説明

メガネレンズの製造方法

【課題】有機反射防止層形成時に、レンズ基材にクラックが発生することを未然に防止することができ、レンズ基材を無駄にすることがないメガネレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】反射防止層形成用組成物32の塗布工程の後、ハードコート付レンズ20の表面の外周端部に形成された焼成前塗布層33の液だまり34の形状を評価し、液だまり34のレンズ基材の光軸に略垂直な方向の幅である液だまり幅aが、所定の長さ以下の焼成前レンズ30を適合レンズとし、液だまり幅aが、所定の長さを超える焼成前レンズ30を不適合レンズとし、適合レンズには焼成工程を施し、不適合レンズからは焼成前塗布層33を除去して再生ハードコート付レンズとし、再度塗布を施すことを特徴とするメガネレンズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にハードコート層および反射防止層を有するメガネレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、ガラスレンズに比べて軽量であり、成形性、加工性、染色性などに優れ、割れにくく安全性が高いため、特に、メガネレンズ分野において急速に普及し、その大部分を占めている。しかし、プラスチックレンズはガラスレンズに比べて傷つき易いため、一般に、レンズ基材の表面にハードコート層を形成し、表面硬度を向上させている。また、表面反射を防止する目的でハードコート層上に反射防止層が設けられる。さらに、反射防止層上に防汚層を形成することも多い。
【0003】
ハードコート層、反射防止層、防汚層などの機能性薄層は、原料となる組成物をレンズ基材の表面に塗布する塗布工程と、加熱や紫外線照射などの適宜の方法で塗布された原料組成物を硬化させる硬化工程とにより形成される。レンズ基材への原料組成物の塗布は、ディッピング法、スピンコーティング法などにより行われるが、このような方法においては、図11に示すように、レンズ基材701の端部に原料組成物702が肉厚に塗布された液だまり703が発生しやすい。
そこで、液だまりの発生を防止する方法や装置などが種々提案されている。例えば、特許文献1には、レンズ基材と支持部との接触状態を制御することにより、液だまりの発生を防止しつつレンズ基材に原料組成物を塗布するレンズ保持装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−234301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の液だまり防止方法においては、液だまりを発生しにくくする効果は確かに得られるものの、液だまりの発生を完全に防止するまでには到っていない。
有機反射防止層の塗布工程において液だまりが発生した状態のまま硬化工程を行うと、原料組成物の硬化により発生する応力が液だまりに集中し、原料組成物硬化後のハードコート層およびレンズ基材にクラックが発生することがある。特に、レンズ基材にクラックが発生した場合には、レンズ基材を廃棄せざるをえないので経済的損失が大きい。このため、たとえ少量のみであっても、有機反射防止層の塗布工程において液だまりが発生することは好ましくない。
【0006】
本発明の目的は、有機反射防止層形成時に、レンズ基材にクラックが発生することを未然に防止することができ、レンズ基材を無駄にすることがないメガネレンズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のメガネレンズの製造方法は、レンズ基材の表面の外周端部に面取りを施す面取工程と、前記面取工程で得られた面取レンズ基材の表面にハードコート層を形成するハードコート層形成工程と、前記ハードコート層形成工程で得られたハードコート付レンズの表面にスピンコート法により有機反射防止層を形成する反射防止層形成工程と、を備え、前記反射防止層形成工程は、前記有機反射防止層を形成する反射防止層形成用組成物を前記ハードコート層の表面に塗布して焼成前塗布層とする塗布工程と、前記塗布工程で得られた焼成前レンズの前記焼成前塗布層が所定の形状を有するか否かを判別する判別工程と
、前記判別工程の後、前記焼成前レンズを加熱して前記焼成前塗布層を前記有機反射防止層とする焼成工程と、前記判別工程の後、前記焼成前レンズから前記焼成前塗布層を除去して再生ハードコート付レンズとする再生工程と、を備え、前記判別工程は、前記ハードコート付レンズの表面の外周端部に形成された前記焼成前塗布層の液だまりの形状を評価し、前記レンズ基材の光軸に略垂直な方向の前記液だまりの幅である液だまり幅が、所定の長さ以下の前記焼成前レンズを適合レンズとし、前記液だまり幅が、所定の長さを超える前記焼成前レンズを不適合レンズとするものであり、前記焼成工程は、前記適合レンズに対して施され、前記再生工程は、前記不適合レンズに対して施され、前記再生ハードコート付レンズには、前記反射防止層形成工程が再度施されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ハードコート層形成工程および反射防止層形成工程に先立って、レンズ基材の表面の外周端部に面取りを施す面取工程が実施されるが、面取工程で得られた面取レンズ基材の端部には、ハードコート層形成用組成物および反射防止層形成用組成物がたまりにくいので、液だまりの発生を減らすことができる。
また、レンズ基材のクラック発生の原因となる液だまりの液だまり幅が所定の長さを超えており、クラック発生の可能性が高い焼成前レンズを不適合レンズとする判別工程を備え、不適合レンズには焼成工程を施さないから、焼成工程でのクラックの発生を未然に防止することができる。
さらに、不適合レンズから焼成前塗布層を除去して再生ハードコート付レンズとする再生工程を備え、再生工程で得られた再生ハードコート付レンズには、反射防止層形成工程が再度施されるので、不適合レンズから当初のハードコート付レンズと同様の再生ハードコート付レンズを得て再利用することができ、ハードコート層およびレンズ基材を無駄にすることがない。
【0009】
本発明において、前記判別工程は、前記液だまり幅が0.4mm以下の前記焼成前レンズを前記適合レンズとし、前記液だまり幅が0.4mmを超える前記焼成前レンズを前記不適合レンズとするものであることが好ましい。
このような構成によれば、液だまり幅が0.4mm以下の焼成前レンズを適合レンズとするので、焼成工程においてクラックの発生する確率を顕著に低下させることができる。なお、液だまり幅は、0.3mm以下とすることがより好ましく、0.2mm以下とすることがさらに好ましい。
【0010】
本発明において、前記再生ハードコート付レンズに前記反射防止層形成工程を行う反射防止層再形成工程で再び前記不適合レンズとされた再不適合レンズには、面取再生工程が施され、前記面取再生工程は、前記再不適合レンズから前記焼成前塗布層および前記ハードコート層を除去する除去工程と、前記除去工程で得られた再生レンズ基材の外周端部に前記面取工程よりも面取量を大きくする再面取工程と、を備え、前記面取再生工程で得られた面取再生レンズ基材に対して、前記ハードコート層形成工程と前記反射防止層形成工程とが再度施されることが好ましい。
【0011】
このような構成によれば、何度も反射防止層形成工程を繰り返すことがなくなるため、効率的にメガネレンズを製造することができる。
2度連続で不適合レンズとされた再不適合レンズは、何らかの要因で液だまりが発生しやすいものと考えられる。このような再不適合レンズに再生工程を施し、反射防止層形成工程を繰り返しても、適合レンズを得られる可能性は低い。
そこで、再不適合レンズから焼成前塗布層およびハードコート層を除去して再生レンズ基材とし、この再生レンズ基材に面取工程よりも面取量を大きくした面取りを施せば、ハードコート層形成用組成物および反射防止層形成用組成物がさらにたまりにくくなるので、より効果的に液だまりの発生を防止することができる。こうして得られた、面取再生レンズ基材に対して、ハードコート層形成工程と反射防止層形成工程とを施せば、問題なく
有機反射防止層を形成できることが多い。
すなわち、同じハードコート付レンズに対して、何度も反射防止層形成工程を繰り返すことがなくなるため、効率的にメガネレンズを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
[メガネレンズを構成する材料]
本実施形態のメガネレンズ1は、図10に示すようにプラスチック製の透明レンズ基材10と、ハードコート層21と、有機反射防止層31と、を備える。
(1.レンズ基材)
レンズ基材10は、プラスチック製であればよく、特に限定されないが、屈折率が1.6以上の透明な素材を使用することが好ましい。
例えば、イソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物と、メルカプト基を持つ化合物を反応させることによって製造されるポリチオウレタン系プラスチック、エピスルフィド基を持つ化合物を含む原料モノマーを、重合硬化して製造される、エピスルフィド系プラスチックをレンズ基材10の素材として使用することができる。
【0013】
ポリチオウレタン系プラスチックの主成分となるイソシアナート基またはイソチオシアナート基を持つ化合物としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
イソシアナート基を持つ化合物の具体例としては、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、m−キシリレンジイソシアナートなどが挙げられる。
また、メルカプト基を持つ化合物としても、公知の物を用いることができる。例えば、1,2−エタンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオールなどの脂肪族ポリチオール、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼンなどの芳香族ポリチオールが挙げられる。また、プラスチックレンズの高屈折率化のためには、メルカプト基以外にも、硫黄原子を含むポリチオールがより好ましく用いられ、その具体例としては、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス((2−メルカプトエチル)チオ)−3−メルカプトプロパンなどが挙げられる。
【0014】
また、エピスルフィド系プラスチックの原料モノマーとして用いられる、エピスルフィド基を持つ化合物の具体例としては、公知のエピスルフィド基を持つ化合物が何ら制限なく使用できる。既存のエポキシ化合物のエポキシ基の一部あるいは全部の酸素を硫黄で置き換えることによって得られるエピスルフィド化合物が挙げられる。また、レンズ基材10の高屈折率化のためには、エピスルフィド基以外にも硫黄原子を含有する化合物がより好ましい。具体例としては、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、ビス−(β−エピチオプロピル)スルフィド、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)ベンゼン、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン、ビス−(β−エピチオプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。
【0015】
本発明におけるレンズ基材10の重合方法としては、特に限定される物ではなく、一般にレンズ基材10の製造に用いられている重合方法が、何ら制限なく使用される。
このようなレンズ基材10の表面は、所望の球面または非球面形状に形成される。
【0016】
(2.ハードコート層)
ハードコート層21は、レンズ基材10の表面に形成され、メガネレンズ1の耐擦傷性を向上させる。
ハードコート層21を形成するハードコート層形成用組成物22は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、RSiX3−nで示される有機ケイ
素化合物(式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、nは0または1である)をバインダー剤として、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタンを含有する金属酸化物微粒子が分散しているものを使用することができる。
【0017】
有機ケイ素化合物の化学式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、炭素数は1〜6である。Rはビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、1−メチルビニル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、イソシアノ基、アミノ基などの重合可能な反応基を有する。また、Xは、加水分解可能な官能基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基などのアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基などのハロゲン基、アシルオキシ基などがあげられる。
は、炭素数1〜6の一価炭化水素基を表すが、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基などのアルキル基、フェニル基などを例示することができる。良好な耐擦傷性を得るには、メチル基が好ましい。
【0018】
有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシランなどがあげられる。有機ケイ素化合物は、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】
金属酸化物微粒子は、酸化チタンのみを含有するものであってもよく、酸化チタンと他の金属酸化物とを含有するものであってもよい。例えば、酸化チタンと、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、Inなどの金属の酸化物を混合して使用してもよい。さらに、金属酸化物微粒子は、酸化チタンと他の金属酸化物との複合微粒子であってもよい。複合微粒子を使用する場合には、例えば、Si、Al、Sn、Sb、Ta、Ce、La、Fe、Zn、W、Zr、Inなどの金属の酸化物と、酸化チタンとが複合したものを使用すればよい。
さらに、ハードコート層形成用組成物22は、多官能性エポキシ化合物を含有してもよい。多官能性エポキシ化合物は、レンズ基板10に対するハードコート層21の密着性を向上させるとともに、ハードコート層21の耐水性を向上させることができる。
さらに、ハードコート層形成用組成物22には必要に応じて、過塩素酸マグネシウムなどの硬化触媒を添加することもできる。
【0020】
(3.有機反射防止層)
有機反射防止層31は、有機系組成物により構成される反射防止層であって、単層の有機層で構成される。有機反射防止層31は、反射防止層形成用組成物32から形成される。反射防止層形成用組成物32は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、以下の(A)成分、(B)成分を含有する組成物を使用することができる。
(A)一般式:RSiX3−n(式中、Rは、重合可能な反応基を有する有機基であり、Rは炭素数1〜6の炭化水素基であり、Xは加水分解性基であり、nは0または1である)で示される有機ケイ素化合物
(B)内部空洞を有するシリカ系微粒子
【0021】
ここで、(A)成分は、前記したハードコート層21の形成に用いられる有機ケイ素化合物と同じ化合物である。機能としても同様であり、最終的に有機反射防止層31における(B)成分のシリカ系微粒子のバインダー剤として働く。
(A)成分におけるR1の重合可能な反応基の具体例としては、ビニル基、アリル基、
アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられる。R2の具体例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。また、X1は加水分解可能な官能基であり、その具体例は、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
このようなシラン化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等が挙げられる。前記したシラン化合物は、2種以上を混合して用いてもよい。また、加水分解を行ってから用いた方が、より有効である。
【0023】
(B)成分のシリカ系微粒子としては、内部空洞を有すると、シリカ自体よりも屈折率の低い気体、溶媒を包含することができる。それ故、内部空洞を有するシリカ系微粒子は、内部空洞を有しないシリカ系微粒子よりも屈折率が低くなり、結果的に有機反射防止層31の屈折率が低くなる。すなわち、有機反射防止層31の屈折率を低くすることで、ハードコート層21との屈折率の差が大きくなり、反射防止機能を向上させることができる。
【0024】
ここで、内部空洞を有するシリカ系微粒子としては、特開2001−233611号公報に記載されている方法等で製造することができるが、本発明では、平均粒径が20〜150nmの範囲にあり、かつ屈折率が1.16〜1.39の範囲にあるものを使用することが望ましい。粒子の平均粒径が20nm未満になると、粒子内部の空隙率が小さくなって、所望の低屈折率が得られなくなる。また、平均粒径が150nmを超えると、有機反射防止層31のヘーズが増加するので好ましくない。このように内部空洞を有するシリカ系微粒子としては、平均粒径20〜150nm、屈折率1.16〜1.39の中空シリカ微粒子を含む分散ゾル(触媒化成工業(株)製、スルーリア、及びレキューム)等が挙げられる。
【0025】
また、反射防止層形成用組成物32には、界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン系界面活性剤が使用可能である。
シリコーン系界面活性剤としては、有機基で変性したシリコーンオイルが好ましく、シロキサン構造の側鎖を有機基で変性した構造、両末端を変性した構造、片末端を変性した構造をとり得る。有機基変性として、アミノ変性、ポリエーテル変性、エポキシ変性、カルボキシル変性、カルビノール変性、アルキル変性、アラルキル変性、フェノール変性、フッ素変性等が挙げられる。
【0026】
アニオン系界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩;ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等のアルキルスルホコハク酸塩;アルキルジフエニルエーテルジスルホン酸ナトリム等のアルキルジフエニルエーテルジスルホン酸塩;アルキルリン酸カリウム等のアルキルリン酸塩;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノー
ルアミン、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキル(またはアルキルアリル)硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0027】
カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤としては、ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライト、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルペンジルジメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩:ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルベタイン;ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアミンオキサイド等が挙げられる。
【0028】
非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル;ポリオキシエチレン誘導体;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンジステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、自己乳化型グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル:ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0029】
これらの界面活性剤のなかでは、反射防止層形成用組成物32中の固形分の分散性、塗膜の均一性、塗膜の密着強度、さらに光学製品の光学特性に与える影響の観点より、シリコーン系界面活性剤が好ましい。
ただし、反射防止層形成用組成物32における界面活性剤は、25℃、1質量%水溶液における表面張力が15〜25mN/mであり、好ましくは16〜24mN/mである。表面張力が25mN/mを越える界面活性剤を使用した場合や、界面活性剤自体を配合しないと、反射防止層形成用組成物32をレンズ基板10に塗布した場合に液ダレを起こしやすくなる。
界面活性剤の反射防止層形成用組成物32中の濃度としては、0.001〜2.0質量%が好ましく、0.01〜1.0質量%がより好ましい。また、界面活性剤の濃度としては臨界ミセル濃度以上であることが好ましい。
【0030】
反射防止層形成用組成物32には、さらに、ポリウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂等の各種樹脂や、これらの樹脂原料となるメタアクリレート類、アクリレート類、エポキシ類、ビニル類等の各種モノマーを、添加することが可能である。中でも屈折率を低減する意味で、フッ素含有の各種ポリマー、またはフッ素含有の各種モノマーを添加することが好ましい。このときのフッ素含有ポリマーとしては、フッ素含有ビニルモノマー
を重合して得られるポリマーが好ましく、さらに他の成分と共重合可能な官能基を有することが好ましい。
また、上記成分の他に、必要に応じて、少量の硬化触媒、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダートアミン・ヒンダートフェノール等の光安定剤、分散染料・油溶染料・蛍光染料・顔料、等を添加し反射防止層形成用組成物32の塗布性の向上や、硬化後の有機反射防止層31の性能を改良することもできる。
【0031】
反射防止層形成用組成物32は、具体的には、以下の様な手順をとり作製することが可能である。例えば、シラン化合物を、有機系溶剤で希釈し、必要に応じて水または薄い塩酸、酢酸等を添加して加水分解を行う。さらに、シリカ系微粒子が5〜50質量%の分率で有機系溶剤中にコロイド状に分散したものを添加する。その後、必要に応じ、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加し、十分に撹拌した後に塗布液として用いる。
【0032】
[メガネレンズの製造方法]
本実施形態のメガネレンズ1の製造方法は、面取工程と、ハードコート層形成工程と、反射防止層形成工程と、面取再生工程と、を備える。
(1.面取工程)
面取工程は、レンズ基材10の表面の外周端部に面取りを施して面取レンズ基材11を得る工程である。
図1に、面取工程を示す図を、図2に、面取レンズ基材11の断面図を示す。
面取工程は、例えば、図1に示すように、レンズ基材10の表面の外周端部をグラインダ100で研削および研磨し、図2に示すような断面を有する面取レンズ基材11を得るものである。
【0033】
(2.ハードコート層形成工程)
ハードコート層形成工程は、前述の面取工程で得られた面取レンズ基材11の表面にハードコート層21を形成し、ハードコート付レンズ20を得る工程である。ハードコート層形成の方法は、特に限定されず、ハードコート層形成用組成物22を面取レンズ基材11の表面に塗布し、塗布されたハードコート層形成用組成物22を硬化させる方法が使用できる。塗布の方法としては、浸漬法、ディッピング法、スピンコート法、スプレー法、フロー法など、硬化の方法としては、加熱や紫外線照射などの公知の方法を用いることができる。
【0034】
ハードコート層形成工程の一例について具体的に説明する。
図3に、面取レンズ基材11に対して本組成物を塗布する浸漬装置300を示す。
浸漬装置300は、ハードコート層形成用組成物22を貯めておく第1貯液槽321と、第1貯液槽321から溢れてくるハードコート層形成用組成物22を受ける第2貯液槽322および第3貯液槽323と、第3貯液槽323からハードコート層形成用組成物22を第1貯液槽321に還流するためのポンプ324と、異物を濾過するためのフィルタ325と、面取レンズ基材11を保持して上下動する保持治具326とを備えている。
従って、第1貯液槽321の液面は、常に一定の高さに保たれている。また、第2貯液槽322と第3貯液槽323はつながっており、第2貯液槽322に溜まったハードコート層形成用組成物22は、傾斜によって第3貯液槽323に流れ込む構造になっている。また、第3貯液槽323に溜まった本組成物は、ポンプ324によって強制的に第1貯液槽321に還流されるが、その際、フィルタ325で異物を濾過するようになっている。
【0035】
面取レンズ基材11は、板面を第1貯液槽321の液面に対して略垂直になるように保持治具326によって3箇所を保持されている。
保持治具326は、図示しない昇降可能な支持部によって支持されており、支持部の昇降速度は、図示しない制御装置により適宜設定することが出来る。支持部によって支持さ
れた保持治具326は、一定速度で引き上げることも、段階的に速度を変化させながら引き上げることも、連続的に速度を変化させながら引き上げることも、あるいは一定速度と段階的な速度変化と連続的な速度変化とを組み合わせることも可能であり、引き上げ速度は、最終的なハードコート層21の厚さに対する要求精度により決定すればよい。
好ましい引き上げ速度は、50〜500mm/min程度であり、より好ましくは、100〜400mm/min程度である。
【0036】
面取レンズ基材11は、第1貯液槽321に貯められているハードコート層形成用組成物22に浸漬されて暫く放置された後に引き上げられ、塗布膜が形成される。好ましい浸漬時間は10〜60秒程度である。
塗布膜が形成された面取レンズ基材11は、保持治具326に保持されたまま、図示しない焼成工程へ送られる。焼成工程において常法により乾燥・焼成を行い、面取レンズ基材11表面にハードコート層21を形成する。焼成温度は、50〜250℃が好ましく、80〜150℃がより好ましい。
このようにして得られたハードコート付レンズ20の断面図を図4に示す。面取りが施された面取レンズ基材11の端部には、ハードコート層形成用組成物22がたまりにくいので、ハードコート層21の液だまり23は従来(図11参照)と比べて小さいものとなる。
【0037】
(3.反射防止層形成工程)
反射防止層形成工程は、ハードコート付レンズ20の表面に有機反射防止層31を形成する工程である。反射防止層形成工程は、塗布工程と、判別工程と、焼成工程と、再生工程と、を備える。
(3−1.塗布工程)
塗布工程は、ハードコート付レンズ20の表面に反射防止層形成用組成物32を塗布して焼成前塗布層33とする工程である。塗布工程は、スピンコート法により実施される。
図5は、塗布工程に使用するスピンコート装置200の概略図である。
スピンコート装置200の内部には、図5に示すように、ハードコート付レンズ20のコーティング作業が行われる槽211が形成され、槽211の底部には、ハードコート付レンズ20の保持具220が配設されるとともに、槽211の底部側面側には、コーティング廃液の排出口212が形成されている。また、槽211の上方には、図示しない加圧タンクとチューブで連通したノズル213とを具備する吐出装置214が配置されており、待機位置と保持具220の上方との間を移動する構造になっている。
さらに、スピンコート装置200の上部には、HEPAフィルタ215が設けられ、スピンコート装置200の内部は局所クリーン構造となっている。
【0038】
保持具220は、モーター230を動力源として回転する筒状の回転軸221と、回転軸221の一端側に設けられたホルダー223と、このホルダー223に取り付けられた吸着パッド224とを備えて構成され、吸着パッド224に配置されたハードコート付レンズ20を保持するものである。
回転軸221には、ホルダー223側とは反対側の端部に歯付きプーリー222が設けられ、このプーリー222と、モーター230に設けられた歯付きプーリー231とに掛け回されたタイミングベルト232により、モーター230の回転が回転軸221に伝達されている。
また、回転軸221のプーリー222側の端部には、図示しない真空ポンプからの配管240が接続され、この真空ポンプの吸引により、回転軸221の内部を通じて、吸着パッド224に配置されたハードコート付レンズ20が吸着される。
【0039】
塗布工程では、ハードコート付レンズ20を保持具220にセットし、モーター230を作動させ、保持具220の回転軸221を介してハードコート付レンズ20を回転させ
ながら、ハードコート付レンズ20の表面にノズル213から反射防止層形成用組成物32を吐出する。
すると、反射防止層形成用組成物32は、遠心力により、ハードコート付レンズ20の表面の内側から外側に向かって塗り広げられ、反射防止層形成用組成物32がハードコート付レンズ20の表面全体に薄く均一な厚さで塗布される。
【0040】
このような塗布工程により形成された焼成前レンズ30の断面図を図6に示す。
前述したように、ハードコート付レンズ20に形成されたハードコート層21の液だまり23が小さいので、ハードコート付レンズ20の端部には、反射防止層形成用組成物32がたまりにくくなり、焼成前塗布層33の液だまり34は、従来と比べて小さいものとなる。なお、図6に示す幅aは、後述する判別工程で測定する液だまり幅aである。
【0041】
(3−2.判別工程)
判別工程は、ハードコート付レンズ20の表面の外周端部に形成された焼成前塗布層33の液だまり34の形状を評価し、レンズ基材10の光軸に略垂直な方向の液だまり34の幅である液だまり幅a(図6参照)が、所定の長さ以下の焼成前レンズ30を適合レンズ30Aとし、液だまり幅aが、所定の長さを超える焼成前レンズ30を不適合レンズ30Bとするものである。
【0042】
例えば、図7(A)に示すように、焼成前塗布層33の液だまり34を画像測定機(図示省略)のCCDカメラ400で撮像し、撮像した画像データから液だまり幅aを読み取って判別工程を行う。
なお、判別工程は、液だまり幅aが0.4mm以下の焼成前レンズ30を適合レンズ30Aとし、液だまり幅aが0.4mmを超える焼成前レンズ30を不適合レンズ30Bとするものであることが好ましい。液だまり幅aは、0.3mm以下とすることがより好ましく、0.2mm以下とすることがさらに好ましい。
このようにして選別された適合レンズ30Aには、後述する焼成工程が施され。不適合レンズ30Bには、後述する再生工程が施される。
【0043】
(3−3.焼成工程)
焼成工程は、適合レンズ30Aとされた焼成前レンズ30を加熱して焼成前塗布層33を有機反射防止層31とし、メガネレンズ1を得る工程である。
例えば、図8に示すように、ヒーター501を備えた赤外線加熱炉500の内部に適合レンズ30Aとされた焼成前レンズ30を設置し、焼成前レンズ30を加熱することで焼成前塗布層33を有機反射防止層31とする方法が適用できる。
【0044】
(3−4.再生工程)
再生工程は、不適合レンズ30Bとされた焼成前レンズ30から焼成前塗布層33を除去して再生ハードコート付レンズ24を得る工程である。
例えば、図7(B)に示すように、拭取りローラ601および支持ローラ602を備えた拭取り装置600の、拭取りローラ601と支持ローラ602との間に焼成前レンズ30を設置し、拭取りローラ601および支持ローラ602を回転させて焼成前塗布層33を焼成前レンズ30から除去する方法が適用できる。
また、本実施形態では、布等で焼成前塗布層33を拭き取る方法を用いてもよい。
このようにして得られた再生ハードコート付レンズ24には、反射防止層形成工程が再度施される(反射防止層再形成工程)。
【0045】
(4.面取再生工程)
面取再生工程は、反射防止層再形成工程で再び不適合レンズ30Bとされた再不適合レンズ30Cに施される工程である。
面取再生工程は、再不適合レンズ30Cから焼成前塗布層33およびハードコート層21を除去する除去工程と、除去工程で得られた再生レンズ基材12の外周端部に面取工程よりも面取量を大きくした面取りを施す再面取工程と、を備える。
除去工程は、不適合レンズ30Cとされた焼成前レンズ30から焼成前塗布層33を除去する焼成前塗布層除去工程と、焼成前塗布層除去工程で得られた再生ハードコート付レンズ24からハードコート層を除去するハードコート層除去工程とを組み合わせた工程である。
焼成前塗布層除去工程としては、例えば、前述の再生工程と同様の方法を適用することができる。ハードコート層除去工程としては、種々の手段を採用することができるが、例えば、アルカリ溶液を用いてハードコート層21を除去する方法が適用できる。
【0046】
再面取工程は、前述の面取工程と同様に行うことができる。面取工程は、例えば、図1に示すように、再生レンズ基材12の表面の外周端部(すなわち、前述の面取工程で面取りした部分)をグラインダ100で研削および研磨し、図9に示すような断面を有する面取再生レンズ基材13を得るものである。
このようにして得られた面取再生レンズ基材13には、ハードコート層形成工程と反射防止層形成工程とが再度施される。
面取再生レンズ基材13は、通常よりも面取量を大きくしているので、ハードコート層形成用組成物22および反射防止層形成用組成物32がさらにたまりにくくなる。よって、面取再生レンズ基材13に対して、ハードコート層形成工程と反射防止層形成工程とを施せば、図10に断面図を示すように、液だまり23、34の小さい焼成前レンズ30が得られる可能性が高い。
【0047】
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
(1)ハードコート層形成工程および反射防止層形成工程に先立って、レンズ基材10の表面の外周端部に面取りを施す面取工程が実施されるが、面取工程で得られた面取レンズ基材11の端部には、ハードコート層形成用組成物22および反射防止層形成用組成物32がたまりにくいので、液だまり23、34の発生を減らすことができる。
(2)レンズ基材10のクラック発生の原因となる液だまり34の液だまり幅aが所定の長さを超え、クラック発生の可能性が高い焼成前レンズ30を不適合レンズ30Bとする判別工程を備え、不適合レンズ30Bには焼成工程を施さないから、焼成工程でのクラックの発生を未然に防止することができる。
【0048】
(3)不適合レンズ30Bから焼成前塗布層33を除去して再生ハードコート付レンズ24とする再生工程を備え、再生工程で得られた再生ハードコート付レンズ24には、反射防止層形成工程が再度施されるので、不適合レンズ30Bから当初のハードコート付レンズ20と同様の再生ハードコート付レンズ24を得て再利用することができ、ハードコート層21およびレンズ基材10を無駄にすることがない。
(4)液だまり幅aが0.4mm以下の焼成前レンズ30を適合レンズ30Aとするので、焼成工程において、クラックの発生する確率を顕著に低下させることができる。
【0049】
(5)面取再生工程において、再不適合レンズ30Cに対して面取工程よりも面取量を大きくした面取りが施され、ハードコート層形成用組成物22および反射防止層形成用組成物32がさらにたまりにくくなるので、より効果的に液だまり23、34の発生を防止することができる。こうして得られた、面取再生レンズ基材13に対して、ハードコート層形成工程と反射防止層形成工程とを施すので、問題なく有機反射防止層31を形成できる可能性が高い。すなわち、同じハードコート付レンズ20に対して、何度も反射防止層形成工程を繰り返すことがなくなるため、効率的にメガネレンズ1を製造することができる。
【0050】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、レンズ基材10とハードコート層21との間にプライマー層を設けてもよい。プライマー層は、レンズ基材10とハードコート層21双方の界面に存在して、レンズ基材10とハードコート層21双方への密着性を両立する性質を有し、レンズ基材10上の層構造の耐久性を向上させる役割を担う。加えて、プライマー層は、外部からの衝撃吸収層としての性質も併せ持ち、メガネレンズ1の耐衝撃性を向上させる。
【0051】
このようなプライマー層は、たとえば、極性基を有する有機樹脂ポリマーや酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化ケイ素などの金属酸化物微粒子を含んでいてもよい。
極性基を有する有機樹脂ポリマーとしては、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂などの各種樹脂を使用することが可能である。この内、硫黄原子を含むレンズ基板に対する密着性とフィラーとなる金属酸化物微粒子の分散性の点から、ポリエステル樹脂を好ましく用いることができる。
【0052】
ポリエステル樹脂では、樹脂中のエステル結合および側鎖に付いたヒドロキシル基やエポキシ基がレンズ基材10(レンズ基材10の表面分子)と相互作用を生じ易く、高い密着性を発現する。一方、ポリエステル樹脂のpHは弱酸性を示す場合が多く、フィラーとなる金属酸化物微粒子が安定に存在できるpHと合致する場合が多い。よってプライマー樹脂中に金属酸化物微粒子が局在化せずに均質に分散した状態となり、プライマー層の架橋密度を安定化もしくは向上させ、耐水性および耐光性が向上する。
ただし、このようなプライマー層を設けた場合、面取再生工程において、ハードコート層のみならず、プライマー層まで除去する必要があり、その後、再度プライマー層を形成する必要がある。
【0053】
さらに、有機反射防止層31の表面に防汚層を設けてもよい。有機反射防止層31の表面に形成される防汚層は、水滴をはじくための撥水層である。撥水層を形成するための撥水剤としては、フッ素系撥水剤が好適に用いられる。
【実施例1】
【0054】
次に、実施例および比較例をあげて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例および比較例の記載内容に何ら制限されるものではない。
[実施例]
(1)面取工程
屈折率1.67のプラスチック製透明レンズ基材10(セイコーエプソン(株)製、商品名セイコーエプソンソブリン(SSV))の表面の外周端部をグラインダ100で研削および研磨して面取りを施した。
【0055】
(2)プライマー層の形成
ステンレス製容器内に、メチルアルコール220g、水91.8g、プロピレングリコールモノメチルエーテル31.5gを投入し、十分に攪拌したのち、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(アナターゼ型結晶構造、メタノール分散、全固形分濃度20重量%、触媒化成工業(株)製、商品名オプトレイク1120Z 8RU―25・G)78.8gを加え撹拌混合した。次いで水性ポリエステル(固形分濃度25重量%、高松油脂(株)製、商品名A−160P)77gを加えて攪拌混合した後、さらにシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名L−7604)0.1gを加えて2時間撹拌し、プライマー層形成用組成物を得た。
このプライマー層形成用組成物を、(1)で得られた面取レンズ基材11に浸漬法(引
き上げ速度200mm/min)で塗布した。塗布後の面取レンズ基材11を80℃で20分間加熱硬化処理した。
【0056】
(3)ハードコート層形成工程
ステンレス製容器内にブチルセロソルブ62.5gを取り、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン67.1gを加えて十分攪拌した後、0.1モル/リットル塩酸30.7gを攪拌しながら滴下し、さらに4時間攪拌した後、一昼夜熟成させてシラン加水分解物を得た。このシラン加水分解物中に酸化チタン、酸化スズ、酸化ケイ素を主体とする複合微粒子ゾル(ルチル型結晶構造、メタノール分散、触媒化成工業(株)製;商品名オプトレイク1120Z 8RU―25、A17)325g、グリセロールジグリシジルエーテル(ナガセ化成(株)製、商品名デナコールEX−313)12.5gを添加した後、鉄(III)アセチルアセトナート1.36g、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製;商品名L−7001)0.15g、フェノール系酸化防止剤(川口化学工業(株)製、商品名アンテージクリスタル)0.63gを添加して4時間攪拌し、さらに一昼夜熟成させ、ハードコート層形成用組成物22を得た。
このハードコート層形成用組成物22を、(2)でプライマー層を形成した面取レンズ基材11に浸漬法(引き上げ速度350mm/min)で塗布した。塗布後の面取レンズ基材11を80℃で30分、125℃で180分の順で加熱硬化処理しハードコート付レンズ20を得た。
【0057】
(4)反射防止層形成工程(塗布工程のみ)
以下のようにして、反射防止層形成用組成物32を調製した。
ステンレス製容器にプロピレングリコールモノメチルエーテル48.6gおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン14.1gを加え、撹拌しながら0.1モル/リットルの塩酸4.0gを添加して5時間撹拌を続けた。この溶液にイソプロパノール分散中空シリカゾル(平均粒径91nm、固形分濃度30wt%、触媒化成工業(株)製)33.3gを加えて十分に混合した後、硬化触媒としてAl(C)を0.06g、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製 L−7001)を0.03g添加して攪拌、溶解し、固形分濃度20%の反射防止層形成用組成物32原液を得た。この反射防止層形成用組成物32原液35.3gに、300ppm濃度のシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、L7604)を含有するプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液114.7gを加えて十分に攪拌し、固形分濃度が約4.7%の反射防止層形成用組成物32とした。
次に、(3)で形成したハードコート付レンズ20の表面にプラズマ処理(アルゴンプラズマ400W×60秒)を行なった後、スピンコート法によりハードコート付レンズ20の表面に反射防止層形成用組成物32を塗布し、焼成前レンズ30を得た。
【0058】
[比較例]
面取工程を省略した点以外は実施例と同様に行った。
[評価]
以上の実施例で得られた10枚の焼成前レンズ30および比較例で得られた5枚の焼成前レンズ30の焼成前塗布層33の液だまり34の液だまり幅aを計測した後、赤外線加熱炉への短時間投入により焼成工程を施してメガネレンズ1を得た。
得られたメガネレンズ1のクラックの発生状態を目視にて評価し、外観に全く異常のないものを○、小さなクラックがわずかに発生したものを△、大きなクラックが発生しているものを×とした。
各サンプルの液だまり幅aの長さおよびクラックの発生状態を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1によれば、比較例ではすべてのサンプルで大きなクラックが発生しているのに対し、実施例ではクラックが全く発生しないか、小さなクラックが発生するかのいずれかであった。これにより、本発明のメガネレンズ1の製造方法によれば、クラックの発生を効果的に防止できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、ハードコート層および有機反射防止層を有するメガネレンズの製造方法として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施形態における面取工程を示す概略図。
【図2】本発明の実施形態にかかるメガネレンズの面取レンズ基材の断面図。
【図3】本発明の実施形態におけるハードコート層形成工程を示す概略図。
【図4】本発明の実施形態にかかるメガネレンズのハードコート付レンズの断面図。
【図5】本発明の実施形態における塗布工程を示す概略図。
【図6】本発明の実施形態にかかるメガネレンズの焼成前レンズの断面図。
【図7】(A)は本発明の実施形態における判別工程を示す概略図。(B)は本発明の実施形態における再生工程を示す概略図。
【図8】本発明の実施形態における焼成工程を示す概略図。
【図9】本発明の実施形態にかかるメガネレンズの面取再生レンズの断面図。
【図10】本発明の実施形態にかかるメガネレンズの面取再生レンズから作成した焼成前レンズの断面図。
【図11】従来の方法でハードコート層を形成したメガネレンズの断面図。
【符号の説明】
【0063】
1…メガネレンズ、10…レンズ基材、11…面取レンズ基材、12…再生レンズ基材、13…面取再生レンズ基材、20…ハードコート付レンズ、21…ハードコート層、2
2…ハードコート層形成用組成物、23,34…液だまり、24…再生ハードコート付レンズ、30…焼成前レンズ、30A…適合レンズ、30B…不適合レンズ、30C…再不適合レンズ、31…有機反射防止層、32…反射防止層形成用組成物、33…焼成前塗布層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材の表面の外周端部に面取りを施す面取工程と、前記面取工程で得られた面取レンズ基材の表面にハードコート層を形成するハードコート層形成工程と、前記ハードコート層形成工程で得られたハードコート付レンズの表面にスピンコート法により有機反射防止層を形成する反射防止層形成工程と、を備え、
前記反射防止層形成工程は、前記有機反射防止層を形成する反射防止層形成用組成物を前記ハードコート層の表面に塗布して焼成前塗布層とする塗布工程と、前記塗布工程で得られた焼成前レンズの前記焼成前塗布層が所定の形状を有するか否かを判別する判別工程と、前記判別工程の後、前記焼成前レンズを加熱して前記焼成前塗布層を前記有機反射防止層とする焼成工程、もしくは前記判別工程の後、前記焼成前レンズから前記焼成前塗布層を除去して再生ハードコート付レンズとする再生工程と、を備え、
前記判別工程は、前記ハードコート付レンズの表面の外周端部に形成された前記焼成前塗布層の液だまりの形状を評価し、前記レンズ基材の光軸に略垂直な方向の前記液だまりの幅である液だまり幅が、所定の長さ以下の前記焼成前レンズを適合レンズとし、前記液だまり幅が、所定の長さを超える前記焼成前レンズを不適合レンズとするものであり、
前記焼成工程は、前記適合レンズに対して施され、
前記再生工程は、前記不適合レンズに対して施され、
前記再生ハードコート付レンズには、前記反射防止層形成工程が再度施されることを特徴とするメガネレンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたメガネレンズの製造方法において、
前記判別工程は、前記液だまり幅が0.4mm以下の前記焼成前レンズを前記適合レンズとし、前記液だまり幅が0.4mmを超える前記焼成前レンズを前記不適合レンズとすることを特徴とするメガネレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載されたメガネレンズの製造方法において、
前記再生ハードコート付レンズに前記反射防止層形成工程を行う反射防止層再形成工程で再び前記不適合レンズとされた再不適合レンズには、面取再生工程が施され、
前記面取再生工程は、前記再不適合レンズから前記焼成前塗布層および前記ハードコート層を除去する除去工程と、前記除去工程で得られた再生レンズ基材の外周端部に前記面取工程よりも面取量を大きくする再面取工程と、を備え、
前記面取再生工程で得られた面取再生レンズ基材に対して、前記ハードコート層形成工程と前記反射防止層形成工程とが再度施されることを特徴とするメガネレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−96511(P2008−96511A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275297(P2006−275297)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】