説明

ミネラル強化蛋白飲料及びその製造法

【課題】
カルシウムなどのアルカリ土類金属と共に、鉄などの微量重金属が強化されているにも関わらず、蛋白質の凝集が発生せずに安定であり、かつ金属臭の発生もない風味良好な豆乳などの蛋白飲料を提供する。
【解決手段】
豆乳や大豆蛋白などの蛋白溶液、乳酸カルシウムや塩化カルシウムなどの可溶性アルカリ土類金属塩、ピロリン酸第二鉄などの難溶性重金属塩及びクエン酸ナトリウムなどのキレート剤を含有させ、かつキレート剤の範囲を特定することにより、当該飲料中の可溶化された重金属イオン濃度が1.5mg/100g以下の風味良好なミネラル強化蛋白飲料が得られ、課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムなどのアルカリ土類金属に、さらに鉄や亜鉛などの重金属を強化した蛋白飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
豆乳は牛乳に代わる植物性の蛋白飲料として急速に需要が高まっている。しかし牛乳に比べてカルシウム量が少ないため、カルシウム剤を添加してカルシウムを強化した豆乳が多く開発されている(特許文献1)。一方で、近年はカルシウム以外の微量ミネラルの各種生理作用についても注目が集まっており、これらのミネラルをカルシウムなどと複合的に豆乳に配合することは、栄養機能的メリットが大きい。しかしこれらの微量ミネラルは少量の添加でも特有の金属臭を呈するデメリットがあり、その配合量と風味のバランスの調整が困難であった。
【0003】
【特許文献1】特許第3076732号公報
【特許文献2】特許第3050921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、カルシウムなどのアルカリ土類金属と共に、鉄などの重金属が添加され、かつ安定で風味良好な豆乳などの蛋白飲料を提供することである。
通常、豆乳などの蛋白質はカルシウムイオンと反応して豆腐のように凝集してしまうため、安定な飲料を得るにはかかる凝集を発生させないようにする必要がある。乳酸カルシウムなどの可溶性カルシウム塩を使用する場合には、凝集を防止するためにクエン酸ナトリウムなどのキレート剤を併用してカルシウムと蛋白質との反応を防止する。また、鉄などの重金属はごく微量であっても溶解すると金属臭を呈し、風味が損なわれるため、重金属を飲料に溶解させずに不溶性の状態で分散させる。
そこで本発明者らが試験的に豆乳に可溶性カルシウム、キレート剤、及び難溶性鉄塩を添加し、ミネラル強化豆乳を調製してみたところ、可溶性カルシウムによる蛋白質の凝集はキレート剤により良好に抑えることができたものの、難溶性であるはずの鉄塩に起因する金属臭が発生してしまい、飲みにくい風味の豆乳となってしまった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、キレート剤の添加量を適切な範囲に調整することにより、カルシウムによる蛋白質の凝集を抑えつつ、かつ鉄の金属臭も呈さない、安定かつ風味良好なミネラル強化豆乳を得られる知見を得た。すなわち、かかる品質を満足する飲料を得るには、カルシウムによる蛋白質の凝集を抑えるに足る量のキレート剤が必要であり、かつキレート剤添加により可溶化される鉄イオン濃度が金属臭を呈するレベルを超えない量のキレート剤が必要である知見を得、本発明を完成させた。
【0006】
即ち本発明は、
1.可溶性アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物、難溶性重金属塩及びキレート剤を含む蛋白飲料であって、かつ飲料中の可溶化された重金属イオン濃度が1.5mg/100g以下であることを特徴とするミネラル強化蛋白飲料、
2.蛋白が植物性蛋白である請求項1記載の飲料、
3.アルカリ土類金属がカルシウム又は/及びマグネシウムである請求項1記載の飲料、
4.重金属が鉄、亜鉛、銅、クロム及びセレンからなる群より選択される1以上である請求項1記載の飲料、
5.キレート剤がクエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウムからなる群より選択される1以上である請求項1記載の飲料、
6.キレート剤及び可溶性アルカリ土類金属塩を添加し、混合した後、難溶性重金属塩を添加することを特徴とするミネラル強化蛋白飲料の製造法、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により得られるミネラル強化蛋白飲料は、複数のカルシウムなどのアルカリ土類金属と共に鉄などの必須重金属が配合されているので栄養生理効果が高い。しかもカルシウムなどの可溶性アルカリ土類金属が強化されていても蛋白質が凝集せず安定性が保持されている。さらに鉄や亜鉛などの微量重金属が強化されていても独特の金属臭、色調を呈さない、安定かつ風味良好なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、可溶性アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物、難溶性重金属塩及びキレート剤を含む蛋白飲料であって、かつ飲料中の可溶化された重金属イオン濃度が1.5mg/100g以下であることを特徴とするミネラル強化蛋白飲料である。以下、本発明を具体的に説明する。
【0009】
(蛋白飲料)
本発明において、蛋白飲料は動植物蛋白を含む液状、ペースト状ないし半固形状の飲用可能なものをいい、ドリンクゼリーのようなものも含まれるが、特に粘度が100mPa・s以下、より好ましくは50mPa・s以下、さらに好ましくは30mPa・s以下のものが好適である。例えば牛乳、加工乳などの乳飲料や、豆乳(黒大豆、黄大豆、白大豆、緑豆も含む。大豆固形分を所定の濃度に調整した調製豆乳や豆乳飲料も含む。)、大豆蛋白飲料、エンドウ豆蛋白飲料などの植物性蛋白を主体とした飲料などが挙げられる。またこれらを組合せた飲料も含む。特に蛋白原料としては植物性蛋白が好適であり、豆乳(豆乳粉末も含む)、分離大豆蛋白、あるいは大豆蛋白分画物(β−コングリシニン高含有画分、グリシニン高含有画分等)等の大豆蛋白が最も好適である。植物性蛋白は乳蛋白よりもアルカリ土類金属との反応性が高く凝集しやすいため、本発明の利用価値がより高いためである。なお、蛋白飲料は粉末飲料の形態とすることもでき、この場合、飲料中における成分の含量を言うときは、粉末飲料を水等に溶解した後の飲料における含量を言うものとする。蛋白飲料中における蛋白質含量は特に限定されないが、0.1〜20重量%が好ましく、1〜15重量%がより好ましく、1〜10重量%がさらに好ましい。
【0010】
(アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物)
本発明において使用するアルカリ土類金属塩もしくは水酸化物(以下、アルカリ土類金属塩等と称する)は可溶性であることが重要である。可溶性か否かは本発明の飲料の製造時に蛋白質の凝集が発生するか否かで判断される。飲料製造時の温度やpHにもよるが、より具体的には25℃における水100gに対する溶解度が0.1g以上あるか否かで判断される。難溶性のアルカリ土類金属塩等の併用は除外しないが、難溶性のアルカリ土類金属塩等を使用すると、保存中に発生する沈澱の抑制のために安定剤を多量に配合せざるを得なくなり、飲料の飲み口を損なうため可能な限り微量とするか、無添加が好ましい。アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムが例示される。カルシウムの場合、例えば乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、塩化カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられる。またマグネシウムの場合、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。ちなみに難溶性アルカリ土類金属塩等としては、クエン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸三カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。可溶性アルカリ土類金属塩等の添加量は、例えば1日の栄養所要量や飲料の摂取量等を考慮し、当業者が自由に設定できるが、通常は飲料に対してアルカリ土類金属換算で0.01〜0.2重量%とすることができ、0.015〜0.1重量%がより好ましく、0.02〜0.06重量%がさらに好ましい。添加量が少なすぎるとアルカリ土類金属を配合した栄養機能的メリットが少なくなり、多すぎるとアルカリ土類金属独特の風味が感じられるため、風味が劣る傾向となる。
【0011】
(重金属塩)
本発明において使用する重金属塩は難溶性重金属塩である。可溶性の重金属塩の併用は除外しないが、添加しすぎると独特の金属臭を呈し、本発明の効果が減じられるため、可能な限り微量とするか、無添加が好ましい。重金属塩としては、人体に必須とされるものであれば特に限定されず、例えば鉄、銅、亜鉛、クロム、セレン、マンガン、ニッケル、コバルト、バナジウム、モリブデン、スズ等の塩が挙げられる。難溶性重金属塩としては、は例えば、ピロリン酸第二鉄、ピロリン酸第一鉄、ピロリン酸亜鉛等のピロリン酸塩等が挙げられる。難溶性重金属塩の添加量は、金属塩の種類、1日の栄養所要量、飲料の摂取量および過剰摂取を考慮し、当業者が自由に設定できるが、通常は飲料に対して0.001〜0.02重量%とすることができ、0.002〜0.01重量%が好ましい。添加量が少なすぎると金属塩を配合した栄養機能的メリットがなくなり、多すぎると独特の金属臭が発生してしまう。
【0012】
なお、難溶性重金属塩は豆乳に直接添加して分散させれば良いが、保存中の沈殿が問題となる場合には、難溶性重金属塩の水分散性を改善した種々の加工製剤を使用すれば良い。例えば、市販品の「サンアクティブ」(太陽化学(株)製)などが挙げられる。また、難溶性重金属塩を分散させるための分散剤を添加し、安定化させても良い。分散剤としては、例えば結晶セルロースや寒天、またはカラギーナン、ジェランガム、ネイティブジェランガム、ペクチン等の増粘多糖類等が使用できる。
【0013】
(キレート剤)
本発明において使用するキレート剤は、食品添加物として使用できるキレート剤であれば特に限定されず、例えばクエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム等の有機酸塩、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム等の重合リン酸塩、EDTAナトリウム、EDTAカルシウム二ナトリウム等が使用できる。本発明においては、当該キレート剤を特定範囲において添加することが特徴である。飲料中の添加量は、アルカリ土類金属に対し、モル比で2〜60%が好ましく、5〜50%がより好ましく、10〜30%がさらに好ましい。添加量が少なすぎるとアルカリ土類金属に対するキレート作用が十分ではないため蛋白質と反応し、凝集してしまう。逆に添加量が多すぎると可溶性アルカリ土類金属以外に重金属がキレート化され、独特の金属臭が発生してしまう。
【0014】
本発明のミネラル強化蛋白飲料において、添加されたキレート剤は、可溶性アルカリ土類金属塩と選択的に結合し、他方で難溶性重金属塩とは可及的に結合していない状態で存在することが重要である。これにより、可溶性であるアルカリ土類金属塩との結合による蛋白質の凝集発生が抑制され、かつ難溶性重金属塩による金属臭の発生が抑制され、安定かつ風味良好な品質が得られる。具体的には、本飲料中における可溶化された重金属イオンの濃度が100gあたり1.5mg以下が好ましく、1.2mg以下がより好ましく、1mg以下がさらに好ましい。最も好ましいのは0mgとなることであるが、飲料製造時において通常行われる加熱殺菌により、少なくとも0.1mg程度は可溶化される。飲料中における可溶化された重金属イオン濃度には不溶性の状態で分散する重金属イオンは含まれず、本飲料を遠心分離し、フィルターで不溶性の重金属イオンを除去し、濾液を原子吸光光度法で測定すればよい。重金属イオンがキレート剤により可溶化される量が高すぎると独特の金属臭が発生する傾向となる。
【0015】
(他の原料・添加剤)
本発明の飲料には、上記添加剤を必須とすることを特徴とするものであり、他の食品原料や食品添加剤を所望により適宜添加することが可能である。例えば他の食品原料としては、果汁やココアや抹茶等の風味剤、糖類、油脂、食物繊維等を使用でき、食品添加剤としては高甘味度甘味料、調味料、増粘多糖類、乳化剤、香料、pH調整剤、保存料等を使用できる。
【0016】
(製造法)
本発明のミネラル強化蛋白飲料の製造法は、キレート剤、及び可溶性アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物を添加し、混合した後、難溶性重金属塩を添加することを特徴とする。以下に本発明の飲料の製造法の態様について説明する。
(1)蛋白溶液を製造タンク等に充填する。設定する飲料中の蛋白質含量に応じ、必要により水を混合する。
(2)可溶性アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物とキレート剤を添加、混合し、可溶性アルカリ土類金属とキレート剤を十分反応させる。添加は上記蛋白溶液に直接添加しても良いし、蛋白溶液とは別途の水に添加し、後で蛋白溶液と混合しても良い。直接添加する場合には凝集を防ぐために蛋白溶液とキレート剤を混合してから可溶性アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物を添加することが好ましい。この際、溶液の温度は55〜65℃が好ましい。また反応を十分行うため、混合時間は5分以上が好ましい。
(3)次いで、難溶性重金属塩を添加、混合する。この際、難溶性重金属塩は、(2)の工程において添加しないことが重要である。難溶性重金属塩とキレート剤が反応し、重金属塩の金属臭が発生するのを避けるためである。
(4)必要により他の食品原料や食品添加剤を適宜添加する。これらは(1)〜(3)のいずれの工程に添加しても良い。
(5)上記工程により得られた調合液の分散・溶解状態により、必要によりホモゲナイザー等を使用して均質化する。
(6)製品の長期保存性を必要とする場合には、調合液を加熱殺菌や濾過膜等による除菌を行う。加熱殺菌装置は蒸気注入式等の直接加熱装置、プレート式やレトルト式の間接加熱装置等を自由に使用できる。
(7)充填、包装し、製品とする。
【0017】
以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。なお、以下%の記載は特に断りがないかぎり、重量%を表す。
【実施例】
【0018】
(実施例1)−ミネラル強化調製豆乳の製造−
表1の配合表にて調製豆乳を製造した。豆乳(固形分9%、蛋白質5%含有)にキレート剤であるクエン酸ナトリウム(分子量294.1)を添加混合し、次いで可溶性である乳酸カルシウム(分子量308.3、カルシウム含量約13%)を添加し、60℃で10分間混合した。次に、ピロリン酸第二鉄を使用した鉄製剤「サンアクティブFe−12」(太陽化学(株)製、鉄1.2%含有)と砂糖と香料を添加しよく混合した。得られた調合液をホモゲナイザーで15MPaで均質化した後、135℃で60秒間加熱殺菌し、次いで無菌充填機を用いてブリックパックに充填、包装し、ミネラル強化調製豆乳の製品とした。この製品100gあたり、カルシウム40mgと鉄6mgを含有する。
【0019】
(表1)
────────────────────
原材料 配合量(%)
────────────────────
豆乳 70.0
乳酸カルシウム 0.3
鉄製剤 0.5
クエン酸ナトリウム 0.05
砂糖 1.0
ミルク香料 0.1
水 残量
────────────────────
計 100.0
────────────────────
【0020】
(実施例2)
実施例1のキレート剤(クエン酸ナトリウム)の添加量を乳酸カルシウムからのカルシウム添加量(0.973mmol)に対する割合(モル%)に換算し、表2の通り変化させ、他は同様にしてミネラル強化調製豆乳を製造した。それぞれ得られた豆乳の蛋白質の凝集の発生の有無、金属臭の発生の有無について品質を評価した。なお金属臭の有無については5名のパネラーを使って評価した。また得られた製品中における溶解した鉄イオンの含量を下記測定法により測定した。結果を表2に示す。
【0021】
<製品中の可溶化鉄イオン含量の測定>
得られた製品を遠心分離(36000G、30分間)し、上清をメンブレンフィルター(0.1μm)で分散している不溶性鉄分を除去する。得られた透過液をルツボに精秤し、105℃で3時間乾燥させる。これをマッフル炉にて灰化させ(550℃、3時間)、灰化物を得る。これを塩酸で溶解し、希釈した液をサンプルとして、原子吸光光度法による鉄の定量を行った。なお、鉄以外の重金属も同様に測定できる。
【0022】
(表2)
─────────────────────────────────────
テスト1 テスト2 実施例1 テスト3 テスト4
─────────────────────────────────────
クエン酸Na添加量 0% 0.025% 0.05% 0.075% 0.1%
Ca当たりモル比1) 0% 8.7% 17.4% 26.2% 34.9%
─────────────────────────────────────
蛋白凝集2) ++ ± − − −
金属臭3) − − − − ±
可溶化鉄イオン濃度4) 0.514 0.638 0.870 0.976 1.02
総合評価 × ○ ◎ ◎ ○
─────────────────────────────────────
─────────────────────
テスト5 テスト6
─────────────────────
クエン酸Na添加量 0.15% 0.2%
Ca当たりモル比1) 52.4% 69.9%
─────────────────────
蛋白凝集2) − −
金属臭3) + ++
可溶化鉄イオン濃度4) 1.32 1.57
総合評価 △ ×
─────────────────────
1)添加量モル%(対カルシウム)
2)評価:++(非常に多い)、+(多い)、±(ややあり)、−(なし)
3)評価:◎非常に良好、○良好、△可、×悪い
4)単位:mg/100g
【0023】
以上の結果より、豆乳に可溶性カルシウム塩と難溶性鉄塩を添加した場合、キレート剤をカルシウムに対して8.7〜52.4モル%添加すると、蛋白質の凝集もなく、かつ金属臭の発生もない、安定で風味良好なミネラル強化調製豆乳を得ることができた。
【0024】
(実施例3)−ミネラル強化大豆蛋白飲料の製造−
表3の配合表にて、クエン酸ナトリウムをカルシウムに対して17.4モル%添加したミネラル強化大豆蛋白飲料を製造した。実施例1と同様に品質を評価したところ、蛋白質の凝集もなく、かつ金属臭の発生もない、安定で風味良好なミネラル強化調製豆乳を得ることができた。
【0025】
(表3)
────────────────────
原材料 配合量(%)
────────────────────
粉末状分離大豆蛋白 5.0
乳酸カルシウム 0.3
鉄製剤 0.6
クエン酸ナトリウム 0.05
砂糖 1.0
ミルク香料 0.1
水 残量
────────────────────
計 100.0
────────────────────
【0026】
(参考例1) −アルカリ土類金属塩と重金属塩の添加順序の変更−
実施例1において乳酸カルシウムと鉄製剤の添加を同時に添加するほかは、同様にしてミネラル強化調製豆乳を製造した。実施例1と同様に品質を評価したところ、蛋白質の凝集はなかったが、金属臭が多く感じられ、風味の良好なミネラル強化調製豆乳を得ることができなかった。この際、得られた製品中における可溶化された鉄イオン量を測定したところ、製品100gあたり1.29mgも含まれていた。すなわち、キレート剤であるクエン酸ナトリウムが乳酸カルシウムをキレートすると同時に、鉄製剤とも結合し、多くの鉄イオンが可溶化され、金属臭が発生したと考えられる。
【0027】
(参考例2) −難溶性アルカリ土類金属塩の使用−
実施例1において乳酸カルシウムの代わりに難溶性であるリン酸三カルシウム(溶解度0.0025g(25℃))を用いた。また難溶性カルシウム剤を分散させるため、安定剤として結晶セルロース製剤「セオラスSC−900」(旭化成(株)製)を0.3%添加した。それ以外は同様にしてミネラル強化調製豆乳を製造した。実施例1と同様に品質を評価したところ、蛋白質の凝集や金属臭の発生はなかったものの、安定剤の添加により粘度が上昇し、飲み口がすっきりとしたものが得られなかった。
【0028】
(参考例3) −可溶性重金属塩の使用−
実施例1において鉄製剤「サンアクティブFe−12」の代わりに可溶性鉄塩であるクエン酸第一鉄ナトリウムを同じ鉄含量となるように添加した以外は、同様にしてミネラル強化調製豆乳を製造した。実施例1と同様に品質を評価したところ、蛋白質の凝集はなかったものの、鉄イオンが溶解することによる金属臭が多く感じられ、風味の良好なミネラル強化調製豆乳を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、豆乳などの蛋白飲料にカルシウムだけでなく、鉄や亜鉛などの必須微量金属も強化した栄養効果の高い飲料を提供できる。そして本発明の技術によれば、カルシウムを原因とする凝集を防止でき、さらに必須微量金属の添加による金属臭の発生も抑えることが可能であるため、安定な物性と良好な風味の両面を兼ね備えることが可能である。よって本発明は豆乳を利用した健康飲料の製造において、産業上の利用価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物、難溶性重金属塩及びキレート剤を含む蛋白飲料であって、かつ飲料中の可溶化された重金属イオン濃度が1.5mg/100g以下であることを特徴とするミネラル強化蛋白飲料。
【請求項2】
蛋白が植物性蛋白である請求項1記載の飲料。
【請求項3】
アルカリ土類金属がカルシウム又は/及びマグネシウムである請求項1記載の飲料。
【請求項4】
重金属が鉄、亜鉛、銅、クロム及びセレンからなる群より選択される1以上である請求項1記載の飲料。
【請求項5】
キレート剤がクエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウムからなる群より選択される1以上である請求項1記載の飲料。
【請求項6】
蛋白溶液にキレート剤、及び可溶性アルカリ土類金属塩もしくは水酸化物を添加し、混合した後、難溶性重金属塩を添加することを特徴とするミネラル強化蛋白飲料の製造法。

【公開番号】特開2006−61064(P2006−61064A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−246795(P2004−246795)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】