説明

ミリ波撮像装置

【課題】被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより、被写体を撮像するミリ波撮像装置において、撮像装置側から被写体に向けて放射される熱雑音の影響を受けることなく、撮像画像から被写体に隠れた物品を精度よく検出できるようにする。
【解決手段】撮像時に被写体2が位置する被写体配置領域を挟んで、撮像装置本体10とは反対側に後方遮蔽板4を設け、撮像装置本体10の撮像用開口部22の周囲には、後方遮蔽板4と対向するよう、前方遮蔽板40を設ける。後方遮蔽板4は、電波吸収体にて構成され、空調装置8にて一定温度(低温)に保持される。また、前方遮蔽板4は、金属板にて構成され、後方遮蔽板4から放射された熱雑音を被写体2に向けて反射するよう、後方遮蔽板4側板面が内側に湾曲している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより被写体を撮像するミリ波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人体などの被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することによって、被写体を撮像し、その撮像画像から、被写体に隠れた武器や密輸品等の物品を検知することが提案されている(例えば、特許文献1、2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−177175号公報
【特許文献2】特開2008−241352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この提案の装置は、被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより被写体を撮像する所謂パッシブ型の撮像装置であることから、被写体にミリ波を照射し、その反射波から被写体を撮像するアクティブ型の撮像装置に比べて、装置構成を簡単にすることができる。
【0005】
しかし、こうしたパッシブ型の撮像装置では、被写体から放射される微弱な熱雑音(ミリ波)を受信し、その微弱な受信信号から被写体の撮像画像を生成して、被写体に隠れた物品を検出するものであるため、撮像装置の後方から被写体の前面に向けて熱雑音が放射されると、物品の検出精度が低下するという問題があった。
【0006】
つまり、撮像装置側から被写体に向けて熱雑音が放射されると、その熱雑音は被写体及び被写体に隠れた物品にて反射されるが、熱雑音の反射率は、被写体(人体)と物品とでは異なる。
【0007】
これに対し、物品の検出は、被写体画像全体の中から、熱雑音のレベルが平均レベルと大きく異なる領域を検知することで行われる。
このため、被写体である人体から放射する熱雑音に加えて、被写体や被写体に隠れた物品にて反射した熱雑音が撮像装置に入射するようになると、被写体からの熱雑音と物品からの熱雑音とを区別することができなくなって、物品の検出精度が低下するのである。
【0008】
また、撮像装置側から被写体に向けて放射される熱雑音のレベルは、熱雑音の発生源の材質や周囲環境(特に温度)によって変化し、これに伴い、被写体及び被写体に隠れた危険物から反射する熱雑音のレベルも変化する。
【0009】
従って、特に、撮像装置周囲で環境変化(温度変化)が生じるような撮像条件下では、被写体に隠れた物品の検出精度が著しく低下する。
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、人体などの被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより、被写体を撮像するミリ波撮像装置において、撮像装置側から被写体に向けて放射される熱雑音の影響を受けることなく、撮像画像から、被写体に隠れた物品を精度よく検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載のミリ波撮像装置は、
被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信し、該熱雑音の受信レベルから前記被写体の画像データを生成する撮像装置本体と、
前記撮像装置本体の周囲に配置され、前記撮像装置本体の後方から前記被写体の前面に向けて放射される熱雑音の通過を阻止する前方遮蔽板と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載のミリ波撮像装置は、請求項1に記載のミリ波撮像装置において、撮像時に前記被写体が位置する被写体配置領域を挟んで、前記撮像装置本体とは反対側に、前記被写体の後方から前記撮像装置本体に入射する熱雑音の通過を阻止する後方遮蔽板を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載のミリ波撮像装置は、請求項2に記載のミリ波撮像装置において、前記前方遮蔽板は、前記後方遮蔽板から当該前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を被写体に向けて反射可能な材料にて構成されていることを特徴とする。
【0013】
次に、請求項4に記載のミリ波撮像装置は、請求項3に記載のミリ波撮像装置において、前記前方遮蔽板は、前記撮像装置本体の上方、及び、左右に配置される平坦な板状部材から構成されており、前記撮像装置本体の左右に配置される板状部材は、板面が前記被写体配置領域を向くよう、撮像装置本体側に傾斜して配置されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載のミリ波撮像装置は、請求項3に記載のミリ波撮像装置において、前記前方遮蔽板は、前記撮像装置本体を上方から見たとき、前記撮像装置本体の撮像方向中心軸を中心として湾曲した曲面形状となるように形成されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載のミリ波撮像装置は、請求項3に記載のミリ波撮像装置において、前記前方遮蔽板は、回転放物面から切り出した形状を有する反射面を備え、該反射面にて、前記後方遮蔽板から放射された全熱雑音を被写体に向けて反射するよう、当該反射面の開口端縁が前記後方遮蔽板及び床面に当接されて、前記被写体配置領域を囲むように配置されていることを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載のミリ波撮像装置は、請求項2〜請求項6の何れか1項に記載のミリ波撮像装置において、前記後方遮蔽板は、前記ミリ波帯の熱雑音を吸収可能な電波吸収体にて構成され、しかも、当該後方遮蔽板の温度を調整する温度調整手段を備えたことを特徴とする。
【0017】
一方、請求項8に記載のミリ波撮像装置は、請求項2に記載のミリ波撮像装置において、前記前方遮蔽板は、前記ミリ波帯の熱雑音を吸収可能な電波吸収体にて構成され、しかも、当該前方遮蔽板の温度を調整する温度調整手段を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載のミリ波撮像装置においては、撮像装置本体の周囲に前方遮蔽板が設けられ、この前方遮蔽板により、撮像装置本体の後方から被写体の前面に向けて放射される熱雑音の通過を阻止するようにされている。
【0019】
このため、請求項1に記載のミリ波撮像装置によれば、撮像装置本体の後方から被写体の前面に向けて放射される熱雑音を阻止し、その熱雑音が被写体や被写体に隠れた物品で反射されて、その反射した熱雑音が撮像装置本体に入射するのを防止できる。
【0020】
よって、本発明によれば、撮像装置本体にて生成された画像データから、被写体に隠れた物品を検出する際、撮像装置本体の後方から被写体の前面に向けて放射される熱雑音の影響を受けることなく、物品を精度よく検出することができる。
【0021】
次に、請求項2に記載のミリ波撮像装置によれば、被写体配置領域を挟んで撮像装置本体とは反対側に、被写体の後方から撮像装置本体に入射する熱雑音の通過を阻止する後方遮蔽板が設けられている。
【0022】
このため、請求項2に記載のミリ波撮像装置によれば、前方遮蔽板により被写体から反射される熱雑音を低減できるだけでなく、後方遮蔽板により被写体の後方から撮像装置本体に入射する熱雑音を低減できる。
【0023】
よって、本発明によれば、撮像装置本体により生成される画像データが、周囲の熱雑音により影響を受けるのをより良好に防止することができ、延いては、撮像装置本体により生成された画像データから、被写体に隠れた物品を精度よく検出することが可能となる。
【0024】
ところで、請求項2に記載のように、被写体の後方に後方遮蔽板を設ける場合、後方遮蔽板を、熱雑音を反射する材料(例えば、金属)にて構成すると、被写体から後方遮蔽板に向けて放射された熱雑音が、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて反射されることになる。
【0025】
一方、後方遮蔽板を、熱雑音を吸収可能な電波吸収体にて構成すれば、被写体から後方遮蔽板に向けて放射された熱雑音は、後方遮蔽板にて吸収され、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて反射されることはない。
【0026】
しかし、電波吸収体は、熱雑音を反射する材料に比べて、熱雑音の透過率及び反射率が低い変わりに、放射率が高いことから、後方遮蔽板を電波吸収体にて構成すると、後方遮蔽板自身が発生する熱雑音が、前方の前方遮蔽板に向けて放射されることになる。
【0027】
そして、このように後方遮蔽板を設けた場合に、後方遮蔽板から前方の前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射される熱雑音の影響を受けることなく、被写体の撮像画像から、被写体に隠れた物品を精度よく検出できるようにするには、前方遮蔽板を、請求項3若しくは請求項8に記載のように構成するとよい。
【0028】
すなわち、請求項3に記載のミリ波撮像装置において、前方遮蔽板は、後方遮蔽板から当該前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を被写体に向けて反射可能な材料(例えば、金属)にて構成されている。
【0029】
このため、請求項3に記載のミリ波撮像装置によれば、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を、前方遮蔽板にて反射し、その反射波にて被写体を照射することができる。
【0030】
そして、このように被写体に熱雑音が照射された場合、その照射された熱雑音は、被写体(つまり人体)と被写体に隠れた物品との熱雑音の反射率の違いによって、物品から反射される熱雑音に比べ、被写体(つまり人体)から反射される熱雑音が著しく小さくなる。
【0031】
そして、被写体自身から放射される熱雑音も微少であるため、撮像装置本体では、被写体から放射及び反射された熱雑音に比べ、物品から反射された熱雑音の方が、信号レベルが大きくなる。
【0032】
この結果、撮像装置本体による撮像画像から、被写体に隠れた物品を精度よく検出することができるようになる。
一方、請求項8に記載のミリ波撮像装置によれば、前方遮蔽板が、ミリ波帯の熱雑音を吸収可能な電波吸収体にて構成され、しかも、当該前方遮蔽板の温度を調整する温度調整手段が備えられている。
【0033】
このため、請求項8に記載のミリ波撮像装置においては、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を、前方遮蔽板にて吸収することができる。
また、前方遮蔽板を電波吸収体にて構成した場合、前方遮蔽板自体から熱雑音が放射されることになるが、前方遮蔽板には、熱雑音の発生源となる電波吸収体の温度を調整する温度調整手段が設けられているので、その温度を一定の低温に制御することで、前方遮蔽板から放射される熱雑音を一定の低レベルに抑えることができる。
【0034】
よって、前方遮蔽板から放射された熱雑音が被写体に隠れた物品で反射されることにより、撮像装置本体に入射する被写体からの熱雑音と物品からの熱雑音とのレベル差が小さくなって、物品の検出精度が低下するのを防止できる。
【0035】
ここで、請求項3に記載のように、前方遮蔽板を、熱雑音を反射可能な材料(例えば、金属)にて構成する場合、前方遮蔽板は、請求項4、5、又は6に記載のように構成するとよい。
【0036】
すなわち、請求項4に記載のミリ波撮像装置において、前方遮蔽板は、撮像装置本体の上方、及び、左右に配置される平坦な板状部材から構成されており、撮像装置本体の左右に配置される板状部材は、板面が被写体配置領域を向くよう、撮像装置本体の撮像方向中心軸に対し傾斜して配置される。
【0037】
このため、前方遮蔽板は、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を、被写体に向けて効率よく反射することができるようになり、被写体に隠れた物品から反射される熱雑音の信号レベルをより大きくして、撮像画像から物品を検出する際の精度をより向上することができる。
【0038】
また、請求項5に記載のミリ波撮像装置において、前方遮蔽板は、撮像装置本体を上方から見たとき、撮像装置本体の撮像方向中心軸を中心として湾曲した曲面形状となるように形成されていることを特徴とする。
【0039】
このため、請求項5に記載の前方遮蔽板は、請求項4に記載のものに比べて、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を、被写体に向けてより効率よく反射することができるようになる。
【0040】
よって、請求項5に記載のミリ波撮像装置によれば、請求項4に記載のものに比べて、撮像画像から物品を検出する際の精度を向上することができる。
また次に、請求項6に記載のミリ波撮像装置において、前方遮蔽板は、回転放物面から切り出した形状を有する反射面を備え、この反射面にて、後方遮蔽板から放射された全熱雑音を被写体に向けて反射するよう、当該反射面の開口端縁が後方遮蔽板及び床面に当接されて、被写体配置領域を囲むように配置されている。
【0041】
このため、請求項6に記載の前方遮蔽板によれば、請求項4、5に記載のものに比べて、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を、被写体に向けて、極めて低損失で反射することができるようになる。
【0042】
よって、請求項6に記載のミリ波撮像装置によれば、請求項4,5に記載のものに比べて、撮像画像から物品を検出する際の検出精度をより向上することができる。
なお、請求項2〜6に記載のミリ波撮像装置において、後方遮蔽板を、ミリ波帯の熱雑音を吸収可能な電波吸収体にて構成する際には、請求項7に記載のように、後方遮蔽板の温度を調整する温度調整手段を設けるとよい。
【0043】
そして、このようにすれば、後方遮蔽板から前方遮蔽板に向けて放射される熱雑音の信号レベルが温度によって変化するのを防止し、延いては、撮像画像から被写体に隠れた物品を検出する際の検出精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施形態のミリ波撮像装置全体の構成を表す概略構成図である。
【図2】図1に示す撮像装置本体の構成を表す説明図である。
【図3】後方遮蔽板の構成を表す断面図である。
【図4】図1のミリ波撮像装置本体を上方から見た状態を表す説明図である。
【図5】前方遮蔽板の外観を表す斜視図である。
【図6】変形例1のミリ波撮像装置本体を上方から見た状態を表す説明図である。
【図7】変形例1の前方遮蔽板の外観を表す斜視図である。
【図8】変形例2のミリ波撮像装置本体を上方から見た状態を表す説明図である。
【図9】変形例2の前方遮蔽板の形状を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明が適用されたミリ波撮像装置全体の構成を表す概略構成図である。
本実施形態のミリ波撮像装置は、空港などで乗客が危険物を隠し持っていないかどうかをチェックするのに使用されるものであり、被写体配置領域に位置する乗客を被写体2として撮像する撮像装置本体10を備える。
【0046】
そして、被写体配置領域を挟んで撮像装置本体10とは反対側には、被写体の後方から撮像装置本体10に向けて熱雑音が放射されるのを防止する後方遮蔽板4が設けられ、撮像装置本体10の周囲には、撮像装置本体10の後方から被写体に向けて熱雑音が放射されるのを防止する前方遮蔽板40が設けられている。
【0047】
撮像装置本体10は、被写体2から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信することにより被写体2の画像を撮像するためのものであり、図2に示すように構成されている。
すなわち、撮像装置本体10は、ミリ波帯の熱雑音を受信するための複数の受信素子(図示せず)を直線状に配置することにより構成されたラインセンサ12、ミリ波帯の熱雑音を集波してラインセンサ12の各受信素子に入射させるためのレンズ14、及び、被写体2から放射されたミリ波帯の熱雑音をレンズ14に向けて反射する反射板16、を備える。
【0048】
そして、これら各部は、ミリ波帯の熱雑音を遮蔽可能な材料にて箱状に形成され、下方の側壁の一部が開口されたケース30内に収納されている。
ここで、ラインセンサ12は、受信素子の配列方向が水平方向となり、各受信素子へのミリ波の入射面が下方を向くように、ケース30内の上方に固定されている。
【0049】
また、ラインセンサ12には、各受信素子からの受信信号をそれぞれ増幅する増幅回路や受信信号をそれぞれ検波する検波回路が内蔵されており、各検波回路により検波された検波信号(ミリ波の受信レベルを表す信号)を後述の撮像制御回路30に出力する。
【0050】
次に、反射板16は、ケース30の側壁に形成された開口部22からケース30内に入射したミリ波を、レンズ14を介してラインセンサ12に導くためのものであり、ケース30内の下方に、レンズ14を挟んでラインセンサ12と対向するよう配置されている。
【0051】
また、反射板16は、ラインセンサ12の受信素子の配列方向と平行な回転軸16aを介して、ケース30内の下方に取り付けられており、反射板16の反射面は、回転軸16a周りに回動可能である。
【0052】
そして、反射板16において、ラインセンサ12と対向する反射面とは反対側の裏面で、且つ、回転軸16aから離れた位置には、反射板16を回転軸16a周りに回動させて、ラインセンサ12に対する反射板16の反射角度を調整するためのアクチュエータ18が設けられている。
【0053】
このアクチュエータ18は、反射板16の反射角度を、図に示す角度範囲Aで変化させることで、レンズ14を介してラインセンサ12に入射されるミリ波帯の熱雑音の放射位置を、被写体2の頭部から足部にかけて変化させるものである。つまり、アクチュエータ18は、被写体2を、頭部から足部にかけて垂直方向に走査させる。
【0054】
なお、図1から明らかなように、本実施形態のアクチュエータ18は、反射板16の裏面にロッドの先端が接続されて、ロッドの突出量を調整することにより反射角度を調整可能なソレノイドにより構成されている。
【0055】
ただし、アクチュエータ18は、モータを用いて構成してもよい。つまり、モータの回転軸を、複数のロッドを連結したリンク機構を介して、反射板16の裏面に接続するようにすれば、モータの回転により反射板16の反射面を所望角度で変化させることができることから、アクチュエータ18をモータにて構成してもよい。
【0056】
次に、ケース30内のラインセンサ12近傍には、撮像制御回路30が設けられている。
撮像制御回路30は、制御演算用のマイクロコンピュータ(以下、マイコンという)を中心に構成されており、アクチュエータ18を駆動するための駆動回路を備える。
【0057】
そして、撮像制御回路30は、マイコンが予め設定された撮像制御処理を実行することにより、アクチュエータ18を駆動することにより被写体2の撮像位置を垂直方向に走査させつつ、所定の走査位置毎に、ラインセンサ12から水平方向一ライン分の検波信号を順次取り込み、その取り込んだ水平方向一ライン分の検波信号を垂直方向に並べることで、被写体2の撮像画像を表す画像データを生成し、その画像データを外部のディスプレイや記憶装置へ出力する。
【0058】
従って、本実施形態のミリ波撮像装置の使用者は、ディスプレイに表示された撮像画像を見ることで、被写体配置領域に被写体2となる人が居ることを検知したり、その表示画像から被写体2である人が隠し持っている凶器を検知したりすることができる。
【0059】
また、記憶装置に記憶された画像データにてディスプレイに撮像画像を表示させることで、使用者は、被写体配置領域に居た人物を確認するとか、その人物が持っている物品を確認するといったことができる。
【0060】
一方、後方遮蔽板4は、外部から被写体配置領域内に、撮像装置本体10のラインセンサ12にて受信可能なミリ波帯の熱雑音が侵入し、その侵入した熱雑音が撮像装置本体10内に入射するのを防止するためのものであり、図3に示すように構成されている。
【0061】
すなわち、後方遮蔽板4は、裏面に電波吸収体からなるシート材6を積層した合成樹脂製の表板32と、同じく合成樹脂製の裏板34とを、間隔を空けて平行に配置することにより、電波吸収体の裏面側に内部空間36を形成し、その内部空間36の周囲を閉塞することにより、一枚の板として構成されている。
【0062】
なお、後方遮蔽板4の板面の大きさは、撮像装置本体10の開口部22から見て、被写体像を撮像可能な撮像範囲(図1に点線で示す領域)をカバーできる大きさになっている。
【0063】
そして、後方遮蔽板4の裏板34の上方には、冷却空気を内部空間36内に導入するための導入口36aが形成されており、内部空間36の下方には、導入口36aから導入され、後方遮蔽板4全体を冷却した空気を排出するための排出口36bが形成されている。
【0064】
また、図1に示すように、後方遮蔽板4の被写体配置領域とは反対側には、一定温度・一定湿度の空調空気を生成して、後方遮蔽板4の導入口36aから内部空間36内に送り込むための空調装置8が設けられている。
【0065】
このため、後方遮蔽板4(特に電波吸収体からなるシート材6)の温度は、空調装置8から送り込まれる空調空気によって、一定温度に保持される。
なお、空調装置8は、空調空気の温度を、人体温度に比べて充分低い低温に制御するようにされている。これは、シート材6を構成する電波吸収体から放射される熱雑音を一定の低レベルに保持するためである。
【0066】
次に、前方遮蔽板40は、熱雑音を反射可能な金属板からなり、後方遮蔽板4との対向面が、撮像装置本体の開口部22を中心として、左右側方ほど後方遮蔽板4に近づくように湾曲した、曲面形状となっている。
【0067】
つまり、図4に示すように、前方遮蔽板40は、撮像装置本体10を上方から見たとき、撮像装置本体10の撮像方向中心軸を中心として後方遮蔽板4側に湾曲した曲面形状となるように形成されている。
【0068】
これは、撮像装置本体10の後方から被写体2に向けて放射された熱雑音が被写体配置領域内に入射するのを防止するだけでなく、後方遮蔽板4やその周囲から撮像装置本体10側に放射された熱雑音を被写体2に向けて反射するためである。
【0069】
つまり、本実施形態では、前方遮蔽板40をこのように構成することで、被写体2から放射及び反射される熱雑音に比べ、被写体2に隠れた物品から反射される熱雑音の信号レベルが充分高くなるようにしている。
【0070】
この結果、撮像制御回路20から出力される画像データにて、撮像画像をディスプレイに表示すれば、その表示画像上で、被写体2と被写体2に隠れた物品とを明確に識別できるようになり、物品の検出精度を高めることができる。
【0071】
なお、前方遮蔽板40の板面の大きさは、後方遮蔽板4と対向させた際に、後方遮蔽板4と略同じ大きさになるようにされている。
また、図4、図5から明らかなように、前方遮蔽板40には、撮像装置本体10のケース30の開口部22に対応して、熱雑音を通過させるための開口が形成されており、その周囲は、装着部42を介して、ケース30の開口部22周囲の前面に固定されている。
【0072】
以上説明したように、本実施形態のミリ波撮像装置においては、被写体配置領域を挟んで撮像装置本体10とは反対側には、電波吸収体からなる後方遮蔽板4が設けられ、撮像装置本体10の開口部22周囲には、金属板からなる前方遮蔽板40が設けられている。
【0073】
このため、本実施形態のミリ波撮像装置によれば、後方遮蔽板4と前方遮蔽板40とにより、外部から被写体配置領域内に入射する熱雑音を低減することができ、撮像装置本体10による撮像画像が、周囲の熱雑音により影響を受けるのを防止することができる。
【0074】
また、後方遮蔽板4は電波吸収体にて構成されているため、後方遮蔽板4から撮像装置本体10方向に熱雑音が放射されるが、後方遮蔽板4は、空調装置8により一定温度(低温)に制御されることから、後方遮蔽板4から放射される熱雑音は、一定の低レベルに抑えられる。
【0075】
また、前方遮蔽板40は、後方遮蔽板4の板面に対し湾曲しており、後方遮蔽板4から放射された低レベルの熱雑音を、被写体2が位置する被写体配置領域の中央部分に向けて反射する。
【0076】
このため、上記のように、被写体2から放射及び反射される熱雑音に比べ、被写体2に隠れた物品から反射される熱雑音の信号レベルが充分高くなり、撮像装置本体10で撮像された撮像画像を利用すれば、被写体2に隠れた物品を容易に検出できるようになる。
【0077】
よって、本実施形態のミリ波撮像装置によれば、撮像画像から被写体2に隠れた物品を検出する際の検出精度を高めることができる。
なお、本実施形態において、空調装置8は、本発明の温度調整手段に相当する。
【0078】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
[変形例1]
例えば、上記実施形態では、前方遮蔽板40は、熱雑音を被写体2に向けて反射するよう、金属板にて湾曲形状に形成したが、図6、図7に示すように、反射面が扁平な金属板を組み合わせることにより形成してもよい。
【0079】
つまり、図6、図7に示す前方遮蔽板40は、撮像装置本体10のケース30の前面に貼り付けられた正面反射部44と、ケース30の前面に向かって正面反射部44の左右両側に、左側揺動軸45及び右側揺動軸47を介して揺動可能に設けられた左側反射部46及び右側反射部48とから構成されている。
【0080】
そして、正面反射部44には、撮像装置本体10のケース30の開口部22に対応して、熱雑音を通過させるための開口が形成されている。
また、左側反射部46及び右側反射部48は、左側揺動軸45及び右側揺動軸47を中心に揺動させることで、後方遮蔽板4に対する対向面(反射面)が被写体2側に向いた反射位置(図6に示す位置)と、ケース30の左右側壁に沿った収納位置と、の間で変位させることができる。
【0081】
そして、前方遮蔽板40をこのように構成しても、後方遮蔽板4から放射された低レベルの熱雑音を、被写体2が位置する被写体配置領域の中央部分に向けて反射することができることから、上記実施形態と同様、撮像画像から被写体2に隠れた物品を検出する際の検出精度を高めることができる。
[変形例2]
また、前方遮蔽板40は、図8に示すように、回転放物面から切り出した形状を有する金属板にて構成することで、撮像装置本体10の開口部22から後方遮蔽板4に至る被写体配置領域全域を囲むように構成してもよい。
【0082】
具体的には、図9に例示するように、回転放物面50を、中心軸52が撮像装置本体10の撮像方向中心軸と一致させた際、回転放物面50の準線側に撮像装置本体10(詳しくは開口部22)が位置し、回転放物面50の開放端側に後方遮蔽板4が位置するように、回転放物面50を、後方遮蔽板4の板面と被写体配置領域の床面とで切り出した形状となるよう、前方遮蔽板40を構成する。
【0083】
そして、このように構成した前方遮蔽板40を、被写体配置領域を囲むように配置し、開放端側を後方遮蔽板4で閉塞し、回転放物面50の準線側に撮像装置本体10の開口部22を配置する。
【0084】
この結果、前方遮蔽板40により、外部から被写体配置領域に侵入する熱雑音を完全に遮断し、しかも、後方遮蔽板4から放射された熱雑音を全て被写体2に向けて反射させることができるようになる。
【0085】
従って、前方遮蔽板40をこのように構成すれば、撮像画像から被写体2に隠れた物品の検出する際の検出精度をより高めることができる。
なお、当該変形例2の前方遮蔽板40は、金属板をプレス成形することで作製できるが、被写体配置領域が前方遮蔽板40と後方遮蔽板4とで閉塞されることから、前方遮蔽板40若しくは後方遮蔽板4には、被写体2となる人が、被写体配置領域に入るための扉を設ける必要はある。
[他の変形例]
一方、上記実施形態及び変形例では、前方遮蔽板40は、熱雑音を反射する金属にて構成されるものとして説明したが、電波吸収体からなるシート材を用いて、図3に示した後方遮蔽板4と同様に構成してもよい。
【0086】
そして、この場合、温度調整手段としての空調装置8を設けるようにすれば、前方遮蔽板40にて熱雑音を吸収し、且つ、前方遮蔽板40から放射される熱雑音を一定の低レベルに抑えることができることから、撮像画像から被写体2に隠れた物品を検出する際の検出精度を高めることができる。
【0087】
また、上記実施形態及び変形例では、後方遮蔽板4は、電波吸収体からなるシート材を用いて構成するものとして説明したが、熱雑音を反射する金属にて構成してもよい。
また、後方遮蔽板4若しくは前方遮蔽板40を、熱雑音を反射する材料にて構成する場合、必ずしも金属板を用いる必要はなく、例えば、金属からなる網目状のものを用いて構成してもよく、或いは、導電性フィルム等、熱雑音を反射可能な導電性材料が混入若しくは積層されたフィルム(板状体)を用いて構成してもよい。
【0088】
また、上記実施形態においては、熱雑音を受信する受信部をラインセンサ12にて構成し、アクチュエータ18を介して反射板16を揺動(走査)することで、被写体2の画像を撮像するものとして説明したが、例えば、アクチュエータ18を、反射板16を水平方向にも垂直方向にも走査可能に構成すれば、受信部を一つのアンテナ素子にて構成することができる。
【0089】
また、ラインセンサ12に代えて、複数のアンテナ素子を平面上に配置した2次元センサ(換言すれば平面アンテナ)を用いるようにすれば、走査用の反射板16やアクチュエータ18を用いることなく、被写体2の画像を撮像することができる。
【符号の説明】
【0090】
2…被写体、4…後方遮蔽板、6…シート材、8…空調装置、10…撮像装置本体、12…ラインセンサ、14…レンズ、16…反射板、16a…回転軸、18…アクチュエータ、20…撮像制御回路、22…開口部、30…ケース、30…撮像制御回路、32…表板、34…裏板、36…内部空間、36a…導入口、36b…排出口、40…前方遮蔽板、42…装着部、44…正面反射部、45…左側揺動軸、46…左側反射部、47…右側揺動軸、48…右側反射部、50…回転放物面、52…中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体から放射されるミリ波帯の熱雑音を受信し、該熱雑音の受信レベルから前記被写体の画像データを生成する撮像装置本体と、
前記撮像装置本体の周囲に配置され、前記撮像装置本体の後方から前記被写体の前面に向けて放射される熱雑音の通過を阻止する前方遮蔽板と、
を備えたことを特徴とするミリ波撮像装置。
【請求項2】
撮像時に前記被写体が位置する被写体配置領域を挟んで、前記撮像装置本体とは反対側に、前記被写体の後方から前記撮像装置本体に入射する熱雑音の通過を阻止する後方遮蔽板を設けたことを特徴とする請求項1に記載のミリ波撮像装置。
【請求項3】
前記前方遮蔽板は、前記後方遮蔽板から当該前方遮蔽板に向けて反射若しくは放射された熱雑音を被写体に向けて反射可能な材料にて構成されていることを特徴とする請求項2に記載のミリ波撮像装置。
【請求項4】
前記前方遮蔽板は、前記撮像装置本体の上方、及び、左右に配置される平坦な板状部材から構成されており、前記撮像装置本体の左右に配置される板状部材は、板面が前記被写体配置領域を向くよう、撮像装置本体の撮像方向中心軸に対し傾斜して配置されていることを特徴とする請求項3に記載のミリ波撮像装置。
【請求項5】
前記前方遮蔽板は、前記撮像装置本体を上方から見たとき、前記撮像装置本体の撮像方向中心軸を中心として湾曲した曲面形状となるように形成されていることを特徴とする請求項3に記載のミリ波撮像装置。
【請求項6】
前記前方遮蔽板は、回転放物面から切り出した形状を有する反射面を備え、該反射面にて、前記後方遮蔽板から放射された全熱雑音を被写体に向けて反射するよう、当該反射面の開口端縁が前記後方遮蔽板及び床面に当接されて、前記被写体配置領域を囲むように配置されていることを特徴とする請求項3に記載のミリ波撮像装置。
【請求項7】
前記後方遮蔽板は、前記ミリ波帯の熱雑音を吸収可能な電波吸収体にて構成され、しかも、当該後方遮蔽板の温度を調整する温度調整手段を備えたことを特徴とする請求項2〜請求項6の何れか1項に記載のミリ波撮像装置。
【請求項8】
前記前方遮蔽板は、前記ミリ波帯の熱雑音を吸収可能な電波吸収体にて構成され、しかも、当該前方遮蔽板の温度を調整する温度調整手段を備えたことを特徴とする請求項2に記載のミリ波撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−96811(P2013−96811A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239225(P2011−239225)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000113665)マスプロ電工株式会社 (395)
【出願人】(000210964)中央電子株式会社 (81)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】