説明

ミシン

【課題】送り歯の送り運動量を容易に調節できるミシンを提供する。
【解決手段】上下送り機構26は偏心機構部40を備える。偏心機構部40は偏心軸支持部70と基台部80を備える。偏心軸支持部70は偏心軸72と回動軸73を備える。基台部80は軸固定穴84と固定穴85を備える。上下送り軸27は軸固定穴84に挿入固定する。偏心軸支持部70の回動軸73は固定穴85に回動可能に軸支する。偏心軸支持部70は固定穴85を中心に回動可能となる。偏心軸72は軸固定穴84に挿入固定した上下送り軸27に対して偏心する。作業者は偏心軸支持部70を回動して軸固定穴84の中心と、偏心軸72の中心との間の距離を変更できる。作業者は上下送り軸27に対する偏心軸72の偏心量を容易に調節できる。故に、作業者は送り歯の上下方向の往復移動量を簡単に調節できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は送り歯を支持する送り台を備えたミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンは送り歯を支持する送り台に水平方向と上下方向の運動を与える。送り歯は略楕円形の軌跡を有する送り運動を行う。故に、ミシンは送り歯によって布を送ることができる。上下方向の送り運動量の変更は縫製品質に影響を与える。縫製する布の種類、厚さ等の縫製条件が変わる場合、作業者は送り歯の略楕円形の軌跡を変更して送り運動量を変更する必要がある。送り運動量の調節は熟練の技能を要し、要求通りの縫製品質を得ることは困難であった。例えば特許文献1が開示するミシンの布送り装置は、上下送り腕の下端が遊嵌する偏心カムを二重偏心カム構造とし、送り歯の上下方向の最大運動量を可変とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−162076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二重偏心カム構造は二箇所で偏心する。作業者は各偏心位置における偏心量を考慮して全体の偏心量を算出する必要があった。故に、送り歯の送り運動量の調節は複雑で容易ではなかった。
【0005】
本発明の目的は、送り歯の送り運動量を容易に調節できるミシンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様に係るミシンは、送り歯を略水平に支持する送り台と、主軸の回転に連動して回転する上下送り軸と、前記上下送り軸の一端部を挿入して固定する軸固定穴と、前記軸固定穴の中心に対して偏心する偏心軸とを有する偏心機構部と、前記偏心軸の一端部を軸支し、前記送り台に上下運動を付与する上下送り腕とを備えたミシンにおいて、前記偏心機構部は、前記偏心軸を前記軸固定穴の中心に対して前記上下送り軸の軸方向に直交する方向に移動可能に支持する偏心軸支持部を備えている。
【0007】
第1態様のミシンでは、偏心機構部は、偏心軸を軸固定穴に固定された上下送り軸に対して移動可能に支持している。故に、ミシンは偏心機構部を上下送り軸の軸方向から見た時に、上下送り軸に対する偏心軸の偏心量を自由に調節できる。故に、作業者は送り歯の上下方向の往復移動量を簡単に調節できる。
【0008】
また第1態様では、前記偏心軸支持部は、長尺状の長手方向の一端部に、前記長手方向と直交する一方向に前記偏心軸を突出させる本体部と、前記本体部の前記一端部と反対側の他端部に、前記一方向と反対方向の他方向に突出する被軸支部とを備え、前記偏心機構部は、前記被軸支部を回動可能に軸支する軸支部と、前記軸支部に対して前記被軸支部を回動不能に固定する固定部とを更に備えてもよい。偏心機構部は、軸支部において被軸支部を回動可能に軸支する。故に、被軸支部を中心に偏心軸支持部を回動させることにより、上下送り軸に対する偏心軸の位置が変わるので、偏心軸の偏心量を自由に調節できる。更に、固定部は軸支部に対して被軸支部を回動不能に固定できるので、送り歯の動作中に偏心軸の偏心量が変わってしまうのを防止できる。
【0009】
また第1態様では、前記軸支部は円筒状に形成され、前記被軸支部の外周面に密着する内周面と、前記円筒の軸線に沿って前記内周面から前記固定部に延びる切り割り溝とを備え、前記固定部は、前記切り割り溝の延びる方向と直交する方向に設け、前記切り割り溝を貫通する第一ネジ穴と、前記ネジ穴に螺合して前記切り割り溝を貫通することにより、前記切り割り溝の幅を狭める第一ネジとを備え、前記第一ネジが前記第一ネジ穴に螺合して前記切り割り溝の幅を狭めることにより、前記軸支部の前記内周面を前記被軸支部の外周面に密着させて回動不能に固定するようにしてもよい。軸支部は切り割り構造である。故に、固定部は切り割り溝の幅を狭めることで、軸支部の内周面を被軸支部の外周面に密着させて固定できるので、軸支部に対して被軸支部を回動不能に確実に固定できる。
【0010】
また第1態様では、前記被軸支部は外周面に少なくとも一つの平坦部を備え、前記軸支部は前記被軸支部の外周面に向けて貫通する第二ネジ穴を備え、前記固定部は、前記第二ネジ穴に螺合して前記平坦部に当接することにより、前記軸支部に対して前記被軸支部を所定位置に位置決め固定する第二ネジを備えるようにしてもよい。例えばDカット状の平坦部に対し、軸支部に設けられた第二ネジ穴に第二ネジを締結して第二ネジの先端を平坦部に当てる構造としたことで、固定部は軸支部に対して被軸支部を所定位置に容易に位置決めできる。
【0011】
また第1態様では、前記上下送り腕は、前記偏心軸の一端部を軸支する部分にボールベアリングを備えてもよい。ミシンは上下送り腕の偏心軸の一端部を遊嵌する部分をボールベアリングにしたことで、上下送り腕の設置スペースの削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ミシン1の斜視図。
【図2】縫針8及び針板15近傍の拡大斜視図。
【図3】布送り機構30の斜視図。
【図4】上下送り機構26の分解斜視図。
【図5】偏心機構部40の分解斜視図。
【図6】偏心機構部40の第一の状態の位置関係を示す図。
【図7】偏心機構部40の第二の状態の位置関係を示す図。
【図8】偏心軸支持部170の斜視図。
【図9】偏心機構部140の第三の状態の位置関係を示す図。
【図10】偏心機構部140の第四の状態の位置関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の第1実施形態のミシン1について図面を参照して説明する。図1〜図3を参照しミシン1の構成について説明する。図1、図2の上側、下側、右側、左側、表側、背面側は夫々ミシン1の上側、下側、右側、左側、前側、後側である。
【0014】
ミシン1はベッド部2、脚柱部3、アーム部4を備える。ベッド部2はミシン1の土台である。ベッド部2はテーブル20上面の凹部(図示略)に上方から装着する。脚柱部3はベッド部2右端から鉛直上方に延びる。アーム部4は脚柱部3上端から左方に延びる。アーム部4はベッド部2上面に対向する。アーム部4は左端部下方に押え足17を装着する。アーム部4は内部に針棒7を保持する。針棒7は下端に縫針8(図2参照)を装着する。針棒7と縫針8はメインモータ13の駆動に従って上下に往復移動する。アーム部4は左端部前方に天秤9を備える。天秤9は針棒7に連動して上下動する。アーム部4は上部に操作部10を備える。操作部10は前面に液晶パネル11を備える。作業者は液晶パネル11を見ながら操作部10を操作し各種指示をミシン1に入力する。
【0015】
ミシン1はテーブル20下面に制御装置29を備える。制御装置29はロッド21を介して踏み込み式のペダル22に接続する。作業者はペダル22をつま先側又は踵側に操作する。制御装置29はペダル22の操作方向及び操作量に応じてミシン1の動作を制御する。
【0016】
脚柱部3は右側面上部にメインモータ13を備える。アーム部4は内部に主軸14を備える。主軸14は回転可能な状態でアーム部4内部を左右方向に延びる。主軸14の右端はメインモータ13に接続する。主軸14の左端は針棒上下動機構(図示略)に接続する。メインモータ13は主軸14を駆動して針棒7と天秤9を上下動する。
【0017】
図2に示すように、ベッド部2は上面左端に針板15を備える。針板15は略中央部に針穴18を有する。縫針8の下端は下降時に針穴18を通過する。針板15は針穴18の左方、後方、右方の夫々に送り歯穴19を備える。送り歯穴19は前後方向に長い長方形状である。ベッド部2は針板15の下方に釜機構(図示略)、布送り機構30(図3参照)を備える。
【0018】
図3を参照し布送り機構30の構成について説明する。図3の上側、下側、右側、左側、表側、背面側は夫々布送り機構30の上側、下側、右側、左側、前側、後側である。布送り機構30は送り台33、送り歯34、水平送り機構25、上下送り機構26等を備える。送り台33は針板15(図2参照)の下方に位置し且つ針板15に対して略平行である。送り台33は上面の中心近傍に3つの送り歯34を支持する。送り歯34の夫々は送り歯穴19の位置に対応する。送り歯34の夫々は前後方向に長い。送り歯34の前後方向の長さは送り歯穴19の長さより小さい。送り歯34は押え足17との間で布を挟む為の凹凸を上部に備える。
【0019】
図3を参照し水平送り機構25について説明する。水平送り機構25は布送りモータ62、リンク機構部65、水平送り軸28、リンク部材50等を備える。布送りモータ62は送り台33の右方に配置してある。布送りモータ62はステッピングモータである。リンク機構部65は、中間作用腕68、送り腕66、送り腕67を備える。送り腕66の一端は布送りモータ62の駆動軸63の先端に直交して取り付けてある。送り腕66の他端は送り腕67の一端に連結部97を介して回動可能に連結してある。送り腕67の他端は中間作用腕68の延設方向先端に連結部96を介して回動可能に連結してある。中間作用腕68は連結部96との連結部分の反対側の端部に水平送り軸28の右端側を取り付けてある。水平送り軸28は布送りモータ62の左上方に回動可能に設けてある。水平送り軸28は左右方向に延びる。駆動軸63が往復回動すると、連結部97は上下方向に往復移動する。連結部96は送り腕67により連結部97の移動に連動する。中間作用腕68は水平送り軸28を取り付けた側を中心に揺動する。水平送り軸28は中間作用腕68の揺動に伴って所定角度の範囲内で回動する。リンク部材50の下端は水平送り軸28の左端部に直交して取り付けてある。リンク部材50の上端は送り台33の前端部にある軸支部36に回動可能に連結してある。故に、送り台33は水平送り軸28が所定角度の範囲内で回動すると、リンク部材50を介してミシン1の前後方向に往復移動する。
【0020】
図4を参照し上下送り機構26について説明する。図4の上側、下側、右側、左側、表側、背面側は夫々布送り機構30の上側、下側、右側、左側、前側、後側である。上下送り機構26は上下送り軸27、偏心機構部40、ボールベアリング60、上下送り腕51等を備える。上下送り軸27は水平送り軸28に対して平行に位置する。上下送り軸27は右端部にプーリ24(図3参照)を備える。プーリ24はタイミングベルト(図示略)により主軸14(図1参照)に連結してある。上下送り軸27は主軸14に連結したタイミングベルトを介してメインモータ13の駆動により回転する。故に、上下送り軸27はミシン1の主軸14に同期して回転する。偏心機構部40は上下送り軸27の左端に設けてある。偏心機構部40は偏心軸72を備える。偏心軸72は上下送り軸27の軸心に対して偏心している。偏心機構部40と偏心軸72の詳細は後述する。上下送り腕51は送り台33の軸支部35に連結してある。軸支部35は送り台33の後端部に設けてある。上下送り腕51は後述するボールベアリング60を介して偏心機構部40の偏心軸72を回転可能に保持する。偏心機構部40は上下送り軸27の回転に伴って回転する。偏心軸72は偏心機構部40の回転によって上下動しながら回転する。上下送り腕51は上下動する。故に、上下送り機構26は送り台33を上下動できる。
【0021】
図4を参照し上下送り腕51の構造について説明する。上下送り腕51は略円筒状である。上下送り腕51は保持穴55、取付台52、取付部53、軸固定部54を備える。保持穴55は左右方向に貫通する。保持穴55はボールベアリング60を内挿保持する。ボールベアリング60の詳細は後述する。取付台52は上下送り腕51の外周面に設けてある。取付部53は取付台52の上部に設けてある。取付部53は円筒状であり、保持穴55の軸方向に延伸している。取付部53は取付穴56を備える。軸固定部54は取付部53に直交して設けてある。軸固定部54はネジ穴57を備える。ネジ穴57は取付部53の取付穴56に貫通する。
【0022】
上下送り腕51は取付部53の取付穴56の位置が送り台33の軸支部35に設けた貫通穴35Aの位置に対応する。固定ピン45は貫通穴35Aと取付穴56に嵌挿する。ネジ穴57にネジ47を締結する。ネジ47の先端部は固定ピン45の先端部に当接する。固定ピン45の先端部は取付部53に固定する。送り台33は固定ピン45に回動可能である。送り台33と上下送り腕51は連結する。
【0023】
図5を参照し偏心機構部40の構造について説明する。偏心機構部40は偏心軸支持部70と基台部80を備える。偏心軸支持部70について説明する。偏心軸支持部70は本体部71、偏心軸72、回動軸73を備える。本体部71は一方向に長手を有する板状である。本体部71の長手方向両端部の角部は円弧状である。本体部71は一面71Aと他面71Bを有する。一面71Aは送り台33(図4参照)側に対向する面である。他面71Bは一面71Aの反対側の面であり、上下送り軸27(図4参照)側に対向する面である。偏心軸72は一面71Aにおける本体部71の長手方向の一端側に設けてある。回動軸73は他面71Bにおける本体部71の長手方向の他端側に設けてある。偏心軸72と回動軸73は、本体部71の長手方向に直交する方向、且つ互いに逆方向に各々延出している。偏心軸72と回動軸73は例えば円筒状又は円柱状である。
【0024】
基台部80について説明する。図5に示すように、基台部80は台座部81、軸支部82、軸固定部83を備える。台座部81は一部円柱状である。台座部81は上下送り軸27の軸方向に平行に延伸する。台座部81は一端面81A、外周面81B、他端面81Cを備える。一端面81Aは偏心軸支持部70側に対向する面である。外周面81Bは一部円弧状である。他端面81Cは一端面81Aとは反対側であり、上下送り軸27側に対向する面である。台座部81は軸固定穴84を有する。軸固定穴84は台座部81の軸方向に沿って貫通する。軸固定穴84は上下送り軸27の一端を他端面81C側から内挿する。台座部81は、外周面81Bに軸固定穴84の軸方向に直交するネジ穴81D、81Eを有する。ネジ穴81Dはネジ穴81Eに直交して軸固定穴84に連通する。台座部81は、ネジ穴81D、81Eにネジ91、92を締結する。ネジ91、92は軸固定穴84に内挿した上下送り軸27の一端に当接して上下送り軸27を基台部80に固定する。基台部80は上下送り軸27と一体して回転する。
【0025】
軸支部82は外周面81Bの円弧部分に対して軸固定穴84を挟んで対向する位置に設けてある。軸支部82は円筒状である。軸支部82は台座部81の延伸方向に対して平行に延伸する。軸支部82は固定穴85を備える。固定穴85は偏心軸支持部70の回動軸73を内挿固定する。固定穴85は軸固定穴84の軸方向に対して平行である。軸支部82は切り割り構造である。軸支部82は切り割り溝86を備える。切り割り溝86は固定穴85の軸方向に対して平行である。軸支部82の偏心軸支持部70側から見た形状は「C」状である。
【0026】
軸固定部83は軸支部82の切り割り溝86の近傍に、軸支部82と一体的に設けてある。軸固定部83は軸支部82の軸方向に直交する円柱状である。軸固定部83はネジ穴87と切断溝88を備える。ネジ穴87は軸固定部83の軸方向に沿って設けてある。切断溝88は切り割り溝86と連通する。軸固定部83は切断溝88において軸方向に二分割している。後述するが、軸固定部83は、軸支部82の固定穴85に内挿した回動軸73を固定する為に、軸支部82の内部空間を狭める機能を有する。
【0027】
偏心機構部40の組み立てについて説明する。基台部80の一端面81Aは偏心軸支持部70の本体部71の他面71Bと対向する。基台部80は固定穴85に偏心軸支持部70の回動軸73を挿入する。偏心軸支持部70は固定穴85に挿入した回動軸73を中心に回動可能となる。偏心軸支持部70を回動することで、上下送り軸27に対する偏心軸72の偏心量は調節できる。偏心量の調節方法については後述する。
【0028】
軸固定部83はネジ穴87にネジ90を締結する。切断溝88の溝幅と共に切り割り溝86の溝幅は狭まる。軸支部82の固定穴85の内径は小さくなる。固定穴85の内周面は回動軸73の外周面に密着する。故に、回動軸73は軸支部82に強固に固定できる。偏心軸支持部70と基台部80は固定する。偏心機構部40の組み立ては完了する。
【0029】
図4を参照し偏心機構部40と上下送り腕51の連結構造について説明する。上下送り腕51の保持穴55はボールベアリング60を内挿保持する。ボールベアリング60は例えば外輪と内輪で玉を囲み、玉を通して荷重を伝達する周知の構造を採用できる。ボールベアリング60は内輪の穴61に偏心機構部40の偏心軸支持部70の偏心軸72を挿入する。偏心軸72が回転すると内輪が回転して玉は回転する。玉が自転することで、上下送り腕51と偏心軸支持部70の間で発生する摩擦は上下送り腕51の保持穴55の内周面に偏心軸72が直接に接して回転するよりも低くできる。ボールベアリング60はコンパクトである。故に、上下送り腕51の大きさは大きくならない。上下送り腕51は内部空間の狭いベッド部2内に設置可能である。偏心軸72は軸方向に図示しないネジ穴を有する。ボールベアリング60は偏心軸72のネジ穴にフランジ付きのネジ46をねじ込むことで位置決め固定する。
【0030】
図6、図7を参照し偏心機構部40における偏心量の調節と、送り台33の運動軌跡Kとの関係について説明する。偏心軸支持部70は基台部80の固定穴85に挿入した回動軸73を中心に回動可能である。上下送り軸27の軸方向から見て、軸固定穴84の中心、偏心軸72の中心、固定穴85(回動軸73)の中心は夫々P1、P2、P3である。図6に示す偏心軸支持部70は偏心軸72の中心P2がP1とP3とを結ぶ直線上にある第一の状態である。P2はP1に最も近づく。P1−P2間の距離Q1は偏心機構部40における最小距離である。P1−P2間の距離Q1が最小の時、偏心機構部40における偏心量は最小である。偏心機構部40の偏心量をQ1に調整した場合の送り歯34の運動軌跡K1は図6の矢印下側に示してある。運動軌跡K1は針板15の位置(図中H)の上下において横長の略楕円形状である。送り歯34は運動軌跡K1が針板15よりも上側にある時に布を送る。
【0031】
図7に示す偏心軸支持部70は偏心軸72の中心P2がP1とP3とを結ぶ直線上から離れている第二の状態である。第二の状態では、偏心軸支持部70は、図6に示す第一の状態から回動軸73の中心であるP3を中心に反時計回り(図7において)に例えば約10°回動している。第一の状態と比べて、偏心軸72は上下送り軸27から離れた位置にある。P1−P2間の距離Q2は第一の状態のP1−P2間の距離Q1よりも長くなる。偏心機構部40における偏心量は第一の状態より大きくなる。偏心機構部40の偏心量をQ2に調整した場合の送り歯34の運動軌跡K2は図7の矢印下側に示してある。運動軌跡K2は運動軌跡K1に比べて上下方向に大きく膨らんだ略楕円形状である。送り歯34の上下方向の移動量は第一の状態に比べて増加する。故に、偏心機構部40は偏心軸支持部70が基台部80の固定穴85に挿入した回動軸73を中心に回動することで、容易に上下送り軸27に対する偏心軸72の偏心量を調節することができる。
【0032】
偏心軸支持部70の回動軸73は本発明の「被軸支部」の一例である。基台部80の軸支部82は本発明の「軸支部」の一例である。基台部80の軸固定部83は本発明の「固定部」の一例である。
【0033】
以上説明したように、本実施形態のミシン1は布送り機構30を備える。布送り機構30は上下送り機構26を備える。上下送り機構26は送り台33を上下動する。上下送り機構26は偏心機構部40を備える。偏心機構部40は偏心軸支持部70と基台部80を備える。偏心軸支持部70は偏心軸72と回動軸73を備える。基台部80は軸固定穴84と固定穴85を備える。上下送り軸27は軸固定穴84に挿入固定する。偏心軸支持部70の回動軸73は固定穴85に回動可能に軸支する。偏心軸支持部70は固定穴85に軸支した回動軸73を中心に回動可能となる。偏心軸72は軸固定穴84に挿入固定した上下送り軸27に対して偏心する。作業者は偏心軸支持部70を回動して軸固定穴84の中心P1と、偏心軸72の中心P2との間の距離を変更できる。P1−P2間の距離は確認が容易で調節し易い。作業者は上下送り軸27に対する偏心軸72の偏心量を容易に調節できる。故に、作業者は送り歯の上下方向の往復移動量を簡単に調節できる。
【0034】
本実施形態では特に、基台部80の固定穴85は軸支部82に設けてある。軸支部82は切り割り構造である。切り割り溝86の幅を狭めることで、軸支部82の内周面を回動軸73の外周面に密着固定できる。ミシン1は軸支部82に対して回動軸73を回動不能に確実に固定できる。
【0035】
本実施形態では特に、上下送り腕51における偏心軸72の一端部を遊嵌する部分をボールベアリング60で構成する。故に、ミシン1はベッド部2内における上下送り腕51の設置スペースの削減を図ることができる。
【0036】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されず、様々な変形が可能である。上記実施形態では、偏心機構部40は偏心軸支持部70が基台部80に対して回動する。作業者は偏心軸支持部70を回動して軸固定穴84の中心P1と、偏心軸72の中心P2との間の距離を変更し、上下送り軸27に対する偏心軸72の偏心量を自由に調節する。例えば、偏心機構部40は偏心軸支持部70が調節可能な偏心量のパターンから選択した偏心量に瞬時に調節できる構造としてもよい。
【0037】
図8〜図10を参照し予め定めた偏心量のパターンに瞬時に調節できる偏心機構部140について説明する。偏心機構部140は上記実施形態の偏心機構部40の変形例である。図8、図9に示すように、偏心機構部140は偏心軸支持部170と基台部180を備える。偏心軸支持部170は本体部171、偏心軸172、回動軸173を備える。本体部171及び偏心軸172は、図5に示す本体部71及び偏心軸72と同じである。回動軸173は第一平坦面176と第二平坦面177を備える。第一平坦面176と第二平坦面177は回動軸173の外周面にDカット加工で形成してある。第二平坦面177は、第一平坦面176に対して回動軸173の径方向反対側の端部から周方向にずれた位置に設けてある。第一平坦面176と第二平坦面177は回動軸173の軸方向において平行でない。
【0038】
図9に示すように、基台部180は台座部181と軸支部182を備える。台座部181は軸固定穴184を有する。軸固定穴184は図5に示す軸固定穴84に相当する。軸固定穴184は上下送り軸27の一端を内挿固定する。軸支部182は台座部181に設けてある。軸支部182は角柱状である。軸支部182は台座部181の延伸方向に対して平行に延伸する。軸支部182は固定穴185を備える。固定穴185は図5に示す固定穴85に相当する。固定穴185は偏心軸支持部170の回動軸173を内挿する。
【0039】
軸支部182は固定穴185の軸方向に対して平行な側面187、188、189を備える。側面187は軸固定穴184の中心と固定穴185の中心とを結んだ直線上に位置にする。側面188、189は側面187に直交し且つ互いに平行である。側面187〜189はネジ穴201〜203を各々有する。各ネジ穴201〜203は固定穴185の軸方向に対して直交して連通する。
【0040】
図9、図10に示すように、偏心軸支持部170は、基台部180に対して固定穴185に挿入した回動軸173を中心に回動する。図9に示すように、ネジ94は側面188のネジ穴202に締結する。固定穴185に挿入した回動軸173の第一平坦面176はネジ94の先端に当接する。固定穴185の中心と、軸固定穴184の中心と、偏心軸172の中心とは同一直線上に位置する。偏心軸支持部170は第三の状態である。第三の状態では軸固定穴184に対する偏心軸172の偏心量は最も小さい位置関係である。ネジ93は側面187のネジ穴201に締結する。ネジ93の先端は固定穴185に挿入した回動軸173の外周面に当接する。回動軸173は回動不能となる。偏心軸支持部170は第三の状態を保持できる。
【0041】
図10に示すように、偏心軸支持部170は、基台部180に対して固定穴185に挿入した回動軸173を中心に反時計回り(図10において)に回転する。ネジ95は側面189のネジ穴202に締結する。固定穴185に挿入した回動軸173の第二平坦面177はネジ95の先端に当接する。固定穴185の中心と、軸固定穴184の中心とを結ぶ直線上から偏心軸172の中心はずれている。偏心軸支持部170は第四の状態となる。第四の状態では第三の状態よりも軸固定穴184に対する偏心軸172の偏心量は大きい位置関係である。ネジ93は側面187のネジ穴201に締結する。ネジ93の先端は固定穴185に挿入した回動軸173の外周面に当接する。回動軸173は回動不能となる。偏心軸支持部170は第四の状態を保持できる。
【0042】
以上のように、本変形例は偏心機構部140が偏心軸支持部170の回動軸173に第一平坦面176と第二平坦面177を有する。偏心軸支持部170は固定穴185に挿入した回動軸173を中心に回動し、第一平坦面176又は第二平坦面177にネジ94又はネジ95の先端を当接する。第一平坦面176又は第二平坦面177にネジ95の先端を当接することで軸固定穴184に対する偏心軸172の偏心量について予め定めた偏心量のパターンに調節できる。作業者は、固定穴185の中心と、偏心軸172の中心との距離を測る必要がなく、予め定めた偏心量に正確に調節できるので、作業者による技術誤差も生じにくい。尚、偏心量は回動軸173に設ける各平坦面同士の成す角度で変更可能である。本変形例の回動軸173は二つの平坦面を備えるが、三つ以上であってもよい。この場合、偏心機構部はより多くの偏心量のパターンに変更できる。
【0043】
水平送り機構25は、上記実施形態に限定されない。例えば、水平送り機構25は布送りモータ62、リンク機構部65ではなく、メインモータ13の駆動により回転する主軸14又は上下送り軸27に連結したクランク機構により駆動するようにしてもよい。この場合、水平送り機構25はクランク機構により水平送り軸28を所定角度の範囲内で回動する。送り台33は水平送り軸28の所定角度の範囲内での回動によりリンク部材50を介してミシン1の前後方向に往復移動する。
【0044】
上下送り腕51は偏心軸72の一端部を遊嵌する部分をボールベアリング60で構成したが、ニードルベアリング等、他の軸受で構成してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 ミシン
14 主軸
26 上下送り機構
27 上下送り軸
33 送り台
34 送り歯
40 偏心機構部
51 上下送り腕
60 ボールベアリング
70 偏心軸支持部
71 本体部
72 偏心軸
73 回動軸
80 基台部
82 軸支部
83 軸固定部
84 軸固定穴
85 固定穴
86 切り割り溝
87 ネジ穴
88 切断溝
90、94、95 ネジ
140 偏心機構部
170 偏心軸支持部
173 回動軸
176 第一平坦面
177 第二平端面
180 基台部
202、203 ネジ穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り歯を略水平に支持する送り台と、
主軸の回転に連動して回転する上下送り軸と、
前記上下送り軸の一端部を挿入して固定する軸固定穴と、前記軸固定穴の中心に対して偏心する偏心軸とを有する偏心機構部と、
前記偏心軸の一端部を軸支し、前記送り台に上下運動を付与する上下送り腕と
を備えたミシンにおいて、
前記偏心機構部は、前記偏心軸を前記軸固定穴の中心に対して前記上下送り軸の軸方向に直交する方向に移動可能に支持する偏心軸支持部を備えたことを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記偏心軸支持部は、
長尺状の長手方向の一端部に、前記長手方向と直交する一方向に前記偏心軸を突出させる本体部と、
前記本体部の前記一端部と反対側の他端部に、前記一方向と反対方向の他方向に突出する被軸支部とを備え、
前記偏心機構部は、
前記被軸支部を回動可能に軸支する軸支部と、
前記軸支部に対して前記被軸支部を回動不能に固定する固定部と
を更に備えた
ことを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記軸支部は円筒状に形成され、
前記被軸支部の外周面に密着する内周面と、
前記円筒の軸線に沿って前記内周面から前記固定部に延びる切り割り溝と
を備え、
前記固定部は、
前記切り割り溝の延びる方向と直交する方向に設け、前記切り割り溝を貫通する第一ネジ穴と、
前記第一ネジ穴に螺合して前記切り割り溝を貫通することにより、前記切り割り溝の幅を狭める第一ネジと
を備え、
前記第一ネジが前記第一ネジ穴に螺合して前記切り割り溝の幅を狭めることにより、前記軸支部の前記内周面を前記被軸支部の外周面に密着させて回動不能に固定することを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記被軸支部は外周面に少なくとも一つの平坦部を備え、
前記軸支部は前記被軸支部の外周面に向けて貫通する第二ネジ穴を備え、
前記固定部は、前記第二ネジ穴に螺合して前記平坦部に当接することにより、前記軸支部に対して前記被軸支部を所定位置に位置決め固定する第二ネジを備える
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のミシン。
【請求項5】
前記上下送り腕は、前記偏心軸の一端部を軸支する部分にボールベアリングを備えたことを特徴とする請求項2から4の何れかに記載のミシン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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