説明

メイタンシノイドと細胞結合剤との細胞傷害性コンジュゲート

【課題】本発明は、標的細胞に特異的に送達される細胞傷害性の治療剤として有用である、メイタンシノイドと細胞結合剤(cell binding agent)との細胞傷害性コンジュゲートを提供することを目的とする。
【解決手段】次式:メイタンシノイド-S-S-CR1R2-(CH2)n-CO2-X〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、H、または、線状もしくは分枝状のアルキルであり、nは1〜5であり、かつXは、活性エステルの一部分である。〕で表される、反応性メイタンシノイド誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メイタンシノイドと細胞結合剤(cell binding agent)とを含む細胞傷害性コンジュゲートを調製するための改良された方法に関する。このコンジュゲートは、特定の細胞集団に標的化されて送達されるので、治療目的に使用される。本発明はまた、反応性基をもつジスルフィド部分を有し細胞傷害性コンジュゲートの調製に使用しうるメイタンシノイドを調製する方法に関する。本発明はさらに、新規なメイタンシノイドに関する。
【背景技術】
【0002】
モノクロナール抗体-薬物コンジュゲートを用いる腫瘍細胞への特異的ターゲッティングの試みに関して多くの報告がなされている(Sela et al. in Immunoconjugates 189-216 (C. Vogel, ed. 1987); Ghose et al, in Targeted Drugs 1-22 (E. Goldberg, ed. 1983); Diener et al, in Antibody Mediated Delivery Systems 1-23 (J. Rodwell, ed. 1988); Pietersz et al, in Antibody Mediated Delivery Systems 25-53 (J. Rodwell, ed. 1988); Bumol et al, in Antibody Mediated Delivery Systems 55-79 (J. Rodwell, ed. 1988)。メトトレキセート、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、メルファラン、マイトマイシンC、およびクロラムブシルのような細胞傷害性薬物が、さまざまなマウスモノクロナール抗体にコンジュゲートされた。場合により、薬物分子は、血清アルブミン(Garnett et al. Cancer Res. 46:2407-2412 (1986); Ohkawa et al. Cancer Immumol. Immunother. 23:81-86 (1986); Endo et al. Cancer Res. 47:1076-1080 (1980))、デキストラン(Hurwitz et al. Appl. Biochem. 2:25-35 (1980); Manabi et al. Biochem. Pharmacol. 34:289-291 (1985); Dillman et al. Cancer Res. 46:4886-4891 (1986); Shoval et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 8276-8280 (1988))、またはポリグルタミン酸(Tsukada et al. J. Natl. Canc. Inst. 73:721-729 (1984); Kato et al. J. Med. Chem. 27:1602-1607 (1984); Tsukada et al. Br. J. Cancer 52:111-116 (1985))のような介在担体分子を介して抗体分子に連結された。
【0003】
そのような免疫コンジュゲートを調製するために広範にわたる一連のリンカー技術が利用され、開裂性リンカーおよび非開裂性リンカーの両方が研究されてきた。しかしながら、ほとんどの場合、標的部位でコンジュゲートから薬物分子を非修飾形態で放出させることができたときに薬物の十分な細胞傷害能を観測することができるにすぎない。
【0004】
抗体-薬物コンジュゲートを調製するために利用されてきた開裂性リンカーの1つは、受容体媒介エンドサイトーシス中に見られるエンドソームおよびリソソームのようなさまざまな細胞内区画の酸性環境を利用する酸に不安定なリンカーであり、シス-アコニット酸をベースにしたものである。ShenおよびRyserは、ダウノルビシンと巨大分子担体とのコンジュゲートを調製するためにこの方法を導入した(Biochem. Biophys. Res. Commun. 102:1048-1054 (1981))。YangおよびReisfeldは、ダウノルビシンを抗黒色腫抗体にコンジュゲートするために同一の技法を使用した(J. Natl. Canc. Inst. 80:1154-1159 (1988))。最近、Dillmanらも、ダウノルビシンと抗T細胞抗体とのコンジュゲートを調製するために同じように酸に不安定なリンカーを使用した(Cancer Res. 48:6097-6102 (1988))。
【0005】
Trouetらにより探究された別の手法では、ペプチドスペーサーアームを介してダウノルビシンを抗体に連結させることが必要であった(Proc. Natl. Acad. Sci. 79:626-629 (1982))。これは、リソソームペプチダーゼの作用によりそのようなコンジュゲートから遊離薬物を放出させることができることを前提条件として行われた。
【0006】
しかしながら、抗体-薬物コンジュゲートはコンジュゲートされていない遊離薬物と同一の細胞傷害能を示すことはほとんどないことがin vitro細胞傷害性試験により明らかにされている。このことから、薬物分子を抗体から放出させる機構が非常に非効率的であることが示唆された。免疫毒素の分野において、モノクロナール抗体と触媒活性タンパク質毒素とをジスルフィド架橋することにより形成されたコンジュゲートは、他のリンカーを含有するコンジュゲートよりも細胞傷害性が大きいことが示された。Lambert et al. J. Biol. Chem. 260:12035-12041 (1985); Lambert et al. in Immunotoxins 175-209 (A. Frankel, ed. 1988); Ghetie et al. Cancer Res. 48:2610-2617 (1988)を参照されたい。これは、抗体分子と毒素との間のジスルフィド結合の効率的開裂に寄与するグルタチオンの細胞内濃度が高いことに起因するものであった。それにもかかわらず、薬物と巨大分子とのコンジュゲートを調製するためにジスルフィド架橋を使用する報告例はごく少数にすぎない。Shenらは、メトトレキセートからメルカプトエチルアミド誘導体への変換それに続くジスルフィド結合を介するポリ-D-リシンとのコンジュゲーションについて記載した(J. Biol. Chem. 260:10905-10908 (1985))。このほか、トリスルフィド含有毒性薬物カリケアマイシンと抗体とのコンジュゲートの調製について記載した報告もある(Menendez et al. Fourth International Conference on Monoclonal Antibody Immunoconjugates for Cancer, San Diego, Abstract 81 (1989))。トリスルフィド含有毒性薬物カリケアマイシンと抗体とのコンジュゲートの調製について記載した報告は他にもある(Hinman et al, 53 Cancer Res. 3336-3342 (1993))。
【0007】
ジスルフィドで連結された抗体-薬物コンジュゲートが少ない理由の1つは、ジスルフィド架橋を介して薬物を抗体に連結させるために容易に使用することのできる硫黄原子含有部分をもつ細胞傷害性薬物が入手できないことにある。さらに、既存の薬物の化学修飾をその細胞傷害能を低減させることなく行うのは困難である。
【0008】
既存の抗体-薬物コンジュゲートの他の大きな欠点は、標的化された抗原の数が限られているため、またメトトレキセート、ダウノルビシンおよびビンクリスチンのような癌増殖抑制剤(cancerostatic drug)の細胞傷害性が比較的緩和であるため、標的部位に十分な濃度の薬物を送達することができない点である。有意な細胞傷害性を達成するために、多数の薬物分子を抗体に直接または担体高分子を介して連結させることが必要になる。しかしながら、そのような高度に修飾された抗体は、しばしば、標的抗原に対する結合性の低下および血流からの急速なin vivoクリアランスを呈する。
【0009】
メイタンシノイドは細胞傷害性の高い薬物である。メイタンシンは、東アフリカの低木Maytenus serrataからKupchanらにより最初に単離され、メトトレキセート、ダウノルビシンおよびビンクリスチンのような従来の癌化学療法剤の100〜1000倍の細胞傷害性であることが示された(米国特許第3,896,111号)。続いて、微生物の中にもメイタンシノールおよびメイタンシノールのC-3エステルのようなメイタンシノイドを産生するものがあることが見いだされた(米国特許第4,151,042号)。合成されたメイタンシノールのC-3エステルおよびメイタンシノールの類似体も報告されている(Kupchan et al. J. Med. Chem. 21:31-37 (1978); Higashide et al. Nature 270:721-722 (1977); Kawai et al. Chem. Pharm. Bull. 32:3441-3451 (1984)。C-3エステルの調製に用いられてきたメイタンシノール類似体としては、たとえば、芳香環上(たとえば、デクロロ)またはC-9、C-14(たとえば、ヒドロキシル化メチル基)、C-15、C-18、C-20およびC-4,5位で修飾されたメイタンシノールが挙げられる。
【0010】
天然に存在するC-3エステルおよび合成のC-3エステルは、つぎの2つのグループに分類することができる。
(a) 単純なカルボン酸とのC-3エステル(米国特許第4,248,870号; 同第4,265,814号; 同第4,308,268号; 同第4,308,269号; 同第4,309,428号; 同第4,317,821号; 同第4,322,348号;および同第4,331,598号)、および
(b) N-メチル-L-アラニンの誘導体とのC-3エステル(米国特許第4,137,230号; 同第4,260,608号; 同第5,208,020号; およびChem. Pharm. Bull. 12:3441 (1984))。
【0011】
グループ(b)のエステルはグループ(a)のエステルよりも細胞傷害性がかなり高いことが判明した。
【0012】
メイタンシンは有糸分裂阻害剤である。in vivoでL1210細胞をメイタンシンで処理すると細胞の67%が有糸分裂状態で集積されるとの報告がなされている。未処理の対照細胞は3.2〜5.8%の範囲の分裂指数を示すことが報告された(Sieber et al. 43 Comparative Leukemia Research 1975, Bibl. Haemat. 495-500 (1976))。メイタンシンは微小管タンパク質チューブリンの重合を阻害して微小管の形成を妨害し、これにより有糸分裂を阻害することが、ウニの卵およびクラムの卵を用いた実験から示唆されている(Remillard et al. Science 189:1002-1005 (1975))。
【0013】
in vitroにおいて、P388、L1210、およびLY5178マウス白血病細胞懸濁液は、10-3〜10-1μg/μlの用量のメイタンシンにより阻害され、最も感受性が高いのはP388系統であるがことが見いだされている。メイタンシンはまた、ヒト鼻咽腔癌細胞のin vitro増殖の活性阻害剤であることが示され、10-7mg/ml程度の低濃度でヒト急性リンパ芽球性白血病系CEMが阻害されるとの報告がなされた(Wolpert-DeFillippes et al. Biochem. Pharmacol. 24:1735-1738 (1975))。
【0014】
in vivoにおいても、メイタンシンは活性であることが示された。P388リンパ性白血病系での腫瘍増殖は50〜100倍の用量範囲にわたり阻害されることが示され、高い治療指数であることが示唆された。同様に、L1210マウス白血病系、ヒトルイス肺癌系およびヒトB-16黒色癌系でも、有意な阻害活性を示す可能性がある(Kupchan, Ped. Proc. 33:2288-2295 (1974))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,208,020号
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Carlsson et al. Biochem. J. 173:723-737 (1978)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
メイタンシノイドと細胞結合剤(抗体など)とをコンジュゲートさせる現在の方法は、2つの反応ステップを必要とする。最初に、抗体などの細胞結合剤をピリジルジチオプロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)のような架橋試薬で修飾して抗体中にジチオピリジル基を導入する(Carlsson et al. Biochem. J. 173:723-737 (1978); 米国特許第5,208,020号)。第2のステップで、チオール基を有するDM1のような反応性メイタンシノイドを修飾された抗体に添加することにより、修飾された抗体中のチオピリジル基を置換してジスルフィドで連結された細胞傷害性メイタンシノイド/抗体コンジュゲートを生成させる(米国特許第5,208,020号)。
【0018】
メイタンシノイドと抗体とをコンジュゲートさせる現在の方法には、抗体を2つの反応ステップに付すという欠点があり、したがって、SPDPやメイタンシノイドのようなコンジュゲートされていない小さい有機分子からタンパク質を分離するためにゲル濾過を行う2回のタンパク質精製ステップが必要になる。このため、この方法では費用と時間がかかるうえに生成物収率が低くなる。
【0019】
したがって、反応ステップ数が低減され、それに伴って時間と費用が削減され、しかも収率が増大された、メイタンシノイドと細胞結合剤とをコンジュゲートさせる方法が非常に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の1実施形態では、メイタンシノイドと細胞結合剤との細胞傷害性コンジュゲートを製造するワンステップ法を開示する。反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドを、細胞結合剤の事前の修飾を行うことなく、抗体のような細胞結合剤に連結させる。このコンジュゲーション法を用いると、感受性の高い抗体蛋白質分子に対する反応時間および処理時間が最小限に抑えられるとともに、タンパク質精製ステップも最小限に抑えられるので、全収率が改良される。このコンジュゲートは、標的細胞に特異的に送達される細胞傷害性の治療剤として有用である。
【0021】
第2の実施形態では、本発明により、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドを合成する新規な方法を開示する。メイタンシノイドは、低pH(pH5以下)または高pH(pH8以上)の水性条件に感受性がありかつ水溶液への溶解性が低い有機分子である。本発明で開示されている新規な方法は、有機溶媒中または水性溶媒と有機溶媒との混合物中でメイタンシノイドから反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドに変換することにより、これらの問題を克服する。得られた反応性メイタンシノイド誘導体は、水溶液への溶解性がより良好であり、温和な条件下(pH6〜8)、水性緩衝液中、単一反応ステップで細胞結合剤にコンジュゲートさせることができる。このほかの利点は、この方法で生じたすべてのメイタンシノイド中間体を、コンジュゲートさせる前に十分に分析することができる点である。反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる以下に示す化合物2および3aのような好適なメイタンシノイドの合成については以下で説明する。
【0022】
本発明の第3の実施形態では、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる化合物2および3aのようなメイタンシノイドの製造に使用しうる化合物6および10のような他のメイタンシノイド誘導体の製造方法を開示する。
【0023】
第4の実施形態では、いくつかの新しいメイタンシノイド、すなわち、化合物2、3a、6および10を提示する。それらの用途としては、新規な細胞傷害性コンジュゲートの製造が挙げられる。
【0024】
本発明は具体的には以下の発明を包含する。
(1) 1個以上のメイタンシノイド分子と細胞結合剤とを含む細胞傷害性コンジュゲートを製造する方法であって、反応性エステルを含有する1個以上のメイタンシノイド分子を細胞結合剤と反応させる単一のステップから本質的になる、上記方法。
【0025】
(2) 1個以上のメイタンシノイド分子と細胞結合剤とを含む細胞傷害性コンジュゲートを製造する方法であって、反応性エステルを含有する1個以上のメイタンシノイド分子を細胞結合剤と反応させる単一のステップから本質的になり、該細胞結合剤が、1個以上のメイタンシノイド分子とのコンジュゲーションに使用するための反応性基をもたせる事前の修飾が施されていない細胞結合剤である、上記方法。
【0026】
(3) 前記コンジュゲートを単離する第2のステップをさらに含む、(1)または(2)に記載の方法。
【0027】
(4) 前記反応性エステルが連結部分を介して前記1個以上のメイタンシノイド分子に連結されている、(1)または(2)に記載の方法。
【0028】
(5) 前記連結部分が、ジスルフィド結合、酸に不安定な結合、光に不安定な結合、ペプチダーゼに不安定な結合またはエステラーゼに不安定な結合である、(4)に記載の方法。
【0029】
(6) 前記連結部分がジスルフィド結合である、(4)に記載の方法。
【0030】
(7) 前記反応性エステルが、ジスルフィドで連結された反応性エステルである、(1)または(2)に記載の方法。
【0031】
(8) 前記反応性エステルが、N-スクシンイミジルエステル、N-スルホスクシンイミジルエステル、N-フタルイミジルエステル、N-スルホフタルイミジルエステル、2-ニトロフェニルエステル、4-ニトロフェニルエステル、2,4-ジニトロフェニルエステル、3-スルホニル-4-ニトロフェニルエステルまたは3-カルボキシ-4-ニトロフェニルエステルである、(1)または(2)に記載の方法。
【0032】
(9) 前記反応性エステルがN-スクシンイミジルエステルである、(1)または(2)に記載の方法。
【0033】
(10) 前記反応性エステルがN-スルホスクシンイミジルエステルである、(1)または(2)に記載の方法。
【0034】
(11) 前記細胞結合剤が、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、抗体フラグメント、リンホカイン、ホルモン、増殖因子、ビタミンおよび栄養素輸送分子からなる群より選択される、(1)または(2)に記載の方法。
【0035】
(12) 前記細胞結合剤がモノクロナール抗体である、(1)または(2)に記載の方法。
【0036】
(13) 前記細胞結合剤が抗体フラグメントである、(1)または(2)に記載の方法。
【0037】
(14) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドを製造する方法であって、N2'-デアセチル-N2'-[3-(カルボキシアルキルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンをヒドロキシ化合物と反応させて反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドを生成させることを含む、上記方法。
【0038】
(15) 前記N2'-デアセチル-N2'-[3-(カルボキシアルキルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンがN2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(6)である、(14)に記載の方法。
【0039】
(16) 前記反応のメイタンシノイドエステル生成物を単離するステップをさらに含む、(14)に記載の方法。
【0040】
(17) 前記ヒドロキシ化合物が、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド、N-ヒドロキシフタルイミド、N-ヒドロキシスルホフタルイミド、2-ニトロフェノール、4-ニトロフェノール、2,4-ジニトロフェノール、3-スルホニル-4-ニトロフェノール、および3-カルボキシ-4-ニトロフェノールからなる群より選択される、(14)に記載の方法。
【0041】
(18) 前記ヒドロキシ化合物がN-ヒドロキシスクシンイミドである、(14)に記載の方法。
【0042】
(19) 前記ヒドロキシ化合物がN-ヒドロキシスルホスクシンイミドである、(14)に記載の方法。
【0043】
(20) 前記ヒドロキシ化合物がN-ヒドロキシスクシンイミドであり、かつ反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなる前記メイタンシノイドがN2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンのN-スクシンイミジルエステル(2)である、(14)に記載の方法。
【0044】
(21) 前記ヒドロキシ化合物がN-ヒドロキシスルホスクシンイミドであり、かつ反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなる前記メイタンシノイドがN2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンのN-スルホスクシンイミジルエステル(3a)である、(14)に記載の方法。
【0045】
(22) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドを製造する方法であって、チオール含有メイタンシノイドを、反応性ジスルフィドを含有する反応性カルボン酸エステルと反応させることを含む、上記方法。
【0046】
(23) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなる前記メイタンシノイドを単離するステップをさらに含む、(22)に記載の方法。
【0047】
(24) 反応性ジスルフィドを含有する前記反応性カルボン酸エステルが4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸N-スクシンイミジル(7)である、(22)に記載の方法。
【0048】
(25) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなる前記メイタンシノイドがN2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンのN-スクシンイミジルエステル(2)である、(22)に記載の方法。
【0049】
(26) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドを製造する方法であって、チオール含有メイタンシノイドを、反応性ジスルフィドを含有する水溶性反応性カルボン酸エステルと反応させることを含む、上記方法。
【0050】
(27) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなる前記メイタンシノイドを単離するステップをさらに含む、(26)に記載の方法。
【0051】
(28) 反応性ジスルフィドを含有する前記水溶性反応性カルボン酸エステルが4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸スルホスクシンイミジル(8)である、(26)に記載の方法。
【0052】
(29) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなる前記メイタンシノイドがN2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンのN-スルホスクシンイミジルエステル(3)である、(26)に記載の方法。
【0053】
(30) N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(6)を製造する方法であって、チオール含有メイタンシノイドを4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(5)と反応させることを含む、上記方法。
【0054】
(31) 前記N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(6)を単離するステップをさらに含む、(30)に記載の方法。
【0055】
(32) N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(6)を製造する方法であって、
(a) N-メチル-N-(3-メルカプトプロパノイル)-L-アラニンと4-メルカプトペンタン酸トリメチルシリルエチル(9)とを組み合わせて混合ジスルフィド化合物を形成するステップと、
(b) メイタンシノールをステップ(a)の生成物にカップリングさせてメイタンシノイドエステル10を生成させるステップと、
(c) 該メイタンシノイドエステル10を脱保護するステップと
を含む、上記方法。
【0056】
(33) 前記N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(6)を単離するステップをさらに含む、(32)に記載の方法。
【0057】
(34) 反応性エステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドであって、次式11:
DM1-S-CR1R2-(CH2)n-CO2-X (11)
〔式中、
DM1は、
【化1】

であり、
R1およびR2は、それぞれ独立して、H、CH3、C2H5、線状高級アルキルまたは分枝状高級アルキルであり、
nは1〜5であり、かつ
Xは、活性エステルの一部分であり、N-スクシンイミジル、N-スルホスクシンイミジル、N-フタルイミジル、N-スルホフタルイミジル、2-ニトロフェニル、4-ニトロフェニル、2,4-ジニトロフェニル、3-スルホニル-4-ニトロフェニルまたは3-カルボキシ-4-ニトロフェニルの形をとることができる。〕
で構成されている、上記メイタンシノイド。
【0058】
(35) R1がHであり、R2がCH3であり、nが2であり、かつXがN-スクシンイミジルである、(34)に記載の反応性メイタンシノイド誘導体。
【0059】
(36) R1がHであり、R2がCH3であり、nが2であり、かつXがN-スルホスクシンイミジルである、(34)に記載の反応性メイタンシノイド誘導体。
【0060】
(37) 次式:
【化2】

で構成されている、N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(6)。
【0061】
(38) 次式:
【化3】

で構成されている、メイタンシノイドエステル(10)。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】化合物2を用いて本発明の方法により調製し続いてSephacryl S300 (●)またはSephadex G25 (○)クロマトグラフィーのいずれかで精製したhuN901-メイタンシノイドコンジュゲートおよびコンジュゲートされていないhuN901抗体(▲)が抗原陽性細胞を死滅させる能力をアッセイした実験の結果を示す。
【図2】反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドの合成経路を示す。
【図3】反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドの別の合成経路を示す。
【図4】細胞傷害性コンジュゲートの合成経路を示す。
【図5】L-DM1-TPA(化合物6)を製造する別の経路を示す。
【発明を実施するための形態】
【0063】
本発明により、メイタンシノイドと細胞結合剤とを含む細胞傷害性コンジュゲートを合成するワンステップ法を開示する。また本発明により、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる化合物2および3aのような新規なメイタンシノイドを合成する方法を開示する。このほか、本発明により、化合物6および10のような新規なメイタンシノイド誘導体を合成する方法を提示する。さらに本発明により、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドの製造に有用である化合物6および10のような新規なメイタンシノイド誘導体を提示する。さらにまた本発明により、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる化合物2および3aのような新規なメイタンシノイドを提示する。このメイタンシノイドは、新規な細胞傷害性コンジュゲートを合成するのに有用である。
【0064】
当業界では、既存の薬物をその細胞傷害能を低下させることなく修飾することはきわめて難しいとみられている。開示された本発明では、適切な細胞結合剤への連結を可能にする反応性化学部分を有するメイタンシノイド分子、特に、ジスルフィド部分と反応性基とを含有するメイタンシノイド分子を修飾する方法を教示することにより、この問題を克服する。その結果、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる開示された新規なメイタンシノイドは、天然に存在するメイタンシノイドの細胞傷害能を保持し、場合により増強することさえある。
【0065】
細胞傷害性メイタンシノイド-細胞結合剤コンジュゲートを用いると、望ましくない細胞だけが標的化された形でメイタンシノイド誘導体の細胞傷害作用を最大限に発揮させることができるので、非標的健常細胞への損傷に起因した副作用が防止される。したがって、本発明により、死滅または溶解させるべき疾患細胞または異常細胞、たとえば、腫瘍細胞(特に、充実性腫瘍細胞)、ウイルス感染細胞、微生物感染細胞、寄生生物感染細胞、自己免疫細胞(自己抗体を産生する細胞)、活性化細胞(移植片拒絶もしくは移植片対宿主疾患に関与する細胞)、または任意の他のタイプの疾患細胞または異常細胞を最小の副作用で除去するのに有用な作用剤およびその新規な製造方法を提供する。
【0066】
したがって、本発明により、メイタンシノイドと細胞結合剤とを含む細胞傷害性コンジュゲートを製造するワンステップ法を教示する。さらに本発明により、メイタンシノイド誘導体と、結合形もしくは放出形または両方の状態のいずれかで高い細胞傷害性を保持しつつ細胞結合剤への化学的連結を可能にする反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドと、を合成する方法を教示する。最後に、本発明により、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドの製造に有用なメイタンシノイド誘導体と、新規な細胞傷害性コンジュゲートの合成に有用な反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドと、を開示する。
【0067】
本発明に係る細胞傷害性コンジュゲートは、細胞結合剤に連結された1つ以上のメイタンシノイドを含む。メイタンシノイドを細胞結合剤に連結させるために、最初にメイタンシノイドを修飾しなければならない。
【0068】
細胞結合剤に連結させることのできる反応性メイタンシノイド誘導体を製造するために本発明で使用することのできるメイタンシノイドは、当技術分野で周知であり、公知の方法に従って天然源から単離するかまたは公知の方法に従って合成により調製することができる。
【0069】
好適なメイタンシノイドとしては、たとえば、メイタンシノールおよびメイタンシノール類似体が挙げられる。好適なメイタンシノール類似体としては、たとえば、修飾された芳香環を有する類似体および他の位置で修飾された類似体が挙げられる。
【0070】
修飾された芳香環を有するメイタンシノールの好適な類似体の具体例としては、以下のものが挙げられる。
(1) C-19-デクロロ(米国特許第4,256,746号)(アンサマイトシンP2のLAH還元により調製される)、
(2) C-20-ヒドロキシ(またはC-20-デメチル)+/-C-19-デクロロ(米国特許第4,361,650号および同第4,307,016号)(StreptomycesもしくはActinomycesを用いて脱メチル化によりまたはLAHを用いて脱塩素化により調製される)、
(3) C-20-デメトキシ、C-20-アシルオキシ(-OCOR)、+/-デクロロ(米国特許第4,294,757号)(塩化アシルを用いてアシル化により調製される)。
【0071】
他の位置で修飾されたメイタンシノールの好適な類似体の具体例としては、以下のものが挙げられる。
(1) C-9-SH(米国特許第4,424,219号)(メイタンシノールとH2SまたはP2S5との反応により調製される)、
(2) C-14-アルコキシメチル(デメトキシ/CH2OR)(米国特許第4,331,598号)、
(3) C-14-ヒドロキシメチルまたはアシルオキシメチル(CH2OHまたはCH2OAc)(米国特許第4,450,254号)(Nocardiaから調製される)、
(4) C-15-ヒドロキシ/アシルオキシ(米国特許第4,364,866号)(Streptomycesによるメイタンシノールの変換により調製される)、
(5) C-15-メトキシ(米国特許第4,313,946号および同第4,315,929号)(Trewia nudifloraから単離される)、
(6) C-18-N-デメチル(米国特許第4,362,663号および同第4,322,348号)(Streptomycesによるメイタンシノールの脱メチル化により調製される)、
(7) 4,5-デオキシ(米国特許第4,371,533号)(メイタンシノールの三塩化チタン/LAH還元により調製される)。
【0072】
メイタンシノイドを細胞結合剤に連結させるために、メイタンシノイドには連結部分が含まれる。連結部分は、特定の部位における十分に活性なメイタンシノイドの放出を可能にする化学結合を含有する。好適な化学結合は当技術分野で周知であり、たとえば、ジスルフィド結合、酸に不安定な結合、光に不安定な結合、ペプチダーゼに不安定な結合およびエステラーゼに不安定な結合が挙げられる。好ましいのはジスルフィド結合である。
【0073】
本発明にしたがって、連結部分には反応性化学基が含まれる。好ましい実施形態では、ジスルフィド結合連結部分を介して反応性化学基をメイタンシノイドに共有結合させることができる。
【0074】
特に好ましい反応性化学基は、N-スクシンイミジルエステルおよびN-スルホスクシンイミジルエステルである。
【0075】
反応性化学基を含有する連結部分を含んでなる特に好ましいメイタンシノイドは、連結部分がジスルフィド結合を含有しかつ化学反応性基がN-スクシンイミジルエステルまたはN-スルホスクシンイミジルエステルを含むメイタンシノールC-3エステルおよびその類似体である。
【0076】
連結部分を化学的に連結させる位置としてメイタンシノイド上の多くの位置を利用することができる。たとえば、ヒドロキシル基を有するC-3位、ヒドロキシメチルで修飾されたC-14位、ヒドロキシで修飾されたC-15位、およびヒドロキシ基を有するC-20位は、すべて有用であると予想される。しかしながら、C-3位が好ましく、メイタンシノールのC-3位は特に好ましい。
【0077】
連結部分を有するメイタンシノールエステルの合成についてジスルフィド結合を含有する連結部分に関して以下で説明するが、当業者であれば、他のメイタンシノイドを使用することができるのと同様に、他の化学結合(先に記載したとおり)を有する連結部分を本発明で使用することもできることが理解されよう。他の化学結合の具体例としては、酸に不安定な結合、光に不安定な結合、ペプチダーゼに不安定な結合およびエステラーゼに不安定な結合が挙げられる。本明細書に組み入れられる米国特許第5,208,020号の開示には、そのような結合をもつメイタンシノイドの製造法が教示されている。
【0078】
メイタンシノイド誘導体および反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドの合成については、図1〜4を参照することにより記述することができる。ここでは、ジスルフィド含有メイタンシノイドエステルが調製される。
【0079】
本発明の方法では、ほとんどの場合、正式にはN2'-デアセチル-N2'-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-メイタンシンと命名されるチオール含有メイタンシノイド(DM1)が出発試薬として利用される。DM1は以下の構造式(1)で表される。
【化4】

【0080】
細胞傷害性コンジュゲートの製造法
本発明の代表的な細胞傷害性コンジュゲートは、抗体/メイタンシノイド、抗体フラグメント/メイタンシノイド、表皮増殖因子(EGF)/メイタンシノイド、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)/メイタンシノイド、甲状腺刺激ホルモン(TSH)/メイタンシノイド、エストロゲン/メイタンシノイド、エストロゲン類似体/メイタンシノイド、アンドロゲン/メイタンシノイドおよびアンドロゲン類似体/メイタンシノイドである。
【0081】
反応性基含有メイタンシノイドを細胞結合剤と反応させることにより細胞傷害性コンジュゲートを製造する。このコンジュゲートは、HPLCによりまたはゲル濾過により精製しうる。
【0082】
スキーム1:
より具体的には、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるモル過剰のメイタンシノイドと共に水性緩衝液に抗体を加えた溶液をインキュベートすることが可能である。過剰のアミン(たとえば、エタノールアミン、タウリンなど)を添加することにより、反応混合物の反応を停止させることができる。次に、メイタンシノイド-抗体コンジュゲートをゲル濾過により精製することが可能である。
【0083】
抗体1分子あたりの結合されたメイタンシノイド分子の数は、252nmおよび280nmにおける吸光度の比を分光光度法で測定することにより決定することができる。この方法により、抗体1分子あたり平均で1〜10個のメイタンシノイド分子を連結させることができる。
【0084】
本発明に係る細胞結合剤とメイタンシノイド薬物とのコンジュゲートが種々の望ましくない細胞系の増殖をin vitroで抑制する能力に関して評価することができる。これらの化合物の細胞傷害性を評価するために、たとえば、ヒト類表皮癌系A-431、ヒト小細胞肺癌細胞系SW2、ヒト乳房腫瘍系SKBR3およびBurkittリンパ腫系Namalwaのような細胞系を容易に使用することができる。評価対象の細胞を化合物に24時間暴露し、公知の方法により直接アッセイで細胞の生存率を測定することができる。次に、アッセイの結果からIC50値を計算することができる。
【0085】
反応性基をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイドの製造法
本発明に開示されている、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる新規なメイタンシノイドは、式11
DM1-S-S-CR1R2-(CH2)n-CO2-X (11)
〔式中、R1およびR2は、それぞれ独立して、H、CH3、C2H5、線状または分枝状の高級アルキルであり、
nは1〜5であり、かつ
Xは、活性エステルの一部分であり、N-スクシンイミジル、N-スルホスクシンイミジル、N-フタルイミジル、N-スルホフタルイミジル、2-ニトロフェニル、4-ニトロフェニル、2,4-ジニトロフェニル、3-スルホニル-4-ニトロフェニル、または3-カルボキシ-4-ニトロフェニルの形をとることができる。〕
で表される化合物である。
【0086】
線状アルキルとしては、たとえば、プロピル、ブチル、ペンチルおよびヘキシルが挙げられる。
【0087】
分枝状アルキルとしては、たとえば、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチルおよび1-エチル-プロピルが挙げられる。
【0088】
式11の好ましい実施形態としては、反応性CO2-Xエステル〔式中、Xは、N-スクシンイミジルまたはN-スルホスクシンイミジルである。〕をもつジスルフィド部分を有してなる上記メイタンシノイドが挙げられる。式11のより好ましい実施形態としては、反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる上記メイタンシノイドのうち、R1がHであり、R2がCH3であり、nが2であり、かつCO2-Xが活性N-スクシンイミジルエステル(化合物2)であるかまたはCO2-Xが活性N-スルホスクシンイミジルエステル(化合物3a)であるメイタンシノイドが挙げられる。
【0089】
反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる新規なメイタンシノイドは、以下の新たに開示された方法により調製することが可能である。
【0090】
スキーム2a: 無水有機溶媒中、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド.HCl(EDC.HCl)の存在下、周囲温度で、N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(化合物6)をN-ヒドロキシスクシンイミドと約1〜12時間反応させることにより、反応性N-スクシンイミジルエステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイド(化合物2)を調製することが可能である。反応の終了は、薄層クロマトグラフィー(TLC)または高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のような標準的な化学的方法によりモニターすることが可能である。反応の終了後、反応性N-スクシンイミジルエステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイド誘導体(化合物2)を、シリカゲルクロマトグラフィーまたはHPLCを用いて精製することが可能である。EDC.HCl以外の縮合剤、たとえば、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を反応に使用することも可能である。
【0091】
スキーム2b: 反応性N-スクシンイミジルエステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイド(化合物2)を別の方法により調製することも可能である。4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸N-スクシンイミジル(SPP)(化合物7)のメタノール溶液をDM1のメタノール溶液で処理する。酢酸ナトリウム緩衝液(pH3〜5)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で反応混合物を攪拌する。Vydac C-18カラムを用いてHPLCにより反応の進行をモニターすることが可能である。HPLCにより生成物2を精製することが可能である。
【0092】
スキーム3a: 無水有機溶媒(たとえば、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル)中、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド.HCl(EDC.HCl)(酸(6)よりも1〜2倍モル過剰)の存在下で、N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(化合物6)をN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム塩(酸(6)よりも1〜2倍モル過剰)と反応させることにより、反応性N-スルホスクシンイミジルエステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイド(化合物3a)を調製することが可能である。反応の終了は、TLCまたはHPLCのような標準的な化学的方法を用いてモニターすることが可能である。反応の終了後、シリカゲルクロマトグラフィーにより、もしくはHPLCにより、または大量の酢酸エチルを添加して沈殿させることにより(Staros, Biochemistry, 1982, 21:3950-3955に記載されているN-スルホスクシンイミジルエステルの一般的な調製方法に類似した方法)、反応性のN-スルホスクシンイミジルエステル(化合物3a)をもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイド誘導体を精製することが可能である。EDC.HCl以外の縮合剤を反応に使用することも可能である。
【0093】
スキーム3b: 反応性N-スルホスクシンイミジルエステルをもつジスルフィド部分を有してなるメイタンシノイド(化合物3a)を別の方法により調製することも可能である。4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸N-スルホスクシンイミジル(スルホ-SPP)(化合物8)のメタノール溶液をDM1のメタノール溶液で処理する。酢酸ナトリウム緩衝液(pH3〜5)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で反応混合物を攪拌する。HPLCにより反応の進行をモニターすることが可能である。HPLCにより生成物3aを精製することが可能である。
【0094】
メイタンシノイド誘導体の製造法
スキーム4aおよび4bには、DM1(1)からメイタンシノイド誘導体を製造する新規な方法が開示されている。このメイタンシノイド誘導体6は、正式にはN2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンと命名され、次式で表される。
DM1-S-S-CR1R2-(CH2)n-COOH (6)
R1=H、R2=CH3、n=2
【0095】
いくつかの細胞傷害性メイタンシノイド-細胞結合剤コンジュゲートを調製する際、メイタンシノイド誘導体6を直接使用することが可能である。好ましくは、先にスキーム2aおよび3aに記載した新規な方法を用いて反応性基をもつジスルフィド部分を有してなる新規なメイタンシノイドを製造する際、メイタンシノイド誘導体6を使用する。
【0096】
スキーム4a: DM1と4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(化合物5)との間のジスルフィド交換によりメイタンシノイド誘導体6を合成することが可能である。4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸のメタノール溶液をDM1のメタノール溶液で処理する。リン酸カリウム緩衝液を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で反応混合物を攪拌する。HPLCにより反応の進行をモニターすることが可能である。HPLCにより生成物6を精製することが可能である。精製された生成物をHPLCにより再び分析することが可能である。化合物6のナトリウム塩の高分解能質量分析により、生成物の同定を行うことが可能である。
【0097】
スキーム4b: メイタンシノールをN-メチル-N-(3-メルカプトプロパノイル)-L-アラニンと4-メルカプトペンタン酸トリメチルシリルエチルとの混合ジスルフィド(化合物9)とカップリングさせてメイタンシノイドエステル(化合物10)を生成させ、次に、これを脱保護して化合物6を得る別の方法により、メイタンシノイド誘導体6を調製することも可能である。
【0098】
細胞結合剤の調製法
治療剤としての本発明の化合物の有効性は、適切な細胞結合剤の注意深い選択に依存する。細胞結合剤は、現在知られているかまたは知られるようになる任意の種類の細胞結合剤であってよく、ペプチドおよび非ペプチドを包含する。一般的には、これらは、抗体(特に、モノクロナール抗体)、リンホカイン、ホルモン、増殖因子、ビタミン、栄養素輸送分子(たとえば、トランスフェリン)、または他の任意の細胞結合分子もしくは物質でありうる。
【0099】
使用することのできる細胞結合剤のより具体的な例としては、以下のものが挙げられる。
ポリクロナール抗体;
モノクロナール抗体;
抗体のフラグメント、たとえば、Fab、Fab'、およびF(ab')2、Fv(Parham, J. Immunol. 131:2895-2902 (1983); Spring et al. J. Immunol. 113:470-478 (1974); Nisonoff et al. Arch. Biochem. Biophys. 89:230-244 (1960));
インターフェロン(たとえば、α、β、γ);
リンホカイン、たとえば、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6;
ホルモン、たとえば、インスリン、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)、MSH(メラニン細胞刺激ホルモン)、アンドロゲンやエストロゲンのようなステロイドホルモン;
増殖因子およびコロニー刺激因子、たとえば、EGF、TGF-α、FGF、VEGF、G-CSF、M-CSFおよびGM-CSF(Burgess, Immunology Today 5:155-158 (1984));
トランスフェリン(O'Keefe et al. J. Biol. Chem. 260:932-937 (1985));ならびに
ビタミン、たとえば、葉酸塩。
【0100】
モノクロナール抗体技術により、特異的モノクロナール抗体の形できわめて特異的な細胞結合剤を製造することが可能である。当技術分野で特に知られているのは、対象の抗原、たとえば、インタクトな標的細胞、標的細胞から単離された抗原、全ウイルス、弱毒化全ウイルス、およびウイルスコートタンパク質のようなウイルスタンパク質で、マウス、ラット、ハムスターまたは他の任意の哺乳動物を免疫することにより産生されるモノクロナール抗体を作製する技術である。感作されたヒト細胞を使用することもできる。モノクロナール抗体を作製する他の方法は、scFv(1本鎖可変領域)、特にヒトscFvのファージライブラリーを使用する方法である(たとえば、Griffithsらの米国特許第5,885,793号および同第5,969,108号; McCaffertyらのWO 92/01047; LimingらのWO 99/06587を参照されたい)。このほか、ヒト化抗体が使用可能であるのと同様に、米国特許第5,639,641号に開示されている表面変更(resurface)された抗体を使用することも可能である。
【0101】
適切な細胞結合剤の選択は、標的化の対象となる特定の細胞集団に応じて選択すべき問題であるが、一般的には、適切な抗体を入手できるのであれば、ヒトモノクロナール抗体が好ましい。
【0102】
たとえば、モノクロナール抗体J5は、共通急性リンパ芽球性白血病抗原(CALLA)に特異的なマウスIgG2a抗体であり(Ritz et al. Nature 283:583-585 (1980))、標的細胞が急性リンパ芽球性白血病のようにCALLAを発現する場合に使用することができる。同様に、モノクロナール抗体抗B4は、B細胞上のCD19抗原に結合するマウスIgG1であり(Nadler et al. J. Immunol. 131:244-250 (1983))、標的細胞が非Hodgkinリンパ腫または慢性リンパ芽球性白血病のようにこの抗原を発現するB細胞または疾患細胞である場合に使用することができる。
【0103】
さらに、急性骨髄性白血病の疾患細胞に対する細胞結合剤として、骨髄性細胞に結合するGM-CSFを使用することが可能である。移植片拒絶の予防、移植片対宿主疾患の治療および予防、ならびに急性T細胞白血病の治療のために、活性化されたT細胞に結合するIL-2を使用することができる。黒色腫の治療のために、メラニン細胞に結合するMSHを使用することができる。
【0104】
エストロゲン(もしくはエストロゲン類似体)またはアンドロゲン(もしくはアンドロゲン類似体)を細胞結合剤として用いることにより、それぞれ、乳房および精巣の癌をうまく標的化することができる。
【実施例】
【0105】
次に、実施例を参照することにより本発明について具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。特に記載のない限り、パーセント、比、部などはすべて重量基準である。以下に記載の実施例は、R1がHであり、R2がCH3であり、かつnが2である分子である。R1およびR2がそれぞれ独立してH、CH3、C2H5または高級アルキルでありかつnが1〜5である他の分子についても、類似の合成を行うことができる。
【0106】
実施例1a
メイタンシノイド2を用いる細胞傷害性コンジュゲートの調製
20%の最終DMA濃度を与えるジメチルアセトアミド(DMA)に加えられた6倍モル過剰のメイタンシノイド2と共に、pH6.5の水性緩衝液(50mMリン酸カリウム、50mM塩化ナトリウム、2mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩)にhuN901抗体(2.5mg/mL)を加えた溶液をインキュベートした。周囲温度で反応を13時間進行させた。反応混合物を2つの部分に分けた。一方の部分は、Sephadex G25ゲル濾過カラムに通して精製し、第2の部分は、Sephacryl S300ゲル濾過カラムに通して精製した。いずれの場合においても、モノメリック(monomeric)コンジュゲートを含有する画分をプールした。280および252nMにおける抗体成分およびDM1成分の既知の吸光係数(huN901の吸光係数:ε280nm=217,560 M-1cm-1およびε252nm=80,062 M-1cm-1;DM1の吸光係数ε280nm=5,700 M-1cm-1およびε252nM=26,790 M-1cm-1)を用いて分光光度法によりコンジュゲートの濃度を決定した。
【0107】
Sephadex G25クロマトグラフィーによる精製では、抗体1分子あたり平均で2.08個の連結されたDM1分子を含有するコンジュゲートが得られた(出発抗体を基準にした収率=60%)。Sephacryl S300クロマトグラフィーによる精製では、抗体1分子あたり平均で1.61個の連結されたDM1分子を含有するコンジュゲートが得られた(出発抗体を基準にした収率=64%)。
【0108】
実施例1b
メイタンシノイド3aを用いる細胞傷害性コンジュゲートの調製
20%の最終DMA濃度を与えるジメチルアセトアミド(DMA)に加えられた12倍モル過剰のメイタンシノイド3aと共に、pH6.5の水性緩衝液(50mMリン酸カリウム、50mM塩化ナトリウム、2mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩)にhuN901抗体(2.5mg/mL)を加えた溶液をインキュベートした。周囲温度で反応を11時間進行させた。反応混合物を2つの部分に分けた。一方の部分は、Sephadex G25ゲル濾過カラムに通して精製し、第2の部分は、Sephacryl S300ゲル濾過カラムに通して精製した。いずれの場合においても、モノメリックコンジュゲートを含有する画分をプールした。280および252nMにおける抗体成分およびDM1成分の既知の吸光係数(huN901の吸光係数:ε280nm=217,560 M-1cm-1およびε252nm=80062 M-1cm-1;DM1の吸光係数ε280nm=5700 M-1cm-1およびε252nM=26790 M-1cm-1)を用いて分光光度法によりコンジュゲートの濃度を決定した。
【0109】
Sephadex G25クロマトグラフィーによる精製では、抗体1分子あたり平均で4.89個の連結されたDM1分子を含有するコンジュゲートが得られた(出発抗体を基準にした収率=59%)。Sephacryl S300クロマトグラフィーによる精製では、抗体1分子あたり平均で4.16個の連結されたDM1分子を含有するコンジュゲートが得られた(出発抗体を基準にした収率=58%)。
【0110】
実施例2a
反応性N-スクシンイミジルエステルをもつメイタンシノイド誘導体(2)の合成
すべての反応をアルゴン雰囲気下で行った。試薬はすべて、Aldrich Chemical Co., New Jerseyから購入したものであった。Bruker 400 MHz装置により核磁気共鳴(1H NMR)スペクトルを取得し、Bruker Daltonics Esquire 3000装置によりエレクトロスプレーイオン化を用いて質量スペクトルを取得した。
【0111】
チオール含有メイタンシノイド(L-DM1、化合物1)の合成については、既に記載されている(米国特許第5,208,020号)。
【0112】
4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(PPA、化合物5)の調製: 1L二口フラスコに、攪拌子、添加漏斗および温度計を配置した。150gの1,3-ジブロモブタン(0.74モル)および700mLのジメチルスルホキシドをフラスコに仕込んだ。シアン化ナトリウム(37.5g、0.76モル)を脱イオン水(79mL)に加えた溶液を、反応温度が65℃を超えない速度で滴下した。添加が終了した後、反応液を一晩攪拌した。700mLの脱イオン水で混合物を希釈し、酢酸エチル:ヘキサンの1:1溶液(2×1.4L)で抽出した。有機層を合わせて、700mLの脱イオン水および700mLの飽和塩化ナトリウム水溶液で逐次的に洗浄した。減圧下(約15トル)で溶媒を蒸発させた。残渣を210mLの試薬等級エタノールに溶解させ、1Lフラスコに移した。次に、脱イオン水(210mL)およびチオ尿素(66.4g、0.87モル)をフラスコに添加した。フラスコに還流冷却器を取り付け、攪拌しながら油浴中で加熱して穏やかに還流させた。4時間後、油浴を取り除き、フラスコを室温まで冷却させた。10M水酸化ナトリウム溶液(500mL)を添加し、混合物を攪拌しながら油浴中で一晩加熱して穏やかに還流させた。油浴を取り除き、フラスコを室温まで冷却させた。溶液を分液漏斗に移し、500mLずつに分けた酢酸エチルで2回洗浄した。水性層を2Lフラスコに移し、氷/水浴中で冷却させた。酢酸エチル(1L)を添加し、水性層を調べて約pH2になるまで、濃HClを添加しながら内容物を迅速に攪拌した。酢酸エチル層を分離し、水性層を酢酸エチル(2×1L)で抽出した。有機層を合わせ、室温でロータリーエバポレーションにより濃縮して4-メルカプトペンタン酸を得た。さらなる精製を行うことなく、これを次のステップで使用した。
【0113】
攪拌子の入った2Lフラスコに、2-2'-ジチオジピリジン(300g、1.36モル)、試薬等級エタノール(1L)および氷酢酸(42mL)を仕込んだ。粗製4-メルカプトペンタン酸を酢酸エチル(400mL)に加えた溶液を15分間かけて滴下し、アルゴン下で反応液をさらに2時間攪拌した。ロータリーエバポレーションにより溶媒を除去し、最小量の酢酸エチルに残渣を溶解させ、シリカゲルカラム(6.25×27cm)を用いてカラムクロマトグラフィーにより精製した。未反応の2,2'-ジチオピリジン(Aldrithiol-2)がすべて除去されるまで、4:1ヘキサン:酢酸エチルでカラムから溶出させた。次に、2%の酢酸を含有する4:1ヘキサン:酢酸エチルでカラムから溶出させた。TLCにより溶出をモニターし、画分を合わせた。次に、減圧下でロータリーエバポレーションにより溶媒を除去し、純粋な4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(PPA、化合物5)を白色固体(40g、全収率23%)として得た。1H NMR (CDCl3) δ1.39 (d, 3H), 2.0 (t, 2H), 2.56 (t, 2H), 2.8-3.3 (m, 1H), 6.8-7.2 (m, 1H), 7.6-7.8 (m, 2H), 8.4-8.6 (m, 1H), 11.68 (s, 1H)。
【0114】
N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(L-DM1-TPA、化合物6)の調製: 4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(化合物5、24mg、0.10mmol)およびL-DM1(化合物1、30mg、0.041mmol)をガラス容器中で蒸留された(glass distilled)メタノール(5mL)に加えた溶液を激しく攪拌し、3mLの水性緩衝液(200mM KH2PO4、2mM EDTA、pH7.6)を滴下した。反応液を一晩放置し、そしてVydac C-18、10×250mmカラム、30℃、流速4.75mL/分を用いてpH7.2の40mM酢酸アンモニウム緩衝液中でアセトニトリルの直線濃度勾配(30分かけて15%から85%へ)を加えながらHPLCにより生成物を精製した。L-DM1-TPA(6)は、12分の保持時間で溶出した。生成物をアンモニウム塩として回収し、15mLの酢酸エチルに溶解させた。4mLの1M HClそれに続いて3mLの飽和塩化ナトリウム溶液で逐次的に溶液を洗浄した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を脱水し、真空下で溶媒を除去し、15mg(収率37%)の生成物6を得た。高分解能質量分析により生成物の同定を行った。ナトリウム化分子イオンに対する計算値=892.2891、実測値=892.2955。H1 NMR (400 MHz, CDCl3) δ6.84 (d, 1H, J=1 Hz), 6.76 (dd, 1H, J=7,1 Hz), 6.59 (dd, 1H, J=14, 11 Hz), 6.32-6.64 (m, 2H), 5.6-5.7 (m, 1H), 5.13-5.23 (m, 1H), 4.83 (dt, 1H, J=9,3 Hz), 4.31 (dd, 1H, J=12,1 Hz), 3.99 (s, 3H), 3.63 (dd, 1H, J=13,1 Hz), 3.49 (d, 1H, J=9 Hz), 3.36 (s, 3H), 3.22 (d, 3H, J=1 Hz), 3.12 (dd, 1H, J=12,1 Hz), 2.75-2.91 (m, 5H) 2.54-2.72(m, 4H), 2.34-2.52 (m, 2H), 2.20 (dd, 3H, J=13,1 Hz), 1.7-1.9 (m, 4H), 1.66 (s, 3H), 1.42-1.5 (m, 2H), 1.37 (dd, 3H, J=9,1 Hz), 1.2-1.3 (m, 7H), 0.81 (s, 3H)。
【0115】
N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンのN-スクシンイミジルエステル(L-DM1-TPAスクシンイミジルエステル、化合物2)の調製: L-DM1-TPA(6)(10mg、0.011mmol)を塩化メチレン(1.5mL)に加えた溶液を、激しく攪拌しながら、N-ヒドロキシスクシンイミド(10mg、0.086mmol)および1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド.HCl(21mg、0.11mmol)で処理した。反応を2時間進行させ、その後、溶媒の約半分を真空下で除去した。(塩化メチレン:メタノール95:5)の移動相を用いて残存溶液を分取薄層クロマトグラフィー(厚さ2000ミクロンの2枚のシリカプレート)にかけた。所望の生成物(2)のバンドをプレートから掻取って20mLの(塩化メチレン:メタノール80:20)と共に攪拌し、そして焼結ガラス漏斗に通して真空濾過した。真空下で濾液を濃縮し、(8mg、0.0083mmol、収率75%)の生成物を得た。質量スペクトル分析により、M++Na 989.4に一致する基準ピークイオンが確認された。989.4イオンのフラグメント化により、化合物2の構造に一致する娘イオンが生成された。H1 NMR (400 MHz, CDCl3) δ6.96 (d, 1H, J=1.8 Hz), 6.81 (d, 1H, J=1.8 Hz), 6.48 (dd, 1H, J=15,11 Hz), 6.27 (s, 1H), 6.14 (d, 1H, J=11 Hz), 5.53 (dd, 1H, J=15, 9.3 Hz), 5.41 (q, 1H, J=6.9 Hz), 4.36 (dd, 1H, J=12,1 Hz), 3.99 (s, 3H), 3.66 (s, 1H), 3.54 (d, 1H, J=9.3 Hz), 3.4-3.54 (m, 5H), 3.36 (s, 3H), 3.35 (s, 3H), 3.21 (s,3H), 3.12 (d, 1H, J=12.7 Hz), 2.88 (d, 1H, J=5.4 Hz), 2.7 (s, 4H), 2.5-2.65 (m, 5H), 2.1 (d, 1H, J=9.4 Hz), 1.69 (s, 3H), 1.45-1.55 (m, 2H), 1.1-1.3 (m, 10H), 0.83 (s, 3H)。
【0116】
実施例2b
反応性N-スクシンイミジルエステルをもつメイタンシノイド誘導体(2)を合成する別の方法
4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(SPP、化合物7)のN-スクシンイミジルエステルの調製: 4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(5、30g、123mmol)を塩化メチレン(525mL)に加えた溶液を、N-ヒドロキシスクシンイミド(14.3g、124mmol)および1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド.HCl(31.8g、165mmol)で処理した。室温で内容物を2時間攪拌し、その後、750mLの酢酸エチルを添加した。0.5%の酢酸水溶液(350mL)で溶液を3回洗浄し、さらに150mLの飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。無水硫酸ナトリウムを用いて有機層を脱水し、濾過し、そしてロータリーエバポレーションにより真空下で溶媒を除去した。残渣を最小量の酢酸エチルに溶解させ、1:1ヘキサン:酢酸エチルを用いてスラリー充填された6.25×20cmシリカカラムに供給した。1:1ヘキサン:酢酸エチルでカラムから溶出させた。生成物を含有する画分を合わせ、ロータリーエバポレーションにより溶媒を除去した。得られた油状物(31g)を加温した最小量の試薬等級エタノールに溶解させ、磁気攪拌しながら350mLのエチルエーテルを添加し続いて100mLのヘキサンを添加した。得られた沈殿物を真空濾過により回収し、30℃の真空オーブン中で12時間乾燥させることにより、18.7gのSPP(7)を白色固体(18.7g、収率45%)として得た。1H NMR (CDCL3) δ1.39 (d, 3 H), 2.0 (t, 3H), 2.56-3.4 (m, 7 H), 6.8-7.2 (m, 1 H), 7.6-7.8 (m, 2H), 8.4-8.6 (d, 1H)。元素分析:計算値: %C 49.4; %H 4.70; %N 8.20; %S 18.80、実測値: %C 49.3 %H 4.68, %N 8.18, %S 18.94。
【0117】
N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンのN-スクシンイミジルエステル(L-DM1-TPAスクシンイミジルエステル、化合物2)の調製: 4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸のN-スクシンイミジルエステル(SPP、化合物7、3mg、15μmol)をメタノール(15ml)に加えた溶液を、ジメチルアセトアミド(0.1ml)中のDM1(化合物1、0.58mg、0.8μmol)と反応させた。リン酸カリウム緩衝液(0.5mlの0.2M溶液、pH6、2mM EDTA)を添加し、アルゴン雰囲気下、室温で、反応混合物を攪拌した。先に述べたように、反応の進行をシリカゲルTLCによりモニターし、生成物を分取シリカゲルTLCにより精製した。
【0118】
実施例3a
反応性N-スルホスクシンイミジルエステルをもつメイタンシノイド誘導体(3a)の合成
N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシンのN-スルホスクシンイミジルエステル(L-DM1-TPAスルホスクシンイミジルエステル、化合物3a)の調製: L-DM1-TPA(化合物6、2mg 0.002mmol)をジメチルアセトアミド(0.25mL)に溶解させ、これにN-ヒドロキシスルホスクシンイミドナトリウム塩(1.0mg、0.0046mmol)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(1.0mg、0.0048mmol)を添加した。3時間後、0.5mLのジイソプロピルアルコールを添加し、得られた沈殿物を濾過により除去した。濾液のHPLC分析(Vydac C-18カラム、10×250 C18カラム、30℃、流速4.75mL/分、50mMギ酸トリエチルアンモニウムpH3.8緩衝液を用いて、メタノールの直線濃度勾配(30分かけて30%から90%へ)を加えた)を行ったところ、2つの主要なピークが得られた。一方は22分溶出の未反応L-DM1-TPAに対するピークであり、他方は19分溶出のL-DM1-TPAスルホスクシンイミジルエステルに対するピークである。19分で溶出する化合物を単離して質量分析により調べたところ、3aの二ナトリウム化分子イオン(M++2Na)、m/e 1091.4に一致する予想されたピークを有する化合物であることが判明した。1091.4イオンのさらなるフラグメント化により、予測可能な娘イオン、m/e 1073.4(M++2Na-H2O)、874.4(M++2Na-ナトリウム化N-ヒドロキシスルホスクシンイミド)が生成された。
【0119】
N2'-デアセチル-N2'-[3-(3-カルボキシ-1-メチル-プロピルジチオ)-1-オキソプロピル]-メイタンシン(L-DM1-TPA、化合物6)および4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸(PPA、化合物5)の調製については、先の実施例2aに記載した。
【0120】
実施例3b
反応性N-スルホスクシンイミジルエステルをもつメイタンシノイド誘導体(3a)を合成する別の方法
DM1(1)をsulfoSPP(4-(2-ピリジルジチオ)-ペンタン酸のN-スルホスクシンイミジルエステル、化合物8)のナトリウム塩と反応させることにより、メイタンシノイド3aを直接調製することもできる。sulfoSPPのナトリウム塩(8a)は、SPP(7)に対して記載した方法により、EDC.HClの存在下でPPA(5)をN-ヒドロキシスルホスクシンイミドのナトリウム塩とカップリングさせることにより調製することができる(先の実施例2aを参照されたい)。ジメチルアセトアミドおよび2mM EDTAを含有するpH6のリン酸カリウム緩衝液中、周囲温度で、DM1を20倍モル過剰の8aと反応させると、メイタンシノイド3aが得られ、実施例3aに記載されているように、これをHPLCにより精製することができる。
【0121】
実施例4
メイタンシノイド誘導体(6)を合成する別の方法
図5に概略が示されるように、メイタンシノールからメイタンシノイド6を直接調製することもできる。化合物9は、PPA(5)の(2-トリメチルシリル)エチルエステルとN-メチル-N-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)-L-アラニンとのジスルフィド交換により調製される。シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーにより生成物を精製することができる。既に記載されているように(米国特許第5,208,020号)、ジクロロメタン中、DCC(7.2当量)およびジメチルアミノピリジン(DMAP)または塩化亜鉛(1当量)の存在下で、メイタンシノールを6当量の化合物9でエステル化すると、メイタンシノイド10が得られ、シリカゲルクロマトグラフィーまたはHPLCのような標準的な化学的手段により、これを精製することができる。テトラヒドロフラン中、室温で、化合物10を5当量のテトラブチルアンモニウムフルオリドで30分間処理すると、(トリメチルシリル)エチル保護基の開裂が起こり、化合物6が生成される。実施例2aに記載されているように、これをHPLCにより精製することができる。
【0122】
実施例5
in vitro効力に関するhuN901-DM1コンジュゲートの評価
この新しいワンステップ法により調製されたhuN901-DM1コンジュゲートの抗原発現細胞に対するin vitro細胞傷害性を、次のように評価した。huN901(NCAM/CD56)に対する抗原を構成的に発現するA431細胞のクローンをこのアッセイで使用した。10%ウシ胎仔血清およびペニシリン+ストレプトマイシンを添加した2mlのDMEM培地中、2×103細胞/ウェルの密度で、6ウェル組織培養処理プレートに細胞をプレーティングした。プレーティング時にhuN901-DM1コンジュゲートまたは対照huN901抗体をウェルに添加し、組織培養インキュベーター中、37℃、6% CO2で、培養物を5〜7日間インキュベートし、25細胞/コロニー以上のコロニーを形成させた。次に、PBSでプレートを洗浄してから、PBS中の10%ホルムアルデヒド/0.2%(w/v)クリスタルバイオレットを用いて30分間かけて室温で固定/染色した。ウェルを水で3回すすぎ、空気乾燥させ、そして解剖用低倍率顕微鏡下でコロニーを数えた。薬物処理されたウェル中のコロニー数/未処理のウェル中のコロニー数として生存率を計算した。
【0123】
メイタンシノイド2を用いてワンステップ法により調製され、続いてSephadex G25またはSephacryl S300クロマトグラフィーにより精製されたhuN901-DM1コンジュゲートは、抗原陽性細胞を死滅させる効力が高く、IC50値は1×10-10Mであったことが、結果(図1)により示される。これとは対照的に、コンジュゲートされていないhuN901抗体は非傷害性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次式:
メイタンシノイド-S-S-CR1R2-(CH2)n-CO2-X
〔式中、
R1およびR2は、それぞれ独立して、H、または、線状もしくは分枝状のアルキルであり、
nは1〜5であり、かつ
Xは、活性エステルの一部分である。〕
で表される、反応性メイタンシノイド誘導体。
【請求項2】
R1がHであり、R2がメチルである、請求項1に記載の反応性メイタンシノイド誘導体。
【請求項3】
XがN-スクシンイミジル、N-スルホスクシンイミジル、N-フタルイミジル、N-スルホフタルイミジル、2-ニトロフェニル、4-ニトロフェニル、2,4-ジニトロフェニル、3-スルホニル-4-ニトロフェニルまたは3-カルボキシ-4-ニトロフェニルである、請求項1または2に記載の反応性メイタンシノイド誘導体。
【請求項4】
XがN-スクシンイミジルまたはN-スルホスクシンイミジルである、請求項3に記載の反応性メイタンシノイド誘導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−155863(P2010−155863A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85225(P2010−85225)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【分割の表示】特願2003−502004(P2003−502004)の分割
【原出願日】平成14年2月14日(2002.2.14)
【出願人】(502103829)イムノージェン インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】