説明

ミシンの自由押え

【課題】フリーキルト縫いを行うための布押えであって、作業時における動作音が静粛であり、また縫製物の厚さに応じる縫製作業を行うことができると共に極めて簡単な構造としたミシンの自由押えにすること。
【解決手段】ミシンの押え棒に装着される押えホルダー部Aと、該押えホルダー部Aに対して上下方向に摺動自在に支持される摺動軸5と、該摺動軸5の下端に装着された押えCと、前記摺動軸5を前記押えホルダー部Aに対して常時下方に弾性付勢する弾性部材14とからなること。布表面からの前記押えCの高さ位置を調整する調整機構部Bが具備されてなること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーキルト縫いを行うための布押えであって、作業時における動作音が静粛であり、また縫製物の厚さに応じる縫製作業を行うことができると共に極めて簡単な構造としたミシンの自由押えに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布等の縫製物において、ミシンを連続的に駆動しながら、縫製物を任意の方向に移動して、縫い目を形成してゆく、いわゆるフリーキルト縫いが行われている。このフリーキルト縫いでは、通常の縫製とはタイプの異なる押えが使用される。このフリーキルト縫いに適した従来タイプの押えとして、ミシンの針棒に隣接して設けられた押え棒に装着される装置である。そして、その装置の構造の概略として、押えホルダに上下方向に摺動自在な軸部材が備わっており、この軸部材に押えが設けられている。そして、コイルバネによって押えが常時下方に弾性的に付勢されている。
【0003】
さらに、前記軸部材は、前記針棒の上下動にとともに、上下動するものであり、この軸部材の上下動によって、押えが上下動することになる。この押えの上下動における上昇動作工程の間で縫製物を所望の方向に移動させ、縫製を行ってゆくものである。特許文献1には、従来技術の構造が記載されており、連結部材が針棒の針止めに連結され、摺動軸が針棒の上下動と共に上下動を行うものである。
【特許文献1】実公昭62−32549号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、前記摺動軸が針棒の上下動とともに、激しく上下動するので、その作動音が大きくなり、ミシンの最高回転数を高く設定することができず、場合によっては作業の妨げとなることもある。また、布押え部は常時、針板上に接触するように、最下位置に弾性的に付勢されているので、厚物の縫製物に対しては、作業が行いにくくなる場合も有り得る。この発明の目的は、フリーキルト縫製において、種々の厚さの布に適応して縫製を行うことができ、しかも装置を極めて簡単な構造とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意、研究を重ねた結果、請求項1の発明は、ミシンの押え棒に装着される押えホルダー部と、該押えホルダー部に対して上下方向に摺動自在に支持される摺動軸と、該摺動軸の下端に装着された押えと、前記摺動軸を前記押えホルダー部に対して常時下方に弾性付勢する弾性部材とからなり、布表面からの前記押えの高さ位置を調整する調整機構部が具備されてなるミシンの自由押えとしたことにより、上記課題を解決した。
【0006】
次に、請求項2の発明は、前述の構成において、前記調整機構部は、前記摺動軸の上端に形成された螺子軸部と、内螺子部が形成された調節螺子部材とから構成され、該調節螺子部材を回動させることにより、前記螺子軸部と共に前記摺動軸を上下方向に移動させてなるミシンの自由押えとしたことにより、上記課題を解決した。次に、請求項3の発明は、前述の構成において、前記押えホルダー部の上面には、上下方向に弾性圧縮可能な緩衝支持部が設けられ、該緩衝支持部上に前記調整機構部が支持されてなるミシンの自由押えとしたことにより、上記課題を解決した。
【0007】
次に、請求項4の発明は、前述の構成において、前記緩衝支持部と前記調整螺子部材との間に係止部及び被係止部が具備され、前記係止部と被係止部とが相互に係止して、前記調整螺子部材は、緩衝支持部上で回転方向において停止状態を維持させてなるミシンの自由押えとしたことにより、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、針棒に装着された針止めにピンを連結するようにして、その針棒の上下動と共に摺動軸を上下動させて、その摺動軸と共に布押えを上下動させるという従来タイプのものとは異なり、一針ごとに針止めとピンとの突当て音がなく、また押え足が上下動しないことから、ミシンの最高回転数を高く設定することができ、静かな縫製作業にすることが可能となる。
【0009】
また、本発明によって、前記調整機構部は、前記摺動軸の上端に形成された外螺子部と、内螺子部が形成された調整調節螺子部材部材とから構成されることにより、極めて簡単な構造にすることができ且つ布押えの高さ位置を螺子によって、微調整を可能にすることができる。
【0010】
また、本発明によって、前記押えホルダー部の上面には、上下方向に弾性圧縮可能な緩衝支持部が設けられ、該緩衝支持部上に前記調整機構部が支持されることによって、摺動軸,押えに何らかの外的な衝撃がかかった時の緩衝の役目をなすことができる。次に、本発明によって、前記調整機構部に衝撃がかかっても、その緩みを防止することができ、ひいては押えの位置が衝撃によって、変化することを防止でき、布の移動を略同等の移動力にて移動させることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を図面に基づいて説明する。本発明は、図1に示すように、主に押えホルダー部A、摺動軸5、弾性部材14、調整機構部B及び押えCとから構成される。前記押えホルダー部Aは、図2(a)に示すように、支持本体部1の上下方向の両端に上部軸支部2及び下部軸支部3がそれぞれ形成されている。前記支持本体部1は、略板状に形成されたものである。
【0012】
前記上部軸支部2及び下部軸支部3は、前記支持本体部1の表面側から外方に向って突出するようにして形成されたものであり、上部軸支部2及び下部軸支部3には摺動用貫通孔2a及び3aがそれぞれ形成されている〔図2(a)参照〕。その摺動用貫通孔2a,3aには、後述する摺動軸5が遊挿されるものである。さらに、前記支持本体部1には、ミシンの針棒17に隣接して装着されている押え棒16に連結する装着部4が形成されている。前記支持本体部1,上部軸支部2,下部軸支部3及び装着部4は、金属材から一体成形されたものである〔図2(a)参照〕。
【0013】
次に、摺動軸5は、前記上部軸支部2と下部軸支部3の摺動用貫通孔2a,3aに遊挿されて、上下方向に摺動自在に軸支される。その摺動軸5は、前記上部軸支部2と下部軸支部3によって支持されると共に、上下方向に摺動を行い、後述する調整機構部Bと共に、押えCの高さ位置を調整するものである。
【0014】
その摺動軸5の下端には、図1,図2に示すように、押えCが形成されている。該押えCは、布押え部6とアーム部7とから構成されたものである。前記布押え部6は、フレーム部6aと押え板部6bとから構成されている。前記フレーム部6aは、略円形輪状に形成され、その内部に前記押え板部6bが装着されている。
【0015】
該押え板部6bは、透明板でプラスチック等の合成樹脂から形成されている。その押え板部6bの中心位置には針用貫通孔6cが形成されている〔図1(d),図2(a)参照〕。また、前記アーム部7は、帯板形状をなしており、その長手方向の一端が前記摺動軸5の下端に固着され、前記アーム部7を介して前記摺動軸5の下端から少し離れた位置に布押え部6が存在するようになっている。
【0016】
前記押えCの布押え部6の下面側は、略椀形状に形成されている。そして、この椀形状とした部位は椀形底面部6aと称する。該椀形底面部6aは、具体的には前記フレーム部6aの下面側の外周形状が下方から上方に向うに従い次第に外形が大きくなるように形成されている。たとえば、前記椀形底面部6aは、フレーム部6aの形状が円形輪状とした実施形態のものであれば、そのフレーム部6aは、下方から上方に向うに従い次第に直径が大きくなるように形成されている。
【0017】
そして、そのフレーム部6aの下面側外周面は傾斜面であり、且つ外方に膨出するように曲面形状であることが好ましい。このように、布押え部6に椀形底面部6aが形成されることにより、押えCに針板上に押え付けられた布を手動で移動させるときに、布押え部6の外周の縁に引っかかることを防止でき、フリーキルト縫い作業を円滑に行うことができる。
【0018】
前記押えホルダー部Aの上部軸支部2の上面には、緩衝支持部8が装着される。該緩衝支持部8は、帯板状の金属材が折り返し状に屈曲形成されたものである。その折り返しの屈曲部分は円弧状に形成された屈曲部8cと称する。そして、該屈曲部8cによって折り返し状態で対向する2枚の上片8a及び下片8bとが弾性的に略平行状態を維持するもので、荷重がかかることによって、前記上片8a及び下片8bとが弾性を有して近接する弾性圧縮可能としたものである。
【0019】
前記上片8aには、前記摺動軸5が挿通する貫通孔8dが形成されている。また、前記下片8bは、前記上片8aよりも短く形成されている。そして、その緩衝支持部8の下片8bが前記上部軸支部2の上面にビス等の固着具15にて固着される。前記上片8aには、前記固着具15を締め付けるためのドライバ用貫通孔8eが形成されている。
【0020】
前記摺動軸5には、その軸方向に直交する方向にガイドピン9が貫通固着されている。ガイドピン9は、前記押えホルダー部Aに形成されたガイド長孔1aに遊挿されて、摺動軸5が軸周方向に空転しないで上下動のみ可能とさせる役目をなすものである。そして、前記緩衝支持部8が押えホルダー部Aに装着された状態で、前記摺動軸5が上部軸支部2,下部軸支部3及び前記緩衝支持部8の上片8a及び下片8bの貫通孔8dに遊挿され、且つ前記上部軸支部2及び下部軸支部3との間に弾性部材14が装着され、該弾性部材14の下端が前記ガイドピン9によって支持されるようになっている。その弾性部材14としては、コイルスプリングが使用され、その摺動軸5を常時下方に弾性付勢するものである。
【0021】
前記摺動軸5の軸方向において、前記押えCが装着されている側の反対側、すなわち、上端側には、螺子軸部10が前記摺動軸5と同一軸方向に沿って形成されている〔図2(a)及び図3(a),(b)参照〕。螺子軸部10は、前記摺動軸5よりも直径は小さく形成されている。この螺子軸部10には、後述する調整螺子部材11と螺合して、調整機構部Bを構成する。前記調整螺子部材11は、略円筒形状をなしており、内部に内螺子部11aが形成されている。
【0022】
そして、前記調整機構部Bは、布18表面からの前記押えCの高さ位置を調整する役目をなすものである。具体的には、前記調整螺子部材11の内螺子部11aが前記螺子軸部10と螺合し、前記調整螺子部材11を適宜に回転させることで、前記螺子軸部10と共に前記摺動軸5を上下方向に移動させ、前記押えCの布押え部6の布18からの高さ位置を調節することができる。さらに、前記螺子軸部10の上端には、前記調整螺子部材11が螺子軸部10から外れないように、ストッパ12が固着されている。該ストッパ12は、具体的には、前記螺子軸部10の直径よりも大きな頭部を有するビスが使用される(図3参照)。
【0023】
また、前記緩衝支持部8の上片8aと前記調整螺子部材11には、係止部13a及び被係止部13bが形成されている(図2参照)。そして、係止部13aと被係止部13bとが相互に係止することにより、前記調整螺子部材11は、緩衝支持部8の上片8a上で回転方向において停止状態を維持させることができるものである。
【0024】
具体的には、前記係止部13aは前記貫通孔8dの周囲に放射状に形成された複数の突起からなり、また前記被係止部13bは、調整螺子部材11の裏面側の内螺子部11aの周囲に放射状に形成された溝とからなる。そして、その突起状の係止部13aが溝状の被係止部13bに係止することにより、前記調整螺子部材11が回転方向に停止する状態を維持することができるものである〔図1(d)及び図2(c)参照〕。
【0025】
本発明は、まず、図7に示すように、本発明における押え具の押えホルダー部Aに形成された装着部4を押え棒16の所定位置に配置して、止螺子16aによって固定される。そして、針棒17に装着された、針が押え板部6bに形成された針用貫通孔6cを通過するように設定される。
【0026】
次に、布18の厚さtに応じて調整螺子部材11を適宜に回転させて、前記摺動軸5を上下方向に移動させ、前記押えCを布18の厚さtと略同一の高さhとなるように位置合せを行う。そして、ミシンのスイッチをオンにして、前記布18を手動でもって所望の方向にさせながら、模様を描きフリーキルト縫いを行う(図8参照)。前記布18の厚さtが変化する部分では、押えCの布押え部6がその厚さtが厚くなる部分にて前記弾性部材14の弾性力に効して、上昇し布18の変化に常時対応することができるものである(図6参照)。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は本発明の斜視図、(b)は本発明の側面図、(c)は本発明の正面図、(d)は本発明の平面図である。
【図2】(a)は本発明の分解斜視図、(b)は調節螺子部材の下面より見た斜視図、(c)は係止部と被係止部とが係止した状態を示す拡大略示図である。
【図3】(a)は本発明の縦断側面図、(b)は押えを上昇させた状態の本発明の縦断側面図である。
【図4】図3のX-X矢視断面図である。
【図5】押えを布の厚さに合わせて高さ位置を設定した状態の縦断側面図である。
【図6】押えが布の厚さに応じて上下動する状態を示す要部拡大断面図である。
【図7】(a)は本発明と押え棒の斜視図、(b)は本発明を押え棒に装着した斜視図である。
【図8】本発明を使用した縫製作業の作用図である。
【符号の説明】
【0028】
A…押えホルダー部、B…調整機構部、C…押え、5…摺動軸、6a…椀形底面部、
8…緩衝支持部、9…ガイドピン、1a…ガイド長孔、10…螺子軸部、
11…調整螺子部材、13a…係止部、13b…被係止部、14…弾性部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミシンの押え棒に装着される押えホルダー部と、該押えホルダー部に対して上下方向に摺動自在に支持される摺動軸と、該摺動軸の下端に装着された押えと、前記摺動軸を前記押えホルダー部に対して常時下方に弾性付勢する弾性部材とからなり、布表面からの前記押えの高さ位置を調整する調整機構部が具備されてなることを特徴とするミシンの自由押え。
【請求項2】
前記調整機構部は、前記摺動軸の上端に形成された螺子軸部と、内螺子部が形成された調節螺子部材とから構成され、該調節螺子部材を回動させることにより、前記螺子軸部と共に前記摺動軸を上下方向に移動させてなることを特徴とする請求項1に記載のミシンの自由押え。
【請求項3】
前記押えホルダー部の上面には、上下方向に弾性圧縮可能な緩衝支持部が設けられ、該緩衝支持部上に前記調整機構部が支持されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のミシンの自由押え。
【請求項4】
前記緩衝支持部と前記調整螺子部材との間に係止部及び被係止部が具備され、前記係止部と被係止部とが相互に係止して、前記調整螺子部材は、緩衝支持部上で回転方向において停止状態を維持させてなることを特徴とする請求項3に記載のミシンの自由押え。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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