説明

ミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システム

【課題】簡単な構成で、同時に複数方向の測定を可能としたミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システムを提供することである。
【解決手段】宇宙線ミュー粒子を検出する第1の検出器と、配置位置を互いに異ならせた複数の第2の検出器と、前記第1の検出器で前記宇宙線ミュー粒子を検出するのと同じタイミングで前記複数の第2の検出器のいずれかで該宇宙線ミュー粒子を検出した場合に、該検出した宇宙線ミュー粒子が該第1の検出器と該第2の検出器とを結ぶ直線を進行経路とするものであるとして計数し、進行経路ごとの宇宙線ミュー粒子の数を求める宇宙線ミュー粒子計数手段と、宙線ミュー粒子の数に基づいて、前記宇宙線ミュー粒子の位置分布および角度分布を求める宇宙線ミュー粒子分布取得手段と、前記分布取得手段で求めた宇宙線ミュー粒子の位置分布および角度分布に基づいてトモグラフィ解析を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤探査システムに関し、特に地盤の密度分布を測定するミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、都市部におけるインフラストラクチャの老朽化等により、地盤中に空洞が発生し、社会問題となっている。そこで、従来、これらの空洞の存在を調査する地盤探査システムの研究が行われている。
【0003】
たとえば特許文献1に記載の発明では、被探査地域の複数の測定地点で常時微動の時刻歴波形を測定した結果をスペクトル分析して、該複数の測定地点の各々のスペクトルを得て、前記測定地点の1つを基準点とし、その基準点と他の測定地点の振動数毎のスペクトル振幅値の比を算出し、該振幅値の比のバラツキを求め、そのバラツキが大きい程、空洞の存在の可能性が大きいと判定するようにしている。
【0004】
また、出願人は、特許文献2において、シンチレーション検出器を用いて地盤を透過した宇宙線ミュー粒子を計数することで地盤探査を行う地盤探査システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−292415号公報
【特許文献2】特開2010−271059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、都市部におけるインフラストラクチャの老朽化による空洞を調べるには、ノイズに影響されず、地表部を占有しないで行うことが重要である。
【0007】
しかし、従来の調査方法を都市部で行うには、予測不可能な交通振動や工場の振動、あるいは送電線からの電気ノイズの影響により十分な成果をあげているとは言い難い。また、さらに地表部の道路などで行うには、その道路を占有するため交通規制が必須であり、交通渋滞などの発生が懸念される。
【0008】
特許文献1に記載の発明においても、予測不可能な交通振動や工場の振動の影響を受けるため、精度の高い探知をするのは困難であるという問題があった。
【0009】
特許文献2に記載のシンチレーション検出器を用いた地盤探査システムによれば、精度の高い探知が可能であるが、所定距離だけ離間して配置した2つのシンチレータ同士を結ぶ直線方向に進む宇宙線ミュー粒子を検出するものであるため、さまざまな方向での検出をするためには、シンチレータの向きを変えての測定を繰り返さなければならず、手間と時間がかかるという問題があった。
【0010】
これに対し、同時に複数方向からの宇宙線ミュー粒子を検出するように、所定距離だけ離間して配置した2つのシンチレータの組合せを、複数用意しなければ成らず、構成が大掛かりになり、コストが増大するという問題があった。
【0011】
本発明は上記の点にかんがみてなされたもので、簡単な構成で、同時に複数方向の測定を可能としたミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、宇宙線ミュー粒子を検出する第1の検出器と、前記宇宙線ミュー粒子を検出するものであって配置位置を互いに異ならせた複数の第2の検出器と、前記第1の検出器で前記宇宙線ミュー粒子を検出するのと同じタイミングで前記複数の第2の検出器のいずれかで該宇宙線ミュー粒子を検出した場合に、該検出した宇宙線ミュー粒子が該第1の検出器と該第2の検出器とを結ぶ直線を進行経路とするものであるとして計数し、進行経路ごとの宇宙線ミュー粒子の数を求める宇宙線ミュー粒子計数手段と、前記宇宙線ミュー粒子計数手段で計数した進行経路ごとの宇宙線ミュー粒子の数に基づいて、前記宇宙線ミュー粒子の位置分布および角度分布を求める宇宙線ミュー粒子分布取得手段と、前記分布取得手段で求めた宇宙線ミュー粒子の位置分布および角度分布に基づいてトモグラフィ解析を行うトモグラフィ解析手段と、を備えたことを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記第1の検出器が球形のシンチレータであることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記複数の第2の検出器のそれぞれが円板形状のシンチレータであり、前記第2の検出器の円板の円中心と前記第1の検出器の球中心とを結ぶ直線と、前記第2の検出器の円板の円面とが垂直になるように、前記第1の検出器および前記第2の検出器を配置することを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記第1の検出器の球の直径と、前記複数の第2の検出器の円の直径とがほぼ等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単な構成で、同時に複数方向の測定を可能としたミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による地盤探査システムの一実施形態の構成を示す概略図である。
【図2】図1に示した地盤探査システム1の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】図1に示した地盤探査システム1の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】図1に示した地盤探査システム1の原理を示すタイムチャートであり、(a)はシンチレータ2aによる検出信号を示し、(b)はシンチレータ2bによる検出信号を示し、(c)はシンチレータ2cによる検出信号を示し、(d)はマルチ同時計数回路12bの計数を示し、マルチ同時計数回路12cの計数を示す。
【図5】本発明による地盤探査システムの図1とは別の実施形態の構成を示す概略図であって、(a)は正面図であり、(b)は側面図である。
【図6】図1や図5に示した本発明の実施形態に係る地盤探査システムによる測定範囲の一例を示す概略側断面図である。
【図7】地盤中の空洞によるミュー粒子の角度分布依存性を示す図であり、(a)は地盤の様子を示す側断面図であり、(b)は(a)に示したA点の各角度位置での宇宙線ミュー粒子の同時通過数を示すグラフであり、(c)は(a)に示したB点の各角度位置での宇宙線ミュー粒子の同時通過数を示すグラフである。
【図8】本実施形態の地盤探査システム1のパソコン14で実行されるトモグラフィ解析のフローチャートを示す図である。
【図9】(a)は初期モデルの例を示す側断面図であり、(b)は位置と角度を変えて宇宙線ミュー粒子の計数を行うすなわち宇宙線ミュー粒子の透過率を測定する様子を示す側断面図であり、(c)はトモグラフィ解析を行った結果である地盤の密度分布を示す側断面図であり、(d)は複数の断面で測定することによる3次元可視化への応用を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明によるミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システムの一実施形態の構成を示す概略図である。
【0020】
図1を参照して分かるように、本実施形態の地盤探査システム1は、台車6に搭載された6つのシンチレータ2a、2b、2c、2d、2eおよび2fを有して構成され、この6つのシンチレータ2a〜2fによって宇宙線ミュー粒子を検出する。
【0021】
6つのシンチレータ2a〜2fのうちの1つであるシンチレータ2aは親シンチレータとも呼び、他のシンチレータ2b、2c、2d、2eおよび2fは子シンチレータとも呼ぶ。
【0022】
シンチレータ2b、2c、2d、2eおよび2fは、シンチレータ2aを中心とした放射状位置に配置している。中心に配置するシンチレータ2aは、例えば球状のプラスチックシンチレータであり、周囲に配置するシンチレータ2b〜2fは、例えば円板(円柱)形状のプラスチックシンチレータであり、それぞれの円形の面がシンチレータ2aに向くように配置している。また、球体であるシンチレータ2aの直径と、円板(円柱)形状であるシンチレータ2b〜2fの円形の面の直径とは、ほぼ等しい大きさにしている。本実施の形態では、シンチレータ2aの直径および、シンチレータ2b〜2fの円形の面の直径は、それぞれ24.5cmである。
【0023】
シンチレータ2aの中心位置には、軸8を設けており、この軸8を中心として放射状に配置したフレーム7の先端にシンチレータ2b〜2fを、配置している。フレーム7は軸8において回動可能に軸支されている。本実施の形態では、シンチレータ2aとシンチレータ2b〜2fとの距離は1.4mであり、軸8を中心にフレーム7を回動し、シンチレータ2aに対するシンチレータ2b〜2fの周方向位置を変えた場合も、このシンチレータ2aとシンチレータ2b〜2fとの距離は一定に保たれる。
【0024】
シンチレータ2b〜2fは、シンチレータ2aを中心として、例えば互いに15°の角度間隔で配置している。
【0025】
フレーム7を軸支する軸8は、台車6に搭載されて固定されており、台車6の例えば軸8近傍には、台車6の位置を検出する位置検出器4および、フレーム7の回動角度を検出する角度検出器5が搭載されている。
【0026】
フレーム7は、図示しないモータ等の駆動手段によって軸8を中心にして回動させられる。このフレーム7の回動角度は角度検出器5で検出され、図示しない制御手段では、この検出結果に基づきモータの角度位置のフィードバック制御を行う。すなわち、制御手段は、フレーム7をモータによって回動させ、フレーム7を所定角度位置で停止させることができる。角度検出器5としてはモータのエンコーダやジャイロ等を用いることができる。
【0027】
また、台車6は、図示しないモータ等の移動手段によって移動可能に構成されている。台車6の位置は位置検出器4によって検出される。位置検出器4としてはたとえばGPSを用いることができる。
【0028】
シンチレータ2a〜2fは宇宙線ミュー粒子の通過に応じて発光し、この発光は光電子増倍管3a、3b、3c、3d、3eおよび3fのそれぞれによって検出され、その検出結果はマルチディスクリミネータ11によって分析される。すなわち、マルチディスクリミネータ11は、発光の検出結果のうち所定のエネルギーよりも高いものを分別して、宇宙線ミュー粒子が通過したときのエネルギーを判別する。マルチディスクリミネータ11は安定化電源10から電源供給される。
【0029】
マルチ同時計数回路12は、マルチディスクリミネータ11による判別結果に基づき、シンチレータ2aと、シンチレータ2b〜2fのいずれかと、を通過した宇宙線ミュー粒子を計数する。宇宙線ミュー粒子は直進するため、フレーム7を所定角度位置で停止させ、シンチレータ2aと、シンチレータ2b〜2fのいずれかと、を通過した宇宙線ミュー粒子を計数することにより、シンチレータ2aと、シンチレータ2b〜2fのいずれかと、を結んだ方向に直進する宇宙線ミュー粒子の数を調べることができ、フレーム7の角度位置を変えてその都度宇宙線ミュー粒子を計数することにより、宇宙線ミュー粒子の角度分布を求めることができる。
【0030】
本実施の形態によれば、シンチレータ2aと2b、2aと2c、2aと2d、2aと2e、2aと2fのそれぞれの方向に直進する宇宙線ミュー粒子を1度に計数することができ、計測にかかる時間を短縮することができる。
【0031】
その後、フレーム7の角度位置を変える際には、上述のように子シンチレータ同士の角度間隔を15°にした場合、例えば0°5°10°と変化させることによって、すべてにおいて重複しない角度方向での宇宙線ミュー粒子を計数することができる。
【0032】
また、台車6の位置を変えてその都度宇宙線ミュー粒子を計数することにより、宇宙線ミュー粒子の位置分布を求めることができる。パソコン14では、収集したデータを保管するとともに、このような宇宙線ミュー粒子の各種分布を求めることができる。
【0033】
地盤探査システム1の台車6は、探査対象の地盤の下方のトンネル(坑道)等に配置し、探査を行う。安定化電源10、マルチディスクリミネータ11、マルチ同時計数回路12、パソコン14のそれぞれは、台車6に搭載されて台車6とともにトンネル(坑道)等に配置してもよいし、台車6とは別に、トンネル(坑道)等の外たとえば地上に配置してもよい。
【0034】
図2、図3は、図1に示した地盤探査システム1の構成の一例を示すブロック図である。
【0035】
上述のようにシンチレータ2a〜2fとしては、たとえばプラスチックシンチレータを用いることができる。
【0036】
マルチディスクリミネータ11としては、光電子増倍管3a〜3fのそれぞれによる検出結果を分析するディスクリミネータ11a〜11fを設けるようにしてもよい。また、ディスクリミネータ11a〜11fのそれぞれには、信号を増幅する増幅器を内蔵するようにしてもよい。
【0037】
ディスクリミネータ11a〜11fに電源供給する安定化電源10は、たとえば高電圧回路および低電圧回路を有して構成される。
【0038】
また、図1に示したマルチ同時計数回路12は、図2に示すように、ディスクリミネータ11aおよびディスクリミネータ11bの両方からほぼ同時に宇宙線ミュー粒子を検出する信号が入力されたときに、検出信号を出力するマルチ同時計数回路12bと、マルチ同時計数回路12bからの検出信号を計数するカウンタ13bと、を有し、さらに、ディスクリミネータ11aおよびディスクリミネータ11cの両方からほぼ同時に宇宙線ミュー粒子を検出する信号が入力されたときに、検出信号を出力するマルチ同時計数回路12cと、マルチ同時計数回路12cからの検出信号を計数するカウンタ13cと、を有し、さらに、ディスクリミネータ11aおよびディスクリミネータ11dの両方からほぼ同時に宇宙線ミュー粒子を検出する信号が入力されたときに、検出信号を出力するマルチ同時計数回路12dと、マルチ同時計数回路12dからの検出信号を計数するカウンタ13dと、を有し、さらに、ディスクリミネータ11aおよびディスクリミネータ11eの両方からほぼ同時に宇宙線ミュー粒子を検出する信号が入力されたときに、検出信号を出力するマルチ同時計数回路12eと、マルチ同時計数回路12eからの検出信号を計数するカウンタ13eと、を有し、さらに、ディスクリミネータ11aおよびディスクリミネータ11fの両方からほぼ同時に宇宙線ミュー粒子を検出する信号が入力されたときに、検出信号を出力するマルチ同時計数回路12fと、マルチ同時計数回路12fからの検出信号を計数するカウンタ13fと、を有する構成であってもよい。
【0039】
図4は、図1に示した地盤探査システム1の原理を示すタイムチャートであり、(a)はシンチレータ2aによる検出信号を示し、(b)はシンチレータ2bによる検出信号を示し、(c)はシンチレータ2cによる検出信号を示し、(d)はマルチ同時計数回路12bの計数を示し、マルチ同時計数回路12cの計数を示す。
【0040】
例えば、図2に示す宇宙線ミュー粒子20がシンチレータ2aおよび2bを通過すると、その旨が、光電子増倍管3aおよび光電子増倍管3b、ならびにディスクリミネータ11aおよびディスクリミネータ11bを介してマルチ同時計数回路12bに入力され、マルチ同時計数回路12bでは、ディスクリミネータ11aからの検出信号とディスクリミネータ11bからの検出信号とがほぼ同時に報告されたことから、ひとつの宇宙線ミュー粒子20がシンチレータ2aおよび2bを通過したとみなし、宇宙線ミュー粒子20の検出信号をカウンタ13bに出力し、カウンタ13bではカウント数を1増加させる。
【0041】
これに対し、マルチ同時計数回路12bは、ディスクリミネータ11aからの検出信号またはディスクリミネータ11bからの検出信号の一方のみが報告された場合には、その宇宙線ミュー粒子20は、シンチレータ2aまたは2bの一方のみを通過した、すなわち、現在のフレーム7の角度位置でのシンチレータ2bの角度位置とは異なる角度のものであるとみなし、カウンタ13bによるカウント数は増加させない。
【0042】
マルチ同時計数回路12cないし12fも同様に動作し、カウンタ13bないし13fにおいて同様にカウントを行う。
【0043】
図5は、本発明による地盤探査システムの図1とは別の実施形態の構成を示す概略図であって、(a)は正面図であり、(b)は側面図である。図5において、図1に示した実施形態と同じ構成については同じ参照番号を付して詳しい説明を省略する。
【0044】
図5を参照して分かるように、本実施形態の地盤探査システム101は、全体を収容する枠体107aを有し、6つのシンチレータ2a、2b、2c、2d、2eおよび2fを有して構成され、この6つのシンチレータ2a〜2fによって宇宙線ミュー粒子を検出する。
【0045】
シンチレータ2aの中心位置には、軸108aを設けており、この軸108aを中心として放射状に配置したフレーム107bの径方向外側にシンチレータ2b〜2fを、配置している。フレーム107bは軸108aにおいて回動可能に軸支されている。
【0046】
フレーム107bを軸支する軸108aは、枠体107aに搭載されて固定されている。
【0047】
枠体107aの例えば右下部には、軸108a中心としてフレーム107bを回動させるモータ等の駆動手段108bを備えている。このフレーム107bの回動角度は角度検出器105で検出され、図示しない制御手段では、この検出結果に基づきモータの角度位置のフィードバック制御を行う。すなわち、制御手段は、フレーム107bを駆動手段108bによって回動させ、フレーム107bを所定角度位置で停止させることができる。角度検出器105としてはモータのエンコーダやジャイロ等を用いることができる。
【0048】
地盤探査システム101は、モータや車輪等の移動手段106を備え、枠体107aはこの移動手段106によって移動可能に構成されている。枠体107aの位置は、枠体107aの例えば左下部に設けた位置検出器104によって検出される。位置検出器104としてはたとえばGPSを用いることができる。
【0049】
次に、本実施形態の地盤探査システム1の動作について説明する。
【0050】
図6は、図1や図5に示した本発明の実施形態に係る地盤探査システムによる測定範囲の一例を示す概略側断面図である。以下では、図1に示した地盤探査システム1を例に説明する。
【0051】
本実施形態では、地盤探査システム1を図6に示す坑道内の3つの観測点に順次配置し、各観測点において、フレーム7の角度位置を異ならせながら、各角度位置での宇宙線ミュー粒子のシンチレータ2aと、2b〜2fのいずれかとの同時通過数をカウントする(角度分布測定)。
【0052】
宇宙線ミュー粒子は地盤を通過する際に、その数が減少する特性が知られており、地表からの距離が長ければ宇宙線ミュー粒子の数は減る。ところが、その地盤中の通過経路に空洞があると、その分だけ宇宙線ミュー粒子の数が減らなくなる。
【0053】
坑道内で測定位置(観測点)およびフレーム7の角度位置を変えることで、各位置、各方向での宇宙線ミュー粒子の数を得ることができ、これにより地盤の空洞との状態を解析するトモグラフィ解析に適用できるデータを取得することができる。
【0054】
これは、通常のトモグラフィを90度回転させたものと同様である。すなわち、本実施形態の地表と坑道が、通常のトモグラフィのボーリング孔に相当する。
【0055】
宇宙線ミュー粒子の物質中の透過特性は、物質の密度と透過距離との積および天頂角に依存する。この特性は既知であるので、ここでは詳しい説明は省略する。
【0056】
本実施形態の地盤探査システム1では、パソコン14においてトモグラフィ解析を行う。
【0057】
図7は、地盤中の空洞によるミュー粒子の角度分布依存性を示す図であり、(a)は地盤の様子を示す側断面図であり、(b)は(a)に示したA点の各角度位置での宇宙線ミュー粒子の同時通過数を示すグラフであり、(c)は(a)に示したB点の各角度位置での宇宙線ミュー粒子の同時通過数を示すグラフである。
【0058】
図7(b)、(c)のグラフは、縦軸が天頂角(真上をゼロ度としたときのミュー粒子の到来方向角度)であり、横軸がカウント率すなわち宇宙線ミュー粒子の同時通過数の1日の合計である。
【0059】
宇宙線ミュー粒子は、密度と透過距離が増えると透過(カウント)率が減少する。逆に空洞があると(同じ透過距離でも密度が小さいので)透過率が増加する。
【0060】
地盤内に空洞がなければ、図7(b)および(c)に実線で示すような特性を示すわけだが、図7(a)に示すような空洞があると、宇宙線ミュー粒子がその空洞を通る角度位置では、空洞がない場合よりも同時通過数が増える。すなわち、均質な地盤の場合、角度に応じて同時計数が変化するが、空洞のある場所では、宇宙線ミュー粒子の透過性が良いため、計数率が増加することが確認できる。
【0061】
図7(b)に示すように、A点では、天頂角25度から55度の範囲で、破線で示すように透過率が増加し、図7(c)に示すように、B地点では天頂角30度から50度の範囲で、破線で示すように透過率が増加している。このように位置を変えて観測することにより、空洞の位置をある程度まで絞り込むことができる。
【0062】
この図7(a)、(b)、(c)に示す例では、2点のみの測定結果を示しているが、より多くの測定点でデータを収集することにより、より精度の高いトモグラフィ解析が可能となる。
【0063】
図8は、本実施形態の地盤探査システム1のパソコン14で実行されるトモグラフィ解析のフローチャートを示す図である。
【0064】
本実施形態の地盤探査システム1では、台車6やフレーム7を動かして各位置でのデータを取得したならば、まず初期モデルを設定する(S−1)。ここで、初期モデルとは、事前に調査した地質断面図や土質試験の結果などに基づいて地盤の平均密度を仮定した、地盤の層構造のモデルである。
【0065】
続いて、地盤が、ステップ(S−1)で設定したモデルであるとした場合に、観測されるであろう宇宙線ミュー粒子の理論値を計算する(S−2)。
【0066】
続いて、ステップ(S−2)で計算した理論値と、すでに取得した各位置でのデータとの差(残差)を計算する(S−3)。
【0067】
続いて、ステップ(S−3)で計算した残差があらかじめ定めた許容範囲内であれば(S−4:Yes)、その結果を表示して(S−6)処理を終了する。
【0068】
ステップ(S−4)において、ステップ(S−3)で計算した残差があらかじめ定めた許容範囲内でない場合には(S−4:No)、モデルを修正して(S−5)、ステップ(S−2)に戻り、処理を繰り返す。
【0069】
本実施形態の地盤探査システム1によれば、宇宙線ミュー粒子の位置分布、角度分布測定技術と、トモグラフィの解析技術とを組み合わせることにより、地盤の密度を可視化することが可能となる。図6は、地盤を可視化したものの一例であり、図6の例では地盤の地質密度が均一で空洞がない場合を示している。
【0070】
このような可視化の別の例について図9を参照して説明する。
【0071】
図9(a)は初期モデルの例を示す側断面図であり、図9(b)は位置と角度を変えて宇宙線ミュー粒子の計数を行うすなわち宇宙線ミュー粒子の透過率を測定する様子を示す側断面図であり、図9(c)はトモグラフィ解析を行った結果である地盤の密度分布を示す側断面図であり、図9(d)は複数の断面で測定することによる3次元可視化への応用を示す斜視図である。
【0072】
図9(a)は通常の地質調査によって得られる断面であり、なんらかの理由(たとえばトンネルの老朽化)により、空洞の発生が懸念される。そこで、図9(a)を初期モデルとして、上述の宇宙線ミュー粒子の位置分布、角度分布測定およびトモグラフィの解析を行う(図9(b)、図9(c)参照)。
【0073】
また、複数の断面で測定することで図9(d)に示すように3次元への拡張が可能である。
【0074】
以上、本発明を説明したが、本発明は、この説明に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で数々の変形および組み合わせが出来ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、たとえば空洞の探知など地盤探査を行うシステムに適用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 地盤探査システム
2a〜2f シンチレータ
3a〜3f 光電子増倍管
4 位置検出器
5 角度検出器
6 台車
7 フレーム
8 軸
10 安定化電源
11 マルチディスクリミネータ
12 マルチ同時計数回路
13 カウンタ
14 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙線ミュー粒子を検出する第1の検出器と、
前記宇宙線ミュー粒子を検出するものであって配置位置を互いに異ならせた複数の第2の検出器と、
前記第1の検出器で前記宇宙線ミュー粒子を検出するのと同じタイミングで前記複数の第2の検出器のいずれかで該宇宙線ミュー粒子を検出した場合に、該検出した宇宙線ミュー粒子が該第1の検出器と該第2の検出器とを結ぶ直線を進行経路とするものであるとして計数し、進行経路ごとの宇宙線ミュー粒子の数を求める宇宙線ミュー粒子計数手段と、
前記宇宙線ミュー粒子計数手段で計数した進行経路ごとの宇宙線ミュー粒子の数に基づいて、前記宇宙線ミュー粒子の位置分布および角度分布を求める宇宙線ミュー粒子分布取得手段と、
前記分布取得手段で求めた宇宙線ミュー粒子の位置分布および角度分布に基づいてトモグラフィ解析を行うトモグラフィ解析手段と、
を備えたことを特徴とするミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システム。
【請求項2】
前記第1の検出器が球形のシンチレータであることを特徴とする請求項1に記載のミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システム。
【請求項3】
前記複数の第2の検出器のそれぞれが円板形状のシンチレータであり、前記第2の検出器の円板の円中心と前記第1の検出器の球中心とを結ぶ直線と、前記第2の検出器の円板の円面とが垂直になるように、前記第1の検出器および前記第2の検出器を配置することを特徴とする請求項2に記載のミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システム。
【請求項4】
前記第1の検出器の球の直径と、前記複数の第2の検出器の円の直径とがほぼ等しいことを特徴とする請求項3に記載のミュー粒子を用いたマルチ計測器による地盤探査システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−2829(P2013−2829A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130968(P2011−130968)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(501254955)川崎地質株式会社 (11)
【出願人】(591052239)一般財団法人エンジニアリング協会 (8)
【Fターム(参考)】