説明

ミストジェット式記録ヘッド

【課題】安定してミスト吐出量を増大させることが可能なミストジェット式記録ヘッドを得ること。
【解決手段】平行に近接配置された一対の縦長直線状部材を含んで構成され、該部材の互いに対面する側壁面が凹面形状に形成されており、該側壁面間に断面先絞り状の液体室が形成された振動波反射体と、振動波反射体の液体室の先絞り側の面に配置され、一対の縦長直線状部材間の間隙部に該部材の長手方向に沿って連続した貫通孔を有するノズルプレートと、振動波反射体の液体室の先絞り側と反対側の面に設けられ、液体室に充填された液体に振動波を印加することにより、ノズルプレートの貫通孔からミスト状の液体を吐出させる振動子と、を備え、一対の縦長直線状部材の長手方向に直交する断面において、液体の吐出方向に直交する方向とノズルプレートの貫通孔の外面とがなす角度が鋭角であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動を利用して液体をミスト状に吐出するミストジェット式記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ミスト吐出技術は、圧電振動子等の振動子から発生する超音波を液体に導入し、超音波の音響エネルギーを集束させることによって液体を霧(ミスト)状に吐出する技術である。このようなミスト吐出技術を利用したミストジェット式記録ヘッドとして、例えば、下記の特許文献1に示されたものがある。
【0003】
特許文献1記載のミストジェット式記録ヘッドでは、振動反射体のインク室先絞り側に振動反射体の長手方向に沿って連続した貫通孔を有するノズルプレートが備えられ、振動反射体のインク室底面側に振動子が備えられている。この振動子からの振動波が振動波反射体の側壁面により反射され、ノズルプレートの貫通孔に集束される。このように振動波が集束されることにより、インク中に放出された振動波のエネルギー密度が高められ、ミスト状のインクが貫通孔から吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−353889号公報
【非特許文献1】立野昌義、外2名、“画像計測による液滴幾何学条件を用いた液滴形状算出法”、表面科学、2001年、Vol.22、No.6、p.388−396
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ミストジェット式記録ヘッドにおいて、ミスト吐出量を増大させるための一つの対策として、インク室内のインクの圧力を高めることが考えられる。しかしながら、インクの圧力を高めた場合、メニスカス(液滴の凸状の表面形状)とノズルのミスト吐出部表面との接触角が大きくなって限界を超え、ノズルのミスト吐出部がメニスカスを保持することができなくなり、インクがノズル表面に溢れ、インク吐出が出来なくなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安定してミスト吐出量を増大させることが可能なミストジェット式記録ヘッドを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるミストジェット式記録ヘッドは、平行に近接配置された一対の縦長直線状部材を含んで構成され、該部材の互いに対面する側壁面が凹面形状に形成されており、該側壁面間に断面先絞り状の液体室が形成された振動波反射体と、前記振動波反射体の液体室の先絞り側の面に配置され、前記一対の縦長直線状部材間の間隙部に該部材の長手方向に沿って連続した貫通孔を有するノズルプレートと、前記振動波反射体の液体室の先絞り側と反対側の面に設けられ、前記液体室に充填された液体に振動波を印加することにより、前記ノズルプレートの貫通孔からミスト状の液体を吐出させる振動子と、を備え、前記一対の縦長直線状部材の長手方向に直交する断面において、液体の吐出方向に直交する方向と前記ノズルプレートの貫通孔の外面とがなす角度が鋭角であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安定してミスト吐出量を増大させることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかるミストジェット式記録ヘッドの斜視模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1にかかるミストジェット式記録ヘッドの、縦長直線状部材の長手方向に直交する断面を示す断面模式図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態1の比較例としてのミストジェット式記録ヘッドの断面模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態1の比較例の拡大模式図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態1にかかるミストジェット式記録ヘッドの拡大模式図である。
【図6】図6は、回転楕円体の長軸楕円半径と液滴の体積との関係を表すグラフである。
【図7】図7は、本発明の実施の形態2にかかるミストジェット式記録ヘッドの断面模式図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態3にかかるミストジェット式記録ヘッドの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態にかかるミストジェット式記録ヘッドを図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかるミストジェット式記録ヘッドの斜視模式図である。図1に示すように、ミストジェット式記録ヘッド1は、平行に近接配置された一対の縦長直線状部材2を含む振動波反射体5と、この振動波反射体5の図1中の上面に絶縁材9を介して接合された圧電振動子11と、振動波反射体5の図1中の下面に接合されたノズルプレート8と、を備えて構成されている。
【0012】
振動波反射体5を構成する一対の縦長直線状部材2は、その長手方向に直交する断面において、該縦長直線状部材2の互いに対面する側壁面2aが凹面形状(好ましくは、放物面形状)に形成されており、該側壁面2a間に図1中下方向に向かって先絞り状の形状を有する。液体(ここでは、インク)は、振動波反射体5の側壁面2aと絶縁材9とにより形成された液体室3に充填される。
【0013】
図2は、ミストジェット式記録ヘッド1の、縦長直線状部材2の長手方向に直交する断面を示す断面模式図である。縦長直線状部材2の図2中の上面は、図2中の左右方向に水平に形成されており、該面上に略平板状の絶縁材9が配置され、さらに絶縁材9上に圧電振動子11が配置されている。
【0014】
記録対象データに応じた高周波電圧が圧電振動子11に印加されると、超音波が圧電振動子11から図2中の下方向に向かって出射される。この超音波は、側壁面2aによって反射され、点P1に集束される。側壁面2aが放物面形状に形成されている場合には、点P1は放物面の焦点に合致する。
【0015】
一対の縦長直線状部材2の図2中の下面は、図2中の側部から図2中の中央部に向かって下がるように傾斜して形成されており、該面には、略逆ハの字状のノズルプレート8が配置されている。図1および図2に示すように、ノズルプレート8の中央付近には、一対の縦長直線状部材2間の間隙部に該部材の長手方向に沿って連続した貫通孔8aが形成されている。貫通孔8aは、点P1の図2中の下に位置するように形成されており、貫通孔8aから図2中の下方向にミストが吐出される。
【0016】
図2に示すように、ミスト吐出方向と直交する方向とノズルプレート8の外面(図2中の下面)とがなす角度θは、鋭角(0°<θ<90°)となっている。なお、液滴の形状の対称性を考慮すると、ノズルプレート8の貫通孔8aの近傍部分は、図2中において左右対称であることが好ましい。
【0017】
図3は、本実施の形態の比較例としてのミストジェット式記録ヘッドの断面模式図である。この比較例は、一対の縦長直線状部材22と、一対の縦長直線状部材22の図3中の上面に絶縁材29を介して配置された圧電振動子31と、一対の縦長直線状部材22の図3中の下面に配置されたノズルプレート28と、を備えて構成されている。この比較例では、一対の縦長直線状部材22の図3中の下面がミスト吐出方向と略直交するように配置されている。また、ノズルプレート28は、平板状であり、ミスト吐出方向と略直交するように配置されている。
【0018】
図4は、比較例の拡大模式図であり、ノズルプレート28の外面(図4中の下面)の延長線と液滴32のメニスカス(液滴32の凸状の表面形状)とがなす接触角をθで表している。
【0019】
図5は、本実施の形態にかかるミストジェット式記録ヘッドの拡大模式図である。図5に示すように、本実施の形態にかかるミストジェット式記録ヘッドにおいては、ノズルプレート8の外面(図5中の下面)の延長線と液滴12のメニスカスとがなす接触角はθで表されるが、ノズルプレート8の外面(図5中の下面)が比較例(図4参照)と同様に図5中の左右方向に水平になっている(ミスト吐出方向と直交する方向とノズルプレート8の外面とがなす角度θが0°)とした見かけ上の接触角はθで表される。
【0020】
非特許文献1には、所定の条件下において、液滴形状は回転楕円体近似できることが記載されている。
【0021】
図6は、非特許文献1のTable2で算出されている回転楕円体の長軸楕円半径と液滴の体積との関係をグラフ化したものである。図6では、接触角が77.18°の場合と、接触角が101.93°の場合を示している。図6に示すように、接触角が大きいほど、長軸楕円半径が長くなることを抑えつつ、液滴の体積を大きくすることができ、大きな液滴まで溢れさせずにメニスカスを保持することが可能であることは明らかである。すなわち、接触角が大きいほど液体室内の液体の圧力を高くすることが可能であることがわかる。
【0022】
再び図4および図5を参照すると、図4に示す比較例の接触角θと図5に示す本実施の形態の接触角θとの関係は、
θ>θ ・・・(1)
である。従って、図4に示す比較例における液滴32の体積と図5に示す本実施の形態における液滴12との関係は、
(液滴12の体積)>(液滴32の体積) ・・・(2)
である。
【0023】
ミスト吐出量を増やすためには、駆動電圧を高くしたり、波数を多くしたり、バースト周波数を高くしたり、デューティ比(単位時間に対する駆動信号活性化時間の比)を高くしたりすれば良い。但し、高いデューティ比で超音波を加えると、ミストが吐出し始めるよりも低い電圧でも、その輻射圧によりインク圧力がメニスカス保持の限界圧力に達し、インクがノズル表面に溢れ出す。高い音圧をメニスカスに作用させるためには、それに伴う輻射圧によるメニスカスの挙動を安定に保つことが重要である。本実施の形態のように、液体の吐出方向に直交する方向とノズルプレート8の貫通孔8aの外面とがなす角度θを鋭角(0°<θ<90°)にすることは、メニスカスの安定につながる。従って、より大きな液滴までメニスカス保持ができるので、高いインク圧力に対してメニスカスの溢れ出しを効果的に抑制することができる。この結果、ミスト吐出量を増大させる効果を達成することができる。
【0024】
実施の形態2.
図7は、本発明の実施の形態2にかかるミストジェット式記録ヘッドの断面模式図である。図2に示す実施の形態1との構成に関する相違点は、次の通りである。
【0025】
図7に示す実施の形態2にかかるミストジェット式記録ヘッドにおいては、一対の縦長直線状部材2の図7中の下面は、図7中の左右方向に略水平に形成されている。なお、一対の縦長直線状部材2の図7中の下面は、必ずしも略水平に形成されていなくても良い。例えば、図2に示すように傾斜して形成されていても良い。
【0026】
一対の縦長直線状部材2の図7中の下面には、略平板状のノズルプレート13が図7中の左右方向に略水平に配置されている。なお、ノズルプレート13は、必ずしも略平板状に形成されていなくても良い。例えば、図2に示すように逆ハの字状等に形成されていても良い。
【0027】
ノズルプレート13の中央付近には、一対の縦長直線状部材2間の間隙部に該部材の長手方向に沿って連続した貫通孔が形成されている。貫通孔は、点P1の図7中の下に位置するように形成されており、貫通孔から図7中の下方向にミストが吐出される。
【0028】
図7に示すように、ノズルプレート13の貫通孔の外面には、溝13aが貫通孔の長手方向に沿って形成されており、ミスト吐出方向に直交する方向と溝13aの貫通孔側の面とがなす角度θは、鋭角(0°<θ<90°)となっている。なお、液滴の形状の対称性を考慮すると、ノズルプレート13の貫通孔の近傍部分は、図7中において左右対称であることが好ましい。
【0029】
なお、その他については、実施の形態1の構成と同一または同等であり、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ノズルプレート13の貫通孔の外面に溝13aを貫通孔の長手方向に沿って形成することで、実施の形態1と同様の効果を達成することができる。
【0031】
また、溝13aの切削角度を調整することで、製品仕様として要求される液滴の大きさ、ミスト吐出量等に、より容易且つ柔軟に対応することができる。
【0032】
なお、一対の縦長直線状部材2の図7中の下面を略水平に形成することとすれば、該部材の加工が容易となる。また、ノズルプレート13を略平板状に形成することとすれば、ノズルプレート13の加工が容易となる。また、一対の縦長直線状部材2とノズルプレート13との組み付け工程が容易となる。
【0033】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3にかかるミストジェット式記録ヘッドの断面模式図である。図7に示す実施の形態2との構成に関する相違点は、次の通りである。
【0034】
図8に示す実施の形態3にかかるミストジェット式記録ヘッドにおいては、ノズルプレート14の貫通孔の外面には、突起部14aが貫通孔の長手方向に沿って形成されており、ミスト吐出方向に直交する方向と突起部14aの貫通孔側の面とがなす角度θは、鋭角(0°<θ<90°)となっている。突起部14aは、突起部材をノズルプレート14に取り付けて形成しても良いし、ノズルプレート14に曲げ加工等を施して形成しても良い。なお、液滴の形状の対称性を考慮すると、ノズルプレート14の貫通孔の近傍部分は、図8中において左右対称であることが好ましい。
【0035】
なお、その他については、実施の形態1,2の構成と同一または同等であり、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ノズルプレート14の貫通孔の外面に突起部14aを貫通孔の長手方向に沿って形成することで、実施の形態1,2と同様の効果を達成することができる。
【0037】
また、突起部14aの突起角度を調整することで、製品仕様として要求される液滴の大きさ、ミスト吐出量等に、より容易且つ柔軟に対応することができる。
【0038】
なお、一対の縦長直線状部材2の図8中の下面を略水平に形成することとすれば、該部材の加工が容易となる。また、ノズルプレート14を略平板状に形成することとすれば、ノズルプレート14の加工が容易となる。また、一対の縦長直線状部材2とノズルプレート14との組み付け工程が容易となる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明にかかるミストジェット式記録ヘッドは、超音波振動を利用して液体をミスト状に吐出するミストジェット式記録ヘッドに適している。
【符号の説明】
【0040】
1 ミストジェット式記録ヘッド
2、22 縦長直線状部材
2a 側壁面
3 液体室
5 振動波反射体
8、13、14、28 ノズルプレート
8a 貫通孔
9、29 絶縁材
11、31 圧電振動子
12、32 液滴
13a 溝
14a 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に近接配置された一対の縦長直線状部材を含んで構成され、該部材の互いに対面する側壁面が凹面形状に形成されており、該側壁面間に断面先絞り状の液体室が形成された振動波反射体と、
前記振動波反射体の液体室の先絞り側の面に配置され、前記一対の縦長直線状部材間の間隙部に該部材の長手方向に沿って連続した貫通孔を有するノズルプレートと、
前記振動波反射体の液体室の先絞り側と反対側の面に設けられ、前記液体室に充填された液体に振動波を印加することにより、前記ノズルプレートの貫通孔からミスト状の液体を吐出させる振動子と、
を備え、
前記一対の縦長直線状部材の長手方向に直交する断面において、液体の吐出方向に直交する方向と前記ノズルプレートの貫通孔の外面とがなす角度が鋭角であることを特徴とするミストジェット式記録ヘッド。
【請求項2】
前記ノズルプレートの貫通孔の外面には、前記一対の縦長直線状部材の長手方向に沿って溝が形成されており、
前記一対の縦長直線状部材の長手方向に直交する断面において、液体の吐出方向に直交する方向と前記溝の貫通孔側の面とがなす角度が鋭角であることを特徴とする請求項1に記載のミストジェット式記録ヘッド。
【請求項3】
前記ノズルプレートの貫通孔が形成されている部分には、液体の吐出方向に突出した突起部が前記一対の縦長直線状部材の長手方向に沿って形成されており、
前記一対の縦長直線状部材の長手方向に直交する断面において、液体の吐出方向に直交する方向と前記突起部の面とがなす角度が鋭角であることを特徴とする請求項1に記載のミストジェット式記録ヘッド。
【請求項4】
前記ノズルプレートは、前記一対の縦長直線状部材の長手方向に直交する断面において、液体の吐出方向に略直交する方向に配置されていることを特徴とする請求項2または3に記載のミストジェット式記録ヘッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−11491(P2011−11491A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158767(P2009−158767)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 経済産業省戦略的技術開発委託費「異分野融合型次世代デバイス製造技術開発プロジェクト」(BEANSプロジェクト)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】