説明

メカニカルヒューズ及びその感度設定方法

【課題】自己回復性ヒューズへの機械的入力に対する動作感度を、ヒューズ素子本体の構成や仕様を変えずに変更する技術を提供する。
【解決手段】本発明の機械的衝撃や振動に対して通電電流を切断するメカニカルヒューズは、過電流に対する遮断動作を行う自己回復性ヒューズを備える。該ヒューズは、絶縁容器内に充填された液体マトリックス中に固体導電粒子を流動分散させると共に互いに対向して電極を配設した構成を有する。自己回復性ヒューズを、緩衝材を介在させて取付部材に固着して、外部より伝達する所定値以上の加速度に対して接続状態を切断して電流遮断を行うよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的衝撃や振動に対して通電電流を切断するメカニカルヒューズ及びその感度設定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの交通移動体、家電や工業用の電気電子機器などに対して、衝撃や衝突、落下、あるいは地震などの機械的振動・衝撃が加わった場合に、防災や安全上の観点から電流供給を遮断する機械的入力に対して動作するメカニカルヒューズが求められている。
【0003】
一方、本発明者らは、自己回復性により繰り返し使用できる誘電泳動力を用いたヒューズを提案している(特許文献1参照)。図9は、特許文献1に記載の誘電泳動力を用いた自己回復性ヒューズ(ヒューズ素子)の動作を説明する図であり、(A)〜(D)はヒューズ素子のそれぞれ異なる状態を示している。固体PTC素子の場合は、素子の劣化原因として問題となっている遮断・限流動作時のボイドでの放電及びクラック発生が生じるが、図9の誘電泳動力を用いた自己回復性ヒューズは、これら問題を解消して、ヒューズ素子の高性能化、大容量化をもたらすことができる。
【0004】
誘電泳動力を用いた自己回復性ヒューズは、固体マトリックスに代えて液体マトリックスを使用する。絶縁容器内に液体マトリックスを収容し、液体マトリックスを介して互いに対向する電極を設置し、液体マトリックス中に固体導電粒子を流動分散させて自己回復性ヒューズを構成したものである。自己回復性ヒューズは、電源から供給される電力で電極間に電圧が印加されていると、液体マトリックス中の固体導電粒子に誘電泳動力が作用する。図10を参照して、液体マトリックス中における固体導電粒子に働く誘電泳動力について説明する。液体マトリックスに固体導電粒子を分散混入し、電極間に電圧を印加したオン状態では、水平方向成分FDEPrと垂直方向成分FDEPzとから成る誘電泳動力FDEP が固体導電粒子に作用する。即ち、液体マトリックス中の固体導電粒子には、図10に示すように、重力、粘性力、浮力、及び摩擦力が作用し、それによって、誘電泳動力FDEP が働くことになり、固体導電粒子に矢印Aの方向に移動動作が発現する。
【0005】
誘電泳動力を用いた自己回復性ヒューズの電極間に電圧が印加されると、図9(A)に示す状態、即ち、液体マトリックス中で浮遊状態の固体導電粒子に誘電泳動力FDEP が働いて固体導電粒子が電極間に捕集されて橋絡即ち連鎖し、通電即ちオン状態になる。固体導電粒子が連鎖した状態で、自己回復性ヒューズに過電流が流れると、液体マトリックスにおける固体導電粒子の接触点、接触面を起点にジュール熱が発生し、オン状態からオフ状態への動作、即ち矢印Pの方向に状態が変化する。この結果、図9(B)に示すように、固体導電粒子の溶融、更には液体マトリックスを局所的に含んで固体導電粒子が蒸発・散開し、即ち液体マトリックス中に分散し、オフ状態になり、自己回復性ヒューズに流れる電流が抑制又は遮断状態になる。
【0006】
そこで、自己回復性ヒューズへの過電流が無くなると、再び、オフ状態からオン状態への動作、即ち矢印Qの方向に状態が変化し、図9(C)に示すように、液体マトリックス中の固体導電粒子が電極間に収集即ち捕集する動作が発生する。それによって、オフ状態からオン状態になる動作、即ち矢印Rの方向に状態が変化し、図9(D)に示すように、液体マトリックス中の固体導電粒子が電極間に捕集して元に復帰し、固体導電粒子が電極間でパールチェーン化して導電パス即ち通電(オン)状態になる。図9(D)に示す固体導電粒子が連鎖した状態で自己回復性ヒューズに過電流が流れると、オン状態からオフ状態への動作、即ち矢印Sの方向に状態が変化し、図9(B)に示す状態になる。即ち、この自己回復性ヒューズは、上記の状態が繰り返し行われ、自己回復性ヒューズの機能を果たすことになる。
【0007】
このように、誘電泳動力を用いた自己回復性ヒューズは、固体導電粒子の液体マトリックス中での誘電泳動力を利用して固体導電粒子を効率よく捕集即ち互いに連結させ、図9(A)及び(D)で示すように、電極間を橋絡することによって通電状態を実現し、また、過電流によって図9(B)で示すように、固体導電粒子の蒸発・散開による高抵抗状態の形成による遮断・限流動作を実現することができる。また、自己回復性ヒューズは、例えば、地震や衝突等の機械的な衝撃や振動に対して固体導電粒子の互いの接続状態のパールチェーンが切れることで、電流遮断を行う機械的な衝撃に対する保護素子として利用することができ、防災・衝撃保護用素子として発揮させることができる。機械的な衝撃に対する保護素子としての動作感度は、素子を構成する液体絶縁マトリックスの粘度を変更することや、素子の動作電圧を変更することで変えることができる。
【0008】
しかし、一度そのように構成した後には、感度を容易に変更できず、適用対象に対してその感度要求を満足するにはいくつもの素子を用意する必要があった。それ故、ヒューズ素子の過電流による遮断・限流動作に影響を及ぼすこと無く、かつ、ヒューズ素子の構成を変えることなく簡易に、必要に応じて特性を変化させる手法が望まれていた。
【特許文献1】特許第3955956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、自己回復性ヒューズ(メカニカルヒューズ)への機械的入力に対する動作感度を、ヒューズ素子本体の構成や仕様を変えずに変更する技術を提供することを目的としている。これによって、一つのヒューズ素子で任意の感度を選択的に実現できることになり、自己回復性ヒューズの適用範囲が広がり、ヒューズ動作時に印加された加速度や加速度波形周波数を検知するセンサに応用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
メカニカルヒューズが動作する入力機械力(加速度)の値は、その加速度波形の周波数に依存することがわかった。そこで、ヒューズ素子と、この素子を取り付ける保護対象物の間に加速度波形の周波数を変換する部材を挟んで取り付けることで、動作感度を変更することができるようになる。また反対に、加速度と加速度波形周波数の関係から、メカニカルヒューズ動作時の加速度あるいは加速度波形周波数を求めることができる。
【0011】
本発明の機械的衝撃や振動に対して通電電流を切断するメカニカルヒューズは、過電流に対する遮断動作を行う自己回復性ヒューズを備え、該ヒューズは、絶縁容器内に充填された液体マトリックス中に固体導電粒子を流動分散させると共に互いに対向して電極を配設した構成を有する。前記自己回復性ヒューズを、緩衝材を介在させて取付部材に固着して、外部より伝達する所定値以上の加速度に対して接続状態を切断して電流遮断を行うよう構成した。前記緩衝材の配置は、自己回復性ヒューズの全面又はリード線がある面を除いた全面を緩衝材で被覆するか、若しくは、該自己回復性ヒューズと取付部材の間に挟む。
【0012】
自己回復性ヒューズは、絶縁容器外部に磁界発生部を備えることができ、該磁界発生部より発生する磁界が、前記自己回復性ヒューズに流れる電流と作用して電磁力を発生させて、過電流に対する遮断動作を行う。
【0013】
主回路に接続された遮断回路を備え、該遮断回路は、メカニカルヒューズの遮断を感知して、主回路を遮断し、メカニカルヒューズが一定時間経過後導通状態になっても遮断状態を維持し、かつ遮断回路にリセット信号を入力することによって主回路の遮断状態を解除する。また、メカニカルヒューズに接続される出力回路を備え、該出力回路は、メカニカルヒューズの遮断を感知して、外部装置へ作動指令信号を出力し、メカニカルヒューズが一定時間経過後導通状態になっても該作動指令信号を維持し、出力回路にリセット信号を入力することによって定常状態に復帰する。
【0014】
また、本発明の機械的衝撃や振動に対して通電電流を切断するメカニカルヒューズの感度設定方法は、緩衝材の材質或いは厚さを選択することにより、自己回復性ヒューズを切断する加速度の感度を設定する。感度を下げる場合は金属やガラスを含む硬い緩衝材材質を選択して、加速度波形周波数を上げる方向に周波数変更し、かつ感度を上げる場合にはゴムやプラスチック、衝撃吸収体を含む柔らかい緩衝材材質を選択して、加速度波形周波数を下げる方向に周波数変更する。
【0015】
外部より印加される加速度波形周波数と動作加速度の関係を事前に知っておくことで、所定値の加速度波形周波数を有する加速度が入力される場合にメカニカルヒューズが動作した場合の印加された加速度の大きさを検知する。また、外部より印加される加速度波形周波数と動作加速度の関係を事前に知っておくことで、所定値の加速度が入力される場合にメカニカルヒューズが動作した場合の印加された加速度波形周波数の大きさを検知する。
【発明の効果】
【0016】
従来、ヒューズ素子を構成する液体絶縁マトリックスの粘度或いは素子の動作電圧を所定値に設定した後には、感度を変更できず、適用対象に対してその感度要求を満足するにはいくつもの素子を用意する必要があった。本発明は、ひとつのヒューズ素子に対して加速度波形周波数を変化させる部材を取り付けることで、さまざまな感度に変更することができ、一つの素子の適用範囲が広がる効果がある。
【0017】
緩衝材によって衝撃を緩めると、作動が弱まり、感度が低下するのが一般的であるが、本ヒューズ素子の特性では、衝撃波形の振幅が小さくなっても、その方が作動しやすくなり(感度が上がる)、緩衝材の厚さを変えることによって、この感度を連続的に設定することが可能になる。これによって、機械的入力の加速度の大きさや加速度波形の周波数をセンシングできるセンサ、及びコンパクトでシンプルな安全装置のセンサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明に基づき構成したメカニカルヒューズを例示する縦断面図(A)、及び図中のa−a’ラインで切断した断面図(B)である。図示の構成は、断面が長方形であるが、丸状の断面形状でもよい。自己回復性ヒューズとそれを取り付ける取付部材の間に緩衝材を介在させた状態で、自己回復性ヒューズを取付部材に固着する。この緩衝材の配置は、自己回復性ヒューズのリード線がある面を除いた全面を緩衝材で被覆した例を示しているが、リード線がある面を含め全面被覆にしても良い。また、緩衝材の配置は下面のみでも良く、その場合は自己回復性ヒューズと緩衝材を接着剤等で取付部材に固着する。図中に示すXYZは、後述する衝撃力の方向を示している。
【0019】
本発明のメカニカルヒューズは、主構成要素として自己回復性ヒューズを用いて過電流に対する遮断・限流動作を行うだけでなく、印加機械力に対して接続状態を切断して電流遮断を行うよう機能する。自己回復性ヒューズ自体は、上述した特許文献1に記載のような公知の構成とすることができる。図示の自己回復性ヒューズは、絶縁容器内に充填された液体マトリックス中に固体導電粒子を流動分散させると共に互いに対向して電極を配設して自己回復性ヒューズを構成している。電極間の電圧印加で発生する固体導電粒子の誘電泳動力によって、固体導電粒子を電極間に捕集して電極間を橋絡する通電状態と、液体マトリックス中での固体導電粒子の蒸発・散開による遮断・限流状態とを繰り返し実現する。
【0020】
このように、電極間に過電流が流れると、固体導電粒子を蒸発・散開させることにより高抵抗状態を形成して、遮断・限流動作を実現するが、この遮断・限流動作に加えて、自己回復性ヒューズ(ヒューズ素子)は、機械的な衝撃に対する保護素子として利用する。例えば、地震や衝突等の機械的な衝撃や振動(機械力)に対して固体導電粒子の互いの接続状態のパールチェーンが切れることで、電流遮断を行う。
【0021】
自己回復性ヒューズをオフさせる機械力の感度は、印加される機械力の加速度の時間変化、即ち加速度波形の周波数を変化させることにより変更する。この機械力の感度を変更する手段として、緩衝材(周波数変更部材)を用いる。緩衝材をヒューズ素子とその取付部材の間に挟んだ状態で、ヒューズ素子を取り付ける。この緩衝材の材質或いは厚さを選択することにより、自己回復性ヒューズを切断する機械力の感度を設定する。
【0022】
周波数変更部材は、感度を下げる場合は金属やガラスなどの硬い物体を選択する。即ち、同一加速度に対してオフさせる機械力感度を下げる場合には加速度波形周波数を上げる方向に周波数変更する。また、周波数変更部材は、感度を上げる場合にはゴムやプラスチック、衝撃吸収体などの柔らかい物体を選択する。即ち、同一加速度に対してオフさせる機械力感度を上げる場合には加速度波形周波数を下げる。
【0023】
このように、ヒューズ素子をオフするに必要な動作加速度と加速度波形周波数の間には所定の関係がある。それ故、加速度波形周波数と動作加速度の関係を事前に知っておくことで、一定周波数の加速度が入力される場合にメカニカルヒューズが動作した場合の印加された加速度の大きさを知ることができる。また、加速度波形の周波数と動作加速度の関係を事前に知っておくことで、一定加速度が入力される場合にメカニカルヒューズが動作した場合の印加された加速度波形の周波数の大きさを知ることができる。
【0024】
段階的なオフ衝撃加速度の設定は、使用する液体マトリックス(例えば、オイル)の粘度の違いによって、衝撃に対してオフ衝撃加速度が変わってくることを利用して行うことができる。緩衝材はヒューズ素子が出来た後の微調整に使用することによって、実使用に対応でき、コンパクトでシンプルな安全装置のセンサを提供できる。
【0025】
印加される機械力の加速度波形の周波数に応じて当該メカニカルヒューズの動作加速度が変化することを考慮して、周波数変更部材を取り付けない場合には、可能性のある入力加速度波形の周波数範囲で入力加速度(機械力)の動作感度を設定する。
【0026】
図2に測定装置を例示し、(A)は側面図を、(B)は上面図を示している。緩衝材で被覆した自己回復性ヒューズに外部から衝撃を加えたときにオフする衝撃加速度の値が、緩衝材の違いによりどのように変化するかの測定を行った。使用した自己回復性ヒューズの仕様は以下の通りである。
【0027】
電極:Cu電極 ギャップ長600mm、導電粒子:Cu粒子 粒径〜150mm、液体絶縁マトリックス:シリコーン油 動粘性係数10mm2/s、ON抵抗値は一定の範囲内(3〜4W)(OFF特性にはON抵抗依存性がある)、印加電圧はVa=10V。
【0028】
使用した緩衝材は、以下の通りである。布(固定)、布(自由)、発泡スチロール、αゲル(1mm)、αゲル(3mm)。ここで、布(固定)とは、図2に示すように、布の裏全面をテープで支持台(取付部材)と固定した場合であり、布(自由)とは、布の四隅のみをテープで支持台と固定させた場合である。また、αゲルとは、シリコーンを主原料とする非常に柔らかいゲル状素材であり、株式会社ジェルテックで取り扱う製品の中の「θゲル-5」を使用した(厚さ:1mm, 3mm)。
【0029】
衝撃は、図示のように、振り子おもりによって加えた。印加した衝撃の方向は、図示のように、一対の電極を結ぶラインに直交するX方向とした。このX方向が最も感度が高かったが、Y方向或いはZ方向に衝撃を印加しても、ヒューズ素子はオフ動作可能である。自己回復性ヒューズに加えられる加速度は、加速度センサにより測定した。また、加速度の時間変化波形をオシロスコープ(図示省略)で測定し、周波数は時間変化波形の周期から計算で求めた。
【0030】
図3は、各緩衝材毎の振り子の角度θ(図2(A))に対する衝撃加速度(m/s)を示すグラフである。例えば緩衝材が「αゲル1mm」の場合、振り子の角度θが40度のとき、衝撃加速度は80 m/s2弱程度であり、「緩衝材なし」の場合は、振り子の角度θが40度のとき、衝撃加速度は380 m/s程度である。
【0031】
図4は、上記の緩衝材毎のヒューズ素子のOFF転移加速度特性試験結果を示すグラフである。上記の緩衝材を用いて、異なる周波数の衝撃を加えたときの自己回復性ヒューズのOFF特性を示している。図2に示したような振り子おもりにより、同一の衝撃を加えても、緩衝材(物質)が異なると、周波数が変化した。これは、物質固有の音響インピーダンスがことなるために、波形、即ち周波数が異なるものと考えられる。衝撃による波形は原理的に種々の周波数が組み合わされたものとなるが、基板や緩衝材質などの振動は、主に、その物質固有の周波数で揺れることになる。衝撃振動は縦波で、進行方向に粗密があるために、概念的には、物質自身が揺れ、かつ、その揺れ方は堅い物は周波数が高く、柔らかい物は周波数が低くなる。
【0032】
オフ衝撃加速度とは、緩衝材で被覆した自己回復性ヒューズに外部から衝撃を加えたときにオフする加速度の値を意味している。この図より、オフするに必要な加速度と周波数の関係は、二次曲線を近似したようなカーブとなることを示している。即ち、自己回復性ヒューズがOFF転移する加速度は、低周波数の衝撃ほど低いことが示された。どの緩衝材材料も緩衝材無しよりも低い値で、OFF転移を示している。即ち、緩衝材で被覆することにより感度を高くすることができる。緩衝材を入れることで衝撃加速度自体は低下するが、しかし、加速度の低下よりも、周波数の低下により動作感度が上がることが、図4より読み取ることができる。言い換えると、同一の加速度であれば、周波数が低い衝撃の方がオフしやすいことになる。
【0033】
このように、自己回復性ヒューズを切断する加速度の感度は、緩衝材の材質に依存して変化するが、さらに、緩衝材の厚さによっても変化する。以下の表1及び図5は、αゲルの厚さとオフ衝撃加速度の関係を示す試験結果の表及びグラフである。例えば、緩衝材「αゲル1mm」を使用した場合に、緩衝材外部からの衝撃の加速度は380 m/s2程度でオフすることを意味する。この試験結果から分かるように、αゲルで被覆した自己回復性ヒューズに外部から衝撃を加えたときにオフする衝撃加速度の値は、緩衝材厚さに対してほぼ直線の特性が確認できた。
【0034】
【表1】

【0035】
図6は、本発明のメカニカルヒューズに用いることのできる自己回復性ヒューズの別の例を示す図であり、(A)はオン維持定常状態を示し、(B)及び(C)は過電流時及び切断時の動作をそれぞれ説明する図である。図示の自己回復性ヒューズは、非磁性材料の絶縁容器内に、非磁性材料の液体マトリックスを収容し、液体マトリックスを介して互いに対向する電極を設置する。液体マトリックス中には、導電性を有する固体粒子を流動分散させる。絶縁容器の内側に固定されている一対の電極には、それぞれ外部からの配線が接続されることになる。以上に加えて、図示の自己回復性ヒューズには、絶縁容器外部に磁界発生部を備える。
【0036】
磁界発生部は、発生する磁界が、過電流によりヒューズ素子(固体粒子の連鎖)に流れる電流と作用して発生する電磁力が、ヒューズ素子を切断するか、ヒューズ素子を電極外に押し出す方向に配置する。図6において、ヒューズ素子と直交する方向の成分を有する磁界が紙面のおもて面から裏面方向に発生するように、磁界発生部は配置されている。この磁界は、ヒューズ素子と直交する方向の成分が、十分な値を有していれば良いが、発生磁界をヒューズ素子と直交させることにより効率よく作用させることができる。磁界発生部としては、永久磁石或いはコイルを用いることができる。
【0037】
図6(A)に示すオン維持定常状態で、電源(図示省略)からの電力が、図示の自己回復性ヒューズを介して、負荷(図示省略)に供給されている。このため、この自己回復性ヒューズの電極間に電圧が印加されている。このとき、液体マトリックス中の固体粒子が導電性を有するために、この固体粒子には誘電泳動力FDEP が作用する。これによって、図6(A)に示すように、導電性を有する固体粒子が互いに連続して接続され、導電パス(ヒューズ素子)を形成する。このとき、磁界発生部により紙面のおもて面から裏面方向に発生した磁界強度Bと、ヒューズ素子に流れる電流Iとの相互作用により、そのいずれにも直交する方向の電磁力Fが働く。この電磁力Fは、電極間の距離に相当するヒューズ素子の長さをLとして、F=IBLであることが知られているように、流れる電流値Iに比例する。それ故、磁界発生部の磁界強度B、及び液体マトリックスの粘度などを適切に予め設定しておくことにより、オン維持定常状態では、電磁力Fが、導電パスを切断する程には大きくならないようにしておく。
【0038】
図6(A)に示すオン維持定常状態では、液体マトリックス中の固体粒子の誘電泳動力FDEP によって、固体粒子を効率よく電極間に収集即ち捕集し、固体粒子同士が連鎖する現象が発生し、固体粒子がパールチェーン化して導電パスが形成され、オン(ON)即ち通電状態になる。
【0039】
次に、図6(B)に示すように、自己回復性ヒューズに過電流I’が流れたとする。このとき、導電性を有する固体粒子に作用して、過電流に比例して発生する大きな電磁力Fが、固体粒子の連鎖により構成されるヒューズ素子を切断するか、或いは、電極外に押し出す。
【0040】
図6(C)は、このようにして、ヒューズ素子が切断された状態を示している。電流路は切断されているが、電極間に電源からの電圧は依然として印加されている。この状態では、液体マトリックス中で浮遊状態の固体粒子に誘電泳動力FDEP が働いて固体粒子が電極間に捕集されて橋絡即ち連鎖し、再び、図6(A)に示す通電即ちオン状態になる。
【0041】
このような自己回復性ヒューズもまた、図1に示したように、緩衝材で被覆することによりメカニカルヒューズを構成することができる。
【0042】
図7は、主回路(主配線)を遮断する配線例を示す図である。上述したような構成を有するメカニカルヒューズは、遮断後、誘電泳動力によって一定時間経過後導通状態になる。遮断回路は、メカニカルヒューズの遮断を感知して、主回路を遮断し、メカニカルヒューズが一定時間経過後導通状態になっても遮断状態を維持する。遮断回路にリセット信号を入力することによって主回路の遮断状態を解除する。
【0043】
図8は、外部装置へ作動指令を出す配線例を示す図である。メカニカルヒューズは、遮断後、誘電泳動力によって一定時間経過後導通状態になる。出力回路は、メカニカルヒューズの遮断を感知して、エアバッグ等の外部装置へ作動指令信号(出力信号)を出力し 、メカニカルヒューズが一定時間経過後導通状態になっても信号を維持する。出力回路にリセット信号を入力することによって定常状態に復帰する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に基づき構成したメカニカルヒューズを例示する縦断面図(A)、及び図中のa−a’ラインで切断した断面図(B)である。
【図2】測定装置を例示し、(A)は側面図を、(B)は上面図を示している。
【図3】各緩衝材毎の振り子の角度θに対する衝撃加速度(m/s)を示すグラフである。
【図4】緩衝材毎のヒューズ素子のOFF転移加速度特性試験結果を示すグラフである。
【図5】αゲルの厚さとオフ衝撃加速度の関係を表すグラフである。
【図6】本発明のメカニカルヒューズに用いることのできる自己回復性ヒューズの別の例を示す図であり、(A)はオン維持定常状態を示し、(B)及び(C)は過電流時及び切断時の動作をそれぞれ説明する図である。
【図7】主回路を遮断する配線例を示す図である。
【図8】外部装置へ作動指令を出す配線例を示す図である。
【図9】特許文献1に記載の誘電泳動力を用いた自己回復性ヒューズ(ヒューズ素子)の動作を説明する図であり、(A)〜(D)はヒューズ素子のそれぞれ異なる状態を示している。
【図10】液体マトリックス中における固体導電粒子に働く誘電泳動力について説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的衝撃や振動に対して通電電流を切断するメカニカルヒューズにおいて、
過電流に対する遮断動作を行う自己回復性ヒューズを備え、該ヒューズは、絶縁容器内に充填された液体マトリックス中に固体導電粒子を流動分散させると共に互いに対向して電極を配設した構成を有し、
前記自己回復性ヒューズを、緩衝材を介在させて取付部材に固着して、外部より伝達する所定値以上の加速度に対して接続状態を切断して電流遮断を行うよう構成した、
ことから成るメカニカルヒューズ。
【請求項2】
前記緩衝材の配置は、自己回復性ヒューズの全面又はリード線がある面を除いた全面を緩衝材で被覆するか、若しくは、該自己回復性ヒューズと取付部材の間に挟んだ請求項1に記載のメカニカルヒューズ。
【請求項3】
前記自己回復性ヒューズは、絶縁容器外部に磁界発生部を備え、該磁界発生部より発生する磁界が、前記自己回復性ヒューズに流れる電流と作用して電磁力を発生させて、過電流に対する遮断動作を行う請求項1に記載のメカニカルヒューズ。
【請求項4】
主回路に接続された遮断回路を備え、該遮断回路は、メカニカルヒューズの遮断を感知して、主回路を遮断し、メカニカルヒューズが一定時間経過後導通状態になっても遮断状態を維持し、かつ遮断回路にリセット信号を入力することによって主回路の遮断状態を解除する請求項1に記載のメカニカルヒューズ。
【請求項5】
メカニカルヒューズに接続される出力回路を備え、該出力回路は、メカニカルヒューズの遮断を感知して、外部装置へ作動指令信号を出力し 、メカニカルヒューズが一定時間経過後導通状態になっても該作動指令信号を維持し、出力回路にリセット信号を入力することによって定常状態に復帰する請求項1に記載のメカニカルヒューズ。
【請求項6】
機械的衝撃や振動に対して通電電流を切断するメカニカルヒューズの感度設定方法において、
過電流に対する遮断動作を行う自己回復性ヒューズを備え、該ヒューズは、絶縁容器内に充填された液体マトリックス中に固体導電粒子を流動分散させると共に互いに対向して電極を配設した構成を有し、
前記自己回復性ヒューズを、緩衝材を介在させて取付部材に固着して、外部より印加される所定値以上の加速度に対して接続状態を切断して電流遮断を行うよう構成し、
前記緩衝材の材質或いは厚さを選択することにより、前記自己回復性ヒューズを切断する加速度の感度を設定することから成るメカニカルヒューズの感度設定方法。
【請求項7】
前記感度を下げる場合は金属やガラスを含む硬い緩衝材材質を選択して、加速度波形周波数を上げる方向に周波数変更し、かつ、前記感度を上げる場合にはゴムやプラスチック、衝撃吸収体を含む柔らかい緩衝材材質を選択して、加速度波形周波数を下げる方向に周波数変更する請求項6に記載のメカニカルヒューズの感度設定方法。
【請求項8】
外部より印加される加速度波形周波数と動作加速度の関係を事前に知っておくことで、所定値の加速度波形周波数を有する加速度が入力される場合にメカニカルヒューズが動作した場合の印加された加速度の大きさを検知する請求項6に記載のメカニカルヒューズの感度設定方法。
【請求項9】
外部より印加される加速度波形周波数と動作加速度の関係を事前に知っておくことで、所定値の加速度が入力される場合にメカニカルヒューズが動作した場合の印加された加速度波形周波数の大きさを検知する請求項6に記載のメカニカルヒューズの感度設定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−164063(P2009−164063A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2732(P2008−2732)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(000102429)エス・オー・シー株式会社 (6)
【Fターム(参考)】