説明

ミストコレクタ

【課題】空気中に含まれるミストの分離性能を高め、メンテナンスを不要とし得るミストコレクタを提供する。
【解決手段】円筒形状のケース体12内には、電動モータ21により回転駆動される多重回転筒体31が設けられている。多重回転筒体31は、それぞれ上下方向に伸びるとともに径方向にそれぞれ気流案内隙間32を介して重ねられる複数の筒形分離板33を有しており、気流案内隙間32に下方に向けて流れる気流は旋回される。気流が旋回すると、気流中に含まれるミストは筒形分離板33の内面に付着して気流によって下方に向けて移動し、筒形分離板33の下端部から液滴となって径方向外方に向けて飛散し、ミストが除去された空気は、中央部に設けられた排気流路46から外部に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中に含まれるオイル等の液体のミストを遠心力により空気と分離して除去するミストコレクタに関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品などの被加工物を切削加工したり研削加工したりする際には、切削液や研削液を被加工物に供給して切削熱の除去及び切粉を除去する。加工後被加工物に付着した切粉は洗浄装置によって切粉等を洗浄除去する。この際加工装置や洗浄装置からは切削液や洗浄液が霧状の液滴、いわゆるミストとなって機械装置外に拡散して工場内環境を悪くしていた。その対策としてミストコレクタによってミストを吸引除去するようにしている。
【0003】
ミストを除去するためのミストコレクタとしては、フィルターを使用するタイプが通常である。フィルターの形態としては、特許文献1に記載されるように、ケース内に固定された濾過板つまりフィルターにミストを含む空気を通過させるようにした固定フィルター式と、特許文献2に記載されるように、円筒形状の回転式フィルターがケース内に組み込まれた回転式フィルター式とがある。この回転フィルター式においては、回転駆動される円筒形状のフィルターに外側から空気を供給するようにし、濾過された空気はフィルターの内側から外部に排出されるようになっている。フィルターに代えて円盤型の回転ブラシを用いるようにした回転ブラシ式のミストコレクタが特許文献3に記載されている。回転ブラシ式においては、ノズルから冷却水や洗浄液を回転ブラシに吹き付けることにより、回転ブラシにミストや粉塵を付着させるとともに空気を冷却するようにしている。
【0004】
フィルターを使用しないタイプとしては、特許文献4および特許文献5に記載されるように、ミストを含む気流を回転円板の表面に垂直に吹き付けるようにし、回転円板に衝突して付着したミストを遠心力により空気と分離するようにした遠心分離式のミストコレクタがある。
【0005】
さらに、ミストコレクタには、ミストを帯電させるようにした電気集塵方式があり、通常の電気集塵方式においては電極にミストを付着させるようにしている。これに対し、特許文献6には、正電極と負電極とに高電圧を与えてコロナ放電を発生させ、両電極間にミストを含む空気を通過させることにより、ミストをクーロン力により凝集させるようにした電気集塵方式のミストコレクタが記載されている。このタイプの電気集塵方式においても、凝集された液滴を捕集するために、両電極の下流側にはフィルターが配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−243332号公報
【特許文献2】特開2006−289272号公報
【特許文献3】特開2006−175319号公報
【特許文献4】特開平9−105399号公報
【特許文献5】特開2008−119694号公報
【特許文献6】特開平8−52314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した固定式と回転式のいずれのタイプにおいてもフィルターを用いると、空気流にはフィルターの通気抵抗が加わるため、空気流を生成するファンの消費電力が電気集塵方式よりも大きくなる。しかも、フィルターが目詰まりして吸収限界を超えると、ミストが空気流に押し流されて下流側に再飛散してフィルターとしての機能を喪失することになるので、定期的にフィルターを交換したり、特許文献1に記載されるように目詰まりを除去するためにフィルターに洗浄水を吹き付けたりする必要がある。しかし、単にフィルターに洗浄液を吹き付けるだけではフィルターの目に詰まった細かい切粉などは除去することができず、自動洗浄によるメンテナンスフリーは困難である。回転式フィルターにおいては、フィルターに付着したミストはフィルターの遠心力によりフィルターの外側に飛散させるようにしているので、フィルターの目詰まりは、固定フィルター式よりも少なくすることができるが、遠心力ではフィルターに食い込んだ固形粒子等を完全に除去することが困難である。このためフィルターの目に食い込んだ固形粒子が回転バランスを崩しフィルターに振動が発生し、ベアリングを損傷する。
【0008】
フィルターを使用しない回転ブラシ式のミストコレクタにおいては、回転ブラシにミストや粉塵を付着させるとともに空気を冷却するために、回転ブラシにはノズルから冷却水や洗浄液を吹き付ける必要があり、多量の冷却水や洗浄液を使用しなければならない。
【0009】
特許文献4および特許文献5に記載される遠心分離式のミストコレクタにおいては、遠心分離室に工業用水やクーラント液などを供給することによって回転円板を洗浄することは可能であるが、このような構造では遠心分離の効果を充分引き出しているとは言えず、遠心力によって細かいミストを分離するには限界があるので、下流側にフィルターを設けて分離性能を確保している。このため、遠心分離式においてもフィルターのメンテナンスが必要となっている。
【0010】
一方、集塵電極板にミストを付着させるようにした電気集塵方式のミストコレクタにおいては、集塵電極板にミストがタール状となって付着することになるので、それを取り除くのは容易ではなく、その取り除き作業は熟練した専門家によらなければならない。集塵電極板を自動的に洗浄するようにしたタイプもあるが、温水製造用のヒータや噴射用の洗浄ポンプが必要となり、このタイプのミストコレクタは高価となっている。しかも、特許文献6に記載されるように、コロナ放電によりミストを凝集させるようにした電気集塵方式においては、凝集された液滴を取り除くために、下流側にフィルターを配置する必要がある。
【0011】
本発明の目的は、空気中に含まれるミストの分離性能を高めるミストコレクタを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、メンテナンスを不要とし得るミストコレクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のミストコレクタは、空気に含まれる液体のミストを除去するミストコレクタであって、上端部に設けられた流入口に連通する分離室が内部に形成され、上下方向に配置される円筒形状のケース体と、前記ケース体の上端部内に回転自在に装着され、前記ケース体に取り付けられた電動モータにより駆動される回転軸と、それぞれ上下方向に伸びるとともに気流案内隙間を介して径方向に重ねられて前記分離室の外周部に配置される複数の筒形分離板を備え、前記回転軸に連結されて前記気流案内隙間に下方に向けて流れる気流を旋回させて気流中に含まれるミストをそれぞれの前記筒形分離板の内面に付着させて下方に案内する多重回転筒体と、前記回転軸に連結され、前記流入口から流入した気流を前記多重回転筒体の前記気流案内隙間に気流を送り込むインペラと、前記ケース体の下端部に設けられ、前記多重回転筒体を通過してミストが分離された気流を外部に案内する内側の排気流路とミストが流入する外側のドレン室とに仕切る排出筒体とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明のミストコレクタは、前記筒形分離板の下端部を径方向内側の前記筒形分離板よりも径方向外側の前記筒形分離板を下方に向けて迫り出させ、前記筒形分離板の下端部から滴下したミストを径方向外方に隣り合う前記筒形分離板に飛散させるようにしたことを特徴とする。本発明のミストコレクタは、前記多重回転筒体の前記気流案内隙間内を通過して旋回しながら径方向内方に流れる空気のエネルギーを回収する複数のブレードを前記多重回転筒体の下流側に位置させて前記回転軸に連結することを特徴とする。
【0015】
本発明のミストコレクタは、前記回転軸を回転自在に支持するホルダーを前記ケース体の天板に取り付け、前記回転軸に取り付けられる駆動部材を介して前記多重回転筒体を前記ホルダーに吊り下げた状態で保持することを特徴とする。本発明のミストコレクタは、複数の円筒部材を前記気流案内隙間を介して同心円状に組み合わせることにより前記多重回転筒体を形成することを特徴とする。本発明のミストコレクタは、帯状の板材を前記気流案内隙間を介して螺旋状に折り曲げることにより前記多重回転筒体を形成することを特徴とする。本発明のミストコレクタは、前記帯状の板材を折り曲げる際に内面と外面の一方面に突起部を形成し、当該突起部により前記筒形分離板相互間の前記気流案内隙間を設定することを特徴とする。本発明のミストコレクタは、天板には液体供給口が設けられ、定期的に水やクーラント等の洗浄液体をインペラに向けて吹き付けることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、気流案内隙間を筒形分離板に沿って流れる気流は多重回転筒体の回転によって回転力を受けて回転しながら下方に向けて流れ、気流に含まれるミストは遠心力により筒形分離板の内周面に付着する。内周面に付着したミストは液膜となって筒形分離板の下端にまで気流により下降移動し、筒形分離板の下端部から遠心力によりドレン室に落下する。一方、ドレンが除去された気流は、排気流路から外部に排出されるので、フィルターを用いることなく、微細粒径のミストを確実に除去することができる。これにより、空気中に含まれるミストを高い分離性能で除去することができる。
【0017】
筒形分離板に固形粒子が付着しても、洗浄液を多重回転筒体に定期的に供給するだけで、筒形分離板に付着した固形粒子を完全に洗い流すことができるので、メンテナンスが不要となる。
【0018】
フィルターによりミストを除去する場合に比して、多重回転筒体を通過する空気の通気抵抗が小さいので、空気の圧力損失が少なく、気流を生成するための電動モータの容量を小さくすることができ、消費電力を低減することができる。更に、高速回転する気流をブレードに当てることで反動タービンとして機能し、多重回転筒体に回転トルクを与え、電動モータの負荷を低減することで電動モータの消費電力を低減することができる。
【0019】
フィルターを用いた場合にはその交換が必要となるが、フィルター交換が不要となるので、フィルター交換の費用が不要となり、ランニングコストを低減することができる。また、電気集塵機のように極板の清掃作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施の形態であるミストコレクタを示す断面図である。
【図2】図1の一部を示す拡大断面図である。
【図3】図1における3−3線拡大断面図である。
【図4】図1における4−4線拡大断面図である。
【図5】図3における5−5線拡大断面図である。
【図6】多重回転筒体の一部を示す拡大断面図である。
【図7】本発明の他の実施の形態であるミストコレクタの一部を示す拡大断面図である。
【図8】図7における8−8線断面図である。
【図9】多重回転筒体を形成する板材を示す一部省略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すミストコレクタ10aは、内部に分離室11が形成されたケース体12を有している。ケース体12は円筒部12aと、この上端部にボルト13により締結される天板12bと、下端部に固定される底板12cとにより形成されている。ケース体12の下端部外周には複数の脚片14が取り付けられており、ケース体12は脚片14により支持基盤の上に上下方向を向いて設置される。
【0022】
図1に示されるように、ケース体12の円筒部12aの上端部にはミストを含む空気が流入する流入口15が分離室11に連通して形成されている。流入口15に連通させてケース体12にはダスト分離器16が取り付けられ、ダスト分離器16を介してケース体12にはミストを含む空気を案内するためのダクト17が接続されるようになっている。ダスト分離器16の内部には、ダクト17により案内される空気中に含まれ、多重回転体の隙間を詰まらせてしまう大きな切粉等の固形物を除去するために、メッシュ状の金網またはパンチングメタルなどからなる異物除去板18が設けられている。ミストコレクタ10aは切削機械や研削機械の近傍に設置され、切削液や研削液、清浄液のミストを含む空気がダクトを介してケース体12の分離室11に供給される。
【0023】
天板12bの上にはその径方向中央部に電動モータ21が取り付けられており、電動モータ21の主軸21aは天板12bを上下方向に貫通してケース体12の内部に突出している。天板12bの下面には中空円筒形状のホルダー22が取り付けられており、ホルダー22のフランジと電動モータ21のフランジはボルト23により天板12bに締結されている。ホルダー22の内部に回転自在に装着されるスピンドル軸つまり回転軸24は、電動モータ21の主軸21aに連結されており、回転軸24は上端部が軸受25aを介してホルダー22により支持されるとともに下端部が軸受25bを介してホルダー22により支持される。回転軸24の下端部には、図3に示されるように、基部26aとこれと一体となって径方向に伸びる4つのロッド部26bとを有し、全体的に十字形状となった駆動部材26が取り付けられている。基部26aには図2に示されるように連結フランジ27が固定され、連結フランジ27を回転軸24にボルト等により取り付けることによって、回転軸24は駆動部材26に締結される。回転軸24はホルダー22により下方移動が規制されるように支持され、回転軸24に固定された駆動部材26はホルダー22に吊り下げられた状態となって保持される。
【0024】
駆動部材26の上側には整流コーン28が取り付けられており、図2に示すように、整流コーン28は駆動部材26にボルト29aにより締結される端板部28aと、これに一体となった円筒部28bとを有し、円筒部28bには円錐部28cが一体となっている。整流コーン28の円筒部28bの外側には複数のインペラ30が気流生成部材として径方向外方に突出して設けられており、インペラ30により軸流式の送風機が形成されている。したがって、電動モータ21を駆動して駆動部材26を回転駆動すると、整流コーン28と駆動部材26とを介して回転軸24に連結されたインペラ30により、分離室11の外周部分には流入口15から流入した空気が下方に向けて送られる。
【0025】
インペラ30の下方に位置させて、駆動部材26には回転軸24と同軸状となって多重回転筒体31が装着されており、多重回転筒体31は駆動部材26を介して回転軸24に連結されている。多重回転筒体31は、図2および図3に示されるように、それぞれ回転軸24の回転中心軸Oに同軸状となって上下方向に伸びるとともに径方向にそれぞれ気流案内隙間32を介して重ねられる複数の筒形分離板33を有している。それぞれの筒形分離板33は、相互に径が相違する複数の円筒部材により形成されており、複数の円筒部材を気流案内隙間32を介して同心円状に重ねて組み合わせることにより多重回転筒体31が形成されている。
【0026】
図2および図3に示されるように、円筒部材からなる筒形分離板33の相互間には、スペーサ34が組み込まれており、それぞれのスペーサ34によって気流案内隙間32は所定値に保持されている。それぞれのスペーサ34は、図2に示されるように多重回転筒体31の上部と下部とに径方向に一列となって設けられている。また、それぞれのスペーサ34は、図3に示されるように円周方向に45度置きに列となって配置されるとともに円周方向に隣り合うスペーサ34は90度置きとなっており、径方向に隣り合うスペーサ34は1つの気流案内隙間32を隔てて配置されている。このように、複数のスペーサ34を介して複数の筒形の筒形分離板33を組み合わせることにより、各々の筒形分離板33の直径に製造誤差が発生しても、筒形分離板33の円周方向の撓みにより加工誤差を吸収することができる。
【0027】
駆動部材26の各ロッド部26bの先端には、図5に示されるように、多重回転筒体31の筒形分離板33に形成された差し込み孔35を貫通する支持スリーブ36がボルト37により締結されるようになっている。多重回転筒体31はボルト37によって駆動部材26の各ロッド部26bの先端に固定される支持スリーブ36により駆動部材26に取り付けられる。このように、多重回転筒体31は支持スリーブ36により駆動部材26に取り付けられるようになっており、ホルダー22により下方移動が規制された状態となって支持される回転軸24と、これに取り付けられる駆動部材26を介して多重回転筒体31は、ホルダー22に吊り下げられた状態で保持されて回転軸24に連結される。
【0028】
整流コーン28の円筒部28bには、図2に示されるように、多重回転筒体31の最内周部の筒形分離板33に摺動接触するリップシール39が設けられ、多重回転筒体31の内周面と円筒部28bとの間から気流が流入するのを防止している。多重回転筒体31の最外周部の筒形分離板33の上端部には上方に向けて径が大きくなったテーパ部40が設けられており、多重回転筒体31とケース体12の円筒部12aとの間の隙間を小さくしてこの隙間から気流が流入するのを防止している。ただし、テーパ部40に代えてリップシールを最外周部の筒形分離板33に設けるか、または円筒部12aの内周面にリップシールを設けるようにしても良い。
【0029】
図示する多重回転筒体31は、図3および図4に示されるように、13個の円筒形状の筒形分離板33を有しており、それぞれの筒形分離板33板の相互間によって合計12ヶ所の気流案内隙間32が多重回転筒体31に形成されている。それぞれの気流案内隙間32に軸流式の送風機としてのインペラ30の回転により旋回流を伴った気流は、更に多重回転筒体31の回転によって粘性で引きずられ、強い旋回流となる。気流に回転運動が加えられると、気流中に含まれるミストは遠心力により筒形分離板33の内周面に付着することになる。付着したミストは気流案内隙間32を下方に向けて流れる気流によりそれぞれの筒形分離板33の下端部に下降移動する。なお、多重回転筒体31を形成する筒形分離板33の数は、図示する数に限定されることなく、ミストコレクタ10aに要求される濾過精度により任意に設定することができる。すなわち、高い濾過精度が要求されるときは筒形分離板33の数を多くして気流案内隙間32を狭くして対応すれば良い。
【0030】
図1および図2に示されるように、駆動部材26の下面には円筒形の吊り下げ支持台41が固定されている。この吊り下げ支持台41の上端部には、図2に示されるように、径方向内方に突出して駆動部材26にボルト29bにより締結される締結フランジ41aが設けられ、下端部には径方向外方に突出する連結フランジ41bが設けられており、連結フランジ41bは多重回転筒体31の内周面に突き当てられている。連結フランジ41bには複数のブレード42が図4に示されるように取り付けられており、それぞれのブレード42の下端面には環状の端板43が取り付けられている。それぞれのブレード42は、図4に示されるように、多重回転筒体31の回転方向を矢印Rで示す方向とすると、径方向外周部が径方向内周部よりも回転方向前方側となるように円周方向に傾斜しており、気流案内隙間32を通過して旋回しながら径方向内方に流れる空気がブレード42に衝突する。これにより、ブレード42は気流案内隙間32を通過した旋回気流により回転エネルギーを受けて駆動部材26に対して回転力を付加するタービンとして機能する。これにより、電動モータ21の負荷が低減して電動モータ21の消費エネルギーを低減することができる。ブレード42に回転トルクを与えた気流は回転エネルギーを失って下方に向けて排出される。
【0031】
ケース体12の底板12cには、図1に示されるように、端板43の内径にほぼ対応した内径を有する排出筒体44が取り付けられている。この排出筒体44の内側は底板12cに形成された排気口45に連通する排気流路46となっており、ブレード42に衝突した後の気流は排気流路46に排出される。排出筒体44の外側はケース体12の円筒部12aと底板12cとにより仕切られるドレン室47となっている。底板12cにはドレン室47に連通する排出パイプ48が取り付けられており、ドレン室47に流入した液体は排出パイプ48を介して外部に排出される。
【0032】
図1および図2に示されるように、多重回転筒体31を構成するそれぞれの筒形分離板33の上端部はほぼ同一面となっており、筒形分離板33の軸方向の長さは、内側の筒形分離板33から外側の筒形分離板33に向かうに従って下方に迫り出すように設定されている。図6において符号a〜mを付して示すように、最も内側の2つの筒形分離板33(a,b)の下端面は支持台41の連結フランジ41bよりも僅かに下方に突出した長さとなっており、最も外側の筒形分離板33(m)の下端面はブレード42の下端面に取り付けられた環状の端板43よりも下方に突出している。最も内側の2つの筒形分離板33(a,b)と最も外側の筒形分離板33(m)の間に配置される中間の筒形分離板33(c〜l)の下端面は、外側に位置する筒形分離板33の方が内側に位置する筒形分離板33よりも下方に迫り出すようになっている。例えば、筒形分離板33(d)の外側に位置する筒形分離板33(e)の下端面は筒形分離板33(d)よりも下方に迫り出している。したがって、それぞれの気流案内隙間32の下端開口部は、ブレード42に向けて開口しており、気流案内隙間32を通過した空気は、ブレード42に対してその上下方向に分散されてブレード42に向けて流入することになる。
【0033】
さらに、各々の筒形分離板33の内周面に付着したミストは、図6に示すように、気流により下降移動しながら凝集されて液膜となって内周面を伝って気流とともに下降する。液膜がそれぞれの筒形分離板33の最下端に達すると、図6に示すように遠心力により径方向外方へ液滴Lとなって飛ばされると同時に、液滴Lは気流によって下方にも飛ばされることになるが、筒形分離板33の軸方向の長さが内側の筒形分離板33から外側の筒形分離板33に向かうに従って下方に迫り出しているので、液滴Lは遠心力により外側の筒形分離板33の内面に乗り移って付着し、最終的にはケース体12の円筒部12aの内周面に付着して自重でドレン室47内に向けて落下する。これにより、空気と液体とが分離される。このように、外側の筒形分離板33の下端部を内側の筒形分離板33の下端面よりも長くすることにより、各々の筒形分離板33の下端から液膜が液滴Lとなって飛散しても、ブレード42に向かう気流に乗って液滴Lがブレード42に向けて飛散することが防止される。したがって、それぞれの筒形分離板33の下端面を同一平面上として全ての筒形分離板33の長さを同一とした形態に比して、空気と液体とを分離する分離性能を高めることができる。
【0034】
ダクト17から供給される気流にはミストのみならず切粉などの微細な固形粒子が含まれている。固形粒子は遠心力によって筒形分離板33の内周面に付着して次第に堆積してくる可能性がある。切粉等の固形粒子が堆積して気流案内隙間32が塞がれると、気流案内隙間32を流れる空気の圧力損失が増加し、処理流量が減少することになる。また、固形粒子の堆積分布に偏りが発生すると、多重回転筒体31の回転がアンバランスになり、振動が発生するおそれがある。このため、図1に示されるように、天板12bには液体供給口51が設けられており、定期的に水やクーラント等の洗浄液体をインペラに向けて吹き付けるようにしている。
【0035】
電動モータ21により駆動部材26が回転駆動されている状態のもとで、液体供給口51から洗浄液をインペラに30に向けて吹き付けると、インペラ30により飛散した洗浄液は分散されてそれぞれの気流案内隙間32に流入する。この状態のもとで電動モータ21に対する電力供給を停止すると、吹き付けられた洗浄液がブレーキとなって電動モータ21は回転が急速に低下して停止することになる。多重回転筒体31の回転が停止すると、気流案内隙間32内の洗浄液は自重で落下しながら筒形分離板33の内周面に付着した固形粒子を剥ぎ取ることになる。
【0036】
上述したミストコレクタ10aを用いてミストを含む空気を処理してミストと空気とを分離するには、電動モータ21により駆動部材26を介して多重回転筒体31とインペラ30とブレード42とを回転駆動した状態のもとで、ダクト17からミストコレクタ10aに空気を供給する。流入口15から分離室11内に流入した空気は、整流コーン28の円錐部28cに案内されて、分離室11の外周部に向かうとともに下方に流れてインペラ30を有する軸流式送風機に向かう。インペラ30により下方に向かう流れが生成された気流は、分離室11の外周部に配置された多重回転筒体31の各気流案内隙間32内に分散して流入する。
【0037】
気流案内隙間32内に流入した気流には、回転駆動される多重回転筒体31により回転運動が加えられ、気流は多重回転筒体31とともに回転しながら下方に向けて気流案内隙間32内を流れることになる。気流案内隙間32内を流れる気流に回転運動が加えられると、気流中に含まれるミストにも回転運動が加えられて遠心力によってミストは、各筒形分離板33の内周面に付着して液膜となる。内周面に付着した液膜は、気流案内隙間32を下方に向けて流れる気流により各筒形分離板33の下端部に向けて流れ、遠心力により液滴Lとなって径方向外方に向けて飛散する。飛散した液滴Lは外側の筒形分離板33に順次乗り移りながらドレン室47内に落下する。
【0038】
一方、各気流案内隙間32の下端部から流出してミスト分が除去された空気は、旋回しながら径方向内方に姿勢を変更してブレード42に向けて旋回気流となって衝突することになり、ブレード42を介して多重回転筒体31には回転トルクが加えられる。ブレード42に衝突した気流は、排気流路46を通って外部に排出される。
【0039】
例えば、筒形分離板33の気流案内隙間32の隙間寸法を3mm、多重回転筒体31の軸方向寸法を0.2m、通過風速を3m/s、多重回転筒体31の平均直径を0.35m、多重回転筒体31の回転数を2800rpmとすると、多重回転筒体31に作用する遠心力は重力加速度の1500倍となる。一方、ミストの比重を1とし、ミストの粒子径を1μmとすると、ストークスの計算式による重力下で空気中を沈降する速度は0.03mm/sとなる。粒径1μm程度の小さな液滴に作用する沈降速度はストークスの法則により重力加速度の倍数に比例するので、外側の筒形分離板33の内周面に向けて沈降する沈降速度は、0.03×1500=45mm/sとなる。0.2mの長さの多重回転筒体31を流れる気流の通過時間は、0.2÷3=0.07秒であるから、45×0.07=3mmとなるので、ミスト粒子は、気流案内隙間32の隙間寸法が3mmとなった多重回転筒体31を通過する間に、筒形分離板33の内周面に付着することになる。
【0040】
したがって、この条件のもとでは、1μmの粒子が多重回転筒体31を通過するまでに筒形分離板33の内周面に付着してミストが空気から確実に分離される。粒径1μm以下の粒子は通常フュームと称されており、フィルターでも除去困難であるが、上述したように、複数の筒形分離板33を隙間を介して重ね合わせることにより形成される多数の気流案内隙間32にミストを含む気流を通過させながら、これに遠心力を加えることによってミスト粒子を分離することが可能となる。各筒形分離板33の表面に、4フッ化エチレン重合体をコーティングすることにより固形粒子の付着を防止することができる。
【0041】
図7は本発明の他の実施の形態であるミストコレクタ10bを示す断面図であり、図7には前述したミストコレクタ10aの図2に相当する部分が示されている。図8は図7における8−8線方向の断面図であり、図9はミストコレクタ10bにおける多重回転筒体を形成する板材を展開した一部省略正面図である。なお、図7〜図9においては、前述したミストコレクタ10aと共通する部材には同一の符号が付されている。
【0042】
このミストコレクタ10bの多重回転筒体31は、上述したミストコレクタ10aの多重回転筒体31が相互に径が相違する複数の円筒部材を隙間を介して同心円状に組み合わせることにより形成されているのに対し、1枚の板材52を螺旋状に隙間を介して巻き付けることにより形成されている。
【0043】
多重回転筒体31を形成するための板材52は、図9に示すように、全体的に帯状となっている。板材52のうち最外側の筒形分離板33を形成する部分に相当する部分の長さL1は幅寸法が一定となっており、幅寸法Bは最外側の筒形分離板33の軸方向長さに対応している。板材52の長さL2の他の部分は、図9に示されるように、幅寸法Bが徐々に狭くなるようにテーパ状となっており、筒形分離板33の下端面に相当する側面は反対側の側面に対して傾斜している。したがって、板材52を螺旋状つまりスパイラル状に隙間を介して折り曲げると、図7に示されるように、隙間を介して重なり合う筒形分離板33の下端面は螺旋状に延びた形状となる。
【0044】
図8に示されるように、板材52を折り曲げ加工する際に板材52の長さ方向に所定の間隔を隔てて幅方向に延びる突起部53を、板材52の内面と外面のうち一方面に突出させて形成するようにしている。これにより、螺旋状に板材52を折り曲げると、1枚の板材52により形成される複数の筒形分離板33の間に形成される気流案内隙間32の隙間寸法が突起部53により設定される。したがって、このタイプの多重回転筒体31には、上述したミストコレクタ10aにおけるスペーサ34を用いることが不要となる。なお、ミストコレクタ10aの多重回転筒体31においても、各円筒部材に突起部53を形成するようにすると、スペーサ34は不要となる。
【0045】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0046】
10a,10b ミストコレクタ
11 分離室
12 ケース体
12a 円筒部
12b 天板
12c 底板
15 流入口
21 電動モータ
22 ホルダー
24 回転軸
26 駆動部材
28 整流コーン
30 インペラ
31 多重回転筒体
32 気流案内隙間
33 筒形分離板
34 スペーサ
41 吊り下げ支持台
42 ブレード
44 排出筒体
45 排気口
46 排出流路
53 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気に含まれる液体のミストを除去するミストコレクタであって、
上端部に設けられた流入口に連通する分離室が内部に形成され、上下方向に配置される円筒形状のケース体と、
前記ケース体の上端部内に回転自在に装着され、前記ケース体に取り付けられた電動モータにより駆動される回転軸と、
それぞれ上下方向に伸びるとともに気流案内隙間を介して径方向に重ねられて前記分離室の外周部に配置される複数の筒形分離板を備え、前記回転軸に連結されて前記気流案内隙間に下方に向けて流れる気流を旋回させて気流中に含まれるミストをそれぞれの前記筒形分離板の内面に付着させて下方に案内する多重回転筒体と、
前記回転軸に連結され、前記流入口から流入した気流を前記多重回転筒体の前記気流案内隙間に気流を送り込むインペラと、
前記ケース体の下端部に設けられ、前記多重回転筒体を通過してミストが分離された気流を外部に案内する内側の排気流路とミストが流入する外側のドレン室とに仕切る排出筒体とを有することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項2】
請求項1記載のミストコレクタにおいて、前記筒形分離板の下端部を径方向内側の前記筒形分離板よりも径方向外側の前記筒形分離板を下方に向けて迫り出させ、前記筒形分離板の下端部から滴下したミストを径方向外方に隣り合う前記筒形分離板に飛散させるようにしたことを特徴とするミストコレクタ。
【請求項3】
請求項1または2記載のミストコレクタにおいて、前記多重回転筒体の前記気流案内隙間内を通過して旋回しながら径方向内方に流れる空気のエネルギーを回収する複数のブレードを前記多重回転筒体の下流側に位置させて前記回転軸に連結することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のミストコレクタにおいて、前記回転軸を回転自在に支持するホルダーを前記ケース体の天板に取り付け、前記回転軸に取り付けられる駆動部材を介して前記多重回転筒体を前記ホルダーに吊り下げた状態で保持することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のミストコレクタにおいて、複数の円筒部材を前記気流案内隙間を介して同心円状に組み合わせることにより前記多重回転筒体を形成することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のミストコレクタにおいて、帯状の板材を前記気流案内隙間を介して螺旋状に折り曲げることにより前記多重回転筒体を形成することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項7】
請求項6記載のミストコレクタにおいて、前記帯状の板材を折り曲げる際に内面と外面の一方面に突起部を形成し、当該突起部により前記筒形分離板相互間の前記気流案内隙間を設定することを特徴とするミストコレクタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のミストコレクタにおいて、天板には液体供給口が設けられ、定期的に水やクーラント等の洗浄液体をインペラに向けて吹き付けることを特徴とするミストコレクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−50876(P2011−50876A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−202732(P2009−202732)
【出願日】平成21年9月2日(2009.9.2)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】