説明

ミシンのモータ制御装置

【課題】電源投入時にモータの原点検知を効率良く行うことができるミシンのモータ制御装置を提供する。
【解決手段】ミシン100のモータ制御装置4に、ミシン100のモータ1を駆動するパルスモータドライバ41と、パルスモータドライバ41にモータ用電源2から供給される駆動電圧を検出する駆動電圧検出部42と、CPU43に、駆動電圧検出部42により検出された駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断させる判断プログラム45bと、モータ1の原点を検知する回転角度検出部40と、CPU43に、ミシン100の電源投入後、判断プログラム45bを実行することによりパルスモータドライバ41の駆動電圧が所定電圧に達したと判断した後、回転角度検出部40によりモータ1の原点を検知させる原点検知プログラム45cと、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンのモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ミシンの電源としては、モータ用電源と制御回路用の制御用電源とに分けられている(例えば、特許文献1)。そして、通常、ラッチアップ等の問題を回避するため、まず、制御用電源を入れてから、モータ用電源が入れられ、パルスモータドライバ等のモータ駆動回路の駆動電圧が上昇されるように制御されている。
【0003】
ところで、ミシンには、糸切りモータ,ピッチ量変更用モータ,布押え上昇用モータ等の各種のモータが備えられているが、これらのモータはパルスモータであるので、電源投入時の各モータの原点である回転角度が正確に認識されないと、その後にモータへ出力した制御信号から予想される通りにモータが回転しなくなったりして、脱調してしまう。そのため、ミシンの電源投入時には、これらモータの原点検知を行う必要がある。モータの原点検知の方法としては、例えば、モータに、原点検知用の基準板を設け、この基準板に、モータ軸に設けられた突起部が衝突するまでモータを回転させ、基準板にモータ軸の突起部が衝突するまでにモータが回転した回転角度を検出することにより行う方法が知られている。しかし、モータを駆動するパルスモータドライバの駆動電圧が所定電圧まで上昇していない状態で、モータの原点検知を行うと、モータ軸に設けられた突起部が基準板に衝突するのに十分な制御信号を出力しても、電力不足により、モータ軸に設けられた突起部が基準板に衝突する前にモータが停止してしまい、その停止位置にて基準板に突起部が衝突したと認識されてしまい、原点を正確に検知することができない。そのため、モータの原点検知を正確に行うには、パルスモータドライバの駆動電圧が所定電圧まで上昇した状態で行わなければならない。しかし、モータ用電源を入れてから実際に駆動電圧が所定電圧まで上昇するのにかかる時間は、パルスモータドライバを構成する部品の公差のばらつきによって、各ミシン毎に異なる。そこで、モータ用電源を入れてから、パルスモータドライバを構成する種々の部品の公差を考慮に入れて計算された十分に長い一定の時間を待ってから、モータの原点検知を行うようにしていた。
【特許文献1】特開2001−038087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のように、モータ用電源を入れてから一律に一定の時間を待ってから、モータの原点検知を行うこととすると、パルスモータドライバを構成する部品の公差のばらつきが少ない場合であっても、ミシンの電源を投入してから、かなりの時間を待たなければ実際の縫製作業に入ることができず、効率の悪いものとなっていた。
【0005】
本発明の課題は、電源投入時にモータの原点検知を効率良く行うことができるミシンのモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、ミシンのモータを駆動する駆動部と、前記駆動部にモータ用電源から供給される駆動電圧を検出する駆動電圧検出部と、前記駆動電圧検出部により検出された駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断する判断手段と、前記モータの原点を検知する原点検知手段と、前記ミシンの電源投入後、前記判断手段により前記駆動部の駆動電圧が所定電圧に達したと判断された後、前記原点検知手段により前記モータの原点を検知させる制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のミシンのモータ制御装置において、前記判断手段は、前記モータ用電源により前記駆動部へ駆動電圧が供給され始めてから所定時間経過後に、前記駆動部の駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に記載の発明によれば、制御手段により、ミシンの電源投入後、駆動電圧検出部により駆動部にモータ用電源から供給される駆動電圧を検出させ、判断手段により駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断させ、判断手段により駆動部の駆動電圧が所定電圧に達したと判断された後、原点検知手段によりモータの原点を検知させる制御がなされるので、駆動部を構成する部品の公差を考慮に入れて計算された駆動部の駆動電圧が所定電圧に達するのに十分に長い一定の時間を待たなくとも、駆動部の駆動電圧が所定電圧に達したら即座に原点検知がなされることとなって、電源投入時にモータの原点検知を従来よりも効率良く行うことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果が得られるのは勿論のこと、特に、判断手段は、モータ用電源により駆動部へ駆動電圧が供給され始めてから所定時間経過後に、駆動部の駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断するので、判断手段が駆動電圧を監視する時間が短くなることとなって、モータ制御装置の制御にかかる負担を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。
本発明に係るミシン100は、図1に示すように、ミシン100を駆動するモータ1と、モータ用電源2と、制御用電源3と、モータ1を制御するモータ制御装置4等を備えて構成される。
【0011】
モータ1は、ミシン100で用いられる各種のパルスモータであって、例えば、糸切りモータ,ピッチ量変更用モータ,布押え上昇用モータ等である。また、モータ1には、限界回転角度を示す基準板(図示省略)とモータ軸(図示省略)に設けられた突起部(図示省略)とが備えられており、モータ1が限界回転角度まで回転すると、該基準板に該突起部が衝突するようになっている。
【0012】
モータ用電源2は、モータ制御装置4のパルスモータドライバ41に接続され、該パルスモータドライバ41に駆動電圧を供給する。また、モータ用電源2がONとなるタイミングは、モータ制御装置4によって制御されている。
【0013】
制御用電源3は、モータ制御装置4のCPU43と、例えば、制御回路電源端子(図示省略)を介して接続されており、該CPU43に電流を供給する。また、制御用電源3は、ミシン100の電源が投入されてから所定時間経過後に立ち上げられるようになっている。
【0014】
本発明に係るモータ制御装置4は、モータ1の回転角度を検出する回転角度検出部40と、モータ1を駆動する駆動部としてのパルスモータドライバ41と、パルスモータドライバ41の駆動電圧を検出する駆動電圧検出部42と、回転角度検出部40,パルスモータドライバ41,駆動電圧検出部42等を制御することによりモータ1を制御するCPU43と、RAM44,記憶部45等を備えて構成される。
【0015】
回転角度検出部40は、例えば、エンコーダ等により構成され、モータ1の回転角度を検出し、検出した回転角度に相当するパルス信号を、モータ制御装置4のCPU43に出力する。より具体的には、回転角度検出部40は、CPU43が後述する原点検知プログラム45cを実行することにより原点検知を行う際に、モータ軸の突起部が基準板に回転するまでにモータ1が回転した回転角度をCPU43出力し、原点検知手段として機能する。
【0016】
パルスモータドライバ41は、例えば、駆動回路等により構成され、モータ1,モータ用電源2,CPU43等と接続されている。そして、パルスモータドライバ41は、CPU43からの制御信号に基づく電流をモータ用電源2から供給される駆動電圧から発生させ、モータ1に該電流を供給することにより該モータ1を駆動する。
【0017】
駆動電圧検出部42は、パルスモータドライバ41にモータ用電源2から供給される駆動電圧を検出し、該検出信号をCPU43に対して出力する。より具体的には、駆動電圧検出部42は、パルスモータドライバ41に供給されている駆動電圧を分圧する第1の抵抗R1と第2の抵抗R2等から構成され、第1の抵抗R1と第2の抵抗R2とにより分圧した検出信号を、A/D変換回路(図示省略)を経由して、CPU43に出力する。
【0018】
CPU43は、例えば、制御用電源3,回転角度検出部40,パルスモータドライバ41,駆動電圧検出部42等と接続されており、記憶部45に格納されている各種処理プログラムに従って各種の制御動作を行う。より具体的には、CPU43は、駆動電圧検出部42により検出された駆動電圧を監視し、該駆動電圧が所定電圧に達した際に、パルスモータドライバ41に制御信号を出力することにより、モータ1の動作を制御し、回転角度検出部40から出力されるパルス信号に基づいて原点検知を行う。
【0019】
RAM44は、CPU43により実行される処理プログラム等を、RAM44内のプログラム格納領域に展開するとともに、入力データや上記処理プログラムが実行される際に生じる処理結果等をワークエリアに格納する。
【0020】
記憶部45は、例えば、プログラムやデータ等が予め記憶されている記録媒体(図示せず)を有しており、記憶媒体は、例えば、半導体メモリ等で構成されている。また、記憶部45は、CPU43がモータ制御装置4全体を制御する機能を実現させるための各種データ,各種処理プログラム,これらプログラムの実行により処理されたデータ等を記憶する。より具体的には、記憶部45は、例えば、図1に示すように、モータ用電源制御プログラム45a,判断プログラム45b,原点検知プログラム45c等を格納している。
【0021】
モータ用電源制御プログラム45aは、例えば、CPU43に、制御用電源3から供給される電流の電圧(以下、制御用電圧とする)が所定電圧に達した後に、モータ用電源2をONにし、モータ用電源2からパルスモータドライバ41に駆動電圧を供給させる機能を実現させるためのプログラムである。
【0022】
判断プログラム45bは、例えば、CPU43に、モータ用電源2からパルスモータドライバ41に駆動電圧が供給され始めてから所定時間経過後に、所定の時間間隔で駆動電圧検出部42から出力される検出信号に基づいて、パルスモータドライバ41に供給される駆動電圧を常時監視し、該駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断する機能を実現させるプログラムである。CPU43は、かかる判断プログラム45bを実行することにより、判断手段として機能する。
【0023】
原点検知プログラム45cは、例えば、CPU43に、パルスモータドライバ41に供給される駆動電圧が所定電圧に達したと判断した際に、パルスモータドライバ41に制御信号を出力し、パルスモータドライバ41に該制御信号に基づく電流をモータ1に供給させてモータ1を回転させ、モータ軸の突起部が基準板に衝突するまでにモータ1が回転した回転角度を回転角度検出部40に検出させ、限界回転角度から該回転角度を差し引いた回転角度をモータ1の原点として検出する機能を実現させるプログラムである。CPU43は、かかる原点検知プログラム45cを実行することにより、制御手段として機能する。
【0024】
次に、上述のような構成のモータ制御装置4の動作について、図2に示すフローチャート及び図3に示すタイミングチャートを参照しながら、説明する。
まず、ユーザにより、ミシン100の電源が入れられると(ステップS1,図3のt1の時点)、所定時間経過後に制御用電源3が立ち上げられる(ステップS2,図3のt2の時点)。
【0025】
次に、CPU43は、制御用電圧が立ち上げられた後に、モータ用電源制御プログラム45aを実行することによりモータ用電源2をONにし、該モータ用電源2にパルスモータドライバ41へ駆動電圧を供給し始めさせる(ステップS3)。
【0026】
次に、CPU43は、判断プログラム45bを実行することにより、モータ用電源2からパルスモータドライバ41に駆動電圧が供給され始めてから所定時間が経過したか否かを判断する(ステップS4)。
【0027】
ステップS4において、CPU43は、モータ用電源2からパルスモータドライバ41に駆動電圧が供給され始めてから所定時間が経過していないと判断した場合には(ステップS4;No)、所定時間が経過するまで待機する。
ステップS4において、CPU43は、モータ用電源2からパルスモータドライバ41に駆動電圧が供給され始めてから所定時間が経過したと判断した場合には(ステップS4;Yes)、所定の時間間隔で駆動電圧検出部42から出力される検出信号に基づいて、パルスモータドライバ41に供給される駆動電圧を常時監視し、該駆動電圧が所定電圧、例えば、30Vに達したか否かを判断する(ステップS5)。
【0028】
ステップS5において、CPU43は、駆動電圧が所定電圧に達していないと判断した場合には(ステップS5;No)、駆動電圧が所定電圧に達するまで待機する。
ステップS5において、CPU43は、駆動電圧が所定電圧に達したと判断した場合には(ステップS5;Yes,図3のt3の時点)、原点検知プログラム45cを実行することより、モータ1の原点を検知する。より具体的には、パルスモータドライバ41に制御信号を出力し、パルスモータドライバ41に該制御信号に基づく電流をモータ1に供給させてモータ1を回転させ、モータ軸の突起部が基準板に衝突するまでにモータ1が回転した回転角度を回転角度検出部40に検出させ、限界回転角度から該回転角度を差し引いた回転角度をモータ1の原点として検出する。
【0029】
以上に説明した本発明に係るモータ制御装置4によれば、CPU43が原点検知プログラム45cを実行することにより、ミシン100の電源投入後、駆動電圧検出部42によりパルスモータドライバ41にモータ用電源2から供給される駆動電圧を検出させ、判断プログラム45bを実行して駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断し、パルスモータドライバ41の駆動電圧が所定電圧に達したと判断した後、回転角度検出部40によりモータの原点を検知させる制御がなされるので、パルスモータドライバ41を構成する部品の公差を考慮に入れて計算されたパルスモータドライバ41の駆動電圧が所定電圧に達するのに十分に長い一定の時間を待たなくとも、パルスモータドライバ41の駆動電圧が所定電圧に達したら即座に原点検知がなされることとなって、電源投入時にモータ1の原点検知を従来よりも効率良く行うことができる。
【0030】
また、CPU43は、判断プログラム45bを実行することにより、モータ用電源2によりパルスモータドライバ41へ駆動電圧が供給され始めてから所定時間経過後に、パルスモータドライバ41の駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断するので、駆動電圧を監視する時間が短くなることとなって、モータ制御装置4の制御にかかる負担を軽減できる。
【0031】
なお、本実施形態では、判断プログラム45bは、CPU43に、モータ用電源2からパルスモータドライバ41に駆動電圧が供給され始めてから所定時間経過後に、駆動電圧検出部42から出力される検出信号に基づいて、パルスモータドライバ41に供給される駆動電圧を監視し、該駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断する機能を実現させるプログラムであるとしたが、CPU43に、モータ用電源2からパルスモータドライバ41に駆動電圧が供給された直後から、駆動電圧検出部42から出力される検出信号に基づいて、パルスモータドライバ41に供給される駆動電圧を監視し、該駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断する機能を実現させるプログラムであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るミシンの要部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係るモータ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明に係るモータ制御装置の動作を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0033】
100 ミシン
1 モータ
2 モータ用電源
4 モータ制御装置
40 回転角度検出部(原点検知手段)
41 パルスモータドライバ(駆動部)
42 駆動電圧検出部
43 CPU(判断手段,制御手段)
45b 判断プログラム(判断手段)
45c 原点検知プログラム(制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンのモータを駆動する駆動部と、
前記駆動部にモータ用電源から供給される駆動電圧を検出する駆動電圧検出部と、
前記駆動電圧検出部により検出された駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断する判断手段と、
前記モータの原点を検知する原点検知手段と、
前記ミシンの電源投入後、前記判断手段により前記駆動部の駆動電圧が所定電圧に達したと判断された後、前記原点検知手段により前記モータの原点を検知させる制御手段と、を備えることを特徴とするミシンのモータ制御装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記モータ用電源により前記駆動部へ駆動電圧が供給され始めてから所定時間経過後に、前記駆動部の駆動電圧が所定電圧に達したか否かを判断することを特徴とする請求項1に記載のミシンのモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−262961(P2006−262961A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81602(P2005−81602)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000003399)JUKI株式会社 (1,557)
【Fターム(参考)】