説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法

【課題】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒の、触媒成形体の品質斑が少ない製造方法を提供する。
【解決手段】(1)触媒成分を含む触媒成分粒子を製造する工程と、(2)前記触媒成分粒子と液体を混合して混練りする工程と、(3)混練り品を1次成形する工程と、(4)1次成形品をピストン成形機で最終形状に成形する2次成形工程とを含み、かつ、(4)の工程の2次成形圧力P2が(3)の工程の1次成形圧力P1に対して、(P1−0.2)MPaG〜(P1−8)MPaGの範囲であるメタクリル酸製造用触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用する触媒(以下、メタクリル酸製造用触媒という。)およびその製造方法、並びにこの触媒を用いたメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してメタクリル酸を製造するための触媒成分としては、リンモリブデン酸に代表されるヘテロポリ酸化合物が知られている。また、この触媒成分を気相接触酸化反応に有効に作用させるために、触媒内に細孔構造を形成する方法が数多く提案されている。
【0003】
特許文献1には、不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法において、触媒成分を含む粒子と液体とを混合したものを成形して1次成形品を得る1次成形工程と、1次成形工程の後に、更に、ピストン成形機で1次成形品を最終形状に成形する2次成形工程を有する触媒の製造方法が提案されている。また、特許文献2には、押出し成形時の圧力が1.5MPa〜8MPaである不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法が提案されている。しかしながら、工業触媒としての使用に際しては、更に触媒成形体の品質斑を低減する製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−93882号公報
【特許文献2】特開平11−239724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒の、触媒成形体の品質斑が少ない製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデンおよびリンを触媒成分として含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、
(1)触媒成分を含む触媒成分粒子を製造する工程と、
(2)前記触媒成分粒子と液体を混合して混練りする工程と、
(3)混練り品を1次成形する1次成形工程と、
(4)1次成形品をピストン成形機で最終形状に成形する2次成形工程とを含み、
かつ、(4)の工程の2次成形圧力P2が(3)の工程の1次成形圧力P1に対して、(P1−0.2)MPaG〜(P1−8)MPaGの範囲であることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法、およびこの方法により得られるメタクリル酸製造用触媒である。
【0007】
また、本発明は、前記のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を高収率で製造できるメタクリル酸製造用触媒の、触媒成形体の品質斑が少ない製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の触媒は、メタクリル酸製造用触媒は、後述する製造方法によって製造される触媒であって、反応原料であるメタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられるものである。
【0010】
本発明の触媒を構成する触媒成分の組成は、目的とするメタクリル酸製造用触媒に応じて適宜選択できる。本発明の目的物であるメタクリル酸製造用触媒は、少なくともモリブデンおよびリンを触媒成分として含有する触媒であれば特に限定されないが、好ましくは下記の式(A)で表される組成を有するものである。
【0011】
MoCu (A)
式(A)中、P、Mo、V、CuおよびOは、それぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅および酸素を表し、Xは、砒素、アンチモンおよびテルルからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を表し、Yは、ビスマス、ゲルマニウム、ジルコニウム、銀、セレン、ケイ素、タングステン、ホウ素、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、タンタル、コバルト、マンガン、バリウム、ガリウム、セリウムおよびランタンからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を表し、Zは、カリウム、ルビジウムおよびセシウムからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素を表す。a、b、c、d、e、f、gおよびhは各元素の原子比率を表し、b=12のとき、a=0.1〜3、c=0.01〜3、d=0.01〜2、eは0〜3、f=0〜3、g=0.01〜3であり、hは前記各元素の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。
【0012】
本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、(1)触媒成分を含む触媒成分粒子を製造する工程と、(2)前記触媒成分粒子と液体を混合して混練りする工程と、(3)混練り品を1次成形する1次成形工程と、(4)1次成形品をピストン成形機で最終形状に成形する2次成形工程、および、通常はさらに(5)成形体を乾燥および/または熱処理する工程を経て製造される。
【0013】
(1)の工程では、まずメタクリル酸製造用触媒の触媒成分の原料化合物を、適宜選択した溶媒に溶解または懸濁させ、少なくともモリブデンおよびリンを含む混合溶液またはスラリーを調製する。混合溶液またはスラリーの調製方法は、特に限定はなく、例えば、沈殿法、酸化物混合法等の公知の方法が挙げられる。
【0014】
混合溶液またはスラリーの調製に用いる触媒原料は特に限定されず、触媒の各構成元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物、オキソ酸、オキソ酸塩等を組み合わせて使用することができる。モリブデン原料としては、例えば、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン類;パラモリブデン酸アンモニウム、ジモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン酸アンモニウム類等が挙げられる。リンの原料化合物としては、例えば、リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が挙げられる。バナジウムの原料化合物としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム、蓚酸バナジル等が挙げられる。触媒成分の原料化合物は、触媒成分を構成する各元素に対して1種を用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
使用する溶媒としては、例えば、水、エチルアルコール、アセトンなどが挙げられるが、水を用いることが好ましい。
このようにして製造された混合溶液またはスラリーを乾燥する方法は特に限定されず、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固する方法等が適用できる。これらの中では、乾燥と同時に粒子が得られること、得られる粒子の形状が整った球形であることから、スプレー乾燥機を用いることが好ましい。
【0016】
乾燥条件は乾燥方法により異なるが、スプレー乾燥機を用いる場合、乾燥機入口熱風温度は200〜400℃が好ましく、より好ましくは220〜370℃の温度範囲である。
【0017】
スプレー乾燥機を用いる場合、得られる乾燥粒子の平均粒子径としては1〜250μmの範囲が好ましい。平均粒子径が1μm未満の場合、本発明における触媒による酸化反応にとって必要な適当な細孔径が得られず、反応目的物の収率が低下する場合がある。逆に、乾燥粒子の平均粒子径が250μmを超えた場合、単位体積当たりの乾燥粒子間の接触点の数が減り、触媒の機械的強度が低下する場合がある。乾燥粒子の平均粒子径は5〜150μmの範囲がより好ましい。なお、平均粒子径は、体積平均粒子径を意味し、例えばレーザー式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0018】
また、噴霧された液滴と熱風との接触方式は、並流、向流、並向流(混合流)のいずれでもよく、いずれの場合でも好適に乾燥することができる。
【0019】
このようにして得られた乾燥粒子は、必要に応じて、200〜500℃で熱処理(焼成)して焼成粒子としてもよい。焼成条件は、特に限定されないが、焼成は、通常、酸素、空気または窒素流通下で行われる。また、焼成時間は目的とする触媒によって適宜設定される。
【0020】
触媒成分を含む乾燥粒子および焼成粒子をまとめて触媒成分粒子という。
次に(2)の工程では、(1)の工程で得られた触媒成分粒子(以下「粒子」ともいう。)に、少なくとも液体を混合したものを混練りして混練り品とする。混練りに使用する装置は特に限定されず、例えば、双腕型の攪拌羽根を使用するバッチ式の混練り機、軸回転往復式やセルフクリーニング型等の連続式の混練り機等が使用できるが、混練り品の状態を確認しながら混練りを行うことができる点で、バッチ式が好ましい。また、混練りの終点は、通常目視または手触りによって判断することができる。
【0021】
(2)の工程で用いる液体は、(1)の工程で得られた粒子を濡らす機能を有するものであれば特に限定されず、例えば水や、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールなどの炭素数が1〜4のアルコールが挙げられる。この中でも粒子が崩壊せず、酸化反応に有効な細孔を形成しやすいという理由で、エチルアルコール、プロピルアルコールが好ましい。アルコールは高純度のものが好ましいが、少量の水を含んでいてもよい。
【0022】
(2)の工程で用いる液体の使用量は、粒子の種類や大きさ、液体の種類等により適宜選択されるが、通常は(1)の工程で得られた粒子100質量部に対して10〜80質量部である。液体の使用量が多くなると、よりスムーズに押出し成形できるため、粒子が潰れにくくなり、乾燥、焼成した成形品に大きな空隙、すなわち大きな細孔が形成されてメタクリル酸の選択率が向上する傾向がある。従って、液体の使用量は粒子100質量部に対して40質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましい。一方、液体の使用量が少ない方が、成形時の付着性が低減して取り扱い性が向上する。また、液体の使用量が少なくなると、成形品がより密になるため成形品の強度が向上する傾向がある。従って、液体の使用量は、粒子100質量部に対して70質量部以下が好ましく、65質量部以下がより好ましい。
【0023】
また、(2)の工程においては、触媒成分粒子と液体との混合物に、有機バインダー等の成形助剤を加えると、強度が向上するため好ましい。このような有機バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール等の高分子化合物、αグルカン誘導体、βグルカン誘導体などを挙げることができる。
【0024】
本発明においてαグルカン誘導体とは、グルコースから構成される多糖類のうち、グルコースがα型の構造で結合したものをいい、α1−4グルカン、α1−6グルカン、α1−4/1−6グルカン等の誘導体が例示できる。
【0025】
このようなαグルカン誘導体としては、アミロース、グリコーゲン、アミロペクチン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリンなどを挙げることができる。
【0026】
本発明においてβグルカン誘導体とは、グルコースから構成される多糖類のうち、グルコースがβ型の構造で結合したものをいい、β1−4グルカン、β1−3グルカン、β1−6グルカン、β1−3/1−6グルカン等の誘導体が例示できる。
【0027】
このようなβグルカン誘導体としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、カードラン、ラミナラン、パラミロン、カロース、パキマン、スクレログルカン等のβ1−3グルカンなどを挙げることができる。
【0028】
有機バインダーは、未精製のまま用いてもよく、精製して用いてもよいが、不純物としての金属や、強熱残分は、触媒性能を低下させることがあるため、より少ない方が好ましい。
【0029】
有機バインダーの使用量は、粒子の種類や大きさ、液体の種類等により適宜選択されるが、通常は(1)の工程で得られた粒子100質量部に対して0.05〜15質量部であり、好ましくは0.1〜10質量部である。有機バインダーの添加量が多くなるほど、成形性が向上する傾向があり、少なくなるほど、成形後の熱処理等による有機バインダーの除去処理が簡単になる。
前記粒子、液体および有機バインダーの混合方法は特に限定されない。具体的には、粒子と有機バインダーを乾式混合したものと液体とを混合する方法、液体に有機バインダーを溶解または分散させたものと粒子とを混合する方法等が例示できるが、なかでも粒子と有機バインダーを乾式混合したものと液体を混合する方法が好ましい。
【0030】
また、本発明においては、従来公知のシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイド、チタニア、マグネシア、グラファイトやケイソウ土などの無機化合物、ガラス繊維、セラミックボールやステンレス鋼、セラミックファイバーや炭素繊維などの無機ファイバーなどの不活性担体を添加することができる。添加は、(2)の工程の混練りする際に行えばよい。
【0031】
次に(3)の1次成形工程では、(2)の工程で得られた混練り品を、スクリュー押出し機またはプレス押出し機またはプレス機等の装置によって1次成形品に成形する。
【0032】
(3)の工程における1次成形圧力P1は、特に限定されないが、0.5MPaG〜15MPaGが好ましく、1MPaG〜12MPaGがより好ましい。
なお、本発明において成形圧力とは、プレス成型時や押出し成形時に、押出し機内にかかる圧力の平均値のことである。また、成形圧力は、プレス成型や押出し成形が開始され圧力が安定した際の平均値であり、装置作動直後の成形が開始されていない期間の圧力は含まない。
成形圧力は、例えば押出し機のシリンダー部に圧力センサーを差し込み測定することができる。例えば成形圧力が2MPaG という表記は、圧力センサーなどにより測定した成形圧力のゲージ圧が2MPaであることを示す。
【0033】
1次成形圧力は例えばプレス機による成形であれば、設定圧力の変更で容易に変更することが出来る。スクリュー成形機の場合は1次成形品の排出ノズルの長さで調整することが出来る。成形圧力を管理し易い点と、触媒粒子の崩壊による細孔の閉塞が少ない点から、プレス機で1次成形を行うことが望ましい。
【0034】
1次成形品の形状は、特に限定されないが、1次成形品の形状が、2次成形を行うピストン成形機のシリンダー径の0.5倍以上1倍未満の径を有する円柱状であることが好ましい。円柱状の1次成形品の径は、径は小さいほどピストン成形機に1次成形品を充填することが容易であるが、0.5倍以上1未満の場合、大きいほど2次成形時に余分な空気が入り難くなり、触媒粒子への負荷が小さくなる。また、シリンダー内の体積を有効に使えるため、同量の成形品を製造する場合に1次成形、2次成形の回数を減らすことができ、生産性が向上するという利点もある。また、この範囲で、1次成形の径は大きいほど、触媒粒子への機械的な負荷を減らすことになるため、細孔の制御の点で有利になる。従って、特に、ピストン成形機のシリンダー径の0.8倍以上1倍未満の径を有する円柱状が好ましい。
【0035】
次に(4)の2次成形工程では、得られた1次成形品をピストン成形機で2次成形し、最終形状に成形する。ピストン成形することで、押出し時の曲がり等が少なくなり、製品の歩留まりが向上する。また、スクリュー押出し機等を用いて成形する場合に比べて押出し中に余分な練りが入らないため触媒粒子の崩壊による細孔の閉塞が少なく、選択率が向上する。
【0036】
また、1次成形を行わずに、不定形の混練り品を(ピストン押出し機等で)直接最終形状に押出し成形する場合と比べて、余分な空気が混入することが少なく均一な成形体が得られる点から好ましい。
【0037】
本発明の(4)の工程における2次成形圧力P2は、(3)の工程の1次成形圧力P1に対して、(P1−0.2)MPaG〜(P1−8)MPaGの範囲である。2次成形圧力P2が、(P1−0.2)MPaG超えると触媒粒子間の細孔が閉塞し、メタクリル酸の選択率が低下する。2次成形圧力P2が、(P1−8)MPaGをより小さいと、余分な空気が混入することが多く均一な成形体ができない点や、最終的な触媒の嵩密度が低くなり、反応管への充填量が減る点から好ましくない。したがって(4)の工程における2次成形圧力P2は、(P1−0.2)MPaG〜(P1−8)MPaGの範囲であり、(P1−0.5)MPaG〜(P1−6)MPaGが好ましい。
【0038】
(4)の工程における2次成形圧力P2は、特に限定されないが、0.5MPaG〜5MPaGが好ましく、1MPaG〜4MPaGがより好ましい。
【0039】
また、2次成形で押出し成形により得られる触媒成形体の形状は、特に限定されず、例えばリング状、円柱状、星型状などの任意の形状に成形することができる。
2次成形圧力は、(2)の工程で用いる液体の量、押出しの速度、ダイスの開口率(シリンダー部の断面積に対するダイスの開口部の面積の比)などにより調節できる。すなわち2次成形圧力は、(2)の工程で用いる液体の量が少ないほど、押出しの吐出速度が大きいほど、また、ダイスの開口率が小さいほど大きくなり、逆に、(2)の工程で用いる液体の量が多いほど、押出しの吐出速度が小さいほど、また、ダイスの開口率が大きいほど小さくなる。
【0040】
次に、(5)の工程では、(4)の工程で得られた触媒成形体を乾燥、焼成して触媒(製品)を得る。乾燥方法は特に限定されず、例えば一般的に知られている熱風乾燥、湿度乾燥、遠赤外線乾燥またはマイクロ波乾燥などの方法を任意に用いることができる。乾燥条件は、目的とする含水率とすることができれば適宜選択することができる。
【0041】
焼成条件は特に限定されず、公知の焼成条件を適用することができる。通常は200〜600℃の温度範囲で行われる。通常、焼成は200〜500℃、好ましくは300〜450℃の温度で1〜24時間行うことができる。
【0042】
次に、本発明のメタクリル酸の製造方法について説明する。本発明のメタクリル酸の製造方法は、上記のようにして得られたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するものである。
【0043】
気相接触酸化反応は、固定床で行う。触媒層は、特に限定されず、触媒のみの無希釈層でも、不活性担体を含んだ希釈層でもよく、単一層でも複数の層から成る混合層であってもよい。
【0044】
反応には、メタクロレインと分子状酸素とを含む原料ガスを用いることが好ましい。
原料ガス中のメタクロレイン濃度は、広い範囲で変えることができるが、1容量%以上が好ましく、3容量%以上がより好ましい。また、20容量%以下が好ましく、10容量%以下がより好ましい。
【0045】
原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.4モル以上が好ましく、0.5モル以上がより好ましい。また、メタクロレイン1モルに対して4モル以下が好ましく、3モル以下がより好ましい。分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等も用いることができる。
【0046】
原料ガスは、メタクロレインと分子状酸素以外に、水(水蒸気)を含んでいることが好ましい。水の存在下で反応を行うことで、より高い収率でメタクリル酸が得られる。原料ガス中の水蒸気の濃度は、0.1容量%以上が好ましく、1容量%以上がより好ましい。また、50容量%以下が好ましく、40容量%以下がより好ましい。原料ガスは、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよいが、その量はできるだけ少ないことが好ましい。また、窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを含んでいてもよい。
【0047】
気相接触酸化反応の反応圧力は、常圧(大気圧)から5気圧までが好ましい。反応温度は、230℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。また、450℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましい。
【0048】
原料ガスの流量は特に限定されず、適切な接触時間になるように適宜設定することができる。接触時間は1.5秒以上が好ましく、2秒以上がより好ましい。また、15秒以下が好ましく、10秒以下がより好ましい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0050】
原料ガスおよび生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率および単流収率は、以下のように定義される。
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%) =(C/B)×100
メタクリル酸の収率(%) =(C/A)×100
ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0051】
1次成形圧力及び2次成形圧力は、プレス機や押出し機のシリンダー部に圧力センサーを差し込み測定した。
また、触媒成形体の品質斑は、同一成形条件で30回成形し各成形品の充填密度の標準偏差より判断した。充填密度は内径27mmのメスシリンダーに成形体を100ml充填し、その質量Xより以下のように算出した。
充填密度(g/L)=X×10
充填密度の標準偏差が8以下であれば、反応管に充填した際の充填長のバラつきが小さいことから、触媒成形体の品質斑が少ないと判断した。
【0052】
(実施例1)
純水400部に、三酸化モリブデン100部、メタバナジン酸アンモニウム3.4部、85質量%リン酸水溶液8.0部および硝酸銅1.4部を溶解し、これを攪拌しながら95℃に昇温し、液温を95℃に保ちつつ3時間攪拌した。40℃まで冷却後回転翼攪拌機を用いて攪拌しながら、重炭酸セシウム13.5部を純水20部に溶解した溶液を添加して15分間攪拌した。次いで硝酸アンモニウム10.7部を純水20部に溶解した溶液を添加し、更に20分間攪拌した。
【0053】
以上のようにして得られた、触媒成分の原料化合物を含有する混合スラリーを並流式スプレー乾燥機を用い、乾燥機入口温度300℃、スラリー噴霧用回転円盤18,000rpmの条件で乾燥した。
【0054】
このようにして得られた乾燥粒子100部に対してヒドロキシプロピルメチルセルロース4部とエチルアルコール50部を混合し、混練り機で粘土状になるまで混練りした。次いで、この不定形の混練り品を油圧式のプレス機を用いて直径45mm、長さ280mmの円柱状に成形した。プレス機による1次成形の圧力は2.2MPaGで行った。
【0055】
次いで、この1次成形品を直径50mm、長さ300mmのシリンダーを有するピストン式押出し成形機を用いて押し出し成形し、外径5.5mm、平均長さ5.5mmの円柱状の成形体を得た。
【0056】
この成形体を60℃で16時間乾燥し、次いで空気流通下に380℃で15時間熱処理することで、触媒を得た。得られた触媒の酸素以外の元素組成(以下同じ)は、次の通りであった。
Mo120.51.2Cu0.1Cs1.2
【0057】
この触媒を反応管に充填し、メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気10容量%、窒素75容量%の原料ガスを、反応温度280℃、接触時間3.5秒で通じて、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。生成物を捕集し、ガスクロマトグラフィーで分析して、メタクロレインの反応率、メタクリル酸の選択率、およびメタクリル酸の収率を求めた。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例2)
実施例1において、1次成形の圧力を4.0MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例3)
実施例1において、1次成形の圧力を10.0MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0060】
(比較例1)
実施例1において、1次成形の圧力を2.0MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
実施例1において、1次成形の圧力を12.0MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3)
実施例1において、プレス機による1次成形を行わなかった以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例4)
実施例1において、1次成形をスクリュー式押出し成形機に変更し、押出し圧力1.0MPaGで行った以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0064】
(実施例4)
実施例1において、エチルアルコールの混合量を55部に変更し、1次成形の圧力を3.0MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0065】
(比較例5)
実施例4において、1次成形の圧力を1.0MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例5)
実施例1において、エチルアルコールの混合量を40部に変更し、1次成形の圧力を5.5MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例6)
実施例5において、1次成形の圧力を1.0MPaGに変更した以外は実施例1と同様にして触媒を製造し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行った。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1からも明らかなように、実施例では、触媒成形体の品質斑が少なく、反応生成物の収率も高かった。
【0070】
一方、比較例1、3、4、5、6は、実施例に比べ、触媒成形体の品質斑が大きく、比較例2では目的とする反応生成物の収率が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデンおよびリンを触媒成分として含むメタクリル酸製造用触媒の製造方法において、
(1)触媒成分を含む触媒成分粒子を製造する工程と、
(2)前記触媒成分粒子と液体を混合して混練りする工程と、
(3)混練り品を1次成形する1次成形工程と、
(4)1次成形品をピストン成形機で最終形状に成形する2次成形工程とを含み、
かつ、(4)の工程の2次成形圧力P2が(3)の工程の1次成形圧力P1に対して、(P1−0.2)MPaG〜(P1−8)MPaGの範囲であることを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
1次成形をプレス機で行う請求項1に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
2次成形圧力P2が、0.5MPaG〜5MPaGである請求項1または2に記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
液体が、水および炭素数が1〜4のアルコールからなる群より選択される1種または2種以上である請求項1〜3のいずれかに記載のメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により製造されたメタクリル酸製造用触媒。
【請求項6】
請求項5に記載のメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−224482(P2011−224482A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97566(P2010−97566)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】