説明

メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマー、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法及び識別方法

【課題】メガスファエラ(Megasphaera)属細菌のすべての菌種を簡易に、かつ、迅速に検出するための技術の提供。
【解決手段】特定の塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、別の特定の塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを、被検DNAを鋳型としてPCR反応を行い、反応後のPCR増幅産物を電気泳動し、DNAバンドのパターンによりメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の有無を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマー、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法及び識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メガスファエラ(Megasphaera)属細菌はグラム陰性偏性嫌気球菌であり、増殖速度が遅いために培養法による検出が非常に困難な細菌群である。本微生物群は、現在までにメガスファエラ・セレビシエ(Megasphaera cerevisiae)、メガスファエラ・エルスデニー(Megasphaera elsdenii)、メガスファエラ・ミクロヌシフォルミス(Megasphaera micronuciformis)、メガスファエラ・スエシエンシス(Megasphaera sueciensis)、メガスファエラ・パウシボランス(Megasphaera paucivorans)の5菌種が知られている。
【0003】
M.セレビシエ(M. cerevisiae)、M.スエシエンシス(M.sueciensis)、M.パウシボランス(M.paucivorans)は醸造工程の汚染菌として知られている。特にM.セレビシエ (M. cerevisiae)は、ビール醸造工程でビール混濁の原因菌として頻繁に問題となっている。M.ミクロヌシフォルミス(M. micronuciformis)は人臨床試料から検出されており、特に培養が困難な菌種である。M.エルスデニー(M. elsdenii)は人畜共通の腸内細菌として知られている他、有機性廃棄物の嫌気的処理過程においてもしばしば検出される。このようにメガスファエラ(Megasphaera)属細菌は、食品、医療、畜産および環境技術の分野において非常に重要な微生物であることから、本微生物を監視測定するための培養および検出技術が古くから研究されている。
【0004】
例えば、特開2002−125677号公報(特許文献1)には、ビール有害菌であるメガスファエラ・セレビシエ(Megasphaera cerevisiae)の検出、または該細菌の同定、または該細菌の定量を目的として、メガスファエラ・セレビシエ(Megasphaera cerevisiae)の23S rRNAをコードする遺伝子の遺伝子配列を用いる旨が開示されている。
【0005】
また、特開2001−145492号公報(特許文献2)には、メガスファエラ(Megasphaera)属菌を選択的に検出するため、ペクチネータス属菌の16S rDNAならびに16S rRNAを標的とする配列を有する一本鎖オリゴヌクレオチドが開示されている。
【0006】
また、特開平10−323190号公報(特許文献3)には、検体中に存在するメガスファエラ・セレビシエ(Megasphaera cerevisiae)菌を選択的に検出するため、5’-CTGCCGGACTGGAGTGTC-3’ 5’-CAGGATATCTCTATCCCTGG-3’の少なくとも一つを有するか、または対応する相補的配列を有することを特徴とするオリゴヌクレオチドを使用する微生物検出用オリゴヌクレオチド及びそのオリゴヌクレオチドを使用する微生物検出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−125677号公報
【特許文献2】特開2001−145492号公報
【特許文献3】特開平10−323190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出技術は、メガスファエラ・セレビシエ(Megasphaera cerevisiae)、メガスファエラ・エルスデニー(Megasphaera elsdenii)、メガスファエラ・ミクロヌシフォルミス(Megasphaera micronuciformis)、メガスファエラ・スエシエンシス(Megasphaera sueciensis)、メガスファエラ・パウシボランス(Megasphaera paucivorans)の5菌種のうち、いずれか1種に特異的な遺伝子配列をプローブとして使用し、遺伝子工学の手法を用いてハイブリダイズした被検対象微生物を同定する手法を採用していた。従って、検体中にメガスファエラ(Megasphaera)属細菌が2種類以上存在する場合は、ターゲットとなる遺伝子配列を変えて、別途、検出操作を行う必要があった。
【0009】
しかしながら、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌による汚染のリスクを軽減するには、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌のうち、ある特定の一種類のみ検出できてもそのリスクを完全に払拭したことにはならない。また、検出方法も迅速な方法でなければ、実用的な検出技術として利用することは難しい。
【0010】
そこで本発明の第一の目的は、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌のすべての菌種を簡易に、かつ、迅速に検出するための技術を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明の第二の目的は、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌のすべての菌種を簡易に、かつ、迅速に識別するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、メガスファエラ(Megasphaera)5菌種の純粋菌株からDNAを抽出後、16S rDNAのほぼ全長を解読し、近縁菌種との相関性を比較した。この結果に基づいてメガスファエラ(Megasphaera)属細菌に特異的かつ長鎖の増幅産物を得ることが可能なプライマーを見出し、このプライマーを用いてメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の存在の有無の検出や種の識別が可能となった。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、配列番号:1に示される塩基配列を含む、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーを提供するものである。
【0013】
また、本発明は、配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを、被検DNAを鋳型としてPCR反応を行い、反応後のPCR増幅産物を電気泳動し、DNAバンドのパターンによりメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の有無を検出する、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法を提供するものである。
【0014】
さらに、本発明は、配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを、被検DNAを鋳型としてPCR反応を行い、反応後のPCR増幅産物を制限酵素でフラグメント化し、これを電気泳動により分子量分画し、DNAバンドのパターンによりメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の種類を識別する、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマー、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法によれば、メガスファエラ(Megasphaera)属の5種類の細菌の有無を迅速に検出することが可能である。また、本発明のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法によれば、本発明のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマー、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法で検出後、制限酵素処理を組み合わせることで、メガスファエラ(Megasphaera)
属を種レベルまで識別することが可能となる。簡便かつ短時間で正確に複合微生物中のメガスファエラ(Megasphaera)属菌種の検出と識別が可能になることは、食品、畜産、医療、環境技術など多岐の産業分野において非常に有益である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Primer Mega Xを利用して食品残さに存在するメガスファエラ(Megasphaera)属細菌を検出した電気泳動パターンを示す図である。
【図2】Primer Mega Xと制限酵素を利用して各メガスファエラ(Megasphaera)属細菌を識別した電気泳動パターンを示す図である。
【図3】メガスファエラ(Megasphaera)属の各細菌のPCR増幅産物における制限酵素MspI及びMseIの制限サイトを図示したものである。
【図4】PCR増幅産物を制限酵素MspI及びMseIでフラグメント化した際の制限長の差異を図示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、配列番号:1に示される塩基配列を含む、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーを提供するものである。
【0018】
配列番号:1に示される塩基配列は19bpからなるオリゴヌクレオチドであり、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行う際に、16S rDNAの複製開始点となる相補的オリゴヌクレオチドとしての役割を果たす。
【0019】
配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーは、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌のDNAとの特異性が高く、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌を除いて最も相関性の高いクリセオバクテリウム(Chryseobacterium)属細菌に対しても、30%以上ものミスマッチを持つ。また、配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーはメガスファエラ(Megasphaera)属細菌に対して非常に高い特異性を有するため、例えば、土壌や食品残さのように、複雑な細菌叢を形成している試料からも、高い確率でメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出が可能となる。
【0020】
配列番号:1に示される塩基配列は、天然の核酸分子から得ることもできるし、遺伝子組換えや化学合成によっても得ることができる。
【0021】
配列番号:1に示される塩基配列を含む、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーを使用してPCRを行う際は、他のオリゴヌクレオチドと共に、プライマーセットとして使用される。
【0022】
本実施形態において、プライマーセットとして使用される他のオリゴヌクレオチドとしては、配列番号:2に示される塩基配列を含む、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーが好ましい。
【0023】
配列番号:2に示される塩基配列は20bpからなるオリゴヌクレオチドであり、配列番号:1に示される塩基配列と共に、プライマーセットとして使用される。
【0024】
配列番号:2に示される塩基配列は、天然の核酸分子から得ることもできるし、遺伝子組換えや化学合成によっても得ることができる。
【0025】
上記のプライマーセットはキット化することもできる。本実施形態のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用キットは、配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを少なくとも含むものであればよく、必要に応じて、PCRの陽性コントロールとなる標的配列を含むDNA分子、DNA抽出用試薬、PCR用緩衝液やDNAポリメラーゼ等のPCR用試薬(プライマーセットを除く)、SYBR Green等を用いたReal time PCR試薬、染色剤や電気泳動用ゲル等の検出用試薬、説明書などを含んでいてもよい。
【0026】
本発明はまた、配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを、被検DNAを鋳型としてPCR反応を行い、反応後のPCR増幅産物を電気泳動し、DNAバンドのパターンによりメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の有無を検出する、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法を提供するものである。
【0027】
配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとからなるプライマーセットを使用してPCRを実施することにより、被検試料に含まれているメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の16S rDNAの約1200pbを増幅することができる。そして、その後は定法通りPCR増幅産物を電気泳動しDNAバンドのパターンを染色法等により視覚化することで、被検試料にメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の有無を簡易に検出することができる。
【0028】
本実施形態のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法によれば、わずか数時間(3〜4時間)でサンプル中のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の存在の有無が検出することができるため、迅速かつ精度の高い検出方法として有用である。
【0029】
この際のPCRの鋳型としては特に制限はなく、例えば、培養菌体もしくは分析用試料から抽出及び精製されたDNA、培養菌体もしくは分析用試料から熱抽出しただけのDNAなどを使用することができる。
【0030】
本発明はさらに、配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを、被検DNAを鋳型としてPCR反応を行い、反応後のPCR増幅産物を制限酵素でフラグメント化し、これを電気泳動により分子量分画し、DNAバンドのパターンによりメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の種類を識別する、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法を提供するものである。
【0031】
本発明の実施形態に係るメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法は、先述したメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法において、配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとからなるプライマーセットを使用してPCRを実施することにより、被検試料に含まれているメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の16S rDNAの約1200pbを増幅する。そして、反応後のPCR増幅産物をある特定の制限酵素でフラグメント化し、これを電気泳動により分子量分画し、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の各種の特定の電気泳動パターンを得ることによって、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の種類を識別することができる。
【0032】
メガスファエラ(Megasphaera)属細菌は、現在までにメガスファエラ・セレビシエ(Megasphaera cerevisiae)、メガスファエラ・エルスデニー(Megasphaera elsdenii)、メガスファエラ・ミクロヌシフォルミス(Megasphaera micronuciformis)、メガスファエラ・スエシエンシス(Megasphaera sueciensis)、メガスファエラ・パウシボランス(Megasphaera paucivorans)の5菌種が知られている。
【0033】
前記制限酵素は、MspI及びMseIであることが好ましい。図3に示すように、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌のPCR増幅産物は、その菌種特有の制限酵素MspI及びMseIの複数の制限サイトを有している。そのため、MspI及びMseIを使用してPCR増幅産物をフラグメント化することで、各メガスファエラ(Megasphaera)属細菌に特有の制限酵素断片(フラグメント)が形成される。図4は、そのPCR増幅産物を制限酵素MspI及びMseIでフラグメント化した際の制限長の差異を図示したものである。
【0034】
本実施形態のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法は、これを電気泳動により分子量分画し、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の各種の特定の電気泳動パターンを得ることによって、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の種類を識別することができるのである。
【0035】
本実施形態のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法によれば、わずか数時間(4〜5時間)でサンプル中のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の種類を識別することができるため、迅速かつ精度の高い識別方法として有用である。
【0036】
この際のPCRの鋳型としては特に制限はなく、例えば、培養菌体もしくは分析用試料から抽出及び精製されたDNA、培養菌体もしくは分析用試料から熱抽出しただけのDNAなどを使用することができる。
【実施例】
【0037】
1.Primer Mega Xを用いたPCR法によるメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の迅速検出
本実施例では、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌を培養法を経ることなく、環境試料中や醸造工程などの食品製造過程から迅速に検出するための技術確立を目的とした。
【0038】
(1)方法
メガスファエラ(Megasphaera)属5菌種の純粋菌株からDNAを抽出後、16S rDNAのほぼ全長を解読し、近縁菌種との相関性を比較した。この結果に基づいてメガスファエラ(Megasphaera)属細菌に特異的かつ長鎖の増幅産物を得ることが可能なPrimer Mega-1F(配列番号:2)とPrimer Mega-1R(配列番号:1)の混合物(以下、「Primer Mega X」と称する)を調製した。
【0039】
調製したPrimer Mega Xを用いてメガスファエラ(Megasphaera)属5菌種の特異的検出と環境試料からの直接検出を試みた。PCRは全長50μlの反応溶液で行い、以下のように調整した。なお、環境試料としては、土壌および食品残さの溶解槽出口液、酸生成槽内液、メタン発酵槽内液を使用した。土壌は1gを採取し、滅菌精製水9mlに懸濁後、この上澄み1mlを採取して熱抽出処理に供した。食品残さの溶解槽出口液、酸生成槽内液、メタン発酵槽内液は各々1mlを採取して熱抽出処理に供した。熱抽出は1.5ml容のマイクロ遠心チューブを用い、これに各試料1mlを加えて100℃、10分の加熱処理の後氷冷した。その後、遠心分離機にて10,000×g、5分の遠心分離を行い、この上澄みをPCR用の鋳型DNAとした。
【0040】
Go Taq(Promega社製)を25μl、 Primer Mega X(Primer Mega-1FとPrimer Mega-1R を各々10pMμl-1含む混合物)5μl 、1%BSAを5μl、ddH2Oを14μlおよび複合微生物系の試料もしくは培養菌体から抽出したDNAを鋳型として1μl加えた。これをサーマルサイクラー(PTC-200:MJ Research)にセットし、表1の条件でPCR反応を行った。反応後の増幅産物は精製を行わずに直接1%のアガロースゲルで20分間電気泳動してエチジウムブロマイドで染色後、UVトランスイルミネータで検出した。
【0041】
【表1】

【0042】
(2)結果
図1はPrimer Mega Xを利用して各環境試料に存在するメガスファエラ(Megasphaera)属細菌を検出した電気泳動パターンを示す図である。なお、図1中、c, sのバンドとp, e, mのバンドは、メガスファエラ(Megasphaera)属の各細菌の電気泳動パターンを示す。両者は分子量マーカーのλ Hind IIIを基準にすると、ほぼ同じ位置に出現していることがわかる。また、M, A, B, C, Dのバンドは、環境試料A:東京農業大学内の土壌、環境試料B: 食品残さの溶解槽出口液、環境試料C:食品残さの酸生成槽内液、環境試料D:食品残さのメタン発酵槽内液からそれぞれ抽出したサンプルを電気泳動したパターンを示す。
【0043】
図1に示すように、Primer Mega Xは、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌各々の16S rDNAの約1,200bpを増幅可能であった。そして、環境試料BCDは、c、s、p、e、mと同じ位置に検出されているといえるため、環境試料BCDには5種のMegasphaera属菌種のうち、いずれかが存在することが判明した。また、この際のPCRの鋳型用DNAとしては、抽出および精製されたDNA、培養菌体、培養菌体から熱抽出しただけのDNAのいずれも適していた。このとから、Primer Mega Xを用いることでメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の迅速検出の可能性が考えられた。
【0044】
また、環境試料として食品残さの酸発酵過程からの核酸を熱抽出後、精製工程を経ずにPrimer Mega Xを用いたPCRを行ったところ、増幅産物が確認された。この増幅産物の遺伝子解列を解読したところ、メガスファエラ・エルスデニー(Megasphaera elsdenii)であることが確認された。また、食品残さの酸発酵過程には乳酸菌やその他のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌に近縁の細菌群が豊富に存在することも確認されている。
【0045】
このように、 Primer Mega Xは複雑な複合微生物系からメガスファエラ(Megasphaera)属だけを特異的に検出することが可能であった。
【0046】
本実施例によれば、DNAの抽出からPCRおよび電気泳動によるPCR産物の検出までを3時間以内に完了できる。さらに、BLASTサーチを行った結果、Primer Mega-1F(配列番号:2)とPrimer Mega-1R(配列番号:1)のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌に対する特異性は高く、特にPrimer
Mega-1R(配列番号:1)はメガスファエラ(Megasphaera)属以外の微生物には高い頻度でミスマッチを有する(最も近いもので6ミスマッチ)。このため、Primer Mega-1R(配列番号:1)は、PCR-DGGE(PCR-denaturing gradient gel electrophoresis)法におけるPrimerやFISH(fluorescence in situ hybridization)法における蛍光標識Primerとして利用することも可能である。
【0047】
2.制限酵素処理によるMegaspaera 属細菌の菌種識別方法
本実施例では、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の5菌種を、遺伝子配列決定などの方法を使用せずに迅速に識別する技術を確立することを目的とした。
【0048】
(1)方法
Primer Mega Xを用いたPCR法により、メガスファエラ(Megasphaera)属5菌種の16S rDNAを特異的に増幅させた。次いで、PCR増幅産物を制限酵素MseIとMspIによりフラグメント化した。PCR産物10μlにMspI(TAKARA社製)、MseI(New ENGLAND BioLabs社製)、NE buffer2、10×BSAおよび精製水を各々2μl加え、37℃で1時間制限処理を行った。これを2〜3%のアガロースゲル(Gene Pure 3:1)電気泳動によって分子量分画することで、個々の菌種のバンドプロファイルを得た。なお、電気泳動後のアガロースゲルは、エチジウムブロマイドで染色し、UVトランスイルミネータを用いてバンドプロファイルを検出した。
【0049】
(2)結果
図2はPrimer Mega Xと制限酵素を利用して各メガスファエラ(Megasphaera)属細菌を識別した電気泳動パターンを示す図である。図2に示すように、制限酵素により形成される断片長と断片数の差異から、個々の菌種を識別することが可能であった。このように、Primer Mega Xを用いたPCRと、制限酵素MseIとMspIを用いることによりメガスファエラ(Megaspaera)属の5菌種を迅速に検出し、種レベルで識別することが可能であった。
【0050】
なお、この結果はin silicoによるフラグメントパターン予測と概ね一致する結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1に示される塩基配列を含む、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマー。
【請求項2】
配列番号:1に示される塩基配列を含むプライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むプライマーとからなる、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用のプライマーセット。
【請求項3】
請求項2に記載のプライマーセットを含む、メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用キット。
【請求項4】
配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを、
被検DNAを鋳型としてPCR反応を行い、
反応後のPCR増幅産物を電気泳動し、
DNAバンドのパターンによりメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の有無を検出する、
メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法。
【請求項5】
前記被検DNAが16S rDNAである、請求項4に記載のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出方法。
【請求項6】
配列番号:1に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーと、配列番号:2に示される塩基配列を含むメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の検出用プライマーとを、
被検DNAを鋳型としてPCR反応を行い、
反応後のPCR増幅産物を制限酵素でフラグメント化し、
これを電気泳動により分子量分画し、
DNAバンドのパターンによりメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の種類を識別する、
メガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法。
【請求項7】
前記制限酵素がMspI及びMseIである、請求項6に記載のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法。
【請求項8】
前記被検DNAが16S rDNAである、請求項6又は7に記載のメガスファエラ(Megasphaera)属細菌の識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−67101(P2011−67101A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218822(P2009−218822)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【Fターム(参考)】