説明

ミックスドア構造

【課題】主に、ギヤ機構部に空調用空気が直接当たるのを防止し得るようにする。
【解決手段】スライドドアケース23とスライドドア部24とを有するスライドドアユニット25が設けられる。スライドドアユニット25の風上側にスライド駆動部29が設けられる。スライド駆動部29が、ラック部35とギヤ機構部36とを有する。そして、スライドドアケース23に、フィルム状部材51の引出しおよび巻取りが可能なフィルム巻取装置52を設ける。このフィルム巻取装置52から引出されたフィルム状部材51の先端部をギヤ機構部36を構成するギヤ部の外周を経由させてスライドドア部24の近接する側の端部に取付けることにより、フィルム状部材51によって、ギヤ機構部36の一部を覆わせると共に、スライドドア部24の位置によってギヤ機構部36を覆う領域が変化するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ミックスドア構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、空気調和装置(以下、空調装置という)が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この空調装置は、車室の前部に設置された空調装置本体と、この空調装置本体から車室の各部に設けられた吹出口に対して空調用空気を送給するダクトとを備えている。
【0004】
空調装置本体は、中空の空調装置筐体部と、この空調装置筐体部に設けられた空気取入口および空気取出口とを備えている。
【0005】
中空の空調装置筐体部は、その内部に、風上側から順にエバポレータ(冷却用熱交換器)と、ヒータコア(加熱用熱交換器)とを有している。エバポレータの風下側は、温風通路とバイパス通路とに分けられており、ヒータコアは、温風通路の内部に設けられている。そして、エバポレータとヒータコアとの間には、エバポレータを通過した空調用空気を温風通路とバイパス通路とに対して分配可能なミックスドアが設けられている。
【0006】
上記したミックスドアは、温風側開口部および冷風側開口部を有する枠状のスライドドアケースと、このスライドドアケースに沿ってスライドすることにより温風側開口部および冷風側開口部を開閉または開度調整可能なスライドドア部とを有するスライドドアユニットを備えている。
【0007】
スライドドアユニットは、スライドドアケースに対してスライドドア部を取付可能なドア取付壁部を備えている。また、スライドドアユニットは、スライドドア部をスライド自在に支持するスライドガイド部を備えている。更に、スライドドアユニットの風上側に、スライドドア部のスライドを駆動可能なスライド駆動部が設けられている。
【0008】
このスライド駆動部は、スライドドア部に設けられてスライド方向へ延びるラック部と、このラック部に駆動力を伝達するギヤ機構部とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2007/061039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたミックスドア構造では、スライド駆動部のラック部やギヤ機構部が、スライドドアケースの幅中央部に設けられているので、空調用空気がギヤ機構部(に設けられたギヤ部)に直接当たり易く、そのため、空調用空気に乗って運ばれてきたゴミや埃などの異物が上記ギヤ部に噛み込まれるおそれや、空調用空気の流れの中に位置するギヤ部による流動抵抗の増大や風切音の発生などを招くおそれなどがあった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、温風側開口部および冷風側開口部を有する枠状のスライドドアケースと、該スライドドアケースに沿ってスライドすることにより前記温風側開口部および冷風側開口部を開閉または開度調整可能なスライドドア部とを有するスライドドアユニットが設けられ、該スライドドアユニットの風上側に、スライドドア部のスライドを駆動可能なスライド駆動部が設けられ、該スライド駆動部が、前記スライドドア部に設けられてスライド方向へ延びるラック部と、該ラック部に駆動力を伝達するギヤ機構部とを有するミックスドア構造において、前記スライドドアケースに、フィルム状部材の引出しおよび巻取りが可能なフィルム巻取装置を設け、該フィルム巻取装置から引出されたフィルム状部材の先端部をギヤ機構部を構成するギヤ部の外周を経由させてスライドドア部の近接する側の端部に取付けることにより、フィルム状部材によって、ギヤ機構部の一部を覆わせると共に、スライドドア部の位置によってギヤ機構部を覆う領域が変化するように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記構成によって、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、フィルム巻取装置から引出されたフィルム状部材によって、ギヤ機構部の一部を覆うことにより、ギヤ機構部に空調用空気が直接当たるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例にかかる空調装置が設けられた車両の斜視図である。
【図2】図1のインストルメントパネルを乗員側から見た図である。
【図3】図1の空調装置本体の側方断面図である。
【図4】図3のミックスドアを車両前方側から見た斜視図である。
【図5】図4の中央のスライドドアユニットの斜視図である。
【図6】図5の分解斜視図である。
【図7】温風側開口部が全閉時の作動図である。
【図8】温風側開口部が全開時の作動図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化した実施例を、図面を用いて詳細に説明する。
【0015】
図1〜図8は、この実施例を示すものである。
【実施例】
【0016】
<構成>以下、構成について説明する。
【0017】
図1または図2に示すように、自動車などの車両1には、空気調和装置(以下、空調装置2という)が設けられている。
【0018】
この空調装置2は、車室の前部に設置されたインストルメントパネル3の内部に設けられた空調装置本体4と、この空調装置本体4から車室の各部に設けられた吹出口5に対して空調用空気を送給するダクト6とを備えている。
【0019】
上記した空調装置本体4は、図3に示すように、中空の空調装置筐体部11と、この空調装置筐体部11に設けられた空気取入口12および空気取出口13とを備えている。
【0020】
中空の空調装置筐体部11は、その内部に、風上側から順にエバポレータ15(冷却用熱交換器)と、ヒータコア16(加熱用熱交換器)とを有している。エバポレータ15の風下側は、隔壁によって温風通路17とバイパス通路18とに分けられており、ヒータコア16は、温風通路17の内部に設けられている。そして、エバポレータ15とヒータコア16との間には、エバポレータ15を通過した空調用空気を温風通路17とバイパス通路18とに対して分配可能なミックスドア19が設けられている。この場合、ミックスドア19は風下側へ突出する円弧状のものとされている。
【0021】
ここで、エバポレータ15は、空調装置2で使用される冷媒の蒸発潜熱を利用して空調用空気を冷却するようにしたものである。また、ヒータコア16はエンジンによって加熱された冷却水の熱を利用して空調用空気を加熱するようにしたものである。
【0022】
上記したミックスドア19は、図4に示すように、温風側開口部21および冷風側開口部22を有する枠状のスライドドアケース23と、このスライドドアケース23に沿って温風側開口部21と冷風側開口部22との間をスライドすることにより温風側開口部21および冷風側開口部22を開閉または開度調整可能なスライドドア部24とを有するスライドドアユニット25を備えている。
【0023】
上記したスライドドアユニット25は、スライドドアケース23の両側部に対してスライドドア部24を取付可能な一対のドア取付壁部26を備えている。また、スライドドアユニット25は、スライドドア部24をスライド自在に支持するスライドガイド部28を備えている。このスライドガイド部28は、スライドドア部24の両側部から突設されたガイドピンと、ドア取付壁部26に設けられたガイド溝とを有するものとされている。
【0024】
更に、スライドドアユニット25には、スライドドア部24のスライドを駆動可能なスライド駆動部29が設けられている。
【0025】
上記したスライド駆動部29は、スライドドア部24に設けられてスライド方向へ延びるラック部35と、このラック部35に駆動力を伝達するギヤ機構部36とを有している。
【0026】
このギヤ機構部36は、主に、ラック部35に直接噛み合う出力ギヤ41と、この出力ギヤ41の軸心に取付けられた出力軸42と、この出力軸42をドア取付壁部26に対して軸支させる軸支部43などによって構成されている。
【0027】
そして、ラック部35を、スライドドア部24の両側部に一対設け、出力ギヤ41を、ラック部35と対応させて出力軸42の両端部近傍に一対設け、出力軸42の両端部を、軸支部43を介してドア取付壁部26に軸支させるようにする。また、出力軸42を、スライド方向に対し、温風側開口部21と冷風側開口部22との間の位置に設けるようにする。この構造により、ギヤ機構部36を構成する出力ギヤ41に空調用空気が直接当たらないか、或いは、空調用空気が当たり難くなるような構成とすることが可能となる。なお、出力軸42には図示しない外部の駆動装置が接続される。
【0028】
更に、この実施例では、空調装置本体4の内部を複数のゾーンに分割して各ゾーン毎に空調をコントロールし得るようにすることも行われている。例えば、運転席用と、助手席用との2つのゾーンA,Bに分割したり、更に、後部座席用のゾーンCを加えて3つのゾーンA〜Cに分割したりすることができる。そして、複数のゾーンA〜Cに分割する場合には、空調装置本体4の内部を隔壁(ゾーン分割用隔壁)などでゾーンA〜Cの数だけ仕切る必要がある。同時に、ミックスドア19も各ゾーンA〜Cの数だけ分割する必要がある。例えば、各ゾーンA〜Cごとに、独立したスライドドアユニット25を設けると共に、これらを連結して一体化させるようにする。
【0029】
これに伴い、中央に位置された後部座席用のゾーンCのスライドドアユニット25では、温風側開口部21と冷風側開口部22との間の位置に設けられた出力軸42に対して、外部の駆動装置を直接接続することができなくなるので、例えば、風量の比較的少ない温風側開口部21の側に、入力ギヤ44を有する入力軸45を追設することにより、入力軸45を介して間接的に外部の駆動装置へ接続させるようにする。また、必要な場合には、出力軸42に入力ギヤ44と噛み合う中間ギヤ46を付設する。
【0030】
ここで、空調装置本体4の内部を複数のゾーンA〜Cに分割する場合、空調装置本体4の幅寸法を大きくすることが困難であるため、各ゾーンA〜Cの幅寸法を小さくすることによって対応する必要がある。そのため、図4の場合、運転席用と、助手席用との2つのゾーンA,Bのスライドドアユニット25と比べて、後部座席用のゾーンCのスライドドアユニット25が狭幅のものとされる。そして、後部座席用のゾーンCのスライドドアユニット25は、狭幅であるために、ギヤ機構部36の出力ギヤ41や入力ギヤ44を両側部に一対設ける余地や必要性がほとんどないので、これらをスライドドアケース23の幅中央部に各1個配置するようにしている。そのため、これらの出力ギヤ41や入力ギヤ44は、空調用空気の流れに直接曝され易い配置となってしまう。
【0031】
なお、中央に位置する後部座席用のゾーンCのスライドドアユニット25(のスライドドアケース23)は、図5に示すように、風下側に隔壁部48(ゾーン分割用隔壁)が一体に付設されると共に、図6に示すように、この隔壁部48と共に、左右の分割片48a,48bに分割される構成とされている。
【0032】
そして、以上のような基本構成に対し、この実施例のものでは、以下のような構成を備えるようにしている。
【0033】
(構成1)
図5、または、図7。図8に示すように、スライドドアケース23に、フィルム状部材51の引出しおよび巻取りが可能なフィルム巻取装置52を設ける。
【0034】
そして、フィルム巻取装置52から引出されたフィルム状部材51の先端部をギヤ機構部36を構成するギヤ部(この場合には入力ギヤ44)の外周を経由させてスライドドア部24の近接する側の端部に取付けることにより、フィルム状部材51によって、ギヤ機構部36の一部(特に入力ギヤ44の少なくとも一部)を覆わせると共に、スライドドア部24の位置によってギヤ機構部36を覆う領域が変化するように構成する。
【0035】
ここで、フィルム状部材51は、スライドドア部24とほぼ同じ幅寸法のものとする。フィルム巻取装置52は、内部に、フィルム状部材51を巻取方向へ付勢する付勢手段を有している。フィルム巻取装置52は、ドア取付壁部26の出力ギヤ41と入力ギヤ44との間の風上側の部分の周辺に取付けられている。なお、出力ギヤ41には、硬質のギヤカバー50が取付けられているが、出力ギヤ41もフィルム状部材51で覆うようにしても良い。この場合には、フィルム巻取装置52は、出力ギヤ41の風上側における冷風側開口部22寄りの部分に設けるようにする。
【0036】
(構成2)
そして、上記したように、スライドドアユニット25が横方向に3個以上連接されている場合に、そのうちの少なくとも中間のスライドドアユニット25に対して上記したフィルム巻取装置52を設けるようにする。
【0037】
なお、フィルム巻取装置52は、中間のスライドドアユニット25に設けるのが特に有効であるが、中間以外のスライドドアユニット25のギヤ機構部36のギヤ部に対して設けても良いことは勿論である。
【0038】
<作用効果>以下、この実施例の作用効果について説明する。
【0039】
(作用効果1)
フィルム巻取装置52から引出されたフィルム状部材51によって、ギヤ機構部36の一部(特に入力ギヤ44)を覆うことにより、ギヤ機構部36に空調用空気が直接当たるのを防止することができる。これにより、空調用空気に乗って運ばれてきたゴミや埃などの異物がギヤ機構部36に噛み込まれるのを防止することができる。また、ギヤ機構部36による流動抵抗の増大や風切音の発生を防止することができる。
【0040】
そして、スライドドア部24の位置によってギヤ機構部36を覆う領域が変化するようにしたことにより、例えば、図7に示すように、ギヤ機構部36を通過して温風側開口部21へ向かう風量が少ない時(例えば、温風側開口部21の全閉時など)には、ギヤ機構部36(入力ギヤ44)ごと温風側開口部21全体を覆わせるようにし、図8に示すように、ギヤ機構部36を通過する風量が多い時(例えば、温風側開口部21の全開時など)には、ギヤ機構部36(入力ギヤ44)に巻掛かる領域を広くすると共に温風側開口部21を余り覆わないようにして、ギヤ機構部36を覆う領域の最適化を図ることができる。
【0041】
(作用効果2)
3個以上連接されたうちの中間のスライドドアユニット25は、その配置や通過する風量などの関係で、小型のものとなる可能性が高いことから、ギヤ機構部36が空調用空気の流れの中に曝される構造とされる可能性が高いので、中間のスライドドアユニット25にフィルム巻取装置52を設けてギヤ機構部36を覆わせるようにすることにより、最も必要性の高い箇所に集中的にフィルム巻取装置52を設置することが可能となる。
【0042】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、実施例はこの発明の例示にしか過ぎないものであるため、この発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれることは勿論である。また、例えば、各実施例に複数の構成が含まれている場合には、特に記載がなくとも、これらの構成の可能な組合せが含まれることは勿論である。また、複数の実施例や変形例が示されている場合には、特に記載がなくとも、これらに跨がった構成の組合せのうちの可能なものが含まれることは勿論である。また、図面に描かれている構成については、特に記載がなくとも、含まれることは勿論である。更に、「等」の用語がある場合には、同等のものを含むという意味で用いられている。また、「ほぼ」「約」「程度」などの用語がある場合には、常識的に認められる範囲や精度のものを含むという意味で用いられている。
【符号の説明】
【0043】
21 温風側開口部
22 冷風側開口部
23 スライドドアケース
24 スライドドア部
25 スライドドアユニット
29 スライド駆動部
35 ラック部
36 ギヤ機構部
51 フィルム状部材
52 フィルム巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温風側開口部および冷風側開口部を有する枠状のスライドドアケースと、
該スライドドアケースに沿ってスライドすることにより前記温風側開口部および冷風側開口部を開閉または開度調整可能なスライドドア部とを有するスライドドアユニットが設けられ、
該スライドドアユニットの風上側に、スライドドア部のスライドを駆動可能なスライド駆動部が設けられ、
該スライド駆動部が、前記スライドドア部に設けられてスライド方向へ延びるラック部と、該ラック部に駆動力を伝達するギヤ機構部とを有するミックスドア構造において、
前記スライドドアケースに、フィルム状部材の引出しおよび巻取りが可能なフィルム巻取装置を設け、
該フィルム巻取装置から引出されたフィルム状部材の先端部をギヤ機構部を構成するギヤ部の外周を経由させてスライドドア部の近接する側の端部に取付けることにより、フィルム状部材によって、ギヤ機構部の一部を覆わせると共に、スライドドア部の位置によってギヤ機構部を覆う領域が変化するように構成したことを特徴とするミックスドア構造。
【請求項2】
前記スライドドアユニットが横方向に3個以上連接され、
そのうちの少なくとも中間のスライドドアユニットに対して前記フィルム巻取装置が設けられたことを特徴とする請求項1記載のミックスドア構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−18312(P2013−18312A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151074(P2011−151074)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】