説明

ムコハロ酸からの官能基保有γ−ブチロラクトンの製造方法

X、Y、R1、R2およびR3が明細書において定義した意味のいずれかを有する、インジウムの存在下にムコハロ酸1およびハライド2を用いた、官能基保有ブチロラクトンおよび種々の生物活性化合物を製造するための方法。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属媒介によるBarbier型の反応を用いたムコハロ酸からの官能基保有γ−ブチロラクトンの製造方法に関する。生成物であるγ−ブチロラクトンは種々の生物活性化合物の製造のために有用である。
【背景技術】
【0002】
化学物質を使用するプロセスの大部分は環境に対する害をもたらす可能性を有している。実際、多くの現代の利便性、例えば医薬品、消費材または輸送または通信の装置の開発のために必須である化学的方法の多くが環境に対する有害作用を有するという認識が「グリーンケミストリー」として知られる技術分野の出現をもたらした。グリーンケミストリーの役割はヒトの健康および環境に対して有害な物質を低減または排除する化学的方法および製品を設計、開発および実施することである。重要な点は1995年のグリーンケミストリー賞プログラムで国立科学アカデミーが設定したグリーンケミストリーの役割を達成することである。グリーンケミストリー賞は汚染を防止し、なお経済的に可能である化学製品および製造方法を推進するための競争的研究を示す。
【0003】
グリーンケミストリーの1つの目標は環境に適合しない溶媒の使用を最小限化または排除することである。このことは一部の化学的方法における水およびその他の環境に適合する溶媒の使用、および、水に適合する物質、試薬および反応の検索をもたらした。本発明者等はグリーン化学操作法のための有望な候補としてムコハロ酸1(ムコクロル酸(2,3−ジクロロ−4−オキソ−2−ブテン酸)およびムコブロム酸1(2,3−ジブロモ−4−オキソ−2−ブテン酸)を発見した。
【化1】

【0004】
ムコクロル酸およびムコブロム酸は市販されており、安価な原料である。両方の分子はZ配置の炭素−炭素二重結合、ハロゲン原子2個、および、カルボニル基2個の存在を特徴としている。この高度な官能基保有性のため、ムコクロル酸およびムコブロム酸は、置換1,5−ジヒドロピロール−2−オン、ピロリジンおよびγ−ラクタム等のような生物学的に活性な種々の複素環の合成のための特に有用な構成単位となっている。
【0005】
しかしながら、その多大な合成上の可能性にも関わらず、ムコハロ酸は、「グリーン」有機合成はもとより、C−4構成単位として従来の有機合成においてすら使用されていない。恐らくはその理由は、分子内の多くの反応部位、塩基性条件下におけるその乏しい安定性、および、他の官能基の存在下におけるハロゲン原子の選択的操作に関わる困難を当業者が知っていることによるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その結果、ムコハロ酸中に存在する官能基の選択的な操作を、環境に適合した「グリーン溶媒」中、穏やかなpH、大気圧および室温以下において可能とする手法または方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような必要性および他の必要性は本明細書に記載する本発明により満足されるものであり、これは、下記式I:
【化2】

[式中、XはClまたはBrであり;
1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)であり、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]の官能基保有ブチロラクトンの製造方法であって、該方法は、下記工程:
(a)Xが上記の通り定義される下記式1:
【化3】

のムコハロ酸1を、YがCl、BrまたはIである下記式2:
【化4】

(式中、R1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、「−−−」は上記の通り定義される)のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と溶媒中で接触させて下記式I:
【化5】

の化合物を形成すること
を含む上記方法に関するものである。
【0008】
本発明の方法は特に「グリーン」有機合成の意味においてC−4ビルディングブロックとしてのムコハロ酸の有用性を明らかにする。ムコハロ酸は本発明の方法の反応条件に従った水性媒体中で安定である。更にまた、ムコハロ酸のヒドロキシル基は他の官能基の存在下に選択的に操作でき、これにより高収率で生成物化合物を得ることができる。
【0009】
従って本発明の方法は生物活性化合物、例えばスキーム1に記載するもの、特にβ−およびγアミノ酸の合成に容易に適合される。
【化6】

【0010】
その結果、本発明はまた、下記式II:
【化7】

[式中、R1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)である]の化合物の製造方法であって、該方法は下記工程:
【0011】
(a)ムコハロ酸を下記式2:
【化8】

[式中、YがCl、BrまたはIであり、
1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と、溶媒中、十分な反応温度、圧力、時間および濃度において接触させて下記式I:
【化9】

のγ−ブチロラクトンを得ること;
【0012】
(b)化合物IをRaがベンジルまたはメチルベンジルであるアミンRaNH2と塩基の存在下に反応させて下記式3:
【化10】

の物質3を形成すること;
【0013】
(c)化合物3を水素化してまず下記式4:
【化11】

の化合物4とし、その後、上記化合物5を形成すること;
【0014】
(d)化合物5をベンジルクロロホルメートと塩基の存在下に反応させてCBZ保護アミンとし、その後R’が(C1−C6アルキル)である水性アルコールR’OHおよび触媒酸中において酸触媒加水分解を行うことにより下記式6:
【化12】

の化合物6を形成すること;
【0015】
(e)化合物6をメシルクロリドと塩基の存在下に反応させ、その後NaBrまたはNaIで処理し、その後水素化n−ブチルスズで還元して下記式7:
【化13】

の化合物7を形成すること;
【0016】
(f)CBZ基を除去し、そして、化合物7におけるエステルを酸性条件下に加水分解して下記式II:
【化14】

の化合物を得ること
を包含する上記方法を提供する。
【0017】
本発明は更に、下記式III:
【化15】

[式中、R1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)であり、そしてR4およびR5は各々独立してH、アリール、ヘテロアリールまたは(C1−C6アルキル)である]の化合物の製造方法であって、該方法は下記工程:
【0018】
(a)ムコハロ酸を下記式2:
【化16】

[式中、YがCl、BrまたはIであり、
1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と、溶媒中、十分な反応温度、圧力、時間および濃度において接触させて下記式I:
【化17】

のγ−ブチロラクトンを得ること;
【0019】
(b)化合物IをRaがベンジルまたはメチルベンジルであるアミンRaNH2と塩基の存在下に反応させて下記式3:
【化18】

の物質3を形成すること;
【0020】
(c)化合物3を水素化してまず下記式4:
【化19】

の化合物4とし、その後、上記化合物5を形成すること;
【0021】
(d)化合物6をベンジルクロロホルメートと塩基の存在下に反応させてCBZ保護アミンとし、その後メタノール中において酸触媒加水分解を行うことにより下記式7:
【化20】

の化合物7を形成すること;
【0022】
(e)化合物7におけるアルコール部分を酸化して下記式8:
【化21】

の化合物8を得ること;
【0023】
(f)化合物8のケトン部分を塩基および下記式:
【化22】

(式中XはCl、BrまたはIである)の物質または下記式:
【化23】

(式中R4およびR5は上記の通り定義される)の物質を用いてオレフィン化することにより下記式9:
【化24】

の化合物9を得ること;
【0024】
(g)化合物9を水素化して下記式III:
【化25】

の化合物を得ること
を包含する上記方法を提供する。
【0025】
本発明はまた、下記式IV:
【化26】

[式中、R1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)であり、そしてR4およびR4'は各々独立してH、アリール、ヘテロアリールまたは(C1−C6アルキル)である]の化合物の製造方法であって、該方法は下記工程:
【0026】
(a)ムコハロ酸を下記式2:
【化27】

[式中、YがCl、BrまたはIであり、
1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と、溶媒中、十分な反応温度、圧力、時間および濃度において接触させて下記式I:
【化28】

のγ−ブチロラクトンを得ること;
【0027】
(b)R4およびR4'が上記の通り定義され、M0がMgBr、CuBrまたはB(OH)2であるR44'CM0を物質Iに添加して下記式10:
【化29】

の物質を得ること;
【0028】
(c)化合物10を水素化して下記式11:
【化30】

の化合物11を形成すること;
【0029】
(d)化合物11をR’が(C1−C6アルキル)である水性アルコールR’OHおよび触媒酸中において加水分解を行うことにより下記式12:
【化31】

の化合物12を形成すること;
【0030】
(e)化合物12におけるアルコール部分を酸化して下記式13:
【化32】

の化合物13を得ること;
【0031】
(f)化合物13のケトン部分を第1アミノ部分に変換し、その後加水分解して下記式IV:
【化33】

の化合物を得ること
を包含する上記方法を提供する。
【0032】
更に開示されるものは、下記式:
【化34】

(式中X、R1、R2およびR3は上記の通り定義される)である化合物である。
【0033】
更に開示されるものは、下記式5:
【化35】

(式中X、R1、R2およびR3は上記の通り定義される)である化合物である。
【0034】
更に開示されるものは、下記式6:
【化36】

(式中X、R1、R2およびR3は上記の通り定義される)である化合物である。
【0035】
更に開示されるものは、下記式7:
【化37】

(式中、R1、R2およびR3は上記の通り定義される)である化合物である。
【0036】
更に開示されるものは、下記式11:
【化38】

(式中、X、R1、R2、R3、R4およびR4'は上記の通り定義される)である化合物である。
【0037】
発明の詳細な説明
I.定義
特段の記載がない限り、以下の定義を使用する。即ち、ハロはフルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードである。 アルキルおよびアルコキシ等は直鎖および分枝鎖の基の両方を意味する。しかしながら、「プロピル」のような個々の基を指す場合は、直鎖の基のみを包含する。「イソプロピル」のような分枝鎖の異性体は特別に指すものとする。アリールとはフェニル基または環少なくとも1つが芳香族である約9〜10環原子を有するオルト縮合二環式炭素環基を意味する。ヘテロアリールは炭素原子および非過酸化物の酸素、イオウ、および、N(Y)、ただしYは存在しないかH、O、(C1−C4)アルキル、フェニルまたはベンジルであるもの、よりなる群から選択される複素環原子1〜4個よりなる5または6環原子を含む単環の芳香族環の環炭素原子を介して結合した基、並びに、それから誘導された約8〜10環原子のオルト縮合二環式複素環の基、特にベンゾ誘導体またはそれにプロピレン、トリメチレンまたはテトラメチレンジラジカルを縮合することにより誘導されたもの、を包含する。
【0038】
基、置換基および範囲に関して後述する特定の好ましい数値は説明を目的とするのみであり;それらは別の定義された数値または基および置換基に関して定義された範囲内の別の値を排除するものではない。
【0039】
特に「アリール」とは炭素原子5〜12個を有し、そして、未置換であるか、または、アルキル、アルコキシ、チオアルコキシ、ヒドロキシ、チオール、ニトロ、ハロゲン、アミノ、(C1−C6)アルキルおよび(C1−C6)ジアルキルアミノ、ホルミル、カルボキシ、CN、−NH−CO−R、−CO−NHR、−CO2R、−COR、ただしRは(C1−C6)アルキルであるもの、よりなる群から選択される置換基1個または1個より多くで置換された環式または多環式の芳香族環であることができる。アリール基の例には、フェニル、2,6−ジクロロフェニル、3−メトキシフェニル、ナフチル、4−チオナフチル、テトラリニル、アントラシニル、フェナントレニル、ベンゾナフテニル、フルオレニル、2−アセトアミドフルオレン−9−イルおよび4’−ブロモビフェニル等が包含される。
【0040】
「ヘテロアリール」はチオフェン、ベンゾチオフェン、ナフトチオフェン、トリアントレン、フラン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ピラン、クロメン、キサンテン、フェノキサチイン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、トリアゾール、テトラゾール、ピラジン、トリアジン、ピリミジン、ピリダジン、インドリジン、イソインドール、インドール、インダゾール、プリン、キノリジン、イソキノリン、キノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、カルバゾール、カルボリン、フェナントリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、イソチアゾール、フェノチアジン、オキサゾール、イソオキサゾール、フラザン、フェノキサジン等であることができる。ヘテロアリールは未置換であるか、またはアリールに関して前記したとおり置換されていてよい。
【0041】
「(C1−C6)アルコキシカルボニル」とはメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペントキシカルボニルまたはヘキシルオキシカルボニルであることができる。(C1−C6)アルコキシカルボニルは未置換であるか、またはアリールに関して前記したとおり置換されていてよい。
【0042】
「(C1−C6)アルカノイル」とはプロパノイル、ブタノイル等であることができる。
(C1−C6)アルカノイルは未置換であるか、またはアリールに関して前記したとおり置換されていてよい。
【0043】
「(C1−C6)アルキル」とはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、ペンチル、3−ペンチル、ヘキシル等であることができる。(C
1−C6)アルキル基は未置換であるか、(C1−C6)あるかのいる、アルコキシ、チオアルコキシ、ヒドロキシ、チオール、ニトロ、ハロゲン、アミノ、(C1−C6)アルキルおよび(C1−C6)ジアルキルアミノ、ホルミル、カルボキシル、CN、−NH−CO−R、−CO−NHR、−CO2R、−COR、ただしRは(C1−C6)アルキルであるものよりなる群から選択される1個または1個より多くで置換されていてよい。
【0044】
「ハロ(C1−C6)アルキル」とはヨードメチル、ブロモメチル、クロロメチル、フルオロメチル、トリクロロメチル、トリフルオロメチル、2−クロロエチル、2−フルオロエチル、2,2,2−トリフルオロエチルまたはペンタフルオロエチルであることができる。
【0045】
アリール(C1−C6)アルキルおよびヘテロアリール(C1−C6)アルキルとは、(C1−C6)アルキル基に結合したアリールまたはヘテロアリール基を指し、ここでアリール、ヘテロアリールおよび(C1−C6)アルキルは上記の通り定義される。例には、ベンジル、メチルベンジル、即ち下記式:
【化39】

(式中、波線は結合点を示す)のもの、2−、3−および4−メチルピリジル等が包含される。
【0046】
本発明の方法により製造される化合物はキラル中心1個または1個より多くを有してよく、そして、光学活性およびラセミ型において存在および使用または単離してよい。本発明の方法は何れかのラセミ体、または光学活性型またはそれらの混合物を与えることができる。さらにまた、本発明の方法の生成物は、ラセミ体、エナンチオマーまたはジアステレオマー型、またはこれらの混合物として単離することができる。このような生成物に関わる精製および定性方法は当業者の知るとおりであり、再結晶法、並びにキラルクロマトグラフィー分離法、並びに他の方法を包含する。
【0047】
II.本発明の方法
1つの実施態様において、本発明の方法はスキーム2に総括する通りである。即ち、水性媒体中、ムコハロ酸1をアリルハライドまたはプロパルギルハライド2と、インジウム、スズまたは亜鉛のような金属および塩化アンモニウムの存在下に混合してカップリング生成物を得る。Barbier型のグリニャール反応としてスキーム1に示されている変換は当業者の知るとおりである。Barbier反応の「グリーン」型は1991年にLi,C−J,;Chan,T−H,Tetrahedron 1999 55,1149
−1176に最初に報告された。しかしながら今日まで、Barbier反応のグリーン型に対する基質としての高密度に官能基を保有するムコハロ酸を開示した報告は、たてまえ上はその高い反応性および乏しい安定性が知られていることから、存在しなかった。
【0048】
【化40】

【0049】
A.試薬
1.ムコハロ酸
ムコブロム酸またはムコクロル酸は本発明のBarbier反応のグリーン型において使用するために適している。
【0050】
2.アリルまたはプロパルギルハライド
上記した通り、ムコハロ酸1を本発明の方法においてアリルまたはプロパルギルハライド2と混合する。ハライド2において「−−−」が存在しない場合は、当業者の知るとおり化合物2はR1、R2およびR3の全てが存在するアリルハライドである。ハライド2において「−−−」が結合である場合は、当業者の知るとおり化合物2はR1およびR2またはR3の一方が存在しないアリルハライドである。
【0051】
広範な種類のアリルハライドを本発明において使用してよい。スキーム1に示すようにアリルまたはプロパルギルハライド2におけるYはCl、BrまたはIであってよい。R1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)であり、そして「−−−」は結合であるか存在しないが、「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない。
【化41】

【0052】
a.アリルハライド
本発明の方法の1つの実施態様において、化合物2がアリルハライド(即ち「−−−」が存在しない)である場合は、R1、R2およびR3の少なくとも1つはHであり、R1、R2およびR3の他のものは各々独立してハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)である。
【0053】
別の実施態様において、R1はHであり、そしてR2およびR3の一方はHであるが、R2およびR3の他方はハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)である。
別の実施態様において、R1はアリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)であり、R2およびR3の少なくとも1つはHである。
【0054】
b.プロパルギルハライド
本発明の方法の別の実施態様において、化合物2がプロパルギルハライド(即ち「−−−」が結合)である場合は、R1およびR2は存在せず、そしてR3はHである。
別の実施態様においてはR3はアリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)である。
【0055】
3.金属
金属を使用して本発明の方法を媒介する。好ましい金属はインジウム、スズまたは亜鉛である。
【0056】
2.操作法および化学量論的側面
本発明の方法の1つの型においてはムコハロ酸1をハライド2、インジウム、スズまたは亜鉛のような金属および塩化アンモニウムと溶媒中で接触させる。「接触させる」とは反応成分が典型的には液体中で混合されて均質または不均質な混合物を形成することを意味する。本発明において使用される液体は、水の存在下または非存在下の極性プロトン性または極性非プロトン性の溶媒から選択される。極性プロトン性溶媒はメタノール、エタノール等のアルコールである。極性非プロトン性溶媒はテトラヒドロフラン、DMPU等から選択される。典型的には、水を本発明の方法のための共溶媒として使用する場合は、所望の反応濃度を得るために極性プロトン性または非プロトン性溶媒と等しい容量において使用する。例えば水をTHFとの共溶媒として使用する場合は、水のTHFに対する容量比は約1:1である。
【0057】
或は、「室温イオン性液体」(RTIL)を本発明の方法のための溶媒として使用してよい。このようなRTILには[bmim][BF4]、[bmim][PF6]、[bmim][Tf2N]が包含され、ここでbmimは1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムであり、そしてTfはCF3SO2である。Gordon,C.M.,Green Chemistry,2002,4,124−1128を参照されたい。
【0058】
本発明の方法の1つの実施態様においては、本発明の方法において使用される反応成分(即ちムコハロ酸、アリルまたはプロパルギルハライド、インジウムおよび塩化アンモニウム)の各々のモル当量は下記の通り、即ち:
ムコハロ酸1の化合物約1当量;
ハライド2約1.0〜約1.5当量;
インジウム約1.0〜約1.5当量;および、
塩化アンモニウム約0.1〜約0.5当量
である。
【0059】
本発明の方法の別の実施態様においては、本発明の方法において使用される反応成分の各々のモル当量は下記の通り、即ち:
ムコハロ酸1の化合物約1当量;
ハライド2約1.1〜約1.3当量;
インジウム約1.1〜約1.3当量;および、
塩化アンモニウム約0.1〜約0.3当量
である。
【0060】
本発明の方法の別の実施態様においては、本発明の方法において使用される反応成分の各々のモル当量は下記の通り、即ち:
ムコハロ酸1の化合物約1当量;
ハライド2約1.2当量;
インジウム約1.2当量;および、
塩化アンモニウム約0.1〜約0.2当量
である。
【0061】
ムコハロ酸、アリルまたはプロパルギルはライド、金属および塩化アンモニウムを溶媒中、例えば磁気的または機械的な攪拌により、約0〜約50℃の温度で混合する。より好ましくは、温度は約10〜約40℃である。更に好ましくは温度は約20〜約30℃である。更に好ましくは温度は約22〜約27℃である。 本発明の方法は典型的には大気圧または約1気圧で行う。
【0062】
ムコハロ酸、アリルまたはプロパルギルはライド、金属および任意の塩化アンモニウムを溶媒中、所定の濃度、温度および圧力において、生成物Iへのムコハロ酸の変換を最大限とするが、副反応および望ましくない副生成物の形成および生成物の分解を最小限とするのに十分な時間、混合する。方法のための典型的な反応時間は約10〜60時間の範囲である。より典型的な反応時間は約12〜約う50時間の範囲であり、更に典型的には約14〜20時間の範囲である。
【0063】
本発明の方法を説明するために、THF/水中のインジウム存在下のアリルブロミドとのムコクロル酸およびムコブロム酸の反応を検討した(表1)。反応は16時間に亘り室温で実施した。まずラクトン14がX=Clの場合は収率90%で単離され;X=Brの場合は収率は70%(THF/水中)および86%(MeOH/水中)であった。
【0064】
【表1】

【0065】
本発明の方法を更に電子リッチ(electron rich)または電子プア(electron poor)のアリルまたはプロパルギル系の両方に延長した(表2)。即ち、電子リッチのシンナミルブロミド(実施番号3)はムコクロル酸と反応してアリル化された生成物の混合物を46%収率で生成した。電子欠乏性(electron deficient)のメチル(2−ブロモメチル)アクリレート(実施番号2および6)はムコクロル酸またはムコブロム酸と反応してアリル化生成物をそれぞれ76および74%収率で生成した。プロパルギルブロミド(実施番号8)はムコブロム酸と反応して生成物の混合物を36%収率で生成した。
【0066】
【表2】

【0067】
インジウムは表3に総括するとおり、生成物の収率を低下させることなく、はるかに安価なスズと良好に置き換えることができた。Wang,Z.;Zha,Z.;Zhou,C.Org.Lett.2002,4,1683参照。
【0068】
【表3】

【0069】
III.合成における本発明の方法の説明
本明細書に記載した本発明の方法によれば、多くの生物活性化合物を得るための簡便な合成手段が可能となる。本セクションではスキーム1に示した数種の化合物を得るための合成経路を記載する。
【0070】
A.β−アミノ酸
多数のβ−アミノ酸がカルシウムチャンネルのアルファ−2−デルタサブユニットに結合し、このため、一連の障害の治療において有用である。2003年3月27日出願の米国特許出願第10/401060号を参照されたい。
【0071】
1.式IIの化合物の合成
式IIのβ−アミノ酸を得るための経路をスキーム3に示す。即ち、化合物14は本明細書に開示した本発明の方法を用いてインジウムまたはスズの存在下ムコブロム酸およびアリルブロミドを用いて製造する。ベンジルアミンまたはその等価物の化合物14へのマイケル付加は室温で容易に起こり、1,4共役付加生成物15が得られる。化合物15を当業者のよく知る従来の条件下(H2/Pd−C)に水素化し、まず化合物16を得る。
化合物16をより長時間またはより高温または高圧で水素化条件に付すことにより化合物17が得られる。化合物17のアミン部分の保護により化合物18となる。メタノールのような水性アルコール中でのラクトン18の酸触媒加水分解により3−ヒドロキシエステル19が得られる。化合物19のアルコール部分はトリエチルアミンのようなアミン塩基の存在下メシルクロリドで処理することによりメシレートとなり、その後、これをアセトン中のNaBrまたはNaIによる処理により臭化物またはヨウ化物20に変換する。nBu3SnHを用いた物質21のBarton型の還元、その後の脱保護および加水分解により、式IIAの標的化合物が得られる。
【0072】
【化42】

【0073】
スキーム3の工程1は化合物14を得るための本発明の方法を説明する前のセクションにおいて示したとおり行う。
スキーム3の工程2は1−メチル−2−ピロリジノン(NMP)のような溶媒中ベンジルアミンのようなアミンで化合物14を処理することにより行う。典型的には、NMP中の化合物14の溶液を薄層クロマトグラフィーのような当業者の使用可能なモニタリング手法により測定した場合に反応が収量するまで室温でベンジルアミン過剰量で処理する。
次に反応混合物を従来の方法に従って後処理および精製し、化合物15を得る。
【0074】
スキーム3の工程3は化合物15を従来の水素化条件下に付して化合物16とすることにより行う。即ち、THFのような溶媒中の化合物15の溶液を高圧反応器に移す。次に触媒量のPd/Cを添加し、混合物を陽圧水素下(典型的には約40ポンド/平方インチ(psi)の水素圧)に攪拌しながら水素化する。水素の取り込みが停止するまで混合物を水素化する。Pd/C触媒を濾去し、溶媒を真空下に除去し、得られた粗生成物16をシリカゲルクロマトグラフィーのような当業者の使用できる手法を用いて精製してよい。
【0075】
スキーム3の工程4は化合物16を工程3において前記した水素化に付すことにより行うことができる。最も好ましくは、反応時間の延長、水素加圧または触媒の選択によりワンポットで化合物17を形成するように工程3および工程4の両方を行うことができる(即ち化合物16の単離を行うことなく変換を1回の変換を行う)。
スキーム3の工程5においては、化合物17のアミン部分を保護する。第一級アミンの保護のための典型的な保護基はベンジルカルバメート(CBZ)であるが他の保護基も用いてよい。このような保護基の結合および除去はTherodora W.Greene,Protective Groups in Organic Synthesis Wiley−Interscience:New York,1981(およびその後の版)に記載されている。典型的には、化合物17のようなアミンをベンジルクロロホルメートおよびNa2CO3のような水性塩基と混合し、CBZ保護化合物18とする。その後CBZ基は、水素化、水素化による転移触媒、またはGreeneの開示した他の方法により脱離させることができる。
【0076】
スキーム3の工程6においては、化合物18においてラクトン環を開環し、エステル19とする。典型的には、基質エステル/ラクトンをメタノールまたはエタノールのようなアルコールに溶解し、室温で、または、必要に応じて穏やかに加熱しながら触媒量の酸で処理する。
【0077】
スキーム3の工程7においては、化合物19のアルコール部分をトシレート、メシレート、トリフレート等のような脱離基に変換し、次にこれをアセトン中でNaBrまたはNaIで処理することにより臭化物またはヨウ化物20に変換する。典型的には、化合物19のようなアルコールをメシレートに変換するためには、アルコールを塩化メチレンのような溶媒に溶解する。得られた混合物を天啓的にはアイスバスまたは冷却装置を用いて冷却する。次に塩化メシルおよびトリエチルアミンのようなアミン塩基を混合物に添加する。混合物は典型的には室温まで戻し、次に当業者のよく知る操作法に従って後処理する。
メシレートを臭化物またはヨウ化物20に変換するためには、メシレートを穏やかに加熱しながらアセトン中NaBrまたはNaIで処理する。
【0078】
スキーム3の工程8においては、臭化物またはヨウ化物20をトリブチルスズ水素化物およびアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いて還元し、エステル21とする。トリブチルスズ水素化物の還元反応は、特にハライドに関する水素のラジカル媒介の置き換えに関して、当業者にはよく知られている。Neumann,W.Synthesis
1987,664−683およびその引用文献を参照できる。
【0079】
スキーム3の工程9において、エステル21を加水分解して酸22とする。エステルの酸触媒加水分解もよく知られた変換であり、典型的には触媒量の酸および水性アルコール溶媒系の使用を必要とする。酸触媒および必要とされるエステルの混合物を、生成物への原料の最大変換が可能となるのに十分な時間、水性アルコール溶媒系で加熱する。
【0080】
スキーム3の工程10においては、化合物中のCBZ基を脱離して式IIAの化合物と
する。工程5に示したとおり、CBZ基は水素化、転移触媒水素化、またはGreeneの開示した他の方法により容易に脱離される。
【0081】
2.式IIIの化合物の合成
式IIIのβ−アミノ酸への経路はスキーム4に総括するとおりであり、化合物19から出発する(スキーム3と比較)。即ち、当業者の使用可能な方法を用いてアルコール19を酸化してケトン23とする。化合物23のケトン部分のオレフィン化は塩基およびWittig試薬またはWittig試薬等価物、例えばホスホネートカルバニオンとの反応により容易に行うことができ、これにより化合物24が得られる。化合物24を水素化することによりCBZ保護基の脱離および二重結合の還元が起こり、化合物25が得られる。エステル25の酸媒介加水分解により式IIIAの化合物が得られる。
【0082】
【化43】

【0083】
スキーム4の工程1においては、化合物19のアルコール部分を酸化してケトン部分とすることにより化合物23が得られる。前述の通り、第二級アルコールからのケトンの形成は有機合成において一般的に使用されている反応である。化学量論的な酸化剤、例えば次亜塩素酸塩、クロム試薬(PCCおよびPDC)、活性酸化マンガン、過マンガン酸塩、Dess−Martinパーヨージネート、o−ヨードキシ安息香酸(IBX)および活性化DMSOがSwern酸化の場合と同様、日常的に使用される。多くのより新しい酸化方法もまた使用される。これらの方法のいずれかについては、Takashi Ooi,Hidehito Otsuka,Tomoya Miura,Hayato Ichikawa and Keiji Maruoka,Org.Lett.4(16),2669−2672,2002を参照されたい。
【0084】
スキーム4の工程2においては、化合物23のケトン部分は下記式:
【化44】

(式中XはCl、BrまたはIである)の物質または下記式:
【化45】

の物質を用いて塩基の存在下にオレフィン化を起こして化合物24を形成する。Wittigオレフィン化反応はよく知られており、当該分野で一般的に使用されている。Francis A.Carey&Richard J.Sundberg,Advanced
Organic Chemistry,Part B New York:Plenum 4th Edition,2001およびその引用文献を参照されたい。
【0085】
スキーム4の工程3においては、化合物24をスキーム3の工程10と同様に水素化し、化合物25を得る。
スキーム4の工程4においては、化合物25をスキーム3の工程9と同様に加水分解し、式IIIAの化合物を得る。
【0086】
B.γ−アミノ酸
プレガバリン(S−3−アミノメチル−5−メチル−ヘキサン酸)のようなガンマ−アミノ酸は国際公開公報第93/23383号並びに米国特許第6,306,910号および国際公開公報第00/76958号に開示されている通り、一連の有用な医薬特性を示し、これらの特許文献のうちの後者2件は本出願と同じ譲受人に譲渡されている。
【0087】
スキーム5は化合物14から出発する式IVのγ−アミノ酸への経路を示す。即ち、化合物14への有機クプラート試薬R44'CMの共役付加、その後のハライド除去により置換フラノン26が形成される。化合物26の水素化により化合物27が得られる。化合物27の酸触媒開環によりγ−ヒドロキシエステル28が得られる。化合物18のアルコール部分の酸化によりケトン29が得られる。ケトン29は例えば還元的アミノ化を経るか、または、オキシムまたはイミンへの変換とその後の選択的還元により、アミン30に変換できる。最終的に、化合物30はエステル加水分解により化合物IVAに変換される。
【0088】
【化46】

【0089】
スキーム5の工程1において、化合物14へのR44'CMの共役付加、その後のハライド除去により、化合物26が得られる。有機銅化学を使用した典型的な操作法においては、有機クプレートを市販のグリニャール試薬(例えばアルキル−、アリール−またはアルキルマグネシウムブロミド)およびヨウ化銅からN−メチルピロリジノン(NMP)の存在下に系中で発生させる。必要なグリニャール試薬が市販されていない場合は、当業者の使用可能な多くの方法の1つを用いて相当する有機ハライド化合物から容易に製造できる。次にフラノンを有機クプレート試薬に5〜10分かけて−10℃〜0℃で添加し、得られた混合物を室温に戻し、次に後処理する。
【0090】
スキーム3の工程2においては、スキーム3の工程10において記載したとおり化合物26を水素化に付すことにより化合物27が得られる。
スキーム3の工程3においては、化合物27のラクトン環を開環してγ−ヒドロキシエステル28を得る。
スキーム3の工程4においては、スキーム4の工程1において記載したとおり化合物28のアルコール部分を酸化することによりケトン部分とし、化合物29を得る。
【0091】
スキーム3の工程5においては、化合物29のケトン部分を(i)還元的アミノ化;(ii)オキシムへの変換、その後の還元;または(iii)イミンへの変換、その後の還元、を介して化合物30の第一級アミノ部分に変換する。
【0092】
ケトンとするための還元的アミノ化のための種々の条件および試薬は当業者が使用できるものであり、Abdel−Magid,et al.,J.Org.Chem.,1996,61,3849−3862に記載されている。ナトリウムトリアセトキシボロハイドライドは還元剤として一般的に使用されている。アミンは典型的にはベンジルアミンのような第一級アミンである。典型的には、反応が終了するまで一般的には室温でクロロホルムのような溶媒中のケトンおよびベンジルアミン(1.1等量)の混合物にゆっくり過剰量のナトリウムトリアセトキシボロハイドライドを添加してベンジル保護アミンとする。ベンジル基は水素化により容易に除去され、化合物30が得られる。
【0093】
代替となる還元的アミノ化の操作法も使用される。例えば、Kitamura等はCp*Rh(III)およびギ酸アンモニウムを用いた触媒Leuckart Wallach
型の還元的アミノ化を開示している。Kitamura,M et al.,J.Org
.Chem.,2002,67,8685−8687。この方法の利点は直接第一級アミ
ン30が得られる点である。
【0094】
ケトン29はまたオキシムに変換でき、これは、還元によりアミン30となる。オキシムの形成および立体選択的および非立体選択的な還元は例えばCampos,K.et al.,J.Org.Chem,2002,67,8685−8687およびその引用文
献に記載されている。或は、ケトン23をイミンに変換し、次に立体選択的および非立体選択的に還元して必要なアミンを得る。変換のための操作法は例えばKobayashi,S.;Chem.Rev.1999,99,1069−1094およびその引用文献に記載されている。
【0095】
スキーム5の工程6においては、スキーム3の工程9において記載したとおり化合物30を加水分解に付すことにより式IVAの化合物が得られる。
【0096】
C.他の生物活性標的化合物
本発明者等は上記のスキーム1において示したとおり多くのその他の生物活性化合物の合成のための安価で好都合な原料としてムコハロ酸を記載した。これらには、海綿動物pachastrissa spaから単離される抗菌性の代謝産物、ラクトンx、生物活性海洋性天然産物パリヌリン(palinurin)およびパリヌリン(palinurine)AおよびB、海綿Sarocotragus由来の新規な細胞毒性セスタテルペン、または、菌代謝産物インクラストスポリン(incrustosporine)に基づく抗菌性化合物が特に包含される。ムコハロ酸を経由して得られる他の合成標的はセクリニン(Securinine)、オキノネリン(okinonellin)B、(+)−アスピシリン(aspicillin)、(−)ロセラル酸(roccellaric
acid)および(11R,12S)−オキシドアラキドン酸を包含する。
【0097】
スキーム6は置換γ−ブチロラクトン34を経由したロセラル酸(Org.Letters,2001,1315−1318参照)の製造経路を示す。即ち、ムコハロ酸1を本明細書に記載したとおりアリル化合物14に変換する。シアニドの化合物31への1,4付加によりシアノハロラクトン32が得られる。化合物32のシアノ部分のDIBAL還元によりアルデヒド33が形成される。化合物33におけるアルデヒドの保護、その後の環二重結合の選択的水素化により置換されたγ−ブチロラクトン34が得られる。
【0098】
【化47】

【0099】
生物活性化合物の製造における本発明の方法の利用の別の説明においては、抗カビ剤イヌクラストスポリン39に至る二重の経路をスキーム7に示す。即ち、ムコハロ酸は本明細書に記載するとおり化合物14に容易に変換できる。化合物14へのアリールカップリングを当業者の知る操作法で行い、位置異性体35および36の混合物としてアリール化化合物を得ることができる。化合物35における環二重結合の水素化により標的化合物39が得られる。或は、アリール化はアリル化の前に行ってよい。即ち、ムコハロ酸へのアリール基のカップリングを当業者の知る操作法で行うことにより位置異性体37および38の混合物としてアリール化化合物を得ることができる。次にアリル化を本明細書に記載の操作法に従って行い、得られたアリル化化合物35および36を上記したとおり標的化合物39に変換できる。
【0100】
【化48】

【0101】
本発明者等は更に、スキーム8に示すとおり他の複合体分子のための構成単位としてムコハロ酸を検討した。4−デカノリドA、ガンマ−ドデカノラクトンB(果実フレーバー成分、γ−ラウロラクトンとしても知られている)およびウイスキーラクトンCのような飽和ブチロラクトンはフレーバーおよび芳香剤中に広範に存在している。ムコハロ酸から記載するとおり製造した化合物40または42の水素化を経由する飽和γ−ブチロラクトンの製造について検討した。THF中の20%Pd/CおよびEt3Nを使用した場合、生成物41および43は優れた収率で単離された。即ちClおよびBr原子の両方が化合物36または37の水素化により容易に除去される。
【0102】
【化48】

【0103】
以下の実施例は本発明の種々の実施態様を説明するためのものであり、その範囲を制限する意図はない。
【実施例1】
【0104】
一般的操作法A
アリルブロミドとのムコクロル酸の反応
THF/水(1:1)30ml中のムコクロル酸(1.7g、10ミリモル、1.0当量)、アリルブロミド(1.5g、12ミリモル、1.2当量)、インジウム(1.4g、12ミリモル、1.2当量)および塩化アンモニウム(53mg、1ミリモル、0.1当量)の混合物を16時間室温で攪拌した。次に1NHClで反応混合物をクエンチングし、酢酸エチル(3x100ml)で抽出した。有機層を単離し、減圧下に濃縮し、粗製の油状物として生成物10aを得た。酢酸エチル/ヘプタン(1:9)を溶離剤とするシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、良好な元素分析結果および正確なMSを有するアリル化生成物を油状物(1.7g、90%)として得た。
【実施例2】
【0105】
アリルブロミドとのムコブロム酸の反応。一般的操作法Aと同様にして、良好な元素分析結果および正確なMSを有するアリル化生成物を油状物(1.95g)として70%収
率で得た。
【実施例3】
【0106】
アリルブロミドとのムコブロム酸の反応。溶媒として1:1メタノール/水を使用した以外は一般的操作法Aと同様にして、良好な元素分析結果および正確なMSを有するアリル化生成物を油状物(2.4g)として86%収率で得た。
【実施例4】
【0107】
シンナミルブロミドとのムコクロル酸の反応。一般的操作法Aと同様にして、良好な元素分析結果および正確なMSを有するアリル化生成物を混合物(1.25g)として46
%収率で得た(表2参照)。
【実施例5】
【0108】
メチル−(2−ブロモメチル)アクリレートとのムコクロル酸の反応。一般的操作法Aと同様にして、良好な元素分析結果および正確なMSを有するアリル化生成物を油状物(1.9g)として76%収率で得た。
【実施例6】
【0109】
メチル−(2−ブロモメチル)アクリレートとのムコブロム酸の反応。一般的操作法Aと同様にして、良好な元素分析結果および正確なMSを有するアリル化生成物を油状物(2.5g)として74%収率で得た。
【実施例7】
【0110】
プロパルギルブロミドとのムコブロム酸の反応。一般的操作法Aと同様にして、良好な元素分析結果および正確なMSを有する生成物をアレニルおよびプロパルギル化生成物の混合物(約1:1))として36%収率で得た(表2参照)。
【実施例8】
【0111】
一般的操作法:ムコハロ酸とアリルブロミドのスズ媒介反応
ムコクロル酸使用。THF/水(1:1v/v)30ml中のムコクロル酸(1.7g、10ミリモル、1当量)とアリルブロミド(1.5g、1.1ml、12ミリモル、1.2当量)およびスズ(1.4g、12ミリモル、1.2当量)、塩化アンモニウム(53mg、1.0ミリモル、0.1当量)の混合物を0℃で攪拌した。混合物を24時間かけて室温に戻した。1N塩化アンモニウム水溶液で反応をクエンチングし、0℃で酢酸エチルで抽出した。有機抽出液を減圧下に濃縮し、得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーで精製し、アリル化生成物を得た。84%収率。
ムコブロム酸使用。同様の化学量論的な量で上記した操作法を用いてアリル化生成物を得た。75%収率。
【実施例9】
【0112】
3,4−ジクロロ−5−(1−フェニル−アリル)−5H−フラン−2−オンの水素化
3,4−ジクロロ−5−(1−フェニル−アリル)−5H−フラン−2−オン(1.1g、4.1ミリモル、1.0当量)、20%Pd(OH)2/C(0.2g)およびトリエチルアミン(1.1g、10.3ミリモル、2.5当量)をテトラヒドロフラン20ml中で合わせた。混合物を16時間40psiで水素化した。パラジウム触媒を濾去し、残存する混合物を真空下に濃縮し、油状物として粗生成物を得た。物質をカラムクロマトグラフィーで精製し、無色の油状物として生成物を得た。83%収率。MS(AP+)205.1(M+)。
2−[(3,4−ジクロロ−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−フラン−2−イル)フェニル−メチル]−アクリル酸エチルエステルの水素化
上記した方法を用いて水素化されたカルボエトキシ生成物Yを得ることができる。
【実施例10】
【0113】
5−アリル−3,4−ジブロモ−5H−フラン−2−オン(10b)へのベンジルアミン
の共役付加
NMP(10ml)中の5−アリル−3,4−ジブロモ−5H−フラン−2−オン(10b)(1.40g、5ミリモル、1当量)およびベンジルアミン0.5g、1.1ml、15ミリモル)の溶液を3時間室温で攪拌した。反応混合物を塩化アンモニウム飽和水溶液でクエンチングし、酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を塩水で洗浄し、乾燥し、濃縮して粗製の共役付加物11bを得た。4:1ヘキサン:酢酸エチルを用いた再結晶により精製し、固体として共役付加物11b 0.8g(52%収率)を得た。MS(AP+)308.0。
【0114】
全ての刊行物、特許および出願明細書はそれらの個々が参照により本明細書に組み込まれる。本発明は種々の特定の好ましい実施態様および手法に言及しながら記載した。しかしながら、多くの変化および変更を行ってよいが、それらはなお本発明の精神内および範囲内のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式I:
【化1】

[式中、XはClまたはBrであり;
1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)であり、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]の官能基保有ブチロラクトンの製造方法であって、該方法は、下記工程:
(a)Xが上記の通り定義される下記式1:
【化2】

のムコハロ酸1を、YがCl、BrまたはIである下記式2:
【化3】

(式中、R1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、「−−−」は上記の通り定義される)のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と溶媒中で接触させて下記式I:
【化4】

の化合物を形成すること、
を含む上記方法。
【請求項2】
ムコハロ酸1がムコクロル酸またはムコブロム酸であり、金属がインジウムまたはスズである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
「−−−」がハライド2において存在せず、そして、R1、R2およびR3の少なくとも1つがHであり、そしてR1、R2およびR3の残余が各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ハライド2において、R1がHであり、R2およびR3の一方はHであるが、R2およびR3の他方はハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ハライド2において、R1がアリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイルまたは(C1−C6アルキル)であり、そしてR2およびR3の少なくとも1つがHである、請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において、工程(a)の反応温度が約20〜約30℃であり、工程(a)の反応圧力が約0.9〜約1.1気圧であり、工程(a)の反応時間が約14〜約20時間であり、そしてムコハロ酸、アリルハライドまたはプロパルギルハライド、インジウムおよび塩化アンモニウムのモル当量が、
ムコハロ酸1の化合物約1当量;
ハライド2約1.2当量;
インジウム約1.2当量;および、
塩化アンモニウム約0.1〜約0.2当量
である請求項1記載の方法。
【請求項7】
溶媒が、メタノール、テトラヒドロフラン、DMPUまたは室温イオン性液体(RTIL)、即ち[bmim][BF4]、[bmim][PF6]、[bmim][Tf2N]、ここでbmimは1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムであり、そしてTfはCF3SO2であるものから選択される、水の存在下または非存在下の極性プロトン性、または、極性非プロトン性の溶媒から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
溶媒中の工程(a)の溶媒中のムコハロ酸1の濃度が約0.3モル〜約0.5モルである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
下記式II:
【化5】

[式中、R1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)である]の化合物の製造方法であって、該方法は下記工程:
(a)ムコハロ酸を下記式2:
【化6】

[式中、YがCl、BrまたはIであり、
1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と、溶媒中、十分な反応温度、圧力、時間および濃度において接触させて下記式I:
【化7】

のγ−ブチロラクトンを得ること;
(b)化合物IをRaがベンジルまたはメチルベンジルであるアミンRaNH2と塩基の存在下に反応させて下記式3:
【化8】

の物質3を形成すること;
(c)化合物3を水素化してまず下記式4:
【化9】

の化合物4とし、その後、上記化合物5を形成すること;
(d)化合物5をベンジルクロロホルメートと塩基の存在下に反応させてCBZ保護アミンとし、その後R’が(C1−C6アルキル)である水性アルコールR’OHおよび触媒酸中において酸触媒加水分解を行うことにより下記式6:
【化10】

の化合物6を形成すること;
(e)化合物6をメシルクロリドと塩基の存在下に反応させ、その後NaBrまたはNaIで処理し、その後水素化n−ブチルスズで還元して下記式7:
【化11】

の化合物7を形成すること;
(f)CBZ基を除去し、そして、化合物7におけるエステルを酸性条件下に加水分解して下記式II:
【化12】

の化合物を得ること
を包含する上記方法。
【請求項10】
下記式III:
【化13】

[式中、R1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)であり、そしてR4およびR5は各々独立してH、アリール、ヘテロアリールまたは(C1−C6アルキル)である]の化合物の製造方法であって、該方法は下記工程:
(a)ムコハロ酸を下記式2:
【化14】

[式中、YがCl、BrまたはIであり、
1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と、溶媒中、十分な反応温度、圧力、時間および濃度において接触させて下記式I:
【化15】

のγ−ブチロラクトンを得ること;
(b)化合物IをRaがベンジルまたはメチルベンジルであるアミンRaNH2と塩基の存在下に反応させて下記式3:
【化16】

の物質3を形成すること;
(c)化合物3を水素化してまず下記式4:
【化17】

の化合物4とし、その後、上記化合物5を形成すること;
(d)化合物6をベンジルクロロホルメートと塩基の存在下に反応させてCBZ保護アミンとし、その後メタノール中において酸触媒加水分解を行うことにより下記式7:
【化18】

の化合物7を形成すること;
(e)化合物7におけるアルコール部分を酸化して下記式8:
【化19】

の化合物8を得ること;
(f)化合物8のケトン部分を塩基および下記式:
【化20】

(式中XはCl、BrまたはIである)の物質または下記式:
【化21】

(式中R4およびR5は上記の通り定義される)の物質を用いてオレフィン化することにより下記式9の化合物9:
【化22】

を得ること;
(g)化合物9を水素化して下記式III:
【化23】

の化合物を得ること
を包含する上記方法。
【請求項11】
下記式IV:
【化24】

[式中、R1、R2およびR3は各々独立してH、ハロ、アリール、(C1−C6)アルコキシカルボニル、(C1−C6)アルカノイル、(C1−C6アルキル)、ハロ(C1−C6アルキル)、ヘテロアリール(C1−C6)アルキルまたはアリール(C1−C6アルキル)であり、そしてR4およびR4'は各々独立してH、アリール、ヘテロアリールまたは(C1−C6アルキル)である]の化合物の製造方法であって、該方法は下記工程:
(a)ムコハロ酸を下記式2:
【化25】

[式中、YがCl、BrまたはIであり、
1、R2およびR3は上記の通り定義され、そして、
「−−−」は結合または存在せず、ただし「−−−」が結合である場合は、R1およびR2は存在しない]のハライド2;
インジウム、スズまたは亜鉛から選択される金属;および、
塩化アンモニウム触媒量と、溶媒中、十分な反応温度、圧力、時間および濃度において接触させて下記式I:
【化26】

のγ−ブチロラクトンを得ること;
(b)R4およびR4'が上記の通り定義され、M0がMgBr、CuBrまたはB(OH)2であるR44'CM0を物質Iに添加して下記式10:
【化27】

の物質を得ること;
(c)化合物10を水素化して下記式11の化合物11:
【化28】

を形成すること;
(d)化合物11をR’が(C1−C6アルキル)である水性アルコールR’OHおよび触媒酸中において加水分解を行うことにより下記式12:
【化29】

の化合物12を形成すること;
(e)化合物12におけるアルコール部分を酸化して下記式13:
【化30】

の化合物13を得ること;
(f)化合物13のケトン部分を第一級アミノ部分に変換し、その後加水分解して下記式IV:
【化31】

の化合物を得ること
を包含する上記方法。
【請求項12】
下記式5:
【化32】

(式中、X、R1、R2、R3およびR4は請求項9において上記の通り定義したものである)で表わされる化合物。
【請求項13】
下記式6:
【化33】

(式中、X、R1、R2、R3およびR4は請求項9において上記の通り定義したものである)で表わされる化合物。
【請求項14】
下記式7:
【化34】

(式中、R1、R2、R3およびR4は請求項9において上記の通り定義したものである)で表わされる化合物。
【請求項15】
下記式11:
【化35】

(式中、R1、R2、R3、R4およびR4'は請求項12において上記の通り定義したものである)で表わされる化合物。

【公表番号】特表2006−505529(P2006−505529A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−532402(P2004−532402)
【出願日】平成15年8月18日(2003.8.18)
【国際出願番号】PCT/IB2003/003691
【国際公開番号】WO2004/020424
【国際公開日】平成16年3月11日(2004.3.11)
【出願人】(391011308)ワーナー−ランバート・カンパニー、リミテッド、ライアビリティ、カンパニー (37)
【氏名又は名称原語表記】WARNER−LAMBERT COMPANYLLC
【Fターム(参考)】