膜中の前記極性基含有化合物の含有率としては、5〜95質量%が好ましく、10〜90質量%がより好ましい。極性基含有化合物の含有率が上記下限未満になると十分なミクロ相分離構造やナノ細孔を形成しにくい傾向にあり、他方、上記上限を超えると自己支持性、耐熱性、機械強度に優れたミクロ相分離構造膜やナノ多孔質膜を形成しにくい傾向にある。
【0054】
次に、本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法について説明する。本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法は、前記ブロック共重合体、前記極性基含有化合物、溶媒、および必要に応じてカチオン性重合開始剤を含有する塗膜形成用組成物を、基板上に塗布する工程、この基板上に形成された塗膜を乾燥させて塗膜中の溶媒を除去する工程、および溶媒を除去した塗膜を加熱してミクロ相分離構造を形成する工程を含むことを特徴とする方法である。
【0055】
前記基板としては特に制限はないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、セルロース系プラスチックス(トリアセチルセルロースなど)、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、または高分子液晶などからなる樹脂基板およびそれを配向処理したもの、ガラス(青板ガラス、アルカリガラス、無アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、フリントガラスまたは石英ガラス)、シリコン基板、石英基板などの無機基板、アルミ、鉄、銅などの金属基板が挙げられる。また、これらの基板上には他の被膜、例えば、ポリイミド膜、ポリアミド膜、ポリビニルアルコール膜などの有機膜、酸化珪素などの斜め蒸着膜、ITO(インジウム−錫酸化物)などの透明電極膜、蒸着またはスパッタにより形成される金、アルミニウムまたは銅などの金属薄膜が設けられていてもよい。これらの基板は、取り扱い性、コスト、耐熱性などを考慮して適宜選択することができる。
【0056】
前記溶媒としては、前記ブロック共重合体および前記極性基含有化合物が十分に溶解するものであれば特に制限はないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1、2−ジメトキベンゼンなどの芳香族炭化水素類、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコールなどのアルコール類、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブなどのグリコールエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン、ジオキサン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ブチロニトリル、二硫化炭素、およびこれらの混合溶媒などが挙げられる。また、前記カチオン性重合開始剤としては特に制限はなく、従来公知のものを使用することができる。
【0057】
前記塗膜形成用組成物中の前記ブロック共重合体の含有率としては、0.1〜10質量%が好ましく、0.2〜5質量%がより好ましい。また、前記極性基含有化合物の含有率としては、5〜95質量%が好ましく、10〜90質量%がより好ましい。
【0058】
塗膜形成用組成物の塗布方法は特に限定されず、スピンコート法などの従来公知の方法を適用することができる。また、塗膜を乾燥させる際の温度は塗膜から溶媒を除去できる温度であれば特に制限はないが、例えば、30〜200℃が好ましく、40〜100℃がより好ましい。
【0059】
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法において、ミクロ相分離構造を形成する際の塗膜の加熱温度としては前記ブロック共重合体のガラス転移温度(Tg)より高い温度であることが好ましく、具体的には、Tg+10℃以上が好ましく、Tg+20℃以上がより好ましい。この加熱温度が上記下限未満になると分子運動性が低いためにミクロ相分離構造を形成するまでの時間が長時間に及ぶ傾向にある。また、この加熱温度の上限は前記ブロック共重合体や前記極性基含有化合物が熱分解しない温度であれば特に制限はない。
【0060】
本発明のミクロ相分離構造膜の製造方法においては、ミクロ相分離構造を形成した塗膜に紫外線照射または加熱処理を施して前記ブロック共重合体の架橋構造体を形成し、ミクロ相分離構造を固定化することが好ましい。このようなミクロ相分離構造が固定化された硬化膜は、機械的強度が高く、自己支持性があり、耐熱性に優れた膜であるため、後述するナノ多孔質膜の原料フィルムとして使用することが可能となる。前記紫外線照射条件および加熱処理条件は、使用したカチオン性重合開始剤によって適宜設定される。
【0061】
次に、本発明のナノ多孔質膜の製造方法について説明する。本発明のナノ多孔質膜は、前記本発明のミクロ相分離構造膜に、溶媒による洗浄処理を施し、前記ミクロ相分離構造膜から前記極性基含有化合物を除去することによって製造することができる。具体的には、前記ミクロ相分離構造膜を溶媒に浸漬し、超音波処理などを施すことによって、ミクロ相分離構造膜中の極性基含有化合物が存在していた場所に空孔が形成され、ナノ細孔を有する多孔質膜を得ることができる。
【0062】
前記溶媒としては特に制限はないが、前記ブロック共重合体またはその架橋構造体と水素結合している極性基含有化合物を洗い流すという観点から、水、メタノール、エタノールなどが好ましい。また、前洗浄処理条件としては、ミクロ相分離構造膜から極性基含有化合物が十分に除去できる条件であれば特に制限されない。
【0063】
このように、本発明のナノ多孔質膜は、前記本発明のミクロ相分離構造膜を溶媒により洗浄処理するという簡便な方法によって容易に製造することができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(合成例1)
実施例で使用するブロック共重合体のポリマーセグメントAの原料であるモノマーを合成した。先ず、下記反応式:
【0066】
【化8】

【0067】
に従って前記式(iv)で表される化合物を合成した。すなわち、前記式(i)で表される3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン51.8g、パラトルエンスルホニルクロリド(p−TsCl)119.2g、水酸化ナトリウム100g、テトラヒドロフラン(THF)400mlおよびイオン交換水400mlを混合し、0℃で4時間攪拌した後、飽和食塩水で3回洗浄を行った。この溶液に1,4−ブタノール120.8g、水酸化カリウム43.8gおよびジメチルスルホキシド(DMSO)116mlを添加して30℃で15時間攪拌した後、トルエンと食塩水を加えて洗浄して前記式(ii)で表される化合物を得た。
【0068】
次に、得られた前記式(ii)で表される化合物全量に、メタンスルホニルクロリド(MsCl)65.3g、トルエン65.3gおよびトリエチルアミン(TEA)78.0gを添加し、0℃で2時間攪拌した後、飽和食塩水で洗浄した。この溶液にパラヒドロキシ安息香酸エチル55.7g、炭酸カリウム60.7gおよびN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)420gを添加し、100℃で5時間攪拌した後、水で洗浄し、溶媒を減圧除去して116gの固体を得た。この固体に水酸化ナトリウム36gおよびイオン交換水324gを加えて100℃で2時間反応させた。
【0069】
得られた溶液を水450mlで希釈した後、塩酸(濃度10質量%)をpH3になるまでゆっくりと添加した。得られたスラリー溶液を0℃で1時間攪拌した後、水で洗浄して前記式(iii)で表される化合物121gを得た。この化合物にメタンスルホニルクロリド(MsCl)47.2g、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)52.0gおよびトラヒドロフラン(THF)400mlを添加して0℃で1時間攪拌し、さらに、ヒドロキノン136g、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)11.2gおよびトリエチルアミン(TEA)53.2gを添加して0℃で1時間攪拌した後、さらに3時間還流攪拌して前記式(iv)で表される化合物を得た。
【0070】
この式(iv)で表される化合物を、NMR装置(VARIAN社製「INOVA600」)を用いてH−NMR測定および13C−NMR測定により同定した。その結果を以下に示す。
H−NMR(600MHz、溶媒CDCl):δ0.9(t,3H)、1.7(m,4H)、1.9(m,2H)、3.6(t,4H)、4.1(t,2H)、4.4(t,2H)、4.6(t,2H)、6.6(br,1H)、6.8(d,2H)、6.9(d,2H)、7.0(d,2H)、8.1(d,2H)。
13C−NMR(150MHz、溶媒CDCl):δ8.23、26.09、26.19、26.85、43.41、68.01、71.10、73.36、78.64、114.28、116.07、121.66、122.53、132.27、144.08、153.94、163.41、165.73。
【0071】
次に、下記反応式:
【0072】
【化9】

【0073】
に従って前記式(viii)で表される化合物を合成した。すなわち、前記式(v)で表される11−ブロモ−1−ウンデカノール50g、パラヒドロキシ安息香酸エチル33.4g、炭酸カリウム60gおよびN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)60mlを混合して90℃で7時間攪拌した。ろ過後、エバポレーターで溶媒を除去し、水と酢酸エチルで洗浄して前記式(vi)で表される化合物を得た。
【0074】
得られた前記式(vi)で表される化合物全量に、水酸化カリウム19gおよびイオン交換水160mlを添加して100℃で1時間攪拌した。得られた溶液に塩酸(濃度10質量%)をpH3になるまで加え、析出した固体をアセトニトリルで再結晶して、前記式(vii)で表される化合物を得た。この式(vii)で表される化合物40gにメタクリル酸26g、トルエン150ml、パラトルエンスルホン酸(p−TsOH)3.8gおよび重合禁止剤としてヒドロキノン2gを添加し、生成した水をディーンスタークを用いて除去しながら110℃で3時間攪拌して前記式(viii)で表される化合物を得た。
【0075】
この式(viii)で表される化合物を、NMR装置(VARIAN社製「INOVA600」)を用いてH−NMR測定および13C−NMR測定により同定した。その結果を以下に示す。
H−NMR(600MHz、溶媒CDCl):δ1.3(m,12H)、1.4(m,2H)、1.6(m,2H)、1.8(m,2H)、1.9(s,3H)、4.0(t,2H)、4.1(t,2H)、5.5(s,1H)、6.1(s,1H)、6.9(d,2H)、8.1(d,2H)。
13C−NMR(150MHz、溶媒CDCl):δ18.34、25.98、28.62、29.10、29.24、29.34、29.48、29.49、29.52、64.85、68.29、114.21、121.36、125.15、132.34、136.58、163.68、167.60、171.46。
なお、13C−NMRの一部のピークには重なりが見られた。
【0076】
次に、下記反応式:
【0077】
【化10】

【0078】
に従って前記式(ix)で表されるモノマーを合成した。すなわち、前記式(iv)で表される化合物21.5g、前記式(viii)で表される化合物21.2g、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)11.6g、4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)1.5gおよびテトラヒドロフラン(THF)500mlを添加し、30℃で24時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水、3%塩酸および飽和食塩水で洗浄後、カラム精製により前記式(ix)で表されるモノマーを得た。
【0079】
この式(ix)で表されるモノマーを、NMR装置(VARIAN社製「INOVA600」)を用いてH−NMR測定および13C−NMR測定により同定した。その結果を以下に示す。
H−NMR(600MHz、溶媒CDCl):δ0.9(t,3H)、1.4−1.8(m,24H),1.9(s,3H)、3.5(s,4H)、4.0(t,2H)、4.1(t,2H)、4.2(t,2H)、4.4(t(2H)、4.5(t,2H)、5.5(s,1H)、6.1(s,1H)、7.0(d,4H)、7.3a(s,4H)、8.2(d,4H)。
13C−NMR(150MHz、溶媒CDCl):δ8.24、18.34、25.98、26.11,26.20、26.82、28.62、29.10、29.24、29.35、29.49、43.44、64.82、68.03、68.33、71.07、73.55、78.54、114.33、121.42、121.54、122.65、125.14、132.32、136.58、148.43、163.48、163.60、164.85、167.57。
なお、13C−NMRの一部のピークには重なりが見られた。
【0080】
(合成例2)
下記反応式:
【0081】
【化11】

【0082】
に従って実施例で使用するブロック共重合体のポリマーセグメントBを構成するポリマーを合成した。すなわち、2−クロロプロピオン酸エチル41mg、アルミナカラムを通した4−ビニルピリジン3.15g、塩化銅(I)30mg、トリス(2−(ジメチルアミノ)エチル)アミン(MeTREN)69mgおよびイソプロパノール28gを混合し、凍結脱気と窒素バブリングを組み合わせて酸素を除去した後、40℃で6時間攪拌した。その後、中性アルミナカラムを通して触媒を除去して前記式(x)で表されるビニルピリジンポリマーを得た。
【0083】
この式(x)で表されるビニルピリジンポリマーを、臭化リチウム(濃度50mmol/L)を含有するN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解してゲルパーミエーションクロマトグラフィ(Waters社製「Alliance2695」、カラム:SHODEX LF804×2本)により標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定した。その結果、前記ビニルピリジンポリマーのMnは11000、Mw/Mnは1.21であった。
【0084】
(合成例3)
下記反応式:
【0085】
【化12】

【0086】
に従って、合成例1で得たモノマー2.0g、合成例2で得たビニルピリジンポリマー0.2g、臭化銅(I)80mg、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン(HMTETA)300mg、イソプロパノール15gおよびアニソール15gを混合し、40℃で6時間攪拌して前記式(xi)で表されるブロック共重合体を得た。
【0087】
この式(xi)で表されるブロック共重合体を、臭化リチウム(濃度50mmol/L)を含有するN,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解してゲルパーミエーションクロマトグラフィ(Waters社製「Alliance2695」、カラム:SHODEX LF804×2本)により標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)および重量平均分子量(Mw)を測定した。その結果、前記ブロック共重合体のMnは48000、Mw/Mnは1.35であった。
【0088】
また、前記ブロック共重合体のガラス転移温度を示差走査熱量計(Perkin−Elmer社製「DSC7」)を用いて0〜200℃の温度範囲において20℃/minの昇温速度で測定したところ、Tg=65℃であった。
【0089】
(実施例1)
合成例3で得たブロック共重合体100mg、3−ペンタデシルフェノール66mgおよびカチオン性重合開始剤(ダウ社製「UVI−6992」)5mgを10gのクロロホルムに溶解し、3時間超音波処理を施した。このブロック共重合体溶液を孔径0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液をポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン(株)製)上に回転速度1000rpmでスピンコートし、塗膜を55℃のホットプレート上で10分間乾燥させ、次いで、170℃の真空オーブン中で24時間アニール処理を施した。アニール処理後の塗膜に高圧水銀灯を用いて600mJ/cmの強度で紫外線を照射して硬化膜を得た。
【0090】
得られた硬化膜の一部をかき取り、示差走査熱量計を用いて0〜200℃の温度範囲において20℃/minの昇温速度でガラス転移温度を測定したが、ガラス転移温度に相当するピークは検出されず、硬化膜は耐熱性に優れたものであることが確認された。また、得られた硬化膜の表面を走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「E−Sweep」)により観察したところ、図1に示すように海島構造が見られ、硬化膜にはミクロ相分離構造が形成されていることが確認された。
【0091】
次に、この硬化膜(ミクロ相分離構造膜)をメタノールに浸漬して30分間超音波処理を施した後、硬化膜の表面を走査型プローブ顕微鏡により観察したところ、ナノ多孔質膜が形成されていることが確認された。ナノ多孔質膜中の空孔は、前記ミクロ相分離構造膜から3−ペンタデシルフェノールが洗い流されて形成されたものであると推察される。
【0092】
(実施例2)
3−ペンタデシルフェノールの代わりに2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸53mgを用い、クロロホルムの代わりに5gの1,4−ジオキサンを用い、ポリフェニレンサルファイドフィルムの代わりにガラスを用い、カチオン性重合開始剤(ダウ社製「UVI−6992」)の添加量を3mgに変更し、アニール処理温度210℃に変更した以外は、実施例1と同様にして硬化膜を作製した。この硬化膜おいてもガラス転移温度に相当するピークは検出されず、硬化膜は耐熱性に優れたものであることが確認された。
【0093】
得られた硬化膜の表面を走査型プローブ顕微鏡(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製「E−Sweep」)により観察したところ、図2に示すようにシリンダー構造が見られ、硬化膜にはミクロ相分離構造が形成されていることが確認された。
【0094】
次に、この硬化膜(ミクロ相分離構造膜)をメタノールに浸漬して30分間超音波処理を施した後、硬化膜の表面を走査型プローブ顕微鏡により観察したところ、ナノ多孔質膜が形成されていることが確認された。ナノ多孔質膜中の空孔は、前記ミクロ相分離構造膜から2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸が洗い流されて形成されたものであると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明のミクロ相分離構造膜を用いることによって、容易に耐熱性に優れたナノ多孔質膜を得ることができる。したがって、本発明のナノ多孔質膜は、反射防止膜、分離膜、異方伝導膜などとして有用である。
【0096】
また、本発明のナノ多孔質膜の細孔には様々な機能性材料を充填することができる。したがって、本発明のナノ多孔質膜はこのような機能性材料が充填された機能性膜の膜基材としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施例1で得た硬化膜のミクロ相分離構造の位相像を示す原子間力顕微鏡写真である。
【図2】実施例2で得た硬化膜のミクロ相分離構造の位相像を示す原子間力顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体またはその架橋構造体、および水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を含有することを特徴とするミクロ相分離構造膜。
【請求項2】
前記ポリマーセグメントB中の極性末端基が窒素原子、酸素原子、フッ素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項3】
前記ポリマーセグメントAが下記式(1):
【化1】

[式(1)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−O−、−COO−、−OOC−、−OCOO−、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕、−O(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−O(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Mはメソゲン基を表し、Pは重合可能な基を表し、mは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものであり、
前記ポリマーセグメントBが下記式(2):
【化2】

[式(2)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Qは水素結合を形成し得る極性末端基を有するアルキル基およびアリール基、ならびにヘテロ基含有複素環からなる群から選択される1種の基を表し、nは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものである、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項4】
前記式(1)中のPがオキセタン基であることを特徴とする請求項3に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項5】
前記ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下であり、且つ前記ポリマーセグメントBが、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下のポリマーにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項6】
前記ポリマーセグメントBが、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%の数平均分子量を有するポリマーにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項7】
前記ブロック共重合体の数平均分子量が3000〜1000000であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜。
【請求項8】
重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体の架橋構造体からなることを特徴とするナノ多孔質膜。
【請求項9】
前記ポリマーセグメントB中の極性末端基が窒素原子、酸素原子、フッ素原子および硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1種の原子を含有するものであることを特徴とする請求項8に記載のナノ多孔質膜。
【請求項10】
前記ポリマーセグメントAが下記式(1):
【化3】

[式(1)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−O−、−COO−、−OOC−、−OCOO−、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕、−O(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−O(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Mはメソゲン基を表し、Pは重合可能な基を表し、mは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものであり、
前記ポリマーセグメントBが下記式(2):
【化4】

[式(2)中、Lは、単結合、−COO−および−O−からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは、単結合、−(CH−〔nは1〜20の整数である〕、および−(CHO−〔nは1〜20の整数である〕からなる群から選択される1種の結合を表し、Rは水素原子またはメチル基を表し、Qは水素結合を形成し得る極性末端基を有するアルキル基およびアリール基、ならびにヘテロ基含有複素環からなる群から選択される1種の基を表し、nは2以上である。]
で表される繰り返し単位を含有するものである、
ことを特徴とする請求項8または9に記載のナノ多孔質膜。
【請求項11】
前記式(1)中のPがオキセタン基であることを特徴とする請求項10に記載のナノ多孔質膜。
【請求項12】
前記ブロック共重合体の分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下であり、且つ前記ポリマーセグメントBが、分子量分布(Mw/Mn)が1.5以下のポリマーによって形成されたものあることを特徴とする請求項8〜11のうちのいずれか一項に記載のナノ多孔質膜。
【請求項13】
前記ポリマーセグメントBが、前記ブロック共重合体の数平均分子量の5〜95%の数平均分子量を有するポリマーにより形成されたものであることを特徴とする請求項8〜12のうちのいずれか一項に記載のナノ多孔質膜。
【請求項14】
前記ブロック共重合体の数平均分子量が3000〜1000000であることを特徴とする請求項8〜13のうちのいずれか一項に記載のナノ多孔質膜。
【請求項15】
重合性末端基とメソゲン基とを有する側鎖を備えるポリマーセグメントAと、水素結合を形成し得る極性末端基を有する側鎖を備えるポリマーセグメントBとが共有結合により結合したブロック共重合体、水素結合を形成し得る極性基を有する化合物および溶媒を含有する塗膜形成用組成物を基板上に塗布する工程、
前記基板上の塗膜を乾燥させて塗膜中の溶媒を除去する工程、および
前記溶媒を除去した塗膜を加熱してミクロ相分離構造を形成する工程
を含むことを特徴とするミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項16】
前記ミクロ相分離構造を形成する工程において、前記塗膜を前記ブロック共重合体のガラス転移温度より高い温度で加熱することを特徴とする請求項15に記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項17】
前記ミクロ相分離構造を形成した塗膜に紫外線照射または加熱処理を施して前記ミクロ相分離構造を固定化することを特徴とする請求項15または16に記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項18】
前記塗膜形成用組成物がカチオン性開始剤を含有するものであることを特徴とする請求項15〜17のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のミクロ相分離構造膜を水または有機溶媒で洗浄して、前記水素結合を形成し得る極性基を有する化合物を除去し、空孔を形成することを特徴とするナノ多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−116466(P2010−116466A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289844(P2008−289844)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】